永子の窓

趣味の世界

枕草子を読んできて(68)(69)

2018年07月09日 | 枕草子を読んできて
五五  主殿司こそ   (68)  2018.7.9

 主殿司こそ、なほをかしきものはあれ。下女の際は、さばかりうらやましきものはなし。よき人にせさせまほしきわざなり。若くてかたちよく、なりなど常によくてあらむは、ましてよからむかし。年老いて、物の例など知りて、面なきさましたるも、いとつきづきしう目やすし。主殿司の、顔愛敬づきたらむを持たりて、装束時にしたがひて、唐衣など、今めかしうて、ありかせばやとこそおぼゆれ。
◆◆主殿司(とのもりづかさ)の女官こそ、やはりよいものではある。下級の女官の身分としては、これほどうらやましいものはない。身分のある人にさせてみたいような仕事である。若くて美貌で、服装などをいつもきれいにしている者ならば、ましてきっとよいだろうよ。年をとって、物事の先例などを知って、物おじをせず平気な様子をしているのも、とてもその場に合った感じで、見ていて難がない。主殿司の女官で、顔の愛敬のあるような者を、自分のむすめ分として持っていて、装束を季節季節に従って、唐衣などを、今風に仕立てて、歩きまわらせてみたいものだと思われる。◆◆


■主殿司(とのもりづかさ)=後宮十二司の一つ。(清掃・火燭・薪炭などのことを司る役所)の女官。主殿司には、「尚侍一人、典侍二人、女嬬六人」がいる。ここではその女嬬。ただしこの本文にみえるようにその役柄は次第に派手なものになったらしい。



五六  をのこは、また随身こそ  (69) 2018.7.9

をのこは、また隋身こそあンめれ。いみじくびびしくをかしき君達も、随身もなき、いとさうざうし。弁などをかし。よき官と思ひたれども、下襲の尻短くて、随身なきぞ、いとわろきや。
◆◆召使の男では、また、随身こそすぐれているようだ。たいそう華やかで魅力的な貴公子も、随身も連れていないのは、ひどく物足りない。弁官など、優れている。ただし立派な官(つかさ)だと思っているけれども、下襲(したがさね)の裾が短くて、随身がないことが、ひどく劣っていることだ。◆◆


■をのこ=(中古では身分の低い男性をさす)「をのこにては、をかしきは、またまた隋身こそあンめれ」の意。
■随身(ずいしん)=は朝廷から賜る護衛兵。近衛の将曹、府生、番長、舎人が勤める。上皇以下官位によって人数が定められている。
■弁(べん)=太政官の職員。左右に分かれ、各大中小がある。八省を管し、文書などを扱う。名家の人を任ずる。
■下襲の尻短く=激職なので短くしたかという。
 

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