蜻蛉日記 中卷 (85)の3 2015.12.9
「いきもて行くほどに、巳の時はてになりにたり。しばし馬ども休めんとて、清水といふところに、かれと見やられたるほどに、おほきなるあふちの木ただひとつ立てる陰に車かきおろして、馬ども浦にひきおろして冷やしなどして、『ここにて御破籠待ちつけん、かの埼はまたいと遠かめり』と言ふほどに、をさなき人ひとり、疲れたる顔にて寄りゐたれば、餌袋なる物とり出でて食ひなるするのどに、破籠もて来ぬれば、さまざまあかちなどして、かたへはこれより帰りて、『清水に来つる』と、おこなひやりなどすなり。」
◆◆さらに進んで行くうちに午前十時ごろになってきました。しばらく馬を休めるべく清水というところに、あれが清水だと見られるところの大きな楝(あふち)がただ一本立っている陰に車を止め、馬どもを浦に連れていって冷やしなどして、「ここでお弁当の届くのを待ちましょう。目指す唐埼はまだまだずっと遠いようです」と言っていると、おさなき子がひとり疲れきって寄りかかっているので、袋から食べ物をやっているうちに、お弁当が届いたので、それぞれに手渡して、男の従者の一部はここから引き返して、『清水に着きました』と知らせてやるよう報告の使者を遣わしたりするようでした。◆◆
■巳の時(みのとき)=午前九時~十一時ごろ。
■清水=多分、大津と唐埼の間にある泉の湧くところであろう。
■破籠(わりご)=食物を入れる折り箱。転じて入れられた食物。
■をさなき人ひとり=道綱で、ここで同乗者は道綱だと分る。
■餌袋(えぶくろ)=携帯用の食料袋。
「いきもて行くほどに、巳の時はてになりにたり。しばし馬ども休めんとて、清水といふところに、かれと見やられたるほどに、おほきなるあふちの木ただひとつ立てる陰に車かきおろして、馬ども浦にひきおろして冷やしなどして、『ここにて御破籠待ちつけん、かの埼はまたいと遠かめり』と言ふほどに、をさなき人ひとり、疲れたる顔にて寄りゐたれば、餌袋なる物とり出でて食ひなるするのどに、破籠もて来ぬれば、さまざまあかちなどして、かたへはこれより帰りて、『清水に来つる』と、おこなひやりなどすなり。」
◆◆さらに進んで行くうちに午前十時ごろになってきました。しばらく馬を休めるべく清水というところに、あれが清水だと見られるところの大きな楝(あふち)がただ一本立っている陰に車を止め、馬どもを浦に連れていって冷やしなどして、「ここでお弁当の届くのを待ちましょう。目指す唐埼はまだまだずっと遠いようです」と言っていると、おさなき子がひとり疲れきって寄りかかっているので、袋から食べ物をやっているうちに、お弁当が届いたので、それぞれに手渡して、男の従者の一部はここから引き返して、『清水に着きました』と知らせてやるよう報告の使者を遣わしたりするようでした。◆◆
■巳の時(みのとき)=午前九時~十一時ごろ。
■清水=多分、大津と唐埼の間にある泉の湧くところであろう。
■破籠(わりご)=食物を入れる折り箱。転じて入れられた食物。
■をさなき人ひとり=道綱で、ここで同乗者は道綱だと分る。
■餌袋(えぶくろ)=携帯用の食料袋。