前に書いたように「ジェイン・オースティンの読書会」はなかなか楽しめる映画であったが、恥ずかしながら私自身はオースティンの作品で読んでいるのはこの一冊だけである(爆)。
ロンドン郊外の田舎町を舞台にして、若い娘の恋愛騒動を描く。言うまでもなくジョー・ライト監督「プライドと偏見」の原作だ。これが書かれたのが日本で言えば江戸時代であったことがとても信じられない。作者が女性であることを抜きにしても、ヒロインをはじめとする女性キャラクターの心理が絶妙に描かれていることに舌を巻いた。
単純な娯楽小説のようにそれぞれに明確過ぎる性格付けがされているわけではない。出てくるのは普通の市井の人々。誰しもちょっとだけ正義感が強く、ちょっとだけ自惚れやで、ちょっとだけ怠惰で、そして平凡な幸福を願っている。考えてみれば、この“ちょっとだけ”の微妙な割合が各人少しずつ違うことにより、誤解や偏見は生まれるのだろう。ただし、オースティンは“たかが、ちょっとだけという話ではないか!”という感じで、ポジティヴに構えることさえ出来れば、人並みの幸せは向こうからやってくるのだ・・・・との底抜けな楽天性で全編を突っ走らせている。そこが何とも快い。
主人公のエリザベス・ベネットの人物設定が見事だ。知性と独立心だけは秀でているが、若くて経験が伴わず気ばかり焦る毎日。そんな彼女が一見鼻持ちならないミスター・ダーシーと知り合い、反発しながらも葛藤の末に相手の良さを見出して最後には理解し合う。そのプロセスが何とも精緻な筆致で綴られていることはもちろん、人間的成長を遂げる彼女の内面が、傲慢やわざとらしさとは無縁の、それどころか愛らしさを漂わせた造型を見せているところが読者の共感を呼ぶ。
ただ、この岩波文庫版の訳はどうにもいただけない。文章がゴツゴツしていてしなやかさに欠けるのだ。今度は別の訳で読むか、いっそ原書での読破にも挑戦してみたい。それから登場人物がけっこう多いので、キャラクター相関図みたいなものも欲しかった。
なお、本書の出来はもちろん、映画版「プライドと偏見」の脚色も素晴らしかったことも再確認できよう。実に読み応えのある一編だ。オースティンの他の作品も手に取りたくなる。