チエちゃんの昭和めもりーず

 昭和40年代 少女だったあの頃の物語
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第131話 幽体離脱

2008年01月03日 | チエちゃん
 今、思い返しても、一体あれは何だったのだろうかと不思議な思いにとらわれるチエちゃんなのです。

 その年、いつものように年が改まるのを待ち、家族揃って氏神である熊ん様へと初詣に出かけました。
熊ん様の境内は、篝火や焚き火で、明るくなっていました。
氏子の人たちも大勢お参りに来ています。従姉妹の由美ちゃん、洋子ちゃんにも会いました。
今年もよい年でありますようにと、おばあちゃんに倣って拍手を打った後、引いたおみくじは「大吉」と出ました。
世話人の人たちが振る舞ってくれる甘酒をいただいて、今年はよいことがありそうだと考えながら家路につきました。

 一旦家に戻ったものの、チエちゃんはウキウキした気分が抜けきらず、なぜか急に走り出したい衝動に駆られてしまったのです。
そこで、こっそりと家を抜け出し、もう一度熊ん様の方へと走り出したのです。
もう、元朝参りの人たちも引けてしまったのか、ひっそりとしています。
星明りの暗さのはずなのに、ゆく道は白く光って、はっきりと見えています。
チエちゃんには、身体がとても軽く感じられました。息が切れることもなく、スイスイと走ってゆけるのです。
もう、熊野神社の前を通り越し、お寺の方へと向かっています。
途中で、一組の初詣帰りの家族を追い越しました。こんな夜中になぜ走っているのだろうと不審な顔で見送られました。
 
小学校へと続く道の両脇に家並みが見える頃になって、ようやく、こんな夜道を女の子一人で走っているのは危険だと思い始め、Uターンをして、飛ぶように家へと帰ったのでした。

 それから、どうやって布団に入ったのか、翌朝目覚めた時には全く覚えていなかったのです。
単に、初夢を見ただけなのかもしれませんが、それにしては、走った感触や、出会った人たちの顔がリアルに思い出せるのです。
 後に、ああ、あれはもしかしたら、幽体離脱というものではないだろうかとひとり得心したのでした。