元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「告白」

2010-06-12 06:50:22 | 映画の感想(か行)

 快作である。勝因は、作者が題材の“本質”を見抜いている点にある。原作の湊かなえの同名小説は私も読んでいるが、あれを“教育問題に深く切り込んだ社会派ミステリー”だと思う読者はあまりいないだろう。有り体に言えば“ブラックな笑劇”であり、単なる与太話である。それをキャラクター設定の妙味と語り口の巧さにより、最後まで読み手を離さないエンタテインメント性を獲得しているだけの話だ。

 だから映画化する際は、間違っても時事ネタ方面にテーマを振らないことが肝要である。その意味でも、監督として中島哲也を起用したのは正解だ。限りなく軽薄な映像ギミックの洪水で観客を幻惑させ、その中にフッと“素”に戻ったような真面目なモチーフを少量振りかけることにより、センセーショナルな題材の特質を浮かび上がらせる。こういうハッタリかました中島の持ち味こそが、このシャシンにはふさわしい。

 自分の教え子に愛娘を殺された中学校の女教師がそれをクラスで発表し、周到に復讐を開始するというこの設定、考えてみれば突っ込みどころが満載だ。そもそも子供を連れて帰るために、勤務が終わるまで子供を学校内で待機させておくこと自体が噴飯もの(公私混同である)。犯人の一人である男子生徒が“電気工作の天才”であるのも取って付けたような話なら、その母親との確執もジョークとしか思えない。そもそも、エイズ患者の血液をごく少量混ぜた牛乳を飲ませた程度で相手をビビらせようとするのもレベルが低い。そんなに簡単に感染するわけがないではないか(爆)。

 しかし、そんなディテールの甘さをカバーするのが原作では文体構成のテクニックであったように、この映画化版ではケレン味たっぷりの映像処理の釣瓶打ちが観る側に深く考えるヒマを与えず、最後まで物語を疾走させている。一歩間違えば失敗に終わるが、本作は紙一重のところで踏み止まっていると考えて良いだろう。またレディオヘッドからAKB48に至るまで、多彩な楽曲の使い方も実に効果的だ。

 主演の松たか子は静かな狂気を漂わせた快演で、これは彼女の代表作になると思う。岡田将生が演じる熱血教師のグロテスクな戯画化のようなキャラクターも良い。また、私の大嫌いな木村佳乃が劇中で早々にくたばってしまうのもポイントが高い(笑)。西井幸人や藤原薫ら生徒役も申し分なく、さすが子供の扱い方が上手い中島監督だ。橋本愛にゴスロリ風ファッションを着せるあたりも御愛嬌か。

 とにかく、どこかミケランジェロ・アントニオーニ監督の「砂丘」のクライマックス場面を想起させるような爆発シーンまで、存分に観客を引き回すヴォルテージの高い娯楽作である。観ないと損をする。
コメント
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