カンカンカーン、カンカンカーン、・・・・・
遠くで、鐘が鳴っています。
夢うつつの中でチエちゃんは、早く起きなければと感じています。
急に白熱灯の灯りがつき、チエちゃんは眠い目をこすりました。
カンカンカーン、カンカンカーン、カンカンカーン、・・・
うつつの世界でも、半鐘が鳴っていました。
何だかきな臭い匂いもしています。
おじいちゃんが身支度をしながら、
向がいのたげおやんの家が火事だ!様子見でくっから
そう言って玄関に向かいました。
おばあちゃんとチエちゃんも、寝間着の上に綿入れ半纏を引っかけて、玄関へと急ぎます。きな臭い匂いが強くなってきました。
お母さんも身支度をして二階から降りてきました。
大変なごどになった!かあちゃんも行ってくっから、チエはばあちゃんとこごに居んだぞ
そう言うと、お母さんは向かいのたけおさんの家に出かけていきました。
玄関のガラスにチラチラと赤い炎が映っています。
残されたチエちゃんとおばあちゃんは庭に出て、お向かいを見ました。
お向かいといっても、間に川と道路、畑を挟んでいるので、100m以上は離れています。チエちゃんの家もお向かいの家も道路から少し昇った山の中腹にあるのです。
その時、チエちゃんは火事をはじめて見ました。
家が燃えるというのは、もっと轟々と炎をあげて燃えるものだと想像していましたが、こちら側からは、暗い夜空に湧き出すようにもくもくと上がる黒い煙が見えるだけです。
それでも、時折は赤い炎が覗きます。
そのうち、消防車のサイレンが聞こえてきました。
消防団の若い衆が乗っているのです。
一斉に放水が始まりましたが、黒い煙はまだもくもくと上がっています。
そのうち、屋根と軒の間から、竜の舌のような赤い炎が見え始めました。
あぁ、すべてが飲み込まれてしまう!
チエちゃんは、寒さも忘れて呆然とその様子を眺め続けたのでした。
その後のチエちゃんの記憶はありません。
おそらく疲れて、安全になった頃にまた眠ってしまったのでしょう。
お向かいの家は母屋が全焼しましたが、幸い家人は怪我もなく無事でした。
風がなかったお陰で類焼もありませんでした。
蔵が焼け残ったので、たけおさん一家はそこでしばらく暮らすことになりました。
あの時出かけたおじいちゃんとお母さんは、消防車が着くまで、他の人たちと川から水を汲んでバケツリレーをしたのです。
それにしても、あんなに大きな騒ぎだったのに、弟のたかひろ君は何も知らず眠り続けていたのでした。