****** KNBニュース、富山、2009年2月25日
産科医療の課題は
県の新年度予算案と私達の暮らしの関わりから、医師不足が深刻な産科医療への支援についてお伝えします。
黒部市にある民間の産科婦人科クリニックです。 これまで58歳の医師1人で、お産に対応してきましたが、今月いっぱいで、お産を扱わないことを決めました。 理由は《体力の限界》。医師は後継者を探しましたが見つかりませんでした。
黒部市に住む高橋さんは今月、このクリニックで長女を出産したばかりです。 以前、長男を出産した別のクリニックも今はお産が出来なくなっています。 高橋幸江さん「この子らを産んだ場所が無いっていうのも寂しいし、これから産もうと思っとる人たちのこと考えたら可哀想やなー不安やろなーと」
県内でお産を扱う医療機関は年々減り続けています。 25ある公的病院では、およそ半分の13か所に。また民間では1病院、13のクリニックがありましたが、来月からは12のクリニックに減ります。 これで県内では合わせて9つの市町村でお産が出来る民間の医療機関がゼロとなってしまいました。
産科の医師確保を目指そうと県は新年度予算案にお産を扱う医師への手当てに対する補助金として5400万円余りを盛り込みました。
また、産科の医師の負担を減らすため助産師外来などを開設する医療機関への支援として、およそ500万円を組み入れました。
助産師外来とは経過が順調な妊婦の健康診査や保健指導を助産師が中心となって行います。 平成18年以降、県内では県立中央病院など5つの病院に設けられています。
そして、周産期医療を取り巻く課題はもうひとつ。不足しているNICUの整備です。県立中央病院では、この駐車場に最大で3階建ての新しい病棟を建設する予定です。 県は新年度予算案に5300万円あまりの実施設計費を計上しています。 しかし、その規模や中身については、今後NICUを増やすかどうか次第で、結論は出ていません。」
県内のNICU、新生児集中治療室をめぐっては、去年4月に富山市民病院が14の病床を休止したままとなっています。 その後、県立中央病院が病床を5つ増やしましたが、依然として9つ足りない状況です。
石井知事は「県民の安心とか健康は命に関わるからどなたも引き受けないとなれば、中央病院で、いかに財政が厳しくても受けなくてはならない。」としますが、引き受ける前提条件としては、あくまでも「富山市が市民病院のNICUの再開を断念した場合」としていて、富山市との話し合いは進んでいません。
一方、富山大学附属病院はKNBの取材に対して平成23年4月にスタートする新しい病棟に設けるNICUの病床を現在の15から22へ7つ増やす計画を検討していることを明らかにしました。
富山大学附属病院の斎藤滋副院長は「県立中央病院と大学病院の増床分で、できれば富山県内で生まれた赤ちゃん全てを富山県(内)で収容したいと考えています。」と話します。
しかし、病床を増やすには専門の医師を確保するという課題が残されています。県内で新生児を専門とする医師は富山大学附属病院に2人、県立中央病院に2人、そして厚生連高岡病院に1人の5人しかいません。 斎藤副院長は公的な病院に新生児専門の常勤医の枠を増やすこと。そして大学が優秀な人材を提供していくことが最も必要な対策だと訴えます。 「やはり(新生児専門の)ドクターを少なくとも今の倍ぐらいの状態にしてあげないと夜も寝ることが出来ませんので是非、人材を輩出して働いている先生方の負担を減らすことが《ドクターが辞めない》ということにつながります。」
1人でお産に向き合うことを辞めた黒部市の医師は「肩の荷が降りて正直ホッとしている」と答えました。 お産の現場で疲弊する医師たちを支援する体制づくりが急がれます。
(KNBニュース、富山、2009年2月25日)