ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

助産師の活躍に期待

2007年09月30日 | 飯田下伊那地域の産科問題

現代の産科医療は、産科医、助産師、新生児科医、麻酔医が協力して行うチーム医療が主体となっています。分娩経過中に何か異常が発生した場合には、チームで協力して適切に医療介入する必要があります。

低リスク妊婦の健診や正常分娩の介助では、助産師の果たす役割が非常に大きく、彼女達の貴重なパワーを地域で有効に活用することが重要だと思います。

産科医の激務を緩和するために、今後、助産師業務を拡大していこうという動きもあります。

****** 信濃毎日新聞、2007年9月28日

妊婦 満足いくお産に 助産師外来で「バースプラン」 (飯田市)

(略)

 25年前、飯田下伊那地方では13病院が分娩を扱っていた。しかし、産科医の高齢化や後継者不足で05年には6病院に。現在は同地方最大の総合病院の市立病院と市内の個人医院をあわせて3病院だけとなった。

 分娩を休止する病院が相次ぐ中、市立病院の06年の分娩数は前年比で倍の1000件近くに急増。増えた分はこれまで個人医院で扱ってきた、比較的安全な「ローリスク」の分娩だった。

 市立病院の河野純事務局長は「市立病院は、これまでハイリスクの分娩が中心で『母子とも無事ならいい』という感覚があった。そのため妊婦が産み方を選び、納得してお産をするための態勢づくりが遅れてきた面がある」と省みる。満足感を求めるローリスクの分娩の扱いが増える中、産婦人科の設備や人員の充実とともに、助産師外来を中核とするソフト面での改革が始まった。

 産婦人科病棟の松村さとみ看護師長(44)は「これまで産む姿勢は(あおむけの)仰臥位が100%。だから、それ以外の姿勢は学んだことがなかった」と言う。2年前からフリースタイル分娩について研修を重ね、必要となる介助者のやりくりも研究。現在は半数近くが横向きや四つんばいで分娩に臨むようになった。

 「バースプラン」は05年から段階的に導入。裏面には妊婦自身がお産を振り返る「バースレビュー」も加え、不満や帝王切開などの医療介入によりプラン通りに出産できなかった場合の誤解を解消する仕組みも取り入れた。大半の妊婦が「横向きのお産がよかった」「赤ちゃんをすぐ抱けてうれしかった」と評価している。

     *         *

 初産の検診のため助産師外来を訪れた□□□さん(19)は、36週に入ったのを機に、分娩をやめた個人医院から市立病院に移った。同様に市立病院で出産を経験した母親(45)からは「市立病院は流れ作業だよ」と聞いて不安を感じていた。

 しかし、産むスタイルを選べ、助産師や看護師に気軽に声をかけられる雰囲気も気に入り、当初のイメージは消えたという。「横向きがいいな。自分のペースでゆっくりと産みたい」と語った。

 助産師の藤綱さんは「お産でいいスタートを切れたという気持ちは、その後のいい育児につながっていく。病院任せではなくお母さん自身が産むという意識を引き出しながら、妊婦も私たちも満足のいくお産をできるようにしたい」と話した。

(信濃毎日新聞、2007年9月28日)


大野病院事件 第8回公判

2007年09月29日 | 大野病院事件

コメント(私見):

昨日の福島県立大野病院事件・第8回公判で、病理鑑定医(弁護側証人、産科病理の専門家、目で見る胎盤病理の著者)が、争点の一つである子宮と胎盤の癒着の部位や程度について証言を行いました。

【弁護側の見解】 全前置胎盤ではあるが、胎盤は主に子宮の後壁に付着し、前回帝王切開の創痕にはかかっていなかった。胎盤が子宮筋層の1/5程度に侵入していた。

【検察側の見解】 全前置胎盤で、胎盤は子宮の前壁から後壁にかけて付着し、前回帝王切開の創痕にかかっていた。 胎盤が子宮筋層の1/2程度に侵入していた。 福島県立大野病院事件・第五回公判

       ◇   ◇   ◇

同じ病理標本の病理診断なのに、病理医によって診断が一致しないのはそれほど珍しいことでもありません。特に、特殊な希少症例の場合は、その道の権威と言われている病理医達の病理診断でも、それぞれの診断が3者3様に分かれてしまい、なかなか最終結論が出せない場合もまれではありません。

『癒着胎盤』は、産科医が生涯で1回経験するかしないかというような非常にまれな特殊な疾患です。一般の(胎盤病理を専門としていない)病理医だと、癒着胎盤症例を経験する機会はほとんどありません。

従って、癒着胎盤の鑑定には、胎盤病理を専門とする病理医達が十分に議論を重ねて慎重に結論を出す必要があると思います。

リンク:

【書籍詳細】 目でみる胎盤病理、中山雅弘 著

大野病院事件についての自ブロク内リンク集

第八回公判について【周産期医療の崩壊をくい止める会】

ロハス・メディカル ブログ
 福島県立大野病院事件第8回公判(0)
 福島県立大野病院事件第8回公判

大野事件、第8回公判!【産科医療のこれから】

検察の起訴根拠を揺るがす展開に、福島・大野病院事件の第8回公判が開催【日経メディカルオンライン】

****** OhmyNews、2007年9月29日

「子宮前壁に胎盤はなく、癒着もなかった」

胎盤病理医療が検察証拠を否定、
福島県立大野病院事件第8回公判

                     軸丸 靖子

 福島県立大野病院で2004年12月、帝王切開術を受けた女性が大量出血し死亡した事件で、業務上過失致死と医師法21条違反の罪に問われている同院産婦人科の加藤克彦医師の第8回公判が9月28日、福島地裁で開かれた。

 弁護側の証人尋問は2回目で、この日は胎盤病理を専門とする大阪府立母子保健総合医療センター検査科の主任部長が出廷。「子宮前壁には明らかな癒着(ゆちゃく)はなかった」「子宮前壁に絨毛(じゅうもう)があったというだけでその上に胎盤があるという推論は無理」と証言した。

 5月の公判では、検察側証人の病理医が「癒着は子宮後壁から子宮口をまたいで、子宮前壁にかかっていたと推測される」と証言していたが、それを真っ向から否定する内容となる。

【関連記事】病理医は検察側に沿う証言、ただし信憑性には疑問符

 日本には胎盤病理の専門家は少ないが、同部長は、大阪府立母子保健総合医療センターの25年間で胎盤病理をおよそ5万例、子宮病理を700例以上行ったキャリアを持つ。

 検察が提出する病理鑑定に疑問を持つ弁護側は、06年6月、同部長に独自に鑑定を依頼していた。同部長は検察が開示した情報などを元に、同年11月に鑑定書を作成。今年8月には追加鑑定書を提出した。初回の鑑定書は2ページの簡素なものだったが、追加鑑定書は10ページにおよぶ内容になっている。鑑定書は証拠として受理されている。

 この日の公判は、この2通の鑑定書を中心に、胎盤癒着の部位と範囲について尋問が行われた。

絨毛から癒着を証明するのは困難

 証言で、同部長は、保存された臓器の組織をプレパラートにしていく行程を説明しながら、

 (1)最初に臓器を切り出すときに破損や欠損が起こり得る

 (2)臓器標本を作るときは機械で複数の臓器を処理するため、一部組織がばらけて別の臓器に付着したりする。特に絨毛はばらけやすい

 (3)そもそもの手術時に、圧迫止血などの外科処置により、組織があるべき場所からずれることがある

――などの条件によって、プレパラート上の組織には事実と異なる状況が起こりうることを指摘。

 「たとえば、脳と一緒の液で処置すれば、脳に絨毛がつくこともある」と話し、検察側証人の病理医が「絨毛がある部分は胎盤の癒着があったと推定できる」とした証言を否定した。

 加えて、検察から開示された胎盤の実物大の写真(胎児側と母体側両面)と、残存子宮を肉眼(写真)と組織の両方で観察した結果から、

 「脱落膜が子宮もしくは胎盤のどちらかにある場合は癒着は起こらない。脱落膜の状態からも、癒着が認められるのは子宮後壁のみで、前壁には認められなかった」

 「絨毛があったというだけで、その上に胎盤がどっかり乗っていたというのは乱暴。そういう推論は無理」

と繰り返した。

 また、残存子宮の一部で癒着があったところに手術の縫合糸のような跡があり、検察が「前回帝王切開創に胎盤がかかっていて癒着があった」と医師の注意義務違反を指摘している箇所についても、「縫合糸周辺の周辺組織がひきつられるように集まっている。3年前の前回帝王切開創というには傷跡が新しすぎる」と否定した。

「誰かから吹き込まれたというんですか?」

 ただ、同部長が作成した鑑定書は、弁護側が独自に依頼したもので、証拠として検察が提出した鑑定書と同じ重みを持てるかは疑問だ。

 検察側は、最初の鑑定書と追加鑑定書の違いを追及。

 追加鑑定書では写真などの資料が増え、最初の鑑定書では触れられていなかったことも指摘していたり、同じ標本を用いていても写真の撮り方によって解釈が変わること、などについて指摘した。

 特に、「鑑定書の作成を弁護団が手伝ったのではないか」「追加鑑定書で考えが変わったのであれば、あらためてプレパラートを顕微鏡で見直すべきではなかったか」という指摘には、同部長が

 「誰かから(鑑定書の内容について意見を)吹き込まれたというんですか? そうじゃないですよ。はっきり言っておくけど」

 「変更したのは細かい部分だけで、前壁に癒着がなかったとする基本的な部分では考え方は変わっていない。見直しすべきとの指摘はその通りだが、実際、そこまで(大阪から福島へ組織片を調べにいくほどの)時間が取れるかは疑問」

 と言い返す場面もあった。

癒着深度は5分の1

 また、癒着した胎盤が子宮にどのくらい食い込んでいたか(食い込みが大きいほど剥離が困難になる)について、検察側と弁護側で見解が食い違っていた点については、残存胎盤の写真を用いて、同部長が法廷内で測定し、その様子がスクリーンで映された。

 測定したのは残存子宮を縦に8分割したうちの右側から3番目の子宮後壁で、子宮頚部より上の部分。明らかな癒着がある箇所だ。その結果、子宮の厚みは32mm~29mmで、そのうち癒着は4.5mm~6mm。癒着の深さは子宮の厚みの5分の1程度とされた。検察側はそれまで癒着深度は「2分の1程度と深かった」としていたが、その根拠となっていた部分は残存胎盤で子宮ではないと判断された。

  ◇

 この日午前10時に始まった法廷が終わったのは午後7時半。公判は回を負うごとに、1人の証人に対する尋問が長く、細かくなってきている。

 次回は10月26日。

OhmyNews、2007年9月29日

****** 読売新聞、2007年9月29日

大野病院事件公判 子宮と胎盤強い癒着否定

 大熊町の県立大野病院で2004年12月、帝王切開手術で女性(当時29歳)を失血死させたなどとして、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われている産婦人科医、K被告(40)の第8回公判が28日、福島地裁(鈴木信行裁判長)であった。

 この日から弁護側の証人に対する証人尋問が始まり、胎盤病理の専門家として女性の胎盤と子宮を鑑定した大阪府立母子保健総合医療センターの中山雅弘医師が出廷。胎盤が子宮筋層に侵入した深さについて「5分の1ぐらい」とし、検察側が主張する強い癒着を否定した。5月の第5回公判で検察側の証人として証言した鑑定医は「2分の1程度」と述べており、争点の一つである癒着の程度について、専門家の鑑定結果が対立する形となった。

 中山医師は癒着の部位についても「子宮の後壁を中心に胎盤が癒着し、前壁に明らかな癒着はない」とし、「前壁から後壁にかけて広範囲に癒着していた」とする検察側の主張と食い違いを見せた。

 検察側は中山医師が今年8月に鑑定書を大幅に追加したことなどを挙げ、結果の信用性に疑問を呈した。

(読売新聞、2007年9月29日)

****** 朝日新聞、2007年9月29日

大野病院事件「胎盤癒着浅かった」

 県立大野病院で04年に女性(当時29)が帝王切開手術中に死亡した事件で、業務上過失致死と医師法(異状死体の届け出義務)違反の罪に問われた産科医K被告(40)の第8回公判が28日、福島地裁(鈴木信行裁判長)であった。弁護側の依頼で子宮などの鑑定をした大阪府立母子保健総合医療センターの中山雅弘医師(病理医)は「胎盤の癒着は子宮の後壁(背中側)だけだった」と証言、検察側鑑定と異なる見方を示した。

 検察側の鑑定では、前回出産時の帝王切開時にできた傷跡に癒着胎盤があったとされたが、中山医師は「(癒着は)確認できなかった」と証言。癒着の深さも、検察側鑑定にある子宮の筋肉層にあたる部分の2分の1という意見を否定し、5分の1程度の浅い癒着だったと証言した。

 子宮の標本に胎盤の一部である「絨毛(じゅう・もう)」が存在することが癒着胎盤を示すかどうかについて、中山医師は「子宮の前壁(腹側)に絨毛が見られるが、標本を作る過程などで入り込んだ可能性が高い」との見解を示した。

 検察側は、鑑定書に使った子宮の標本と、鑑定書の記載が一致しない点などを指摘。また、最初の鑑定書では標本を見たが、追加の鑑定書については見なかったことも追求した。中山医師は「見た方が良かったが、時間がなかった」と述べた。

(朝日新聞、2007年9月29日)

****** 毎日新聞、2007年9月29日

大野病院医療事故:「前壁に癒着してない」 弁護側証人、検察側主張に反論 /福島

 県立大野病院(大熊町)で04年、帝王切開手術中に女性(当時29歳)が死亡した医療事故で、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた同病院の産婦人科医、K被告(40)の第8回公判が28日、福島地裁(鈴木信行裁判長)であった。弁護側証人として出廷した胎盤病理を専門とする医師は、争点の一つの癒着胎盤の範囲について「癒着は子宮の後壁だけで、前壁にはなかった」と証言。「前壁まで癒着していた」とする検察側主張の範囲よりも狭いことを指摘した。

 証人出廷したのは、大阪府立母子保健総合医療センターの中山雅弘医師。中山医師は、子宮片の写真を見て「後壁を中心として明らかに癒着している。前壁に明らかな癒着は確認できない」と指摘した。また癒着の程度は、厚さ約30ミリの子宮筋層に、胎盤絨毛(じゅうもう)が最大でも6~7ミリしか入っていないと指摘し、「子宮筋層の2分の1程度」とする検察側の主張を否定した。【松本惇、関雄輔】

(毎日新聞、2007年9月29日)

****** 福島民友、2007年9月29日

「前壁には癒着なし」/大野病院事件公判

 大熊町の県立大野病院で2004(平成16)年12月、帝王切開で出産した女性=当時(29)=が手術中に死亡した医療事件で、業務上過失致死と医師法違反(異状死の届け出義務違反)の罪に問われた産婦人科医K被告(40)の第8回公判は28日、福島地裁(鈴木信行裁判長)で開かれた。

 死亡した女性の子宮を鑑定した胎盤病理専門医が弁護側の証人尋問に立った。癒着について「子宮の後壁を中心として胎盤の癒着があり、その深さは子宮の筋肉層の5分の1程度だった。子宮の前壁には明らかな癒着はなかった」と証言。K被告や弁護側の「癒着は子宮後壁で浅かった」などとする主張を補うとともに、第5回公判で検察側証人として証言した別の病理専門医が「胎盤は子宮前壁から後壁にかけて癒着し、子宮の筋肉層の2分の1まで侵入していた」とする鑑定結果を否定する証言をした。また、胎盤の鑑定やカルテなどから「異常胎盤の可能性もある」と分析した。

 検察側は、この胎盤病理専門医が昨年11月に最初の鑑定を出した後、今年8月に追加鑑定を出したことを指摘し、「新しい資料を見ておらず、同じ資料を基として追加鑑定を出したのはなぜか」と指摘。同専門医は「追加内容があったため」と述べるにとどまった。

 次回公判は、10月26日午前10時から。

(福島民友、2007年9月29日)

****** 福島民報、2007年9月29日

胎盤癒着狭い 大野病院公判・弁護側医師証言

 福島県大熊町の県立大野病院医療過誤事件で、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた産婦人科医K被告(40)の第8回公判は28日、福島地裁(鈴木信行裁判長)で開かれた。弁護側請求で子宮などを病理鑑定した男性医師の証人尋問を行った。公判は休憩などを挟み午後8時ごろまで約10時間にも及び、検察側と弁護側が論戦を繰り広げた。

 医師は、争点の1つとなる癒着胎盤の範囲について、「子宮後壁を中心として癒着はみられたものの、前壁部分には明らかな癒着はなかった」と証言。検察側の「子宮口を挟んで子宮後壁から前壁に癒着していた」との主張よりも範囲が狭いとの見解を示した。子宮摘出に移行せず胎盤剥離(はくり)を続けたことの正当性が裁判の最大の争点だが、その判断に影響を与えるとみられる。

 「前壁に癒着あり」とする検察側鑑定医は胎盤の一部である絨毛(じゅうもう)が前壁の一部に見られたことを根拠にしていたが、今回の医師は「絨毛はばらけやすく、標本をつくる過程や手術で本来あるはずのない位置に存在する場合がある」と述べ、事件の後に人工的に絨毛が移った可能性を指摘。「絨毛が見られただけで癒着と判断するのは乱暴」と、検察側鑑定医の見解に疑問を呈した。

 さらに医師は癒着の程度について「絨毛が子宮筋層に5分の1程度入っていた」とし、「2分の1程度」とする検察側鑑定医の判断よりも癒着が軽度だったとした。
 検察側は医師の鑑定経緯を細かく質問。医師が子宮を直接見たのは1度だけだったことなどを引き出し、同医師の鑑定結果の信用性に疑問を投げ掛けた。

 起訴状によると、K被告は平成16年12月17日、女性=当時(29)=の出産で帝王切開手術を執刀し、癒着した胎盤をはがし大量出血で女性を死亡させた。女性が異状死だったのに24時間以内に警察署へ届けなかった。

 次回公判は10月26日午前10時からで、弁護側の臨床に関する鑑定医への尋問を行う。

(福島民報、2007年9月29日)

****** 福島中央テレビ、2007年9月28日

大野病院の医師の裁判 弁護側証人が逆の見解

 大熊町の県立大野病院で、帝王切開の手術を受けた女性が死亡した事件の裁判です。

 きょうの公判から弁護側の証人尋問に移り、証言に立った鑑定医が、検察側の鑑定医とはまったく逆の証言をしました。

 業務上過失致死などの罪に問われている県立大野病院の産婦人科医、K被告は、2004年に、当時29歳の女性の帝王切開の手術をした際、無理に癒着した胎盤を引き剥がして死亡させたとされています。

 きょうの公判からは弁護側の証人尋問にうつり、女性の子宮を鑑定した鑑定医が証言台に立ちました。

 鑑定医は「胎盤が癒着していた範囲は広くなかった」と述べ、K被告が癒着を事前に予測するのは難しかったとする、弁護側の主張に沿った証言をしました。

 これまでの検察側の証人尋問では、別の鑑定医が「胎盤が癒着していた範囲は広かった」と逆の証言していて、検察側は、これを根拠に被告は癒着を予測できたと主張していました。

 裁判は、検察側と弁護側の証人の見解が真っ向から対立した図式となっています。

(福島中央テレビ、2007年9月28日)


助産師の業務範囲

2007年09月26日 | 地域周産期医療

*** 医療タイムス、長野、2007年8月29日

助産師外来 助産師の業務範囲の明確化を

県助産師支援検討会が初会合

 県内で産科医不足が深刻化する中、助産師の活用に向けた支援策などを話し合う県の「助産師支援検討会」(座長・坂口けさみ信大医学部保健学科教授)は27日、松本市で初会合を開いた。助産師外来は、助産師の業務範囲でモデルが示されれば比較的容易に進むとの見通しや、院内助産所の定義を明確化する必要性などが指摘された。

 会合では、県内の産科を取り巻く現状について、県産科・小児科医療対策検討会(会長・小西郁生信大医学部産科婦人科教授)の委員を務めた金井誠委員(信大医学部産婦人科講師)が「来春までに2次医療を担う医師がさらに15人減る予定。産婦人科医は予想を超える速度で減っている」との危機感を示し、実効性の高い対策を早急に検討する必要性を強調した。

 意見交換では、助産師外来の課題として、超音波検査など助産師のスキルに対する問題や産科医の考え方の相違などが挙がり、助産師の委員からは、助産師が行う業務範囲の明確化を求める声が相次いだ。

 これに対し、金井委員は私見とした上で「妊婦健診は平均14回とすると、3~4回は(助産師に)任せてもいい。一般健診は当然で、超音波検査では体位、妊娠中期以降であれば心拍を確認する。37~38週ぐらいでは内診とNST(ノンストレステスト)の所見さえ取れていれば、問題ないと思う」などと述べ、超音波検査のモニターの見方など、必要な研修を行えば、多くの助産師が可能になるとの認識を示した。

 また、金井氏は、外来スペースの確保が現実的に困難なことや産科を閉鎖する医療機関が相次いでいることを背景に、地域で健診・分娩の連携システムや助産師、医療機器の活用を柔軟に考えていく必要性にも言及した。

 検討会は年内に2回ほど開催。県は検討結果を早ければ来年度予算に反映していく考えだ。

(医療タイムス、長野、2007年8月29日)

*** 医療タイムス、長野、2007年9月25日

助産師外来研修会の参加対象者で意見分かれる

県助産師支援検討会

 「県助産師支援検討会」(座長・坂口けさみ信大医学部保健学科教授)は21日、2回目の会合を開き、来年1~2月に開催予定の「助産師外来研修会」の実施内容や対象者の範囲などについて意見交換した。研修内容は超音波検査を主体とすることで意見が一致したが、対象者に関しては、助産師外来の早急な設置が必要な産科医療機関の助産師のみを対象とするべきか、潜在助産師を含めた全助産師を対象とするかで意見が割れた。次回以降の会合で引き続き検討し、研修会の早期実施につなげたい方針だ。

 研修内容は、超音波検査をメーンとし、医療機関によって所見基準や判断方法が異なるNST(ノンストレステスト)などを補足講習する方向性を確認。しかし、参加対象者については県内産科医療機関の置かれている状況に差異があるとし、話し合いは平行線となった。金井誠委員(信大医学部産婦人科講師)は、一部の医療機関では「産科医の疲弊が待ったなしのところまで来ている」とし、まずはこうした医療機関の助産師を対象とした研修会を実施すべきと主張。これに対し、保谷ハルエ委員(日本助産師会長野県支部長)や小海保美委員(県看護協会助産師職能委員)らからは、「潜在助産師の掘り起こしや現場にいる助産師全体のレベルアップを図る必要がある」との意見が出た。このため、具体的な研修会内容については、次回以降の会合で引き続き検討を重ねていくこととなった。

 このほか、県内の産科医療機関44施設で助産師外来を設置している施設が14ヵ所にとどまっていることから、坂口座長は検討会による助産師外来開設のガイドラインを作成する考えを示した。同様のガイドラインは、岩手県医師会ですでに作成されており、医療機関の助産外来の設置に役立っているという。

 坂口座長は、研修会の実施について「安全な産科医療を提供する上で、技能レベルの標準化は必要不可欠」とし、今後は助産師外来の導入理由の明確化を検討していくとしている。

(医療タイムス、長野、2007年9月25日)


臨床研修の経費を補助へ/長野県

2007年09月25日 | 地域医療

地域中核病院の研修体制を整備し、多くの若い医師達に臨床研修の場として選んでもらえるような良質の研修環境を作り上げていくことが大切です。

将来的には、地域中核病院から地域の病院に医師を定期的に派遣できるくらいにまでなれば、地域の医師不足の解消にもかなり貢献できる筈です。

しかしながら、若い医師の育成には非常に長い年月を要しますし、若手のうちはいろいろな病院で修業を積み重ねていく必要があって、一つの地域中核病院だけの研修では不十分です。

医師養成大学と地域中核病院とが緊密に連携・協力して、地域における臨床研修体制を整備し、医師の病院間の流動性も活発化して、地域医療の流れをいい方向に変えていく必要があります。

**** キャリアブレイン・ニュース、2007年9月21日

臨床研修の経費を補助へ/長野県

 地域医療に従事する医師の確保を図るため、長野県は 9月21日までに、臨床研修病院の研修医の確保などにかかる経費を補助する制度「臨床研修病院緊急支援事業補助金」を新設することを明らかにした。補正予算は2,785万円。今年度から3年間実施する。

 同制度の対象となるのは国立・県立を除く22の臨床研修病院。1病院に対して支給されるのは、広報宣伝や研修医の学会参加、備品や図書の購入などにかかる経費100万円と、上限を10人までとして、後期臨床研修1年目の研修医1人当たり15万円となる。

(以下略)

(キャリアブレイン・ニュース、2007年9月21日)


「お産の受け皿を確保を」上伊那医療問題研究会 (長野日報)

2007年09月21日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

上伊那医療圏の年間分娩件数は約1600件程度で、従来は、この地域のほとんどの分娩を伊那中央病院(約1000件)と昭和伊南総合病院(約500件)の2つの基幹病院で担ってきました。

来年の4月からは、この地域の主な分娩施設が伊那中央病院だけとなってしまう情勢にあり、これからの半年間で、この地域の産科医療の新しい体制を築き上げていく必要があります。

地域内で助け合い、連携・協力して、この危機的状況をみんなで乗り切っていく必要があります。また、近隣の医療圏との緊密な協力関係を構築することも非常に大切だと思います。

****** 長野日報、2007年9月20日

「お産の受け皿を確保を」上伊那医療問題研究会

 上伊那広域連合や市町村、公立3病院の事務担当者らでつくる上伊那医療問題研究会は18日夜、伊那市の駅前ビルいなっせで第2回会合を開いた。来年4月から昭和伊南総合病院(駒ケ根市)が産婦人科を休止する問題で、対応策として伊那中央病院(伊那市)が施設改修してお産の受け皿を確保するのが望ましいとし、上伊那医療圏全体の問題として施設改修費を同病院だけに負担させない考え方も確認した。

 伊那中央病院側は、施設改修に伴う建築費などの試算を示した。里帰り出産の受け入れ制限を前提に、病棟を改修(陣痛待機室と分娩=ぶんべん=室増設)し、外来診察室を増築する。建築費は1億200万円。職員は医師1人、看護師2人、助産師2人を増員する。患者増加に伴う収入から職員人件費などを差し引いた収支は200万円余の黒字と見込んだ。

 協議で、施設改修は、昭和伊南を運営する伊南行政組合構成4市町村からも実施の要望が相次いだ。費用負担をめぐり一部に「施設改修の必要性と(上伊那)各市町村の負担は別問題」「基本的に病院が費用負担するのが筋」との異論も。伊那中央病院側は運営者の伊那中央行政組合構成3市町村住民の「里帰り出産まで断らざるを得ない」事態の深刻さを強調した。

 費用負担に関し、小坂樫男伊那中央行政組合長(伊那市長)は県に支援を要請する考えだが、県伊那保健所は「県の財政支援は現行制度がない」と説明した。

 昭和伊南に対し、お産に関して来年4月以降の方向性を早く示してほしいとの意見もあった。取材に対し、同病院は「原則として健診は昭和伊南、お産は伊那中央でという方向で調整中」(倉田晋司総務課長)と話した。

 研究会は8月末に発足。夜間診療所開設も研究しており、結論が出次第、正副連合長に報告する。

(長野日報、2007年9月20日)

****** 伊那毎日新聞、2007年9月20日

伊那中央病院の施設改修の必要性を確認

上伊那医療問題研究会(2)

 地域の安定的な医療確保を図るため、医療問題を研究し、解決案を検討する上伊那医療問題研究会の第2回会議が18日夜、駅前開発ビル「いなっせ」であった。医師不足に伴う産科問題対応で、伊那中央病院(伊那市)の施設改修の必要性を確認した。

 来年4月、昭和伊南総合病院(駒ケ根市)の常勤産科医がいなくなることから、産科診療を休止せざるを得ない状況で、受け皿として中病が施設整備を検討。陣痛待機室や分娩(ぶんべん)室の増設、監視モニターの設置など病棟改修に加え、パンク状態になっている外来診察室を増築する必要がある。改修費用は1億200万円と試算する。

 中病を運営する3市町村以外の市町村関係者から「喫緊の課題。中病の増設をお願いしたい」「住民に不便を来たさないようにしてほしい」など改修を求める声が挙がった。

 施設改修に対する県の財政支援はない。費用負担は課題で、中病だけに任せるのではなく、上伊那医療圏の問題として考えることにした。県にも助成を要請していく。

 昭和病院は来年4月以降、非常勤医師が検診で対応し、中病で出産する方法を調整中。院内産院設置の可能性も検討しているが「医師がいないと難しい」としている。

 委員は公立3病院事務長、各市町村担当課長、上伊那医師会事務長らで、今回から消防組合関係者を加えた。

 次回は10月上旬を予定している。

(伊那毎日新聞、2007年9月20日)

****** 信濃毎日新聞、2007年9月20日

伊那中央病院の施設増設を了承

 上伊那の医療問題を話し合う、上伊那広域連合の医療問題研究会は18日夜、2回目の会合を伊那市内で開いた。

 昭和伊南総合病院(駒ケ根市)が来年4月から出産の扱いを休止するのに伴い、伊那中央病院(伊那市)が検討している産科施設増設を了承。その費用負担については意見が分かれたが、同病院を運営する伊那中央行政組合だけでなく、上伊那の全市町村で負担することを事務レベルで申し合わせた。

(信濃毎日新聞、2007年9月20日)


未受診で出産、高いリスク=子の死亡18倍、未熟児4倍-日本医科大分析 (時事通信社)

2007年09月18日 | 地域周産期医療

妊婦検診を受けずに病院に救急搬送されるなどした出産例の場合は、周産期死亡率は全国平均の17.6倍、2500グラム以下の低出生体重児は全国平均の約4倍の頻度だったという調査結果の記事です。

分娩施設が減少し続けていて、分娩場所の確保がだんだん難しくなっています。切実な問題として、妊娠の初期に産婦人科を受診して、分娩する施設を確保しておく必要があります。自分が希望する分娩施設でお産をしたいと思っても、初診時に、「この月はすでに分娩の予約を締め切りました。」と言われてしまったら、他の病院を探すしかありません。

また、急変時に救急車を呼んでも、妊婦検診を受けてない場合は、妊娠経過などの状況が全くわからないので、場合によっては、受け入れてくれる医療機関がなかなか決まらない可能性も高くなってしまうかもしれません。

きちんと妊婦検診を受けることの重要性を啓蒙していく必要があります。

****** 時事通信社、2007年9月15日 

未受診で出産、高いリスク=子の死亡18倍、未熟児4倍-日本医科大分析

 妊婦検診を受けずに出産した場合、子の死亡率が通常の約18倍に上るなど非常にリスクが高いことが15日までに、日本医科大多摩永山病院の分析で分かった。

 救急搬送先が決まらず死産した奈良県橿原市の妊婦も、検診を受けておらず、この問題が注目されていた。中井章人教授は「検診の重要性を再認識させる結果だ。母子保健に関してさらなる啓発が必要」としている。

 同教授らは、妊婦検診を受けずに同病院に救急搬送されるなどした出産例を詳しく調べた。1997年1月から2006年1月までの9年間に34例あり、最年少15歳、最年長44歳。24歳以下の低年齢層が多く、24人が未入籍だった。

 このうち、死産と生後間もない死亡が各2例で、子の死亡は4人(12%)。妊娠22週から生後1週までの「周産期死亡率」は、全国平均の17.6倍だった。

 2500グラム以下の低出生体重児は12例(35%)で、約4倍の頻度だった。10例(30%)が、新生児集中治療室(NICU)への入院を要した。 

(時事通信社、2007年9月15日)

****** 読売新聞、2007年9月18日

急増する「飛び込み出産」

妊婦健診受けず、受け入れ拒否の一因に

 陣痛や腹痛を覚えて初めて救急車を呼んで医療機関に駆け込み、いわゆる「飛び込み」で出産する事例が増えている。

 その多くが、妊婦健診を一度も受けたことのない「未受診妊婦」という。各地で救急搬送中の未受診妊婦が受け入れを拒否されるケースが相次いでおり、専門家は「赤ちゃんと自分の健康のためにも、妊婦健診を受けて」と呼びかけている。

 医師不足が影響

 「今年になってすさまじい増え方です」。横浜市大付属病院産婦人科教授の平原史樹医師は、「飛び込み出産」がこのところ急増していると指摘する。

 神奈川県産科婦人科医会がこのほどまとめた調査によると、同県内8か所の基幹病院で扱った飛び込み出産は、2003年に20件だったのが04年28件、05年39件、06年44件と年々増加。今年は4月までで既に30件を超えており、年末には100件を超えると推計している。平原医師によると、飛び込み出産のほとんどが未受診妊婦だという。「産科病院や分娩(ぶんべん)施設が減り、医師不足のため健診を受ける機会も減っているため」と分析する。

 未受診妊婦は救急搬送されても妊婦・胎児の健康状態が把握しにくいため、受け入れを拒否されることが多い。8月末に奈良県で妊娠中の女性が病院に受け入れを断られ死産した事例では、かかりつけ医がいなかったことがわかっている。その後、北海道、宮城、千葉などでもかかりつけ医のいない妊婦の受け入れ拒否のケースが明らかになっている。

 9月7日、日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会の幹部が厚生労働省を訪れ、産科救急医療体制の整備や産婦人科医師不足への対策を舛添要一厚生労働大臣に陳情した。陳情書では未受診妊婦についても言及し、救急医療での対応を検討する必要がある、と指摘している。

 同学会の産婦人科医療提供体制検討委員会の委員長で北里大医学部教授の海野信也医師は「未受診妊婦の『飛び込み出産』は全国的に増えている。産科医療の現場では非常に困惑している」と指摘する。

 日本助産師会専務理事の加藤尚美さんによると、飛び込み出産につながる未受診妊婦は以前は出産を経験したことのある女性に多かったが、最近は〈1〉若年妊婦〈2〉外国人女性〈3〉経済困窮家庭――などに多い傾向があるという。「自分自身の健康へ関心が低いのも特徴」と指摘する。

 「命にかかわる」

 加藤さんは「健診を受けないことはお母さんの健康を損い、赤ちゃんの命にかかわる恐れがある。健診は必ず受けてほしい」と話す。そして「未受診妊婦を減らすためには、無料健診をさらに拡充するほか、若いころからの健康教育を充実させる必要があるでしょう」と話している。

 妊婦健診 流産や早産などを予防するため、妊娠週数に応じて問診や内診、胎児の超音波検査などを行う。出産までに13~15回受け、費用は自己負担で1回約5000円、血液検査や超音波検査を行うと1万~1万5000円かかる場合もある。国は原則2回分の健診費用を負担しているが、独自に負担軽減に取り組む自治体もある。

(読売新聞、2007年9月18日)


昭和伊南総合病院:来年度から分娩休止 駒ケ根市会、医師確保請願を採択/長野 (毎日新聞)

2007年09月16日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

今週の読売ウィークリー(2007.9.30)の記事(全国で〝お産難民〟50万人へ)を読むと、神奈川県では、現時点で、横浜・横須賀などを中心に「お産難民」が年間約900人発生していて、このままだと5年後に5888人、10年後に8412人の「お産難民」が発生する計算になるらしいです。

都会でも田舎でも、産科医療の状況はますます悪化しています。地域で助け合い、連携・協力して、この危機的状況を乗り切っていく必要があります。また、近隣の医療圏との緊密な協力関係を構築することも非常に大切だと思います。

産科医や助産師は、日本全国どこでも不足して困っているわけですから、根本的には、地道に若手医師や若手助産師を育成して、将来、産科医療に中心的に携わって大活躍してくれる仲間を少しづつ増やしていくしかないと思います。

****** 毎日新聞、9月15日

昭和伊南総合病院:来年度から分娩休止 駒ケ根市会、医師確保請願を採択 /長野

 年間約500件の出産を扱う昭和伊南総合病院(駒ケ根市)はこのほど、来年4月から分娩(ぶんべん)受け入れを休止することを公表した。同病院に医師を派遣している信州大が医師を引き揚げるためで、人口約5万人の伊南地域から分娩ができる施設がなくなることになった。この事態を受け、駒ケ根市の住民らは今月上旬、医師確保を求める請願書を同市議会に提出。同市など周辺4市町村の議会も県に対策を求める意見書を採択するなど、お産の場を守ろうとする動きが活発化している。【神崎修一】

 「お産に不安を抱く人が多い」「奈良県の病院であったような受け入れ拒否も人ごとではない」。14日行われた駒ケ根市議会の一般質問。議員からは地元から分娩施設がなくなることを危ぐする声が相次いだ。中原正純市長は「子どもを育てようとする人たちに大きな不安をもたらす結果となり、深刻に受け止めている」と答弁。今後の対策については「伊那中央病院(伊那市)に医師を増員してもらうよう県に要望していきたい」と話すにとどまった。

 ◇強化指定はずれ、信大が引き揚げ

 医師不足の深刻化を受け、県の産科・小児科医療対策検討会は今年3月、医療資源の集約化、重点化の必要性を提言。各医療圏の中心病院を重点化対象の「連携強化病院」に指定した。上伊那地域では伊那中央病院が連携強化病院に指定され、昭和伊南総合病院はその他の「連携病院」とされた。これを受けて信州大は「医療の質を保つため」などとして同病院からの医師2人の引き揚げを通知していた。

 来年度以降は駒ケ根から10キロ以上離れた伊那中央病院が上伊那地域のお産を担うことになる。昭和伊南総合病院の倉田晋司総務課長は「医師確保に動いたが、うまく行かなかった」と話す。

 ◇「動かないと間に合わない」

 同市議会初日の4日、子育て支援団体代表の須田秀枝さん(46)らは、産科医確保を求める請願書を議会に提出し採択された。請願書では「このままでは駒ケ根市を中心に“お産難民”が100人は出る。集中化だけ行われると、あってはならない事故にもつながる」と指摘。須田さんは「ここで動かないと間に合わない。議会を通じて私たちの思いを伝えたかった」と説明する。須田さんらが今月5日に同市内で開いた勉強会には約150人が参加。市民の関心も高まっている。

 駒ケ根市など周辺4市町村議会は14日までに、県に対し医師確保を求める意見書を可決。今月中にも村井仁知事に陳情を行うという。10日の飯島町議会では、子どもを連れた母親などが熱心に傍聴する姿が見られた。同町の主婦、下平まち子さん(59)は「みんな心配している。自分たちの問題として取り上げてもらえるよう、子育てサークルなどにも働きかけたい」と話していた。

(毎日新聞、2007年9月15日)

****** 信濃毎日新聞、2007年9月15日

県が臨床研修病院を緊急支援 医師不足対策で

 村井知事は14日の記者会見で、医師不足の緊急対策事業として、研修医を受け入れる県内病院への補助制度を新設すると明らかにした。病院の研修態勢を整えることで、大都市圏に集中しがちな研修医を県内に呼び込む狙い。9月県会に提出する本年度一般会計補正予算案に、関係費用2700万円余を盛り込む。

 補助制度は、医師の臨床研修を受け入れる県内の病院(国立、県立を除く)が対象。研修医募集の広報活動や病院の研修プログラム充実、研修医の学会などへの参加経費、研修医宿舎の借り上げ経費など、受け入れ態勢の整備に対し、1病院当たり年100万円を上限に補助する。

 さらに、専門研修(後期研修)1年目の研修医を受け入れる病院については、1病院10人を上限に1人当たり15万円を上乗せする。いずれも2009年度までの時限的な事業とする。

 地方で深刻化している医師不足は、04年の新臨床研修制度の導入で、自由に研修先を選べるようになった研修医が都市部に流れていることがあるとされる。

 会見で知事は「2年の初期研修を終え後期研修に入った医師は一人前。後期研修医を増やすことは、不足する医師を増やすのと同じ価値がある」と説明。県は、既に制度化している医学生への修学資金援助や、県外から県内に就職する産科、小児科、麻酔科医を対象にした研究資金貸与制度と合わせ、県内への医師定着につなげていきたい考えだ。

(信濃毎日新聞、2007年9月15日)

****** 毎日新聞、2007年9月15日

医師不足:医師確保へ補助金 県、補正案に2785万円盛る /長野

 県は14日、県内の医師確保を目的とした補助金制度「臨床研修病院緊急支援事業補助金」の新設を明らかにした。同日の知事会見で発表した。補正予算案に2785万円を盛り込み、9月定例議会で認められれば今年度から3年間実施する。

 同制度は医師不足で悩む県内病院に研修医を呼び込み、医師確保につなげるための環境整備事業支援として実施する。対象になるのは研修医を受け入れている臨床研修病院(国立と県立を除く)。広報宣伝や研修医の学会参加費、図書購入などの経費に対して100万円を補助し、後期研修1年目の研修医1人当たり15万円(上限10人)を病院に支給する。

 県医療政策課によると、県内で研修医を受け入れている病院は28病院。村井仁知事は「医師からも研修医を受け入れる環境を整えてほしいとする指摘があった。医師確保のためにはなりふりかまわずやると言ったが、今回はその一端だ」と話した。【藤原章博】

(毎日新聞、2007年9月15日)


周産期医療の提供体制

2007年09月13日 | 地域周産期医療

まず、各医療圏ごとに、周産期医療(小児科・産科)の1次医療および2次医療の提供体制をしっかりと整備する必要があります。患者さんは最初に1次医療施設(診療所など)を受診し、そこで対応できない症例は2次医療施設(地域の基幹病院など)で対応します。

たいていの症例は、医療圏内の1次または2次の医療施設で対応可能だと思いますが、地域の2次医療施設では手に負えない症例の場合は、速やかに3次医療施設(総合母子医療センター、大学病院など)に搬送されて、集中的な治療を受ける必要があります。

1次医療施設も、2次医療施設も、3次医療施設も、それぞれの大切な役割があり、緊密に連携して、それぞれの地域内における機能を果たしていく必要があります。そのどれが欠けても、全体としてうまく機能しなくなってしまいます。

勤務する医師達が激務で全く余裕がないような病院では、医師の誰か1人が倒れただけで病院全体の機能が停止してしまう恐れもあります。一つの病院の破綻は、周辺の病院にも非常に大きな影響を及ぼします。一つの医療圏の医療崩壊の影響は、周辺の医療圏に次々に波及していきます。

今は、多くの病院で医師が不足しギリギリの状態で頑張っていて、余裕がほとんどありません。医師の退職や産休など、何かをきっかけにして、簡単に県全体の周産期医療システムが破綻してしまうようでも困ります。ですから、何とかして各病院の医師数を増員して十分な余裕をもたせる必要がありますし、医師不足で機能不全に陥りかけている病院に医師を派遣して救済するような世の中の仕組みを作ることも必要だと思います。

****** 医療タイムス、長野、2007年9月12日

小児科・産科の医療提供体制案を提示 県保健医療計画ワーキング

 県保健医療計画策定委員会の「小児医療、周産期医療、精神医療、医師・看護師等医療従事者確保ワーキング」は11日、県が示した計画素案を議論した。小児医療と周産期医療については、今年3月の「県産科・小児科医療対策検討会」の提言をもとに、医療圏ごとに一般小児医療や正常分娩、初期小児救急、地域周産期医療、小児専門・入院救急、総合周産期医療などを担う医療機関名を記載した医療体制案を示した。

 小児医療体制案では、「一般小児医療・初期小児医療(平日昼間)」、「初期小児救急(夜間・休日)」、「小児専門・入院救急」の3つの機能を担う医療機関名を明示している。「一般小児医療」には小児科を標榜する診療所や一般病院小児科、「初期小児救急」には各地域に設置されている夜間急病センターなどをそれぞれ明記。「小児専門・入院救急」は、「産科・小児科医療対策協議会」の提言で「連携強化病院」として記載された佐久総合、国立長野、諏訪赤十字、伊那中央、飯田市立、国立松本、長野赤十字、北信総合の8病院を明記。また、県全体の高度な小児専門医療や救命救急医療を担う病院としては、信大病院と県立こども病院を記載した。

 このほか、素案では、厚生労働省の調査で県内の小児科医が増加傾向にあるとのデータが示されていることに対し、「地域住民の要望に応えられるような小児科専従医の絶対的不足がある」との問題意識も示している。

 素案の作成に携わった坂井昭彦委員(波田総合病院名誉院長)は、「(小児医療を)簡単に重点、集約化できない地域もあるが、長野県の小児医療をなんとか全国に負けない体制にすることにポイントを置いた」と説明した。

助産師の活躍に期待感

 周産期医療に関しては、産科医不足が深刻化している中、「目指すべき方向」として「個々の医療機能、それを満たす医療機関、さらにそれら医療機関相互の連携により、対応する分娩のリスクに応じた医療が提供される体制を構築する」を掲げ、「数値目標」としては「県内で分娩を希望する者の全ての分娩に対応(分娩制限を行わない)」と明記した。具体的な周産期医療体制としては、医療圏ごとに「正常分娩など」、「地域周産期医療」、「総合周産期医療」、「療養・療育支援」の4機能を担う医療機関名を明示している。

 「正常分娩など」は、産婦人科を標榜する一般病院や診療所、助産所を明記。「地域周産期医療」は、「産科・小児科医療対策協議会」の提言で「連携病院」と「連携強化病院」に指定された32病院のうち、19病院が記載された。また、「総合周産期医療」は信大病院と県立こども病院が担い、「療養・療育支援」は小諸高原、信濃医療福祉センター、中信松本、稲荷山医療福祉センター、東長野の各病院が担うこととした。

 会合で小西郁生委員(信大医学部産婦人科教授)は、県立こども病院を中心とした本県の「周産期医療システム」を高く評価。このシステムを継続していくことの重要性を訴えたほか、助産師の活用を推進していく必要性を強調した。

 こうした提案に対し、清水久美子委員(篠ノ井総合病院看護部長)は「産科医が疲れないように、助産師が協力できることはしていくべき。エコーの使い方などを研修できる体制を整えることが必要」と述べ、先ごろ発足した「県助産師支援検討会」に期待感を示した。また、勝山努ワーキンググループ長(信大病院長)も「助産師支援事業は非常に意義があること。医療計画にしっかり書き込むべき」とした。

 このほか宮坂勝之委員(県立こども病院長)は、本県独自の無過失補償制度などを含めた「産科医の責任問題を解決するシステム」の導入を提案。産科医が安心して勤務できる態勢の必要性を訴えた。

(以下略)

(医療タイムス、長野、2007年9月12日)


愛知・知多市民病院が産科診療休診へ 来年4月から、常勤医実質ゼロに (中日新聞)

2007年09月11日 | 地域周産期医療

****** 中日新聞、2007年9月11日

愛知・知多市民病院が産科診療休診へ 来年4月から、常勤医実質ゼロに

 愛知県知多市民病院(13科、300床)が産婦人科の医師不足を理由に10月から妊婦の受け入れを制限し、来年4月から当面、産科診療を休診することが分かった。名古屋大が派遣医師の引き揚げを決めるなど、常勤医が実質的にゼロになる公算が大きくなったため。各地で相次ぐ医師不足は、地域の公立病院で出産ができなくなる異常事態に発展している。

 常勤医は現在3人。いずれも名大が派遣しているが、このうち2人を来年4月に引き揚げる方針が示されたという。残る1人も9月18日に自身の産休に入り、育休を取る可能性が高いという。

 同病院は「産科が継続できず残念だ。常勤医の確保に向けて名大の医局と交渉を続けたい」としているが既に3度ほど引き揚げの方針変更を求めて断られた経緯があり、見通しは厳しい。非常勤の医師のみの態勢で婦人科診療は継続する方針。

 同市の出生届は2006年度で828人。これに対し、同病院の分娩(ぶんべん)数は06年度が166件。07年度は7月末までに68件と例年より多いペースで推移。産婦人科の外来スペースを7月末に約1・3倍に拡張したばかりだった。

◆愛知では04年度以降10カ所目 産科医不足背景に過酷勤務

 中部6県(愛知、岐阜、三重、滋賀、福井、長野)では、出産の取り扱いを休止する病院施設が、最近6年間で少なくとも63施設(予定を含む)に上ることが、中日新聞の調べで分かった。

 山間地を抱える長野で21施設、岐阜で19施設と多いが、愛知県でも2004年度以降、知多市民病院で10カ所目を数える。このうち公立病院は、稲沢市民病院、尾陽病院、新城市民病院に続き4カ所目。

 今回、知多市民病院から産科医を引き揚げる名大医学部の吉川史隆教授は「他の重要度の高い病院で産科医が足りなくなり、異動させざるを得なくなった。知多半島には小規模病院が乱立しており、統廃合の必要もあった」と説明。04年度から始まった新臨床研修制度の影響にも触れ、「一部の人気病院に研修医が集まってしまい、産科医の絶対数も減り、産科医を補充できない病院が増えた」と明かした。

 背景は産科医不足。愛知県産婦人科医会の成田収会長は「産科医のなり手がいなくなったのは、医療訴訟と過重勤務の影響」と指摘。訴訟リスクを避けようと、中小病院がわずかな危険性しかない出産でも中核病院へ回すケースが増え、特定の病院の勤務環境が一層過酷になったという。

 愛知県は、出産後の後遺症などを国が補償する無過失補償制度の創設を、国に要望。同県医師会はドクターバンク制度を設け、医師の求人や求職の情報を集約しているが、産科医不足の解消には至っていない。

(中日新聞、2007年9月11日)

****** 毎日新聞、2007年9月11日

医療クライシス:がけっぷちの産科救急/5 

増員予算、改善に不可欠

 ◇医師数抑制策、変えぬ国

 奈良県五條市の高崎実香さん(当時32歳)が、19病院に受け入れを断られた末に死亡してから1年。先月には同県橿原市の女性(38)が9病院に断られ、搬送中に死産した。搬送先探しに苦労する例は各地で起きているが、何が原因なのか。

 厚生労働省の研究班が全国の新生児医療施設を対象に行った調査では、「長期入院児の存在が、新生児集中治療室(NICU)の新規入院受け入れに影響している」と考える施設が70%に上った。症状安定後に受け入れる後方支援施設が不足し、NICUに長期入院せざるを得ない子どもが少なくないためだ。研究班の梶原真人・愛媛県立中央病院総合周産期母子医療センター長は「後方支援施設の充実が急務だ」と指摘する。

 代表的な後方支援施設である重症心身障害児施設は04年10月現在、全国に182施設ある。しかし、「旭川荘」(岡山市)の末光茂理事長は「重心施設は重症児患者の診療報酬がNICUの約3分の1。受け入れれば受け入れるほど運営が厳しくなる。せめて2分の1までの引き上げを厚労省に要求しているが、実現しない」と訴える。医療スタッフ集めにも苦労が絶えないという。

   ■   ■

 76年に日本初の五つ子が誕生した鹿児島市立病院。新生児センターは80床あり、うち36床がNICUで国内最多だ。同病院周産期医療センターの茨聡(いばらさとし)部長は「搬送受け入れを断ることはほとんどない」と話す。しかし、紆余(うよ)曲折もあった。

 新生児センターは78年に40床でスタートした。81年には60床になったが、高齢出産や不妊治療などの影響で未熟児が増加し、慢性的なベッド不足に。スタッフは満足に休みも取れなくなった。

 そんな中、地元の産婦人科開業医らが署名活動を展開。約12万人分の署名を添え、97年に市議会や県議会へ要望した結果、必要な予算が可決された。20床増床され、医師は5-6人から14-15人に、看護師も50-60人から120人に増えた。全国最低レベルだった早期新生児死亡率が、02年には出生1000人に対し0・6人という最高レベルになった。

 茨部長は「周産期医療の充実は、新生児の命を救うだけでなく、将来を担う人材を育てることになる。行政は必要な予算を投じることを真剣に考えるべきだ」と話す。

   ■   ■

 橿原市の女性が死産したケースで、救急隊からの2度の受け入れ要請に対応できなかった奈良県立医大病院産婦人科。同病院によると、産婦人科には当時、2人の医師が当直していたが、1回目の依頼は、陣痛で緊急入院した患者の診療中だった。緊急帝王切開手術を終えたばかりの患者の対応にも追われていた。その後、破水のため患者が緊急入院し、分娩(ぶんべん)後に大量出血した患者の搬送依頼も受けている時に、2回目の依頼が来た。2人は一睡もせず対応を続け、そのまま日中の通常業務に入ったという。

 毎日新聞の全国調査で、各地の周産期母子医療センターが求める対策で最も多かったのは「医師増員」だった。日本の人口10万人当たりの医師数は経済協力開発機構(OECD)加盟国中最低レベル。しかし、国は医師数抑制策は変えず、現場の悲鳴に応える様子はない。

(毎日新聞、2007年9月11日)

****** 共同通信、2007年9月5日

「箱あっても医師不足」 妊婦死産で不備鮮明に 過酷勤務の現場に悲鳴

 奈良県橿原市の妊婦の搬送先が決まらずに死産してから、5日で1週間。昨年に妊婦が約20の病院に転院を断られ死亡したケースに続き、県の周産期医療体制の不備が鮮明になった。

 県は遅れている総合周産期母子医療センターの整備を急ぐが、関係者からは「箱だけつくっても現場にしわ寄せが来るだけ」との声も。産科医不足が医療現場に深刻な影を落としている。

 「産婦人科の当直医は過酷な勤務状況だった」。計3回にわたる妊婦受け入れの要請に応じなかった奈良県立医大病院は8月31日、ホームページ上でこう釈明した。

 要請のあった29日未明は、当直医が2人。破水で緊急入院した女性らの対応に追われ、2人とも一睡もせず、その後も仕事を続けたという。

 県は24時間態勢でハイリスク妊婦らに対応するセンターの整備で問題の解決を図る意向だが、本格的な運用には、あと6人の産婦人科医の確保が必要という。

 他の自治体も例外ではない。岐阜県は本年度中に総合周産期母子医療センターを立ち上げる予定。十分な当直体制には、医師が1人足りない。

 センターに指定されている大分県立病院(大分市)は、産婦人科医6人がそれぞれ月5回の当直を1人きりでこなす。急患が2人運ばれると対応が困難に。ある医師は「せっかくのネットワークも機能しない。奈良のケースは起こるべくして起こった」と憤る。

 厚生労働省の統計では、産婦人科医は1994年に約1万1400人。2004年までに約1万600人に減った。日本産科婦人科学会は「過酷な長時間勤務の解消には、今の2-3倍の数が必要なのに」と嘆く。

 うち女性は、この間に約1500人から約2300人に増えたが、自らの出産などで離職者も多い。同学会「女性医師の継続的就労支援委員会」の桑江千鶴子(くわえ・ちずこ)委員長は、産婦人科医の減少を食い止めるため「女性が現場に長くいられるよう、職場や家族が支援することも必要だ」と訴えている。

▽奈良の妊婦死産

 奈良の妊婦死産 奈良県橿原市の妊婦が8月29日午前2時45分ごろ、買い物中に腹痛を訴えて知人が119番。救急車が出動したが、県立医大病院など奈良県や大阪府の9施設が受け入れなかった。搬送中の午前5時ごろに車内で破水。救急車は大阪府高槻市で事故に遭った。その後も最終的に受け入れた高槻病院を含め3施設が対応せず、病院到着まで約3時間かかり、胎児の死亡が確認された。

(共同通信、2007年9月5日)

****** 信濃毎日新聞、2007年9月6日

須坂病院のお産継続求め「望む会」 母親らが設立

 県立須坂病院(須坂市)が産科医不足で来年4月からお産の受け入れを休止する方針を示したのを受け、須高地区の母親らが5日、「地域で安心して子供を産み育てることができることを望む会」を設立した。「遠くの病院へ行くのは肉体的、精神的に大変な負担」といった訴えが相次ぎ、受け入れ継続を求める署名集めや勉強会開催に取り組むことを確認した。

 須坂市の旧上高井郡役所で開いた設立総会には子育てサークル代表や助産師、住民ら約70人が出席し、意見交換した。

 未熟児を出産した経験がある須坂市内の女性は「異常分娩(ぶんべん)で出産せざるを得ない場合もある。地元の総合病院に産科があることが大切だ」と強調。妊娠中毒症の経験があるという別の女性は「救える命を救うために須坂病院に産科は必要だ」と訴えた。

 望む会の代表委員で妊娠9カ月の主婦、長井千恵美さん(36)=上高井郡小布施町東町=は「受け入れ休止で、子どもがほしいと思っている夫婦の考えにも影響が出る。少子化対策や子育て支援には、安心して産める環境が必要だという声を上げたい」と話していた。

 同病院では、産婦人科常勤医2人のうち1人が交通事故で右肩を痛め、出産に対応できない状況。残る1人の負担が重く、新たな医師を確保できるめどが立たないため、8月27日にお産の受け入れ休止を発表した。

(信濃毎日新聞、2007年9月6日)

****** 長野日報、2007年9月6日

昭和伊南総合病院の産科休止問題 駒ケ根で勉強会

 駒ケ根市の昭和伊南総合病院が来年4月から産科の休止を余儀なくされている問題で5日、市子育てサークル連絡会が同市駅前ビルアルパで勉強会を聞いた。会員や市民ら約150人が出席。同病院の千葉茂俊院長と、上伊那助産師会副地区長の武村博美さんから病院の状況や今後の対応、助産事業などについて聞き、市民としてできることについて考えた。

 8月初旬に開いた連絡会で、関係者を招いて勉強会を行うことや、市議会に同病院の産科医師確保などを求める要望を行うことを決め、これを受けて開いた。市議会への請願は4日に採択されている。

 千葉院長は産科の医師が全国的に不足している背景について国や県の方針、医者側の事情なども踏まえて説明。出産難民が出現するのは避けられない―とした上で、「来年4月以降、昭和伊南に助産師外来を設けたい」と述べた。また産科の休止は永久的なものではなく、休止の間は伊那中央、飯田市立と一部カルテの共有なども行いながら対応したい―とした。

 武村さんは、伊那中央で長年助産師をした経験を基に語った。この中で、上伊那地方には50人余の助産師がいること、3カ所の助産所で年40例(上伊那全体では年1600例余)の出産が行われているとし、「1人の助産師が見られるのは月3―4人。母子センターなども必要かもしれない」と提案した。

 出席者からは、「3人の子どもをみな助産院で産んだ。自然分娩(ぶんべん)できる人は積極的に利用し、産科医の負担を減らす協力を」との声があった。伊那中央と昭和伊南の連携について「昭和から引き揚げる2人のうち1人は伊那中央に配置し、連携強化を」との意見に千葉院長は、「要望はしていくが、伊那中央へ1人増員され5人になると決まったわけではない」と説明。伊那中央もぎりぎりの産科診療を行っている―とした。

 会場には、娘の里帰り出産を心配して訪れたとみられる年配の女性たちの姿も目立った。同連絡会のメンバーで、ファミリーサポートぐりとぐら代表の須田秀枝さんは、「誰かやどこかを責めるのではなく、私たちにできることに前向きに取り組まなければ」と話していた。

(長野日報、2007年9月6日)


「出産の場」さらに狭く 昭和伊南病院で産科医引き揚げへ (朝日新聞)

2007年09月09日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

数年前より、県外の大学から医師を派遣されていた産婦人科の多くが、地元大学への医師の引き揚げにより分娩の取り扱い休止を余儀なくされてきました。

最近になって、ついに、長野県の医師派遣の総元締めである信州大から医師を派遣されてきた基幹病院の産婦人科までもが、次々に分娩取り扱い休止に追い込まれる事態となってきました。

しかし、これはまだまだほんの事の始まりにしか過ぎないと多くの人が考えています。分娩を取り扱う施設の数は今後もどんどん減り続けるでしょうから、地域の産科施設としてこの世の中に生き残っていく限りは、施設の分娩件数が増え続けることは確実で、おそらく、将来的には施設の年間分娩件数が二千件とか三千件とかになっていくことも十分に予想されます。

いくら住民の署名を集めたり、国や県や大学などに請願書を提出したりしても、ほとんど何の効果もないと思われます。

施設の研修・指導体制を整備して、できるだけ大勢の産科医・助産師・新生児科医・麻酔科医などを集めて、将来にわたって持続可能な地域に密着した周産期医療チームを作り上げていくことを考えない限りは、将来的に地域の産科施設としてこの世の中に生き残っていくことがだんだん難しくなっていくと思われます。

****** 朝日新聞、2007年9月7日

「出産の場」さらに狭く 

昭和伊南病院で産科医引き揚げへ

駒ヶ根市議会 対策求める請願採択

 昭和伊南総合病院(駒ケ根市)に2人いる産科医が来年3月限りで県内の他の病院に移ることになり、これで昭和伊南での出産の取り扱いが来春以降、休止に追い込まれる事態になった。地元の駒ケ根市の母親たちは4日、安心して妊娠・出産できる具体策を求める請願書を市議会に提出し、採択された。とはいえ、即効性のある妙案は「里帰り出産」を断るぐらいしか見当たらないという。「出産の場」があちこちで狭められていく。 (田中洋一)

 上伊那地区で産科医のいる公立病院は現在、ともに一部事務組合が運営する伊那市の伊那中央(産科医4人)と昭和伊南(同2人)だけ。昭和伊南の千葉茂俊院長によると今年4月、医師を出している信州大から産科医の引き揚げ方針を通告された。理由について、信大医学部の金井誠講師(産科)は取材に「医師が急減する中で県内全体を見たとき、最悪の事態を避けるためのやむを得ない措置」と説明する。

 この少し前の3月下旬、県の「産科・小児科医療対策検討会」は、深刻化する産科・小児科医不足の対策として緊急避難的に医師の集約化・重点化を進めることを提言。上伊那地区では、伊那中央を「強化」する方針が示された。

 上伊那地区でのお産は年間1600件前後。うち昭和伊南が500件前後をになってきた。来春以降、この500件は「強化病院」の伊那中央に回らざるを得ない。伊那中央の薮田清和事務部長は「現状の産科医4人でもすでに勤務は過酷」と話し、せめて1人の増員を求めている。昭和伊南は、出産できなくても相談には応じられる窓口や、院内助産院の開設を検討している。両病院の苦肉の策が「里帰り出産」のお断り。上伊那地区で2割ある里帰り出産の受け入れを断る一方、伊那中央での産科医増員のほか、分娩室や入院ベッド増で受け入れ拡大を目指す。

 駒ケ根市の母親たちは、提出した請願書で「年100件のお産難民が生まれる恐れがある」と指摘。代表者の主婦、須田秀枝さん(46)は「受け入れ態勢が整わないうちに産科医を引き揚げる見切り発車は、何としても避けてほしい」とクギを刺す。全会一致で採択した市議会は、意見書を知事に提出する。

 医師不足に拍車をかけたのは、3年前に導入された国の臨床研修医制度。医学生が高度・専門医療を学べる大都市の有名病院を研修先や就職先に選ぶ傾向が強まった。「そのあおりで県内の医師不足が急に深刻になった」と、昭和伊南の福沢利彦事務長は話す。

 各地域で顕在化する産科医や小児科医の不足。県市長会は8月30日、産科医の集約では住民に不安を与えない配慮と対策を講じるための財政支援を、県と国に求める特別決議を採択している。

「奈良のような事例報告ない」 産科医不足問題で知事

 奈良県で先月、妊娠中の女性が救急搬送中に受け入れ先の病院が見つからず死産した問題で、村井仁知事は6日の会見で、県内では同様の事例報告はないとし、「患者をたらい回しするようなことが起きないよう対応している」と話した。

 県健康づくり支援課によると、県は00年、県立こども病院を高度な産科医療を提供する「総合周産期母子医療センター」として機能を整備するとともに、各地域の病院と連携させた「周産期医療システム」を構築。以来、他県への妊婦の搬送事例はなくなったという。

 村井知事は一方、産科医不足の問題は「トンネルの先に明かりが見えていない」として、今後も重点的に取り組むことを改めて強調。県立須坂病院で来年度以降の分娩取り扱いを休止せざるをえなくなった問題について、「薄氷を踏むような状況に私たちはいることを端的に示した。本当に大変なことになってしまった」との認識を示した。

 ただ県の研究資金貸与事業により、県外から産科医を含む4人の医師を確保できたと述べた。

(朝日新聞、2007年9月7日)


深刻化する産科医不足 助産師の活躍に期待

2007年09月07日 | 飯田下伊那地域の産科問題

今、全国的、全県的に、分娩を取り扱う施設がどんどん減っていて、残り少なくなった生き残っている産科施設に地域の妊婦さん達が集中する状況にあります。

生き残っている産科施設の仕事量はどんどん増えていますし、今後も生き残っていこうとする限り、施設の仕事量がどんどん増えていくのは確実です。従って、将来的に地域で産科施設として生き残っていくためには、今、産婦人科医、助産師、小児科医、麻酔科医などのマンパワーを早急に増強する必要があります。

全国各地の産科施設が相次いで閉鎖される度に、分娩取り扱い業務に関与できなくなってしまう助産師が大量に発生しています。彼女達の貴重なパワーを地域内で有効に活用することが非常に重要だと思います。

事態がここにまで至れば、『いかにして県内分娩施設の総崩れをくい止めるのか?』をみんなで真剣に考えなけれなならないと思います。

****** 中日新聞、2007年9月2日

深刻化する産科医不足 助産師の活躍に期待

 県内でも昭和伊南総合病院(駒ヶ根市)と県立須坂病院(須坂市)が来年4月からお産休止するなど、深刻化する産科医不足。飯田下伊那地方はいち早く医療機関の役割分担、職能集約化に着目し、独自の連携システムを構築したモデル地域だ。順調に機能しているが、妊婦の希望は「安心安全」と「心のケア」。妊婦と近い場所にいる、助産師の自立と職域拡大にも期待は大きい。(石川才子)

 飯伊地方のお産は、年間で約1800件。かつては13施設で取り扱っていたが、高齢化や医師不足により、2006年からは飯田市内の市立病院と2開業医(椎名レディースクリニック、羽場医院)だけ。医師1人あたりの出生数は、04年の156人から06年は260人に増える見込みで、県内でも突出している。

 連携して地域医療を守ろうと06年、カルテを共有化、お産は市立病院を核にし、妊婦検診は他の産科施設が担うセミオープンシステムを構築。3施設がお産を、松川町の下伊那赤十字病院と市内の3開業医(平岩ウイメンズクリニック、西沢病院、徳永病院)が妊婦検診を担当している。

 お産は順調というが、結果的に検診施設に妊婦外来が集中。医師は休み時間を削り、時間を延長して対応するが、妊婦からは「予約が取れない、待ち時間が長い、検診と出産場所が異なるのは不安」など苦情が増えた。

 市内の開業医で検診を受ける主婦(35)はいう。「命を託す医師との会話が少ないのが不満。忙しそうで、ちょっとした悩みも話せない。医師への信頼度が高い分、話すだけで安心できるのに」

 新たな問題も浮上した。来年4月以降は下伊那赤十字病院の常勤産科医がいなくなり、昭和伊南総合病院の妊婦受け入れも想定される。市立病院は金銭的損失を覚悟で医師派遣を検討するが、関係者は「それ以上は不可能。飯伊のシステム自体が崩壊する」と頭を抱える。

 少ない医師でシステムが機能する背景には、実際に赤ちゃんを取り上げる助産師の活躍がある。各医療機関から引く手あまたで、県内では開業助産師も徐々に誕生。日本助産師会県支部(保谷ハルエ支部長)は「開業助産師が取り扱うお産は年々増え、06年度は158人」という。

 飯田市の水嶋弘美さん(38)はお産施設に悩み、第2子を自宅出産した。「お産は、本当に死ぬほど大変。苦しんでいるときに励まし、支えてくれるのは助産師。医師の医療的なサポートも大切だけど、助産師の心のケアはもっと大切。ひとりの助産師がずっと担当してくれ、安心して産めた。」

(以下略)

(中日新聞、2007年9月2日)


奈良県の産科医療の最近の状況

2007年09月05日 | 地域周産期医療

****** 共同通信、2007年9月5日

「箱あっても医師不足」 妊婦死産で不備鮮明に 過酷勤務の現場に悲鳴

 奈良県橿原市の妊婦の搬送先が決まらずに死産してから、5日で1週間。昨年に妊婦が約20の病院に転院を断られ死亡したケースに続き、県の周産期医療体制の不備が鮮明になった。

 県は遅れている総合周産期母子医療センターの整備を急ぐが、関係者からは「箱だけつくっても現場にしわ寄せが来るだけ」との声も。産科医不足が医療現場に深刻な影を落としている。

 「産婦人科の当直医は過酷な勤務状況だった」。計3回にわたる妊婦受け入れの要請に応じなかった奈良県立医大病院は8月31日、ホームページ上でこう釈明した。

 要請のあった29日未明は、当直医が2人。破水で緊急入院した女性らの対応に追われ、2人とも一睡もせず、その後も仕事を続けたという。

 県は24時間態勢でハイリスク妊婦らに対応するセンターの整備で問題の解決を図る意向だが、本格的な運用には、あと6人の産婦人科医の確保が必要という。

 他の自治体も例外ではない。岐阜県は本年度中に総合周産期母子医療センターを立ち上げる予定。十分な当直体制には、医師が1人足りない。

 センターに指定されている大分県立病院(大分市)は、産婦人科医6人がそれぞれ月5回の当直を1人きりでこなす。急患が2人運ばれると対応が困難に。ある医師は「せっかくのネットワークも機能しない。奈良のケースは起こるべくして起こった」と憤る。

 厚生労働省の統計では、産婦人科医は1994年に約1万1400人。2004年までに約1万600人に減った。日本産科婦人科学会は「過酷な長時間勤務の解消には、今の2-3倍の数が必要なのに」と嘆く。

 うち女性は、この間に約1500人から約2300人に増えたが、自らの出産などで離職者も多い。同学会「女性医師の継続的就労支援委員会」の桑江千鶴子(くわえ・ちずこ)委員長は、産婦人科医の減少を食い止めるため「女性が現場に長くいられるよう、職場や家族が支援することも必要だ」と訴えている。

▽奈良の妊婦死産

 奈良の妊婦死産 奈良県橿原市の妊婦が8月29日午前2時45分ごろ、買い物中に腹痛を訴えて知人が119番。救急車が出動したが、県立医大病院など奈良県や大阪府の9施設が受け入れなかった。搬送中の午前5時ごろに車内で破水。救急車は大阪府高槻市で事故に遭った。その後も最終的に受け入れた高槻病院を含め3施設が対応せず、病院到着まで約3時間かかり、胎児の死亡が確認された。

(共同通信、2007年9月5日)

****** 産経新聞、2007年8月31日

妊婦たらい回し死産 悲劇生む産科医不足

 体調不良を訴えた奈良県橿原市の妊婦(38)の受け入れ先が見つからず死産となった問題は、救急隊が12の病院に延べ16回の要請を余儀なくされるなど、産科医不足という産科医療体制のもろさを改めて浮き彫りにした。少子化問題が国の将来を脅かす一方、産科医の確保には難題も多く「安心して産める体制」をどう築くかが改めて問われている。

 奈良県では昨年8月にも、分娩(ぶんべん)中に意識不明となった女性が19病院から転院を断られて死亡しており、“2度目の失態”となった。

 今回は11病院が受け入れを断り、最終的な搬送先となった高槻病院(大阪府)も1度は固辞した。「ほかに分娩が連続していた」「とても責任を持てる状況ではなかった」などが理由だった。

 奈良県立医大付属病院(橿原市)は3度の要請を断った。当直医2人が当時、他の患者の対応に追われていたからだ。県の担当者は「産科医が多ければ事態を防げたかもしれない」。

 奈良県の産科医療のセーフティーネットは、とりわけ低い。厚生労働省はハイリスクの重症妊婦を受け入れる「母体・胎児集中治療管理室」を今年度中に整備するよう都道府県に指示しているが、奈良を含む6県は未整備。奈良では来年1月の開設が間に合わず5月にずれ込む見通しだ。

 さらに、同県中南部では今年4月以降、休診などが相次ぎ、大規模病院の産科がゼロの状態。同県では昨年4月現在、産科医が75人しかおらず、県医務課は「人口に比べて、あまりの少なさにショックを受けた」。

 産科医不足は奈良に限ったことではない。厚労省の統計によると、医療施設に従事する産婦人科医は、複数の診療科を受け持つ医師を含めても16年末現在、1万555人で、医師全体の4・1%に過ぎない。「深夜呼び出しがあり、医療訴訟も多い産科は、荷重な労働やストレスが多く嫌われる」という。

 与謝野馨官房長官はこの日の会見で「日本の医療制度として欠けているところがある」、舛添要一厚労相も「省を挙げて全力で取り組むべき課題」と述べた。しかし、産科医不足の背景には産科が敬遠されるという根本的で深刻な問題もあり、万全の体制を築くまでの道のりは険しそうだ。

(産経新聞、2007年8月31日)


産科医不足 役割分担を急がねば

2007年09月05日 | 飯田下伊那地域の産科問題

最近は、産科病棟閉鎖のニュースがよく報道され、非常に大きな問題となっていますが、今はまだまだほんの事の始まりでしかないと多くの人が考えています。

残り少なくなってきた産婦人科医が、援軍もなく、補給路も絶たれ、少人数づつに分散したままで、各自の持ち場を死守している現在の状況が続けば、どの病院の産科も人手不足で継続困難となっていき、力尽きた病院から順番に産科閉鎖に追い込まれていって、結局は県内総崩れとなってしまうのかもしれません。

一面焼け野原になってしまって、ゼロから再出発して復興への道を模索するのも大変なことです。

県内総崩れへの道を、このまま、まっしぐらに突き進んでしまっても本当にいいのでしょうか?

****** 信濃毎日新聞、2007年9月3日

産科医不足 役割分担を急がねば

(略)

 全国的に産科医不足は深刻で、大学の医局に派遣を求めても、募集をしても医師はなかなか集まらない。国は医学部定員を増員する方針を打ち出したが、効果が見えるのは随分先の話になる。

 これ以上産科を減らさないためには、医師の負担を軽減するよう、役割分担を急がねばならない。

 一つは医療機関の連携だ。飯田・下伊那地区ではお産を主に飯田市立病院で、妊婦健診を他の病院や診療所で分担するシステムを行っている。妊婦にとって複数の病院にかかる負担はあるが、やむを得ない措置だ。地域の実情に合わせて、医療機関のネットワークを整えたい。

 二つ目は助産師がお産にかかわる場を広げることだ。正常産は助産師だけでも対応できる。医師に代わって妊娠の経過を診る助産師外来も広がってきた。

 県は助産師支援検討会を開き、本年度中に助産師対象の研修会を開く予定だ。超音波診断など助産技術の向上を図り、いずれは県内の病院でも助産師の介助で出産できる院内助産所を開設できるようにしたい。数は少ないが、開業助産所と医療機関の連携も大事になる。

 産科医は女性の割合が高くなっている。妊娠、出産をはさんでも働き続けられるよう、時短勤務やワークシェアといった工夫も必要だ。

(以下略)

(信濃毎日新聞、2007年9月3日)


周産期センター: 受け入れ要請3分の1を断る 05年度 (毎日新聞)

2007年09月03日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

『総合周産期母子医療センター』は、各県に最低1カ所の設置が求められています。総合センターの位置付けは、県の周産期医療の「最後のとりで」であり、総合センターから急変患者の受け入れ要請を断られた場合は、その患者さんの収容先として県外の施設も考慮しなければなりません。

『地域周産期母子医療センター』は、その地域(広域医療圏)における周産期医療の「最後のとりで」という位置付けであり、その施設から急変患者の受け入れ要請を断られた場合は、地域内にその患者さんの収容場所がもはや存在しないということを意味します。

現状では、『地域周産期母子医療センター』と県から指定されていても、制度的に財政的なメリットは何もありません。負担と責任ばかりが非常に大きく、何のメリットもない現行の制度下で、多くの地域センターにおいて、その機能の維持が難しくなっています。それどころか、最近では、地域センターの中にも、産科休止に追い込まれている施設が珍しくありません。

今、全国的に、多くの『総合・地域周産期母子医療センター』が重大な機能不全に陥りつつあります。センター機能維持のためには、国や県からの人的、財政的な支援も必要だと思います。

****** 毎日新聞、2007年9月3日

<周産期センター> 受け入れ要請3分の1を断る 05年度

 切迫早産などハイリスクの出産に対応する全国の総合・地域周産期母子医療センターで、05年度にあった受け入れ要請のうち、約3分の1は満床などのため対応できなかったことが、毎日新聞の調査で分かった。受け入れできなかった件数は、判明分だけで約3000件に達する。地域センターの中には、産科の休診などで機能していない施設があることも判明。医師不足の中、周産期医療(出産前後の母子への医療)の「最後のとりで」が十分に機能を果たせていない実情が浮かんだ。

 調査は、総合周産期母子医療センターと地域周産期母子医療センター計272カ所(2月現在)を対象に実施。05年度の搬送要請件数などについて尋ね、149カ所(55%)から回答を得た。

 その結果、記録が残っていた分だけで、母体の搬送要請が延べ9932件あったが、2916件は受け入れできなかった。要請のうち700件は都府県境を越えた要請で、半数を超える370件は受け入れできず、19病院に断られた昨年の奈良・大淀病院のようなケースが各地で発生していることをうかがわせる。

 受け入れできなかったケースで最も多い理由を尋ねたところ、「新生児集中治療室(NICU)が満床」が75カ所。「母体胎児集中治療室(MFICU)が満床」は16カ所、「診療できる医師がいなかった」は14カ所だった。

 受け入れ数を増やすために最も優先度が高い対策については、▽医師の増員60カ所▽NICUの増床56カ所▽後方支援施設を作る18カ所――の順。医師以外のスタッフ増員を求める回答も5カ所あった。

 また、地域センターの中に、ハイリスク出産を受け入れていないなど、事実上機能していない施設が16カ所あった。理由は「大学病院へ産婦人科医が引き揚げられていなくなった」(北海道立紋別病院)、「産科医が大学病院への引き揚げなどでいなくなり、産科を休止しNICUも閉鎖した」(東北厚生年金病院)、「小児科の常勤医が05年6月退職し、休診している」(天草中央総合病院)などだった。

 総合センターはMFICU6床以上、NICU9床以上などを備えた施設で、都道府県が指定。国は08年3月までに全都道府県で最低1カ所の設置を求めている。地域センターは、24時間体制で緊急帝王切開手術などに対応できる施設で、都道府県が認定する。 【五味香織、田村彰子】

(毎日新聞、2007年9月3日)

****** 毎日新聞、2007年9月3日

医療クライシス:がけっぷちの産科救急/1 周産期施設、名ばかり

 ◇医師確保厳しく、機能不全

 人けのない分娩(ぶんべん)室の片隅に、へその緒を留めるクリップや薬剤が封を切られることなく置かれていた。国立病院機構舞鶴医療センター(京都府舞鶴市)は、緊急帝王切開手術など比較的高度な周産期医療(出産前後の母子への医療)に対応する「地域周産期母子医療センター」に認定されているが、昨年4月から産科を休診している。産科の常勤医がいなくなったためだ。

 以前は50代の男性医師と、小さな子どものいる30代夫婦の医師の計3人が勤務していた。だが、リスクの高い患者の来院が多いうえ、3日に1回は当直で、勤務は過酷だった。

 女性医師は、我が子を集中治療室に寝かせながら夜間の緊急手術にも対応していたが、一昨年夏に辞めた。夫の男性医師も一昨年暮れに退職。残った50代の男性医師も疲れ果て、昨年3月にセンターを去っていった。

 同センターは、京都府北部の周産期医療の中核を担うはずの施設。常盤和明副院長は「はっきり言って異常事態。だが、医師は確保できず、再開の見通しは立っていない」と力なく語る。

   ■   ■

 厚生労働省は96年に定めた周産期医療システム整備指針で、リスクの高い母体の搬送など高度な医療に対応する「総合周産期母子医療センター」を、各都道府県で1カ所以上設置するよう求めた。地域周産期母子医療センターも、全国を358地域に分けた「2次医療圏」ごとに1カ所以上設けるよう勧めている。

 厚労省によると、総合センターは現在、41都道府県で67施設が指定され、地域センターも33都道府県で210施設(4月現在)が認定されている。しかし、舞鶴医療センターのように、名ばかりの施設も少なくない。

 京都府が地域周産期母子医療センターに認定している綾部市立病院もその一つだ。同病院産婦人科の上野有生主任医長は「1年半ほど前に突然、うちの病院が認定されると新聞に出てびっくりした。全く寝耳に水だった」と振り返る。

 認定されると、他病院からの母体搬送を受け、緊急手術などに対応しなければならない。当時、産婦人科の常勤医はわずか2人。小児科医も2人で、受け入れられる体制にはなかった。

 上野医長は「この人数で母体搬送を受け入れなければならないのかと府に問い合わせたが、『これまで通りのことをしてくれたらいい』との返答だった。母体搬送は今も受け入れていないが……」と困惑気味に話した。

   ■   ■

 舞鶴医療センターは現在、近くの産科から未熟児などの受け入れを要請されると、センターの小児科医が救急車で駆け付け、センターに運んで治療する。周辺地域に高度な新生児医療ができる施設がないためだが、搬送に危険を伴わないことが条件のため、運用は限られているのが実情だ。切迫早産など母体搬送が必要なリスクの高い患者の多くは、遠く京都市や兵庫県に搬送されている。

 京都府健康・医療総括室の松村淳子総括室長は「舞鶴医療センターの機能を早く取り戻すことが緊急の課題と認識しているが、産婦人科医は簡単には見つからない。どこにいるのか、知っていたら教えてほしい」と頭を抱える。

   ×   ×

 奈良県橿原市の女性が救急搬送中に死産した問題で、改めて周産期医療の不備が浮かんだ。現状と課題を追う。

(毎日新聞、2007年9月3日)