2010.4/30 720回
四十四帖 【竹河(たけがわ)の巻】 その(7)
薫は、何と素早い歌の詠みっぷりだと思われて、返歌
「『余所にてはもぎ木なりとやさだむらむしたに匂へる梅のはつはな』さらば袖ふれて見給へ、など言ひすさぶに」
――「余所目には無風流な男と決めているらしい、心の内には咲き匂っている梅の初花のような私を」それならば、袖にふれてごらんなさい、などと冗談をおっしゃると――
女房達は、
「『まことは色よりも』と口々、引きも動かしつべくさまよふ」
――「本当は色よりもその薫りを」と口々に囁いて、お袖を引き揺りもしかねない程付きまとっています。(薫の詞を受けて、同じ古歌により、薫の身から高く香るのを仄めかした)――
玉鬘が奥の方から出て来て、
「うたての御達や。はづかしげなるまめ人をさへ。よくこそ面なけれ」
――いやな女房たちね。極まりわるいほどご立派な堅人にまで。よくよく厚かましいこと――
と、ひそかにたしなめていらっしゃるようです。薫はお心の中で、
「まめ人ごこそつけられたりけれ、いと屈じたる名かな」
――やれやれ、堅人(かたじん)とあだ名をつけられてしまった。まったく気の思い名だな――と思っていらっしゃる。
玉鬘は、
「大臣は、ねびまさり給ふままに、故院にいとようこそ覚え奉り給へれ。この君は、似給へる所も見え給はぬを、けはひのいとしめやかに、なまめいいたるもてなしぞ、かの御若盛り思ひやらるる。かうざまにぞおはしけむかし」
――夕霧大臣は、お歳を重ねられますにつけて、故六条の院にいよいよ似てこられます。この君(薫)は源氏に似ていらっしゃるところもお見えになりませんが、ご様子のまことにしっとりとして、優雅な物越しなどは、故院のお若く盛りでいらした頃が思われて、きっとこんな風でいらしたに相違ない――
などと、昔を思い出して涙ぐまれる。
◆まめ人=忠実人=まじめな人、実直な人。ここでは少し変人扱い。
ではまた。
四十四帖 【竹河(たけがわ)の巻】 その(7)
薫は、何と素早い歌の詠みっぷりだと思われて、返歌
「『余所にてはもぎ木なりとやさだむらむしたに匂へる梅のはつはな』さらば袖ふれて見給へ、など言ひすさぶに」
――「余所目には無風流な男と決めているらしい、心の内には咲き匂っている梅の初花のような私を」それならば、袖にふれてごらんなさい、などと冗談をおっしゃると――
女房達は、
「『まことは色よりも』と口々、引きも動かしつべくさまよふ」
――「本当は色よりもその薫りを」と口々に囁いて、お袖を引き揺りもしかねない程付きまとっています。(薫の詞を受けて、同じ古歌により、薫の身から高く香るのを仄めかした)――
玉鬘が奥の方から出て来て、
「うたての御達や。はづかしげなるまめ人をさへ。よくこそ面なけれ」
――いやな女房たちね。極まりわるいほどご立派な堅人にまで。よくよく厚かましいこと――
と、ひそかにたしなめていらっしゃるようです。薫はお心の中で、
「まめ人ごこそつけられたりけれ、いと屈じたる名かな」
――やれやれ、堅人(かたじん)とあだ名をつけられてしまった。まったく気の思い名だな――と思っていらっしゃる。
玉鬘は、
「大臣は、ねびまさり給ふままに、故院にいとようこそ覚え奉り給へれ。この君は、似給へる所も見え給はぬを、けはひのいとしめやかに、なまめいいたるもてなしぞ、かの御若盛り思ひやらるる。かうざまにぞおはしけむかし」
――夕霧大臣は、お歳を重ねられますにつけて、故六条の院にいよいよ似てこられます。この君(薫)は源氏に似ていらっしゃるところもお見えになりませんが、ご様子のまことにしっとりとして、優雅な物越しなどは、故院のお若く盛りでいらした頃が思われて、きっとこんな風でいらしたに相違ない――
などと、昔を思い出して涙ぐまれる。
◆まめ人=忠実人=まじめな人、実直な人。ここでは少し変人扱い。
ではまた。