大会名の「鯨海峡とかしき島一周マラソン」にあるとおり、渡嘉敷島はホエールウオッチングの名所として名高い。2009年2月8日午前10時発のマリンライナーで那覇泊港へ向う途中、スピーカーを通して船長の声が鳴り響いた。「船の右前方にザトウクジラのブリーチングがご覧になれます!」。
乗客は、はじかれたように一斉に席を立ち右舷に集まった。私たちの席は、幸運にも右側だった。最初は、海面しか見えなかったが、目が慣れるにつれ2頭のクジラが船と並行して泳いでいる姿が見えた。と、次の瞬間、海面からクジラの巨体が浮かび上がり、反転するように豪快なブリーチングを演じた。船内がどよめいたが、次の行動を待つように、すぐに静まり返った。数十秒後、再び豪快なブリーチングにテールスラップと続くと、もはや乗客は総立ちになった。
船長は、クジラの動きに合わせ船を減速した。「こんなに近くで、見事なブリーチングを見られることは滅多にありません。ランナーの皆さんの健闘を称えて見送ってくれているのでしょう。」とのアナウンスに、「カンゲキー!」「私、初めて見たわ!」「写真、シッカと撮ったわよ」の声が飛び交い、船内は割れるような拍手と歓声に包まれた。
去年、慶良間諸島へツアーに出かけた時よりも間近で、見事なブリーチングを何度も目にした感動を、カメラではなく目の奥にしっかり刻み込んだ。数分後、体を横向きにするペックスラップを合図に、船長は船を発進させた。そのポーズは、クジラが「さよなら」「来年もまた来てね」の仕草をしているように思えた。「終わり良ければすべて良し」で、思いがけないお土産を目に焼き付けて、沖縄を後にした。