観賞後の印象は限りなく薄い。これはキャラクター設定の不調に起因している。茨城県北部の地方都市にある市民病院を舞台に、物的・人的資源の不足や頑迷な病院当局に対して果敢に取り組む外科医の活躍を描く本作、何よりこの人物像に深く切り込む余地がないのが痛い。
主人公の当麻鉄彦はブラックジャックみたいな凄腕の外科医で、しかも栄誉や金には執着せず、患者を救うことにしか興味がない。明かな医者の理想像であるが、それだけに御立派すぎて映画の登場人物としては魅力がないのだ。手術中に演歌を大音響で流すとか、見合いの席であるはずなのに全然気が付かない脳天気さを示すとかいったエキセントリックな面も紹介されるが、その程度の“御愛嬌”では観客は納得しない。また、彼が医者を志すきっかけになった幼少期の出来事も、絵に描いたようなステレオタイプで面白味がない。
これではヤバいと思ったのか、映画化に当たっては物語の中心から当麻を外し、彼のチームに配属された看護婦の浪子の視点から筋書きを追う作戦に打って出た。シングルマザーの浪子は覇気のない職場において、これまた本人もやる気なさそうに日々を過ごしていた。ところが颯爽と現れた当麻の仕事ぶりに衝撃を受け、少しずつ自覚を持つようになる。
しかし、脚色のポイントであった浪子の扱い方も、やはり通り一遍の印象しか受けないのだ。彼女はどうして看護婦になったのか、女手一つで子供を育てなければならない事情とは何か、そういう大事なことが描かれていない。救急医療の現場にいながら愚痴ばかりこぼしている後ろ向きの態度から、優れた医師との出会いでアッという間にポジティヴになっていくという、その変貌の様子があまりにも予定調和に過ぎる。これでは観客が感情移入できない。
エピソードにも工夫が無く、生体肝移植をめぐる諸問題や、主人公達を妨害する守旧派の行動も“とりあえず織り込んでみました”という程度で、まるで力が入っていない。そもそもこの映画が浪子の死から始まること自体、噴飯ものではないか。あれだけ努力したにもかかわらず、病院で倒れた彼女を誰も救えなかった。要するに状況は何も変わっていないのだ。それに対する問題提起もそっちのけで、早々に回想シーンに入ってしまうこの無神経さは如何ともし難い。
当麻役の堤真一と浪子に扮する夏川結衣は共に手堅い演技だが、ストーリーに難がある以上、報われているとは言えない。成島出の演出は明らかに過去の諸作品よりも力量が落ちており、平凡なテレビドラマと変わらない。とにかく、大鐘稔彦による原作のファン以外は、取り立てて観る価値は見出せないと思う。