彦根藩の進物番をしていた柳田格之進(草彅剛)は掛け軸盗難の濡れ衣をきせられ、妻も職も失い、江戸で娘のお絹(清原果耶)と貧しい浪人暮らしをしているが、武士としての矜持と品性を失わず、それは囲碁の手筋にも表れている。
質両替商の萬屋源兵衛(國村隼)は「鬼のケチべえ」と揶揄されるような強引な商いをしていたが、格之進と出会い対局する中で、彼の人柄に感化され、まっとうな人間になっていく。
ある日、源兵衛の店で五十両が行方不明になり、番頭と手代の弥吉(中川大志)が、その日源兵衛と囲碁をしていた柳田を犯人ではないかと疑いをかけてしまう。
ちょうどその頃、部下だった梶木左門(奥野瑛汰)によって、藩を追われた事件の真相を伝えられた格之進親子は復讐を決意したばかりであった。
お絹は父の潔白と覚悟を信じ、自ら吉原に身売りして五十両を用立て、格之進に仇討ちを果たすよう促す。
格之進は弥吉に五十両を渡し、「金がでてきた時は弥吉だけでなく、源兵衛の首をもらい受ける」と宣言し、江戸から姿を消す。
草彅の侍姿はなかなか似合っている。静と動のめりはりがあってよかった。走る姿はちょっと武士らしくないかな。
國村の大店の旦那が柳田と碁を打つ中で商売の在り方も正していく姿にしずかに感動する。
中川大志、武家の生まれという役どころ。番頭に言われて格之進を疑わざるを得なくなるが、お絹に惹かれていくかわいさが微笑ましい。
斎藤工も狡猾さをにじませながらの敵役がはまっている。最後はやはり侍だった。
小泉今日子、カッコいい。ちょうどこの前後で観た前進座のお芝居「文七元結」も本作のベースになっているのか、吉原に生きる女性のキップの良さがでている。足ぬけに失敗した女郎への厳しさはゾクッとする。
それほど過酷な世界のはずなのに、ラストで絹が無事に解放されたとき、周囲の女郎たちが温かく見送るところは、「はて?」。
原作本では、足ぬけした女郎のその後を絹が親身に世話をすることで周囲の変化が描かれていたが、映画ではそこを出せていない。
清原果耶の武家の娘がりりしいし、所作も美しい。ますます楽しみ。先に春雷さんが取り上げた「青春18×2」をまだ見られていないので残念。
碁は全くわからないなりに、演者の表情で緊迫感が伝わってくる。
碁会所では身分も男女も関係なく、対等に参加しているらしいのが新鮮に思えた
時代劇らしい照明や美術もよかった。
白石監督にとっては初の時代劇とのこと。それは意外だった。「ひとよ」「死刑にいたる病」「凪待ち」などを観た。バイオレンスがきつくて、思わず目をむけてしまったし、鑑賞後が重々しかったが、今作はどこかすがすがしさがあったのが救い。
山田洋次監督が『たそがれ清兵衛』を機に時代劇を作り始めたように、白石監督の時代劇も楽しみになってくる。
柳田は掛け軸を受け取って、さあそれをどうしたのだろう。娘の祝言からそっと旅立ち、自分の清廉潔白さから藩を追われた部下たちの家族にお詫び行脚に行ったのだろうか。品格や礼節を何よりも大事にする本作の登場人物たち、今の時代に大事なことを問いかけているように思えた。
(アロママ)
監督:白石和彌
脚本:加藤正人
撮影:福本淳
原作:加藤正人「碁盤斬り柳田格之進異聞」
出演:草彅剛、清原果耶、中川大志、奥野瑛太、小泉今日子、斎藤工、國村隼
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