たしかに
あの松の枝を揺らしたのは
あの日の春の風
かすかに
あの梔子に残っていたのは
かつて青かった頃の春の匂い
とうに過ぎ去った春は
視界の向こう側で霞み
咲き誇る麗しき花々は
神々しい暑熱を被り笑む
軽やかに陽光に踊るのは
僕の幼さを匿う他愛ない心
捨て切れない昔日の後悔と
特徴なき有り触れた感情が
この胸の奥を今でも占める
風に揺れる
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氷が燃えている
貴女の目のなかの
湖の上一面で
どうしても避けられない
一抹の誤解を消し去るように
僕の
意識は
零度以下に冷めた
鮫の思考を
丁寧に模倣した
一寸も先の見えない夜のなかで
草臥れた白Tシャツと対峙して
徐ろに相槌を打った
一瞬
時が止まったような気がして
軽く顔を上げたが
何のことはない
僕は僕のままだった
変わりもしない睡眠と . . . 本文を読む
境界線から放たれる
鋭い悪魔の
感情の弾丸は
僕の心臓を
射抜く
さっき通過した
パン屋の前で
野垂れ死ぬ
おんなの芳香が
街路をさ迷う
濡れ衣を
着せられた
老婆の呻きが
天の国まで
昇っていく . . . 本文を読む
僕は
いつの間にか
弱い人間であると
思い込まされた
それは ときとして 「正しい」
秋が訪れる頃
僕は「孤独」に苛まれ
泣いていた
何も変わらない!
と、自暴自棄になって
しかし
立ち上がるんだ
屍と化してしまう前に
甦れ . . . 本文を読む
形にならぬ青さと
惰性で生きることへの恐怖が
深夜に想起される
多分
僕はまだなにも成し遂げていない
何度積み上げても
幾度となく積み上げても
永遠に完成しない
そんな絶望を感じるとき
そして倦怠を感じるとき
ふとやってくる朝がある
それは陽の光を連れて
僕の顔を暖めに
やってくる . . . 本文を読む