元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「痛いほどきみが好きなのに」

2008-08-18 06:30:51 | 映画の感想(あ行)

 (原題:The Hottest State )題名通り、なかなか痛切な映画である。好みの彼女と知り合い、良い感じにまで発展し、ついには結婚を意識し始めた矢先、突然相手の態度がよそよそしくなって破局してしまうという、男ならば誰しも経験のある“思い出したくもないこと”をリアリズムで描出する。いわば失恋の“定点観測”である。

 本作がエラいのは、その“定点”がまったくブレないことである。古今東西ラヴ・ストーリー映画は山のように存在するが、多くは話をドラマティックに持って行くために恋愛沙汰の終わりが確固とした理由付けにより演出されてきた。結果としてそれが作品として成功するかしないかには関わりなく、とにかく“愛の終わりには(当事者にとっての)重大なパラダイムの転換が存在する”という黄金律が内包されてきたのである。

 しかし、実際はそうじゃないのだ。相手が浮気したり、性格に難があることが判明したり、やむを得ない事情で離ればなれになったり、はたまた相手が死亡したり・・・・といった誰しも納得できるようなアクシデントで恋にピリオドが打たれることは少ない。ちょっとした気の迷い、ふと心に浮かぶ“これでいいのか?”という自問自答、何気ない相手の仕草に対する違和感etc.そんな些細なことの積み重ねがホットな恋も簡単に消し飛ばしてしまう。

 マーク・ウェバー扮する主人公は魅力的なラテン系の女の子(カタリーナ・サンディノ・モレノ)と仲良くなり、やがて相手の親にも紹介され、結婚も秒読みかと思ったのも束の間、いきなり彼女はつれない態度を隠さないようになる。別に重大な背景があるわけではない。彼女の中にある“自立したい”という漠然とした願望が突如として大きくなっただけ。

 しかし歌手志望の彼女にはそれほどの才能はない。対して役者である彼の方はボチボチと仕事が入ってきて将来が見えてきた格好だ。どう考えても彼氏にくっついていく方が得策だと思うのだが、何となくプライド面での屈託があったのか、彼女は相手をフッてしまう。彼はといえば未練たらたらでストーカー紛いの行動にも出るのだが、藻掻けば藻掻くほど醜態をさらすばかり。まさに“分かっちゃいるけど、やめられない”といった境遇だが、観ている側は人ごとだとは思えない。まあ、人間このような逆境に遭遇するうちに成長してゆくものだが、出来ればあまり体験したくないシチュエーションではある(笑)。

 主人公の父親役で登場するイーサン・ホークの脚本も兼ねた監督作。自身の生い立ちが大いに投影されているという。ローラ・リニー扮する母親の扱いは面白いし、主人公にちょっかいを出す無軌道な女を演じるミシェル・ウィリアムズもイイ味を出している。

 有名俳優だからという特殊性よりも、普遍的な失恋日記の体裁を取ることに腐心した作者の冷静さが光る。先日観た「百万円と苦虫女」は苦みの強い映画だったが、本作も超辛口の青春ドラマとして推奨できよう。イーサン・ホークは今後とも監督業を続けて欲しい。
コメント
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