ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

お産の時だけ「東京へ住むこと考えた」 (朝日新聞)

2008年06月25日 | 出産・育児

我が国の妊産婦死亡数は1950年には年間4000人以上でしたが、2005年には62人まで減少しました。周産期死亡数(妊娠22週以降の死産+生後1週間以内の早期新生児死亡)も1950年には年間10万人以上でしたが、2005年には5149人まで減少しました。

1950年には、自宅や助産所での分娩が全体の99%を占めていましたが、その比率は1960年には50%となり、1990年からは 1%程度で推移しています。現在は分娩の99%は病院・診療所で行われています。

今、全国的に出産できる施設が急激に減少し続けていて、妊娠しても希望通りの医療機関で出産することがだんだん難しくなっています。現在の分娩の安全性を保ちながら、今後いかにして分娩場所を確保していくのか?という問題が、早急に解決しなければならない国家的な課題となってきました。

分娩取り扱い施設あたりの産婦人科医数は、アメリカが6.7人、イギリスが7.1人であるのに対し、日本はわずか1.4人にすぎず、きわめて小規模な施設で多くの分娩が行われているのが現状です。

福島県の大野病院事件、奈良県の大淀病院事件などの影響もあって、マンパワーの不十分な分娩取り扱い施設の産婦人科医達が産科医療からどんどん離れています。産婦人科医が少なくなってしまった施設に、何とかして産婦人科医を呼び込もうとして、多くの自治体がそれぞれ必死の努力をしていますが、そうやって数少ない産婦人科医を多くの施設で奪い合って、小規模施設を一時的に延命させたとしても、何ら根本的な解決にはなりません。

小規模施設での分娩管理には限界がありますから、各地域で分娩取り扱い施設の集約化を進め、施設あたりの産婦人科医数を少なくとも諸外国並みの6~7人程度まで増やす必要があると思います。 次世代の若い人達が入門を尻込みするような過酷な勤務環境のままで、無理に無理を重ねて頑張り続けるのは考えものです。若い人達が喜んで入門できるような勤務環境を整えることが非常に重要だと思います。

****** 朝日新聞、2008年6月23日

お産の時だけ「東京へ住むこと考えた」

 「予約は半年先までいっぱいです」

 昨年12月、神奈川県相模原市に住む女性(38)は電話口で真っ青になった。相手は近所の北里大学病院。「お産の予約はプラチナチケット」「妊娠がわかったらすぐに動け」――。不妊治療を続けていた当時から、まわりからそう言われていた。

 だから気配には気を付けていたつもりだった。妊娠 8週。「素早く動いたはずなのに・・・・・・」。あきらめられない。年齢とぜんそくの持病があることを伝えた。すると、受診の予約を入れてくれた。数日後に診察。「ハイリスクな出産に入る」という理由で受け入れが決まった。

 後に知ったのは、北里大病院はほかの医療機関が受け入れられないリスクの高い妊婦を優先的に受け入れており、通常の妊婦は月100件程度のうち35件に抑えていること。県内で出産を扱う施設が激減し、その枠はすぐに埋まること、だった。

 「ラッキーにもハイリスクだった、ということでしょうか」。複雑な気持ちだった。でも、知人から「県内ではなかなか見つけられない」と聞き、一時は妊娠中だけ東京でアパートを借りることも考えただけに、ほっとした。

 神奈川に限らず全国的に出産できる施設が減り、なかなか希望通りの医療機関で出産できない。93年に全国で4000近くあった施設数が、05年には3000を切った。深刻な産科医不足が背景にある。75年に医師の10%以上を占めていた産婦人科医が、今は 4%だ。

 限られた施設の中で役割分担する――。妊婦をリスクに応じてある程度分けざるをえない理由がここにある。北里大の海野信也教授は「妊婦さんにも我慢してもらわないと成り立たない」という。

 女性は今、出産に向けて妊婦健診に通っている。「元気な赤ちゃんと会いたいです」

(以下略)

(朝日新聞、2008年6月23日)


産科に関する公式の診療ガイドラインの作成

2007年03月24日 | 出産・育児

『産科に関する公式の診療ガイドライン』が、これから1年間をかけてまとめられる予定とのことです。

婦人科腫瘍の診療に関しては、従来より、各疾患に関する取り扱い規約がありましたし、最近では、卵巣癌や子宮体癌の診療ガイドラインも刊行されました。どの患者さんに対しても、エビデンスのある標準治療を実施するというのが大原則になっています。ちゃんとした病院であれば、標準治療からはずれた病院独自の治療を実施するなんてことは、ほとんどあり得ないと思います。

しかしながら、産科に関しては、それぞれの分娩取り扱い施設にそれぞれの独特の流儀が存在し、中には、かなり古い前時代的な医療を実施している施設も存在します。現時点における標準治療は何なのか?は、誰にとっても非常に分かりずらいというのが現状です。

日本のすべての分娩取り扱い施設が必ず準拠すべき『公式の診療ガイドライン』を早急に作成し、定期的に改訂版を刊行して常に進化させて、現時点における産科の標準治療は何であるのか?を、今後はっきりと示していく必要があると思います。

****** 朝日新聞、2007年3月21日

お産ガイドライン作成へ 産婦人科学会 訴訟対策も視野

 日本産科婦人科学会は、「お産」に関する診療のガイドラインを08年までに作ることを決めた。標準的な治療法の普及が目的だが、お産をめぐる医療事故が相次ぐ中で「訴訟対策」もにらんだ内容とする。開業医が中心の日本産婦人科医会と共同で、現場の意見も聞きながら約1年かけてまとめる。

 21日に開かれる同学会の医療提供体制検討委員会で発表する。原案は同学会と産婦人科医会の会員計24人からなる委員会が作成中。「妊娠初期に必要な検査」「帝王切開経験者の2度目の出産法」など、選択肢が複数あるような64項目について、Q&A方式で解説しつつ推奨度を示す。

 07年度中に原案を学会のホームページに掲載し、3~6カ月間の試行後、08年に正式版を発行する予定だ。

(以下略)

(朝日新聞、2007年3月21日)


助産所の安全性確保についての議論

2007年03月15日 | 出産・育児

****** 共同通信社、2007年3月15日

助産所「安全確保に限界」 妊婦死亡も、産科医会調査

 日本産婦人科医会が、2005年に助産所から高度医療施設に妊婦が緊急搬送された全国の計247事例を調べたところ、妊婦1人と新生児4人が死亡するなど、深刻な結果に至った例が含まれていることが15日分かった。

 分析した久保隆彦・国立成育医療センター産科医長は「助産所が本来、正常な出産だけを補助する場であることを考えればこの数は多い」と指摘。すべての出産にはリスクが伴うため「医療機関と切り離された助産所での安全確保には限界がある。病院内の設置が望ましい」と話している。

 調査には、全国の総合周産期母子医療センターや大学病院など地域の中核施設475カ所が、経験した緊急搬送例について回答。死亡例以外では母親1人に後遺症がみられたほか、長期入院が必要になったのが母親22人、新生児が36人いたことも分かった。

 背景について同医会は「助産所の多くはカルテに当たる『助産録』の記載が不十分で、状態が悪化し唐突に高度施設を頼っている」と分析。半面、本当に緊急処置が必要だったのは、搬送事例の約3割にとどまり「(緊急時の対応について判断すべき)嘱託医が機能していなかった」とした。

 助産所を利用する人は年間約1万人で、出産全体の1%ほど。専門家によると、助産所からの緊急搬送は年間700件程度。全国平均では妊産婦死亡が1万6000人に1人、新生児死亡は667人に1人とされる。

(共同通信社、2007年3月15日)

****** コメント:

ここ2~3日、当ブログのコメント欄でも、この話題で議論が沸騰してます。かなり以前の記事に対するコメント欄なので、本日の記事に引用させていただきます。

【以下、本ブログのコメント欄より引用】

助産院で産みました。ローリスクで近くに大きな病院も提携していたので不安はありませんでした。
助産院を問題視する人の中には「助産院は産科医と離れているから、なにかあった時に対処できない」と言います。
が、しかし、急変してから緊急帝王切開が行われるまでに、病院であろうと助産院であろうと、30分程度は時間がかかります。
助産院で急変が起きても、要は搬送の間にその準備をしてもらえば同じように急変から30分で手術は受けられます。
助産院で産む人が多くなれば、多くの人は病院のお出産に関して一切、医者の手をわずらわせることみなくなるし、本当に医者が必要な人がたらいまわしにされることなく、病院にかかれると思います。
また、必要な人だけに立ち会うことによって、医者はゆっくりと休養をとることができるし、助産院の助産師はつききりで産婦に寄り添うことができます。病院は忙しいから、一晩、ナースコールを持たされただけでほっとかれた、というようなことは本来危険なことだし、またそれに対して「病院は忙しいんだから仕方ない」というような風潮も、危険なことだと思います。
これで死亡事故が起きても、遺族は納得できないでしょう。最大限、努力してなお、助からなかった、ということとは違うのですから。
本来必要のないローリスクの妊婦が病院で産むことで、医者は休めない、助産師も医者も一人をゆっくり観察できない、本当に急変した患者がたらいまわしにされる、というまったく非合理的な今の状況はなんとかするべきだと思います。

何か事が起こってから母体搬送すれば、あとは病院が何とかしてくれる筈という考え方では、今後、絶対にやっていけないと思います。

他の施設からの母体搬送例で、急変から30分以内に帝王切開をするのは絶対に不可能です。

急変から病院到着までにすでに30以上経過していますし、病院に到着後に母児の状態を診察し、手術の必要があると診断してから、術前検査を実施し、検査結果がすべて出そろってから、初めて手術室に入室が可能となります。手術室入室後に麻酔導入に30分程度はかかります。

どんなに条件が整っていても、急変から手術開始までに2時間以上はかかってしまいます。

常位胎盤早期剥離、弛緩出血による出血性ショック、産科DICなどは、ローリスクの妊婦であっても一定の確率で必ず発生します。突然、予想外の異常が発生して母児が急変し、直ちに医学的対応が必要になった時に、その場では何もできない状況にあれば、母体死亡や死産となってしまう可能性が非常に高くなります。

自己の責任で、すべてを自然の経過に任せるという個人の選択も当然あり得ます。医療のサポートを受けるか受けないか?は、個人の選択の問題です。

>病院に到着後に母児の状態を診察し、手術の必要があると診断してから、術前検査を実施し、検査結果がすべて出そろってから、

多分、名無しさんはここら辺までを助産院(及び病院への搬送中)で可能だと考えていたのでしょう。
そして病院の方では「急変があった」という時点から手術の準備(どんな手術になるか分からないのに)を始めてもらうつもりなのでしょう。

違うと思いますよ。
「何かあったら大変だからみんなで、病院で産みましょう」という考えこそ実は現実離れした非効率的なものだから、今の状態なんです。

>他の施設からの母体搬送例で、急変から30分以内に帝王切開をするのは絶対に不可能です。

絶対だなんていいきれるわけがありません。
院内助産院を実施しているところだってありますよ。
私が産んだ助産院は15分圏内に大きな病院があって、そこに定期健診も行っていました。

逆に言いたいのですが、人手が足りなくて、急変時には自宅待機しているDrを呼ばなければならない病院もあります。
助産師が足りなくて、つききりで見守れない病院もあります。
病院だから、助産院だから、と結論つけて話す人は信用できないですね。
ナースコールを押しても、すぐに駆けつけられない病院だってたくさんあります。
なによりも、奈良の亡くなった妊婦さんのように重篤な状態でも16箇所も病院をたらいまわしにされるよいうな状況こそが最も不幸なことです。
そういった視点も含めて考えれば、おのずと答えは見えてくると思うのですが。
ちなみに、「助産院で産むと死亡率が高くなる」というのは様々な実験の結果、否定されています。
一部の人達の言う「病院でさえ産めば異変があった時に大丈夫!(以下、突発でおこる病名の羅列)」という意見は、これだけ産科医療の危機が言われている中でもう少し考えてもらいたいです。
迅速に対応し、病院と連携することによって、「医者が助かる」という視点でものを考えるべきだと思います。
実際、そう言って助産院や個人病院と協力しあって地域医療を支えている医者はたくさんいますよ。

15分で到着するとして、その間に医者、助手、道具とベッドの確保。
あとは着いた患者を診察して必要な手続き、と考えていましたが。
というか、救急車で運ばれてくるのと同じ手数ですよ。
もちろん大病院でも、助産師が、たとえ相手がローリスク妊婦だとしても、24時間つききりでそばについて、異常が起きれば素早く察知でき、なおかつどんな時間帯でもすぐに手術できるだけの状況が整えられて、なおかつそれでも、本当の重篤な患者の飛び込みにも対処できるほどに現代の産科が恵まれた状況なら、いいですよね。
だけど、残念ながら、現実は誰しも認めるとおり悲惨な状況です。
だからこその意見なのですが・・・誤解されているようですね。
これだけ、人手不足が問題にされているのに、ローリスクの人達も大病院で産め、というのは非現実的だと申し上げたいです。
ちなみに、助産院では病院で検診を受け、そこで許可がおりなければ産めません。

>医療のサポートを受けるか受けないか?は、個人の選択の問題です。

というのは、正確に言えば

>医療のサポートの度合いをどれだけの割り合いにするかは個人の選択の問題です。

ということです。
助産院で産んだ人達は少なからずの医療のサポートは受けています。
ただ、それを少なく受けたことによって、お医者様の手をわずらわせる機会を減らし、医療という社会資源を有効に活用したとも言えるわけです。
もともと病院での出産が必要でない人が、病院で産まなかったことによって、その間に他の重篤な患者の方が少しでも早く治療を受けられた可能性はゼロではないのですから。
一人一人が視野を広く持つことが大切だと思いますよ。

 突っ込みどころはいろいろあるのですが、
 「助産院で産むと死亡率が高くなる」というのは様々な実験の結果、否定されています

 この手の報告助産師の出す雑誌で読んだことありますが、これは本当に信頼に足る報告なのでしょうか。統計は恣意的に操作すればどうにでも結論付けられると思いますが。

 「助産院は安全」というブログで紹介されていた助産院分娩が主体のオランダでは、周産期死亡率の高さが問題になっているようですよ。

 分娩の安全性のためには産科医と助産師が同じところで連携をとること、それとは別に産婦人科医を増やすことが必要だと思います。そもそも現在日本の助産院分娩は1%程度です。そして助産師自体も不足しています。助産所からの搬送は1割にものぼります。助産師が単独で扱うことでこの問題が解決するとは到底思えません。
 医療資源の分配の問題とは違うと思いますよ。
まあ、国民が助産院の危険性を充分認識してなおかつ、選ぶのならありかもしれませんが。
 たまたまご本人が助産院で無事に埋めたからと言って一般化してよいのでしょうか。

当科でも、正常分娩の場合は助産師がつききりで付き添って分娩を介助し、医師はほとんどタッチしてません。医師と助産師が同じ職場で緊密に連携し、協力して仕事をしています。

助産師外来で、一人一人の妊婦さんの希望を聞いてバースプランを作成し、そのバースプランを最大限に尊重して、助産師が分娩介助をしています。分娩時には、一人の妊婦さんに助産師が最低3人は付き添って介助しています。

特に異変がなければ医師はただ見守るだけです。

母児の急変があれば、その時点でリアルタイムに医学的な対応を開始します。

最近は、周辺の分娩施設が激減したため、緊急母体搬送例や新生児搬送例は激減しました。それとともに、NICU(新生児特定集中治療室)の重症例が激減したと当院の新生児科医が言ってます。当院の分娩件数が倍増したにもかかわらず、当院NICUに収容される新生児数は減り、しかも重症例の占める割合が激減したそうです。

要するに、助産師、産科医、新生児科医、麻酔科医が、一つのチームとして、同じ施設で連携し協力することによって、分娩の安全性が飛躍的に増したし、患者のさまざまなニーズにも無理なく答えられるようにもなったし、スタッフ個人個人の負担は減って、激務だった勤務状況も緩和されました。この周産期医療チームの中で、助産師の果たしている役割は非常に大きいです。

また、地域の開業の先生方と連携して妊婦検診を行うことにより、当院産科医師の外来診療の負担を大幅に軽減できました。

それぞれの地域の特殊事情の中で、関係者がよく話し合って、母児にとって最善と思われる方策を考えてゆくことが大切だと思います。

今回、名無しをやめて名前をつけてみました。
上記の名無しです。

助産院の安全性さんへ

>突っ込みどころはいろいろあるのですが、

とあったので、どれだけ突っ込んでくれるのか期待していたのでかなりがっかりしました。
WHOが世界中の文献、実験結果を分析して「助産院は安全だ」と結論を出しましたよ。詳しくは

http://www.web-reborn.com/books/book/whokankokunimiru.htm

にてどうぞ。

>オランダでは、周産期死亡率の高さが問題になっているようですよ。

というのも耳にタコができるほど、よく聞く話なんですが、そもそもオランダと日本の最先端の医療技術が違う以上、死亡率を比較しても「助産院が危険だ」という結論を導き出せませんよ。
同じ条件下で比較して、なお助産院での死亡率が高いのなら、分かるのですが。

>分娩の安全性のためには産科医と助産師が同じところで連携をとること、それとは別に産婦人科医を増やすことが必要だと思います。

当たり前のことです。
要は医者を志す人は多い中、産科医になる人が少ないのだから、待遇を改善しなければいけません。
忙しい忙しい、と悲鳴をあげる産科医を見て、まずはどうやったら彼らの負担を減らせるのか、冷静に考えるべきでしょう。
負担が多いゆえ、事故も起こりやすい。
訴訟が多ければ、ますますなり手がいない。この悪循環を断ち切りたいと本当に思うのなら、できるところから、産む側が産科医の負担を減らしていくべきでは?と思ったのですが。

>そして助産師自体も不足しています。

そうです。助産師も増やさなければならないと思います。
助産師の働きやすい環境を整えることと、彼らが主体性をもって働くことが大切だと思います。
まずは、「助産師」という仕事を一般の人がもっと知るべきだと思います。
助産師だけで出産の介助をできることを知らない人、看護士との違いを知らない人がまだまだ多いのは、この問題を考える上で見過ごせないことだと思います。

>助産所からの搬送は1割にものぼります。

こういうことを書く時はまず、その由来を先に書いてくれませんか?
どこの地域のどこの病院のことでしょうか。
まわりの診療所や、助産院の数やそこで扱う分娩数は?
それとも全国平均の話ですか?
初耳なので是非、教えてください。

>たまたまご本人が助産院で無事に埋めたからと言って一般化してよいのでしょうか。

どこをどう読んだら一般化しているのでしょうか。
読み返してみましたが「自分は助産院で産んで大丈夫だったので、みんなも大丈夫」というような記述は見当たりませんでした。
よく読んでから、書いてください。

管理人さんへ

今回、管理人さんがおっしゃっていることは正しいと思いますし、異論はありません。
ただ、それほど恵まれた状況ばかりではないのが、現在の日本なのです。
私が上記で書き込んだのは、崩壊していく日本の産科医療に対して、もっと助産師を活用したらどうか、ということです。
「うちはこんなに上手くやっています」というのは、もちろん素晴らしいことだと思うのですが、

>何か事が起こってから母体搬送すれば、あとは病院が何とかしてくれる筈という考え方では、今後、絶対にやっていけないと思います。

という最初の書き込みに関して、いぶかしく思う気持ちに変わりはありません。

「むしろ、病院でさえ産めば、絶対大丈夫、という考え方では、今後絶対やっていけないと思います。」

と返答いたします。
実際、そのとおりになっています。
管理人さんの病院がいかに素晴らしくても、日本全体で見れば、「病院でさえ産めば安全」という非効率的な考え方のために、産科が崩壊し、社会問題になっています。

>どんなに条件が整っていても、急変から手術開始までに2時間以上はかかってしまいます。

こう、いい切っておられましたが、助産院といっても色々ですよ。
私の友人は、助産院と病院が一緒になったところで、42週最後の日に、助産院で産みました。
先生がそばにいるようなものだから、助産院といっても特殊でしょうけれど、そういう例もあるということで。

救急病棟なんかには、身元も判別しないような交通事故にあった人が飛び込んできて、既往歴も分からぬまま、その場で最も適切な処置、手術を行わなければならないと思うのですが、「手術までに最低でも二時間以上かかる」といった話は聞きません。
身元は判明し、既往歴や妊娠中の経過の書かれたカルテもそろっており、なおかつ助産師が常に異変を察知するべく付き添っており、事前に異常を知らせている状態で、妊産婦が「急変から手術までに最低でも二時間以上」というのはちょっと驚きです。
産科医といっても色々な方がいると思うので、他の方の意見も聞いてみたいと思ってしまいました。

繰り返しになりますが病院といっても、人手不足で急変に対応しきれない場合もあるでしょうし、Drが出払っている場合もあるでしょう。
それらを責めるのではなく、また「でも、うちの病院はいい病院だ」で終わらせるのではなく、国民全体がそういうことまで理解した上で、自分にふさわしい「医療の度合い」を計るべきだと思います。
地域の中で事情に合った方法で最善を尽くすことに異議はありませんが、国民一人一人がまずできることと言ったら、「知ること」と「自分にできる範囲で社会に貢献する意識を持つこと」ではないでしょうか。

 山本モナーさん
>WHOが世界中の文献、実験結果を分析して「助産院は安全だ」と結論を出しましたよ。

 これについて書籍ではなくネット上で検索できるソースを示していただければ、いろいろな方が検討検索できると思います。
 ただオランダについて日本とシステムが違うから、ということですが、オランダはシステムの整った先進国であるのに対して、WHOの対象は全世界であって、いまだに感染症による高い死亡率を呈する発展途上国も含まれています。助産院は安全だ、という結論の「安全性」とはどの水準なのでしょうか。また助産所が安全という根拠となるものをいくつか読みましたが「助産所が比較的低リスクの分娩を扱っていることの修正なく医療介入の程度について産科と比較しているもの」でした。
 アメリカは先進国ですが、医療については後進国です。医療自体を受けられない無保険者がたくさんいますし、受けられるケアも全く違います。アメリカの助産師が医師の要請でできたと聞き、私はとても納得しました。貧困層には医師による医療はもったいないということでしょう。

 モナーさんは、助産師を活用、ということですがどのように活用するのでしょうか。①処方権やエコーなどの検査を認める(用は帝王切開以外すべてできる助産医)として、②従来の保看法に定められた範囲内で、でしょうか。それによって論点も異なってくると思います。

 現実問題として、日本で産科に併設された助産院はどのくらいあるのでしょうか。また産科に併設されていて、産科医が適切に経過を追い、判断しているのならそれはもう助産院とは呼ばないのではないでしょうか。
 そして助産院で扱える分娩数は産科より圧倒的に少ないと聞きましたがいかがでしょうか。妊婦一人一人に、助産師が1:1でつく、ということを全ての分娩においてやって、現在の助産師数でできるのでしょうか。

 医療は限られた資源であり、同時に安全性が最も大切とされるので、分業制で効率化と透明性を高めてきた点があると思います。それについてはどうお考えでしょうか。

 新たに帝王切開のできない助産医をつくるより、現状で医師でなくてもできる仕事を振り分けることで負担が軽減されると思いますが。

 手術まで2時間かかるというのは当然ありえると思います。

 タイムロスについて時間を追って考えてみましょう。

①まずはモナさんが忘れられている「転送」を判断するまでにかかる時間

 現状の教育法で助産師単独で産科医と同程度の迅速で的確な判断ができるとは思いません。そもそも助産は「正常分娩」を扱うのですから。

②転送先を探す時間

 これは併設されていない限り、かなり時間がかかるでしょうね。

③転送時間

④受け入れ先の準備

 簡単に2時間くらいたってしまうのではないでしょうか。

救急外来に身元不明で飛び込んできた人の手術は簡単ですよね。
だって身元不明で、今手術しなきゃ死ぬんだから、とにかくやって、ダメならダメ。あとで見つかった家族も納得するしかないのでは?

助産院である程度分娩が進行していれば、患者およびその家族は「ふつうに生めるつもり」になってますから、まず状況説明が大変です。手術が必要なのに「向こう(病院)でちゃんと生めるから」とだけ聞かされて「手術はイヤだ」と言い張る人を前に泣きたくなったこともあります。
なんで今赤ん坊の状態が悪いのか、なんで出血が続いているのか、搬送もとが病院なら向こうの先生はある程度説明してくれていますが、助産師さんにそこまでの説明は求められません。

助産師さんの妊娠管理能力にもいろいろあるのでしょうが、今現在の状況では「助産院での分娩を選択する」ような方々自体にある一定の問題点があるような気がしてなりません。
もちろん周囲に産科医がなく、選択の余地のないまま助産院を選ぶこともこれからは増加すると思いますので、助産院からの緊急搬送を受ける機会もふえるとは思いますが、助産院との共同勉強会、患者のカンファレンスもしておかなければならなくなるだろうし、ますます産科医の負担はふえていくとしか思えません。

山本モナー・さま、助産院の安全性・さま、suzan・さま

コメントありがとうございます。私どもも、suzan・さまと同じような状況を時々経験します。

急変時に、すばやく緊急手術を行うためには、普段から、患者さん自身に、分娩時に急変は少なからずあり得ること、その際には緊急手術が必要となること、などを説明し、十分に納得していただいておく必要があります。

世の中、いろいろな考え方があり、助産院で産もうと決意していた妊婦さんの場合は、もともと『自然分娩崇拝』の信念が非常に強固の人が多く、中には、かたくなに医療のサポートを拒み続ける方も少なくないと思われます。

母児の状況が急変して、病院に救急車で搬送されて来たような場合でも、妊婦さん御本人には何も状況が説明されてない場合もあり、たとえ、医学的には手術が必要な状況だとしても、その現在の状況、手術の必要性を、患者御本人・御家族に十分に納得していただき、手術承諾書に署名をしていただくまでに、相当な時間と労力を要する場合が多いのは事実です。

患者さん御自身の手術を受ける決意が固まって、手術承諾書に署名していただいて、初めて、手術に必要な問診(家族歴、既往歴、アレルギーの有無、など)、術前検査(血液検査、胸部レントゲン撮影、心電図、など)も実施できますし、手術室の準備や手術スタッフの招集を開始できます。輸血が必要な場合は、輸血の手配、クロスマッチなども必要となります。

搬送に要する時間、診断に要する時間もありますし、母児の急変から手術の開始までに、最低でも、2時間程度はかかってしまうのは確実と思われます。

また、突然そういう救急搬送があれば、その日の外来診療や病棟回診などの日常業務はすべて一時的に中断せざるをえず、産婦人科の業務だけでなく、麻酔科、新生児科など、病院業務の全体に多大な影響がでることも少なくないと思われます。

助産院の安全性さん

>これについて書籍ではなくネット上で検索できるソースを示していただければ、いろいろな方が検討検索できると思います。

と言われても、ネット上にある資料よりはるかに、専門性が高く、また内容も濃密なので、これを読めば、助産院の安全性について詳しいですよ、としか申し上げられません。時間があれば、いつか書き起こしたいですがあいにく、その時間がないのでできません。
はっきり言えば、助産院の安全性さんが、疑問を呈している部分は、全て明快に書いてありますよ。
助産所の安全性に関して論じるなら、是非押さえてほしい一冊です。
ところで

>助産所からの搬送は1割にものぼります。

に関して、ソースは?

>たまたまご本人が助産院で無事に埋めたからと言って一般化してよいのでしょうか。

この失礼な書き込みに対しても、書きっぱなしで終わらせないで、聞いているのだからきちんと答えてください。
話を進めるのはそこからだと思いませんか?

suzanさん

偏った意見をありがとうございます。
私は助産院で産みましたけれど、私自身もまわりの人も、異変があれば病院もやむなし、という気持ちでしたよ。それが普通です。
極端に自然志向の強い病院嫌いの人や、エホバの人達のように死んでも輸血を受けないような人をもってして、「助産院の患者は~」と一般化して話す人と、冷静な議論をするのは難しいでしょうね。
「うちはこんな嫌な患者がいたから、みんながこうに違いない」と言う医者は「私は助産院で産んだからみんなも大丈夫」という論理で話す一般人と同じレベルでしょう。
もう少し、先入観と偏見を捨てて話し合う気はありませんか?
こういう人が多いから、産科医療は崩壊していく一方なのでは?
もう少し、前向きで建設的な考えの方が増えることを望みます。

 山本モナー  さん、こんにちは。

 まず、あなたが日本に於ける助産所の独立開業は安全であると主張されているのであるという点に注意を促したいと思います。

 はっきり申し上げて、拳証責任はあなたにあり、他の人にはありません。

 たとえば、助産所での分娩中の搬送率については、あなたが数字を提出するのがスジというものです。搬送率も知らずに安全性を主張しているとは思えませんから、あなたはお手許に搬送率、搬送後の予後データも当然お持ちの筈です。

 データがないのであれば安全性証明の拳証責任を充分果たされるに足るお立場ではないと思います。如何でしょうか?

 それから、国際比較データについては、背景要因を標準化しないと比較妥当性がないというのは常識だと思いますが、あなたが専門的分析だと主張するWHOデータは、日本国内での助産所の安全性(…ってどのindicaterですか?)の証明には使えません。…まず、多くの国では、何よりも妊産婦死亡率、周産期死亡率、自然死産率が、日本国内よりもケタ1個~2個違うのですから。

管理人さんへ

もう一度整理しましょうか。
管理人さんの書いた

>どんなに条件が整っていても、急変から手術開始までに2時間以上はかかってしまいます。

ということですよね。
この「二時間以上」の計算は、搬送30分の計算ですから、仮に病院内でそれまで正常に経過していた患者が急変した場合でも「手術までに最低一時間半以上かかる」ということなのですよね。(当然、病院内だって、色んな事情を抱えた患者さんがいますよね)
だとしたら、どこで産んでも出産である以上、リスクはある、ということは産む側も家族も頭に入れておくべきですね。
思うに、産科における訴訟が多いのは「病院でさえ産めば絶対に大丈夫」という思い込みがあるからでは。(もうひとつには、人手不足からくる説明不足や、こまやかなケアができないことから来る不信感が大きいでしょうが)
どこで産んでも急変から手術までに一時間半程度の時間はかかるし、ましてや普通の病院だったら、つききりで看ているわけにもいかないし、他で急変がああれば出払ってしまうこともあるわけです。
助産院だろうが病院だろうが、出産における急変は起こりえるのだから(自分であれ、他者であれ)、それにそなえて、必要のない人はできるだけ医者や病院の施設を無駄に(あえて言いますが)わずらわせるべきではないと思います。軽い風邪程度の人間が、大学病院に行って、病院をパンクさせるよりも、地元の町医者などで診察を受けてくれ、ということをよく聞きますが、それと同じ理屈ですね。
忙しい、忙しい、この状況をなんとか打開してくれ、という医者は多くても、このような理論が少ないことに、欺瞞を感じてしまいます。
風邪だって高血圧だって、突然、重篤になったり死んだりする例はありますが、そういう人間に「常に大病院にいろ」と言う人はいませんよね。
何か、あったらすぐに駆けつけてくれ、と言います。
むしろ、そのほうが病院自体がスムーズに機能するので効率的です。
とりあえず、

①助産師がつききりで看ている、病院から15分以内の助産院で

②必要な手術にはすぐ同意するごく普通の患者の場合
(つまりごく普通の助産院の患者ですね)

忙しくて、つききりで看られない病院と尾同じ程度の所要時間だと思われますが、そのへんはいかがでしょうか。

それともう一つ。

>また、突然そういう救急搬送があれば、その日の外来診療や病棟回診などの日常業務はすべて一時的に中断せざるをえず、産婦人科の業務だけでなく、麻酔科、新生児科など、病院業務の全体に多大な影響がでることも少なくないと思われます。

これは病院内の正常な経過をたどっていた患者が急変しても同じことではないんですか?(救急外来の手はわずらわせるかもしれませんが一般外来には及ばないのでは)
私は最近、病院にお世話になりましたが、順番は予約制でしたし、「容態の悪い患者がいた場合はその方を優先する」という断り書きは当然納得して読みました。
それでもスムーズに看ていただき、なんの不満もありませんでした。もし、本来病院の必要のない人が「万が一に備えて」とばかりに押し寄せるような病院だったら、機能しなくて困ってしまいます。

rijinさんへ

それだけこの問題に興味があるのなら、是非ご一読をお奨めいたします。

http://www.web-reborn.com/books/book/whokankokunimiru.htm

とても興味深いですよ。

>国際比較データについては、背景要因を標準化しないと比較妥当


羊水塞栓症による母体死亡例

2007年03月07日 | 出産・育児

コメント(私見):

羊水塞栓症はきわめて稀な疾患で、未だ根本的な治療法が見出されておらず、母児ともにきわめて予後不良な疾患です。周産期医学に残された重要な未解決疾患と考えられています。

典型的な症例では、分娩中または分娩直後に、経過に何の問題もなかった妊婦さんが、突然、心肺停止状態に陥り、院内にいる医師が緊急コールで呼ばれて現場に到着した時点では、既に母体死亡となっている場合も少なくありません。そのため、一次医療機関から高次医療機関に母体搬送するような時間的余裕は全くありません。帝王切開中など、たまたま手術室内などで発症して、発症現場に麻酔科医がいて、発症直後より、蘇生の専門家達によって集中的に治療が行われた場合であっても、重篤例では発症後1時間以内に死亡する場合が少なくないと言われています。羊水塞栓症の確定診断は、死亡後に剖検によって行われます。

羊水塞栓症は、いまだに病因も明らかになっていないため、発症の予知もできませんし、予防方法も明らかになっていません。妊娠すれば、誰でも羊水塞栓症を発症する可能性があります。

なお、前置胎盤で長期に入院していた患者さんが、低置胎盤となって、経腟分娩可能となることは、しばしば経験します。全前置胎盤、部分前置胎盤、辺縁前置胎盤、低置胎盤などの区別は、超音波検査により、内子宮口と胎盤との位置関係で診断されますが、非常に微妙で診断が難しい場合もあり、「前置~低置胎盤」と診断して分娩経過を見る場合も珍しくありません。いずれにしても、前置胎盤が原因で、突然、心肺停止となることはなく、胎盤の位置と羊水塞栓症の発症とは関係がありません。

参考:

羊水塞栓症について

日本産科婦人科学会誌54巻6号N-160、2002年6月

(17)羊水塞栓

【概念】
 羊水塞栓症は羊水成分(羊水,羊水中胎児由来細胞,胎便など)が母体血中に流入し,急性呼吸循環不全をきたす疾患あるいは症候群と定義できるであろう.約6~8 万分娩に1例と非常に稀な疾患であるが,根本的な治療法が見出されておらず母児ともにきわめて予後不良な疾患であり,周産期医学に残された重要な未解決疾患である.わが国の妊産婦死亡率は漸減しているが,羊水塞栓症による妊産婦死亡は減少していないため,妊産婦死亡のなかで羊水塞栓症の占める割合は漸増している.本症の病因は,母体血中に流入した羊水成分が母体肺動脈系を主とする全身の血管系に塞栓し,血流を遮断することによる臓器障害と理解されていた.しかし,物理的塞栓により発症するという考え方だけでは本症の病態を説明できない.種々のサイトカインやケモカインが本症に関与することが示されている.

【臨床症状】
 典型的な臨床経過は, 特に合併症のない妊産婦が分娩第1 期後半あるいは分娩直後に,突然の呼吸困難と胸痛を訴え瞬時にしてチアノーゼを呈しショックに陥り,その後多量の性器出血を伴ったDIC による出血傾向が出現し,そして,多くは意識の回復せぬまま死の転帰をとるというものであろう.初発症状としてよく知られている呼吸困難や胸痛は必発するものでなく,けいれん,血圧低下,出血などで発症することも少なくない.発症後,ショックから心停止と急速に進行する症例は多く,1 時間以内に半数が死亡するといわれ,死亡率は約60~80%に及ぶ.DIC は,40~83%の症例に出現するといわれ,しばしば多量の性器出血を伴い,臨床上問題となる.

【診断】
 羊水塞栓症の診断は,従来,死亡後に剖検で確定されることが多かった.この場合,肺の細動脈や毛細血管に胎児由来の微細物(扁平上皮細胞,毳毛,胎脂,ムチン,胆汁様物質など)が証明される.生存例では簡便で迅速に行える診断法が確立されていなかったため,臨床徴候から本症を疑われるものの確定診断に至らぬ症例があったと考えられる.また,羊水塞栓症以外の妊産婦の母体血から胎児由来の扁平上皮やトロホブラストが証明されると報告されており,羊水の流入があっても急性呼吸循環不全に至らないニアミス症例や全く何も起こらない妊産婦も存在すると想定される.本症の発症に胎児成分の母体血中流入は必要条件であるが,十分条件とはいえなくなった.
 現在考えられうる診断基準を表6 に示した. 突然妊産婦に起こった急性呼吸循環不全,あるいは原因不明の産科DIC をみたなら,まず,本症の疑いをもつことが重要である.本症の診断には母体血中への羊水の流入が証明されなければならないため,そのサンプルとして,母体血を採血しておくことが必要である.従来の病理学的検査法に加えて,血清学的検査法が発表され,生存例においても羊水流入の証明が容易となった.胎児尿由来のコプロポルフィリンや胎便由来の亜鉛コプロポルフィリンおよびSTN(sialyl-Tn)が,母体血中に測定されれば,母体血への羊水の流入が証明される.コプロポルフィリンは,光により分解されるため,血清分離後,暗所で保存する必要がある.STN(sialyl-Tn)は腫瘍マーカーであり,イムノアッセイ法で測定される.また,生存中の羊水流入の診断に,母体血,特に右心血のスメアで胎児成分を証明することは有用であるが,カテーテル挿入の際に高頻度に母体の扁平上皮が混入するといわれその解釈には注意をはらうべきである.

表6 羊水塞栓症の診断基準
1.臨床所見
①急激な低酸素(呼吸困難,チアノーゼ,呼吸停止)
②原因不明の産科DICあるいは多量出血
③上記症状が分娩中,帝王切開時,D&C時,分娩後30 分以内に発生
2.母体への羊水流入の証明
①剖検における肺組織中の羊水成分の証明(扁平上皮,毛毳,胎脂,ムチン,胆汁様物質など;ムチン染色・STN 染色も有用)
②母体血スメアによる羊水成分の証明(できれば右心静脈血;Buffy coat が望ましい)
③母体血中STN(sialyl Tn)高値
④母体血中コプロポルフィリン高値(遮光保存)

【治療】
 羊水塞栓症は病因がいまだ明らかとなっていないため,予知および根本的治療は困難で,低酸素症,ショック,DIC に対する対症的なものにならざるを得ない.治療の目標は低酸素症の改善,心拍出量と血圧の維持,DICの治療である.本症に対する発症早期
の治療を図7 に示す.初期治療が迅速にかつ適切に行われることが肝要である.本症が発症すると肺の換気拡散能の広範な障害のため患者は重篤な低酸素症となるため,高濃度酸素を投与し,さらに患者が呼吸困難を訴えたり,意識が混濁したなら積極的に気管内挿管を行い換気が不十分なら人工呼吸をする.ショックに対して副腎皮質ステロイド(ソルコーテフ,ソルメドロール)やウリナスタチン(ミラクリッド)を静脈内投与し,vital signs を頻回にチェックし,血圧が維持されるように輸液・輸血ならびにドーパミンを点滴静注する.さらに,DICの進展を防止するため速効性のあるヘパリンを静注する.とくに出血増加の副作用が少ない点から低分子ヘパリン(フラグミン)の使用が勧められている.さらに,本症の臨床像の性格から高次医療施設のICU にて管理されるべきと考えられる.初期治療にて不可逆な状態となる前にICU に搬送されたなら,次のような処置をつけ加えるべきである.呼吸管理においては,成人呼吸窮迫症候群(adult respiratory distress syndrome)発症に注意し,残存肺機能を増加させるような人工換気を行う.循環管理はSwan-Ganzカテーテルを留置し,特に左心機能のパラメーターに注意をはらう.急性期の左心不全を乗り切ると救命の可能性がでてくる.肺水腫の出現に注意しながら輸液,輸血を継続し,急性血液浄化療法を試してもよいだろう.

【参考文献】

1.Clark SL, Hankins GDV, Dudley DA, Dildy GA, Flint Porter T. Amniotic fluid embolism : Analysis of the national registry. Am J Obstet Gynecol 1995 ;172 : 1158―1169

2.木村俊雄,高倉賢二,山出一郎,廣瀬雅哉,野田洋一.羊水塞栓症:周産期医学に残された重症未解決疾患.産婦進歩1996 ; 48 : 375―386

3.大井豪一,寺尾俊彦.羊水塞栓症.日産婦誌1998 ; 50 : 666―674

【野田洋一,木村俊雄】

****** 産経新聞、2007年3月6日

女性死亡し、長女は脳障害 高松赤十字病院を遺族が告発

 高松市番町の高松赤十字病院で平成17年に出産のため入院中だった女性=当時(30)=が死亡、生まれた長女に脳障害が出て、カルテも改ざんされたなどとして東京都内に住む女性の兄が昨年4月、主治医らを業務上過失致死傷罪と証拠隠滅の罪で高松北署に刑事告発したことが5日、明らかになった。女性の夫と長女は今後、病院を相手取り、損害賠償を起こすという。病院はカルテの不適切な書き換えは認めているが「誤診はなく、医療行為は適切」としている。

 関係者によると、女性は16年11月、他病院の紹介で高松赤十字病院に来院。主治医は、胎盤が子宮口をふさいで帝王切開が必要となる「全前置胎盤」の疑いがあると診察、同年12月20日には前置胎盤を示す「P」などの文字をカルテに記載した。17年1月4日、出血を訴えた女性を別の医師2人が診察、自然分娩できる「低置胎盤」と診断。2日後の6日、産気づいた女性は入院したが深夜に心肺停止状態となり、7日未明に死亡。帝王切開で長女が生まれたが、脳に障害が残った。

 女性の夫や兄ら遺族は同年1月11日、病院に説明を求めた際、12月20日のカルテをカメラで撮影。「P」と書かれた部分が12日の説明時には「低置-」と書き加えられていた。主治医が加筆した、という。

 遺族は女性が死亡して長女に障害が残ったのは病院が前置胎盤を低置胎盤だと誤診、適切な時期に帝王切開しなかったためとしている。一方、病院は女性の死因について「羊水が血管に入ってできた血栓で起きた『羊水塞栓』と病理解剖で判明している」と主張。また、長女の障害についても「女性の診断結果とは関係がない」と主張している。

(産経新聞、2007年3月6日)

****** 読売新聞、2007年3月5日

高松赤十字病院 「誤診で妊婦死亡」告訴 

遺族近く賠償提訴 死後、カルテ書き換え

 高松市の高松赤十字病院で2005年、出産に備えて入院中だった同市内の女性(当時30歳)が死亡したのは誤診が原因で、死後にカルテも改ざんされたとして、東京都内の遺族が当時の主治医ら医師4人を業務上過失致死容疑で香川県警に告訴していることがわかった。病院は、カルテを書き換えたことは認めているが、「医療行為は適切」としている。遺族は近く、病院側を相手取り、損害賠償請求訴訟を起こす。

 告訴状によると、主治医は04年11月、胎盤が子宮口を完全にふさいでい帝王切開が必要な「全前置胎盤」の疑いと診断。12月20日の検診でも「前置胎盤か」と診断し、カルテに記載した。

 05年1月4日、女性が出血を訴えて受診すると、別の医師2人は自然分娩が可能な「低置胎盤」と診断。2日後、女性は病室で心肺停止状態で発見され、帝王切開で生まれた女児は脳に障害が残った。

 遺族は1月11日、病院に説明を求め、12月20日の検診時のカルテをカメラで撮影。「前置胎盤か」とあったのに、翌12日に見ると、低置胎盤の疑いがあるように書き換えられていた。遺族は、医師らが低置胎盤と誤診し、適切な時期に帝王切開をすべき義務を怠ったと指摘、主治医については「死後に過失を隠蔽するため、カルテを改ざんしたのは許せない」としている。

 病院は、病理解剖の結果、死因は羊水が血管に入ってできた血栓で肺の血管などがつまる「羊水塞栓」と説明。「訂正の仕方は日付を書いてないなど不適切だったが、病院としては低置胎盤と判断している。改ざんではない」としている。

(読売新聞、2007年3月5日)


帝王切開賠償訴訟、市に1億4300万円支払い命令 (読売新聞)

2007年03月01日 | 出産・育児

コメント(私見):

脳性麻痺(メルクマニュアル医学百科)

脳性麻痺(gooヘルスケア)

脳性麻痺の発生率は、新生児1000人あたり2~4人と言われています。

近年の著しい産科的技術の向上にもかかわらず、脳性麻痺の発生率は減っていません。 脳性麻痺の発生頻度は、将来も決して減らないと思います。

たいていの場合、脳性麻痺の原因は特定できません。胎児の発達中に低酸素症に対し弱くなる何らかの要因があると考えられています。未熟児では脳性麻痺の発生率が高くなります。胎児期・幼児期早期における脳炎、髄膜炎、単純ヘルペス感染症、硬膜下血腫を来たす頭部外傷、血管の障害、その他多くの原因による脳損傷の結果として、脳性麻痺が発生すると考えられています。

脳性麻痺は、どの産科施設の分娩であっても、一定の頻度で必ず発生します。ハイリスク妊娠や未熟児の分娩を多く扱っている2次・3次病院であれば、1次病院と比べて、脳性麻痺の発生率は高くなります。

*** 日本産科婦人科学会誌57巻4号より

【脳性麻痺と新生児脳症】
 頻度は1/500~1,000出生。産科医療の進歩にかかわらず、その頻度は減少していない。脳性麻痺の内、分娩が原因である頻度は15%前後と考えられており、米国産婦人科学会と米国小児科学会は2003年「脳性麻痺の原因としての分娩中の急性低酸素症の診断基準」を示した。一方、我が国の脳性麻痺訴訟においては分娩が原因であり医師の過失を指摘する判決が約80%であるといわれ、その高額損害賠償額と共に重大な問題である。

脳性麻痺の原因としての分娩中の急性低酸素症の診断基準【米国産婦人科学会、米国小児科学会、2003】

1.1:基本的診断基準(4 項目すべて必要)

 1.臍帯動脈血中に代謝性アシドーシスの所見が認められること(pH<7 かつ不足塩基量≧12mmol/l)
 2.34週以降の出生早期にみられる中等ないし重症の新生児脳症
 3.痙性四肢麻痺型およびジスキネジア型脳症
 4.外傷,凝固系異常,感染,遺伝的疾患などの病因が除外されること

1.2:分娩中に脳性麻痺が発生したことを総合的にうかがわせる診断基準

 1.分娩直前または分娩中に急性低酸素状態を示す事象が起こっていること
 2.胎児心拍モニター上,特に異常のなかった症例で,通常,前兆となるような低酸素状況に引き続き,突発性で持続性の胎児徐脈または心拍細変動の消失が頻発する遅発性または変動制徐脈を伴っている場合
 3.5分以降のApgar スコアが0~3点
 4.複数の臓器機能障害の徴候が出生後72時間以内に観察されること
 5.出生後早期の画像診断にて,急性で非限局性の脳の異常を認めること

(以上、日本産科婦人科学会誌57巻4号より

****** 読売新聞、2007年2月28日

帝王切開賠償訴訟、市に1億4300万円支払い命令

 神奈川県大和市立病院で1997年、帝王切開が遅れたため重い後遺症が残ったとして、東京都内の養護学校4年の男子児童(10)と両親が、市に介護費用や慰謝料など約1億9200万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が28日、横浜地裁であった。

 三木勇次裁判長は「(帝王切開は)遅きに失し、後遺症との因果関係が認められる」と述べ、市に約1億4300万円の支払いを命じた。

 判決によると、男児の母親(35)は97年2月24日、陣痛が起きて入院した。胎児に心拍数の低下などの異常があったことから、病院は帝王切開を決めたが、手術決定から出産まで約1時間20分かかり、男児は仮死状態で生まれて低酸素脳症となり、四肢がマヒする重度の障害が残った。

 三木裁判長は「心拍数が低下した時点で、病院は帝王切開の準備をする義務があったが、怠った。夜間、麻酔科医らが常駐しておらず、医師を呼び出すなど出産まで1時間以上かかった」と指摘した。

 大宮東生・院長は記者会見で、「可能な限り適切な処置を行っており、過失はない。後遺症との因果関係もない」と話し、市として控訴する方針を明らかにした。

(読売新聞、2007年2月28日)

****** 毎日新聞、2007年3月1日

大和市立病院損賠訴訟:出産後に障害、市に1億4250万円命令--地裁 /神奈川

 ◇担当医の過失認める

 大和市立病院(大和市深見西)で97年に仮死状態で生まれた男児(10)=東京都町田市=が手足のまひなど重い障害を負ったのは、同病院の担当医師が適切な時期に帝王切開しなかったためとして、男児と両親が大和市を相手取り損害賠償を求めていた訴訟で、横浜地裁は28日、同市に計約1億4250万円の支払いを命じる判決を言い渡した。三木勇次裁判長は「担当医は速やかに帝王切開の準備を始めなかった」と過失を認めた。

 判決によると、母親は97年2月24日午後9時ごろ、胎児の心拍数が一時的に低下する症状が表れ始め、同40分にも再発したため担当医師が帝王切開を決定。午後11時ごろ、帝王切開で男児が生まれたが、手足のまひや発達遅滞の後遺症が出た。

 三木裁判長は「午後9時ごろには既に胎児の心拍数が一時的に低下する症状がみられ、帝王切開の準備を始めるべきだった」と指摘。さらに「帝王切開決定から実施まで約1時間16分要し、遅きに失した」と述べた。【伊藤直孝】

 ◇大宮院長が控訴の意向

 大和市立病院の大宮東生院長は記者会見して「障害を負っていることは誠に残念だが、可能な限り適切な処置を行った。過失は無く、脳性まひとの因果関係もない」と述べ、控訴する意向を示した。【長真一】

(毎日新聞、2007年3月1日)

****** 朝日新聞、2007年3月1日

大和市に賠償命令 地裁判決

 大和市立病院で97年2月、仮死状態で生まれた男児(10)が重い障害を負ったのは、医師の判断ミスで帝王切開が遅れたためだとして、東京都に住む男児と両親が大和市に約1億9200万円の賠償を求めた訴訟で、横浜地裁は28日、市に約1億4200万円の支払いを命じた。三木勇次裁判長は「早期に帝王切開をしていれば、障害を発生させなかった」と述べた。市は控訴する方針。【岩波精、渡辺丘】

 判決は、男児の心拍数が低下した時点で、医師は帝王切開の準備に着手すべき義務があったのに怠ったと認定した。その後も、速やかに帝王切開をして男児を娩出(べんしゅつ)させなかった過失があるとした。

 判決によると、当時は夜間だったため、病院に麻酔科医や手術室看護師は常駐していなかった。医師が帝王切開を決めてから麻酔科医らを呼び出すなどの準備作業に取りかかったため、娩出までに時間がかかったと三木裁判長は指摘した。

 市は「娩出までの所要時間は夜間としては平均的で、他の一般病院でも同様だ」と主張していたが、三木裁判長は「遅きに失した。危険な状態と判断される際には、速やかに帝王切開に着手できるよう準備しておくべきだった」と述べ、市の主張を退けた。

 また、男児の状態についても「緊急の帝王切開をすべき所見が現れており、緊急性がなかったとは言えない」と指摘した。

 その上で三木裁判長は、男児は母体内で低酸素状態になっていたのに、医師が速やかに娩出しなかったため低酸素脳症が引き起こされ、手足のまひやてんかん、発達遅滞などの重い障害が残ったと結論づけた。

 判決を受けて、市立病院の大宮東生院長は記者会見し、「胎児の心拍数に緊急性を示す異常は見られなかった。分娩(ぶんべん)管理に問題はなかったと考える」と述べ、近く東京高裁に控訴する方針を示した。

(朝日新聞、2007年3月1日)


出産時事故:患者に「無過失補償」導入へ 民間保険を活用 (毎日新聞)

2006年11月17日 | 出産・育児

コメント(私見):

脳性麻痺に関する「無過失補償制度」(医師の過失がなくても妊婦が補償を受けられる制度)を早急に創設すべきという主張に反対する者はいないと思いますが、その保険料を、公的負担にすべきか、患者負担にすべきか、医師(病院)負担にすべきか、について盛んに議論されてきました。

今回の報道によれば、『現在、35万円の出産育児一時金を2~3万円増額して分娩料を増額しやすくして、医師の保険料負担による民間保険で、脳性麻痺に関し「無過失補償制度」を2007年度中に創設する方針が固まった』ようです。

脳性麻痺は、分娩管理が進歩した現代であっても、一定の頻度(新生児千人に2~4人)で必ず発生します。ですから、単に確率の問題でどの妊婦にも同様に発生しうるわけですから、たまたま分娩に立ち会った医師の責任に帰する問題ではなく、本来は、患者負担(または公的負担)による「無過失補償制度」で救済すべき問題と考えられます。

****** 毎日新聞、2006年11月17日

出産時事故:患者に「無過失補償」導入へ 民間保険を活用

 政府・与党は17日、新生児が脳性まひで生まれてくるなど出産時の事故に関し、医師の過失を立証できなくとも患者に金銭補償する「無過失補償」制度を、07年度に創設する方針を固めた。民間保険を活用、保険料負担は医師に求めるが、負担増対策として健康保険から支払う、現在35万円の出産育児一時金を2~3万円増額する。新生児1人につき2000万~3000万円の一時金を補償する方向で調整する。

 財源に関し、日本医師会は税負担を求めているが、与党は「国が直接かかわる話ではない」として、親に支払う出産育児一時金を活用することにした。一時金を増やせば、やがて出産費がアップし、その分医師の収入増につながるため、医師に保険料を負担してもらう構想だ。

 民間保険会社に新たに「無過失補償」の商品を企画してもらい、産科医が任意加入する形をとる。保険料の決め方などの詳細は今後詰める。先天性異常の場合は、補償対象としない。将来的には、自動車損害賠償責任保険のような強制加入の制度に移行することを想定している。

 政府は、出産育児一時金を37万円にアップすれば、医師全体で約200億円程度の増収となり、事故一件につき2000万円の補償が可能になるとみている。政府は補償金に税投入はしないが、民間保険会社の支払い審査、原因分析といった事務費の半額、数億円を「少子化・医師不足対策」名目で税負担する。

 医療事故に絡む民事訴訟件数は年々増えており、04年は1110件と10年前に比べ倍増している。なかでも産科(143件)は、件数こそ内科などに次ぐ4位だが、医師1000人当たりでは11.8件と最も多い。このことが産科医のなり手不足を招いている、との指摘がある。無過失補償をすることで、被害者の救済に加え、医師不足対策にもなるというのが政府・与党の判断だ。【吉田啓志】

(毎日新聞、2006年11月17日)

****** 参考

「無過失補償制度」の産科医療への導入について

日医が「分娩に関連する脳性麻痺に対する障害補償制度」の制度化に関するプロジェクト委員会を設置

「分娩に関連する脳性麻痺に対する障害補償制度」の制度化を提言(日本医師会)

医療ADR(裁判外紛争解決)について

医療不審死、究明機関設置へ(読売新聞)

出産時の医療事故、過失立証なくても補償…政府検討へ(読売新聞)

産科における無過失補償制度の創設

お産の事故に「保険」制度 産科医不足解消ねらい厚労省


産科医不在地域 妊婦の宿泊・交通費に補助金 (産経新聞)

2006年10月30日 | 出産・育児

コメント(私見)

基幹病院に勤務する産科医が著減し、日本全国で産科空白地帯が広がっています。もはや、近くの病院にこだわるほど産科勤務医は残ってません。

産科空白地域となってしまった医療圏では、妊産婦が遠方の医療機関を利用せざるを得ません。交通の便の悪い地域では、出産が近づいたら、医療機関近くのホテルなどを利用せざるを得ない場合もあり得ます。厚生労働省は、その際の宿泊費や交通費を助成する制度を新設する方針を決めたとの報道です。

****** 産経新聞、2006年10月29日

産科医不在地域 妊婦の宿泊・交通費に補助金

 厚生労働省は28日、少子化対策の一環として、近くに産婦人科がなく、遠方の医療機関を利用せざるを得ない妊産婦が、出産が近づいて医療機関近くのホテルなどを利用する際の宿泊費や交通費を助成する制度を新設する方針を決めた。地方自治体との共同事業で、負担率や助成対象などは自治体が設定、国は最大半額を負担する。

 助成制度は妊産婦の精神的、経済的な負担を軽減するのが目的。

 モデルとなったのは、常勤の産婦人科医が不在となった島根・隠岐の島町の隠岐広域連合が、緊急措置として、予定日から4週間以内の妊婦を対象に実施したケース。隠岐広域連合では、松江・出雲両市に月ぎめアパートなどを確保し、妊産婦に無料で提供、交通費を本人1万5000円、家族1人につき1万円(最大3人まで)、滞在雑費などを負担している。

 同省では、隠岐広域連合の取り組みを評価し、全国的な離島対策とした制度を新設するため、平成19年度予算で、3000万円を要求していた。

 しかし、これでは、山間部など最寄りの医療機関まで1時間以上かかるような「無医地区」の住民は利用できず、与党の一部から「少子化対策事業」として、充実を図るよう求める声が続出。同省は、対象範囲を離島に限らない制度にすることをめざし、追加要求することにした。

 近くに産婦人科があるにもかかわらず、遠方の医療機関を選んで出産する場合は認めない。一方、妊婦本人だけでなく、付き添いの家族の宿泊費や交通費は補助対象に加える。

 こうしたガイドラインを策定し、それに沿って各自治体が(1)補助の割合(2)宿泊代・交通費などに上限を設けるかどうか(3)出産予定日の何日前からの宿泊を補助対象とするか-などの具体的な利用基準を決める。そのうえで、国が最大半額を負担し、残りは都道府県と自治体が負担する。

(産経新聞、2006年10月29日)


夜学で助産師資格の取得 (厚労省方針)

2006年10月28日 | 出産・育児

全国的に4年制看護大学の中で助産教育を行うようになって、各地で助産師養成校の多くが閉鎖されました。つまり、従来は看護師教育を受けたことが助産師養成校への入学条件であったのに、助産教育の中心が4年制看護大学にシフトされたことに伴って、従来からの助産師養成校の多くが閉鎖されてしまい、看護師から助産師に転身する道がほとんど閉ざされてしまいました。

昭和61年には全国に80校あった助産師学校および短大専攻科が、平成16年には33校と激減し、しかも47都道府県中23県にしか設置されていません。

現実の出産の現場で助産師数が圧倒的に不足しているのに、現場で経験を積んだ看護師が助産師に転身しようとしても、道がほとんど閉ざされてしまっている現在の状況には大きな問題があります。

そこで、厚生労働省は、産科の看護師が働きながら助産師の資格を取れるよう、夜間の助産師学校を全国に整備する方針を決めたとの報道です。

****** 中日新聞、2006年10月28日

夜学で助産師資格 看護師向け厚労省方針

 厚生労働省は産科の看護師が働きながら助産師の資格を取れるよう、夜間の助産師学校を全国に整備する方針を決めた。看護師による無資格助産をめぐって現場が混乱する中、速やかに助産師の数を確保し、安心して産める環境づくりにつなげたい考えだ。

 同省は2002年、分娩の進行具合をみる「内診」は医師か助産師しかできない「助産行為」に当たるとの解釈を示した。このため、助産師不足で看護師が内診をしていた診療所や中小病院に深刻な影響が生じ、日本産婦人科医会などは看護師の内診を認めるよう強く要望。こうした中、今月18日には愛知県豊橋市の産婦人科院長や看護師らが保健師助産師看護師法違反(無資格助産)容疑で同県警から書類送検される事態も起きている。

 現在の助産師学校はいずれも全日制で、現役の看護師が通うには休職するか退職するしかない。このため、各地の医師会立看護学校を活用し、新たに平日午後6時から9時までの助産師養成コースを設定。1年間で国家試験の受験資格が得られるカリキュラムとする。

(以下略)

(中日新聞、2006年10月28日)


不足補う現実的視野持て

2006年10月09日 | 出産・育児

分娩が正常に経過している間の分娩介助は助産師が主役であるのは当然だと思いますが、正常分娩は分娩が終了した時点で初めて言えることであって、正常に経過していた分娩の途中で突然異常が発生することはいくらでもあります。

分娩が始まる前に、正常分娩と異常分娩とを分けることは絶対に不可能で、どの妊婦さんにも異常は発生し得ます。例えば、常位胎盤早期剥離、羊水塞栓症、肩甲難産、分娩時大出血、重症胎児仮死など、産科疾患の多くは発症の直前まで全く何の兆候もなく、突如として発症することが多く、いったん発症すれば、発症直後からの大勢の専門スタッフによる分単位の緊急対応が必要となります。異常が発生してから、あわてて救急車で病院に搬送するような体制では大切な母児の命を助けられない場合も少なくないと思います。

異常が発生した時点で直ちに迅速かつ適切な対応ができる産科医のバックアップ体制が絶対に必要です。すなわち、助産師と産科医、新生児科医、麻酔科医などが、チームとして、しっかりと協力体制を組んでこそ、初めて安全でいいお産ができると思います。また、異常が起こった際には、直ちに基幹病院に母児を搬送する施設間の連携・緊急患者搬送システムの整備が重要です。

助産師と産科医とで、お産の取り扱いの主導権争いをしているような場合ではないと思います。

****** 朝日新聞、2006年10月2日

不足補う現実的視野持て

北川浩明 虎ノ門病院産婦人科部長

 お産(妊娠分娩)では、正常に経過していても母児の生命を守るために緊急的な処置を必要とすることが珍しくなく、安全性の確保が最も優先される。加えて自然な営みであるが故に、妊産婦さんが満足感を得られるよう助産的な支援を行うことも同じく大切だ。

 わが国のお産は、1950年には4千人以上もいた妊産婦の死亡が04年には49人にまで減少した。しかし、これまで安全性を維持してきた病院・開業診療所・助産所の連携システムが、「看護師内診問題」を契機に助産師のいない診療所でのお産ができなくなろうとして崩壊しつつある。

 「内診」を厳格に助産行為ととらえたために産科医療の現場が混乱して、妊産婦さんからの信頼が揺らぐ事態となったことは遺憾だ。医師、助産師、看護師の3者はよりよいお産を目指して努力してきたパートナーではなかったか。

 「助産」の範囲を決定することも必要だろうが、医師の立場からすれば、そこに厳格に線引きをするのは、「理想」を追い求め過ぎていると感じる。それよりも必要なのは現場で求められている問題の可決で、不足している助産師をどう増やしていくかの施策だ。

 ところが現状は、助産師学校や短大の専攻科の数は減って、看護師が助産師資格を得る道は非常にけわしくなっている。また、4年制看護大学は増えたものの助産課程の定員は少なく、わずか半年程度の教育期間では、十分な専門性を学ぶことはできない。

 不足しているのは産科医も同様だ。厚生労働省はこれに対処するため、地域の中心病院に産科医を集める「集約化」を打ち出した。現実的な施策ともみえるが、安全なお産のために自宅から遠方の医療施設に入れば生活は中断され、夫のお産立ち会いは難しく、子どもには母親のいない生活を強いることになる。それが望ましいとは思えない。

 「安全で安心、満足のいくお産」は、少子化対策としても、健全な家族の形成の上でも重要な課題だ。その実現には、地域での周産期センター・総合病院・開業診療所・助産所間のネットワーク作りが必要と考える。それには「看護師内診問題」に時とエネルギーを費やすのではなく、医師や助産師、看護師の「ひと」の増員、病院や診療所の「もの」の整備、そのための「カネ」の問題を解決していかなければならない。

 いま緊急の課題として、将来の国造りのための施策が問われている。国家的な戦略ができて初めて、産科に従事しようとする医師も増えるであろう。

(朝日新聞、2006年10月2日)


お産の事故に「保険」制度 産科医不足解消ねらい厚労省

2006年10月02日 | 出産・育児

****** 朝日新聞、2006年9月28日

 厚生労働省は、出産に伴う医療事故の被害者を救済する制度の創設に乗り出した。「無過失補償制度」といい、産科医の過失が認められなくても、障害を負った赤ちゃんや親に補償金が支払われる「保険」だ。過酷な勤務や訴訟リスクなどから進む深刻な産科医不足を解消する狙いもある。日本医師会も制度導入を訴えているが、補償の財源をめぐる考え方などに同省と日医との間に隔たりがあり、実現までには曲折もありそうだ。

 厚労省研究班の調査によると、出生数2000人あたり1人以上に脳性まひが発生している。医療事故には、日医の医師賠償責任保険などがすでにあるが、適用には医師の過失認定が必要。民事訴訟で争うと長期間かかるうえ、認定されれば賠償額が数億円に及ぶこともあり、産科医のなり手が不足する一因と言われている。最高裁のまとめでは、産婦人科医1000人あたりの04年度の医療事故訴訟件数は11.8件。次に多い外科は9.8件、内科の3.7件などと比べ圧倒的に多い。

 厚労省によると、医療機関に勤める医師の数は毎年3、4000人増えているが、産科と産婦人科の医師数は約1万600人(04年)で、10年前より約800人減った。

 そこで、厚労省は、産科医不足解消の「切り札」として、補償制度の創設を目指すことにした。年内に制度の大枠をつくる方針で、自民党と協議に入った。

 この制度では、日医が8月、独自案を作成。体重2200グラム以上、34週以上で生まれ、出産時の脳性まひで障害1~2級と診断された赤ちゃんを救済する。生後5年までに一時金2000万円を支払い、その後の介護費用などを年金形式で支給する内容。財源は、脳性まひの発生数などから年間60億円と算定し、制度を維持するには公費支出が不可欠としている。

 これに対し、厚労省は公費支出には否定的だ。「医療行為はあくまで医師と患者との民間契約」(同省幹部)との立場で、医療機関中心の負担を検討している。このほか、救済対象を重度の脳性まひに限定するのか、制度運営をだれに任せるのか、他の障害者への補償制度とのすみ分け、などを詰めている。

 同省研究班の04年度の試算によると、救済対象を軽症の脳性まひまで広げ、民事訴訟の補償額を参考に算定すると、必要な財源は年間約360億円。産科医が出産1件につき2万円の掛け金を負担し約220億円を工面、残り約140億円を公的補助などでまかなえば運営できるとした。

 研究班の岡井崇・昭和大教授(産婦人科学)は「きちんとした制度をつくらないと、絵に描いた餅になり、元通り民事訴訟による解決に頼らざるを得なくなる」として、性急な制度創設の動きを批判。慎重な議論が必要だと訴えている。

(朝日新聞、2006年9月28日)

参考:

産科における無過失補償制度の創設

出産時の医療事故、過失立証なくても補償…政府検討へ(読売新聞)

医療不審死、究明機関設置へ(読売新聞)

「分娩に関連する脳性麻痺に対する障害補償制度」の制度化を提言(日本医師会)

医療ADR(裁判外紛争解決)について

日医が「分娩に関連する脳性麻痺に対する障害補償制度」の制度化に関するプロジェクト委員会を設置

「無過失補償制度」の産科医療への導入について


常位胎盤早期剥離による児死亡

2006年09月20日 | 出産・育児

通常、胎盤は児娩出後に自然に子宮から剥がれてきます。ところが、常位胎盤早期剥離という病気では、まだ胎児が子宮の中にいるのに胎盤が子宮から剥がれてしまいます。

胎盤が子宮から剥がれると、胎児への酸素の供給は突然ストップしてしまいます。剥がれる面積が小さいうちは胎児は何とか生きていますが低酸素のため弱ってきます。広い範囲で剥がれると胎児死亡となります。 発症直後に胎児死亡となる例もめずらしくありません。胎盤後血腫のために母体の血液の状態が変化してDICという状態になると、血が止まらなくなり、出血のために母体の生命が奪われることもあります。

常位胎盤早期剥離は全妊娠の0.44~1.33%程度に発症し、母体死亡率は4~10%、児死亡率は30~50%と言われています。自宅で発症した場合や他院からの母体搬送例では、来院時にすでに胎児死亡となっている場合が非常に多いです。

この病気で児が助かるかどうかは全くの偶発性に依存しており、手術の主な目的は母体の救命にあると考えています。

常位胎盤早期剥離がどの妊婦さんにいつ発症するかは全く予測できません。早急に無過失補償制度を整備する必要があると考えられます。


帝王切開、なぜ増える 20年で1.6倍に

2006年09月18日 | 出産・育児

骨盤位、前置胎盤、常位胎盤早期剥離、胎児ジストレス、回旋異常、児頭骨盤不均衡、分娩停止、前回帝王切開、子宮破裂、などなど様々な理由で帝王切開が行われている。

骨盤位、出血が始まる前の前置胎盤、前回帝王切開などの場合は、陣痛が始まる前に予定で選択的帝王切開が行われる。

常位胎盤早期剥離、子宮破裂、前置胎盤で大量の出血が始まった場合、胎児ジストレス、回旋異常による分娩停止などの場合は、予定外の緊急帝王切開が行われる。

特に、常位胎盤早期剥離や子宮破裂などの場合は、全く予期せずに突然発症し、発症後30分以内(できれば十数分以内)に帝王切開で児を娩出しなければならないし、出生直後より新生児科医による児の蘇生処置が必要となる。母体もきわめて危険な状況となるため、麻酔科医による全身麻酔による管理が絶対に必要となる。

また、分娩経過中に、子宮破裂、癒着胎盤などによる大量出血が始まった場合には、母体の救命のために、緊急大量輸血、全身麻酔下の緊急子宮摘出手術なども必要となる。

従って、産科病棟では、24時間365日、いつでもただちに帝王切開や子宮摘出手術などが実施できるように、常に緊急手術スタンバイ状態を維持していなければならない。産婦人科医、小児科医、麻酔科医が院内に常駐していることが望ましい。さらに、いつでも大量の輸血が可能であることが望ましい。

しかし、産婦人科医、小児科医、麻酔科医は、どこでも不足しており、これらの条件を満たすことができる施設は未だに数少ないのが現状と考えられる。今後、各医療圏において十分に協議し、安全で安心できる分娩環境を、段階的に整備してゆく必要がある。

****** 朝日新聞、2006年9月18日

帝王切開、なぜ増える 20年で1.6倍に

 秋篠宮妃紀子さまが6日、帝王切開で悠仁(ひさひと)さまを出産した。厚生労働省の抽出調査に基づく推計では、この20年あまりで国内の帝王切開件数は約1.6倍に増えた。全体のお産数は約2割減っており、帝王切開が占める割合は7%から15%に上がった。背景には、初産の高齢化でリスクの高いお産が増える一方、経膣分娩(いわゆる自然分娩)での予期せぬ事態を避けたい医療者側の思惑があるようだ。

(中略)

 帝王切開には、紀子さまのように母子の状態によって計画的に行う場合と、経膣分娩に時間がかかりすぎるなどして急きょ行われる場合がある。母親の意識を残す局所麻酔が多く、最近は術後の見た目を考えて、おなかを横に10センチほど切るケースが増えている。入院は10日から2週間程度。5日ほどで退院する経膣分娩よりは長くかかる。

 部分前置胎盤や骨盤位(逆子)、以前に帝王切開で出産している場合の判断は、医師によって異なる。

 聖路加国際病院(東京都中央区)では、入院が長くなる、出血が多ければ輸血が必要、次のお産も帝王切開になる率が高まるといったリスクを説明するが、それでも帝王切開を希望する母親が増えているという。

 厚労省のデータによると、02年は国内のお産の約15%が帝王切開だ。元愛育病院長で主婦会館クリニック(東京都千代田区)所長の堀口貞夫さんは「6~7人に1人のお母さんはおなかに傷がある。ちょっと異常な事態」と心配する。

 高齢出産などリスクの高いお産が増えているのも事実だが、お産をめぐる医療訴訟の増加や、産科医やお産を扱う医療機関の減少で不確定要素が多い経膣分娩を避ける傾向が強くなっていることも原因だという。米国立保険統計センターの統計(03年)によると、訴訟社会米国での帝王切開率は27.5%に達している。

 麻酔など医療技術の進歩で帝王切開の安全性は確実に増した。帝王切開は「管理できるお産」という考えは、医師だけでなく、親の側でも増えている。「裁判で『帝王切開をしていれば事故は防げた』という判例が増えれば、経膣分娩を怖がる医師がいても一概に責められない」と堀口さん。

 日赤医療センター(東京都渋谷区)の杉本充弘産科部長は「逆子の経膣分娩などは医師に経験と技量が必要だ。お産が減り、熟達した医師が減って、お産の現場での医師教育も出来なくなっている」と指摘する。

 「増加は好ましくないが、必要なケースもある。その場合、お母さんの心に傷を残さないことが重要」と杉本さんはいう。同センターでは、母子に危険が無ければ、帝王切開で取り上げた赤ちゃんはすぐに母親に抱かせる。夫が手術に立ち会うこともできる。杉本さんが担当する帝王切開の8割は夫立ち会いという。「帝王切開は第二の産道。ただ安全なだけでなく、よりよい帝王切開をする責任が医療側にもある」

(以下略)

(朝日新聞、2006年9月18日)


横浜・堀病院事件、捜査批判に県警が異例の反論 (読売新聞)

2006年09月07日 | 出産・育児

コメント(私見):

日本のお産の47%は診療所(病床数19以下)で扱われていますが、診療所の半数近くは助産師がいないか一人しかいないのが現実です。新卒の助産師で診療所に就職するのは2%で、助産師全体の八割が病院(病床数20以上)に集中しています。

多くの実際の医療現場で助産師が圧倒的に不足しており、助産師が現実の出産現場に対応しきれてない以上、現在ある戦力をいかに有効に使って、この危機を乗り切ってゆくのか?を社会全体で考えていく必要があると思います。

ただでさえ、診療所の先生方が次々に分娩取り扱いを中止している影響で、地域基幹病院へ分娩が集中しパンク寸前で対応に苦慮していたところに、この問題を契機に残りの診療所の先生方がなだれ現象的に一気に分娩を中止するような事態になれば、地域基幹病院側もとても対応しきれません。時代は移り変り、世の中の仕組みもどんどん変化してゆくのは仕方がないとしても、理想の実現のためには準備期間が絶対に必要だと思います。

****** 参考:

無資格内診事件 激務の産科に打撃(中日新聞)

お産難民 助産師が足りない 人材、大病院に集中(東京新聞)

****** 読売新聞、2006年9月6日

横浜・堀病院事件、捜査批判に県警が異例の反論

 横浜市瀬谷区の堀病院で無資格の看護師らが助産行為をしていたとされる事件で、日本産婦人科医会などが神奈川県警の強制捜査を批判していることについて、井上美昭・県警本部長は6日の定例記者会見で、「不当と言われるいわれはない。関係機関の法的な解釈を事前に照会したうえ、厳正に捜査している」と異例の反論をした。

 県警は8月24日、保健師助産師看護師法違反の疑いで堀病院を家宅捜索。

 日本産婦人科医会と日本産科婦人科学会は9月1日に見解を公表し、「大がかりな捜査は極めて不当。産婦人科医療の現場に深刻な打撃を与えた」と批判。

 県産科婦人科医会も「堀病院を全面的に支援する」と表明している。

(読売新聞、2006年9月6日)

****** 読売新聞(川崎版より)

無資格助産行為捜査批判に反論  「法的解釈踏まえ捜査」  県警本部長「不当のいわれない」

 横浜市瀬谷区の堀病院への捜査批判が医療関係者 の間からあがっていることに、井上美昭・県警本部 長が6日、正面から反論した。捜査中の個別の事件について、県警幹部が反論するのは異例。「不当」などといわれる筋合いではないという立場を、明確に した。

 井上県警本部長の一問一 答は次の通り。

--掘病院への家宅捜査について、日本産婦人科医 会など医師側から「捜査が 不当」という声があるが。

法的な手続きに従って、 厳正に捜査を進めていきた い。「不当」という指標は、 いかがかなあという感じは 持っている。ただ捜査中なので、どこがどうなんだ、ということは控えたい。感想と しては、そういうふうに言われるいわれはないと思っている。

--法律解釈に議論がある時点での家宅捜査に反発 があるが。

被害の申告がなされ、当然、捜査をする責務がある。 こういう捜査をする場合、 関係機関の法的な解釈ということについても、事前に照会している。そういうことを踏まえ、非常に慎重に捜査をしていた。

--結果として医療界に大きな影響をおよぼしているが。

関係機関、行政、医師会が事実を踏まえ、議論して、対策を取ることが大事なのではないか。県警が投げかけた事案を受け止めていただければ、ありがたい。むしろ今回の事案を経験し国民にとっていい方向に関係機関が進めていくことがだいじなこと。粛々と捜査を進めていく。

(読売新聞、川崎版より)

****** 毎日新聞、2006年9月6日

問われる「日本一」:堀病院・無資格助産事件 県産科婦人科医会が県警批判 /神奈川

 県警捜査を批判 日産婦と認識にズレも--見解公表

 横浜市瀬谷区の産婦人科病院「堀病院」の無資格助産事件で、県産科婦人科医会(八十島唯一会長)は「強い遺憾の意を表明する。堀病院への全面的支援を表明する」と県警の捜査を批判する見解を公表した。

 八十島会長によると、同医会は8月30日、医会事務局で約1時間半にわたり堀健一院長から聞き取り調査した。見解は4日付で、県警が先月24日、同病院を保健師助産師看護師法違反容疑で家宅捜索したことについて、「異常な捜査および大々的報道は、現在、既に分娩(ぶんべん)受け入れが限界を超えている県内の分娩医療機関に深刻な影響を及ぼしている」とした。

 また、堀病院における看護師らの内診(産道に手を入れてお産の進行状況を診ること)については「分娩経過の全体を医師が把握しつつ、十分な経験がある看護師が観察」しているとし、「観察は担当医が補助情報として利用する範囲内で、現行法に背反するものではないと確信している」として、保助看法で規定する「助産行為」ではなく、看護師にも認められた「診療の補助行為」であるとの見解を示した。

 日本産婦人科医会(日産婦)は陣痛開始から子宮口全開までの分娩第1期の内診は看護師にも認めるよう主張しているが、同病院で行われていたとされる出産直前(分娩第2期)の看護師らによる内診は1日の記者会見で「やってはいけないこと」(清川尚副会長)と否定している。日産婦との認識のズレについて八十島会長は「分娩第1期と2期は明確に線引きできないケースもある。医師の監視下であれば、流れの中で(分娩第2期に)看護師らが内診するのは致し方ないと考えている」と話す。【伊藤直孝】

(毎日新聞、2006年9月6日)

****** 毎日新聞、2006年9月7日

問われる「日本一」:堀病院・無資格助産事件 県警本部長が反論 /神奈川

 「厳正に捜査中」--県産科婦人科医会の批判に

 横浜市瀬谷区の産婦人科病院「堀病院」が保健師助産師看護師法違反(無資格助産)容疑で県警の家宅捜索を受けた事件で、県産科婦人科医会(八十島唯一会長)などが捜査批判を展開していることに、井上美昭県警本部長は6日の定例会見で「法的手続きに従い厳正に捜査を進めている。捜査中なので詳細は控えたいが(捜査が)不当という指摘はいかがなものか」と反論した。

 同法について、日本産婦人科医会は陣痛開始直後の分娩(ぶんべん)第1期に産道に手を入れてお産の進み具合を診る「内診」は助産行為に当たらないと主張している。

 これに対し、井上本部長は「関係機関の法的解釈を事前に照会し、それを踏まえて慎重に捜査している」と述べ、分娩第1期を含め看護師の内診は許されないとした厚生労働省の行政通知(04年)に従ったとの見方を明らかにした。

 さらに「捜査側ではなく一県民、一国民としての考え」と断った上で「関係機関、行政、医師会などがこういう事案を踏まえて議論されて、対策を取られることが大事ではないか。県警が投げかけた事案をそう受け止めていただければありがたい」と述べた。【伊藤直孝】

(毎日新聞、2006年9月7日)

*** 神奈川県産科婦人科医会、2006年9月4日

堀病院に対する警察の家宅捜査に関する見解

 今般の横浜市瀬谷区堀病院における神奈川県警生活経済課による保健師助産師看護師法違反容疑での、警察官60名にもおよぶ異常な家宅捜査および大々的報道は、現在、すでに分娩受け入れ状況が許容限界を超えて破綻状態にある神奈川県内の分娩医療機関ならびに妊婦に深刻かつ多大な影響を及ぼしております。

 当神奈川県産科婦人科医会は、神奈川県の産科救急システムの創設・充実等、神奈川県における母子の健康と安全のため最大限の努力をしてまいりました。この立場から、今般の事態により、きわめて深刻な県内の産科診療環境の悪化が加速することを憂慮しております。

 当会は、堀病院での診療内容が、分娩経過の全体を産科医師が把握しつつ、担当医の監督責任のもとで十分な経験・技量を身につけた看護師による産婦の正常経過の観察を担当医が補助情報として利用する範囲内であることを確認しており、現行の法令に背反するものではないと確信しております。

 神奈川県産科婦人科医会は、神奈川県警の家宅捜査に強い遺憾の意を表明するとともに、今後の堀病院への全面的支援を表明いたします。今後想定される事態に対しても、全国の皆様にご支援を賜りたく、お願い申し上げます。

 2006年9月4日
            神奈川県産科婦人科医会
                 会長 八十島 唯一


助産師はいま

2006年09月06日 | 出産・育児

コメント:

規模の大きい病院では、いろいろな専門職の人が周産期医療チームの構成メンバーとなっています。産科医、助産師、助産師以外の産科病棟ナース、新生児科医、新生児室・NICUナース、麻酔科医、手術室ナースなど、非常に大勢のスタッフがそれぞれの専門性を発揮して、チーム全員の力を結集して医療を提供しています。産科病棟に勤務する助産師たちは、この大きな周産期医療チームの中で、主に『産科専門ナース』としての機能を果たしています。

分娩室の中で、妊婦を診察するスタッフは産科医と助産師だし、新生児を診察するスタッフは新生児科医とナースです。新生児科医や助産師以外のナースが妊婦の内診をすることはあり得ません。産科医が新生児を診察することもほとんどありません。チームの中で役割分担が決まっていて、自分に割り当てられた役割をしっかり果たすことを求められます。

規模の大きい病院では、助産師が(産科以外の)一般病棟に配属されて助産以外の看護業務に従事している場合もめずらしくありませんし、看護部長や看護師長などの管理職となっている場合も多いです。このように、助産師であっても、病院で助産業務には全くタッチしてない場合も多いです。

それに対して、一般の産科診療所では、産科専門の院長先生お一人と、助産師2~3人、看護師十数人で24時間いつ何があるかわからないお産を多数取り扱っているような場合もあり得ます。医師が一人だけであれば、毎日、昼間は外来や手術で終日忙しく、分娩があれば外来を一時中止して分娩の全例に立ち会わねばなりません。新生児も診なければなりませんし、手術ということになれば麻酔も自分で実施しなければなりません。助産師も2~3人しかいなければ、分娩進行中の妊婦を、助産師だけで24時間介助し続けるのは無理です。分娩室に医師も助産師もいない間は、看護師が妊婦の状況を診て、経過を医師や助産師に報告するという態勢になっているところも少なくないと思います。一人の医師が、連日徹夜をして、分娩室内の産婦の傍らで介助し続けるなんてことは無理だと思います。

日本中に多くの産科診療所があり、それぞれ、院長以下のスタッフ全員の力を結集して、安全なお産のために日夜精一杯頑張って、日本の周産期医療が成り立っています。

現在、日本の分娩の半分は、一般の産科診療所が担っています。病院の産婦人科も現在ギリギリで何とかやっていて、どこも産科医療は崩壊寸前の状況ですから、いきなり産科診療所が全国一斉に営業停止になってしまったら、その分、病院の負担が増え、全国的に非常に困った事態となります。移行期間も置かず、理想の医療体制をいきなり実現しようとしても無理です。現実的な対応を探っていただきたいと思います。

****** 読売新聞、2006年9月5日

助産師はいま

(1) 看護師内診いいの?

法律・・・業務外 現場・・・診療の補助

 助産師資格のない看護師や准看護師が助産行為をしていたとして、横浜市内の堀病院が先月、保健師助産師看護師法(保助看法)違反の疑いで家宅捜索を受けた。神奈川県警の捜査は続いているが、看護師らによる助産行為は、各地の産院で広く行われてきたと出産現場で指摘されている。なぜなのか。背景の問題を探りながら、安全・安心なお産のあり方を考えたい。

 「堀病院だけではありません。うちの産院も同じです」

 電話の向こうの声が震えていた。ある地方都市の産院に勤める助産師。「陣痛が始まってから、出産直前に医師が来るまでには、長い時間があります。その間、お産が正常に進んでいるかどうかをチェックしている白衣姿の人が無資格者だなんて、妊婦さんたちには言えません……」

 胎児の心拍などをチェックする分娩(ぶんべん)監視装置の波形が異常を示しても、気づかない看護師もいるという。「出産事故が起きないか不安です」と話す。

 県警の調べによると、堀病院では、看護師や准看護師が妊婦の産道に手を入れてお産の進み具合を診断する「内診」を行っていた疑いがある。

 助産師や看護師の業務内容を定めた保助看法は「助産」を行えるのは医師と助産師だけと定めている。厚生労働省医政局看護課の岩沢和子さんは「内診は、お産が正常に進んでいるかを判断する『診断』行為なので、看護師の業務の範囲外です。今後、母子に異常が起きる可能性も予測しなければならず、判断を誤れば命に重大な影響を及ぼしかねません」と説明する。

 ところが、日本産婦人科医会は「内診は『助産』ではなく、看護師にもできる『診療の補助』に当たる」と解釈してきた。1950年代まで、お産の多くは自宅で行われ、助産師が担っていた。だが60年代から、お産の場が病院・診療所に移っていくなか、同医会は「産科看護研修学院」という独自の研修機関を各地に設け、看護師や准看護師などに受講させ、「産科看護師」などと呼んで助産師の代わりに内診などをさせてきた。

 市民団体「陣痛促進剤による被害を考える会」(事務局・愛媛県今治市)によると、1984年以降、医師・助産師以外の助産行為があり、母子が死亡したり障害が残ったりしたケースが少なくとも14件ある。無資格の看護師らが異常に気づかなかったことが、重大な結果を招いたとみられる例が目立つという。

 このうち、2003年に大阪市内の産院で長女を出産した女性(31)は出産直前、「白衣の人」に腹部を11回押された。長女は頭がい骨が折れた状態で生まれた。

 後日、母子手帳を見て、分娩を介助した助産師の氏名欄が空欄になっていることを不審に思い、産院に問い合わせた。その結果、「白衣の人」は准看護師だったと知った。

 「お産の介助をしてくれるからには、助産師だとばかり思いこんでいました。妊婦さんは分娩室に入ったら、その場にいるスタッフの資格を確認してください。医師も助産師もいなければ、呼んできてもらうよう頼んだ方がいいですよ」と、女性は注意を呼びかける。

(2006年9月5日  読売新聞)

****** 読売新聞、2006年9月6日

助産師はいま

(2) 診療所を なぜ嫌う

産科看護師との微妙な関係

 看護師や准看護師に「内診」などの助産行為をさせていたとして、神奈川県警が先月、保健師助産師看護師法(保助看法)違反の疑いで、横浜市の堀病院を家宅捜索したことに対し、日本産婦人科医会は反発した。今月1日には厚生労働省で記者会見し、「産科医療を必死に支えている産婦人科医師に打撃を与えた」とする見解を発表した。

 同医会は、診療所が助産師を募集しても、応募が少ない現状があると主張。そうした診療所では看護師に内診を任せるしかなく、禁止すれば、医師の負担が増え、産科医不足に拍車をかけると訴える。

 確かに、1年間に誕生する約110万人の赤ちゃんの半数は診療所(病床数19以下)で生まれるのに、そこで働く助産師は全体の2割以下という偏在が問題になっている。助産師の約7割は病院(同20以上)に集中している。

 ではなぜ、助産師は診療所に勤めたがらないのか。

 「待遇」を指摘する声がある。給与や福利厚生、労働条件は大病院と比べると見劣りしがちだ。人員が少ない分、責任も重くなることを敬遠する傾向もあるようだ。

 だがこうした理由とは別に、同医会の「産科看護研修学院」で研修を受けた「産科看護師」の存在を挙げる助産師は少なくない。

 埼玉県のある助産師は「ベテランの産科看護師に分娩(ぶんべん)介助のやり方を強制されました」と話す。別の助産師は「産科看護師に『あんたより、私の方がよっぽど内診がうまい』と罵倒(ばとう)されました。助産師が尊重されない職場では、働きたいはずがありません」

 同医会は「診療所に助産師が来ないから、産科看護師に内診をさせよ」と主張するが、逆に「産科看護師に長年内診をさせてきたことが、助産師を遠ざける原因となっている」というのだ。

 日赤医療センター(東京)の産科部長、杉本充弘さんは「助産と看護は全く別。この事件を機に産科医は認識を改めるべきです」と指摘する。

 年間約2000件のお産がある同センター分娩室には、35人の助産師が勤務。妊婦につきっきりになれる体制を作っている。「お産は本来自然な営み。女性の産む力を最大限に引き出すことが、安全・安心なお産につながります。それには妊婦に寄り添って励ましながら、異常があればすぐに対処する判断力も必要。それができるのは、専門の勉強をしてきた助産師だけです」

 診療所と助産師を結びつける取り組みも始まっている。国は昨年度、5都府県の看護協会に委託して、助産師の診療所への就職を支援するモデル事業を行った。

 出産を機に昨年、勤めていた病院を退職した東京都東久留米市の助産師伊藤孝子さん(39)は、都看護協会のあっせんで、同清瀬市の武田産婦人科で今年5月からパート勤務を始めた。「子どもが小さいので、家から近い産院を探していました。いい職場に巡り合えてうれしい」と張り切っている。

(2006年9月6日  読売新聞)

日医が「分娩に関連する脳性麻痺に対する障害補償制度」の制度化に関するプロジェクト委員会を設置

2006年06月22日 | 出産・育児

****** コメント

脳性麻痺は、一定頻度で発生し、遺伝的要因、脳奇形、脳血管障害(脳梗塞、脳出血など)、中枢神経感染症(胎内でのサイトメガロウイルス感染症、ヘルペス感染症など)、分娩時低酸素症など、非常に幅広い原因があり、原因不明の場合も多くあります。

しかし、我が国においては、脳性麻痺の原因が不明の場合や分娩時の病院側の対応に特に問題がなかったような場合であっても、裁判では医師側に過失があったとされる場合が少なくありません。

これは、医師側に過失があったことにしないと、患者側が一切救済されないという現行制度にも起因していると考えられます。無過失補償制度を、我が国においても早急に導入する必要があると思われます。

****** 日医白クマ通信、2006年6月21日

定例記者会見
日医が「分娩に関連する脳性麻痺に対する障害補償制度」の制度化に関するプロジェクト委員会を設置

 木下勝之常任理事は、6月20日の記者会見で、日医が、「分娩に関連する脳性麻痺に対する障害補償制度」の制度化に関するプロジェクト委員会を設置したことを明らかにした。

 木下常任理事は、まず、世界的には、ニュージーランド・スウェーデンなどの無過失補償制度実施国があるものの、わが国の医賠責保険制度では、事故が起きたとき、医師が“有責”の場合のみ保険適用となり、医師に責任のない“無責”のケースでは、障害・死亡ともに賠償金は一切受け取れないのが現状であると説明。そこで、日医では、障害者救済の視点から、すでに、「医療に伴い発生する障害補償制度検討委員会(プロジェクト)」で検討、本年1月、「医療に伴い発生する障害補償制度の創設をめざして」という答申をまとめた。これを受けて、今回、答申のなかで、現在、最も問題になっている「分娩に伴って生ずる脳性麻痺」に対する補償制度の実現を図る目的で、プロジェクト委員会を立ち上げたもの。木下常任理事は、来年の通常国会への提出を目指し、今後、対象・補償額・基金・制度運用方法等、具体的な制度の内容を詰め、7月末を目途に結論をまとめて、国に働き掛けていきたいとの考えを示した。

 木下常任理事は、「この制度化は、障害者救済を第一に考えたものだが、ひいては、(1)医師患者間の信頼関係構築、(2)少子化対策、(3)患者さんの経済的・精神的負担の軽減、(4)減少する産婦人科医への支援等にもなるので、国の社会保障制度の一環と考えて欲しい」と述べ、実現へ向けての協力を報道各社にも要請した。