(原題:Carnages)2002年作品。スペインの闘牛場で若い闘牛士に大怪我を負わせて殺された雄牛の肉を接点として交錯する十数人の男女の運命。短編映画の世界で名を馳せた女流デルフィーヌ・グレーズ監督の長編デビュー作で、評論家筋のウケもすこぶる良かった映画である。しかし私は評価する気になれない。
売れない女優が自殺志願の男と知り合う話や、妊娠中の妻の我が侭に悩まされる学者の一件など、多岐にわたるネタを用意していながら、各エピソードがちっとも面白くないのだ(興味を持てたのは“5歳までの記憶がない女”の話ぐらいか)。つまらない挿話をいくら積み上げても全体的に面白くなるわけがない。
もっとも作者は“個々のストーリーの面白さ”など眼中にないことは見て取れる。雄牛という動物をスピリチュアルな存在に見立て、超越的な視点から見下ろした寓話的なドラマ運びを狙っており、五つ子や五歳の幼女など「5」という数字に極端にこだわる態度も“中身より形式”を重視するスタンスの表れであろう。しかし、劇映画としてそれでいいのかどうか・・・・。
ドラマ運びの定石を無視した唐突な展開の連続は観客無視と言っても良い。それと、解体された牛の描写をはじめ生理的に不快なシーンが目立つのも減点。剥製を作る場面なんて動物好きの人は正視できないだろう。所々にギャグを織り交ぜているのは救いだが、こういった“頭の中だけで作ったような映画”を駆け出しの作家が手掛けるのはどうも愉快になれない。