中ほどの音には、つややかにみのった果物を隠しておく。
宝石のようなざくろや、濃い紫のぶどうの粒。
「秋のソナタ」(「木苺通信」より)
夏なんか知らないような顔をして歩いていく僕は、
次の夏が来ることだって信じていない。
「風工場」(「青い羊の丘」より)
頬に触れる空気はきりりと冷えているが、
どこかにちらっと笑った気配もあって、
思わず微笑み返してしまう。
「ハッピー・バースデイ」(『木苺通信』より)
塩、こしょう、あれをひとつまみ、これを少々。
それから何だっけ?
おまじないの言葉ひとさじ。
鍋にふたをする。
「風の月のスープ」(「木苺通信」より)
ときには、葉のおもてを激しく打つ雨。
枯葉を踏んで通る、用心深い動物のひそかな足音。
きのこの傘がひらく音。
木の実が枝から落ちる音。
「木琴森へ」(「木苺通信」より)