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【葵】の巻 (2)
源氏は父の院までもご承知の六條御息所のことでは、心苦しく思うものの、
「まだあらはれては、わざともてなし聞え給はず」
――妻としてきちんと待遇をしていらっしゃらない――
六條御息所の方としても、「似げなき御歳の程をはづかしう思して、」
――源氏との不似合いな年齢差を恥ずかしく思われて(世間では知らない者のいない間柄なのに、源氏の深くもないお情けの程を、ひどく嘆いておられます。)――
桐壺院のもう一人の弟宮で、桃園式部卿宮の姫君(朝顔の姫君)は、ちょっとした源氏からの付け文にも「いかで人に似じ」――御息所のようにはなるまい――と気のあるお返事はなさらない。それでいて、無愛想なふるまいもなさらない、なるほど他の婦人とは違う方だと源氏は思うのでした。
葵の上方の左大臣は、源氏が浮かれ暮らしているようで気に入らないものの、あまりにも大胆な振る舞いに恨み甲斐もない。このような折りに葵の上はご懐妊のようで、痛々しくてご気分もすぐれないでいらっしゃる。
「誰も誰もうれしきものから、ゆゆしう思して、さまざまの御つつしみせさせ奉り給ふ」
――葵の上の親しい人はみなうれしいものの、物の怪など恐ろしがって、いろいろな謹慎のことをおさせになります――
その頃、賀茂社の新しい斎院に弘徴殿女御腹の女三の宮が奉仕なさることに決まりました。姫宮たちの中で適当な方がおられず、ご寵愛の姫宮を斎院という変わったご身分になさるるので、世をあげて立派に行われます。
賀茂祭の前の吉日を選んで、斎院が加茂川で身を浄め、紫野の野の宮に入られる儀式で、上達部などは、特に名望高く、容貌もすぐれた者だけをお選びになります。お供を仰せつかった方々は、衣装から馬の鞍まで新調して、道中をお供します。源氏も特別な勅命で供奉されます。
「かねてより、物見車心づかいひしけり。一条の大路、所なくむくつけきまで騒ぎたり、所々の御桟敷、心心にしつくしたるしつらひ、人の袖口さへいみじき見物なり」
――前々から見物の女車は、気を配っておいでです。行列の道である一条大路は、ぎっしりと隙もなくものすごい混雑です。知名の方々の物見の桟敷、桟敷や車の御簾(みす)の下から出す袖口だけでもそれはそれは見物に値する見事さでございます――
ではまた。
【葵】の巻 (2)
源氏は父の院までもご承知の六條御息所のことでは、心苦しく思うものの、
「まだあらはれては、わざともてなし聞え給はず」
――妻としてきちんと待遇をしていらっしゃらない――
六條御息所の方としても、「似げなき御歳の程をはづかしう思して、」
――源氏との不似合いな年齢差を恥ずかしく思われて(世間では知らない者のいない間柄なのに、源氏の深くもないお情けの程を、ひどく嘆いておられます。)――
桐壺院のもう一人の弟宮で、桃園式部卿宮の姫君(朝顔の姫君)は、ちょっとした源氏からの付け文にも「いかで人に似じ」――御息所のようにはなるまい――と気のあるお返事はなさらない。それでいて、無愛想なふるまいもなさらない、なるほど他の婦人とは違う方だと源氏は思うのでした。
葵の上方の左大臣は、源氏が浮かれ暮らしているようで気に入らないものの、あまりにも大胆な振る舞いに恨み甲斐もない。このような折りに葵の上はご懐妊のようで、痛々しくてご気分もすぐれないでいらっしゃる。
「誰も誰もうれしきものから、ゆゆしう思して、さまざまの御つつしみせさせ奉り給ふ」
――葵の上の親しい人はみなうれしいものの、物の怪など恐ろしがって、いろいろな謹慎のことをおさせになります――
その頃、賀茂社の新しい斎院に弘徴殿女御腹の女三の宮が奉仕なさることに決まりました。姫宮たちの中で適当な方がおられず、ご寵愛の姫宮を斎院という変わったご身分になさるるので、世をあげて立派に行われます。
賀茂祭の前の吉日を選んで、斎院が加茂川で身を浄め、紫野の野の宮に入られる儀式で、上達部などは、特に名望高く、容貌もすぐれた者だけをお選びになります。お供を仰せつかった方々は、衣装から馬の鞍まで新調して、道中をお供します。源氏も特別な勅命で供奉されます。
「かねてより、物見車心づかいひしけり。一条の大路、所なくむくつけきまで騒ぎたり、所々の御桟敷、心心にしつくしたるしつらひ、人の袖口さへいみじき見物なり」
――前々から見物の女車は、気を配っておいでです。行列の道である一条大路は、ぎっしりと隙もなくものすごい混雑です。知名の方々の物見の桟敷、桟敷や車の御簾(みす)の下から出す袖口だけでもそれはそれは見物に値する見事さでございます――
ではまた。