ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

「周産期」医療に取り組む高知病院----福家・産科医長に聞く

2006年09月30日 | 地域周産期医療

コメント:

各県には、総合周産期母子医療センター、地域周産期母子医療センターが整備され、地域の病院や診療所などと緊密に連携して、それぞれの地域の母子の健康を支えるために、多くの医療スタッフが24時間体制で周産期医療に取り組んでいます。

しかし、最近では、地方の医療現場で、この周産期医療の担い手(助産師、産婦人科医、小児科医、麻酔科医、など)が大幅に不足し、各地で非常に大きな問題となっています。

この独立行政法人国立病院機構・高知病院では、ホームページの情報によれば、産婦人科医が(院長先生を含めて)8人、小児科医も9人在籍し、マンパワーもしっかりと整っているようです。

それぞれの地域の状況に応じて、みんなの知恵を絞って、確固とした周産期医療体制を構築していく必要があります。また、将来の地域の周産期医療を支える若手医療人の育成にも力を入れてゆく必要があります。

****** 毎日新聞、2006年9月29日

特集:地域医療を考える 「周産期」医療に取り組む高知病院----福家・産科医長に聞く

 ◇母子の健康支える、24時間体制で万全ケア

 「周産期」と呼ばれる赤ちゃんがお母さんのおなかの中にいる時から出産後の新生児までの総合的な医療に取り組んでいる独立行政法人国立病院機構・高知病院(高知市朝倉西町、森下一院長)。「赤ちゃんが生まれたら終わり」ではなく、母親の心理ケアや万一のハイリスク児に備えた新生児専用の集中治療室も完備し、24時間体制で母子の健康を見守る福家義雄・産科医長(51)に取り組みなどを聞いた。【聞き手は毎日新聞高知支局長・小泉邦夫】

 ----周産期医療について、説明して下さい。

 福家医長 周産期医療とは、妊婦から新生児までの分娩前後の母子に対する医療をさします。妊娠も未熟児を含む新生児も異常ではありませんが、ほんの少しのことで病気になりやすい状態になっています。ただ、この時期の病気の特徴というのは妊娠中から予測、予防が可能であったり、胎児・新生児についても病気になっても早く診断することによって治療できることが多いのが特徴です。母児が安全に妊娠、出産を終えて家庭に戻って子育てをしていけるように社会全体で応援してあげることが大事なんです。歴史を説明すると、1965(昭和40)年に母子保健法が制定され、母体の保護と胎児、新生児への医療が進展してきました。さらに、昭和50年ぐらいから、特に呼吸管理の進歩などによって新生児救急医療体制も全国に整備されてきました。

 ----周産期医療の必要性を教えて下さい。

 福家医長 ほとんどの妊婦さんは順調に妊娠が経過して分娩し、元気な赤ちゃんを産み育てていかれるのですが、中には何らかの異常を来たし、医療の手助けを必要とすることがあります。私たち母子医療にかかわる者は、日ごろからそういう異常が起きないように援助させていただいていますが、怖いのはさっきまで元気だったのに急変するということがしばしばあるということです。急に早産になったり、大量出血したり、胎児の機能が急に悪くなったり、生まれた赤ちゃんについても未熟児で生まれたり、新生児特有の症状が出たりします。この場合、重篤な合併症を持つ妊婦や新生児に適切な医療を行うには産科、小児科のみならず、小児外科、心臓血管外科、脳神経外科、整形外科、形成外科、小児循環器科、小児神経内科、内分泌科など多数の診療科、専門科の協力が必要です。

 ----あまり聞き慣れないNICU(新生児特定集中治療室)とは、どんな施設ですか。

 福家医長 正常新生児や軽い病気の赤ちゃんは分娩した施設で診ていくことができますけれども、病気の状態によっては小児科・新生児科医による治療が必要となります。さらに、未熟児・重症の赤ちゃんの集中的な治療を行うにはNICUで、高度な医療を集中的に行う必要があります。厚生労働省の施設基準がありまして、高知県内では高知医療センターに6床、高知大学付属病院に6床、当病院に3床あります。体調が不安定な未熟児や新生児では秒単位、分単位で病状が急変することがありますので、24時間体制でのケアが必要です。NICU専任の医師、看護師が治療に当たります。

 ◇他病院と連携、患者情報を共有

 ----産科医不足が社会問題にもなっていますが、より広い他病院との連携も重要ですね。

 福家医長 高知県では平成9年から周産期医療支援システム方式が、平成10年から高知県周産期医療協議会が設けられ、高知医療センターを中心とした医療関係者の研修事業も始まっています。さらに、産婦人科、小児科の各種会合を通して患者情報の共有、医学知識のレベルアップが図られています。平成17年3月から総合周産母子センターが高知医療センターに開設されまして、心配のあるいわゆるハイリスク妊婦、新生児の受け入れ体制が大幅に増加して以前にあったような県外の施設への搬送などは特別な疾患を除いてほとんどなくなっています。ただ、多胎や重症例の入院が重なった場合に、病院間、病院内での調整に戸惑うこともありまして、早めに情報を共有することを目指しています。救急患者の紹介、搬送については、さらに単純明快な手段で連絡しあえる体制をつくるべきだと考えています。新生児ではNICUで急性期の治療が終わっても退院できない児が増加しています。このようなベビーの受け入れ施設が少ないということもNICUの受け入れ能力の低下になっています。いわゆる後方病床の拡張、支援体制の強化が必要です。

 ◇新生児集中治療室の増床も

 ----周産期医療に対する高知病院の課題を聞かせて下さい。

 福家医長 新生児には特別な病室が必要であり、新生児医療を担うスタッフの確保も厳しい状況にあります。スタッフの労力からも多胎などの早産が重なると、まれに県全体の収容能力を超えることもあります。今後の対応としては病院間での母児移動、県外施設との連携も必要になってくると思います。当病院でもNICUの増床。さらに、母体胎児集中治療室(MFICU)の整備も検討中です。

 ----現在、妊娠中の人や里帰り出産をされる方もあると思います。何かアドバイスがあれば、聞かせて下さい。

 福家医長 産科、小児科の病院間や産婦人科の診療所やクリニックとの間では、日ごろから連携ができています。ですから、いずれの産科施設でもきちんと妊婦健診を受けていらっしゃれば、万一異常があった場合には、症状に応じて対応可能な高次施設への紹介、移動、母体搬送、新生児搬送は可能です。安心して県内で妊娠、分娩、子育てをしてほしいと思っています。

(毎日新聞、2006年9月29日)


深刻な医師不足

2006年09月29日 | 地域周産期医療

最近は、大学病院自体が深刻な人手不足に陥っているために、関連病院で退職者がでても、その抜けた穴を補充するだけの人員がもはや大学病院内に残ってなくて、むしろ、大学病院の人手不足を、関連病院からの医師引き揚げで補って、何とか大学病院の人員が維持されているというのが現状だと聞いています。

地方公立病院の多くは、従来より大学病院からの医師派遣で何とか人員を確保してきましたが、このシステムがいつまで維持されるのか?は全く予測できません。

また、新臨床研修制度により、若手医師達が自分の研修・就職先を選択できる自由度が格段に高まりました。今まで長い間、大学が担ってきた地方病院への医師派遣機能もだんだん低下しつつあります。

地方病院・産婦人科が今後も存続してゆくためには、自らの研修・就職先としての魅力を飛躍的に高めてゆくしかないと思われます。若い医師達にとって魅力ある病院とは、豊富な症例数充実した研修・指導体制専門医の資格取得が可能であること責任ある仕事を任せてもらえることあまり激務でないこと女性医師が辞めずに働き続けられる柔軟な勤務体制託児所の設置待遇がよいこと、などいろいろと考えられます。病院としても、知恵を絞って、若い医師達に病院の魅力をアピールできるように様々な工夫をしていかなければならないと思っています。

****** 朝日新聞、2006年6月14日

近くで産めない 突然転院の通告・里帰り出産断る 大学派遣の産科医集約

 一人でも医師を確保したい自治体と、少人数体制でのリスクを避けたい大学の医局。産科医不足が深刻化するなか、そんな両者の思惑の違いが、お産の現場で色濃くなっている。「頼みの綱」だったはずの大学に背を向けられた地域では、妊婦たちが不安を募らせている。

妊娠ためらう

 産科医不足が特に目立つ東北地方は、拠点となる病院に複数の医師を集める集約化の「先進地」だ。6県にある医学部を持つ大学が連携し、医師の引き揚げや集約化を始めている。

 「すぐに病院を変わってもらいたい」。宮城県登米市の自営業の女性(36)は2月、健診に訪れた市立佐沼病院で突然告げられた。東北大から派遣されていた産科医が隣市の中核病院に移り、1人体制になるというのだ。病院は分娩(ぶんべん)数を絞り、高齢出産などリスクの高い妊婦は、人手を手厚くした中核病院に振り分けていた。

 中核病院までは車で1時間かかる。7月の出産を控え、通院を続けていたが、切迫早産となり、今はそこに入院中だ。夫(36)は「理不尽だと思うが仕方ない。毎日見舞っているが遠くてつらい」。病院関係者は「遠すぎて通い切れないと、勝手に市内の開業医に移った妊婦もいる。かえって危険」と話す。

 仙台市では東北大が中心となり、6病院をお産の拠点病院と定め、4病院のお産をやめて医師を集約した。健診は診療所、お産は拠点病院というセミオープンシステムを昨秋から本格的に実施している。

 秋田県大館市では、県北部で最も多い年間500件のお産を扱っていた市立扇田病院(旧比内町)の産科が9月から休診になる。秋田大が派遣医師2人を引き揚げるためだ。市周辺のお産を一手に引き受けることになった大館市立総合病院は、里帰り出産を原則として断ることにした。

 1歳と3歳の子を扇田病院で里帰り出産した上小阿仁村の武石恵さん(28)は「もう産むのをあきらめるしかない」。

 岩手県遠野市には4年前から、お産できる場所がない。岩手医科大が医師派遣をやめ、県立病院の産科が休診したからだ。どこで産むにも山道で1時間近くかかる。

 遠野市が最近、妊婦に実施したアンケートでは、市内でお産ができないことに90%が不安を感じ、35%が「次の妊娠を控えたい」と答えた。

小児科と連動

 「集約化の計画を策定する前に、どんどん病院が消えていった」

 兵庫県医務課の担当者はため息をつく。県内の25病院に産科医を派遣していた神戸大が昨年以降、計7カ所で医師を引き揚げたからだ。独自に集約化を進めるため、分娩数の多い病院に医師を次々に移すなどした。

 産婦人科と同様、医師不足に悩む小児科が撤退・縮小した病院は産科医も引き揚げる。そうした大学側の方針は、関係自治体に「神大ルール」と恐れられている。

 同大大学院の丸尾猛教授(産婦人科)は「新生児を診る医師がいない病院では、安心してお産ができない。高齢出産などリスクが高い妊婦も増えており、最低3人以上の医師がいないと、高度で安全性の高い医療を担保できない」と説明する。

(以下略)

(朝日新聞、2006年6月14日)


小児科・産科の集約化に伴う一つの問題点

2006年09月27日 | 飯田下伊那地域の産科問題

厚生労働省は、医師確保総合対策費として平成19年度予算で約1029億円を計上し、各都道府県に地域医療対策協議会を設置し、小児科医と産科医を都道府県単位で集約化・重点化する方針を打ち出すなど、医師不足、偏在を解消する対策に本腰を入れ始めました。

従って、今後、地域医療対策協議会で小児科・産科の集約化が必要と判断された医療圏においては、集約化が実行に移されてゆくと予想されますが、この集約化により、小児科医や産婦人科医が撤退していなくなってしまう病院や自治体、地域住民の非常に大きな反発が予想されます。

また、小児科医や産婦人科医が撤退した病院に長年勤務していたベテラン助産師達の処遇も、非常に大きな問題となるだろうと予想されます。

当医療圏の事例では、分娩の取り扱いを中止した施設に長年勤務していた助産師の多くが当院の正式職員(地方公務員)として採用されました。地方公務員の採用なので、年齢制限などのいろいろの制約があった筈ですが、今回に限り、超法規的に(50歳を過ぎている前の施設の看護師長も含めて)多くのベテラン助産師達が当院に移って来てくれて非常に助かってます。今回、当院に移籍して来てくれた多くのベテラン助産師達は、当科でも、毎日、生き生きと輝いて大活躍しています。「他の病院で、1人目、2人目の時にお世話になった助産師さんに、こちらの病院でもまたお世話になれた。」と感激する妊婦さんも非常に多いです。

分娩のほとんどは正常分娩なので、分娩件数の増加に対応するためには助産師の増員が非常に重要です。地域医療対策協議会の話し合いで、職場が変わってもこの仕事を続けたいと思うベテラン助産師さん達の便宜を最大限に図ることが非常に大切だと思います。その点で、市長だとか、市の衛生部長だとか、保健所長だとか、各医療機関の院長だとかの、関係する地域の重鎮の方々にも地域医療対策協議会のメンバーとなっていただくことが非常に重要だと今回実感いたしました。

それぞれの立場の利害を乗り越えて、『地域存亡の危機を、地域の皆の力を結集して、何とか乗り越えよう!』という視点が非常に大切だと思います。


意外に減っていない産婦人科希望

2006年09月26日 | 地域周産期医療

従来は、産婦人科を志望する者の多くは、出身大学の産婦人科に入局して研修を開始し、医局人事で関連病院を数年づつ回って、それぞれ経験を積んで、各自の最終的な就職先も大学の医局が決めてきました。

私自身、大学を卒業した時に出身大学の産婦人科に入局し、いくつかの関連病院での研修、大学での数年間の研究生活を経て、ある日突然、教授室に呼ばれて「来月から○○病院に赴任しなさい」という教授の一言で、新天地である現在の病院に一人医長として赴任し、そのまま当地に留まり現在に至ってます。当時は、一体全体、自分が将来どの病院に就職するのか?は赴任の直前まで全く見当もつかず、突然の教授の一言で全てが決まるというシステムでした。医師個人が自分の就職する病院を選択する自由は全くありませんでした。

この医局人事システムがくずれ始めて、特に地方病院には新たな産婦人科医が回ってこなくなってしまい、全国的に産婦人科病棟の閉鎖が相次いでいます。

今後、地方病院の産婦人科を維持してゆくために、一体全体、我々はどうしたらいいのでしょうか?今後、大学からの医局人事が維持されるという保障は全くありません。ある日突然、大学から「医師派遣の打ち切り」を宣告される可能性がありますが、それは全く予測できません。また、地域住民の署名活動だけでは、状況は全く変わらないと思います。

最近、臨床研修制度が大きく変わって、研修医自身が自分の研修する病院を自由に選べるようになりました。従って、今後は、まともな研修ができないような病院に研修医達が多く集まる筈がありません。

当院では、新臨床研修制度が開始されてから、院内に若くて元気な研修医や医学生が大勢あふれるようになり、沈滞ムードだった病院が活性化され、以前と比べて病院の雰囲気が格段によくなった気がしています。世間では非常に評判が悪いことは確かですが、『この新しい制度も決して悪くはない』というのが正直な私の感想です。制度が大きく変わったのであれば、この新しい制度に柔軟に対応して、病院の体制を大きく変革してゆくしかありません。

産婦人科を志望する研修医の数は以前と比べて減ってないということであれば、今後の地方病院・産婦人科の生き残りのためには、病院の産婦人科・研修体制を強化し、産婦人科を志望する研修医達が是非この病院で研修をしたいと思うような、研修体制の充実した病院に大変身してゆかねばならないと考えています。

****** 産経新聞、2006年8月31日

重労働でも意外に多い小児科・産婦人科希望 厚労省調査

 重労働のため敬遠されているとされる小児科と産婦人科を選ぶ若手医師が意外と減っていないことが分かった。厚生労働省は31日、平成16年度に導入された新しい医師臨床研修制度に関する調査結果を公表した。

 調査は今年3月、1年次(7526人)と2年次(7344人)の研修医に対して行われた。回収率は1年次が57・3%、2年次が51・9%だった。

 2年次の研修医に対する調査で、32診療科のうち専門にしたい診療科のトップは内科(14・6%)だった。激務から不人気といわれる小児科は3位(7・5%)、産婦人科も8位(4・9%)と“健闘”した。

 14年に20歳代の医師の診療科を調査したときに比べ、小児科と産婦人科はそれぞれ0・7ポイント増とわずかながらも増えており、厚労省は「医師数が減っているという傾向は出ていない」としている。

(以下略)

(産経新聞、2006年8月31日)


公判概略について(06/9/23)

2006年09月25日 | 大野病院事件

周産期医療の崩壊をくい止める会のホームページより

公判概略について(06/9/23)

第3回公判前整理の話し合いの結果報告

 平成18年9月15日(金)に福島地方裁判所において、3回目の県立大野病院事件に対する公判前整理の話し合いが行われました。第2回目は8月11日(金)に行われましたが、争点を決めることが殆どなく終了し、3回目となったわけですが、今回も最終的な争点を決めるまでには至りませんでした。次回は10月11日(火)に行うこととなりましたが、裁判所としては、次々回11月10日(金)を最終として公判前整理を行いたい旨、検察側と弁護団(8名)に通告したそうです。従って、公判は早くて12月以降になると思われます。

 弁護団としては、当日、福島地方裁判所刑事部に、「予定主張等記載書面」を提出いたしました。その内容の主なるものは以下の通りです。

1. 本件における帝王切開手術時の子宮と胎盤の状態については、今回の胎盤は妊娠37週の胎盤としては大きかったこと、分葉胎盤様であったこと。  検察側が提出してきた証明予定事実記載書によると、子宮前壁にも癒着があったとしているが、癒着があったとはいえないこと。後壁の癒着も一部でしかも比較的軽いものであったこと。

2. 癒着の予見可能性についても、後壁の一部の癒着胎盤で、比較的軽いものであったことからも、術前に予見は不可能であったこと。

3. 手術中における大量出血は用手剥離困難になるまでの間、予見可能性はなかったこと。

4. 手術前及び手術中における予見可能性が認められないため、本件手術中の結果回避義務はないこと。

5. 加藤医師は産婦人科専門医であり、約1,200例の分娩を取り扱い、そのうち200例は帝王切開手術であり、県立大野病院では一人医長で、分娩は約350例、そのうち約50例は帝王切開手術であり、夜間及び休日でも、連絡があれば直ちに病院に駆けつけるなどの過酷な労働条件下で地域の産婦人科医療に貢献していたこと。

 今後、弁護団としては摘出した子宮の胎盤の病理についての意見書、産婦人科周産期専門医の意見書を裁判所に提出する予定であることを、裁判所に伝えました。

2006年9月22日

福島県立医科大学 産科婦人科学教授 佐藤 章

****** 参考

公判概略について(06/7/28)

福島県立医大:佐藤章教授のコメント

大野病院医療事故:裁判所が争点初提示 初公判12月に (毎日新聞)

日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会:県立大野病院事件に対する考え

日本周産期・新生児医学会の声明文


日本周産期・新生児医学会の声明文

2006年09月21日 | 大野病院事件

http://plaza.umin.ac.jp/~neonat/news/seimei060913.pdf

日本周産期・新生児医学会 会員各位へ

               声明文

 日本周産期・新生児医学会は、会員の総意に基づき、福島県立大野病院勤務の医師、加藤克彦(以下加藤医師)の逮捕・起訴に対して強く抗議することを声明致します。
 この事件は、加藤医師が、同上病院において平成16年12月17日に施行した癒着胎盤を合併する前置胎盤の帝王切開に際し、出血多量のため患者を死亡させたとして業務上過失致死の罪、及び異常死体を24時間以内に届け出ると定めた医師法違反の罪に問われ、去る平成18年2月18日に逮捕、3月10日に起訴されたものであります。
 本会並びに学会員は、まず、亡くなられた患者様に深く哀悼の意を表し、ご家族の皆様には心からお悔やみを申し上げる所であります。しかしながら、この事例は、加藤医師が“故意”や“怠慢”などにより患者を死亡に至らしめたのでないことは明白であり、力を尽くし懸命な努力をしたにも拘らず、患者の命を救うことができなかった事例であります。この様な事例に対し担当医師の刑事責任を問うことは、そのこと自体が全く不当で、本会はそれを容認することはできません。
 本件で、一時的とは言え身柄を拘束された加藤医師はこれまでも身を粉にして地域の医療に貢献してきた産婦人科専門医であります。上記事例の発生後も同上病院に勤務し日々の診療に当たっておりました。この様な医師が逃亡する恐れの無いことは明らかで、また、警察の取調べにも素直に応じ、既に資料も総て押収されてしまった逮捕当時、証拠隠滅など図りようもないことであります。その様な状況での今回の逮捕拘留は全く理解に苦しむものであり、誤った処置であったと断言できます。
 本会も事例の医学的事項並びに不幸な結果に至った経緯とその原因については徹底的な究明を望むものであります。しかし、本事例は癒着胎盤と言うまれな疾患の診断の難しさゆえに生じたものであり、また、医師不足や輸血用血液確保の困難性など、地域医療の特性に基づく悪条件が不幸な結果に強く結びついていることも明らかであります。この様に、本事例が学問上も難しく、さらに僻地医療が抱える問題を背景として生じた事例であることを鑑みますと、その責任を現場の医師一人に帰してしてしまおうとする今回の逮捕・起訴に、本会の多くの会員が憤りすら感じていることも無理からぬことと言えます。この様な逮捕・起訴がまかり通れば、僻地医療、延いては日本の周産期医療全体を衰退させることになると強く危惧するところであります。周産期医療に携わる医師が日常的に行っている医療行為には本件のような不測の事態の発生する可能性が常に内在されており、それ故、今回の加藤医師の逮捕・起訴は医療従事者を萎縮させ、今後、医師を、自己防衛を優先する医療に走らせる懸念があるとさえ言わざるを得ません。
 また、本件で加藤医師が異常死届出に関する医師法違反に問われたことも道理の通ったものとは思われません。いわゆる医療事故と考えられる事例は、事の重大さを問わず、医師が自らの良心に従い病院に報告するのが通例となっており、本事例に関しても、加藤医師は病院長に報告し指示を仰いでおります。実際、大野病院のマニュアルにもそのように定められており、必要があれば院長が警察に届け出る事になっておりました。また、加藤医師は福島県の事故調査委員会の取調べに対しても、再発防止の観点から調査に全面的に協力し、正直に事例の経緯を述べております。再発防止と将来のより良い医療の達成に資する目的の調査委員会報告書が捜査資料に使われ、病院の規定通りに事例を報告し、病院側からの指示に従った加藤医師がこのことで医師法違反に問われたことにも、本会は大きな驚きと深い失望を覚えている所であります。
 以上のことから、日本周産期・新生児医学会は福島県立大野病院事件における加藤医師の逮捕・起訴に対する強い抗議の意志をここに声明する次第であります。

平成18年8月
日本周産期・新生児医学会
理事長     堀内 勁

****** 参考

癒着胎盤で母体死亡となった事例

母体死亡となった根本的な原因は?(私見)

日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会:
県立大野病院事件に対する考え

読売新聞:医療事故 摘発どこまで

公判概略について

大野病院医療事故:裁判所が争点初提示 初公判12月に (毎日新聞)


常位胎盤早期剥離による児死亡

2006年09月20日 | 出産・育児

通常、胎盤は児娩出後に自然に子宮から剥がれてきます。ところが、常位胎盤早期剥離という病気では、まだ胎児が子宮の中にいるのに胎盤が子宮から剥がれてしまいます。

胎盤が子宮から剥がれると、胎児への酸素の供給は突然ストップしてしまいます。剥がれる面積が小さいうちは胎児は何とか生きていますが低酸素のため弱ってきます。広い範囲で剥がれると胎児死亡となります。 発症直後に胎児死亡となる例もめずらしくありません。胎盤後血腫のために母体の血液の状態が変化してDICという状態になると、血が止まらなくなり、出血のために母体の生命が奪われることもあります。

常位胎盤早期剥離は全妊娠の0.44~1.33%程度に発症し、母体死亡率は4~10%、児死亡率は30~50%と言われています。自宅で発症した場合や他院からの母体搬送例では、来院時にすでに胎児死亡となっている場合が非常に多いです。

この病気で児が助かるかどうかは全くの偶発性に依存しており、手術の主な目的は母体の救命にあると考えています。

常位胎盤早期剥離がどの妊婦さんにいつ発症するかは全く予測できません。早急に無過失補償制度を整備する必要があると考えられます。


帝王切開、なぜ増える 20年で1.6倍に

2006年09月18日 | 出産・育児

骨盤位、前置胎盤、常位胎盤早期剥離、胎児ジストレス、回旋異常、児頭骨盤不均衡、分娩停止、前回帝王切開、子宮破裂、などなど様々な理由で帝王切開が行われている。

骨盤位、出血が始まる前の前置胎盤、前回帝王切開などの場合は、陣痛が始まる前に予定で選択的帝王切開が行われる。

常位胎盤早期剥離、子宮破裂、前置胎盤で大量の出血が始まった場合、胎児ジストレス、回旋異常による分娩停止などの場合は、予定外の緊急帝王切開が行われる。

特に、常位胎盤早期剥離や子宮破裂などの場合は、全く予期せずに突然発症し、発症後30分以内(できれば十数分以内)に帝王切開で児を娩出しなければならないし、出生直後より新生児科医による児の蘇生処置が必要となる。母体もきわめて危険な状況となるため、麻酔科医による全身麻酔による管理が絶対に必要となる。

また、分娩経過中に、子宮破裂、癒着胎盤などによる大量出血が始まった場合には、母体の救命のために、緊急大量輸血、全身麻酔下の緊急子宮摘出手術なども必要となる。

従って、産科病棟では、24時間365日、いつでもただちに帝王切開や子宮摘出手術などが実施できるように、常に緊急手術スタンバイ状態を維持していなければならない。産婦人科医、小児科医、麻酔科医が院内に常駐していることが望ましい。さらに、いつでも大量の輸血が可能であることが望ましい。

しかし、産婦人科医、小児科医、麻酔科医は、どこでも不足しており、これらの条件を満たすことができる施設は未だに数少ないのが現状と考えられる。今後、各医療圏において十分に協議し、安全で安心できる分娩環境を、段階的に整備してゆく必要がある。

****** 朝日新聞、2006年9月18日

帝王切開、なぜ増える 20年で1.6倍に

 秋篠宮妃紀子さまが6日、帝王切開で悠仁(ひさひと)さまを出産した。厚生労働省の抽出調査に基づく推計では、この20年あまりで国内の帝王切開件数は約1.6倍に増えた。全体のお産数は約2割減っており、帝王切開が占める割合は7%から15%に上がった。背景には、初産の高齢化でリスクの高いお産が増える一方、経膣分娩(いわゆる自然分娩)での予期せぬ事態を避けたい医療者側の思惑があるようだ。

(中略)

 帝王切開には、紀子さまのように母子の状態によって計画的に行う場合と、経膣分娩に時間がかかりすぎるなどして急きょ行われる場合がある。母親の意識を残す局所麻酔が多く、最近は術後の見た目を考えて、おなかを横に10センチほど切るケースが増えている。入院は10日から2週間程度。5日ほどで退院する経膣分娩よりは長くかかる。

 部分前置胎盤や骨盤位(逆子)、以前に帝王切開で出産している場合の判断は、医師によって異なる。

 聖路加国際病院(東京都中央区)では、入院が長くなる、出血が多ければ輸血が必要、次のお産も帝王切開になる率が高まるといったリスクを説明するが、それでも帝王切開を希望する母親が増えているという。

 厚労省のデータによると、02年は国内のお産の約15%が帝王切開だ。元愛育病院長で主婦会館クリニック(東京都千代田区)所長の堀口貞夫さんは「6~7人に1人のお母さんはおなかに傷がある。ちょっと異常な事態」と心配する。

 高齢出産などリスクの高いお産が増えているのも事実だが、お産をめぐる医療訴訟の増加や、産科医やお産を扱う医療機関の減少で不確定要素が多い経膣分娩を避ける傾向が強くなっていることも原因だという。米国立保険統計センターの統計(03年)によると、訴訟社会米国での帝王切開率は27.5%に達している。

 麻酔など医療技術の進歩で帝王切開の安全性は確実に増した。帝王切開は「管理できるお産」という考えは、医師だけでなく、親の側でも増えている。「裁判で『帝王切開をしていれば事故は防げた』という判例が増えれば、経膣分娩を怖がる医師がいても一概に責められない」と堀口さん。

 日赤医療センター(東京都渋谷区)の杉本充弘産科部長は「逆子の経膣分娩などは医師に経験と技量が必要だ。お産が減り、熟達した医師が減って、お産の現場での医師教育も出来なくなっている」と指摘する。

 「増加は好ましくないが、必要なケースもある。その場合、お母さんの心に傷を残さないことが重要」と杉本さんはいう。同センターでは、母子に危険が無ければ、帝王切開で取り上げた赤ちゃんはすぐに母親に抱かせる。夫が手術に立ち会うこともできる。杉本さんが担当する帝王切開の8割は夫立ち会いという。「帝王切開は第二の産道。ただ安全なだけでなく、よりよい帝王切開をする責任が医療側にもある」

(以下略)

(朝日新聞、2006年9月18日)


大野病院医療事故:裁判所が争点初提示 初公判12月に (毎日新聞)

2006年09月17日 | 報道記事

コメント(私見)

胎盤を剥離する際に、突然、大出血が始まって、その時点で初めて、『もしかしたら、これは癒着胎盤かもしれないぞ』と、執刀医は判断することができます。その際、執刀医は、まずは通常の止血の処置を試みて、どうしても止血ができない場合に限り、最終的に子宮摘出を決断することになります。

癒着胎盤であるかどうかは、摘出した子宮の病理検査によって初めて診断できます。癒着胎盤を強く疑い、子宮を摘出したが、摘出子宮の病理検査で癒着胎盤が否定されることもあり得ます。大量の出血が始まる前には、そもそも癒着胎盤と診断することは不可能です。

また、帝王切開では、1000~2000ml程度の出血であれば、日常よく経験する通常の出血量の範囲であり、その程度の通常の出血量のうちに、いきなり子宮摘出を決断することは普通あり得ません。

助産師にしろ、産婦人科医にしろ、分娩を取り扱っている以上は、取り扱う分娩件数の多少にかかわらず、いつ癒着胎盤の症例に遭遇するかは、全く予測できません。一生涯、遭遇しなくて済むかもしれないし、今日の勤務中にも遭遇するかもしれません。すなわち、プロとして分娩を取り扱っている以上は、どの妊婦も癒着胎盤の可能性があることを常に肝に銘じ、いつ癒着胎盤の症例に遭遇しても直ちに対応できる準備と覚悟が必要だと考えています。

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大野事件の続き... (いなか小児科医)

大野事件、公判前整理手続き (今日手に入れたもの)

参考:

癒着胎盤で母体死亡となった事例

癒着胎盤について

日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会:
県立大野病院事件に対する考え

****** 毎日新聞、福島、2006年9月16日

大野病院医療事故:
裁判所が争点初提示 初公判12月に
--公判前整理手続き


 ◇第3回公判前整理手続き

 県立大野病院で帝王切開手術中に女性(当時29歳)が死亡した医療事故で、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた同病院の産婦人科医、加藤克彦被告(39)の第3回公判前整理手続きが15日、福島地裁であった。今回は裁判所から初めて争点についての考えが示された。手続き終了は11月となり、初公判は12月にずれ込む見通しだ。

 手続きでは、裁判所から「胎盤の癒着がわかった段階で、大量出血を予見して剥離(はくり)を中止し、子宮を摘出すべきだったか」が主たる争点との考えが初めて示された。これについて弁護側は手続き後の記者会見で、「止血をするために胎盤をはがすことは臨床では当然のことで、出血を放置して子宮を摘出することは危険だ」と主張した。これに対し検察側は、「大量出血をする前に子宮を摘出すべきだと主張しており、(止血することが重要だとする弁護側の主張は)前提となる事実が異なっているように思われる」と話した。

 次回は10月11日に行われ、弁護側が主張を記載した「予定主張等記載書面」を改めて提出する。11月10日に検察側が意見を述べて手続きを終了する見込みだ。【松本惇】

(毎日新聞、2006年9月16日)

**** 日医ニュース、オピニオン、2006年9月5日
http://www.med.or.jp/nichinews/n180905n.html

医療崩壊を食い止めるために

飯野奈津子(NHK解説委員)

 昨今,医療事故を起こした医師に対して刑事責任を追及する流れが加速している.この流れが医療現場にもたらす影響を懸念する飯野奈津子氏に,その問題の深刻さを指摘してもらった.
(なお,感想などは日本医師会・広報課までお寄せください)

 「これまで,生活を犠牲にしてでも患者のために頑張ってきたけれど,もう限界です」.こんな手紙を,病院勤務の医師からもらうことが多くなった.これまで寝食を忘れて真面目に仕事をしてきた医師たちが,医療を巡る現状に悲鳴を上げ始めた.その原因の一つが,ここ数年,医療事故を起こした医師に対する刑事責任追及の流れが加速していることである.「罪に問われる基準が明確にされないまま,結果が予想外で重大だというだけで犯罪者にされてはたまらない」,そんな医師たちの思いが伝わってくる.
 こうした医師たちの思いを増幅させたのが,福島県立大野病院の産婦人科の医師が逮捕・起訴された事件だ.〇四年十二月,帝王切開の手術を受けた女性が死亡し,今年になって,執刀した医師が,業務上過失致死と医師法違反の罪で逮捕・起訴された.
 この事件に対して,日医をはじめとする,百近くの医療関係団体が,相次いで抗議文や声明文を出した.「明らかな過失もないのに,医師を逮捕するのは不当.医療関係者の不安が増大している」と訴えている.医師の過失が刑事責任を問われるほどのものかどうかは,裁判の過程で明らかになるだろうが,この事件が医療関係者に与えた衝撃は,あまりにも大きい.

刑事責任追及の流れがもたらすもの

 それにしても,なぜ,刑事責任追及の流れが加速しているのだろう.医療事故が起きた時,被害者が望むのは,なぜ事故が起きたのかその真相を明らかにして,医療側にミスがあれば謝罪して欲しい.そして二度と同じ事故を繰り返さないよう対策をとって欲しいということである.ところが,多くの場合,医療側から事故の原因について,十分な説明がない.
 そうしたなかで,被害者の側ができることといえば,現状では,民事の裁判に訴えるしかない.ところが民事裁判では,被害者の側に立証の責任があるので,医療の専門家を相手に争うのが難しく,真相が究明できないことも少なくない.そこで,被害者の側が期待するのが警察の力である.自分たちの手で解明が難しい事故の真相を,刑事裁判の場で解明して欲しいと願い,そうした期待を受けて,警察が積極的に動き出したということだと思う.
 しかし,事故を起こした医師個人の責任を追及する刑事裁判の場でも,被害者の思いは満たされない.事故は多くの場合,医療体制上の問題が複雑に絡んでいるが,刑事裁判では,問題の全容を解明することが難しく,事故の再発防止につながらないからだ.
 しかも,刑事責任追及の流れが,医療の萎縮ともいえる深刻な事態を招いている.産科だけでなく,事故と背中合わせの外科や小児科,救急などの医療現場から,医師が撤退を始め,難しい医療を敬遠する動きが出てきている.
 例えば,埼玉県の救急の現場では,病院が患者の受け入れを断るケースが増えているという.埼玉県が,たらい回しがひどすぎるという住民の苦情を受け,去年七月と八月,県内の消防本部を対象に緊急に調査を行った.それによると,四万件あまりの搬送のうち,患者の受け入れを病院に断られ,五回以上要請を繰り返したケースが四百三件,受け入れ先を決めるのに三十分以上かかったケースが二百四十二件あった.なぜ病院は患者を受け入れないのか,その理由を尋ねると,「専門外だったり,難しい患者を診たりして事故を起こせば,刑事責任を問われかねない.だから安易に患者を受け入れられないのだ」という.こうした医療の萎縮ともいえる現象が広がれば,私たち患者の側が,必要な医療を受けられなくなってしまう.事態は深刻で,社会全体で早急に対策を考えなければならない.

求められる医師と患者の相互理解

 では,今後,どんな対策が必要なのだろう.欧米諸国では,予期しなかった患者の死に医療行為が関係していた場合,第三者が公正に原因を究明する仕組みができている.日本もそうした体制づくりを急ぎ,医療側と患者側が対立する裁判に変わる紛争処理の仕組みをつくることが緊急の課題だ.そのうえで,全体のなかのどのような過失を刑事責任に問うのか,その基準を明らかにする必要もある.どんなに手を尽くしても結果が予想外だったら,刑事責任を問われるのではないかという医療関係者の不安が広がっているからだ.
 そして,何より大切なのは,日常の診療のなかで,医療者と患者が互いに理解を深め,信頼関係をつくっていくことだと思う.医療は,常に人の死と隣り合わせで,不確実性が高い.手術を始めてみないと本当の病状が分からなかったり,予期できない合併症が起きたりすることがある.患者の側は,病院に行けば必ず病気を治してくれると期待するのだが,そうした医療の不確実性を理解することが必要だ.
 同時に,医療が不確実で専門性の高い分野であるからこそ,医療側自ら,患者の側に説明する責任があるのだと思う.民事裁判に訴える医療事故被害者の多くが,「事故が起きた時に医療側から納得できる説明があれば,裁判を起こすことも,警察に期待することもなかった」と話している.医療側がそうした被害者の声に耳を傾け,患者側も医療者への感謝の気持ちを忘れずにいることが,医療の質を高めることにつながっていくのだと思う.

マスコミが果たすべき役割

 最後に,私たちマスコミの役割にも触れておく.医療崩壊スパイラルともいえる医療現場の状況を,伝え続けなければならないと強く感じている.これまで,医師が現場の状況について語ることは少なく,国民に深刻な状況が十分伝わっていないと感じるからだ.医療費が抑制されれば,確かに国民の負担は軽くなる.しかし,その結果として,必要な医療が受けられなくなってしまっては元も子もない.
 医療現場の荒廃を食い止めるには,社会全体で危機感を共有して,取り組みに必要な負担も分かち合わなければならない.安心して医療が受けられる体制を再構築するために,マスコミが果たすべき役割は大きい.そのことを自覚して,報道を続けていきたいと思う.

飯野奈津子(いいのなつこ)
NHK解説委員.昭和58年国際基督教大卒.同年に初めての女性記者としてNHKに入局,その後,警視庁,厚生省などを担当し,平成11年より現職.担当は社会保障(医療・年金・介護など),女性問題.主な著書に,「患者本位の医療を求めて」(NHK出版)などがある.

日本医師会ホームページより)


助産師の養成について

2006年09月16日 | 地域周産期医療

助産師の養成は、従来、看護師免除を取得した者が入学する助産師専門学校や短大助産専攻科が担ってきました。しかし、最近、助産師の養成の主役は4年制大学となってきて、助産師専門学校や短大助産専攻科の閉校が相次いでいます。そのため、看護師が助産師を志そうと思っても、非常に狭き門で、道はほとんど閉ざされているような状況となりつつあります。

4年制大学での助産師養成のカリキュラムは超過密で、助産実習もせいぜい3ヶ月程度のことが多いらしいです。しかも、助産師になりたいから助産師課程を選択するというわけでもなく、『せっかくだから、看護師免許だけでなく、助産師免許、保健師免許もついでに取得しておこう』という単なる資格マニア的な者も少なくないらしいです。
『4年制大学での助産師教育は詰め込み教育となり、助産師としてのアイデンティティが育ちにくい』
『大学卒業の助産師学生の35%は助産師として働かない』
『大学での助産教育は過密で、分娩介助実習が十分にできないなど問題点が多く、大学の中で助産教育を行うことは望ましいと言っている大学教員はたったの7%である』
などの調査結果もあります。

現実の出産の現場で助産師数が圧倒的に不足しているのに、看護師が助産師に転身する道がほとんど閉ざされている現在の状況には問題があり、今後、看護師に対する助産師教育への門戸をもっと広げてゆくべきと考えます。

****** 読売新聞、2006年9月8日

助産師はいま 看護師からの転身 狭き門

養成の主役 「4年制大学」に

(略)

 1992年、国が看護職員の質向上のため、看護教育を4年制大学で行う方針を打ち出した。

 これに伴い、4年制の看護系大学が数多く設立された。短大の助産師専攻科や、助産師学校の多くは、そこに吸収された。それまでは、まず看護教育を終えた上で、助産師学校に進むのが一般的だったのが、4年制大学で看護師、助産師、保健師という三つの資格を取る方式が主流になってきた。

 助産師課程を持つ4年制大学が、98年の34校から2005年は87校に2倍以上に増えたのに対し、助産師学校は、47校から34校に、短大専攻科は35校から22校に激減している。

(中略)

 4年間で三つの資格を取得する大学のカリキュラムは「過密すぎて技能が十分身に着かない恐れがある」という産科関係者の指摘もある。厚生労働省が今年3月に設置した「看護基礎教育の充実に関する検討会」では、助産師を養成する仕組みの見直しについても話し合われている。委員からは「『医師の手助け』という位置づけではなく、能力ある助産師を育てられるよう、教育の充実を図る必要がある」との意見が出ている。

(読売新聞、2006年9月8日)


南和歌山医療センター:「院内助産所」を開設、年内には妊婦受け入れへ(毎日新聞)

2006年09月14日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

国の施策として、小児科医・産婦人科医を集約化する方針が打ち出されているので、今後、小児科医・産婦人科医の集約化が必要と判断される地域においては、集約化がどんどん実行に移されてゆくと予想されます。

従って、この南和歌山医療センターのように、産婦人科が撤退して産婦人科医がいなくなってしまう施設が全国的に今後ますます増加してゆくと考えられますが、その際に、『産婦人科医だけが集約先病院に移動して、助産師達が大勢病院に取り残されて、残った助産師達が「院内所産所」を開設する』という状況が今後一般化すれば、それは非常に大きな問題だと思います。

小児科医・産婦人科医が集約された病院で、分娩件数が従来と比べて倍増するのであれば、助産師数も従来の倍以上に増員しなければなりません。しかし、新卒の助産師をいくら募集してもなかなか集められませんし、新人助産師が一人前になるには何年もかかります。小児科医・産婦人科医だけを増員して、助産師数は従来のままでは、増加した分娩に全く対応できません。

『分娩施設を集約化するのであれば、小児科医・産婦人科医とともに、助産師や麻酔科医も集約化しなければならない』ということは非常に重要で、小児科医と産婦人科医の集約化だけでは、決してうまくいかないと思います。

          ◇  ◇  ◇

産婦人科医、小児科医、麻酔科医などの医療チームとの緊密なタイアップがあってこそ、助産師も思う存分に活躍できます。従って、産婦人科医不在となった病院の助産師達を有効に活用しようとするのであれば、その病院の助産師全員が、即刻、産婦人科医・小児科医の集約先病院に移籍するのがベストだと思われます。すなわち、今後は、産婦人科医・小児科医の集約化だけではなく、助産師の集約化も同時に連動させることが非常に重要だと思います。

『産婦人科医が病院からいなくなってしまったので、これからは地域住民のために病院の助産師だけで頑張ってくれ』というのでは、全くの丸腰で兵士を激戦地に送り出すようなもので、早晩、全員玉砕することは間違いないと思います。もしも分娩の途中で何か事が起これば、産婦人科医のいる病院に患者を搬送しなければならないとしたら、その助産所が病院内に存在する意義も全くありません。

助産師は地域にとって非常に貴重な人材です。彼女達を地域の中でいかにして有効に活用するのか?をよくよく考えるべきだと思います。

追記(2006/09/16):

地図を見ると、南和歌山医療センターと紀南病院との距離は約3kmです。今後、産婦人科が集約化される紀南病院では、分娩件数が倍増し、極端な助産師不足に陥ることも予想されます。南和歌山医療センターの助産師は14人もいたのですから、その助産師達も産婦人科医と一緒に移ることが可能であれば、分娩件数の大幅な増加分にも十分に余裕を持って対応できるはずと思われます。

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[医療][記事]最悪のパターン (S.Y.’s Blog)

産科医のいない院内助産所 (いなか小児科医)

産科医のいない院内助産所2 (いなか小児科医)

[医療][記事]院長降臨 (S.Y.’s Blog)

難しい選択 (いなか小児科医)

難しい選択...レス (いなか小児科医)

参考:

産婦人科医と小児科医の集約化の問題点

産科医集約(北海道・砂川市立病院の例)

秋田県の産科医不足の状況

朝日新聞 神奈川: 助産師の活躍期待

読売新聞:“マイ助産師”見つけよう

助産師不足? 適正配置に課題 (神戸新聞)

****** 毎日新聞、2006年9月13日

南和歌山医療センター:「院内助産所」を開設、年内には妊婦受け入れへ/和歌山

 ◇今月で産婦人科廃止
 今月で産婦人科がなくなる田辺市たきない町、南和歌山医療センター(中井國雄院長)が、新たに「院内助産所」の開設準備を進めている。授乳室を改修した和室の出産室も完成し、年内には妊婦の受け入れを始める。
 院内助産所ができるのは、4階西病棟の産婦人科の一角。現在、配置されている14人の助産師のうち、同科の診療停止に伴う異動や退職者を除く約半数が従事する。同センターは、同市内などにある4軒の個人経営の助産所に協力を要請し、担当の助産師を研修で派遣している。
 また、開設に先立ち、15日から妊娠、出産、産じょくなどの保健指導を目的とした「助産師外来」を立ち上げる。月~金曜日、午前9時~午後4時で完全予約制。費用はいずれも健康保険対象外。このほか、育児相談や産前産後の電話相談も行う。
 同センターでの出産件数は05年度、357人あった。このうち306人は正常出産で、異常出産は51人だった。
 同センターの産婦人科は、10月から同市新庄町の紀南病院に集約される。医師不足による厚生労働省の拠点化政策の一環で、担当医3人のうち2人が紀南病院へ、1人は高知県の病院に移る。【吉野茂毅】

(毎日新聞、2006年9月13日)

****** 紀伊民報、2006年9月13日

助産師外来を開設 南和歌山医療センター

 田辺市たきない町の南和歌山医療センターは15日から、助産師が産前や産後の健康相談に応じる「助産師外来」を開設する。県内では2例目。産科の休止に伴い、保健指導を充実させてほかの病院の負担を補うことが狙い。さらに助産師が正常分娩(ぶんべん)を扱う「院内助産所」も年内に開設したいという。
 同センターは、医師の派遣元となる徳島大学が派遣を見直したことから医師数が減り、8月末で分娩の取り扱いを休止した。10月以降は同センターに常勤医師を置かず、田辺市新庄町の紀南病院で医師数を3人から5人体制にし、機能を集中させる。
 南和歌山医療センターが、出産前後のケアを受け持つ助産師外来を開設することで、出産入院が集中するほかの病院の負担を軽減させる方針。
 助産師外来では、助産師が授乳期の乳房のしこりを解消する対処法や離乳食の作り方などを指導する。母親同士が知り合うきっかけになるように数人を一組にしたサークル形式の講座や電話での出産・育児相談も受け付ける。
 開設時間は月~金曜の午前9時~午後4時で、助産師2人が対応する。料金は内容によって異なるが、1000~3000円。電話での予約が必要。更年期障害の相談に応じる更年期外来は10月以降に開設する予定。
 同センターによると、これまで院内では生後1カ月の健診で患者との接触が終了してしまうことが多かったという。そこで外来開設に当たり、市内の助産所で研修を受けた。今後、母子と継続的にかかわることで「子育てのサポートにつなげていきたい」という。
 助産師外来の出立加代子看護師長(42)は「女性のライフサイクルを支えるという助産師本来の仕事に注目したい。柔軟な対応を目指しているので気軽に参加してもらいたい」と話している。
 南和歌山医療センターの産婦人科は9月末まで2人体制で、10月以降は非常勤医師を配置して、子宮がん検診など婦人科の診療を受け付ける。

 助産師 看護師が半年以上の教育を受けて受験する国家資格。看護師ではできない妊婦の内診や出産の介助、へその緒の切断ができる。全国的に産科医が不足しており、助産師の役割を見直す議論が出ている。

 昨年9月には、岩手県医師会が全国で初めて「助産師外来開設のためのガイド」を作成。県内107カ所の全病院に配布し、4病院で開設している。和歌山県内では和歌山労災病院(和歌山市)に次いで2例目という。

(紀伊民報、2006年9月13日)


産婦人科医と小児科医の集約化の問題点

2006年09月13日 | 地域周産期医療

日本産科婦人科学会が行った調査で、全国の大学病院と関連病院に常勤する産婦人科医が最近2年間で8%減り、分娩取り扱いをやめた関連病院も相次いでいることが判明しました。常勤産婦人科医の総数は2003年4月には5151人でしたが、2005年7月には4739人に減りました。分娩を取り扱う関連病院も2003年の1009病院から2年間に95病院(9.4%)減少しました。

少ない産婦人科医がそれぞれ別の病院に点在していると、多くの人手を必要とする産科救急にどの病院も適切に対応できなくなってしまいます。高次産科医療ができる病院が少なくなってしまえば、妊産婦死亡や周産期死亡は確実に増えてしまいます。産婦人科医数が激減している現状の医療環境において、産科医療の質を確保するためには、各医療圏内の限られた人数の産婦人科医を集約化して、産科救急にきちんと対応できる地域医療体制を確立する必要があります。

小児科でも公立・公的病院の医師不足は全国的に深刻な状況にあり、小児科医の拠点病院への集約化が緊急の課題となっていると聞いています。

最近、地域や診療科ごとの医師不足を解消するための「新医師確保総合対策」が、厚生労働省、総務省、文部科学省の3省でまとめられ公表されました。その中で、小児科・産科の広く薄い配置を改善し、集約化・重点化を推進することが明記されています。

厚生労働省は、医師確保総合対策費として、平成19年度予算で約1029億円を計上して、各都道府県に「地域医療対策協議会」を設置し、小児科医と産科医を都道府県単位で集約化・重点化する方針を打ち出すなど、医師不足、偏在を解消する対策に本腰を入れ始めました。

小児科と産科とでそれぞれの特殊な事情があると思いますが、集約化する場合には小児科および産科の集約先病院を連動させることが非常に重要だと思います。同じ医療圏の中で、小児科の集約先病院と産科の集約先病院が別々であれば、せっかく集約化しても全く意味がありません。各都道府県において、置かれた状況は全く違うので、小児科・産科の集約化のあり方を検討する「地域医療対策協議会」を開催し、両科でよく協議して、各医療圏で集約化する病院を調整してゆく必要があると思います。小児科・産科を集約化する病院(周産期母子医療センター)では、分娩件数や緊急手術件数が大幅に増えることが予想されますので、助産師や麻酔科医も同時に同じ病院に集約化する必要があります。

また、集約化により、小児科医や産婦人科医が撤退していなくなってしまう病院や自治体、地域住民の反発が当然予想されます。出産のための宿泊施設の整備,さらには道路整備、ヘリコプター搬送システムの充実などが行政側の課題になると考えられます。

長野県の産婦人科の状況:
 
最近3年間だけで29人の産婦人科医が県内の2次病院から離任し、最近5年間で県内の分娩取り扱い施設が20施設減少しました。さらに、「近い将来に分娩を中止する可能性がある」とアンケート調査に回答した施設が、分娩取扱い施設の約3割にあたる15施設に上っており、分娩を取り扱う施設は今後もさらに減り続けてゆくであろうと予測されます。(県産婦人科医会)

****** 朝日新聞、2006年08月25日

小児・産科医師の集約化へ補助金 患者拠出の病院支援

 小児科や産科の医師不足対策で、厚生労働省は来年度、特定の中核病院に医師を集中させる「集約化」に本格的に乗り出す。医師が足りない地域の病院が入院患者を中核病院に委ねることを条件に、高齢者医療など他の分野に転換するための費用を国が一部負担する。地域の医師確保策を後押しするのが狙いで、来年度予算概算要求に関連費を盛り込む。ただ、地方には集約化で医師が引き揚げられることへの懸念もある。

 厚労、総務、文部科学の3省は昨年8月、医師不足が深刻な産科や小児科の医院や病院に入院する患者を中核病院などに集め、医師一人ひとりの負担を軽くするなど、集約化・重点化の推進を決めた。各都道府県に、今年度中に対策の必要性を検討し、具体策をまとめるよう求めた。

(中略)

 厚労省が補助対象に想定しているのは、中核病院との連携が期待される山間部やへき地の自治体病院や民間病院など。重点化に協力して小児科や産科の入院患者を受け入れない代わりに、高齢者介護など地域のニーズにあった分野に切り替える場合、必要な医療機器やベッドなどの設備整備費の一部を国が負担する。

 厚労省は当面、自治体病院など公的病院を中心に集約化・重点化を進める方針だが「補助制度を充実させ、将来的には民間病院にも協力を仰ぎたい」としている。

(朝日新聞、2006年08月25日)


横浜・堀病院事件、捜査批判に県警が異例の反論 (読売新聞)

2006年09月07日 | 出産・育児

コメント(私見):

日本のお産の47%は診療所(病床数19以下)で扱われていますが、診療所の半数近くは助産師がいないか一人しかいないのが現実です。新卒の助産師で診療所に就職するのは2%で、助産師全体の八割が病院(病床数20以上)に集中しています。

多くの実際の医療現場で助産師が圧倒的に不足しており、助産師が現実の出産現場に対応しきれてない以上、現在ある戦力をいかに有効に使って、この危機を乗り切ってゆくのか?を社会全体で考えていく必要があると思います。

ただでさえ、診療所の先生方が次々に分娩取り扱いを中止している影響で、地域基幹病院へ分娩が集中しパンク寸前で対応に苦慮していたところに、この問題を契機に残りの診療所の先生方がなだれ現象的に一気に分娩を中止するような事態になれば、地域基幹病院側もとても対応しきれません。時代は移り変り、世の中の仕組みもどんどん変化してゆくのは仕方がないとしても、理想の実現のためには準備期間が絶対に必要だと思います。

****** 参考:

無資格内診事件 激務の産科に打撃(中日新聞)

お産難民 助産師が足りない 人材、大病院に集中(東京新聞)

****** 読売新聞、2006年9月6日

横浜・堀病院事件、捜査批判に県警が異例の反論

 横浜市瀬谷区の堀病院で無資格の看護師らが助産行為をしていたとされる事件で、日本産婦人科医会などが神奈川県警の強制捜査を批判していることについて、井上美昭・県警本部長は6日の定例記者会見で、「不当と言われるいわれはない。関係機関の法的な解釈を事前に照会したうえ、厳正に捜査している」と異例の反論をした。

 県警は8月24日、保健師助産師看護師法違反の疑いで堀病院を家宅捜索。

 日本産婦人科医会と日本産科婦人科学会は9月1日に見解を公表し、「大がかりな捜査は極めて不当。産婦人科医療の現場に深刻な打撃を与えた」と批判。

 県産科婦人科医会も「堀病院を全面的に支援する」と表明している。

(読売新聞、2006年9月6日)

****** 読売新聞(川崎版より)

無資格助産行為捜査批判に反論  「法的解釈踏まえ捜査」  県警本部長「不当のいわれない」

 横浜市瀬谷区の堀病院への捜査批判が医療関係者 の間からあがっていることに、井上美昭・県警本部 長が6日、正面から反論した。捜査中の個別の事件について、県警幹部が反論するのは異例。「不当」などといわれる筋合いではないという立場を、明確に した。

 井上県警本部長の一問一 答は次の通り。

--掘病院への家宅捜査について、日本産婦人科医 会など医師側から「捜査が 不当」という声があるが。

法的な手続きに従って、 厳正に捜査を進めていきた い。「不当」という指標は、 いかがかなあという感じは 持っている。ただ捜査中なので、どこがどうなんだ、ということは控えたい。感想と しては、そういうふうに言われるいわれはないと思っている。

--法律解釈に議論がある時点での家宅捜査に反発 があるが。

被害の申告がなされ、当然、捜査をする責務がある。 こういう捜査をする場合、 関係機関の法的な解釈ということについても、事前に照会している。そういうことを踏まえ、非常に慎重に捜査をしていた。

--結果として医療界に大きな影響をおよぼしているが。

関係機関、行政、医師会が事実を踏まえ、議論して、対策を取ることが大事なのではないか。県警が投げかけた事案を受け止めていただければ、ありがたい。むしろ今回の事案を経験し国民にとっていい方向に関係機関が進めていくことがだいじなこと。粛々と捜査を進めていく。

(読売新聞、川崎版より)

****** 毎日新聞、2006年9月6日

問われる「日本一」:堀病院・無資格助産事件 県産科婦人科医会が県警批判 /神奈川

 県警捜査を批判 日産婦と認識にズレも--見解公表

 横浜市瀬谷区の産婦人科病院「堀病院」の無資格助産事件で、県産科婦人科医会(八十島唯一会長)は「強い遺憾の意を表明する。堀病院への全面的支援を表明する」と県警の捜査を批判する見解を公表した。

 八十島会長によると、同医会は8月30日、医会事務局で約1時間半にわたり堀健一院長から聞き取り調査した。見解は4日付で、県警が先月24日、同病院を保健師助産師看護師法違反容疑で家宅捜索したことについて、「異常な捜査および大々的報道は、現在、既に分娩(ぶんべん)受け入れが限界を超えている県内の分娩医療機関に深刻な影響を及ぼしている」とした。

 また、堀病院における看護師らの内診(産道に手を入れてお産の進行状況を診ること)については「分娩経過の全体を医師が把握しつつ、十分な経験がある看護師が観察」しているとし、「観察は担当医が補助情報として利用する範囲内で、現行法に背反するものではないと確信している」として、保助看法で規定する「助産行為」ではなく、看護師にも認められた「診療の補助行為」であるとの見解を示した。

 日本産婦人科医会(日産婦)は陣痛開始から子宮口全開までの分娩第1期の内診は看護師にも認めるよう主張しているが、同病院で行われていたとされる出産直前(分娩第2期)の看護師らによる内診は1日の記者会見で「やってはいけないこと」(清川尚副会長)と否定している。日産婦との認識のズレについて八十島会長は「分娩第1期と2期は明確に線引きできないケースもある。医師の監視下であれば、流れの中で(分娩第2期に)看護師らが内診するのは致し方ないと考えている」と話す。【伊藤直孝】

(毎日新聞、2006年9月6日)

****** 毎日新聞、2006年9月7日

問われる「日本一」:堀病院・無資格助産事件 県警本部長が反論 /神奈川

 「厳正に捜査中」--県産科婦人科医会の批判に

 横浜市瀬谷区の産婦人科病院「堀病院」が保健師助産師看護師法違反(無資格助産)容疑で県警の家宅捜索を受けた事件で、県産科婦人科医会(八十島唯一会長)などが捜査批判を展開していることに、井上美昭県警本部長は6日の定例会見で「法的手続きに従い厳正に捜査を進めている。捜査中なので詳細は控えたいが(捜査が)不当という指摘はいかがなものか」と反論した。

 同法について、日本産婦人科医会は陣痛開始直後の分娩(ぶんべん)第1期に産道に手を入れてお産の進み具合を診る「内診」は助産行為に当たらないと主張している。

 これに対し、井上本部長は「関係機関の法的解釈を事前に照会し、それを踏まえて慎重に捜査している」と述べ、分娩第1期を含め看護師の内診は許されないとした厚生労働省の行政通知(04年)に従ったとの見方を明らかにした。

 さらに「捜査側ではなく一県民、一国民としての考え」と断った上で「関係機関、行政、医師会などがこういう事案を踏まえて議論されて、対策を取られることが大事ではないか。県警が投げかけた事案をそう受け止めていただければありがたい」と述べた。【伊藤直孝】

(毎日新聞、2006年9月7日)

*** 神奈川県産科婦人科医会、2006年9月4日

堀病院に対する警察の家宅捜査に関する見解

 今般の横浜市瀬谷区堀病院における神奈川県警生活経済課による保健師助産師看護師法違反容疑での、警察官60名にもおよぶ異常な家宅捜査および大々的報道は、現在、すでに分娩受け入れ状況が許容限界を超えて破綻状態にある神奈川県内の分娩医療機関ならびに妊婦に深刻かつ多大な影響を及ぼしております。

 当神奈川県産科婦人科医会は、神奈川県の産科救急システムの創設・充実等、神奈川県における母子の健康と安全のため最大限の努力をしてまいりました。この立場から、今般の事態により、きわめて深刻な県内の産科診療環境の悪化が加速することを憂慮しております。

 当会は、堀病院での診療内容が、分娩経過の全体を産科医師が把握しつつ、担当医の監督責任のもとで十分な経験・技量を身につけた看護師による産婦の正常経過の観察を担当医が補助情報として利用する範囲内であることを確認しており、現行の法令に背反するものではないと確信しております。

 神奈川県産科婦人科医会は、神奈川県警の家宅捜査に強い遺憾の意を表明するとともに、今後の堀病院への全面的支援を表明いたします。今後想定される事態に対しても、全国の皆様にご支援を賜りたく、お願い申し上げます。

 2006年9月4日
            神奈川県産科婦人科医会
                 会長 八十島 唯一


助産師はいま

2006年09月06日 | 出産・育児

コメント:

規模の大きい病院では、いろいろな専門職の人が周産期医療チームの構成メンバーとなっています。産科医、助産師、助産師以外の産科病棟ナース、新生児科医、新生児室・NICUナース、麻酔科医、手術室ナースなど、非常に大勢のスタッフがそれぞれの専門性を発揮して、チーム全員の力を結集して医療を提供しています。産科病棟に勤務する助産師たちは、この大きな周産期医療チームの中で、主に『産科専門ナース』としての機能を果たしています。

分娩室の中で、妊婦を診察するスタッフは産科医と助産師だし、新生児を診察するスタッフは新生児科医とナースです。新生児科医や助産師以外のナースが妊婦の内診をすることはあり得ません。産科医が新生児を診察することもほとんどありません。チームの中で役割分担が決まっていて、自分に割り当てられた役割をしっかり果たすことを求められます。

規模の大きい病院では、助産師が(産科以外の)一般病棟に配属されて助産以外の看護業務に従事している場合もめずらしくありませんし、看護部長や看護師長などの管理職となっている場合も多いです。このように、助産師であっても、病院で助産業務には全くタッチしてない場合も多いです。

それに対して、一般の産科診療所では、産科専門の院長先生お一人と、助産師2~3人、看護師十数人で24時間いつ何があるかわからないお産を多数取り扱っているような場合もあり得ます。医師が一人だけであれば、毎日、昼間は外来や手術で終日忙しく、分娩があれば外来を一時中止して分娩の全例に立ち会わねばなりません。新生児も診なければなりませんし、手術ということになれば麻酔も自分で実施しなければなりません。助産師も2~3人しかいなければ、分娩進行中の妊婦を、助産師だけで24時間介助し続けるのは無理です。分娩室に医師も助産師もいない間は、看護師が妊婦の状況を診て、経過を医師や助産師に報告するという態勢になっているところも少なくないと思います。一人の医師が、連日徹夜をして、分娩室内の産婦の傍らで介助し続けるなんてことは無理だと思います。

日本中に多くの産科診療所があり、それぞれ、院長以下のスタッフ全員の力を結集して、安全なお産のために日夜精一杯頑張って、日本の周産期医療が成り立っています。

現在、日本の分娩の半分は、一般の産科診療所が担っています。病院の産婦人科も現在ギリギリで何とかやっていて、どこも産科医療は崩壊寸前の状況ですから、いきなり産科診療所が全国一斉に営業停止になってしまったら、その分、病院の負担が増え、全国的に非常に困った事態となります。移行期間も置かず、理想の医療体制をいきなり実現しようとしても無理です。現実的な対応を探っていただきたいと思います。

****** 読売新聞、2006年9月5日

助産師はいま

(1) 看護師内診いいの?

法律・・・業務外 現場・・・診療の補助

 助産師資格のない看護師や准看護師が助産行為をしていたとして、横浜市内の堀病院が先月、保健師助産師看護師法(保助看法)違反の疑いで家宅捜索を受けた。神奈川県警の捜査は続いているが、看護師らによる助産行為は、各地の産院で広く行われてきたと出産現場で指摘されている。なぜなのか。背景の問題を探りながら、安全・安心なお産のあり方を考えたい。

 「堀病院だけではありません。うちの産院も同じです」

 電話の向こうの声が震えていた。ある地方都市の産院に勤める助産師。「陣痛が始まってから、出産直前に医師が来るまでには、長い時間があります。その間、お産が正常に進んでいるかどうかをチェックしている白衣姿の人が無資格者だなんて、妊婦さんたちには言えません……」

 胎児の心拍などをチェックする分娩(ぶんべん)監視装置の波形が異常を示しても、気づかない看護師もいるという。「出産事故が起きないか不安です」と話す。

 県警の調べによると、堀病院では、看護師や准看護師が妊婦の産道に手を入れてお産の進み具合を診断する「内診」を行っていた疑いがある。

 助産師や看護師の業務内容を定めた保助看法は「助産」を行えるのは医師と助産師だけと定めている。厚生労働省医政局看護課の岩沢和子さんは「内診は、お産が正常に進んでいるかを判断する『診断』行為なので、看護師の業務の範囲外です。今後、母子に異常が起きる可能性も予測しなければならず、判断を誤れば命に重大な影響を及ぼしかねません」と説明する。

 ところが、日本産婦人科医会は「内診は『助産』ではなく、看護師にもできる『診療の補助』に当たる」と解釈してきた。1950年代まで、お産の多くは自宅で行われ、助産師が担っていた。だが60年代から、お産の場が病院・診療所に移っていくなか、同医会は「産科看護研修学院」という独自の研修機関を各地に設け、看護師や准看護師などに受講させ、「産科看護師」などと呼んで助産師の代わりに内診などをさせてきた。

 市民団体「陣痛促進剤による被害を考える会」(事務局・愛媛県今治市)によると、1984年以降、医師・助産師以外の助産行為があり、母子が死亡したり障害が残ったりしたケースが少なくとも14件ある。無資格の看護師らが異常に気づかなかったことが、重大な結果を招いたとみられる例が目立つという。

 このうち、2003年に大阪市内の産院で長女を出産した女性(31)は出産直前、「白衣の人」に腹部を11回押された。長女は頭がい骨が折れた状態で生まれた。

 後日、母子手帳を見て、分娩を介助した助産師の氏名欄が空欄になっていることを不審に思い、産院に問い合わせた。その結果、「白衣の人」は准看護師だったと知った。

 「お産の介助をしてくれるからには、助産師だとばかり思いこんでいました。妊婦さんは分娩室に入ったら、その場にいるスタッフの資格を確認してください。医師も助産師もいなければ、呼んできてもらうよう頼んだ方がいいですよ」と、女性は注意を呼びかける。

(2006年9月5日  読売新聞)

****** 読売新聞、2006年9月6日

助産師はいま

(2) 診療所を なぜ嫌う

産科看護師との微妙な関係

 看護師や准看護師に「内診」などの助産行為をさせていたとして、神奈川県警が先月、保健師助産師看護師法(保助看法)違反の疑いで、横浜市の堀病院を家宅捜索したことに対し、日本産婦人科医会は反発した。今月1日には厚生労働省で記者会見し、「産科医療を必死に支えている産婦人科医師に打撃を与えた」とする見解を発表した。

 同医会は、診療所が助産師を募集しても、応募が少ない現状があると主張。そうした診療所では看護師に内診を任せるしかなく、禁止すれば、医師の負担が増え、産科医不足に拍車をかけると訴える。

 確かに、1年間に誕生する約110万人の赤ちゃんの半数は診療所(病床数19以下)で生まれるのに、そこで働く助産師は全体の2割以下という偏在が問題になっている。助産師の約7割は病院(同20以上)に集中している。

 ではなぜ、助産師は診療所に勤めたがらないのか。

 「待遇」を指摘する声がある。給与や福利厚生、労働条件は大病院と比べると見劣りしがちだ。人員が少ない分、責任も重くなることを敬遠する傾向もあるようだ。

 だがこうした理由とは別に、同医会の「産科看護研修学院」で研修を受けた「産科看護師」の存在を挙げる助産師は少なくない。

 埼玉県のある助産師は「ベテランの産科看護師に分娩(ぶんべん)介助のやり方を強制されました」と話す。別の助産師は「産科看護師に『あんたより、私の方がよっぽど内診がうまい』と罵倒(ばとう)されました。助産師が尊重されない職場では、働きたいはずがありません」

 同医会は「診療所に助産師が来ないから、産科看護師に内診をさせよ」と主張するが、逆に「産科看護師に長年内診をさせてきたことが、助産師を遠ざける原因となっている」というのだ。

 日赤医療センター(東京)の産科部長、杉本充弘さんは「助産と看護は全く別。この事件を機に産科医は認識を改めるべきです」と指摘する。

 年間約2000件のお産がある同センター分娩室には、35人の助産師が勤務。妊婦につきっきりになれる体制を作っている。「お産は本来自然な営み。女性の産む力を最大限に引き出すことが、安全・安心なお産につながります。それには妊婦に寄り添って励ましながら、異常があればすぐに対処する判断力も必要。それができるのは、専門の勉強をしてきた助産師だけです」

 診療所と助産師を結びつける取り組みも始まっている。国は昨年度、5都府県の看護協会に委託して、助産師の診療所への就職を支援するモデル事業を行った。

 出産を機に昨年、勤めていた病院を退職した東京都東久留米市の助産師伊藤孝子さん(39)は、都看護協会のあっせんで、同清瀬市の武田産婦人科で今年5月からパート勤務を始めた。「子どもが小さいので、家から近い産院を探していました。いい職場に巡り合えてうれしい」と張り切っている。

(2006年9月6日  読売新聞)

飯伊地区の産科分業態勢 順調に進展

2006年09月04日 | 飯田下伊那地域の産科問題

地域の周産期医療を絶滅の危機から守るためには、長期的な視野にたって、地域全体で知恵を絞って、地域の少ない医療資源を有効に活用して、協力して地域医療を守り育ててていくしかない

このことを地域住民の方々に繰り返し説明して理解を求め、今やらねばならないことを断固実行してゆかねばなりません。将来のビジョンなく、ここ1年2年を何とか持ちこたえるだけの、単なる一時しのぎの人気取りの方策だけでは何にもなりません。

何をやるにしても大反対する人は必ずでてきます。ゴールははるか彼方にあり、はたしてこの先どうなるのか?はさっぱりわかりませんが、10年後、20年後になってから、実績で評価してもらうしかないと思っています。

****** 医療タイムス社、2006年8月23日

飯伊地区の産科分業態勢 順調に進展

市立病院の分娩倍増も「医師負担増えていない」

 産科医不足が深刻化する中、飯伊地区が今年から導入している産科の分業態勢が順調に機能している。飯田市立病院が取り扱う分娩件数は倍増しているものの、診療所などとの機能分担が進んでいることなどから、病院医師の負担はそれほど増えず、「順調に推移している」(飯田市立病院・山崎輝行産婦人科科長)という。

 同地区は、分娩取り扱い施設が減少していたことを背景に、分娩を主に飯田市立病院のほか、椎名レディースクリニック、羽場医院の3施設で担い、妊婦健診は、分娩件数の急増が見込まれる市立病院以外の医療機関で受け入れる態勢を昨年の11月に打ち出し、今年からスタートした。

 このほど開かれた産科問題懇談会(会長・牧野光朗南信州広域連合長)で市立病院の山崎医師は、年間500件程度だった同院の分娩件数が、今年に入ってから1000件ペースと倍近くに増えているものの、診療所との機能分担が進んだことに加え、病院側も今年2月から産婦人科医が1人増の4人体制となったほか、助産師の増員や分娩台の増設などの整備が進んでいることから、「医師の業務は取り立てて激務になっていない。(分娩件数の)増加分のほとんどが正常分娩でもあり、問題なくスムーズに進んでいる」との見解を示した。

 また、同日の懇談会では、異常事態になった新生児を救急車などで市立病院に搬送する際に用いる新生児搬送用保育器を地域で購入する方針も確認。今後は事務局が中心となって検討していく。

 このほか、椎名一雄医師(椎名レディースクリニック院長)は、現行の産科態勢について「あくまで一時的な応急処置」との見方を示した上で、新たな産科態勢として、市立病院に分娩を一極集中させる「完全オープンシステム」と、市立病院を中心にするものの、下伊那郡北部と南部に「バースセンター」を設ける2つの私案を提示した。このうち、バースセンターを設ける案は、住民団体の求めに対して考え方をまとめたもので、バースセンターには助産師を置き、近隣の産科医療機関と連携し、分娩の受け皿となる構想だ。

 提案に対し市立病院は、「助産師だけで異常分娩への対応は困難」とした上で、将来的には市立病院への集約化が望ましいとした。しかし、住民の声も無視することはできないことから、今後、継続して審議していく方向となった。

(医療タイムス社、2006年8月23日)