暦の上で春を迎えたとはいえ、東北地方のチエちゃんの村ではまだまだ厳しい寒さが続きます。
そんな冬の必需品といえば、
豆炭行火(まめたんあんか)でした。
ひんやりした夜具に入ると、足が冷たくて、体が温まらず、なかなか寝付けなかった経験はありませんか?
電気毛布が発明される以前、夜具を温め、足を温めてくれたのが行火です。
その燃料として豆炭を使っていたものを豆炭行火と呼びます。
豆炭は、石炭や木炭の粉を固めた黒い燃料で、直径5cmぐらいの正八面体の角を丸くした形をしています。これを大きくしたものが練炭です。
チエちゃん家では、家族中でこの豆炭行火を愛用していました。
金属製の四角い箱状の行火は2つに分かれ、ちょう番で繋がっています。
中は石綿が詰め込まれており、豆炭をのせる部分が窪んでいます。
説明より、画像を見たほうが分かり易いです。
この豆炭行火係はおばあちゃんでした。
コタツの炭火の中に豆炭をくべて、熾します。
その間に、チエちゃんは各部屋から家族中の行火を集め、行火を開けて、昨晩使った豆炭の燃えカスを捨てます。
おばあちゃんは真っ赤に熾った豆炭を火箸に挟んで、一列に並べた行火に入れていきます。
そしてパタンとふたを閉め、金具を止めて、金属が肌に触れないように布に包むか、布製の袋に入れます。
それから、行火をまたそれぞれの部屋のお布団の中に入れてくるのはチエちゃんの仕事です。
行火はお布団の真中に入れておきます。
そうすると、布団に入った時、ちょうど腰の辺りが温かく、行火を足元へ移動すれば、足も温かく休む事ができるからです。
ただし、行火はずーっと肌に付けたままにしていると、低温やけどを起こす危険がありました。
チエちゃんも何度か、足が紫色になったことがあります。
でも、ほとんどの場合、朝方にはチエちゃんの行火は足元よりずーっと下の方へ蹴飛ばされているのでした。