芸術のはじまり

　僕らは、日常からはみ出た異質なものを、芸術と呼ぶことがままある。
　世界をどういう切り口で他人に見せるのか？そこに、芸術の本質がある。決して、日常性を失わせてしまうものを、「芸術」と呼ぶのではない。ただ、日常から連続的に導かれた異世界へと人を誘う、その神的な働きを為すものを芸術と呼びたい。そのような定義付けは「ハレ」と「ケ」に近いものがあるだろう。日常というものがなければ、非日常を過ごすことはできないのである。つまりは、日常が「ケ」で、芸術が「ハレ」を体現するものだ、と。
　人の思考は、神とどう連結しているか？というのが、とても重要になってくる。その神様は、一人格としていてもいいし、機械的に稼働するものをさしても構わない。僕らにとって、神がどの様に存在しているのか、ということがさして問題にもならないし、問題にしてはいけないからだ。どこまでも僕らは、神に次ぐ存在で、神を超えることはできないと理解しておかなければならない。
　そう、「芸術」とは、「神」が囁いた声を、形にするというのがその本懐である、と思う。
　神の「意志」とは、僕らにはそう簡単に教えてもらうことはできない。ただ、そういう「考え」を、われわれが持つ「心」が、ときに神に触れることも可能である。
　「真理」と呼ばれるものを語る人は、「おかしく」なければいけない。なぜなら、「正気」とは、一番芸術から遠いばかりか、実は、「人間らしさ」からも最も遠いところにあるものだからである。おっと、今、重要なことを言った、「芸術」とは少なからず、「人間性」を帯びていなければならない。何かが、可笑しいけど、それって僕らの誰にも言えることだよね、と思わせてくれるものも、また「芸術」である。
　さて、僕は何度も「芸術」なんて、ひとつのジャンルを語っているが、「芸術」とは、「宗教」と親和性があり、それだけでなく「日常」に鮮やかな色を施すものであるとも思っているからだ。それを観た人が、「心弾ませ」たりする一助になれば幸いと言えるものである。
　「芸術」が、人々を「驚か」すものであるために、僕らはなんでもない「日常」を越えて歩いていかなければならない。「芸術」が、いつの日にか「日常」と出会うとき、世界は、「驚き」と「幸せ」に満ちた場所になるだろう。
　「芸術」が「夜」を語るのは、人々の心に寄り添うため。「冬」を語るのも、またその様な理由からだ。「芸術」は、日向を歩いている人ばかりに贈られるものではない、陰日向を歩むものへも届けられるべきものである。「芸術」は、人々の目に晒されることを望んでいる。そして、実は、人々も「芸術」を観て、驚きたいと思っている。