****** ステップ1
出生直後の児の状態の評価
以下の4項目を評価し、すべて問題なければルーチンケアを行い、もし異常があれば蘇生の初期処置を開始する。
出生直後のチェックポイント
①羊水の胎便混濁はないか?
②成熟児か?
③呼吸か啼泣は良好か?
④筋緊張は良好か?
※AHA 2000では皮膚色をチェックして全身チアノーゼであれば酸素投与することとなっていたが、Consensus 2005では、出生時に蘇生処置が必要かどうかを評価するための評価項目から皮膚色は除外された。
****** ステップ2
ルーチンケア
出生時に特に問題のない児のルーチンケアとしては、低体温防止に努めながら、気道を開通する体位をとらせ、皮膚の羊水を拭き取ってから、皮膚色を評価する。
最初の処置のために母と児を分離する必要はなく、羊水を拭って皮膚を乾かした新生児を母親の胸部に肌と肌が触れ合うように抱いてバスタオルなどで覆う方法には保温効果があり、また早期の母子接触は愛着形成にも有用であるとされる。
ルーチンケア
①保温に配慮する
②気道を確保する体位をとらせる
③皮膚の羊水を拭い取る
以上の処置を行ってから、皮膚色を評価する
****** ステップ3
蘇生の初期処置
羊水の胎便混濁がある場合の手順
1)児に活気がある場合:
羊水の胎便混濁がある場合の”活気のある児”の条件
①力強い啼泣ないし呼吸
②良好な筋緊張
③心拍数が100/分以上
をすべて満たす。
ゴム球式吸引器または太めの吸引カテーテル(12か14Fr)で口腔および鼻腔内を吸引し、胎便を除去する。
※AHA 2000で推奨されていた「ルーチンの分娩中児気道吸引」はMAS防止に効果がないので推奨されなくなった。
2)児に活気のない場合:
上記3項目の1つでも欠ければ、”活気のない児”と判定する
気管内吸引を行う。
①まず口腔内吸引を行う。
・ 吸引カテーテルの太さ:12か14Fr
②喉頭鏡直視下に気管内吸引を行うか、気管挿管を行って気管内吸引を行う。
・ 気管チューブの太さ:3.0~3.5mm
・ 気管チューブの深さ:左口角9cm
・ 吸引カテーテルの太さ:6Fr
******
羊水の胎便混濁以外の項目に問題がある場合
蘇生の初期処置:
(1) 保温、(2) 体位保持と気道開通、(3) 皮膚乾燥と刺激
1)保温
①蘇生処置はインファントラジアントウォーマー上で行う。新生児の身体を乾いたタオルでよく拭く。
②極低出生体重児ではラップ(サランラップ、クレラップなど)で覆う。
2)体位保持と気道開通
①仰臥位でsniffing positionをとらせることで、気道確保を図る。肩枕(巻いたハンドタオル)を入れると、気道確保の体位がとりやすい。
②この体位で気道の閉塞が考えられる場合は口腔、ついで鼻腔の順で吸引を行う。
吸引カテーテルのサイズは成熟児では10Fr、低出生体重児では8Frまたは6Frを用いる。出生後数分間に後咽頭を刺激すると、徐脈や無呼吸の原因となる迷走神経反応を引き起こすことがあるので、心拍モニターがされてない場合は、カテーテルを咽頭まで深く挿入したり、長い時間の吸引操作は避ける。吸引操作は口腔内と鼻腔内を5秒程度にとどめ、激しくあるいは深く吸引しないように注意する。また、吸引に用いる陰圧は100mmHgを超えないようにする。
3)皮膚乾燥と刺激
①乾いたタオルで皮膚を拭くことは、低体温防止だけでなく、呼吸誘発のための刺激ともなる。児の背部、体幹、あるいは四肢を優しくこする。
②これで自発呼吸が開始されなければ、児の足底を平手で2~3回叩いたり指先で弾いたりする。背部をこすってもよい。
③そして再度、気道確保の体位をとる。
※それでもなお十分な呼吸運動がなければ人工呼吸が必要である。自発呼吸を誘発させるための皮膚刺激に時間をかけすぎない。
****** スッテプ4
蘇生の初期処置の効果の評価と次の処置(酸素投与、人工呼吸)
蘇生の初期処置[(1)保温、(2)気道確保、(3)皮膚刺激]を行ったら、その効果を判定するために、呼吸と心拍数と皮膚色をチェックする。
出生直後の児では臍帯の付け根の部分を指でつまんで臍帯動脈の拍動を触れることにより心拍動を測定することができる。それで触診できない時は聴診器で直接胸部の聴診を行って確認する。6秒間の心拍数を数えてそれを10倍すれば分当たりの心拍数となる。
皮膚色としては、顔面部の中心性チアノーゼの有無をチェックする。
この時点で、無呼吸、あえぎ呼吸、心拍数100/分未満の徐脈のいずれかが認められたら、直ちにバッグ・マスクを用いた人工呼吸を開始する。
自発呼吸があり、心拍数100以上/分であるが、中心性チアノーゼのみが認められる場合は、フリーフローの酸素投与を施行する。
4)酸素投与
Consensus 2005では、蘇生の初期処置を完了したにもかかわらず中心チアノーゼが認められる場合や、人工呼吸開始時は、100%酸素使用を推奨している。
ルームエアで蘇生が開始された場合でも、出生の90秒以内に明らかな改善がない場合には、100%酸素投与を行う。
フリーフロー酸素(口元酸素投与)は、チューブを持つ手でつくるカップ状のくぼみ、酸素マスク、流量膨張式バッグなどを用いて投与する。特殊な閉鎖式のリザーバーのない自己膨張式バッグでは十分な濃度の酸素を投与できない。
フリーフロー酸素の標準的流量:5~10L/分
早産児は、高酸素血症の影響を受けやすいのでヘモグロビン酸素飽和度が85~95%の範囲に徐々になるように、オキシメーターとブレンダーを使用して必要最小限度の酸素を投与するように努める。
5)人工呼吸
無呼吸もしくはあえぎ呼吸、心拍数100未満/分の徐脈、もしくは100%酸素投与によっても中心性チアノーゼが続く場合には、人工呼吸の適応となる。
90%の仮死児はバッグ・マスクを用いた人工呼吸までの蘇生処置で回復する。
・ 自己膨張式バッグ
過剰加圧防止弁がついており、一定の圧以上の高圧がかからないようになっている。特殊な閉鎖式の酸素リザーバーをつけない限り、高濃度酸素やフリーフローの酸素は供給できない。
・ 流量膨張式バッグ
熟練者は流量膨張式バッグを用いた方がより効果的な換気ができる。100%酸素投与も容易である。児の肺の硬さをバッグを押す手に感じることもできる。圧マノメーターを付けて、換気圧をチェックする必要がある。流量膨張式バッグに流す酸素の流量は、5~10L/分くらいが適量である。
・ マスク
丸型と鼻合わせ型の2種類がある。マスクは児の鼻と口を覆うが眼にはかからないサイズを選択する。クッション付顔マスクを用いると、顔に密着しやすくてマスク周囲からのリークが少ない。
親指と人差し指でCの字をつくり、マスクを顔に密着させ、中指で下顎を軽く持ち上げる(ICクランプ法)。
児の頸部をわずかに伸展したsniffing positionをとると、気道が展開しやすい。
・ バッグ・マスクの実施法
最初の数回の換気圧は30~40cmH2O、その後は胸の上りを見て調節する。人工呼吸の回数: 40~60回/分。
・ 経口胃内カテーテルの挿入
バッグ・マスクを長時間使用する時は6~10Frのカテーテル(正期産児では8Frの栄養チューブ)を胃内に経口的に留置し、胃内容を十分吸引したのちカテーテルの先端を開放にする(胃膨張の防止)。
カテーテルの長さ: 鼻の付け根-外耳孔-剣状突起と臍の中間
・ バッグ・マスクができないとき
分娩が設備のないところで行われた場合(車中など)、人工呼吸は呼気吹込み口対口鼻人工呼吸法を行う。すなわち、頭部後屈あご先挙上法で気道を確保し、術者の口で児の口と鼻を覆い、胸の動きを観察しながら術者の呼気を1~1.5秒かけて吹き込む。
・ バッグ・マスクが無効なとき
100%酸素で約30秒間バッグ・マスクを用いた人工呼吸を行っても、自発呼吸が十分でなく、かつ心拍数が100未満/分であれば気管挿管を検討する。
バッグ・マスクで効果的な人工呼吸ができない原因
①マスクが顔に密着していない
②気道が閉塞している(体位、気道分泌物など)
③バッグを押す圧が低い
④バッグが破れている
⑤流量調節弁が開放している
⑥酸素の流量が少ない
⑦酸素濃度が低い
****** ステップ5
人工呼吸の効果の評価と次の処置(胸骨圧迫)
心拍数が100/分以上で自発呼吸が認められるようになれば、人工呼吸は中止してよい。
100%酸素で約30秒間バッグ・マスク人工呼吸を行っても、心拍数が60/分未満であれば、胸骨圧迫を開始する。
6)胸骨圧迫
胸骨圧迫は胸骨上で両側乳頭を結ぶ線のすぐ下方の部分(胸骨の下1/3)を圧迫する。圧迫期は胸壁の厚さの1/3程度がへこむ強さで圧迫する。圧迫解除期にも指は胸壁から離さない。
方法には、胸郭包み込み両拇指圧迫法(サム法)と2本指圧迫法(ツーフィンガー法)があり、通常は胸郭包み込み両拇指圧迫法(サム法)の方が効果的であり術者の疲労も少ないので推奨される。
胸骨圧迫と人工呼吸の回数比は3:1で行い、1分間におよそ胸骨圧迫90回、人工呼吸30回の回数になる。3回の胸骨圧迫と1回の人工呼吸を1サイクルとし、1サイクルは2秒で行う。
30秒ごとに6秒間だけ心拍数をチェックし、60/分以上を保持できるまで胸骨圧迫を続ける。
****** ステップ6
人工呼吸+胸骨圧迫の効果の評価と次の処置(薬物投与)
人工呼吸と胸骨圧迫による蘇生の効果の評価法:
・ 臍帯の基部で脈を触知する方法
・ 聴診器による心音を聴取する方法
のいずれかで6秒間の心拍数を数え10倍し、1分間の心拍数とする。
100%酸素で適切な人工呼吸を行い、胸骨圧迫を併用しても心拍60/分未満の徐脈が持続する場合には、薬物投与が適応となる。
臍帯静脈カテーテル:
・ 臍帯静脈は、新生児では最も早く確保でき、かつ薬物を直接静脈投与できる経路である。蘇生中に薬剤投与が必要と思われる場合は、なるべく早く臍帯静脈カテーテルを挿入する。
・ 臍帯静脈カテーテルの挿入法: 臍帯の根元の周りをゆるく臍帯テープでしばる。メスで臍帯を切り、静脈を露出させる。静脈にカテーテルを挿入する。血液の逆流が確認できるまでカテーテルを進める。それ以上深く挿入しない(挿入長:2~4cm)。
①0.01%アドレナリン(10倍希釈ボスミン®)
100%酸素で人工呼吸を行い、胸骨圧迫を少なくとも30秒以上続けても、心拍数60/分未満の徐脈が改善しない場合に投与される。投与経路は経静脈投与が望ましい。
0.01%アドレナリン(10倍希釈ボスミン®)を0.1~0.3mL/kgの1回量で、静脈内へ速やかに投与する。投与後30秒ごとに心拍数をチェックし、心拍数が60未満/分であれば3~5分ごとに再投与する。
静脈内投与に比べて効果が不確実であるが、気管内投与を行うときは、0.3~1.0mL/kg投与する。
②循環血液増加薬
使用が推奨されている循環血液増加薬:生理食塩水。
乳酸リンゲル液、O型Rh(-)の濃厚赤血球も使用可能である。
使用量10ml/kgを、臍帯静脈などから経静脈的に5~10分かけて投与する。
③4.2%炭酸水素ナトリウム(2倍希釈メイロン®)
十分な人工呼吸管理がなされているにもかかわらず、代謝性アシドーシスが明らかにあって、循環動態の改善を妨げていると考えられる場合には、炭酸水素ナトリウムの投与を考慮する。
4.2%炭酸水素ナトリウム(2倍希釈メイロン®)で、1回2~4mL/kgを、1mL/kg/分以上かけてゆっくり静注する。
****** ステップ7
気管挿管
気管挿管の適応
①胎便による羊水混濁があって元気のない新生児の気管吸引
②数分間のバッグ・マスク換気が無効な場合
③胸骨圧迫と換気の連動を促進するためと各換気の効率を最大にするため
④徐脈に対してアドレナリン(ボスミン®)を投与したいのに、静脈ラインがない場合
⑤特殊な病態(先天性横隔膜ヘルニア、サーファクタント補充療法を要するRDSなど)
喉頭鏡プレード:
No.1(新生児用)、No.0(低出生体重児用)、No.00(極低出生体重児用)。カーブ型よりは直型ブレードの方がよい。
気管チューブのサイズと深さ
・ 気管チューブのサイズは予測体重に合わせて内径2.0~3.5mmのものを準備する。先端まで同径のものがよい。
・ 口唇からの挿入長(cm)は、体重(kg)+6cmが指標となる。
児体重2.0~3.0kgの場合のチューブサイズは3.0~3.5mm、挿入の深さは8.0~9.0cm。
挿管操作中は、心拍数低下、チアノーゼ増強などに十分注意し、無理な操作は行わず、バッグ・マスクで十分換気を行ってから実施する。20秒以内に挿管できなければ、再びバッグ・マスクで十分換気を行ってからトライする。
正しい気管挿管部位の確認方法:
①両側の胸部が同時に上下すること。
②呼吸音が両腋下部の肺野で同じ強さで聴取できること。
③胃に吸気の入る音が聴こえないこと。
④胃部の膨張をきたさないこと。
⑤チューブ先端から呼気の湯気が観察できること。
⑥児の心拍・色調・活動性に改善がみられること。
⑦呼気のCO2をチェックする。(カプノメーター、カロリメトリー法)
⑧胸部X線写真で、気管チューブ先端が左右の鎖骨先端の中点と後側第2肋間(Th2)の中間にあること。