近年相次いで叔母が亡くなったため、法事のお参りが続いている。普段はなかなか故人のことを頭に思い浮かべることはないのだが、このときばかりは生前の姿を思い出しながらお経を唱え、亡くなった人を偲ぶ大切な時間となる。今にも語りかけてきそうな写真を眺め、何か言い残したことはないのだろうか、今を生きている自分の姿をはたしてどう思っているのだろうかと自問自答しながら・・・。
この作品の舞台となる三ツ瀬は天界と地上の狭間にある町、そして海を見下ろす高台に老舗旅館『天間荘』がある。そこを仕切る若女将は長女の天間のぞみ。妹のかなえは近くの水族館に勤めるイルカのトレーナー。二人の母親は大女将ともいえる存在で、なかなか手厳しい。そこに小川たまえという若い娘が謎の女性イズコに連れられやってくる。実はたまえはのぞみとかなえの異母姉妹で、現世では交通事故に遭い、臨死状態にあった。そう、ここ天間荘は生と死の間を彷徨う魂を癒やすための場所。ここで一休みしながら、死を受け入れるか、あるいはもう一度現世に戻って生き続けるか決断をする場所でもあるのだ。
長女ののぞみを演じるのは、朝ドラ「スカーレット」の好演が記憶に残る大島優子。今回も長女らしい落ち着きと風格が感じられ、もうアイドルからは完全に卒業の感ありだ。次女のかなえにはその演技力には定評がある門脇麦。今回はイルカのトレーナーということで、実際に調教の訓練を受けて撮影に臨んだそうで、そういう努力の積み重ねが演技にも活かされているに違いない。そして主人公ともいえる三女のたまえにはのん。「あまちゃん」で一躍時の人となるものの、一時芸能界から遠ざかっていたのだが、アニメ「この世界の片隅に」のすずさんの声役で再び注目され、今回のたまえ役で完全復活を遂げたともいえそうな好演ぶりだ。あまちゃんを彷彿とさせる天真爛漫ぶりと、決して幸せとはいえない境遇に暗い影を抱えるといった複雑な役を見事に演じきった。この三姉妹に母親役の寺島しのぶ、父親役の永瀬正敏、イズコ役の柴崎コウ等、芸達者達が絡む。更に柳葉敏郎、中村雅俊と何か東北出身のキャストが目につくなと思っていると、中盤にさしかかる頃大きな揺れが・・・。
原作は「スカイハイ」シリーズでおなじみの高橋ツトム。今作はそのスピンオフ作品なのだが、誕生のきっかけとなったのが2011年に起こった東日本大震災。当時すでに旧知の仲だった北村龍平監督は、震災後数日間、高橋と一緒に過ごしていたそうだが、高橋が「天間荘の三姉妹」を発表してすぐ、映画化を思いついたそうだ。紙とペンで生み出された世界から、映像と音楽と役者の演技という映画でしかできない表現で、更に色鮮やかに変身させてみたいと。
突然命を奪われた人たちの想いの魂が、現世に残された人たちに伝える術はないのか?!天間荘にやってきた人々は走馬灯で自分の人生を顧みながら生前にやりきれなかった思いを遂げようとする。そして納得して死の世界へ旅立っていく者もいれば、新たな希望を得て、苦しくとも現世で生きる道を選ぶ者もいる。「のぞみ・かなえ・たまえ」連なった三姉妹の名が示すように、魂となった人たちのメッセージを、現世に戻ったたまえが遺族達に伝える場面が秀逸だ。フィクションだとわかっていながらも、こうあってほしいと願う想いが繋がり、ラストののんの最高の笑顔で昇華する!!これは残されて生きる者たちに贈る、人生の応援歌だ。
(HIRO)
監督:北村龍平
脚本:嶋田うれ葉、北村龍平
撮影:柳島克巳
原作:高橋ツトム「天間荘の三姉妹ースカイハイー」
出演:のん、門脇麦、大島優子、寺島しのぶ、柴咲コウ、三田佳子、永瀬正敏、高良健吾、山谷花純、萩原利久、平山浩行、柳葉敏郎、中村雅俊