チエちゃんの昭和めもりーず

 昭和40年代 少女だったあの頃の物語
+昭和50年代~現在のお話も・・・

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第132話 成人式

2008年01月12日 | チエちゃん
 その時チエちゃんは、まだ傷心を引きずったままで、成人式だからといって、浮かれた気分にはなれませんでした。
でも、お母さんがせっかく用意してくれた晴れ着を無駄にはできないと思い、鬱々とした想いを心の奥に閉じ込め、成人式へ出席したのでした。

 晴れ着を選ぶときにも、幾種類もの着物を取り出して勧めてくれる店員さんの愛想笑いが鬱陶しくて、投げやりな態度で、「もう、これでいいよ、これでいいから・・・  」と選んでしまったのでした。
「本当に、振袖じゃなくていいのかい?」
「これでいいよ、どうせ着物なんて着ないんだから、もったいないし・・・」

 お母さん、ごめんなさい。
 お母さん自身はできなかったから、せめて娘には精一杯のことをしてあげたい、 振袖を着せてあげたいと思っていたのよね。
 それなのに、適当に訪問着を選んでしまって・・・
 あの時は、私には晴れ着を着る資格はないと思っていたのよ・・・


 会場には、振袖姿の女の子達やスーツ姿の男の子達が集まっていました。
高校を卒業してから、まだ2年しかたっていないのに、チエちゃんはもうみんな全てが遠い世界のように感じていました。

 よう、チエ! 馬子にも衣装だな?

 なによ、失礼ね! そっちこそ、馬子にも衣装でしょ!

一段と背が伸びたみつお君が笑って立っていました。思わずつられて笑ったチエちゃんは、久しぶりに心から笑えた気がしました。

 チエちゃん、久しぶり!

 ああ、みっちゃん、久美ちゃん、のりちゃん、元気だった?

 その時チエちゃんは、クラスメートとは本当によいものだと思いました。どんなに時が過ぎようと同じ時間を過ごした仲間は、あの頃に戻れるんだと・・・

成人式を終えたからといって、急に大人になれる訳じゃないけれど、とにかくやっと、19歳という中途半端な年齢が終わったんだとチエちゃんは思ったのでした。