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「ひとよ」(2019年、日本映画)

2019年12月04日 | 映画の感想、批評


 冒頭で、泥酔した夫を車で轢き殺した母は、「自分のやったことに自信がある!今から15年経ったら帰って来る!これからは自由に生きなさい、生きられるのよ!」と言い放ち、自首するために家を出ていく。残されたのは思春期の長男、次男、まだ小学生の娘。
3人とも日常的に理不尽な暴力を父から受けてきた。

子どもたちは15年の間、親に甘えられる時間と関係を奪われ、親子関係を凍結したまま、一人ずつもがきながらそれなりに生活を築いてきた。それは刑に服している母には知らない時代。
だから、15年経って帰ってきたといわれても、母に対して大人な対応ができない。不満や甘えを一気に噴き出せるものでもない。

末っ子の松岡茉優は甘えたくてたまらない。母を肯定的にとらえようとする。
次男は生活の場も都会に移し、郷里との距離を測ってきた。その代わり、母を検証すると称して事件を文章化することで見つめようとしている。
「自分にも父親と母親の血が流れている、暴力性があるのでは?」長男は妻に事実を隠している、父親のモデルがないため、自分自身が父親であることへの不安が募る。

田中裕子の演技は圧巻。兄弟3人も見ごたえあったし、わき役たちも見せてくれる。
残されたタクシー会社を運営してきた従兄をはじめ、会社のメンバーがあまりに良い人過ぎて、救われる場面なのだが。
佐々木蔵之介の豹変ぶりが画面に緊張感をもたらしたが、そして彼はその後どうなったのか?

ひとよ。題名はひらがななので、受け取り方は様々。
主題は「あの夜」、その人にとっては「あの・・・」であっても、他人にとっては「ただの、いつもと同じ」。
あの夜、と言っても、他人にとってはしょせんそういう事なのよ。ということか。
ひとよ、「人よ」でもある。あの人によって、良くも悪くも振り回され、振り回し、絡み合う。
昨年は「万引き家族」のような疑似家族があった。今作は否が応にも、本物の血のつながった家族。親は選べない。「それでも母さんは母さんなんだ!」の長男の言葉は重い。

突き詰めて思うに。
結局は母のエゴではないのか。確かに子どもたちを父親の理不尽な暴力から救いたい!
母なればこその想いだ。私もその立場になったら・・・・・。いや、それでも他の方法がいくらでもあるじゃないか!それを言い出したらお話しは出来ないか!


自分の誕生日に、自分へのプレゼントで見るにはちょっとしんどい作品だった。軽いものを見るほど浮かれる気にもなれない心理状態でもあったし。
そもそも困難な時には重い作品を観て、同調し、力を得るというのが得意なので、それほど苦痛になったわけでもなく。いつものように、「まあ、私もそれなりに頑張ってるやん!」と、自己肯定を存分にして、帰宅した。フェイスブックの「友人たち」はおめでとうメッセージをくれるが、家族は忘れてる!ま、いいか!居てくれるだけでもありがたい存在なのだ。ゆるしたろ!(笑)
(アロママ)


原作 桑原裕子
監督 白石和彌
脚本 高橋泉
撮影 鍋島淳裕
出演 田中裕子、佐藤健、鈴木亮平、松岡茉優、佐々木蔵之介


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