(原題:Master and Commander:The Far Side of the World)2003年作品。パトリック・オブライアンの世界的ベストセラー海洋歴史冒険小説「オーブリー&マチュリン」シリーズの第10作目「南太平洋、波瀾の追撃戦」(私は未読)の映画化。19世紀初頭を舞台にした海洋戦記物という設定にはピーター・ウィアー監督の資質は合っていないように思える。
事実、大掛かりな戦闘シーンこそあるが、印象は実に薄く、平板と言っても良い。宣伝文句にもある“戦争に駆り出された少年達の苦悩”もそれほど強調されておらず、ただラッセル・クロウ扮するカリスマ的な艦長の不貞不貞しさだけが目立つ。
しかし、ポール・ベタニー演じる船医兼博物学者がクローズアップされるようになると、興趣が増してくる。凄腕の外科医でありながら、ガラパゴスで新種の動物をみつけて(たぶん上陸はダーウィンより前)大喜びしたり、研究のために航路の変更を強弁したり、それでいて交戦時には真っ先に武器を取る。こういう“実社会と折り合いは付けながらも、内面は超然としている孤高の人物”を描かせるとウィアー監督は抜群に上手い。
ある意味“俗世間の権化”とも言える艦長とバイオリンとチェロで合奏し心を通わせるシーンはこの映画のハイライトだ。海の荒々しさと美しさを捉えた映像も要チェック。ウィアー監督による戦争物としては初期の傑作「誓い」に及ぶものではなく、全体的にかなり薄味であるとは思うが、これはこれで観る価値はあると言えよう。