ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

NICU維持が焦点に/日製病院産科問題 (朝日新聞)

2009年01月31日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

3月いっぱいで産科医全員の派遣元大学への引き揚げが決まっている日立製作所日立総合病院(日製病院)で、NICUの維持ができるかどうかが問題になっているそうです。また、院内の助産師25人を中心に院内助産所の準備が進められているそうです。

いろいろ難しい問題があるとは思いますが、常識的に考えれば、病院に残留した25人の助産師、NICUのスタッフを有効活用するためには、残されたスタッフが散り散りにいなくなってしまう前に、近隣医療圏の産科医・小児科医が多く勤務する施設と合流し、集約化により強力な周産期センターを作るしかないと思われます。

その施設で、産科や小児科などの若手医師達をじっくりと育てていく必要があります。

今、全国的に産科や小児科の集約化が進んでいるところですが、周産期医療では産科と小児科との緊密な連携が不可欠ですから、産科の集約先と小児科の集約先が同じ施設でないと全く意味がないと思います。若手医師の研修のためにも、大勢の指導医がいて、症例数の多い病院の方が望ましいと思います。

患者さんにとっては、病院へのアクセスはかなり不便になってしまいますが、県内のどこにも受け入れ施設がなくなってしまう最悪の事態よりは、多少遠かろうとも、県内に確実に受け入れてくれる施設が存在する方がはるかにいいと思います。

もはや、一つの病院、一つの医療圏の努力だけでこの問題を解決しようとしても難しく、やはり、地元大学や、県、国などの強力なバックアップ、リーダーシップが必要だと思われます。

日立製作所日立総合病院:産科医1人が残留 分娩を継続へ(毎日新聞)

医師確保険しく 来春産科医0の日製病院(朝日新聞)

日立総合病院 分娩予約一時中止

****** 朝日新聞、茨城、2009年1月30日

NICU維持が焦点に/日製病院産科問題

 3月いっぱいで東大病院派遣の産科医全員の引き揚げが決まっている日立市の日立製作所日立総合病院(日製病院)では、県北地域で唯一同病院にあるNICU(新生児集中治療管理室)の機能が維持できるかどうかが焦点になっている。NICUは産科との連携が基本だが、産科の大幅縮小でその必要性が問われることになりかねないからだ。地元産科医らは存続を強く求め、県に働きかけている。【大塚隆】

 産科と新生児科が協力して出産前後の母子を診る周産期医療では、ハイリスクの妊婦や新生児に24時間態勢で対応し、NICU設置が不可欠となる。県内では水戸済生会総合病院・県立こども病院など3施設が県の総合周産期母子医療センターに指定され、即応態勢がとられている。

 07年に県内最多の出産を取り扱った日製病院は、総合センターのない県北でそれに準じた役割を担ってきた。県は同病院を県北医療圏の地域周産期母子医療センター(中核)に指定している。

 東大病院から派遣されていた医師は4人全員が今年度末で引き揚げる予定になっている。病院側は産科医の確保に奔走しているが、産科の大幅な縮小は避けられず、現在は助産師を中心にした院内助産所開設の準備が進んでいる。

 同病院は基本的には「県北の地域医療を担う病院としてNICUを存続させたい」(岡裕爾院長)との考え。同市で唯一産科を開業する瀬尾医院の瀬尾文洋医師も「周産期医療に不可欠」と言い、昨年末に市と県の医師会を通じ、県に同病院のNICU存続を求める要望書を出した。

 同病院の地域周産期母子医療センター指定について、山田保典・県医療対策課長は「病院側の意向を踏まえつつ、県全体の周産期医療をどうするかを考えたい」と話す。十分な産科医確保ができなかった場合、NICUの機能を別の病院に移し、県全体として集約することも視野に検討しているとみられる。

 NICUを運営する同病院新生児科は、筑波大から常勤医3人の派遣を受けている。筑波大も産科医確保の状況を見ながら、4月以降の医師派遣について検討する模様だ。

 県北地域の現状については「日製病院のNICUがなくなるとハイリスクを負う母子の搬送に時間がかかり、命にかかわる。水戸地域はすでに限界に近く、県北からの移送を受け入れるとパンクする可能性もある」(県央の医師)と存続を要望する声が強い。

 日製病院では現在、院内の助産師約25人を中心に正常分娩(ぶん・べん)に対応する院内助産所開設の準備を進めている。だが、4月以降の医師の態勢が明確にならないため、助産所開設時期や昨年8月から休止中の分娩受付をいつ再開するか決めていない。「新年度に助産所を開設するとしても最初は里帰り分娩への対応が中心になるのではないか」との見方も院内に出ており、部分的な再開になる可能性もある。

(朝日新聞、茨城、2009年1月30日)


日立製作所日立総合病院:産科医1人が残留 分娩を継続へ (毎日新聞)

2009年01月23日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

詳しい事情はよくわかりませんが、毎日新聞の記事によると、この4月以降は産婦人科の常勤医がゼロになる見込みだった日立総合病院に、医学部卒業後4年目の女性医師が1人で残留することになったそうです。医学部卒業後4年目ということは、(2年間は初期研修期間ですから、)産婦人科の専門研修を始めてまだ2年目の後期研修医ということになります。

この病院では、1人の産婦人科の常勤医を確保できたので、助産師25人を活用するために「院内助産所」開設の検討を進めるそうです。

産婦人科の常勤医が1人だけだと、その医師は、一年中、昼夜を問わず常に病院の近くに拘束され、風邪で体調の悪いような時であっても、突然、真夜中に呼び出されたりすることになります。しかも、呼び出される時は常に一刻を争うような母児の急変時ですから、麻酔科医、新生児科医、外科系医師などの他科の医師達を招集して、緊急帝王切開などの対応を自分一人の判断でしなければなりません。時には、大量に輸血しながら、決死の覚悟で子宮摘出手術を実施しなければならないような場合も当然あり得ます。

そういう無理な態勢が長続きするとは到底思えません。一人の医師の犠牲的精神や、一つの病院、一つの地域だけの対応では、もはや、この問題を解決するのは非常に困難と思われます。

          ◇       ◇

産婦人科医が去った後に、多くの助産師が残留し、一般の看護師として働いている病院は少なくありません。 『院内にこんなに大勢の助産師がいるのに、分娩を全く取り扱えないというのはもったいない!昔はほとんどのお産を産婆さんが取り扱っていたんだから、正常分娩だけに限定すれば、助産師だけでも何とかなるのではないか?』 と病院上層部が考えて、院内助産所開設を検討し始める話はよく聞きます。

最近は、当医療圏でも集約化がだんだん進んできて、当院にも40人近い助産師が在籍し、月に百件前後の分娩を取り扱うようになってきました。長期的には産婦人科医の頭数も毎年だんだん増えてきてますが、当然ながら、個人的理由で辞めていく人もいます。もしも、突然、なんかの加減で産婦人科医が自分一人きりになってしまった場合は、分娩の取扱いは絶対に継続できないと観念しています。

産婦人科医の頭数が不安定で、毎年毎年、科の存亡の危機に見舞われて綱渡り状態が続くようでは、科としての社会的責任を十分に果たしていけません。産婦人科医の頭数を今後も永続的・安定的に維持していくためには、一つの病院や一つの医療圏単独の対応では大きな限界があります。やはり、県内の他の医療圏とも十分に協調して困った時には互いに助け合い、地元大学の産婦人科とも良好な関係を保っていくことが非常に重要だと考えています。

医師確保険しく 来春産科医0の日製病院

日立総合病院 分娩予約一時中止

危険過ぎる日立総合病院の判断
(まーしーの独り言)

日立総合病院に産科医1人が残留、院内助産所付き…、勇気は賞賛しますが…
(うろうろドクター)

****** 毎日新聞、茨城、2009年1月22日

日立製作所日立総合病院:産科医1人が残留 分娩を継続へ

 ◇ハイリスク対応は困難

 今春以降の常勤産科医の確保が不透明な状況となり、昨年夏から分娩(ぶんべん)予約を取りやめている日立市の日立製作所日立総合病院(日製病院)で、若手の常勤産科医1人が4月以降も残留することが決まった。医師派遣元の大学病院は常勤産科医4人全員を大学に戻す意向を示していた。病院側は「最悪の事態は避けられた」と、分娩を受け入れていく構えだが、1人ではハイリスク分娩への対応は難しく、広域医療に及ぼす影響は必至だ。【八田浩輔】

 07年の日製病院の分娩数1212件は県内最多。24時間体制で急を要する妊婦や新生児を受け入れる県北地域の地域周産期母子医療センターにも指定されている。06年に8人いた常勤の産科医は現在半減。派遣元の東京大病院の要請で、昨年夏に産科医全員が今年3月で大学に戻ることが決まると、4月以降の分娩予約の一時中止を決め、院内の掲示板やホームページで告知した。以降、病院は、県や市とともに、都内の私立医大などに医師派遣の要請を続けていた。

 病院によると、今回残留が決まったのは卒業後4年目の女性医師。昨年末に本人が残留の意向を示し、東大病院も了承したという。常勤医が確保できたことで、約25人の助産師を活用するため、県内では初めてとなる「院内助産所」開設の検討を進める。

 一方、周産期医療の「最後の砦(とりで)」であるセンター機能を維持することは容易ではなさそうだ。「正常分娩は何とか周辺地域で吸収できている。問題はハイリスクだ」。水戸済生会総合病院・総合周産期母子医療センターの山田直樹医師はこう指摘する。日製病院の年間の母体搬送は約50件(07年)。半数以上が県北以外の地域からの搬送だった。「県内全体のマンパワーがない。ハイリスクの受け皿が無くなると、(正常分娩を担う)1次医療機関も機能しなくなる」(石渡勇・県産婦人科医会顧問)との懸念もある。

 日製病院は、OBや民間の医療人材派遣会社など複数のルートを頼りに、引き続き医師確保に努めている。最終的な常勤医の人数が固まり次第、2月中にも来春以降の体制について公表する予定だ。

(毎日新聞、茨城、2009年1月22日)


妊産婦の死亡率3百倍 先進国に比べ、後発途上国

2009年01月18日 | 出産・育児

コメント(私見):

『いいお産のためには助産師さえいれば十分だ! 正常分娩であれば産科医の存在は邪魔で、産科医はむしろいないほうがいい!産科医は異常分娩にだけ関わっていればいい!』 と考える人もいます。

しかし、正常分娩というのはあくまで結果であり、最終的に正常分娩になるかどうか?は分娩が完全に終了してみないと誰にも予測できません。

助産師と産科医とが一致協力してお産に関わっていくことが重要だと思います。どんな大病院であっても、正常の分娩経過であれば、分娩介助の主役は助産師であり、実質において、自宅や助産所での分娩介助と何ら変わりがありません。産科医は単なる傍観者でしかありません。しかし、ひとたび異常事態が発生すれば、直ちに医療の力を借りないと母児の命が危険にさらされることになります。産科医だけの力では全く手に負えないような異常事態もまれではありません。いざという時には、新生児科医、麻酔科医、脳神経外科医など大勢の医師達の助けも必要となります。

お産で命を落としてしまっては何にもなりませんから、『いいお産』のためには(現代の医療水準に見合った)安全性確保は絶対の最低条件です。安全性を無視しての『いいお産』はありえません。

           ◇     ◇

日本の妊産婦死亡率の推移を見ると、1950年は10万分娩に対して176でしたが、2000年には6・3となりました。また、周産期死亡率(早期新生児死亡率と妊娠28週以後の死産率との合計)の推移を見ても、1950年は出生1000に対して46・6でしたが、2000年には3・8となりました。

これらのデータから、この五十年間で日本の分娩の安全性が著しく向上したことがわかります。また、現在の日本の周産期医療は世界でもトップレベルの水準に達していると考えられます。

しかし、今の日本でも実際には、千人に4人の赤ちゃんが、また1万人に1人の母親がお産で亡くなっているわけですから、現在の医療水準であっても、必ずしも、一般に信じられているように『お産は母児ともに安全』とは限りません。

まして、万一、このまま地域から産婦人科医が絶滅してしまって、昔(五十年前)の医療水準に戻ってしまったら、現在の何十倍もの母児がお産で亡くなりかねないということを一般の人達にもよく理解していただきたいと思います。

崩壊の危機に直面している地域周産期医療体制を守ってゆくために、我々は今何をしなければならないのか?何ができるのか?それぞれの地域の実情に合わせて、長期的な視野に立って、地域全体で考えていく必要があると思います。

           ◇     ◇

もちろん、各地域で自前の医師確保の努力をすることも非常に重要です。しかし、地方の病院が、自前の医師確保対策だけで、必要な常勤医数を安定的に維持し続けるのは非常に難しいと思います。たとえ一時的にうまくいっているように見える病院であっても、個人的理由で突然の離職者が出現したとたんに、一気に奈落の底に突き落とされる事態となってしまいます。

地元大学の産婦人科への入局者が増えて、地域医療に理解のある教授のもとで、活発に診療・研究・教育活動が行われるようになれば、地域の産科医療問題は解決の方向に向けて大きく前進すると思います。

****** 共同通信、2009年1月16日

妊産婦の死亡率3百倍 先進国に比べ、後発途上国

【要約】 国連児童基金(ユニセフ)は15日、後発発展途上国の妊産婦の死亡率が、先進国の300倍以上に上るとする2009年版の「世界子供白書」を発表した。ベネマン事務局長は「妊産婦死亡の約80%は、基本的な医療措置さえ受けられれば避けられた」と指摘。死亡の大半を占めるアジア、アフリカの発展途上国や国際社会の取り組み強化を促した。白書によると、05年に妊娠や出産に伴って死亡した女性は世界で約53万6000人。同年のデータで、欧米や日本などの先進国で妊産婦が死亡するのは8000人に1人の割合だったが、発展途上国では76人に1人、後発発展途上国では24人に1人だった。


長野病院の周産期医療回復へ支援制度

2009年01月15日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

上田市を中心とした「上小(じょうしょう)医療圏」(人口:約22万人、分娩件数:約1800件)では、国立病院機構長野病院・産婦人科が地域の産科二次施設としての役割を担ってきましたが、2007年11月に派遣元の昭和大学より常勤医4人全員を引き揚げる方針が病院側に示され、新規の分娩予約の受け付けを休止しました。

現在、同医療圏内で分娩に対応している医療機関は、上田市産院、上田原レディース&マタニティークリニック、角田産婦人科内科医院の3つの一次施設のみです。ハイリスク妊娠や異常分娩は、信州大付属病院(松本市)、県立こども病院(安曇野市)、佐久総合病院(佐久市)、長野赤十字病院(長野市)、篠ノ井総合病院(長野市)などに紹介されます。分娩経過中に母児が急変したような場合は、救急車で医療圏外の高次施設に母体搬送されています。

今一度、この地域で最も必要とされているものは何なのか?をよく検討し、医療圏全体で一体となって、地域の周産期医療提供体制を再構築するための第一歩を踏み出していく必要があると思われます。

長野病院 出産受け付け休止から1年 (信濃毎日新聞)

****** 信濃毎日新聞、2009年1月14日

上田広域連合 医師確保へ「研究費」貸与

長野病院 産科医らに年100万-200万

 上田地域広域連合(連合長・母袋型上田市長)は13日、国立病院機構長野病院(上田市)の医師不足を受け、産科・産婦人科医や麻酔科医、小児科医に初年度200万円、その後は年100万円の「研究資金」を貸与し、同病院に勤務した場合には返還を免除するなどの支援制度素案を発表した。産科・産婦人科医には長期間勤務の慰労金も用意。5年間勤務し離任した場合、研究資金と慰労金を合わせ1100万円になる。

 同連合は、広域連合議会の2月定例会に、関連条例案と、費用約980万円を盛った2009年度当初予算案を提出する。

 長野病院は上田小県地域の中核病院で、周産期医療では危険度の高い「ハイリスク出産」を中心的に担う役割がある。賞与は、上小地域以外からの着任が条件。賞与期間は、1年間とし、産科医は計5年間、小児科医と麻酔科医は計3年間が上限。産科・産婦人科医に対しては、この他5年以上勤務した場合に「長期勤務慰労金」として、着任時から10年間を上限に勤務年数を一年につき100万円を離任時に一括で支給。「住宅手当」として月額最大5万円も助成する。

 研究資金などの財源は、広域連合の「ふるさと市町村圏基金」(約19億円)の運用益を充て、貸与額などが多い場合は基金を取り崩して対応する方針だ。

非常勤医を確保へ 

婦人科外来 長野病院4月以降も継続

 国立病院機構長野病院(上田市)は、昭和大学(東京)から派遣された産科医のうち残っている1人が3月末で引き揚げるのを受け、4月からは非常勤医を確保して婦人科外来を継続する。助産師が妊婦に保健指導などを行う「助産師外来」は4月以降の早いうちに開設する方針。出産受け付けの再開のめどはたっていない。藤政臣院長が13日、上田地域広域連合の記者会見で明らかにした。

 院長によると、4月以降の婦人科外来は週1日の予定。助産師外来は、助産師5人が開設に向け研修しているという。

 昭和大は都内などの産科医の不足を受け、長野病院に4人派遣していた産科医のうち3人を昨年の2月から7月にかけて順次戻し、残った1人が週3日間、婦人科外来の診療をしている。

(信濃毎日新聞、2009年1月14日)

****** 医療タイムス、長野、2009年1月14日

長野病院の周産期医療回復へ支援制度

上田広域連合

 国立病院機構長野病院(進藤政臣院長)で不足する産婦人科や小児科などの医師確保対策として、上田広域連合(連合長:母袋創一上田市長)は、新たに同院に着任した医師らに対する研究費助成などの支援事業を独自に行う。来月に開かれる議会で、事業実施に必要な条例案を提出する。

 同院は地域周産期母子医療センターに指定されているが、現在産婦人科医は1人だけ。この医師も3月末で派遣元の大学に引き揚げになるため、医師確保が課題となっている。13日に会見した母袋連合長は「地域周産期母子医療センターの機能回復に努めたい」と、同事業の狙いを説明した。

 同事業は、産科・産婦人科医に対して着任時200万円、翌年以降の4年間で各100万円を貸与、各1年の貸与期間を同院で医療に従事した場合は、返還を免除する。小児科と麻酔科の医師も対象となり、貸与額は同じだが、期間は2年間と短い。現在、同院に勤務する小児科医にも「何らかの財政支援を検討している」(母袋連合長)という。

 このほか、産科・産婦人科医に限り、月額最大5万円を助成する住居手当、5年間勤務した医師に500万円を、5年以上勤務した医師には、最長で10年までの1年ごとに100万円を上乗せする長期勤務慰労金も設ける。事業期間は10年程度。財源には「ふるさと市町村圏基金」を活用する。

 会見に同席した進藤院長は「今後の医師確保に役立つと期待します」と述べた。同地域では、上田市が単独でも産科、小児科、麻酔科の医師を対象とした研究資金の貸与制度などを設けている。

(医療タイムス、長野、2009年1月14日)

****** 読売新聞、長野、2009年1月14日

研究費や住居手当 医師不足の長野病院支援 

 上田市など5市町村で構成する上田地域広域連合は13日、医師不足に苦しむ国立病院機構長野病院(上田市緑が丘)に、新しい産婦人科医に来てもらうための支援事業を発表した。

 事業は、同病院に着任する産婦人科医に、〈1〉研究費として、着任した年に200万円、翌年以降4年間は毎年100万円を貸与し、1年間勤務すると返還を免除する〈2〉月額最大5万円まで住居手当を支給する〈3〉5年間勤務した人が退職する際には、長期勤務慰労金として500万円を交付する――など。

 同様に不足している小児科医と麻酔科医が新たに着任した場合にも、研究費として、着任年に200万円、2年目と3年目は100万円ずつ貸与し、1年間の勤務で返還を免除する。

 同病院では、常勤の産婦人科医が大学病院に引き上げられたため、2007年12月から分娩(ぶんべん)の受け付けを中止。今年3月末には残る常勤産婦人科医1人も引き上げられることになっている。

(読売新聞、長野、2009年1月14日)

【以下、過去の報道記事】

****** 信濃毎日新聞、2008年12月29日

長野病院 出産受け付け休止から1年

医師確保 続く苦闘

 上田市の国立病院機構長野病院が、昭和大学(東京)から産科医の引き揚げを通告され、新たな出産の受け付けを休止して1年。4人いた産科医は順次引き揚げられ、今年8月からは残った1人の医師が婦人科の外来診療のみを担う。病院や市は医師確保に向けた苦闘を続けているが、産科再開の見通しは立っていない。一方で住民側からはリスクの高い「飛び込み出産」を減らす呼び掛けなど、地域医療を支えようとする動きも生まれている。【袮津学】

 「自分の周りでも、佐久総合病院(佐久市)まで通っている妊婦がいる。普通だとは思えない」。今月14日、上田市民有志でつくるグループが、地域医療をテーマに開いた意見交換会。参加者から切実な声が上がった。

 上田小県地域の医療機関での出産は年間2千件ほど。長野病院は、危険度の高い「ハイリスク出産」を中心にこのうち5百件弱を担ってきた。

 同病院が出産受け付けを休止したのは昨年12月3日。休止に伴う影響について明確なデータはない。市内には民間医療機関や市産院があるが、ハイリスクの妊婦は県厚生連の佐久総合や篠ノ井総合病院(長野市)に通うケースも少なくないとされる。

 市や市内の病院によると、地域ではこの1年余、妊婦が複数の病院から受け入れを断られ、重篤な事態に陥るなどの事例は表面化していないものの、市民の不安は根強い。

 「この1年間で、全国の17大学を訪ね、産科医派遣を直接依頼した」。長野病院の進藤政臣院長は懸命の努力を明かす。しかし、全国的な産科医不足の中で、どの大学も新たに派遣する余裕はない。昭和大は現在1人残る産科医についても、来年4月以降は引き揚げる方針だ。

  ◇・・・・・・・・・・・・・◇

 短期的な解決の糸口が見つからない中で、病院や行政は将来の医師確保につなげようと模索を続けている。

 常勤麻酔科医の確保も課題となっている長野病院は今年、病院の「グランドデザイン」をまとめた。現在35人前後の医師数を60人台まで増やすなど、約5年先に目指す病院の姿を示すことで、医師に勤務を呼び掛ける狙いがある。11月に神経内科、12月には外科の医師が1人ずつ増えるなど、明るい兆しも見え始めた。

 市は来年1月、医学生や研修医、医師に資金を貸与し、指定する医療機関に一定期間勤めれば、返済を免除する制度を始める。上小の5市町村でつくる上田地域広域連合も、長野病院の産科医や麻酔科医らに研究費を支給する制度を導入する予定だ。ただ、市の大井正行健康福祉部長は「市などが直接できる支援には限界がある」と漏らす。

 国は来年度、全国の大学医学部の定員を計693人増員。信大は5人増えて110人となる。大学病院の研修医不足の一因とされる臨床研修制度も見直す方針だが、効果はまだ不透明だ。

 「医療を社会インフラととらえ、どの地域でも一定水準を保つため医師を配置する仕組みがないと、地方の病院にとっては非常に厳しい」。進藤院長は訴える。

  ◇・・・・・・・・・・・・・◇

 今年5月、上田市の母親らでつくるネットワーク「パム」は、妊婦に定期的な健診を呼び掛ける名刺大のカードを作った。市医師会と上田薬剤師会の協力で、薬局で妊娠検査薬を買う人に配っている。妊婦健診を受けていないと、危険な兆候があっても備えが取れず、妊婦、産科医双方のリスクが大きく増す。こうした「飛び込み出産」を減らす狙いだ。

 11月には、長野病院の地元地区住民らでつくる「西部地区を考える会」が「かかりつけ医をさがせ」と題する住民向けの連続講座を始めた。住民がかかりつけの開業医を持つことは、一部の病院に過大な負担がかかるのを避ける効果があるとされる。

 講座では初回、市の健康推進課長らが救急医療の現状などを紹介。その後も、神経内科や皮膚科の医師らを招き、それぞれの分野の病気についての知識を深めている。

 産科をめぐる「危機」に地域が向き合ったこの1年。住民自身が当事者として問題を考える動きは広がりつつある。会の代表、鈴木永さん(54)はこう話した。「医療機関や行政に医師確保を求めるだけでなく、住民も一緒にできることを探すきっかけにしたい」

上田小県地域の周産期医療 長野病院の出産受け付け休止後は、上田市産院と同市内の民間の2医療機関が担う。このうち市産院は2005年8月、信大医学部の医師引き揚げ方針に伴い市が廃止を検討したものの、存続を求める運動が起き、06年1月に存続が決定。今年6月には市が移転・建て替え方針も示した。また、隣接する東御市は09年度、市民病院に院内助産院開設を目指している。

(信濃毎日新聞、2008年12月29日)

****** 東信ジャーナル、2008年12月16日

上田で地域医療意見交換 
「女と男うえだ市民の会」

「医師やめない方策を」 
「なくてはなちない長野病院」

 上田市民の有志でつくる「女と男うえだ市民の会」(半択悦子代表)は14日、同市材木町の市民プラザ・ゆう・で「上小の地域医療についての意見交換会」を開き、市民ら約40人が参加した。

 上小地域のハイリスク出産を担っていた長野病院が産科医引き揚げで、出産の受け入れを休止するなど地域医療の現状をふまえ、医療について不安に思っていること、考えていることなどをそれぞれの立場から自由に語り合った。

▽上田市は市内の公立医療機関で従事することを条件に返還を免除する医師の修学資金貸与制度などを創設する考えを示したが、今いる医師がやめない方策も講じるべき。

▽この町でどう生き、どう死ぬかを考える時、長野病院はなくてはならない存在だ。

▽近くの開業医のことを知り、かかりつけ医を持つことで、急性期の患者を診るぺき長野病院の負担を減らすことが必要。

▽NICU(新生児特定集中治療室)など小児医療が充実している長野病院の魅力をアピールすべき。

など括発に意見が交わされた。

 柳谷信之・上田保健所長は「住民の熱い思いが医療に通じることもある。長野病院をも
っと知り、信頼関係を築いていくことが大切」と話した。

 半択代表は「充実した濃い内容の会議となった」とし、内容をまとめて市に伝える計画だ。

(東信ジャーナル、2008年12月16日)

****** 信濃毎日新聞、2008年12月16日

院内助産所「年間百程度」と東御市長

 東御市の花岡利夫市長は15日の市議会12月定例会の一般質問で、東御市民病院に来年度開設予定の助産師主体の院内助産所で「年間100程度の出産を取り扱いたい」と述べた。市長は、選挙公約である産科設置に向けて開設する院内助産所について、新規に助産師、看護師ら5人程度を採用する計画を明らかにし、市民病院の全60床のうち、5床ほどを院内助産所用に充てると答弁。

(信濃毎日新聞、2008年12月16日)

****** 信州民報、2008年12月16日

東御市議会一般質問

「市民病院の産料設置 院内助産院について」

「来年度中の開始目指す、年間100人位の出産を」

 改選後初となる東御市市議会月定例会-般質問は15、16の2日間の日程で行い、初日には花岡利夫市長が公約に掲げる市民病院の産科設置や、12月定例会に提案された「医学生等奨学金貸付条例」、院内肋産所の開設など、お産のできるまちに関して3議員が市長の考えを質した。

 阿部貴代枝議員は「次世代を担う子どもたちを産み育てる環境日本一を目指したいと願う」とし、「それにはまず、産む体制を整えることが一番。産科・院内助産所の開設、小児科医3
体制はどこまですすんでいるか」と質問。一方、桜井寿彦議員は「市民病院の産婦人科設置に対して、クリアしなければならない課題は何か」と質した。

 花岡市長は、お産ができるまちに関して現在の状況を説明。「9月に、産婦人科医師による婦人科外来を毎週火曜の午前・午後に開始し、来年1月からは金曜の午前も診察を行う予定」とし、「産婦人科医1人を確保できたことは、院内助産所開始に向けた大きな一歩」とした。

 ざらに「11月から院内助産所開設準備室長を配属し医師・助産師・看護師・技師・事務職など総勢9人で構成する院内助産所準備委貞会を設置した」とし、「委員会では業務内容を踏まえたマンパワーの確保、機器備品を含めた施設整備など、内部だけでなく外部の有識者による助言を得ながら、具体的な検討を行っていく」と答えた。

 そして院内助産所開設に関しては、「来年度中の開始を目指し、準備を進めている」とし、詳細はこれからとした上で、「新たに助産師・看護師など5~6人を採用し、現在60床のうち4~5床を院内助産所に利用。年間100人位の出産を取り扱えれば」とした。また、「院内助産所・助産師外来施設整備に対する補助などがあるので、活用したい」とした。

 また、東御市民病院が目指す院内助産所としては「妊娠初期から助産師が関わり、お母さんになるための心と体の準備を手助けする」必要に応じて産科医師が立会い、産後の悩みや育児不安などの相談も助産師が応じるというもの」とし、「家庭的な雰囲気の中で助産
師が中心となった自然なお産を目指す」と答えた。

 小児科医3人体制については、「捜しているが、現時点では未だ確保ができていない。今後も引き続き、医師確保に向け努力していきたい」とした。

 さらに、クリアしなければいけない課題は、「やはり医師確保。産科医1人は確保できたが、関連する小児科医の確保も必須」と答えた。また、「施設整備、人材確保のほか、リスクの高いケースにあっては、より専門的な病院との連携が必要と考える」とし、「関係医療機関とのさらなる連携強化を図って行く予定」とした。

(信州民報、2008年12月16日)

****** 信濃毎日新聞、2008年11月19日

ハイリスク出産で連携強化

上田市保健所で会合受け入れ基準など情報共有

 上田保健所(柳谷信之所長、上田市材木町)は15日、上田市の4産科医療機関、佐久、長野地域の基幹病院に呼び掛け、産科医療に係る連携会議を同保健所で開いた。国立病院機構長野病院(上田市緑が丘)の産科休止でハイリスク出産に対応できない上小地域から周辺基幹病院へのハイリスクの妊婦の紹介が行われているが、よりスムーズな連携を図るために、各基幹病院で異なる紹介時期や受け入れ基準など情報を共有化することを確認した。

 長野病院、市産院、市内の2民間産科医療機関と、佐久総合、浅間総合、篠ノ井総合、長野赤十字、小諸厚生総合の各病院の産科医ら、佐久・長野保健所が出席した。

 会議は冒頭以外非公開。上田保健所によると、現時点でハイリスクの妊婦の紹介や緊急搬送で大きな問題は起きていないと各病院の報告があった。

 その後、ハイリスクの妊婦健診を上小地域で行い、適切な時期に妊婦を周辺基幹病院へ移すことで基幹病院と妊婦の負担軽減を図ることや、これまで以上にスムーズな連携のために、受け入れ側の各基幹病院がどの疾患妊婦をどの段階で受け入れられるのかなど、緊急搬送を含めた紹介基準を集約して共有化することが確認された。

(信濃毎日新聞、2008年11月19日)

****** 信濃毎日新聞、2008年11月18日

医学生や研修医に資金貸与へ 

上田市が医師確保策

 上田市は医師確保策として来年1月から、医学生、医学部の大学院生と研修医、医師に資金を貸与し、市が指定する医療機関に一定期間勤務した場合に返還を免除する制度を導入する。市によると、これまでに県内で大学院生や研修医対象の貸与制度を導入している市町村はないという。また、小さい子どもを持つ女性医師が上田市産院に勤めやすいよう、医師が希望した場合に市がベビーシッターを雇用するほか、産院医師住宅も改修する。

 貸与条件などを定める条例案と、本年度分の予算676万円を盛った一般会計補正予算案を25日開会の12月定例市議会に提出する。

 指定する医療機関は、市産院、市武石診療所、国立病院機構長野病院、小県郡長和町との一部事務組合で設置する依田窪病院を予定している。

 医学部生対象の「修学資金」は月額20万円で、貸与を受けた期間と同期間の勤務で返還を免除する。診療科の制限はない。医学部の大学院生と研修医が対象の「研修資金」は月額30万円で、免除は貸与を受けた期間の1・5倍の期間の勤務が条件。現職医師には「研究資金」として、3年で300万円と2年で200万円の2種類を用意。大学院生、研修医、現職の医師は、産科、小児科、麻酔科への勤務を条件とする。

 上田市内では、市産院が常勤医1人、非常勤医3人の態勢。長野病院は、産科医4人を派遣していた昭和大(東京)が段階的に引き揚げ、今年8月からは残った1人が婦人科の外来診療だけをしているなど、産科医などが足りない状態が続いている。

(信濃毎日新聞、2008年11月18日)

****** 朝日新聞、長野、2008年9月10日

婦人科外来診療始まる 東御市民病院

 東御市民病院は9日、新たに婦人科外来の診療を始めた。来年度に予定する産科の設置に向けた布石となる。非常勤として担当する木村宗昭医師(63)は「助産師主体の自然なお産が出来るようなバースセンターを目指したい」と語った。

 婦人科外来は、毎週火曜日(午前9時~正午、午後2~5時)に開く。

 同病院の産科設置は、4月の市長選で初当選した花岡利夫市長の公約。設置の際、木村医師が常勤医師として同科を担当する予定だ。

 木村医師は、目指す産科について「赤ちゃんを産んだお母さんが『また産みたい』と言ってくれるような、幸せを実感できる施設にしたい」と話した。理想と考えるのは「自然なお産」という。女性の「産む能力を引き出すこと」を軸に助産師、看護師を主体とした「医者付き助産院」のようなバースセンターを構想する。

 「妊婦さんから信頼され、魅力ある施設にするのが私の役割」と産科設置に強い意欲を見せた。【鈴木基顕】

(朝日新聞、長野、2008年9月10日)

****** 医療タイムス、長野、2008年9月2日

東御市民病院が婦人科外来を開設 9月から

 東御市は9月上旬をめどに婦人科外来を開設し、週1度程度の診察を始める。同市在住で上田市産院の非常勤医、木村宗昭氏が非常勤で勤務する。4月の市長選で、市内での産科開設を掲げ初当選した花岡利夫市長の公約に沿った格好。市は木村氏の常勤化に期待を寄せているが、同一地域内での産科医の”引っ張り合い”との指摘もあり、機能分散による地域の産科医療提供体制への懸念も広がっている。

 市は、市議会9月定例会に婦人科開設のための条例改正案と、検査機器購入費、施設改修費など350万円を計上する病院事業会計補正予算を提案する。

 市によると、婦人科外来開設は「産科開設に向けた第1歩」で、利用状況を勘案して診察日を増やすことも検討。来年度には、バースセンターを主体とする産科を設けたい考え。ただ、現時点で助産師など確保にめどは立っていないという。

 木村氏が東御市民病院の非常勤医となったことで、上田市産院での勤務は9月以降、従来の週3~4回から1回へ減る。上田市産院は、木村氏を除き院長の常勤医1人のほか、週3回と、月2回の非常勤医各1人の体制で、残る医師への負担は増す。

 上田市側は「婦人科外来は縮小せざるを得ないが、助産師外来は近く拡大する見込み、現体制で最大限の業務をこなしながら、分娩の扱いが減らないよう医師確保に努めたい」と話す。

 東御市側は、東御市民病院への木村氏の勤務は「本人の意思であり、2002年~04年まで市民病院で勤務していた」と説明するが、産科医を事実上、”引き抜かれた”形の上田市の母袋創一市長は「東御市側からは何の説明もない。現状で産婦人科機能が分散することはどうか」と懸念を示している。

(医療タイムス、長野、2008年9月2日)

****** 毎日新聞、長野、2008年9月2日

東御市:婦人科外来を開始 市民病院で今月中旬

 東御市はこのほど、今月中旬にも市民病院(同市鞍掛)で婦人科外来の診察を開始すると発表した。産科設置を4月の市長選の公約に掲げていた花岡市長は毎日新聞に「婦人科医を確保して受け入れ態勢を作るという第1ハードルを越えたばかり」と語った。

 市によると、当面は週1回程度の診察で、上田市産院の木村宗昭医師(63)が非常勤で勤務するという。利用者数を見ながら診察頻度を増やし、木村医師も常勤とする方向で計画を進める。来年度中に産科も開設し、助産師を中心とした院内助産院(バースセンター)から始めるという。

 市内での出生数は年間約270~280人。花岡市長は「それぞれ地元に帰って出産する人が半分近くいる。そういう人たちに対応できるよう、徐々に扱いを増やしていきたい」と構想を語る。

 さらに医師不足対策として、9月定例市議会で「市医学生等奨学金貸付条例」の新設案を提出する。学生に限らず研修医も対象で、将来的な医師の確保に努める構えだ。【大島英吾、福田智沙】

(毎日新聞、長野、2008年9月2日)

****** 信濃毎日新聞、2008年8月28日

東御市民病院、婦人科外来開始へ

 東御市は27日、市民病院(鞍掛)で9月中をめどに婦人科外来を開設し、来年度中には産科を設置、当面は助産師を主体としたバースセンター(院内助産院)から始める方針を示した。産科開設は4月の市長選で初当選した花岡利夫市長の公約。

 市によると上田市産院の非常勤医、木村宗昭さん(63)=東御市=が非常勤で勤務。当面は週1回程度の診察となる。

(信濃毎日新聞、2008年8月28日)

****** 信濃毎日新聞、2008年6月3日

上田市産院 移転改築へ 
市長が方針 「長野病院近くに」


 上田市の母袋創一市長は2日の市議会6月定例会の招集あいさつで、老朽化が進んでいる市産院(常盤城5)を移転改築する方針を示した。時期は「数年後には必要になる」とし、移転先は「地域の高度医療を担っている(国立病院機構)長野病院(緑が丘1)の近くが基本になる」と述べた。

 市は、産科医不足を背景に信大医学部が2005年、医師引き揚げ方針を示したのを受け、いったん市産院の廃止を打ち出したものの、存続を求める母親らの署名運動を受け撤回。その後のビジョンを示していなかった。

 母袋市長は取材に対し、長野病院の近くでの市単独の建設や、長野病院の敷地内や建物内への併設も「検討対象」と説明。移転改築に合わせ、危険の少ない正常出産を助産師が担う「院内助産院(パースセンター」の開設を検討するとの見通しも示した。

 上田市産院は1968(昭和43)年、現在地に移転。現在、ベッド数は27床で、常勤医1人、非常勤医2人、助産師17人、看護師・准看護師13人。07年度は上田小県地域の3分の1ほどに当たる669件の出産を扱ったが、昨年12月末の前院長の退職に伴い、本年度は500件を超える程度に減る見通しとなっている。

特色生かすため医師確保を

 上田市の母袋市長が移転改築の方針を示した上田市産院は、全国でも例がない産科単料の公立病院で、県内で唯一、国連児童基金(ユニセフ)などから「赤ちゃんにやさしい病院」の認定を受けている。移転後もその特色を生かすには、継続的な医師確保と、地域の高度医療を支える長野病院の体制強化が欠かせない。

 市産院は、へその緒がつながったまま裸の胸に赤ちゃんを預けてくれる「カンガルーケア」や、出産時に負担の少ない横向きや四つんばいの姿勢などを選べることから、特に自然分娩を希望する母親らの支持を得ている。

 産院存続を求めて署名運動をした斉藤加代美さんは、「市がこの地域のお産に責任を持つと宣言してくれたようで安心した」と改築方針を歓迎。一方で「産科医不足は深刻で、産院の良さを支える医師が今後も十分確保できるか、壁は高いと思う」と話す。

 母袋市長はこの日、取材に「古くて患者さんに不便をかけている状態の病院に、医師は呼びづらい」とし、改築と特色ある産院の取り組みをPRすることで、医師確保の「呼び水」とする意向を示した。

 産院を含め、上田小県地域の出産医療体制を保つには、地域で危険度の高い「ハイリスク出産」を受け持つ医療機関が不可欠。その役割を担う長野病院は産科医引き上げ問題題に直面している。

 派遣元の昭和大が8月以降も派遣自体は続ける方針を示したが、人数や期間は未定だ。母袋市長は市議会で「長野病院の医師確保にも全力で取り組む」とした。責任が一層重くなる。【祢津 学】

(信濃毎日新聞、2008年6月3日)

****** 信濃毎日新聞、2008年6月3日

東御市民病院改革プロジェクトチーム

 東御市の花岡利夫市長は庁内に市民病院改革プロジェクトチームを設置し、2日、初会合を開いた。4月の市長選で公約した市民病院の産科新設や小児科の充実、経営改善策について話し合う。花岡市長は9月定例市議会までに一定の方向性を示すよう検討を求めた。花岡市長は懸案の産科医確保に関しては、取材に対し「複数の産科医にアタックしている」と話した。

(信濃毎日新聞、2008年6月3日)

****** 毎日新聞、長野、2008年6月3日

東御市:病院改革PTを設置--初会合

 東御市は2日、市民病院への産婦人科開設などを目指して「病院改革プロジェクトチーム(PT)」を設置し、初会合を開いた。

 PTは五十嵐政孝副市長をトップに、市民病院長ら11人で構成。産婦人科医の確保や医師が1人しかいない小児科の拡充、累積赤字約5億2000万円(06年度末)に上る経営体質の改善などの調査研究を進める。

 9月ごろまでに一定の方向性を出す。【池乗有衣】

(毎日新聞、長野、2008年6月3日)

****** 信濃毎日新聞、2008年4月13日

東御市長に花岡氏が初当選…現職の土屋氏を破る

 任期満了に伴う東御市長選は13日投開票され、新人の会社役員花岡利夫氏(57)=無所属、田中=が、再選を目指した現職の土屋哲男氏(60)=無所属、新張=を破り、初当選を果たした。2002年の旧小県郡東部町長選、04年の初代市長選に続く3度目の対決となったが、有権者は市政の転換を選択した。

 花岡氏は態勢づくりが遅れ、立候補表明が3月初めにずれ込んだものの、有権者一人一人に訴える草の根型の手法を展開。市民病院の産科新設を柱に、医療費無料化の中学3年までの段階的拡大、市長退職金ゼロなどを主張、土屋氏との政策の違いを打ち出し、短期決戦で若い世代や女性層などに浸透した。

 土屋氏は昨年12月の市議会定例会で立候補表明。全市的な後援会組織や業界団体の支援を受けて先行した。実績を強調、図書館新設などへの継続的な取り組みを訴えたが、政策に新味が欠けたこともあり、運動が上滑りした。

(信濃毎日新聞、2008年4月13日)

***** NHKニュース信州、2007年12月15日

上田市産院、1月に助産師外来

 院長の退職に伴う医師不足で出産の受け入れを制限する方針を示していた「上田市産院」は、出産の受け入れ数をできるだけ維持しようと、助産師が医師の業務の一部を分担して医師の負担を軽減する「助産師外来」を来年1月から始めることを決め、近く上田市と協議して正式に決定する方針です。

 その結果、「上田市産院」は出産の受け入れ数をできるだけ維持するために、助産師が医師に代わって妊婦の検診などを行う「助産師外来」を来年1月から始めることを決めました。
具体的には、いま上田市産院で常時勤務している13人の助産師のうち、県外の助産師外来で研修の経験のある5人に産院の外来を担当してもらい、医師が出産に専念できるよう態勢を整えます。

 「上田市産院」は近く母袋市長と協議して、正式に開始時期を決めることにしています。

(NHKニュース信州、2007年12月15日)

***** 医療タイムス、長野、2007年12月13日

上小地域の産科医療「近接医療圏との連携で確保」

12月県会で渡辺衛生部長

 渡辺庸子衛生部長は12日、県会12月定例会の一般質問で、常勤産科医の引き揚げや退職で危機的状況に陥っている上小地域の産科医療体制について、「ハイリスク分娩に関しては、隣接する長野、佐久の両医療圏との連携を視野に入れ、行政や医師会、医療機関による医療圏を越えた調整を行い、産科医療を確保していきたい」との考えを示した。

 さらに、産科医療の集約化に対する見解を求められた渡辺部長は、「地域の産科医療の崩壊を防ぐための緊急避難的措置」とした上で、「現在の医師不足の中で数少ない産科医を複数の医療機関に分配、配置することは、より深刻な事態につながる恐れがある」と理解を求めた。いずれも、高村京子議員(共産党)への答弁。

(医療タイムス、長野、2007年12月13日)

****** 毎日新聞、長野、2007年12月13日

国立長野病院:産科医引き揚げ問題 長野や佐久と連携、産科医療確保を

 ◇県議会で衛生部長

 国立病院機構長野病院(上田市)で産科医の引き揚げが求められている問題で、県の渡辺庸子衛生部長は12日、「ハイリスクの分娩(ぶんべん)については、隣接する長野や佐久医療圏との連携を視野に入れ、行政や医療機関が協力し、医療圏を超えて上田地域の産科医療を確保したい」との見解を示した。同日開かれた県議会一般質問で、上田市・小県郡選出の高村京子議員(共産党県議団)の問いに答えた。渡辺部長は、県や上田地域の首長らが11日に産科医を派遣している昭和大病院(東京都)を訪問し、派遣継続を求める要請を行ったことも報告した。

(毎日新聞、長野、2007年12月13日)

****** 信濃毎日新聞、2007年12月12日

昭和大に医師派遣継続を要請 上田地域広域連合

 国立病院機構長野病院(上田市)の産科医を、派遣元の昭和大(東京)が引き揚げる方針を示している問題で、母袋創一・上田地域広域連合長(上田市長)は11日、昭和大病院の飯島正文院長を訪ね、派遣継続を求める要請書を提出した。会談は非公開。母袋連合長によると、飯島院長は「(昭和大病院の)足元がおぼつかない状態」として、派遣継続は困難との認識を示した。

 要請には、進藤政臣・長野病院長、桑島昭文・県衛生技監、勝山努・信大付属病院長らが同席した。母袋連合長は、長野病院が上田小県地域の中核的病院で、危険度の高い出産を担っていることなどを説明。同病院の産科医4人全員を派遣している昭和大に継続への理解を求めた。

 これに対し飯島院長は、昭和大病院が中核病院となっている東京・品川区と大田区でも産科医が不足しているとして「引き揚げに(上田地域の)理解を求めざるを得ない状況」と述べたという。4人のうち何人を、いつまでに引き揚げるのか-といった方針については説明しなかった。

 会談後、母袋連合長は「(医師を引き揚げる)強い意志を感じた」と話し、現在の4人の派遣を維持することは「極めて厳しい」との受け止めを示した。その上で、昭和大への働き掛けは引き続き続けるものの、他の医療機関に派遣を求めることも必要になる-との考えを示した。

(信濃毎日新聞、2007年12月12日)

****** 信濃毎日新聞、2007年12月12日

院内助産院設置を 上田市の有志が県会に請願

 上田市の母親らでつくるグループ「安心してお産と子育てができる地域をつくる住民の集い」(佐納美和子代表)は11日、正常出産を助産師主導で扱う院内助産院(バースセンター)の開設に支援を求める請願書を、賛同者5万240人の署名を添えて県会に提出した。開会中の12月定例会で審議される。

 上田小県地域では、国立病院機構長野病院(上田市)が今月に入り、産科医を派遣していた昭和大(東京)の医師引き揚げ方針を受け、新規の出産受け付けを休止。上田市産院も院長が年内で退職する意向を示すなど、産科医不足が深刻となっている。

 「集い」の桐島真希子副会長(32)=上田市材木町=は「どこで出産したらよいのか、妊婦はすごく不安に感じている」と話し、出産を支える仕組みづくりを強く訴えた。

 請願書と署名簿を受け取った服部宏昭議長は「少しでも安心できるよう、県会も取り組みを進めたい」と述べた。

(信濃毎日新聞、2007年12月12日)

****** 毎日新聞、長野、2007年12月12日

バースセンター:県議長に設立支援を請願 上田の住民団体、5万人分署名添え

 助産師が出産を扱うバースセンター(院内助産院)の設立を目指す上田市の住民グループが11日、県議会の服部宏昭議長を訪ね、設立への支援を求める請願書と約5万人分の署名を提出した。服部議長は「県議会としても憂慮しており、県と一緒になって取り組んでいきたい」と述べた。請願は開会中の12月議会で審議される。

 グループでは、バースセンターの設置への県の支援や、各地域で中心となる病院の医療体制充実、救急搬送システムの整備などを請願した。11月には上田市議会にも同種の請願を行った。グループ副代表の桐島真希子さん(32)は「一日も早く産む場所を確保してほしい」と訴えた。

 上田地域では、中核病院である国立病院機構長野病院で産科医全員の引き揚げが明らかになるなど、お産を巡る環境への不安が広がっている。【神崎修一】

(毎日新聞、長野、2007年12月12日)

****** 信州民報、2007年12月11日

上田地域広域連合  正副連合長会で協議

長野病院の産婦人科医引き揚げ問題
「できるだけ早く昭和大へ要請する」

 国立病院機構長野病院(上田市緑ヶ丘)から、派遣している産婦人科医師4人を全員を引き揚げる昭和大(東京都)の方針が明らかになったことから10日、上田地域広域連合正副連合長会では、長野病院の進藤正臣院長も同席し緊急の協議を行い、今後の方針を話し合った。

 同正副連合長は定例のもので、この日午前中に会議。正午から開いた記者会見で、母袋創一連合長=上田市長=は「地域の産科医療体制の確保が一番。この危機を乗り越えていく」とし、「全面的な協力体制でいくこうと、意思疎通を図った」と報告。

 責任部分についても触れ「言いにくいが、医師の人事権はどこのあるのか」とし、「長野病院は国立病院機構で高度医療を行う場所。国の医療機関にもかかわらず、このような状況でいいのか」と語った。

 さらに「今後は昭和大への要請をじかに行こう」としたが、具体的には調整中で、「まだ確定していない。1日もは早い段階で行動に移す」と答えることにとどめた。

 また県、信大にも要請していくとし、地元医師会、議会にも理解を求めていくことにした。昭和大への要請内容は具体的にはきまっていないが、同じ状態(4人体制)でお願いしたいとしている。

 医療確保のための支援については、広域副連合長の東御市、長和町、青木村の各首長ともに「財政的支援は惜しまない」とし、羽田健一郎・長和町長は「地域全体で考える問題」と答えた。また、長野病院の進藤院長も「昭和大に派遣継続をお願いするが、駄目だった場合、(医師確保の)働きかけをしていく」としたが、具体的内容は語らなかった。

(信州民報、2007年12月11日)

****** 信濃毎日新聞、2007年12月11日

昭和大に派遣継続要請を確認 産科医引き揚げ問題

 上田地域広域連合(連合長・母袋創一上田市長)は10日、上田市内で正副連合長会を開いた。国立病院機構長野病院(上田市)の産科医を、派遣元の昭和大(東京)が引き揚げる方針を示している問題で、近く連合として昭和大に派遣の継続を申し入れるとともに、他の医療機関からの産科医確保も検討することを確認した。

 会合は非公開で、上田市、東御市、小県郡長和町、青木村の4市町村長が出席。進藤政臣・長野病院長が経緯を説明し、対応を協議した。

 終了後の記者会見で母袋連合長は、国、県、信大などと連携し「難局を打開したい」と説明。昭和大への要請時期は調整中とした。

 一方、進藤院長は、昭和大以外の新たな派遣要請先を、幾つか念頭に置いている-と表明。上田小県地域の中核病院として産科機能を維持するためには「3人以上(の産科医)を確保したい」との考えを示した。

 昭和大は、長野病院の産科医4人全員を派遣しているが、来年春から段階的に引き揚げる方針。長野病院は今月3日から新規の出産受け付けを休止している。

(信濃毎日新聞、2007年12月11日)

****** 毎日新聞、長野、2007年12月11日

国立長野病院:産科医引き揚げ問題 

上田広域連合、国などに派遣継続要請へ

 ◇国、昭和大学に要請へ

 国立病院機構「長野病院」(上田市、進藤政臣院長)で産科医4人全員の引き揚げが求められている問題で、上田市など5市町村でつくる上田広域連合(連合長、母袋創一・上田市長)は10日、正副連合長会を開いた。会議では、広域連合として国や派遣元の昭和大学に対し、派遣の継続を求めていくことを確認した。

 この日の会議は、非公開で行われ、5市町村の首長に加え、進藤院長も出席した。会議後の会見で、母袋市長は「長野病院は公的な医療機関であり、このような状態になっていることをどうしてくれるのか」と国の責任を指摘した。

 同病院では、すでに先週から新規の分べんの予約を休止している。今後、分べんが休止すると年間約500件のお産の受け入れ先がなくなるほか、上小地域で異常分べんを取り扱う病院がなくなるため、出産環境が悪化することが懸念されている。【川口健史】

(毎日新聞、長野、2007年12初11日)

****** 信州民報、2007年12月9日

上田市産婦人科医会・宮下会長

安心安全のお産のため「前向きに取り組んでいく」

 上小地域には現在、産婦人科は長野病院、上田市産院と市内に二つの民間の産婦人科医院がある。その一つ、角田産婦人科内科医院(角田英弥院長、上田市山口)の昨年一年間の出産件数は、482件、今年は12月7日まで403と減少しているが、これは8月から11月まで医院の増改築で出産の受け入れを制限していたた


医療事故はいつでも起こる

2009年01月12日 | 医療全般

医療に間違いはないという神話とは決別する必要があります。今後、「事故はいつでも起こりえる」という前提に立った上で、医療の水準を高めていくべきです。

****** 宮崎日日新聞、2009年1月11日

医療事故の10年

「いつでも起こる」を前提に 

 医療事故が起きると、医療側と患者側が対立する。

 本来、医療が対決するものは病気やけがだ。治療のために必要なことは医療スタッフと患者の協力と信頼関係である。

 「医療に間違いはない」という神話とは決別しなければならない。過去の不幸な事例を生かし、「事故はいつでも起こりえる」という前提に立った上で、医療の水準を高めていくべきだ。

 都立広尾病院で消毒薬誤投与事件が起きた1999年は「医療安全元年」とされる。

 十分とはいえないものの、病院は医療事故を隠さずに報告するようになった。この10年、医療現場は劇的に変化した。

■フルネームで呼ぼう■ 

 本県でも黒木や日高、甲斐といった姓の方は経験したことがあるだろう。病院などの待合室で呼ばれると、しばしば別人が同時に立ち上がる。

 全国の医療機関では患者の取り違えといった初歩的なミスを防ぐため患者の姓名をフルネームで呼ぼうといった試みや、院内感染防止などの取り組みが進んでいる。

 仮に間違いが発生しても重大事故にならないよう食い止める。もし、不幸にして事故に発展した場合は真相や原因を科学的に究明する。再発を防ぎ、被害者を救済する。そんな役割を果たす公的な中立機関も待望される。

 そのための医療安全調査委員会(医療事故調)を設けようとする厚生労働省案が昨年できた。だが、医療への官僚による統制などを嫌う現場医師の反発は強い。

 医師で作家の海堂尊氏の新著「イノセント・ゲリラの祝祭」は、その迷走ぶりを描き、医療行政で失敗続きの厚労省を痛烈に批判している。

「魔の時間」が訪れる

 医療事故すべてを警察の捜査に委ねるのは無理であり、適切とも思えない。

 医療者自らが事故の原因、経緯を調べ、つまびらかにする院内調査を補完する医療事故調査の公的仕組みがあれば患者も納得できるだろう。

 厚労省案ばかりでなく、院内調査を重視した民主党案も議論して、幅広い合意を基に医療事故調査の仕組みを議員立法で築くべきではないか。

 医療事故で業務上過失致死傷罪に医療者が問われることがこの10年で増加している。しかし、医療で業務上過失致死傷罪の対象となる基準はあいまいである。

 犯罪として捜査するのは、悪質な場合に限定すべきだ。そのためには基準作りも課題となる。

 「魔の時間」というものが存在する。医療現場でも看護師らの泊まり勤務明け直前に事故が起きやすいという。医療スタッフを慢性的な過労状態から救い出すことも安全向上に直結する。

 対立する前に協力を。医療側と患者側の相互理解を促す環境づくりこそが急務である。

(宮崎日日新聞、2009年1月11日)


地方の医師確保策は?

2009年01月11日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

地方の公的病院では、いくら努力しても、必要な常勤医師数をすべて自前でまかなうのは非常に困難だと思います。やはり、従来通り、医師供給源として、ある程度は大学病院に依存せざるを得ません。

産婦人科の場合は、いつお産になるか全くわからないので、分娩件数が多かろうが少なかろうが、24時間体制で誰かが常に病院の近辺に拘束されます。例えば、年間分娩件数が150件程度の施設だと、平均すれば分娩は2~3日に1件程度しかないので、分娩に備えてずっと病院内に張り付いていたとしても、実質何日もほとんど手持ち無沙汰のこともあるかもしれません。しかし、いくら仕事がなくても、いざという時に備えて病院から離れることができません。そして、いざお産が始まって、いよいよ産婦人科医の出番だと思って張り切っても、分娩経過が異常化した場合は、常勤産婦人科医1人だけでは十分に対応できず、人手が十分に整っている施設に救急車で母体搬送せざるを得ないかもしれません。

****** 読売新聞、群馬、2009年1月7日

小児科医13人引き揚げ

群大医会方針、9病院から

 群馬大が館林厚生病院(館林市)など関連病院への常勤医の派遣数の縮小を検討している問題で、同大小児科医会が6日夜に同大で開かれ、来年度は、同病院など最大で9病院から計13人を引き揚げることを決めた。県内では、最大で8病院の11人が引き揚げられ、うち館林厚生は、現在の2人から0人となるため、入院治療ができなくなる見通しとなった。

 ◆館林厚生、入院不可能に

 同医会によると、来年度の常勤医の派遣数は、館林厚生が2人減となるほか、公立富岡総合病院(富岡市)が3人から2人(1人減)、県立小児医療センター(渋川市)が13人から11人(2人減)、同大医学部付属病院が18人から16人(2人減)など。佐久総合病院(長野県佐久市)も、4人から2人になる。ほかの県内4病院については、常勤医の意向に未確定の部分があるため、公表を控えた。

 同医会には関連病院への派遣も含め、小児科医77人が所属。出産や開業などで3月末に離職者や常勤を外れる医師が十数人出るため、派遣先の縮小を検討していた。

 同日夜に記者会見した同大小児科の荒川浩一診療科長は「医会で、『苦渋の選択で、派遣できない』という現状を説明した。非常勤で補えるよう検討したい」と話した。

 一方、館林厚生のある邑楽館林地区の1市5町は、同大と県に約12万9000人分の署名を提出し、医師確保を依頼してきた。館林市の安楽岡一雄市長は「大学からの正式な話は伺っていない」とした上で、「署名の重みを真摯(しんし)に受け止めてもらえなかったことは大変遺憾。住民が不安を募らせることのないよう、今後も小児科が維持できるように全力で取り組む」とのコメントを出した。

(読売新聞、群馬、2009年1月7日)

****** 毎日新聞、群馬、2009年1月8日

医療過疎:/5 小児救急

 ◇勤務医減り崩壊寸前

 「急患です」。受話器を手に診察室に駆け込んできた看護師から年齢や簡単な症状を聞くと、医師は泣き叫ぶ子供に注射針を刺した。昨年12月の休日、渋川市にある小児専門病院「県立小児医療センター」。ここでは休日や夜間の時間外でも、待合室が静かになることはほとんどない。

 同センターでは休日の午前8時半~午後5時半を日直、平日も含め午後5時半~翌午前8時半を当直と呼ぶ。日・当直は、内科と外科をそれぞれ医師1人で対応する。この日、内科日直の江原佳史医師(28)は、午前中だけで下痢を訴えた心臓病の男児(2)ら3人を診察。検査も含めると1人の患者に1時間以上を要し、昼食時間も確保できなかった。「患者が多い時は水も飲めない。こちらが脱水症状になりそうな時もある」と苦笑する。

 こうした時間外の患者に対応する小児救急は「輪番」と呼ばれる当番制で、中毛、東毛、西毛、北毛の4地区ごとに担当病院を割り振ってある。北毛(渋川市、吾妻郡、利根郡)は06年4月、原町赤十字病院(東吾妻町)に小児科の常勤医が不在となって以来、同センターと利根中央病院(沼田市)の2院が輪番を担当。医師数や病院の規模から、8割を同センターが受け持っている。

 同センターの内科医は13人。このうち約半分を占める20~30代の若手医師は月に4~5日は日直か当直に入る。翌日も通常通りの勤務となるため、若手に疲労が蓄積していく。同センターは群馬大医学部付属病院と並び、重症患者を診る小児3次救急病院に指定されており、年を追うごとに業務は増える一方だ。

 それでも、同センターの医師増員は望み薄だ。背景には、勤務医不足の厳しい現状がある。県医務課によると、県内の小児科勤務医は06年末に115人、4年前と比べ19人減った。全体の医師数は微増しているのに、小児科や産婦人科などの勤務医は減少が目立つ。原町赤十字の例を引くまでもなく、小児救急の現場は危機的な状況だ。

 同センターの丸山健一副院長は「現状では勤務医は肉体的、精神的にきつく、若手の開業医志向を助長してしまう。専門性を高めて、勤務医の良さをアピールしないと今後、小児救急は本当に崩壊してしまう」と警鐘を鳴らす。

 県は08年度、県内の小児科、産婦人科、麻酔科で勤務医として働く意思のある大学院生と研修医に月15万円の奨学金を貸与し、実際に勤務したら返済を免除する制度を始めた。

 しかし、募集枠30人に対し応募はわずか1人。再募集への反応も鈍く、問題の深刻さを際立たせている。

(毎日新聞、群馬、2009年1月8日)

****** 毎日新聞、群馬、2009年1月9日

医療過疎:/6 産婦人科医

 ◇地域から消える産声

 長野原町応桑の主婦、安済真由美さん(33)の大きく張ったおなかには、4人目の赤ちゃんが宿る。これまでの3人と同様に、同町の西吾妻福祉病院に入院して出産に備えている。「何かあれば家族が来てくれる。近くの病院は安心できる」

 ところが、産婦人科医の不足が進んだ地域では、かつて当たり前だった「自宅近くでの出産」や「里帰り出産」に、黄信号がともっている。

 吾妻郡では05年4月、それまで中心的な存在だった原町赤十字病院(東吾妻町)から、産婦人科の常勤医がいなくなった。その後は西吾妻福祉病院が、常勤医のいる唯一の公立病院となったが、その数はわずか1人。倉澤剛太郎医師(39)が開業医のけんもち医院(中之条町)と連携をとりながら、年間100-150人の分娩(ぶんべん)を担っている。

 常勤医が1人になった07年4月から、倉澤医師に休みはほとんどない。分娩の3分の2は時間外だ。分娩が始まれば携帯電話で呼び出され、初産だと丸一日かかることもある。2人の分娩に同時に立ち会ったりもする。相談できる医師がいないため、不安になることも少なくない。

 「辞めたいと思うこともあった。でもここで産みたいという人の声を無視できない」。常勤医が1人補充される今春までの辛抱と言い聞かせてきた。

 県内の産婦人科の勤務医は06年末で72人と、4年前から17人減った。勤務の過酷さに加え、訴訟に発展することもある出産時のリスクを懸念する若い医師が、開業医や他の診療科に流出してしまっているのが現状だ。

 地域による偏在も目立つ。前橋医療圏の32人に対し、富岡は4人、吾妻はわずか2人。郡部の数少ない分娩台が埋まった時、都市部への搬送にどのぐらい時間がかかるか。一刻を争う場合も想定され、妊婦の不安も募る。

 倉澤医師は「地域とお産は切っても切れない。特殊な診療科になってしまった産婦人科を、総合医やかかりつけ医と連携させられれば」と、地域医療と産婦人科の融合の必要性を指摘する。

 だが、即効性のある対策が見当たらないのも事実だ。県医務課は「報酬も含め産婦人科の労働条件を改善し、やる気のある医師を地道に集める以外にとるべき方法はない」と話す。

(毎日新聞、群馬、2009年1月9日)

****** 毎日新聞、群馬、2009年1月11日

医療過疎:/8 群馬大

 ◇悪循環陥る研修制度

 「住民の命を守る最後のとりで。なんとかお願いしたい」

 08年12月、館林市の安楽岡一雄市長らが群馬大を訪れ、館林厚生病院の小児科医確保を要望した。群馬大小児科医会が同病院への常勤医2人の派遣を08年度末で取りやめ、同病院の小児科常勤医が不在となる恐れが表面化したためだ。

 群馬大は診療科ごとに出身医師や協定先の病院の医師で「医会」を構成し、人員が手薄な地域の病院に医師を派遣している。群馬大自身に余力がなくなれば当然、取りやめざるを得ない。その大きな要因として、04年度に始まった臨床研修制度の存在が指摘される。

 この制度では研修先を研修生が自由に選べるため、内容が決まっている初期研修は給与や環境面が良い首都圏の病院に人気が集中した。群馬大では03年度に104人いた新規研修医は、08年度に27人にまで落ち込んだ。

 初期で集められないと、後期研修医の確保は難しく、さらには、その後の勤務医減少につながる懸念もある。館林厚生病院の問題は、あくまで一例に過ぎない。

 県内の山間地は、へき地診療所や開業医の医師が支えている。ただ、彼らの活躍は、何かあればすぐに患者を転送できる地域の中核的な病院のサポートがあってのものだ。群馬大の弱体化は、そのまま地域の医療水準に跳ね返る。

 県のへき地医療対策協議会の委員でもある群馬大の小山洋教授(公衆衛生学)は「今の状況では、若い医師に地域医療をやらせる余力がない。地域で総合医をやりたいという意思のある若手は他の病院を選んでしまう。そうすると、人手不足は悪化する」と悪循環を指摘する。

 小山教授が描く理想は、群馬大が県内の地域医療を担うことだ。「へき地医療も自治医科大学に頼らず、その地域が自分たちの手でやるのが望ましい。そのためにも、群馬大は医師確保を進めなくてはならない」と話す。

 医師不足を招いたとの批判もある臨床研修制度だが、ここにきて見直しの動きもある。厚生労働省と文部科学省は、2年の研修期間を1年に短縮し、2年目から将来専門とする診療科に入るという案を専門家による検討会に提示した。

 導入から5年。制度改正の大きな波に、地域の医療は大きく揺れ動いている。

(毎日新聞、群馬、2009年1月11日)

****** 産経新聞、2009年1月9日

群大病院、内科医5人引き揚げを利根中央病院に打診

 群馬大学医学部付属病院(前橋市)が、利根中央病院(沼田市)に派遣している内科医5人について、今年度限りの引き揚げを打診していることが8日、分かった。消化器系担当の常勤医が4月以降、不在となる恐れがあり、同病院は周辺病院との調整を急ぐ。医師派遣をめぐっては、群大病院が県内外に派遣する常勤小児科医を11人縮小する計画をまとめたばかり。深刻な医師不足の実態がさらに浮き彫りになった。

 利根中央病院によると、昨年10月、群大病院の内科医会から、消化器系を担当する医師ら5人の引き揚げを打診された。利根中央病院は今年度末、別の内科医3人が離退職予定。現在17人の内科医が、院長を含め9人まで減少するという。

 同病院は、利根郡や沼田市で緊急搬送される患者の半数以上に対応。内科では外来患者や約130人の入院患者を抱えるが、今回の打診を受け、一部の転院などを検討。引き揚げが実施されれば、時間外診療の縮小や午後の外来受け付け廃止に追い込まれるという。

 同地区の救急業務を運営する利根沼田広域市町村圏振興整備組合は「山間地域などの救急医療の根幹にかかわる問題」とし、派遣維持を求めていく方針。

(産経新聞、2009年1月9日)

****** 毎日新聞、広島、2009年1月4日

働く:第1部 逆風の中で/1 産婦人科医

 急激に悪化した経済状況の中、労働環境は逆風の中にある。解雇、低賃金、長時間労働、人手不足、経営難……。厳しい環境の中で人々は今、何のために働くのか。さまざまな「働く現場」をルポすると同時に、人々が生きる姿を通して「働く」意味を考えたい。

 ◇出産・子育て、悩む女医

 「元気に育ってますよ」。妊婦の腹にエコーを当てると、画面に赤ちゃんの成長が映し出される。「ほっとしました」。妊婦が柔らかな表情で答える。広島大学病院(南区)の産科婦人科で働く中前里香子さん(35)=中区=の表情もほころぶ。産科婦人科は女性医が多く、医師不足が深刻だ。

 中前さんは、07年6月に長女を出産し、1年間の産休・育休を取得。現在は、外来・入院患者を診察すると同時に、新生児脳障害の研究に取り組む。

 県内の病院で勤務していた04年、整形外科医の夫と結婚。当初から仕事を続けようと考え、06年に広大病院に移って以降も旧姓の「島筒」で働く。今は子育てと仕事の両立に悩む。

 出産前は当直勤務があった。深夜、仮眠中に入院患者の胎盤はく離が。赤ちゃんの心拍数が低下した。緊急手術だ。中前さんが帝王切開し、赤ちゃんを取り出した。「夜の緊急手術はよくあります」

 復帰後は当直免除だが、午前1時まで東区の実家に子どもを預けて働いたこともある。腹痛を訴える急患が来院、午後9時に緊急手術が決まった。手術が終わると、日付けが変わった。一息つく間もなく、携帯電話で「もう寝ついた?」。子どもを迎えに走った。病院は実家の近く。「自分はまだ恵まれている」と思う。

 高齢出産や低体重児など医療高度化が、訴訟リスクを高めた側面もあり、現場に無言の圧力を加える。

 近年、医師の国家試験合格者の3割が女性だ。小児科や産婦人科だと、20~30代前半の約半分を占める。県医師会によると、出産を機に女性医師の半数が辞職や休職、パートなど勤務形態を変える。医師不足で産休は取りにくく、退職する人も多いという悪循環。全国の産科救急病院で患者を十分に受け入れることができない原因の一つが、女性医師の早期退職。一方で、患者すべてが女性ということもあり、女性産婦人科医は患者に好評だ。

 「先生の名前を付けていいですか」。妊婦検診から出産まで担当した患者の一言が忘れられない。中前さんの職場は“いのち”の現場だ。生命の誕生に立ち会い、患者と喜びと苦しみを共有する。死にも立ち会った。障害を持って生まれた赤ちゃん、がんを患った女性……。

 「新しいことを知ったり、目標とする先輩に近づいていく。それがやりがい」。自分の成長が分かるのが働く喜びだ。

 気持ちがへこんだ時、携帯電話の待ち受け画面を見る。長女がほほ笑む。保育園に迎えに行けば、待ちきれずに走って抱きついてくる。その姿で、仕事のストレスはすべて癒やされる。【大沢瑞季】

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 ◇データ

 県によると、県内の産科・産婦人科医で1カ月の当直回数が10日以上が34・1%だった(06年)。県内の産科・産婦人科医は229人(06年)で、98年の279人に比べて約2割減少。県内4市6町では、分娩ができる病院がない。

 県内の女性医師数は990人(06年)で全体の約15%。育児休業制度や短時間勤務、院内保育所の整備などの支援策はあるが、現実は制度はあっても利用しにくいという。

(毎日新聞、広島、2009年1月4日)


更年期障害に対する漢方治療

2009年01月10日 | 東洋医学

産婦人科医は、他の科の医師と比べて、漢方に興味を持っている者が比較的多い。更年期障害、月経困難症、冷え症、不妊症、妊娠中の感冒や花粉症、抗癌剤の副作用対策など、産婦人科医が漢方薬を処方する機会は多くある。通常の現代医学的な診断や治療に加えて、その足りない部分を漢方医学で補うというスタンスの医師は比較的多い。

月経異常、更年期障害などの婦人科特有の症状を訴える患者さんに対してよく処方される三大婦人薬は、当帰芍薬散、桂枝茯苓丸、加味逍遥散である。当帰芍薬散は比較的体力が低下し冷え症がみられる者、桂枝茯苓丸は体力中等度で下腹部の抵抗・圧痛を認め、いわゆる瘀血(おけつ)の腹証がみられる者、加味逍遥散は精神症状、発汗・ホットフラッシュなどの症状がみられる者に多く用いられる。

****** 毎日新聞、2009年1月9日

特集:女性のための漢方セミナー 

漢方、上手に活用し更年期を乗り越えて

 「女性のための漢方セミナー」(毎日新聞社主催、日本医師会・大阪府医師会・日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会後援、株式会社ツムラ協賛)が昨年11月、大阪市北区の同市中央公会堂で開かれました。8回目となる今回のテーマは「気になる体の不調、これって更年期?」。女性の40代後半から50代前半の時期は更年期といわれ、多くの女性が不調に悩まされます。セミナーでは基調講演とパネルディスカッションで、漢方を使った症状の改善策などが具体的に紹介されました。(敬称略)

 ■パネルディスカッション

 司会・キャスター、毛利聡子さん/タレント・ハイヒールモモコさん/大阪市立大学大学院医学研究科講師・森村美奈さん/大阪大学大学院医学系研究科助教・有光潤介さん

 ◇心と体、総合的に診て

 毛利 テレビなどで活躍され3人のお子さんのお母様であるハイヒールモモコさん。体の方はいかがですか?

 モモコ 元気が売りですが、実はめまいと耳鳴りとホットフラッシュに悩んでいます。

 ◇障害、簡単そうで難しい見分け方

 森村 更年期障害の見分け方は簡単そうで難しい。自分でチェックできる方法もありますが、あくまで目安。気になる方は産婦人科や更年期外来を受診して適切な治療を受けた方がいいでしょう。

 毛利 更年期の症状と分からず、原因不明の病気と悩んでいる方も多いのでは?

 モモコ 私もめまいがひどかった時、病院によって「メニエール病」「ストレス」「自律神経失調」とか言うことが違うんで、「どれやねん!」って困りましたワ。

 森村 まず自分の症状に合ったところで診断を受け、次にどこで診てもらうか相談しては。いらいらやほてりなど典型的な更年期症状なら婦人科、気分がめいり、うつの恐れがあるなら心療内科、全身を診てもらいたいなら漢方がいいと思います。

 毛利 基調講演で個人の体質や症状を表す「証」という言葉が出ましたが、もう少し詳しく診断法を教えていただけますか。

 有光 先ほど申し上げた望診、聞診、問診、切診の「四診」で患者さんの全体のバランスを見ます。細かく話していくうちに、症状がはっきりしてくることもあります。

 毛利 本日、会場の皆さんにお配りしているチェックシートで自分の「証」を調べることができるんですね。(表参照)

 有光 漢方では大ざっぱに体力がある人、ない人、普通の人の三つに大きく分けます。胃腸が丈夫で暑がり、病気に対する抵抗力がある人は「実証」、胃腸虚弱で冷えが強く、弱々しい感じの人を「虚証」、中間の方は「中間証」です。

 毛利 モモコさんは一つだけ、「胃腸が丈夫」に○ですね。

 モモコ 年1回人間ドックに行ってるんですけど、すごいほめられます。「いい膵臓(すいぞう)ですね」って。いつも内臓だけはほめられます。

 有光 虚証に近い、ぎりぎりで中間証ですね。漢方は病名ありきではなく、症状によって薬が違ってきます。

 毛利 つまり同じ症状でも証によって処方される薬が違ってくるということですね。

 有光 漢方では「異病同治」「同病異治」といい、同じ風邪でも体力のあるなしや症状により、薬はまったく違ってきます。更年期障害も同じです。

 毛利 控室で事前にモモコさんを診察していただきましたが、結果はいかがでしたか?

 有光 脈を拝見すると水を取りすぎの傾向が感じられました。

 モモコ そう言われたんで今、のどがカラッカラですが、飲まずに我慢してます。

 有光 2点目は夜更かしで、若干うるおいが足りない脈をされていますね。舌の裏側の静脈が腫れており、血の巡りが悪いサインも出ています。漢方の立場からすると、水の取りすぎは冷えを引き起こし、胃腸の働きを弱めます。何事もほどほどが大切ですね。

 モモコ どれぐらいの量ならいいんですか?

 有光 飲み水なら1日2リットルを超えると飲み過ぎです。

 毛利 診察が終わり、今のモモコさんに適している漢方薬を教えてください。

 有光 水毒が多い状態を治すなら「当帰芍薬(しゃくやく)散」。血液の流れが悪い状態を改善するなら「桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)」でもいいと思います。夜更かしが問題なら「滋陰降火湯」という薬があります。ただし、あくまでモモコさんの場合で、証や症状が異なれば薬も異なってきます。

 ◇保険がきく漢方、医師の7割使用

 モモコ 漢方は高いイメージがあるんですが。

 毛利 実は保険がきくんですね。漢方は誤解されている点がほかにもあるのでは?

 有光 一番感じるのは漢方薬をサプリメントのようにとらえ、指示した量を守らない患者さんがいることです。あくまで薬なので西洋薬ほどではありませんが、副作用がでることもあります。

 森村 医師の中にも漢方に否定的な方がいるのですが、最近では効果も科学的に立証されつつあります。

 毛利 現在、お医者様の7割が漢方薬を使うというデータもあるそうですね。

 ◇漢方の基本学ぶ、現在の医学部生

 有光 文部科学省の教育ガイドラインが改定され、現在ではすべての大学医学部・医科大学において漢方医学教育を行っています。

 森村 心も体も総合的に診る「全人的医療」という考え方が浸透しつつあり、この考えにぴったりな漢方を率先して学ぶ医学生が増えていますね。

 モモコ きょうは先生方の話を聞いて、更年期を乗り越えていけそうやと元気が出てきました。女はしゃべった方が元気になるらしいんで、愚痴はお友達にこぼしてスッキリして、信頼できるいいお医者様を見つけて楽しい人生を送っていきたいですね。

 ■基調講演

 ◇生活習慣病の予防効果も--森村美奈さん

 更年期とは閉経を迎える50歳前後の約10年間を指す。更年期障害は卵巣の働きの低下やストレスなど複数の因子がからみあっておきる。症状としては、ほてりやのぼせ、発汗、動悸(どうき)、疲労など。更年期うつ症状と関係が深い「空の巣症候群」というものもある。これは子どもが独立してしまい、気持ちが不安定になる状態を指す。

 この時期は信頼できる専門家に相談することが大切。主な治療法としてはホルモン補充療法や漢方療法、向精神薬の投与、心理療法など。ホルモン補充療法は女性ホルモンのエストロゲンを補うもので、のぼせや発汗などの症状に効果的。漢方療法は心と体全体をとらえて行う治療法なので、さまざまな症状や背景を持つ更年期障害の改善に向いている。

 更年期障害には「3大漢方」と呼ばれる処方がよく用いられる。当帰芍薬散は冷えがちで虚弱な人向き。不安が強く落ち込みがちな方は加味逍遙(しょうよう)散、体力はあるが頭痛や肩こりが強い方には桂枝茯苓丸が効く。漢方療法は個人の症状と体質に合った薬を処方し、食事の改善も指導してくれるので生活習慣病の予防効果も期待できる。更年期は人生の折り返し地点。無理せず体と心をリフレッシュさせてあげてほしい。

 ■基調講演

 ◇漢方はオーダーメード薬--有光潤介さん

 漢方は中国の伝統医学が日本に伝わり、独自に発達してきた医学。西洋薬の多くは化学合成された単一成分だが、漢方薬は複数の生薬で構成されている。「自然治癒力を高める」考え方や、個人の体質に合わせたオーダーメードの薬だということも漢方の大きな特徴だ。

 診察は肌や舌の色を見る「望診」、患者の訴えを聞く「問診」、声のはりや体臭をチェックする「聞診」、体に触れて診察する「切診」を行う。情報を分析して「証」という患者さんの状態を見極め、それにあった薬を処方する。

 漢方独特の物差しが「気・血・水」。疲れやすい、だるいなど更年期に多く検査でも原因が分からない「不定愁訴」には、漢方が効果的。漢方の考え方ではこれらの症状は気・血・水のアンバランスから起きる。「水をたくさん飲もう」という漢方からすると間違った健康法が流行している。立ちくらみや足のむくみは「水毒」という余分な水がたまっているのが原因だ。

 自分の舌に歯形がついているなら水分の取りすぎ。舌の裏側の静脈が腫れているようなら血の流れが悪い。

 漢方は西洋薬に負けない効果があるが、誤った使い方をすれば副作用が出ることも。上手に利用してほしい。

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 ◆あなたのタイプをチェック!【女性用】

 あなたは虚証?実証?中間証?

 (1)どちらかというと体力がある             2

 (2)寝汗をかきやすい                 -2

 (3)意欲、気力が充実し、積極性がある          2

 (4)胃腸が丈夫である                  2

 (5)夏バテしやすく、冬は風邪をひきやすい       -2

 (6)顔色がよく、皮膚につやがある            2

 (7)冷たい物を食べると下痢しやすい          -2

 (8)おなかに弾力があり、骨格ががっちりしている     2

 (9)食が細く、食べるのが遅い             -2

(10)月経初期に痛みが強く、血塊が出たり、経血量が多い  2

 合計点数0点以下→虚証 2~6点→中間証 8点以上→実証

 *表は目安

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 ■人物略歴

 ◇もうり・さとこ

 山口放送で記者兼キャスターなどを経て、96年テレビ大阪に入社しニュース番組などのキャスターを務めた。04年に退社後はフリーアナウンサーとして活躍している。

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 ■人物略歴

 ◇ハイヒール・モモコ

 大阪市出身。82年11月ハイヒール結成。84年ABC漫才落語新人コンクール審査員奨励賞、95年上方漫才大賞(ラジオ大阪)大賞。テレビ、ラジオ、映画など幅広く活躍。

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 ■人物略歴

 ◇もりむら・みな

 帝京大医学部卒。専門は産婦人科と女性の心身医療、医学教育。大阪市立大大学院医学研究科産科婦人科教室を経て、現在卒後医学教育学講師。

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 ■人物略歴

 ◇ありみつ・じゅんすけ

 愛媛大医学部、大阪大大学院医学系研究科分子病態内科学博士課程卒業。阪南中央病院などを経て、07年より大阪大大学院医学系研究科漢方医学寄附講座助教。

(毎日新聞、2009年1月9日)


産科医、母親の負担軽減へ 飯田市立病院が助産師外来拡充

2009年01月08日 | 飯田下伊那地域の産科問題

コメント(私見):

昨年の今頃、当地域の産科連携システムにおける連携先の2つの病院(下伊那赤十字病院、西沢病院)の常勤産婦人医が他県に転勤して、常勤産婦人科医不在となりました。また、開業の先生のお一人が、健康上の理由からしばらくの間休診することになりました。連携先が次々になくなって、それまでうまく稼働していた産科連携システムが急にうまく機能しなくなってきた時に、突然、当科の常勤産婦人科医のうちの2人が3月いっぱいで離職する意向であることを申し出てきました。

当地域の産科医療提供体制は再び崩壊寸前の危機に陥って、4月を無事に乗り越えられるかどうかも全くわからない状況となりました。ちょうどその頃、舛添厚生労働大臣が当施設を視察目的で訪問されましたので、産科医療の危機的状況を直訴しました。

窮余の策として、4月以降の『里帰り分娩と域外在住者の分娩の制限』に踏み切るとともに、『助産師外来の大幅拡充』や『メディカル・クラークの業務拡大』など、思いつく限りのさまざまな危機打開策を試みました。

各方面よりご支援をいただき、信州大産婦人科からの医師派遣により常勤産婦人科医数も何とか維持され、分娩制限も徐々に解除でき、昨年(1月~12月)の当科の総分娩件数は計990件で、一昨年の総分娩件数996件とほぼ同程度まで回復してきました。地域の開業の先生からの母体搬送受け入れ要請には、すべて応えることができました。多くの人々に支えていただいて、当医療圏の産科医療提供体制は、今のところ何とか持ちこたえています。

産科や小児科の医師不足の問題は全国的に深刻な状況であり、一つの医療圏の中だけでいくら努力しても限界があると思います。また、 一つの医療圏で産科医療提供体制が崩壊すると、大量のお産難民が発生して、周辺の医療圏に流れ込んでしまうので、産科医療の崩壊が急速かつ波状的に全県的規模で広がってしまう可能性があります。 ですから、「自分の所属する医療圏さえ問題がなければ他は関係ないんだ」というわけにもいきません。全県的な課題として、各医療圏が協調して、この問題に取り組んでゆく必要があると思います。

****** 南信州新聞、2009年1月1日

産科医、母親の負担軽減へ 飯田市立病院が助産師外来拡充 助産師のやりがいアップ

 昨年4月、飯田市立病院(同市八幡町)は産婦人科医が5人から最低1人減少することから、「里帰りと域外出産の中止」に踏み切った。同時に助産師外来の拡充を実施、現在の状況をまとめた。

 出産制限が始まった2008年4月、市立病院では「助産師外来の拡充」を試みていた。助産師外来を外来病棟に移転し、診察室3室と超音波検査を行うエコー室を設けた。助産師3人と検査技師1人が常駐し、正常な経過のみ、助産師と検査技師による妊婦健診を行うようになった。

 一般的に、妊婦は13~15回の妊婦健診を受ける。助産師外来ではこのうち約半分の7~8回を助産師と検査技師が担い、残りの半分は従来通り産科医が行う。異常が見つかったときや助産師だけの妊婦健診に不安があるときは、産科医と提携して対応する。

 市立病院ではこれまで、34週までの妊婦健診は地域の連携開業医で行うとし、34週以降を受け付けていた。しかし、妊婦健診の受診者が連携開業医以外の開業医にも流れ、そこで「待ち時間が長い」「予約が取れない」などの問題にもなっていた。また、市立病院の産科医にとっても、34週以降の妊婦健診をすべて見ることは負担になっていた。

   ◇       ◇

 助産師外来が始まって数ヵ月後、その開業医の負担が減り始めた。椎名レディースクリニック(同市小伝馬町)では、5月に90人だった妊婦健診が、8月には24人に減少。椎名一雄産婦人科医は「助産師外来の機能が整ってきた。市立病院で出産する人の妊婦健診が減り、若干外来に余裕ができた」と語る。

 妊婦健診を担う助産師にとっても変化があった。病棟師長の松村さとみ助産師は「すごく責任を感じている。若いメンバーは自分も妊娠や出産がまだなので、不安もある。けれどやりがいはある。みんな根本的にはお母さんと話したい。こういうお産をしたい、という思いを大事にしたい」と語る。

 さらに「上の子とのかかわりをどうしたらいいか」「立ち仕事が続いて心配」「周りの人のタバコが気になる」など、もっと身近で具体的な部分でのアドバイスにも力を入れることができるという。最近では、家庭に問題を抱えた妊婦も増えているといい、松村さんは「助産師が早い時期から関わることで何か解決できるのでは。気持ちの面では産婆さんがしていたときと同じようになれるといい。チャンスを与えてもらったので頑張りたい」と語る。

 妊婦健診に訪れた妊娠10ヵ月という下條村睦沢の女性(30)は「同性なので何となく安心感がある。出産経験のある人が話してくれるのは安心できる。何かあったら先生に診てもらえるし」と話した。

 助産師外来の拡充によって産科医や母親の負担が減少し、助産師のやりがいが高まっている。それぞれが役割分担しながら協力することが、飯田下伊那地方の産科医療を守ることにつながっている。

(以下略)

(南信州新聞、2009年1月1日)


周産期医療の現場

2009年01月06日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

周産期医療の進歩により、分娩の安全性が以前と比べて著しく高まりましたが、現在でも周産期医療の現場では、一定の頻度で母児の異変が発生しています。時には、どのように対応しても母体死亡や胎児死亡・新生児死亡が避けられない事例も起こり得ます。その事実を国民全体の共通の認識とする必要があります。

現在の日本では、周産期医療に関わる産科医や新生児科医の頭数が圧倒的に不足していますが、もしも、『お産は安全なのが当たり前で、お母さんや赤ちゃんに不幸な事が起これば、何か医療ミスがあったに違いない!』 という認識が浸透して、分娩の現場で何か異変が発生するたびに、たまたま現場に居合わせたスタッフの責任を厳しく追及する風潮がはびこれば、産科医や新生児科医が医療現場からどんどん離れるばかりで、現場の人手不足はいつまでたっても解消されません。

この問題を一病院や一自治体の努力だけで解決しようとしても、絶対に無理だと思います。

根本的には、産科医や新生児科医を大幅に増員しないことには問題は解決しませんが、産科医や新生児科医は急には増やせませんから、当面の緊急避難的対策としては、分娩施設の集約化をさらに進めて、産科医や新生児科医たちがこれ以上疲弊しないような職場環境に変えていく必要があると思います。

また、医療秘書を大幅に増員して、できれば各医師に一人づつ医療秘書を配置し、現場の医師達を雑務から解放することも非常に有効な対策だと思います。

さらに、国策として、若い医学生や研修医たちがこの分野を一生の仕事として選択しやすい環境に変えて、これから周産期医療の現場で活躍する人材を育成することが急務だと思います。

****** 読売新聞、長野、2008年12月16日

新生児対応9病院で、人材育成が急務

【要約】 県内のNICUは、県立こども病院(安曇野市・21床)、信州大病院(松本市・6床)、長野赤十字病院(長野市・9床)、飯田市立病院(飯田市・3床)の4か所。このほか、新生児科医が少なく、24時間常駐できないなど、厚生労働省の施設基準は満たしていないものの、NICUと同等の設備をもつ病室が、県厚生連佐久総合病院(佐久市・12~15床)、波田総合病院(波田町・6床)、諏訪赤十字病院(諏訪市・6床)、県厚生連北信総合病院(中野市・5床)、県立須坂病院(須坂市・4床)にある。夜間の緊急時には医師を呼び出すなどして、NICUに準じた役割を果たしている。

(読売新聞、長野、2008年12月16日)


産科医療補償制度、本日より開始

2009年01月01日 | 出産・育児

新年、明けましておめでとうございます。

旧年中は、多くの方々に支えていただき、みんなで知恵を絞り、みんなで力を合わせて、多くの困難を一つ一つ何とか乗り越えてきました。

本当にありがとうございました。

産婦人科を志す新しい若い仲間もだんだん増えてきつつあり、未来にかすかな希望も見えてきました。みんなで力を合わせて、今年を素晴らしい年にしたいです。

燃え尽きないように体力温存をはかりつつ、途中棄権しないで自分の責任区間を完走して、次世代にタスキをつなぎたいと思っています。

本年も旧年中と同様に、ご支援ご指導のほど、よろしくお願い申し上げます。

コメント(私見):

産科の医療現場では、予期せぬ事態が時に起こり得ます。「産科医療補償制度」では、通常の妊娠・分娩にもかかわらず、分娩に関連して重度の脳性麻痺となった赤ちゃんが速やかに補償を受けられ、重度脳性麻痺の発症原因が分析され、再発防止に役立てられることによって、産科医療の質の向上が図られ、安心して赤ちゃんを産める環境が整備されることを目指しています。

本制度は、分娩機関(分娩を取り扱う病院、診療所、助産所)が加入する制度です。日本医療機能評価機構の産科医療補償制度に関するホームページによると、12月24日現在で、本制度の加入率は98.6%(病院・診療所:99.2%、助産所:94.8%)に達しました。加入している分娩機関では、産科医療補償制度のシンボルマークが院内に掲示されます。また、加入分娩機関は同ホームページ上でも検索できます。

****** 読売新聞、2008年12月31日

出産事故1月1日から補償 重度脳性まひに3000万円

【要約】 出産時の医療事故で脳性まひになった子どもに、医師の過失がなくても総額3000万円を支給する「産科医療補償制度」が1月1日から始まる。医師の過失の立証が困難で、訴訟が長期化しやすい出産時の事故について、早期解決と被害者救済を図るのが目的。訴訟件数が減れば、産科医不足対策にもつながると期待されている。

(読売新聞、2008年12月31日)