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らりらりるれろノオト
山田百合子
街角をかっぽりと切り取ると、雨がどっ
と崩れてきて、あたしは湯舟の中で、ど
っぷりと夕映えにつかっていたところ、
虫のような蝶々が〇匹漬物畑へ墜落して
いった。そのとき実にあたしは、あたし
は夜の鞄を味噌の中にたずさえていたの
だ。
朝の光。持ちこたえる最中、苦しみの鎖、蒼
空に敷き詰める。風。あたしの、空を切り仕
がらんどう
切り聳える梢を鐘の音伝わる、夢の 。
あたしの心的状態、は何に依っているのか? あたし
はあたしをある状態へとおとし入れることができる(
修練によってできるようになった)。ついであたしは
ヽヽ
、その状態に殆どとらわれてしまう。
際限なく拡がる思考、思念、それにまつわる情景、風
景、<思い>、あたしはそれらを全くとらえようとす
る。なぜ、そうしようとしてしまうのか。むだなこと
。(らりらりるれるれろろ)
あたしは一体、(一体なのか)、あしたなのか、いま
なのか、それともきのう? もしかしてずっとずっと
むこう?
??みだれ髪しだれつつ
しんとした闇
いたたまれなくなる、闇、闇よ、
あたしを狂いの中へひきいれておくれ。
(おそらくは、あたし、
とらえきれずつねにはみだしていく、ここ、……)
……ほしくずのあわいをみだれ
なだれてひいていくあつ
くひびわれたにびのい
きづかいのながれな
がれるふきとんで
いくゆっくりゆ
っくりのぼっ
てくるふし
ぶしにと
りかこ
まれ
た
い
わの
くだけ
ちりゆが
む
あさのひかり (あたしをさえぎり) もち
こたえるさなか (ゆらめきたちのぼる)
くるしみのくさり (ひきつるうめき) あ
おぞらにしきつめる (ふりしきるやみ)
かぜ (とおりぬけてゆく) あたしの (
なりひびきわたる) そらをきりしきりそび
えるこずえをかけぬける (かねのおと)
こだまし (つたわる) ゆめのがらんどう
(ふっつり) とだえてしまった (うご
めき) ひきしまる (かぜの) さえわた
り (つぎつぎと) さざめきながら (ひ
としきり) こごえてゆく (あたしの)
とりとめもなくひろがる (ながめ)、、<
はるかにおしよせてくる <きりたち> <
ふかく> <そこなしの> たに> ひきず
りこみ なおうちよせる (おぼろにけむま
き)((まといつき)<つきおとされる>)
がらんどう
かたまり、 ゆめの 。
がらんどう
ゆめの 。
切り取られた街角よ。崩れてきた雨よ。
湯舟の中のあたしよ。どっぷりと夕映えよ。
ふらふらと漬物畑へ蝶々が。〇匹。
あたしの実よ。そのときの実よ。
夜の鞄が街角を。
あるはずのないものたち。
朝の光よ。
(からっぽのぬけがら
のなかで すすきが
ゆっくり ゆっくり
そよいでいた??、)
ふりしきる闇よ。
真昼の兎の夢が跳ねる街角に崩れる雨に
犯された湯舟の中のあたしは風にそよぐ
夕映えから遮られた鎖へと引き攣れなが
ら蒼空を摩り抜けて響き渡る梢のさざめ
きを凍えながら眺め、押し寄せてくる谷
へ突き落とされた。つまり、あたしはい
なかった。どこにも、いなかった。する
と、ぴったり反転して張り付いていた、
あたし。ゆめのがらん。ほしくずのあわ
い、この卑猥さを楽しむ。鏡の中の鏡。
閉じ込められた外。外の外。らりらりる
れろ、らりるれろ。らりらりるれろ、ら
りるれるれ、ろろらりる、れろ。れろ。
いっちゃった、あたしのすべて、
おっきなゆうひ、風にそよいでいた。
からっぽのぬけがらのなかですすきが海にゆらめいていた。
しりめつれつのままにつくされていた、
しりめつれつのままにつくされていた、??
山田百合子 戯言集(1979)『死体病理解剖 × ・・・・・ノオト』より
http://www.k4.dion.ne.jp/~rainbow3/yamada/zaregoto.htm