ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

漢方薬の保険適用継続が正式決定

2009年12月31日 | 東洋医学

平成22年年度については、漢方薬の保険適用が継続されることが、正式に決定されたそうです。日本東洋医学会などが実施した漢方薬の保険適用継続を請願する署名活動で、わずか3週間という短期間のうちに92万名を超える署名が集まったそうです。私も職場で署名を募ったところ、あっという間に百名を超える署名が集まり驚きました。

現在、保険適用の医療用漢方製剤は149種類、一般医薬品の漢方薬が200種類あります。保険適用の医療用漢方製剤のほとんどが、一般医薬品の漢方薬として薬局で市販されてます。薬局で市販されている漢方薬と病院で処方される医療用漢方製剤とでは、薬の名前が一緒であれば含まれている生薬や成分の割合は一緒のはずですが、市販されている漢方薬では有効成分の量が医療用漢方製剤の1/2から2/3に抑えられている場合が多いと聞いてます。

参考記事:

漢方を健康保険で使えるように署名のお願い

がん患者に漢方薬

産婦人科と漢方医学

女性のための漢方セミナー 気になる不調、これって更年期?

漢方医学について

漢方の腹診法

漢方の脈診法

女性診療科医のための漢方医学マニュアル(改訂第2版)
後山尚久著、永井書店、2008年9月発行、6300円

ファーストチョイスの漢方薬、稲木一元・松田邦夫 共著
南山堂、2006年6月発行、5250円

****** http://kampo.umin.jp/ より引用

漢方保険継続正式決定通知のご報告とお礼
(2009/12/28更新)

 漢方薬の健康保険継続の正式決定の通知が到着しました。

 12月25日付けで「平成22年度についても、漢方薬については、引き続き保険適用とすることとしている。」との通知を、民主党厚生労働担当副幹事長の青木愛衆議院議員より、社団法人日本東洋医学会及び日本漢方生薬協会宛に頂きました。

 通算924,808名のご署名を賜りました国民の皆様、関係者の方々に、心から御礼申し上げます。

 平成21年12月28日

 医療志民の会      事務局長 木戸寛孝
 NPO健康医療開発機構   理事長  武藤徹一郎
 社団法人日本東洋医学会 会長   寺澤捷年
 日本臨床漢方医会    理事長  石川友章

(引用終わり)


漢方を健康保険で使えるように署名のお願い

2009年11月24日 | 東洋医学

http://kampo.umin.jp/

これからも漢方が健康保険で使えるように

 去る11月11日(水)の行政刷新会議の事業仕分け作業で、医療用漢方製剤(漢方エキス製剤・煎じ薬)を健康保険から除外する、という案が出されました。
 現在、医師の7割以上が漢方薬を使用して、国民の健康に寄与してきました。また、全国の医学部・医科大学でも医学教育の中に漢方教育が取り入れられ、日本東洋医学会で専門医教育も行われ、専門家育成も進んでいます。
 わが国が迎えている少子高齢社会の中で、われわれ国民の健康を守るためになくてはならない漢方薬・煎じ薬が健康保険で使えなくなることに、断固反対をします

平成21年11月20日

社団法人日本東洋医学会 会長   寺澤捷年
日本臨床漢方医会    理事長  石川友章
NPO健康医療開発機構   理事長  武藤徹一郎
医療志民の会      事務局長 木戸寛孝

本趣旨にご賛同いただけます皆様からの
ご署名をお願いいたします。

****** コメント

11月11日(水)の行政刷新会議事業仕分け作業の結果、漢方薬を保険給付からはずすとの財務省案にワーキング・グループ15名のうち11人が賛成しました。今後、12月上旬には行政刷新会議仕分け結果の審議が行われ、そこで決定されると他の案件とともに、執行される危険性が大です。

本日、日本東洋医学会より郵便物が届き、封を開けてみると、「署名活動のお願い」と題する文書と署名用紙が同封されてました。ちょうどお昼休み時で、医局談話室には昼食を食べている同僚医師が大勢いましたので、趣旨を説明して署名を募ったところ、あっという間に数十人の署名が集まりました。

消化器科や外科の医師達にとって「大建中湯」は頻用薬で、これが保険給付からはずされると非常に困ると言ってました。呼吸器科の医師は、「小青竜湯」や「麦門冬湯」などの咳止めの薬は日常的によく処方していると言ってました。産婦人科でも、月経困難症、更年期障害、妊娠中の諸病、化学療法や放射線治療の副作用対策など、漢方薬を処方する機会は非常に多いです。

我々の世代だと、6年間の正規の医学部教育の中で、漢方に関する話題は1回も出てきませんでした。私の場合も、最初は何も知らず、一般向けの漢方に関する入門書から読み始めて、地域で開催される漢方勉強会などにも時々顔を出したりして、独学で少しずつ漢方の勉強をしてきました。漢方薬と言えば「葛根湯」くらいしか知らないという医師の方が圧倒的に多いことは確かです。現在では、医学部教育の中に漢方教育が取り入れられています。

日本東洋医学会のホームページでも、署名募集ホームページが開始され、広く電子署名を募ってます。

****** 参考記事:

がん患者に漢方薬

産婦人科と漢方医学

女性のための漢方セミナー 気になる不調、これって更年期?

漢方医学について

漢方の腹診法

漢方の脈診法

****** 朝日新聞、2009年12月1日

漢方薬の保険除外に反対署名 事業仕分け、医療界が反発

 政府の行政刷新会議の事業仕分けに対し、医療現場から反発の声が相次いでいる。公的医療保険の対象から外す候補に漢方薬が挙げられたことから、日本東洋医学会など4団体は1日、保険適用の継続を求める陳情書を、約27万人の署名簿を添えて長妻昭厚生労働相あてに提出。削減対象になったほかの医療関係学会などの間でも戸惑いが広がっている。

 事業仕分けで保険から外す対象になったのは、医師の処方箋がいらない市販薬の類似薬。範囲について刷新会議は「今後も十分な議論が必要」と述べるにとどめたが、事業仕分け用に財務省が作った文書には「湿布薬・うがい薬・漢方薬などは薬局で市販されており、医師が処方する必要性が乏しい」と書かれた。

 同医学会の寺澤捷年会長(千葉大大学院教授)は患者と記者会見し、「同じ漢方薬でも薬局で販売される薬は、安全性を考慮して、有効成分の量が医療用漢方薬の半分に抑えられている」と述べた。

(以下略)

(朝日新聞、2009年12月1日


がん患者に漢方薬

2009年08月03日 | 東洋医学

がんの治療には、手術療法、化学療法、放射線療法、さらに免疫療法などが行われます。それらの標準的治療と併用して、漢方薬が治療の一助となる場合もあります。がんの治療における漢方薬治療の主な目的は、術前術後の全身状態の改善、全身倦怠感などの症状の緩和、化学療法や放射線療法の副作用の軽減、免疫賦活作用などと言われています。

漢方薬ががんそのものに有効という証明はなく、がんの患者さんの多様な症状に対して、どの漢方薬がどの程度有効なのかは個人差も非常に大きく、薬効のメカニズムもほとんど解明されていません。

しかし、日本を代表するがん専門病院である癌研有明病院にも漢方サポート外来が設置され、各診療科の腫瘍専門医による標準的治療と併用して、漢方薬による治療も実施されています。各診療科から多くの患者さんが紹介されてくるそうです。

当科においても、婦人科がんの標準的治療の一助として、漢方薬治療を行っている患者さんが少なくありません。患者さんのいろいろな症状に応じて、例えば、十全大補湯、補中益気湯、牛車腎気丸、半夏瀉心湯、加味逍遥散、大建中湯などの漢方薬を処方し、中には全く無効の場合もありますが、「今回の漢方薬は非常によく効きました、是非また処方してください。」と患者さんに喜んでもらえる場合も少なくありません。

産婦人科と漢方医学

女性のための漢方セミナー 気になる不調、これって更年期?

漢方医学について

漢方の腹診法

漢方の脈診法

****** 読売新聞、2008年12月12日

がん患者に漢方薬

しびれ、食欲不振など軽減

 がんに伴って起きる全身の倦怠感や食欲不振、不眠などの症状、抗がん剤や放射線治療の副作用など、がん患者の悩みは多い。こうした症状を漢方薬を用いて軽減しようという試みが注目を集めている。【館林牧子】

 東京都江東区の癌研有明病院。消化器内科部長の星野惠津夫さんは、週2回、「漢方サポート外来」で診察をする。

 星野さんは消化器がんの治療を専門にする傍ら、若いころから漢方医学を学んできた。「西洋医学はがんを攻撃するのは得意だが、がんに伴って起きる多様な症状は、それだけでは解決しないことが多い。そんな時こそ、漢方の出番」と話す。

 疲れやだるさ、食欲不振、病気のストレスによる不眠などのよくある症状に加え、手術後の傷の痛みや抗がん剤による手足のしびれ、胃を切った後の食欲不振など個別の訴えもある。患者の状態と症状の診断から、保険のきく147種類ある漢方のエキス剤のうちから最適なものを選択。個人差があるので、効き具合を見ながら、組み合わせを調整する。

 全身症状の改善には、「十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)」「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」「人参養栄湯(にんじんようえいとう)」のいずれかを処方する。最もよく使うのは十全大補湯で、不眠や不安など精神症状が強ければ補中益気湯、また肺転移や肺炎などによるせきや息苦しさがあれば人参養栄湯を選ぶ。

 食道がんが肺などに転移した東京都内の男性は、ひどい息苦しさを訴えて同外来を訪れた。ところが、漢方治療を始め2週間ほどで呼吸が楽になった。5か月後に亡くなったが、その間、家族と2度の海外旅行を楽しむことができた。

 漢方でがんそのものが治るという証明はなく、様々な症状にどのようにして効果をもたらしているのか詳しい仕組みはわかっていないが、星野さんは「西洋医学による従来の治療に行き詰まっても、漢方という別の方法があることを、患者に提示できる意義も大きい」と話す。

 抗がん剤の副作用で起きる手足のしびれには「牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)」など、乳がんのホルモン治療や、子宮・卵巣がんの手術で卵巣を取った後に起きるほてりには「桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)」や「加味逍遥散(かみしょうようさん)」など、のどや耳下腺がんなどの放射線治療の後遺症で、だえきが出ず、口が渇く症状には「麦門冬湯(ばくもんどうとう)」などを使う。

(以下略)

(読売新聞、2008年12月12日)


更年期障害に対する漢方治療

2009年01月10日 | 東洋医学

産婦人科医は、他の科の医師と比べて、漢方に興味を持っている者が比較的多い。更年期障害、月経困難症、冷え症、不妊症、妊娠中の感冒や花粉症、抗癌剤の副作用対策など、産婦人科医が漢方薬を処方する機会は多くある。通常の現代医学的な診断や治療に加えて、その足りない部分を漢方医学で補うというスタンスの医師は比較的多い。

月経異常、更年期障害などの婦人科特有の症状を訴える患者さんに対してよく処方される三大婦人薬は、当帰芍薬散、桂枝茯苓丸、加味逍遥散である。当帰芍薬散は比較的体力が低下し冷え症がみられる者、桂枝茯苓丸は体力中等度で下腹部の抵抗・圧痛を認め、いわゆる瘀血(おけつ)の腹証がみられる者、加味逍遥散は精神症状、発汗・ホットフラッシュなどの症状がみられる者に多く用いられる。

****** 毎日新聞、2009年1月9日

特集:女性のための漢方セミナー 

漢方、上手に活用し更年期を乗り越えて

 「女性のための漢方セミナー」(毎日新聞社主催、日本医師会・大阪府医師会・日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会後援、株式会社ツムラ協賛)が昨年11月、大阪市北区の同市中央公会堂で開かれました。8回目となる今回のテーマは「気になる体の不調、これって更年期?」。女性の40代後半から50代前半の時期は更年期といわれ、多くの女性が不調に悩まされます。セミナーでは基調講演とパネルディスカッションで、漢方を使った症状の改善策などが具体的に紹介されました。(敬称略)

 ■パネルディスカッション

 司会・キャスター、毛利聡子さん/タレント・ハイヒールモモコさん/大阪市立大学大学院医学研究科講師・森村美奈さん/大阪大学大学院医学系研究科助教・有光潤介さん

 ◇心と体、総合的に診て

 毛利 テレビなどで活躍され3人のお子さんのお母様であるハイヒールモモコさん。体の方はいかがですか?

 モモコ 元気が売りですが、実はめまいと耳鳴りとホットフラッシュに悩んでいます。

 ◇障害、簡単そうで難しい見分け方

 森村 更年期障害の見分け方は簡単そうで難しい。自分でチェックできる方法もありますが、あくまで目安。気になる方は産婦人科や更年期外来を受診して適切な治療を受けた方がいいでしょう。

 毛利 更年期の症状と分からず、原因不明の病気と悩んでいる方も多いのでは?

 モモコ 私もめまいがひどかった時、病院によって「メニエール病」「ストレス」「自律神経失調」とか言うことが違うんで、「どれやねん!」って困りましたワ。

 森村 まず自分の症状に合ったところで診断を受け、次にどこで診てもらうか相談しては。いらいらやほてりなど典型的な更年期症状なら婦人科、気分がめいり、うつの恐れがあるなら心療内科、全身を診てもらいたいなら漢方がいいと思います。

 毛利 基調講演で個人の体質や症状を表す「証」という言葉が出ましたが、もう少し詳しく診断法を教えていただけますか。

 有光 先ほど申し上げた望診、聞診、問診、切診の「四診」で患者さんの全体のバランスを見ます。細かく話していくうちに、症状がはっきりしてくることもあります。

 毛利 本日、会場の皆さんにお配りしているチェックシートで自分の「証」を調べることができるんですね。(表参照)

 有光 漢方では大ざっぱに体力がある人、ない人、普通の人の三つに大きく分けます。胃腸が丈夫で暑がり、病気に対する抵抗力がある人は「実証」、胃腸虚弱で冷えが強く、弱々しい感じの人を「虚証」、中間の方は「中間証」です。

 毛利 モモコさんは一つだけ、「胃腸が丈夫」に○ですね。

 モモコ 年1回人間ドックに行ってるんですけど、すごいほめられます。「いい膵臓(すいぞう)ですね」って。いつも内臓だけはほめられます。

 有光 虚証に近い、ぎりぎりで中間証ですね。漢方は病名ありきではなく、症状によって薬が違ってきます。

 毛利 つまり同じ症状でも証によって処方される薬が違ってくるということですね。

 有光 漢方では「異病同治」「同病異治」といい、同じ風邪でも体力のあるなしや症状により、薬はまったく違ってきます。更年期障害も同じです。

 毛利 控室で事前にモモコさんを診察していただきましたが、結果はいかがでしたか?

 有光 脈を拝見すると水を取りすぎの傾向が感じられました。

 モモコ そう言われたんで今、のどがカラッカラですが、飲まずに我慢してます。

 有光 2点目は夜更かしで、若干うるおいが足りない脈をされていますね。舌の裏側の静脈が腫れており、血の巡りが悪いサインも出ています。漢方の立場からすると、水の取りすぎは冷えを引き起こし、胃腸の働きを弱めます。何事もほどほどが大切ですね。

 モモコ どれぐらいの量ならいいんですか?

 有光 飲み水なら1日2リットルを超えると飲み過ぎです。

 毛利 診察が終わり、今のモモコさんに適している漢方薬を教えてください。

 有光 水毒が多い状態を治すなら「当帰芍薬(しゃくやく)散」。血液の流れが悪い状態を改善するなら「桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)」でもいいと思います。夜更かしが問題なら「滋陰降火湯」という薬があります。ただし、あくまでモモコさんの場合で、証や症状が異なれば薬も異なってきます。

 ◇保険がきく漢方、医師の7割使用

 モモコ 漢方は高いイメージがあるんですが。

 毛利 実は保険がきくんですね。漢方は誤解されている点がほかにもあるのでは?

 有光 一番感じるのは漢方薬をサプリメントのようにとらえ、指示した量を守らない患者さんがいることです。あくまで薬なので西洋薬ほどではありませんが、副作用がでることもあります。

 森村 医師の中にも漢方に否定的な方がいるのですが、最近では効果も科学的に立証されつつあります。

 毛利 現在、お医者様の7割が漢方薬を使うというデータもあるそうですね。

 ◇漢方の基本学ぶ、現在の医学部生

 有光 文部科学省の教育ガイドラインが改定され、現在ではすべての大学医学部・医科大学において漢方医学教育を行っています。

 森村 心も体も総合的に診る「全人的医療」という考え方が浸透しつつあり、この考えにぴったりな漢方を率先して学ぶ医学生が増えていますね。

 モモコ きょうは先生方の話を聞いて、更年期を乗り越えていけそうやと元気が出てきました。女はしゃべった方が元気になるらしいんで、愚痴はお友達にこぼしてスッキリして、信頼できるいいお医者様を見つけて楽しい人生を送っていきたいですね。

 ■基調講演

 ◇生活習慣病の予防効果も--森村美奈さん

 更年期とは閉経を迎える50歳前後の約10年間を指す。更年期障害は卵巣の働きの低下やストレスなど複数の因子がからみあっておきる。症状としては、ほてりやのぼせ、発汗、動悸(どうき)、疲労など。更年期うつ症状と関係が深い「空の巣症候群」というものもある。これは子どもが独立してしまい、気持ちが不安定になる状態を指す。

 この時期は信頼できる専門家に相談することが大切。主な治療法としてはホルモン補充療法や漢方療法、向精神薬の投与、心理療法など。ホルモン補充療法は女性ホルモンのエストロゲンを補うもので、のぼせや発汗などの症状に効果的。漢方療法は心と体全体をとらえて行う治療法なので、さまざまな症状や背景を持つ更年期障害の改善に向いている。

 更年期障害には「3大漢方」と呼ばれる処方がよく用いられる。当帰芍薬散は冷えがちで虚弱な人向き。不安が強く落ち込みがちな方は加味逍遙(しょうよう)散、体力はあるが頭痛や肩こりが強い方には桂枝茯苓丸が効く。漢方療法は個人の症状と体質に合った薬を処方し、食事の改善も指導してくれるので生活習慣病の予防効果も期待できる。更年期は人生の折り返し地点。無理せず体と心をリフレッシュさせてあげてほしい。

 ■基調講演

 ◇漢方はオーダーメード薬--有光潤介さん

 漢方は中国の伝統医学が日本に伝わり、独自に発達してきた医学。西洋薬の多くは化学合成された単一成分だが、漢方薬は複数の生薬で構成されている。「自然治癒力を高める」考え方や、個人の体質に合わせたオーダーメードの薬だということも漢方の大きな特徴だ。

 診察は肌や舌の色を見る「望診」、患者の訴えを聞く「問診」、声のはりや体臭をチェックする「聞診」、体に触れて診察する「切診」を行う。情報を分析して「証」という患者さんの状態を見極め、それにあった薬を処方する。

 漢方独特の物差しが「気・血・水」。疲れやすい、だるいなど更年期に多く検査でも原因が分からない「不定愁訴」には、漢方が効果的。漢方の考え方ではこれらの症状は気・血・水のアンバランスから起きる。「水をたくさん飲もう」という漢方からすると間違った健康法が流行している。立ちくらみや足のむくみは「水毒」という余分な水がたまっているのが原因だ。

 自分の舌に歯形がついているなら水分の取りすぎ。舌の裏側の静脈が腫れているようなら血の流れが悪い。

 漢方は西洋薬に負けない効果があるが、誤った使い方をすれば副作用が出ることも。上手に利用してほしい。

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 ◆あなたのタイプをチェック!【女性用】

 あなたは虚証?実証?中間証?

 (1)どちらかというと体力がある             2

 (2)寝汗をかきやすい                 -2

 (3)意欲、気力が充実し、積極性がある          2

 (4)胃腸が丈夫である                  2

 (5)夏バテしやすく、冬は風邪をひきやすい       -2

 (6)顔色がよく、皮膚につやがある            2

 (7)冷たい物を食べると下痢しやすい          -2

 (8)おなかに弾力があり、骨格ががっちりしている     2

 (9)食が細く、食べるのが遅い             -2

(10)月経初期に痛みが強く、血塊が出たり、経血量が多い  2

 合計点数0点以下→虚証 2~6点→中間証 8点以上→実証

 *表は目安

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 ■人物略歴

 ◇もうり・さとこ

 山口放送で記者兼キャスターなどを経て、96年テレビ大阪に入社しニュース番組などのキャスターを務めた。04年に退社後はフリーアナウンサーとして活躍している。

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 ■人物略歴

 ◇ハイヒール・モモコ

 大阪市出身。82年11月ハイヒール結成。84年ABC漫才落語新人コンクール審査員奨励賞、95年上方漫才大賞(ラジオ大阪)大賞。テレビ、ラジオ、映画など幅広く活躍。

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 ■人物略歴

 ◇もりむら・みな

 帝京大医学部卒。専門は産婦人科と女性の心身医療、医学教育。大阪市立大大学院医学研究科産科婦人科教室を経て、現在卒後医学教育学講師。

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 ■人物略歴

 ◇ありみつ・じゅんすけ

 愛媛大医学部、大阪大大学院医学系研究科分子病態内科学博士課程卒業。阪南中央病院などを経て、07年より大阪大大学院医学系研究科漢方医学寄附講座助教。

(毎日新聞、2009年1月9日)


産婦人科と漢方医学

2008年10月14日 | 東洋医学

産婦人科医は、他の科の医師と比べて、漢方に興味を持っている者が比較的多い方だと思います。例えば、更年期障害、月経困難症、冷え症、不妊症、妊娠中の感冒や花粉症、抗癌剤の副作用対策など、産婦人科医が漢方薬を処方する機会は意外に多くあります。産婦人科では、もっぱら漢方医学のみを実践している純粋の漢方医はさすがに少ないですが、通常の現代医学的な診断や治療に加えて、その足りない部分を漢方医学で補うというスタンスの医師は比較的多いと思います。

月経異常、更年期障害などの婦人科特有の症状を訴える患者さんに対してよく処方される漢方薬の代表格(3大婦人薬)は、当帰芍薬散、桂枝茯苓丸、加味逍遥散です。当帰芍薬散は比較的体力が低下し冷え症がみられる者、桂枝茯苓丸は体力中等度で下腹部の抵抗・圧痛を認め、いわゆる瘀血(おけつ)の腹証がみられる者、加味逍遥散は精神症状、発汗・ホットフラッシュなどの症状がみられる者に多く用いられます。

また同じ感冒でも、症状によりいろいろな使い分けがあります。例えば、感冒の初期で発熱があり、まだ自然発汗が認められない時期は葛根湯が用いられ、鼻閉、鼻水、痰などが主症状であれば小青竜湯や苓甘姜味辛夏仁湯、発作性の激しい咳の場合は麦門冬湯が用いられます。インフルエンザには麻黄湯が有効です。

私がよく処方する漢方薬: 加味逍遥散、桂枝茯苓丸、当帰芍薬散、温経湯、女神散、桃核承気湯、当帰四逆加呉茱萸生姜湯、補中益気湯、十全大補湯、人参養栄湯、葛根湯、小青竜湯、麦門冬湯、麻黄湯、桂枝湯、苓甘姜味辛夏仁湯、香蘇散、猪苓湯、大建中湯、牛車腎気丸、柴胡加竜骨牡蛎湯、半夏厚朴湯、抑肝散、呉茱萸湯、防風通聖散、防已黄耆湯、清上防風湯、半夏瀉心湯、温清飲、釣藤散、芍薬甘草湯、柴苓湯など。

女性のための漢方セミナー 気になる不調、これって更年期? (毎日新聞)

漢方医学について

漢方の腹診法

漢方の脈診法


女性のための漢方セミナー 気になる不調、これって更年期?

2008年02月03日 | 東洋医学

わが国には約250年ほど前から「血の道症」(ちのみちしょう)という言葉がありました。血の道症とは、漢方で女性だけに用いられる言葉で、頭痛、めまい、精神不安などの症状があらわれます。血の道症の症状は更年期障害の症状とほとんど同じですが、さらに範囲が広く、妊娠、出産、流産、月経など、女性の生理現象一般に伴って発症するものをいいます。従って、年齢的にも広範囲で必ずしも更年期に起こるとは限りません。

更年期障害・血の道症に対して、漢方治療が奏効する場合も少なくありません。患者さん一人一人の症状、体質や状態「証」(しょう)、腹診所見などに応じて、例えば、「加味逍遥散」(かみしょうようさん)、「当帰芍薬散」(とうきしゃくやくさん)、「桂枝茯苓丸」(けいしぶくりょうがん)、「桃核承気湯」(とうかくじょうきとう)、「女神散」(にょしんさん)、「柴胡加竜骨牡蛎湯」(さいこかりゅうこつぼれいとう)、「抑肝散」(よくかんさん)、「半夏厚朴湯」(はんげこうぼくとう)など、患者さんの症状や「証」に合った漢方薬が処方されます。

漢方医学について

漢方の腹診法

漢方の脈診法

****** 毎日新聞、2008年2月2日

特集:女性のための漢方セミナー 

気になる体の不調、これって更年期?

漢方薬を味方に体力・気力回復

 「女性のための漢方セミナー」(毎日新聞社主催、日本医師会、大阪府医師会後援、株式会社ツムラ協賛)が昨年12月、大阪市北区中之島の同市中央公会堂で開かれました。7回目となる今回のテーマは「気になる体の不調、これって更年期?」。更年期の症状は多様で、個人差が大きく、「原因不明の病気では」と悩む女性も多いようです。パネルディスカッションでは、漢方独自の舌を診る診断方法などを交え、更年期の症状緩和に役立つ漢方薬の具体的な利用法などが紹介されました。(敬称略)

(中略)

基調講演

人生リニューアルの時期--岡留美子さん

症状さまざま、心も体もケア

 更年期とは45歳ごろから55歳ごろまでの、閉経の前後10年を言います。なお、日本女性の平均閉経年齢は50歳ぐらいです。この時期、卵巣から分泌されるエストロゲンという女性ホルモンが急激に減少します。そのため、ホルモンを調節する脳の視床下部が混乱し、体温や発汗、脈拍などをつかさどる自律神経も乱れてしまうのです。

 更年期の症状で一番多いのは「のぼせ」と「ほてり」。「ホットフラッシュ」ともいい、体が急に熱くなったり、突然冷えたりします。動悸(どうき)や冷え症などの症状や、頭痛、めまい、耳鳴り、やる気が出ない、眠りにくいなどの神経性の症状を訴える人もいます。さらに体がかゆい、しびれるなどの悩みや、肌の乾燥、唾液(だえき)量の減少、目が乾きやすいなどの症状も目立ちます。

 さらに、肩こりや腰痛が出たり、関節が痛む人もいます。食欲がない、便秘や下痢をしやすいなど消化器系の異常や、頻尿や残尿感、陰部のかゆみなど泌尿器や生殖器系の症状も出ることがあります。

 更年期には、こうした全身にわたるたくさんの症状が出ますから大変です。もちろん、人によって程度の差があり、ほとんど困らない方から更年期障害になって苦しむ方までいろいろおいでです。

 では、こうした更年期の女性に、漢方薬がどのように味方になるのか、お話ししたいと思います。漢方医学は心と体を分けずに全体として考えます。ですから体も心も揺れ動き、症状が全身に出る更年期にはぴったりなのです。

 漢方では、その人の体質や状態を見て「証(しょう)」を判断し、証に合った薬を使います。症状が同じでも証が違えば別の漢方薬を処方します。逆に一つの漢方薬を違う症状に使うこともあります。

 また、生命活動のもととして「気・血・水」の三つの要素があると考えます。気は体全体を動かすエネルギー、血は血液自体やその流れ、水はリンパ液や尿など血液以外の水分を指します。一つでもバランスが崩れると不調が出ると考えます。更年期はまさに「気・血・水」が乱れる時期なのです。

 国が保険で認めている更年期障害のための代表的な漢方薬には次のようなものがあります=表(更年期障害のための漢方薬)参照。他にもいろいろあり、私たち医師は患者さん一人一人に合う漢方薬を選びます。

 次に更年期症状の方にどのように漢方薬を処方するか、何人かのケースを合わせて具体的に説明しましょう。Aさんは40代後半の主婦です。動悸とめまい、冷えとのぼせの症状があるうえ、不安感が強く夜もなかなか眠れない状態でした。ご主人の病気や子どもの将来、老いたご両親の問題など、多くの心配ごとをお持ちでした。

 まず、柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)を処方しました。これはAさんのように、気遣いで身も心も疲れ果てている方に役立ちます。これを飲んだAさんは、元気が出て動悸や冷えがよくなり、夜も眠れるようになりました。

 お子さんの進路の問題で胃痛や胃液があがる感じがする時期には、四逆散(しぎゃくさん)をお出ししました。これを飲むと「胃がすっきりするだけでなく、心の中の葛藤(かっとう)が消えていった」そうです。

 柴胡桂枝乾姜湯で冷え、のぼせは改善したものの、真冬だと冷えて眠りにくい日もあります。その時期には、サフランも一緒に処方しました。料理にも使うサフランは高価なものですが、医師がお薬として処方するものなら保険がききます。精神安定作用もあるので夜もよく眠れ、血の流れが滞っているのを治します。さらにこれを飲んでいるとお肌もとてもきれいになるのです。

 ご両親が病気のときは、介護疲れと心労から、のどのつまった感じがして、めまいが出ました。この時は気の巡りをよくする半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)を活用しました。ほかにも時々の症状に応じて漢方薬を使い分けてきました。

 Aさんは最近、いきいきとした表情で診察においでになります。薬に頼るだけでなく、健康維持のためにウオーキングやプールで泳ぐようにしているそうです。診察の際のやりとりを参考にしたら、家族ともうまくコミュニケーションが取れるようになり、同窓会を企画するなど外の世界でも活躍されているようです。更年期は英語でメノポーズといい、閉経という意味です。日本語ではメノポーズに「更年期」という言葉をあてたのですが、これは「人生を新しくするとき」という意味です。すてきな呼び方だと思いませんか。生まれ、成長し、子孫を残す時期を経て、新しく生まれ変わるのです。

 変化の時期は、安定していたものを崩すわけですから、一時的には揺れ動いてしんどいかもしれません。でも、それを経て初めて新たな安定を得ることができます。更年期は、老年期という穏やかな安定期にはいるための準備期間です。これから更年期を迎える方は、これから人生がリニューアルできることを覚えておいてほしいと思います。今、更年期のさなかにある方は、人生をどうリニューアルしていくか考えていきましょう。

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更年期障害のための漢方薬

柴胡桂枝乾姜湯 (さいこけいしかんきょうとう)
当帰芍薬散 (とうきしゃくやくさん)
加味逍遥散 (かみしょうようさん)
桂枝茯苓丸 (けいしぶくりょうがん)
温清飲 (うんせいいん)
五積散 (ごしゃくさん)
通導散 (つうどうさん)
温経湯 (うんけいとう)
三黄瀉心湯 (さんおうしゃしんとう)

(以下略)

(毎日新聞、2008年2月2日)


漢方医学について

2008年01月22日 | 東洋医学

中国大陸で生まれて発達した中国伝統医学には非常に長い歴史があります。後漢時代に張仲景という人が当時の薬草を中心とした治療体系を「傷寒雑病論」(しょうかんざつびょうろん)としてまとめたとされています(その原本は伝わってません)。「傷寒雑病論」は、後に、急性熱性疾患を中心とした「傷寒論」(しょうかんろん)と、慢性疾患(雑病)について書かれた「金匱要略」(きんきようりゃく)に分かれ、現在に至っています。

中国医学は5-6世紀ごろ日本に伝わり、本場・中国での発達の影響を受けながら、日本国内でも独自の発達をしてきました。江戸時代中期以降の日本漢方界は、「傷寒論」を最大に評価して、そこに医学の理想を求めようとする流派(古方派)によって大勢が占められるようになりました。現在の日本漢方界でも、「古方派」の影響を受け継いでいる医師が多いようですが、その他にも、「後世派」、「折衷派」、「一貫堂医学」など、いろいろな流派が存在しています。

また、現在の中国医学は「中医学」と言われてますが、中医学と日本漢方とでは、それぞれ別の発展をしてきましたので、今では、用語、処方する薬剤、病気への対応方法など多くの点で異なっています。日本で中医学を実践している医師もいます。

産婦人科では、更年期の不定愁訴などに対して漢方薬が処方される場合が比較的多いです。私も、以前は、更年期障害の患者さんには片っ端からホルモン補充療法を実施してましたが、最近では、乳癌のリスクを考慮して、以前ほどにはホルモン補充療法が実施しにくくなりました。そこで、苦し紛れに、更年期障害で薬を希望する患者さんに、「加味逍遥散」(かみしょうようさん)などの漢方薬を処方してみますと、中には、「この薬でたいへん楽になりました」と言って喜ばれる場合も少なくありません。人によっては、「当帰芍薬散」(とうきしゃくやくっさん)、「桂枝茯苓丸」(けいしぶくりょうがん)、「柴胡加竜骨牡蛎湯」(さいこかりゅうこつぼれいとう)、「女神散」(にょしんさん)などが有効の場合もあります。

妊娠中の感冒に対しては通常の解熱剤や感冒薬は少し使いにくい面もあるので、患者さんの症状に応じて、「桂枝湯」(けいしとう)、「麦門冬湯」(ばくもんどうとう)、「苓甘姜味辛夏仁湯」(りょうかんきょうみしんげにんとう)などの漢方薬を処方する機会も比較的多いです。

妊娠中は麻黄(まおう)の入っている「葛根湯」(かっこんとう)や「小青竜湯」(しょうせいりゅうとう)は避けて、かわりに「桂枝湯」(葛根湯の麻黄ぬきバージョン)や「苓甘姜味辛夏仁湯」(小青竜湯の麻黄ぬきバージョン)にすべきとの記載が日本産婦人科医会の研修ノート(産婦人科と代替医療)にありました。

手術後の腸管癒着に対して「大建中湯」(だいけんちゅうとう)が有効で、外科医もよく処方してます。

癌の治療では、ガイドラインに従って標準治療で対応するのが基本ですが、癌が再発して標準的な化学療法が無効となってしまった患者さんなどに対して、患者さんの希望に応じて、例えば、「十全大補湯」(じゅうぜんたいほとう)、「補中益気湯」(ほちゅうえっきとう)、「人参養栄湯」(にんじんようえいとう)などの漢方薬を処方して、しばらくの間、自宅で元気に過ごしていただいたような経験も比較的多いです。代替療法の多くは、過去の治療実績が少なく、費用も自費となってしまいます。漢方治療の場合は、過去に二千年以上の治療実績があって、多くは保険診療で対応できるというメリットがあります。

西洋医学と東洋医学とを統合し、それぞれの長所を生かして、補完しあっていくのが理想だと思います。

漢方の腹診法

漢方の脈診法


漢方の脈診法

2007年12月17日 | 東洋医学

脈診とは動脈の拍動を触知して診断に役立てる方法である。

現代の日本漢方の脈診では、橈骨動脈拍動部を所見としてみる。患者の橈骨茎状突起の内側の拍動部位に中指(この部が関上)を、それに接して、示指(この部が寸口)、薬指(この部が尺中)を置く。一般的には、と呼ぶことが多い。

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以下、「学生のための漢方医学テキスト」(日本東洋医学会学術教育委員会)より抜粋

●代表的な脈の所見

健康者の脈を平脈という。

①脈の深さ: ←→

・浮脈:皮下に血管が浮いているようで、指を軽く当てるだけで、すぐにはっきりと触れる脈 。 

・沈脈:指を軽く当てただけでは拍動を触れず、強く圧迫してはじめて触れる脈。

②脈の強さ: ←→

・実脈:力のある脈。按圧している指を力強く押し返してくる脈であり、強く按圧しても消失しない。

・虚脈:力のない脈。按圧している指を押し返す力の弱い脈であり、強く按圧すると消失する。弱脈ともいう。

③脈の回数: (さく)←→

・数脈(さくみゃく):速い脈。医師の1呼吸間に患者の脈が6回以上の脈。およそ1分間に90回以上。  

・遅脈:遅い脈。医師の1呼吸間に患者の脈が4回以下の脈で、およそ1分間に60回以下となる。

④脈の幅: ←→

・大脈:大きな幅の広い脈。さらにあふれるばかりの大きな脈を洪脈という。

・小脈:幅の狭い脈。指頭で触れる血管の太さが細く感じるものであり、細脈ともいう。。

⑤脈の緊張: ←→

・緊脈:張りがある脈。ピーンと張った弓の弦のように、脈管の性状が緊張しているもの。  

・緩脈:ゆったりした脈。脈の緊張がそれほど強くなく、穏やかなもの。

⑥脈のなめらかさ: ←→

・滑脈:なめらかな脈。脈派の伝播が玉を転がすようにスムーズなもの。 

渋脈:渋滞している脈。脈派の伝播が遅く、ドロドロと流れる脈。

【以上、「学生のための漢方医学テキスト」(日本東洋医学会学術教育委員会)より抜粋】

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実際に脈診に精通することは大変難しく、同一患者の脈についても医師により結論が違うこともよくあって、客観性に乏しく、デ-タとしても残し難い。古典には多くの脈状が出てくる。例えば、日本では二十四脈、中国では二十八脈など、多数の分類が行われてきた。しかし、これらの違いを客観的に示すことは難しく、また各々の意味付けも曖昧となるので、過去においても度々その整理と簡略化の試みが行われてきた。 循環器系についての診断機器の発達している今日の日本で、果たしてどれ程の意味をもつかは不明である。


漢方の腹診法

2007年12月14日 | 東洋医学

腹診は、日本で江戸時代に独自の発達を遂げた診察法である。漢方の腹診は、患者の体質を判断(虚実証の判定)して、治療方針をたてるのが目的である。

腹診では、まず患者を仰向けに寝かせて、両足を伸ばさせ、手を両脇に軽く置かせ、腹部に力を入れないようにさせる。診察は右手の手掌または指先で行う。

腹診の実際の診察手技については、講習会で漢方専門医の先生方から実技指導を受けたり、漢方の大家の諸先生方の腹診のビデオを見比べたりして習得していただきたいと思います。多くの書物に、原則として医師は患者の左側に位置して診察すると記載されていますが、腹診のビデオを見てみますと、例えば、大塚敬節先生、山田光胤先生、寺師睦宗先生などは患者の左側に位置して診察をしていらっしゃいますし、大塚恭男先生、藤平健先生、三潴忠道先生などは患者の右側に位置して診察をしていらっしゃいます。

●腹部の漢方的な名称

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① 心下(しんか)  ② 胸脇(きょうきょう)
③ 脇下(きょうか)  ④ 臍上(せいじょう)
⑤ 臍下(せいか)  ⑥ 小腹(しょうふく)

●腹力の判定

手のひらを平らに下に向け、手のひらが患者の腹壁に接するようにして、まんべんなく軽く按圧しながら、腹力の状態を判定する。腹力の強いものを、弱いものをとし、強くも弱くもないものを虚実間(腹力中等度)とする。患者が緊張し腹壁が緊張している場合は、腹直筋の外側の腹壁の強度を参考にする。

腹壁の皮下脂肪と筋肉が厚く、腹部全体が弾力のある場合には、実証と診断される場合が多い。逆に腹壁の皮下脂肪、筋肉ともに薄く、軟弱無力の場合には、虚証と診断される場合が多い。例えば、防風通聖散大柴胡湯の適応者は前者、六君子湯人参湯の適応者は後者の例である。防已黄耆湯の適応者では、腹壁の皮下脂肪は厚いが腹力は軟弱である。

●腹診所見

・心下痞鞭(しんかひこう)

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所見:心下痞鞭は、心下がつかえるという自覚症状(心下痞)と同部位に、抵抗やときには圧痛を認める。自覚的なつかえ感がなくて、同部の抵抗・圧痛を認めることは多い。

処方:瀉心湯類半夏瀉心湯など)、人参湯類人参湯桂枝人参湯など)を用いる目標。

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・胃内停水(胃部振水音)

所見:上腹部を叩打すると、ポチャポチャとかパチャパチャとかいう、水の揺れる音(振水音)が聞こえる症状を言う。水滞(水毒)を示す腹候である。胃内停水の診断をする際には、患者の膝を曲げさせて診察する。

処方:小青竜湯人参湯六君子湯茯苓飲真武湯五苓散苓桂朮甘湯半夏白朮天麻湯などを用いる目標。

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胸脇苦満(きょうきょうくまん)

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所見:季肋下部に抵抗ならびに圧痛が証明されるのを胸脇苦満という。その最も証明される部位は、乳頭と臍とを結ぶ線が季肋下部と交差する部分である。この部分に三指を乳頭の方へ向けて圧入すると、胸脇苦満がある場合には抵抗があって指が入りにくい。そしてさらに圧入すると、疼痛あるいは不快感を感じる。8~9割が右に証明され、左に証明されるのは1~2割である。

処方:柴胡剤大柴胡湯柴胡加竜骨牡蛎湯四逆散小柴胡湯柴胡桂枝湯柴胡桂枝乾姜湯など)の主目標。

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・腹直筋攣急(ふくちょくきんれんきゅう)、腹皮拘急(ふくひこうきゅう)

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処方:腹直筋が過度に緊張した状態をいう。通常は両側対称性であるが、左右どちらかにとくに強く出ることもある。また上部が緊張していて、下部が緊張していないものもある。

処方:両腹直筋が上から下まで均等に緊張している場合は芍薬甘草湯、腹直筋の外側の腹壁が著しく弱い場合は小建中湯黄耆建中湯を用いる。腹直筋の緊張に胸脇苦満を合併している場合は四逆散柴胡桂枝湯を用いる。

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・腹満(ふくまん)

Hukuman

所見:腹部が全般的に膨満していて、腹に弾力のあるのは実証、軟弱無力なのは虚証。

処方:実証であれば、大承気湯小承気湯防風通聖散など。虚証であれば、桂枝加芍薬湯小建中湯四逆散など。

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・小腹不仁(しょうふくふじん)

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所見:下腹部が軟弱無力で、圧迫すると腹壁が容易に陥没し(典型的には船底型)、按圧すると指が腹壁に入る。臍下の腹力が臍上のそれに比べて明らかに弱い場合も所見にとる。著しい場合は知覚鈍麻を合併し、正中芯を触れることがある。腎虚を示す腹候である。

処方:八味地黄丸牛車腎気丸六味丸などを用いる目標。

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・正中芯(せいちゅうしん)

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所見:腹部正中線上の皮下に索状物を触れる。臍上と臍下の両方にあるものと、臍下だけにあるものとがある。通常、按圧しても痛みはない。小腹不仁に合併して見られることが多く、臍上は脾虚、臍下は腎虚の腹候である。

処方:臍下のみの正中芯は八味地黄丸、臍上のみの正中芯は人参湯四君子湯、臍上から臍下に続く正中芯は真武湯の使用目標とされる。

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・臍傍圧痛(せいぼうあっつう)

所見:臍周囲に出現する圧痛で、瘀血病態の存在を示唆する重要な症候の一つである。

処方:桂枝茯苓丸当帰芍薬散などの駆瘀血剤を用いる。

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・小腹急結(しょうふくきゅうけつ)

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所見:左腸骨窩に現れる腹候で、指先で同部位を擦過するだけで急迫性の疼痛を生じるものをいう。瘀血証の腹候とされる。

処方:桃核承気湯の適応。

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・回盲部の抵抗・圧痛

所見:回盲部を指頭で軽く触診した場合にみられる腹壁筋の硬結と、この部を圧迫した際に現れる放散痛を回盲部の抵抗・圧痛という。瘀血証の腹候である。

処方:大黄牡丹皮湯などを用いる。

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・心下悸(しんかき)、臍上悸(せいじょうき)、臍下悸(せいかき)

所見:心下悸は心窩部で、臍上悸は臍上部、臍下悸は臍下部で腹部大動脈の拍動を触れる。気逆を示す腹候である。

処方:苓桂朮甘湯桂枝加竜骨牡蛎湯などを用いる目標。

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・腸の蠕動亢進(蠕動不穏)

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所見:腹部が軟弱無力で腸管の動きが外から望見できるもの。

処方:大建中湯が適合する場合が多い。

参考文献

学生のための漢方医学テキスト:日本東洋医学会学術教育委員会

はじめての漢方診療十五話(腹診のDVD付):三潴忠道

漢方概論:藤平健、小倉重成