永子の窓

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蜻蛉日記を読んできて(125)

2016年05月18日 | Weblog
蜻蛉日記  中卷  (125) 2016.5.18

「さてありふるほどに、京のこれかれのもとより文どもあり。見れば、『今日、殿おはしますべきやうになん聞く。こたみさへ下りずは、いとつべたましきさまになん、世人も思はん。また、はたよに物したまはじ。さらん後に物したらんは、いかが人笑へならん』と、人々おなじことどもを物したるに、いとあやしきことにもあるかな、いかにせん、こたみはよに渋らすべくもものせじと、思ひさわぐほどに、我がたのむ人、ものよりただ今のぼりけるままに来て、天下のこと語らひて、『げにかくてもしばし行はれよと思ひつるを、この君いと口惜しうなりたまひにけり。はや、なほ物しね。今日も日ならばもろともに物しね。今日も明日も迎へにまゐらん』など、うたがひもなく言はるるに、いと力なく思ひわづらひぬ。『さらば、なほ明日』とて、物せられぬ。」
◆◆こんな風に過ごしているうちに、京のだれかれのところから手紙がきました。見ると、「今日、殿がそちらへおいでになるご予定と聞いております。今度も下山なさらないならば、非常に強情っぱりだと、世間でも思うでしょう。殿にしてももう二度とお出でになりますまい。そうなってから下山なさるのはどうしたものでしょう。世間の物笑いの種となるでしょうよ」と、どの人も同じことを書いて寄こすので、とても妙なことがあるものだ、どうしたらよいかしら、今回は私をぐずぐずさせては置かないだろうと、落着かないでいますと、私の頼みとしている父が、任地からたった今京に戻ったその足で訪ねてきて、いろいろと語らいて、「先日の手紙で書いたように、しばらくは勤行なさるのも良いと思っていましたが、この道綱のおやつれになった様子を拝見すると困ったことと思います。早くやはり山を下りなさい。今日でも日柄がよければ、私と一緒に下山しなさい。あなたの都合の良い日にお迎えに参りましょう」と、いかにも決まったように言いますので、私はすっかりがっかりして途方に暮れたのでした。父上は、「それでは、やはり明日に」と言ってお帰りになったのでした。◆◆


■『蜻蛉日記』上村悦子著の解説から。
「ついに丹波から父が急遽上京し、作者のもとに直行する。作者も父のことを「あしともよしともあらむを、いなむまじき人」と言っているが、その父が、ことをわけて諄々と帰宅を勧め、特に疲労憔悴している道綱の身を案じて言われると作者も動揺せずにはいられない。見舞いに来る人も来尽くしたし、参籠も二十日間近くになり、いつまでもこうしていられない。いつ下山しようか、どうしようかと心がしきりに騒ぐ。父倫寧はおそらく兼家とあらかじめ打ち合わせた上、鳴滝にきたのであろう」



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