アカデミー賞の作品賞にノミネートされ、注目を集めたSF大作であるが、見世物的なおもしろさを期待して行くと返り討ちに遭うような真剣な問題作である。
日本を含む世界の12箇所に得体の知れない米粒型の巨大な未確認飛行物体が現れ、静止したまま立ち去る気配が無い。優秀な女性の言語学者の家に特命を帯びた軍の幹部が突然やって来て、エイリアンとの交信記録を聞かせ、翻訳できないかと迫る。
モンタナ州の上空に浮かんだまま静止する飛行物体は18時間ごとに酸素を取り入れるため底の部分の出入り口を開放する。これを利用して、くだんの言語学者と物理学者のふたりがエイリアンとの交渉役に選抜され、飛行物体の内部に送り込まれるのである。かくして、基礎的な単語からはじめてエイリアンの言語と英語を対応させる地道な作業に入る。なるほど、未知の言語を翻訳するとはこういうことなのかと納得される。そうして、かれらがなぜ地球にやってきたのか、その目的を聞き出そうというのである。一方で、中国やロシアはアメリカの試みに疑問を呈し、エイリアンの意図を侵略だと主張して飛行物体への攻撃に転じようとしていた。
これで地球は破滅するのか、とハラハラさせられるのだが、土壇場で主人公がかれらの驚くべき目的を解明するところは感動的である。まさに、いまの国際関係に対するみごとな警鐘というか、警告の意味を持っていて一本やられたと思った。こう見ると地球の誕生が46億年前というから、人間などたかだか数十万年の歴史しか持たぬ野蛮で低レベルの生き物だと考えさせられる。
あるいはまた、この映画が教えるもうひとつの大切なことは安全保障というものが決して武力や威嚇では解決できず、優れたコミュニケーション力、交渉力と外交術によってのみ担保され、そこに建設的な未来が開かれるのだといっているように思った。
ところで、冒頭に言語学者の娘が小児がんか何かで早世するエピソードが語られ、終盤では元気だった頃の幼い娘が粘土で宇宙人を作って遊んでいる回想場面が何気なく挿入されたりするのだが、実はここにちょっとした時制のトリックが仕掛けてあることにご注意を。(健)
原題:Arrival
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
脚本:エリック・ハイセラー
原作:テッド・チャン
撮影:ブラッドフォード・ヤング
出演:エイミー・アダムス、ジェレミー・レナー、フォレスト・ウィテカー、マイケル・スタールバー グ、ツィ・マー