09.2/28 312回
【行幸(みゆき)の巻】 その(10)
内大臣は、
「侍はでは悪しかりぬべかりけるを、召しなきに憚りて、承り過ぐしてましかば、御勘事や添はまし」
――お伺いせずに失礼しておりましたが、お召しがございませんので遠慮しておりました。こちらにお出でのことを聞き過ごしてしまいましたなら、更にご不興を蒙ったことでございましょう――
源氏が、
「勘当はこなた様になむ、勘事と思ふ事多く侍る」
――ご不興を蒙るのは此方にこそ、思い当たることが沢山あります――
と、なにやら思わせぶりなおっしゃりかたです。内大臣は雲井の雁の事かと思い、面倒なことになったと、恐縮した様子をされます。源氏はつづけて、
「(……)親しき程には、その勢いをも、ひきしじめ給ひてこそは、とぶらひものし給はめとなむ、うらめしき折々侍る」
――(昔は公私ともに、心へだてなく鳥の両翼のように朝廷の御後見もいたそうと思っておりましたが、年月を経て、当時考えていました事と本意が違う事もいくらか出てきました。が、それもほんの内輪のことで、根本の志は変わっておりません。あなたには御身分というものがありますから、威勢を張るお振る舞いをなさるのだとは思いますが)私たちの親しい間柄では、そのご威勢もお控えになって、お訪ねくだされば良いのにと恨めしく思う時がよくあります――
内大臣も、昔の事を思い出されて、「仰せのとおり、昔は何の遠慮もなく失礼なほど馴れ馴れしく、同列の身とも思えませんのにお引き立てをいただきました。大した身でもありませんのに、こうした高位に昇り、朝廷にお仕えしますにも、この頃は、年のせいで怠慢のことばかり多くなりました」とお詫びを申し上げます。
源氏は、
「そのついでに、ほのめかし出で給ひてけり」
――このついでに、玉鬘のことを言いだされたのでした――
ではまた。
【行幸(みゆき)の巻】 その(10)
内大臣は、
「侍はでは悪しかりぬべかりけるを、召しなきに憚りて、承り過ぐしてましかば、御勘事や添はまし」
――お伺いせずに失礼しておりましたが、お召しがございませんので遠慮しておりました。こちらにお出でのことを聞き過ごしてしまいましたなら、更にご不興を蒙ったことでございましょう――
源氏が、
「勘当はこなた様になむ、勘事と思ふ事多く侍る」
――ご不興を蒙るのは此方にこそ、思い当たることが沢山あります――
と、なにやら思わせぶりなおっしゃりかたです。内大臣は雲井の雁の事かと思い、面倒なことになったと、恐縮した様子をされます。源氏はつづけて、
「(……)親しき程には、その勢いをも、ひきしじめ給ひてこそは、とぶらひものし給はめとなむ、うらめしき折々侍る」
――(昔は公私ともに、心へだてなく鳥の両翼のように朝廷の御後見もいたそうと思っておりましたが、年月を経て、当時考えていました事と本意が違う事もいくらか出てきました。が、それもほんの内輪のことで、根本の志は変わっておりません。あなたには御身分というものがありますから、威勢を張るお振る舞いをなさるのだとは思いますが)私たちの親しい間柄では、そのご威勢もお控えになって、お訪ねくだされば良いのにと恨めしく思う時がよくあります――
内大臣も、昔の事を思い出されて、「仰せのとおり、昔は何の遠慮もなく失礼なほど馴れ馴れしく、同列の身とも思えませんのにお引き立てをいただきました。大した身でもありませんのに、こうした高位に昇り、朝廷にお仕えしますにも、この頃は、年のせいで怠慢のことばかり多くなりました」とお詫びを申し上げます。
源氏は、
「そのついでに、ほのめかし出で給ひてけり」
――このついでに、玉鬘のことを言いだされたのでした――
ではまた。