荒川三歩

東京下町を自転車で散策しています。

ふる里で突然思い出した事-2

2016年01月04日 | 散文
<バスで>

せとうちバスの停留所を見て思い出しました。

私がまだ学生の時だから40数年前の出来事です。
穏やかな日差しの午後、路線バスに乗っていました。
当時まだバスの利用者が多くて、満席に近い乗客でした。
ある停留所で、私の母方の祖父がよろよろと乗って来ました。
その時祖父は、もう80歳後半の年齢だったと思います。
乗車口の近くにひとりで座っていた私は祖父に気が付いて声を掛けました。
「爺ちゃん、ここ空いてるよ」
すると祖父は嬉しそうにこちらにやって来て、座りながら頭を下げました。
「ご親切にありがとうございます」
あ、祖父は私に気付いていません。

「爺ちゃん僕だよ。爺ちゃんの一番上の孫だよ」と言おうとしましたが止めました。
周りに一杯他人が居る中で祖父に恥をかかせたくなかったこともありますが、何より祖父の笑顔を邪魔したくなかったのです。
その日何があったのか、祖父は私の隣りで、前を見たまま幸せそうに座っていました。
その隣に座っている私も幸せな気持ちが溢れてきました。
祖父は私の視線に気づくことなく、ニコニコと笑みを絶やさず、ずっと前を見て座っていました。
私はそんな祖父を時々横目で見ていました。
祖父が下車します。
私に向かって挨拶しました。
「ありがとうございました」
孫に教えたとおり、親切にされたお礼を言いました。
今日のような温かい夕方の情景です。
その後祖父が93歳で死ぬまで、私が祖父と会うことはありませんでした。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ふる里で突然思い出した事-1

2016年01月04日 | 散文
<タクシーで>
旧国道沿いにあるタクシー会社の営業所を見て、突然思い出した事があります。

数年前の事です。
タクシーに乗った時、運転手がルームミラーでチラチラと後ろの席の私を見ています。
やがて思い切った様子で彼が声を掛けて来ました。
「○○(私の名まえ)君じゃないん?」
その瞬間私にもピンと来ました。
「○○(彼の名まえ)君じゃない!」
小・中学校の同級生です。

目的地の今治駅に着くまで彼は、名物先生の話や、遠足の話や、懐かしい思い出を語ってくれます。
私が忘れていた事を思い出させてくれます。
彼の会社の社長が、かつて私と仲の良かった同級生だという事も教えてくれます。
目的地が近づいて来ました。
そろそろ話を締めるタイミングです。

私が言いました。
「小学校・中学校と9年間一緒の学校だったけど、結局一緒のクラスにならなかったね」
彼が答えました。
「何言うとん、3年・4年と一緒のクラスじゃったやろ!家にも遊びに行ったよ!」

・・・人がそれぞれ記憶している思い出の対象とその量は違うんですね。
彼の中の私と、私の中の彼との想い出の量が違っていました・・・。
○○君その節は、話が盛り上がった最後の最後に、がっかりさせてすみません。改めてお詫びするしかありません。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする