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【玉鬘(たまかづら)】の巻】 その(16)
源氏は、
「父大臣には何か知られむ。いとあまたもて騒がるめるが、数ならで、今はじめて立ち交じりたらむが、なかなかなる事こそあらめ。われはかうさうざうしきに、覚えぬところより尋ね出したるとも言はむかし。すきものどもの心つくさするくさはひにて、いといたうもてなさむ」
――実の父の内大臣には知らせまい。あちらには大層大勢のお子達が大事にされているらしいから、玉鬘がものの数にも入らぬ身で、今になってその中に加わってもつまらぬことになろう。わたしは、このように子供が少なくて物足りないのだから、思いがけぬ所から探し出してきた子だとでも言おう。好き者の男たちの気を揉ませる種として、大切に育てよう――
右近は、不幸にも亡くなられた夕顔の代わりに、この姫君をご援助なさる源氏には、それこそ罪も軽くおなりでしょう、などと申し上げます。
そうとしても、末摘花の例もあることだ、と源氏は思われるのでした。落ちぶれて育った人の有様が心配で、まず、手紙の書きぶりを見たいものだとお思いになります。
源氏からの御文と玉鬘の御装束や女房達の衣料など、紫の上にもご相談の上でしょう、さまざまに揃えられてありました。乳母をはじめ、田舎者には目を見張るご立派さでした。
ご本人の玉鬘自身は、ほんの印だけでも、実の父君からならば嬉しいでしょうが、どうして知らぬ他人の中で暮さねばならないのかと、心苦しく思いますが、右近も、乳母たちも、
「おのずから、さて人だち給ひなば、大臣の君も尋ね知り聞こえ給ひなむ。親子の御契は、絶えて止まぬものなり」
――そのようにして、源氏の許でご立派になられましたら、自然、御父君もお聞きつけになりましょう。親子の御縁というものは、決して絶えてしまうものではございませんから――
とお慰め申し上げ、お文のお返事をお勧めになります。玉鬘の歌、
「数ならぬみくりや何のすぢなればうきにしもかく根をとどめけむ」
――三稜(みくり)が泥に根を下ろすように、数ならぬ私の身が、一体何の縁で憂き世にこうして生まれてきたのでしょう――
書風は弱々しくてよろよろしていますが、上品で難点がありませんので、源氏は安心されました。
ではまた。
【玉鬘(たまかづら)】の巻】 その(16)
源氏は、
「父大臣には何か知られむ。いとあまたもて騒がるめるが、数ならで、今はじめて立ち交じりたらむが、なかなかなる事こそあらめ。われはかうさうざうしきに、覚えぬところより尋ね出したるとも言はむかし。すきものどもの心つくさするくさはひにて、いといたうもてなさむ」
――実の父の内大臣には知らせまい。あちらには大層大勢のお子達が大事にされているらしいから、玉鬘がものの数にも入らぬ身で、今になってその中に加わってもつまらぬことになろう。わたしは、このように子供が少なくて物足りないのだから、思いがけぬ所から探し出してきた子だとでも言おう。好き者の男たちの気を揉ませる種として、大切に育てよう――
右近は、不幸にも亡くなられた夕顔の代わりに、この姫君をご援助なさる源氏には、それこそ罪も軽くおなりでしょう、などと申し上げます。
そうとしても、末摘花の例もあることだ、と源氏は思われるのでした。落ちぶれて育った人の有様が心配で、まず、手紙の書きぶりを見たいものだとお思いになります。
源氏からの御文と玉鬘の御装束や女房達の衣料など、紫の上にもご相談の上でしょう、さまざまに揃えられてありました。乳母をはじめ、田舎者には目を見張るご立派さでした。
ご本人の玉鬘自身は、ほんの印だけでも、実の父君からならば嬉しいでしょうが、どうして知らぬ他人の中で暮さねばならないのかと、心苦しく思いますが、右近も、乳母たちも、
「おのずから、さて人だち給ひなば、大臣の君も尋ね知り聞こえ給ひなむ。親子の御契は、絶えて止まぬものなり」
――そのようにして、源氏の許でご立派になられましたら、自然、御父君もお聞きつけになりましょう。親子の御縁というものは、決して絶えてしまうものではございませんから――
とお慰め申し上げ、お文のお返事をお勧めになります。玉鬘の歌、
「数ならぬみくりや何のすぢなればうきにしもかく根をとどめけむ」
――三稜(みくり)が泥に根を下ろすように、数ならぬ私の身が、一体何の縁で憂き世にこうして生まれてきたのでしょう――
書風は弱々しくてよろよろしていますが、上品で難点がありませんので、源氏は安心されました。
ではまた。