毎年お正月になると、祖父は決まって掛け軸を取り出して、飾りました。
そこには、日輪を背に雲上で微笑む女性が描かれていました。「天照皇大神」の文字もありました。祖父は「テンショウコウダイジン」と読んでいたと思います。
掛け軸はもう一幅あり、そこには一万円札の聖徳太子に似た男性3人がやはり雲に乗っている絵が描かれておりました。
神も仏も区別がつかなかったものの、私はとにかくそういうものを描いた絵に違いないと思ったものです。
それは、祖父が神棚を拝んだ後、この掛け軸に向かっても手を合わせていたからです。
また、神棚には、年末に熊野神社からもらってきた真新しい御札(半紙)が貼り付けてありました。
「大歳神」「大國主神」「言代主神」と書いてあります。
「大」「神」「言」「代」など子供の私にも読める漢字が含まれてはいたのですが、一体何と読むのか、どんな意味なのか、疑問に思いながらも拝んでいたのでした。
それがいつの頃からでしょうか。私は歴史に興味を持ち始め、日本神話の世界へも足を踏み入れました。
そこは、八百万の神々の世界。そこに、子供の頃の疑問に対する答えがあったのです。
「天照皇大神」は「あまてらすおおみかみ」、イザナギの子で、太陽を司る高天原を治める女神。「天の岩戸神話」で有名。
「大歳神」は「おおとしのかみ」、須佐之男命(すさのおのみこと)と神大市比売命(かむおおいちひめ)の子で穀物神、五穀豊穣を願い毎年正月に各家にやってくる神。
「大國主神」は「おおくにぬしのみこと」、須佐之男命の6世の孫で、国津神(くにつかみ:地上の神のこと)。出雲の神。
「因幡の白兎神話」が有名。大穴牟遅神(おおなむぢのかみ)、葦原色許男神(あしはらしこおのかみ)、大黒様などたくさんの異名を持ち、逸話も多い。
「言代主神」は「ことしろぬしのかみ」、大国主神と神屋楯比売命(かみやたてひめ)の子で、神の言葉を伝える神。国譲りの際、天津神(あまつかみ:天の神のこと)へ服従した。
私は、宗教に対し深い信仰心を持ち合わせている方ではありませんが、日本人として、日本に伝わる神話を知りたいと思います。
そこには、私たち人と同じように、喜び、怒り、嫉妬し、悲しむ神々の姿が描かれています。
あの祖父の掛け軸は、私が神話や歴史に興味を抱くことになった要因の一つとなっているような気がします。