コメント(私見):
昨日の福島県立大野病院事件・第8回公判で、病理鑑定医(弁護側証人、産科病理の専門家、目で見る胎盤病理の著者)が、争点の一つである子宮と胎盤の癒着の部位や程度について証言を行いました。
【弁護側の見解】 全前置胎盤ではあるが、胎盤は主に子宮の後壁に付着し、前回帝王切開の創痕にはかかっていなかった。胎盤が子宮筋層の1/5程度に侵入していた。
【検察側の見解】 全前置胎盤で、胎盤は子宮の前壁から後壁にかけて付着し、前回帝王切開の創痕にかかっていた。 胎盤が子宮筋層の1/2程度に侵入していた。 福島県立大野病院事件・第五回公判
◇ ◇ ◇
同じ病理標本の病理診断なのに、病理医によって診断が一致しないのはそれほど珍しいことでもありません。特に、特殊な希少症例の場合は、その道の権威と言われている病理医達の病理診断でも、それぞれの診断が3者3様に分かれてしまい、なかなか最終結論が出せない場合もまれではありません。
『癒着胎盤』は、産科医が生涯で1回経験するかしないかというような非常にまれな特殊な疾患です。一般の(胎盤病理を専門としていない)病理医だと、癒着胎盤症例を経験する機会はほとんどありません。
従って、癒着胎盤の鑑定には、胎盤病理を専門とする病理医達が十分に議論を重ねて慎重に結論を出す必要があると思います。
リンク:
【書籍詳細】 目でみる胎盤病理、中山雅弘 著
大野病院事件についての自ブロク内リンク集
第八回公判について【周産期医療の崩壊をくい止める会】
ロハス・メディカル ブログ
福島県立大野病院事件第8回公判(0)
福島県立大野病院事件第8回公判
大野事件、第8回公判!【産科医療のこれから】
検察の起訴根拠を揺るがす展開に、福島・大野病院事件の第8回公判が開催【日経メディカルオンライン】
****** OhmyNews、2007年9月29日
「子宮前壁に胎盤はなく、癒着もなかった」
胎盤病理医療が検察証拠を否定、
福島県立大野病院事件第8回公判
軸丸 靖子
福島県立大野病院で2004年12月、帝王切開術を受けた女性が大量出血し死亡した事件で、業務上過失致死と医師法21条違反の罪に問われている同院産婦人科の加藤克彦医師の第8回公判が9月28日、福島地裁で開かれた。
弁護側の証人尋問は2回目で、この日は胎盤病理を専門とする大阪府立母子保健総合医療センター検査科の主任部長が出廷。「子宮前壁には明らかな癒着(ゆちゃく)はなかった」「子宮前壁に絨毛(じゅうもう)があったというだけでその上に胎盤があるという推論は無理」と証言した。
5月の公判では、検察側証人の病理医が「癒着は子宮後壁から子宮口をまたいで、子宮前壁にかかっていたと推測される」と証言していたが、それを真っ向から否定する内容となる。
【関連記事】病理医は検察側に沿う証言、ただし信憑性には疑問符
日本には胎盤病理の専門家は少ないが、同部長は、大阪府立母子保健総合医療センターの25年間で胎盤病理をおよそ5万例、子宮病理を700例以上行ったキャリアを持つ。
検察が提出する病理鑑定に疑問を持つ弁護側は、06年6月、同部長に独自に鑑定を依頼していた。同部長は検察が開示した情報などを元に、同年11月に鑑定書を作成。今年8月には追加鑑定書を提出した。初回の鑑定書は2ページの簡素なものだったが、追加鑑定書は10ページにおよぶ内容になっている。鑑定書は証拠として受理されている。
この日の公判は、この2通の鑑定書を中心に、胎盤癒着の部位と範囲について尋問が行われた。
絨毛から癒着を証明するのは困難
証言で、同部長は、保存された臓器の組織をプレパラートにしていく行程を説明しながら、
(1)最初に臓器を切り出すときに破損や欠損が起こり得る
(2)臓器標本を作るときは機械で複数の臓器を処理するため、一部組織がばらけて別の臓器に付着したりする。特に絨毛はばらけやすい
(3)そもそもの手術時に、圧迫止血などの外科処置により、組織があるべき場所からずれることがある
――などの条件によって、プレパラート上の組織には事実と異なる状況が起こりうることを指摘。
「たとえば、脳と一緒の液で処置すれば、脳に絨毛がつくこともある」と話し、検察側証人の病理医が「絨毛がある部分は胎盤の癒着があったと推定できる」とした証言を否定した。
加えて、検察から開示された胎盤の実物大の写真(胎児側と母体側両面)と、残存子宮を肉眼(写真)と組織の両方で観察した結果から、
「脱落膜が子宮もしくは胎盤のどちらかにある場合は癒着は起こらない。脱落膜の状態からも、癒着が認められるのは子宮後壁のみで、前壁には認められなかった」
「絨毛があったというだけで、その上に胎盤がどっかり乗っていたというのは乱暴。そういう推論は無理」
と繰り返した。
また、残存子宮の一部で癒着があったところに手術の縫合糸のような跡があり、検察が「前回帝王切開創に胎盤がかかっていて癒着があった」と医師の注意義務違反を指摘している箇所についても、「縫合糸周辺の周辺組織がひきつられるように集まっている。3年前の前回帝王切開創というには傷跡が新しすぎる」と否定した。
「誰かから吹き込まれたというんですか?」
ただ、同部長が作成した鑑定書は、弁護側が独自に依頼したもので、証拠として検察が提出した鑑定書と同じ重みを持てるかは疑問だ。
検察側は、最初の鑑定書と追加鑑定書の違いを追及。
追加鑑定書では写真などの資料が増え、最初の鑑定書では触れられていなかったことも指摘していたり、同じ標本を用いていても写真の撮り方によって解釈が変わること、などについて指摘した。
特に、「鑑定書の作成を弁護団が手伝ったのではないか」「追加鑑定書で考えが変わったのであれば、あらためてプレパラートを顕微鏡で見直すべきではなかったか」という指摘には、同部長が
「誰かから(鑑定書の内容について意見を)吹き込まれたというんですか? そうじゃないですよ。はっきり言っておくけど」
「変更したのは細かい部分だけで、前壁に癒着がなかったとする基本的な部分では考え方は変わっていない。見直しすべきとの指摘はその通りだが、実際、そこまで(大阪から福島へ組織片を調べにいくほどの)時間が取れるかは疑問」
と言い返す場面もあった。
癒着深度は5分の1
また、癒着した胎盤が子宮にどのくらい食い込んでいたか(食い込みが大きいほど剥離が困難になる)について、検察側と弁護側で見解が食い違っていた点については、残存胎盤の写真を用いて、同部長が法廷内で測定し、その様子がスクリーンで映された。
測定したのは残存子宮を縦に8分割したうちの右側から3番目の子宮後壁で、子宮頚部より上の部分。明らかな癒着がある箇所だ。その結果、子宮の厚みは32mm~29mmで、そのうち癒着は4.5mm~6mm。癒着の深さは子宮の厚みの5分の1程度とされた。検察側はそれまで癒着深度は「2分の1程度と深かった」としていたが、その根拠となっていた部分は残存胎盤で子宮ではないと判断された。
◇
この日午前10時に始まった法廷が終わったのは午後7時半。公判は回を負うごとに、1人の証人に対する尋問が長く、細かくなってきている。
次回は10月26日。
(OhmyNews、2007年9月29日)
****** 読売新聞、2007年9月29日
大野病院事件公判 子宮と胎盤強い癒着否定
大熊町の県立大野病院で2004年12月、帝王切開手術で女性(当時29歳)を失血死させたなどとして、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われている産婦人科医、K被告(40)の第8回公判が28日、福島地裁(鈴木信行裁判長)であった。
この日から弁護側の証人に対する証人尋問が始まり、胎盤病理の専門家として女性の胎盤と子宮を鑑定した大阪府立母子保健総合医療センターの中山雅弘医師が出廷。胎盤が子宮筋層に侵入した深さについて「5分の1ぐらい」とし、検察側が主張する強い癒着を否定した。5月の第5回公判で検察側の証人として証言した鑑定医は「2分の1程度」と述べており、争点の一つである癒着の程度について、専門家の鑑定結果が対立する形となった。
中山医師は癒着の部位についても「子宮の後壁を中心に胎盤が癒着し、前壁に明らかな癒着はない」とし、「前壁から後壁にかけて広範囲に癒着していた」とする検察側の主張と食い違いを見せた。
検察側は中山医師が今年8月に鑑定書を大幅に追加したことなどを挙げ、結果の信用性に疑問を呈した。
(読売新聞、2007年9月29日)
****** 朝日新聞、2007年9月29日
大野病院事件「胎盤癒着浅かった」
県立大野病院で04年に女性(当時29)が帝王切開手術中に死亡した事件で、業務上過失致死と医師法(異状死体の届け出義務)違反の罪に問われた産科医K被告(40)の第8回公判が28日、福島地裁(鈴木信行裁判長)であった。弁護側の依頼で子宮などの鑑定をした大阪府立母子保健総合医療センターの中山雅弘医師(病理医)は「胎盤の癒着は子宮の後壁(背中側)だけだった」と証言、検察側鑑定と異なる見方を示した。
検察側の鑑定では、前回出産時の帝王切開時にできた傷跡に癒着胎盤があったとされたが、中山医師は「(癒着は)確認できなかった」と証言。癒着の深さも、検察側鑑定にある子宮の筋肉層にあたる部分の2分の1という意見を否定し、5分の1程度の浅い癒着だったと証言した。
子宮の標本に胎盤の一部である「絨毛(じゅう・もう)」が存在することが癒着胎盤を示すかどうかについて、中山医師は「子宮の前壁(腹側)に絨毛が見られるが、標本を作る過程などで入り込んだ可能性が高い」との見解を示した。
検察側は、鑑定書に使った子宮の標本と、鑑定書の記載が一致しない点などを指摘。また、最初の鑑定書では標本を見たが、追加の鑑定書については見なかったことも追求した。中山医師は「見た方が良かったが、時間がなかった」と述べた。
(朝日新聞、2007年9月29日)
****** 毎日新聞、2007年9月29日
大野病院医療事故:「前壁に癒着してない」 弁護側証人、検察側主張に反論 /福島
県立大野病院(大熊町)で04年、帝王切開手術中に女性(当時29歳)が死亡した医療事故で、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた同病院の産婦人科医、K被告(40)の第8回公判が28日、福島地裁(鈴木信行裁判長)であった。弁護側証人として出廷した胎盤病理を専門とする医師は、争点の一つの癒着胎盤の範囲について「癒着は子宮の後壁だけで、前壁にはなかった」と証言。「前壁まで癒着していた」とする検察側主張の範囲よりも狭いことを指摘した。
証人出廷したのは、大阪府立母子保健総合医療センターの中山雅弘医師。中山医師は、子宮片の写真を見て「後壁を中心として明らかに癒着している。前壁に明らかな癒着は確認できない」と指摘した。また癒着の程度は、厚さ約30ミリの子宮筋層に、胎盤絨毛(じゅうもう)が最大でも6~7ミリしか入っていないと指摘し、「子宮筋層の2分の1程度」とする検察側の主張を否定した。【松本惇、関雄輔】
(毎日新聞、2007年9月29日)
****** 福島民友、2007年9月29日
「前壁には癒着なし」/大野病院事件公判
大熊町の県立大野病院で2004(平成16)年12月、帝王切開で出産した女性=当時(29)=が手術中に死亡した医療事件で、業務上過失致死と医師法違反(異状死の届け出義務違反)の罪に問われた産婦人科医K被告(40)の第8回公判は28日、福島地裁(鈴木信行裁判長)で開かれた。
死亡した女性の子宮を鑑定した胎盤病理専門医が弁護側の証人尋問に立った。癒着について「子宮の後壁を中心として胎盤の癒着があり、その深さは子宮の筋肉層の5分の1程度だった。子宮の前壁には明らかな癒着はなかった」と証言。K被告や弁護側の「癒着は子宮後壁で浅かった」などとする主張を補うとともに、第5回公判で検察側証人として証言した別の病理専門医が「胎盤は子宮前壁から後壁にかけて癒着し、子宮の筋肉層の2分の1まで侵入していた」とする鑑定結果を否定する証言をした。また、胎盤の鑑定やカルテなどから「異常胎盤の可能性もある」と分析した。
検察側は、この胎盤病理専門医が昨年11月に最初の鑑定を出した後、今年8月に追加鑑定を出したことを指摘し、「新しい資料を見ておらず、同じ資料を基として追加鑑定を出したのはなぜか」と指摘。同専門医は「追加内容があったため」と述べるにとどまった。
次回公判は、10月26日午前10時から。
(福島民友、2007年9月29日)
****** 福島民報、2007年9月29日
胎盤癒着狭い 大野病院公判・弁護側医師証言
福島県大熊町の県立大野病院医療過誤事件で、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた産婦人科医K被告(40)の第8回公判は28日、福島地裁(鈴木信行裁判長)で開かれた。弁護側請求で子宮などを病理鑑定した男性医師の証人尋問を行った。公判は休憩などを挟み午後8時ごろまで約10時間にも及び、検察側と弁護側が論戦を繰り広げた。
医師は、争点の1つとなる癒着胎盤の範囲について、「子宮後壁を中心として癒着はみられたものの、前壁部分には明らかな癒着はなかった」と証言。検察側の「子宮口を挟んで子宮後壁から前壁に癒着していた」との主張よりも範囲が狭いとの見解を示した。子宮摘出に移行せず胎盤剥離(はくり)を続けたことの正当性が裁判の最大の争点だが、その判断に影響を与えるとみられる。
「前壁に癒着あり」とする検察側鑑定医は胎盤の一部である絨毛(じゅうもう)が前壁の一部に見られたことを根拠にしていたが、今回の医師は「絨毛はばらけやすく、標本をつくる過程や手術で本来あるはずのない位置に存在する場合がある」と述べ、事件の後に人工的に絨毛が移った可能性を指摘。「絨毛が見られただけで癒着と判断するのは乱暴」と、検察側鑑定医の見解に疑問を呈した。
さらに医師は癒着の程度について「絨毛が子宮筋層に5分の1程度入っていた」とし、「2分の1程度」とする検察側鑑定医の判断よりも癒着が軽度だったとした。
検察側は医師の鑑定経緯を細かく質問。医師が子宮を直接見たのは1度だけだったことなどを引き出し、同医師の鑑定結果の信用性に疑問を投げ掛けた。
起訴状によると、K被告は平成16年12月17日、女性=当時(29)=の出産で帝王切開手術を執刀し、癒着した胎盤をはがし大量出血で女性を死亡させた。女性が異状死だったのに24時間以内に警察署へ届けなかった。
次回公判は10月26日午前10時からで、弁護側の臨床に関する鑑定医への尋問を行う。
(福島民報、2007年9月29日)
****** 福島中央テレビ、2007年9月28日
大野病院の医師の裁判 弁護側証人が逆の見解
大熊町の県立大野病院で、帝王切開の手術を受けた女性が死亡した事件の裁判です。
きょうの公判から弁護側の証人尋問に移り、証言に立った鑑定医が、検察側の鑑定医とはまったく逆の証言をしました。
業務上過失致死などの罪に問われている県立大野病院の産婦人科医、K被告は、2004年に、当時29歳の女性の帝王切開の手術をした際、無理に癒着した胎盤を引き剥がして死亡させたとされています。
きょうの公判からは弁護側の証人尋問にうつり、女性の子宮を鑑定した鑑定医が証言台に立ちました。
鑑定医は「胎盤が癒着していた範囲は広くなかった」と述べ、K被告が癒着を事前に予測するのは難しかったとする、弁護側の主張に沿った証言をしました。
これまでの検察側の証人尋問では、別の鑑定医が「胎盤が癒着していた範囲は広かった」と逆の証言していて、検察側は、これを根拠に被告は癒着を予測できたと主張していました。
裁判は、検察側と弁護側の証人の見解が真っ向から対立した図式となっています。
(福島中央テレビ、2007年9月28日)