永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(263)

2008年12月26日 | Weblog
12/26   263回

【胡蝶(こてふ)】の巻】  その(11)

紫の上は、
「いでや、われにても、また忍び難う、物思はしき折々ありし御心ざまの、思ひ出でらるるふしぶしなくやは」
――さあ、私の身の上にしましても、随分我慢しきれぬほど苦労いたしましたあなたのご性分が、思いだされないことでもありませんもの――

 と、始めは親のように頼りにしていましたのが、思いがけない、なされ方を……ほのめかされて、源氏は、おやおやこれは勘の早いことと、

「うたても思しゆるかな。いと見知らずしもあらじ」
――つまらない邪推をなさいますね。そんなことだったら、あの人が気付かぬ筈はないでしょう――

と、これは面倒なことになりそうなので、この話を打ち切って、お心の内で思いますには、
「人のかうおしはかり給ふにも、如何はあべからむ、と思し乱れ、かつは若若しう、けしからぬわが心の程も、思ひ知られ給ひにけり。」
――紫の上がこんな邪推をなさるようでは、この先どうしたものかと思いは乱れ、かつまた一方では、いくつになっても、曲ったけしからぬ事を考えるわが心にも、お気づきになるのでした。――

 しかし、源氏は玉鬘のことが、お心から離れないので、しきりに西の対にお出でになっては、いろいろとお世話をされます。
 ある日の一雨上がった、しめやかな夕暮れ時、庭さきの楓や柏木などの青々と茂り合って、何となく快い空を見上げておいでになっていらっしゃるうちに、あの若く艶やかな玉鬘を思い出され、いつものように、そっとお出かけになります。
姫君は手習いなどをしていらしたのが、起き直って恥じらっていらっしゃるお顔も、ご様子もまことにお美しい。昔の夕顔がふと思い出されて、お気持ちを抑えきれなくなられて、

「見そめたてまつりしは、いとかうしも覚え給はずと思ひしを、あやしうただそれかと思ひまがへらるる折々こそあれ。」
――お会いしたての頃は、これほど母君に似ていらっしゃるとは思いませんでしたが、この頃は不思議にも、まったく夕顔かと間違いそうな時がありますよ――

と、源氏は涙ぐまれるのでした。

◆うたて=ますます。ひどく。

ではまた。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。