ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

胎児心拍数モニタリング

2010年04月30日 | 周産期医学
胎児心拍数モニタリングとは、母体腹壁に陣痛計を装着し、胎児の状態を評価する検査である。胎児心拍数モニタリングにより胎児心拍数陣痛図(CTG: cardiotocogram)が得られる。

CTGとは、胎児心拍数と子宮収縮圧を経時的に記録したものである。CTGの横軸は時間(3cm/分)、縦軸は上段では胎児心拍数(bpm)、下段は子宮収縮圧(mmHg)となる。

胎児の心拍数そのものの状態と、胎動や母体の子宮収縮に対して胎児の心拍数がどのように変化するかとをあわせてチェックし、胎児の状態を総合的に評価する。

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NST(non-stress test):胎児へのストレス(子宮収縮)を加えない状態で胎児心拍をモニタリングして、得られたCTGを判読し胎児の状態を評価するテスト。 ・ NSTで胎児の状態が良好と診断された場合は経過観察する。・ NSTで胎児の状態が良好か否か不明の場合は、VAST、CST、BPSなどの追加検査(Back up test)が実施される。

VAST(vibro-acoustic stimulation test):睡眠中の可能性のある胎児を振動音刺激で覚醒させモニタリングする。得られたCTGを判読し胎児の状態を評価する。(胎児振動音刺激試験)

CST(contraction stress test):人工的に子宮収縮を起こして出産時の陣痛を再現し、胎児心拍を観察して出産に耐えられるかどうかを評価するテスト。NSTよりも感度が高く、胎児に異常があるかどうかの確認に用いられる。

BPS(biophysical profile scoring): BPSとは、超音波検査を用いた①胎児の呼吸様運動、②胎動、③筋緊張、④羊水量の観察に、⑤NSTを加えた5つのパラメータから胎児の状態を評価する方法である。それぞれのパラメータごとに、正常であれば2点、異常であれば0点として合計し、合計が8点以上あれば問題がないと判断する。

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胎児心拍数基線(FHR baseline)

胎児心拍数陣痛図で、(一過性頻脈や一過性徐脈という)一過性の変動を除いた部分の平均的な胎児心拍数(FHR: fetal heart rate)を、胎児心拍数基線という。

①正常脈(normocardia):110~160bpm ②徐脈(bradycardia):<110bpm ③頻脈(tachycardia):>160bpm

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胎児心拍数基線細変動(FHR baseline variability)

・胎児心拍数基線の細かくランダムな変動を胎児心拍数基線細変動という。・正常な胎児では、妊娠後期に6~25bpm程度の細変動がみられる。・胎児は20~40分ごとに睡眠と覚醒を繰り返しており、睡眠中はCTG上での細変動が減少する。

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一過性頻脈(acceleration)

・胎動や陣痛にともなって胎児心拍数が急峻に立ち上がって、最頂点が15bpm以上、15秒以上続く持続するものを一過性頻脈という。

・20分のNSTで2回以上一過性頻脈が観察されればreactive NSTといい、胎児はwell-beingであると判断する。

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Ctg (日本産婦人科医会研修ノートNo.78)

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RFS (reassuring fetal status)を示す 胎児心拍数モニターの典型的所見

①基線が正常範囲内(110~160bpm)にある②基線細変動が正常に出現している③一過性頻脈がある(=reactive)④一過性徐脈がない

胎児心拍数モニターで①~④を満たしていれば、reassuring fetal status(胎児の状態が良好である)と判断することができる。

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RFS (reassuring fetal status)

Reassuring (日本産婦人科医会研修ノートNo.78)

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サイナソイダルパターン(sinusoidal pattern)

胎児心拍数陣痛図(CTG)上で、胎児心拍数の基線そのものが規則正しい正弦波形を示すもの。

サイナソイダルパターン出現時に考えられる胎児の状態: ①胎児貧血、②心不全、③低酸素状態、 ④血液型不適合妊娠時の胎児貧血

Fhmsinusoidal

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一過性徐脈(deceleration)

子宮収縮によって胎児の心拍数が一過性に減少することを一過性徐脈という。

①早発一過性徐脈(early deceleration): 子宮収縮に伴って胎児心拍数がほぼ同時に減少し、収縮の終わりとともに回復するもの。児頭圧迫による正常反応で、胎児状態は良好。

②遅発一過性徐脈(late deceleration): 子宮収縮の開始より胎児心拍数の減少が少し遅れて始まり、少し遅れて回復するもの。頻発する場合や基線細変動の消失を伴う場合にはNRFSの徴候として急速遂娩の必要がある。

③変動一過性徐脈(variable deceleration): 15bpm以上の心拍数減少がおおむね30秒未満の経過で急激に起こり、その開始から元に戻るまで15秒以上2分未満を要するもの。子宮収縮に伴って出現する場合は、その発現は一定の形をとらず、下降度、持続期間は子宮収縮ごとに変動する。基線細変動消失を伴う変動一過性徐脈はNRFSの徴候とされる。

④遷延一過性徐脈(prolonged deceleration): 持続が長い一過性徐脈で、胎児心拍数が基線より15bpm以上減少した状態が、2分以上10分未満で回復する。10分以上回復しない場合は基線の変化とみなす。

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遅発一過性徐脈

Zu0014

Zu0015 (日本産婦人科医会研修ノートNo.78)

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変動一過性徐脈

Zu0016 (日本産婦人科医会研修ノートNo.78)

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基線細変動の減少

Zu0012 (日本産婦人科医会研修ノートNo.78)

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遷延一過性徐脈

Zu0019 (日本産婦人科医会研修ノートNo.78)

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徐脈

Zu0018 (日本産婦人科医会研修ノートNo.78)

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胎児機能不全(NRFS)non-reassuring fetal status

[定義] 胎児機能不全(NRFS)とは、妊娠中あるいは分娩中に胎児の状態を評価する臨床検査において「正常でない所見」が存在し、胎児の健康に問題がある、あるいは将来問題が生じるかもしれないと判断された場合をいう。

従来から使用されていた「胎児仮死」あるいは「胎児ジストレス」の用語は使用しない。

NRFSはさまざまな病態があり得るが、この中で最も重大となる病態は胎児の低酸素症とアシドーシスであり、この状態が生じ増悪すると、低酸素性虚血性脳病変(脳性麻痺)や胎児死亡が起こりうる。

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NRFSと判断される胎児心拍数モニタリング所見

①頻発する遅発一過性徐脈②高度変動一過性徐脈③基線細変動の消失をともなう変動一過性徐脈④心拍数基線に戻るのが遅い変動一過性徐脈⑤基線細変動の消失

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追加検査(Back up test)

NSTで胎児の状態が良好か否か不明の場合は、①VAST、②CST、③BPSなどの追加検査が実施される。

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胎児振動音刺激試験(VAST) vibro-acoustic stimulation test

児頭の真上から振動音刺激を加える試験。睡眠中の可能性のある胎児を振動音刺激で覚醒させモニタリングする。得られたCTGを判読し胎児の状態を評価する。刺激を加えても一過性頻脈がみられない場合は異常所見と考えられる。

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CST(contraction stress test)

人工的に子宮収縮を起こして出産時の陣痛を再現し、胎児心拍を観察して出産に耐えられるかどうかを評価するテスト。NSTよりも感度が高く、胎児に異常があるかどうかの確認に用いられる。

CSTの検査方法:40秒以上持続する子宮収縮が10分間に3回認められるようになるまで、オキシトシン点滴または乳頭刺激を加える。遅発一過性徐脈出現の有無をチェックする。

CSTの適応:・NSTで胎児状態が良好であることを確認できなかった場合。・子宮内胎児発育遅延(IUGR)や妊娠糖尿病(GDM)などのハイリスク妊娠。

CSTの禁忌:・切迫早産・多胎妊娠・前置胎盤

CSTの判定:①negative 子宮収縮が起きても、遅発一過性除脈や変動一過性除脈がみられない。胎児の状態は良好と評価する。②positive子宮収縮の半数以上に遅発一過性徐脈がみられる。胎児の状態は不良と評価する。③suspicious子宮収縮の半数以下に遅発一過性徐脈または変動一過性除脈がみられる。胎児状態の判定は不能である。④hyperstimulation90秒以上続くか、または2分周期以内の子宮収縮があり、それに伴う一過性除脈がみられる。⑤unsatisfactory適切な子宮収縮が得られない。または良好なCTGが得られない。

CSTによる判定結果がnegative、positive以外(判定不能)となった場合、24時間以内に再検査を行うか、BPSなど他の検査で胎児の状態を評価する。

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BPS(biophysical profile scoring)の観察項目と判定

BPSは、以下の5 項目を評価し、おのおのの指標に対して正常は2 点、異常は0 点として総得点を求める。合計が8点以上あれば問題がないと判断する。

①胎児呼吸様運動(fetal breathing movements)子宮内における胎児のストレス状態は、呼吸様運動を減少させる。30分間に30 秒以上続く呼吸様運動が少なくとも1 回以上あれば、その速さや出現頻度に関係なく、正常とする。

②胎動(gross fetal body movements)胎児には胎動の日内リズムが存在し、胎児の低酸素状態では躯幹および四肢の運動が減少する。躯幹または四肢の運動が30分間に少なくとも3回出現すれば正常とする。躯幹と四肢の運動が同時期に出現した場合は1回の運動とカウントする。

③筋緊張(fetal tone)伸展した四肢あるいは躯幹が屈曲位に戻る運動を筋緊張と定義し、30分間に少なくとも1 回認めれば正常とする。

④羊水量(amniotic fluid volume) 羊水ポケットが2 cm 未満の場合、児の予後が有意に不良であるとの報告がある。羊水ポケットの径が2 cm よりも大きいものを正常とする。

⑤NST  胎動に伴う一過性頻脈の出現は、児のwell-being を示す重要な所見であり、20~40 分の観察で胎児心拍数図上15 bpm 以上、15 秒以上の一過性頻脈を2 回以上認めれば正常とする。

BPSの観察項目と判定

1 (日本産婦人科医会研修ノートNo.78)

推奨されるBPSに基づく管理方法

Bps2 (日本産婦人科医会研修ノートNo.78)

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前期破水 (PROM)

2010年04月30日 | 周産期医学

premature rupture of the membrane

[定義] 陣痛発来(分娩開始)以前に卵膜の破綻をきたし、羊水が流出したもの。

[分類]
① preterm PROM:
 妊娠37週未満の前期破水
②term PROM:
 妊娠37週以降の前期破水

preterm PROM

[原因] 絨毛膜羊膜炎(CAM)、子宮頸管無力症など

[診断]
①腟鏡診:
 子宮口からの羊水流出、腟内の羊水貯留を視診する。
②腟内容のpH測定:
 BTB試験紙法、エムニケーター®
③羊水の生化学検査:
 α-フェトプロテイン(AFP)
 インスリン様成長因子結合蛋白-1(IGF/BP-1)
 癌胎児性フィブロネクチン(IFN)

[検査]
①子宮内感染徴候の把握:
 血算、CRP
②羊水・頸管分泌物細菌培養
③胎児心拍数陣痛図(CTG):
 変動一過性徐脈が出現しやすい
④超音波診断法:
 羊水量減少、児体重推定

[管理]
①抗菌剤投与
②胎児の成熟が認められる場合:
 ⇒陣痛待機。24時間以上陣痛開始しない場合は陣痛誘発。
③子宮内感染、胎児機能不全の場合:
  ⇒児を娩出。児が未熟の場合は帝王切開。
④それ以外の場合:
 安静、子宮収縮抑制剤投与にて妊娠継続を期待する。

[問題点]
1.児の未熟性:
 ①呼吸窮迫症候群(RDS)
 ②頭蓋内出血
2.子宮内感染の影響:
 ①髄膜炎
 ②敗血症
3.羊水過少症の影響:
 ①胎児機能不全(NRFS)
 ②胎児肺低形成
 ③関節拘縮


助産師と超音波検査を担当する臨床検査技師による妊婦健診の導入効果(第2報):第62回日本産科婦人科学

2010年04月27日 | 飯田下伊那地域の産科問題

第62回日本産科婦人科学会学術講演会、一般演題(ポスターセッション)、2010年4月25日、於東京国際フォーラム

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病気がみえる vol.10 産科 第2版

2010年04月24日 | 周産期医学

臨床実習に来る医学生たちがよく持ってます。産科は文章だけだと理解しにくいようですが、この本は写真やイラストが多く、非常に分かりやすいです。また、「妊娠高血圧症候群」や「胎児機能不全」など、産科の用語は最近数年間だけでも大幅に変更されました。この病気がみえるシリーズ産科の場合でも、第2版では第1版と比べて大幅に内容が改訂されました。この本の値段は3465円と比較的安いですから、旧版を持っている人も新しい版の本を買って勉強した方がいいと思います。医学生や助産専攻の看護学生だけではなく、現役の産科医、助産師などにも十分に役立つ内容だと思います。

Obstrics_3

http://www.medicmedia.com/byomie/byomie/vol10.html

病気がみえる vol.10 産科 第2版、編集:医療情報科学研究所、発行:メディックメディア、定価:3465円(本体3300円+税5%)、368頁、2009年4月14日第2版発行


胎児発育不全(FGR)

2010年04月22日 | 周産期医学
fetal growth restriction (FGR)
[概念] 本来のFGRとは、胎児が何らかの理由で「本来発育すべき大きさ」に育ってないことである。しかしながら、個々の胎児の「本来発育すべき大きさ」を知る方法がないため、妊娠中の胎児推定体重が、該当週数の一般的な胎児体重と比較して明らかに小さい場合をFGRと称している。
【FGRの診断基準】 胎児体重基準値の-1.5SD値以下を当面の目安とし、その他の所見(羊水過少の有無、胎児腹囲など)や、再検による経時的変化の検討から、総合的にFGRの臨床診断を行うことを勧める。(産婦人科診療ガイドライン・産科編2011)

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産婦人科診療ガイドライン・産科編2011
CQ309 胎児発育不全(FGR)のスクリーニングは?
Answer
1. FGRのスクリーニングのため、健診ごとに子宮底長を測定する。(C)
2. 妊婦全例に対して、妊婦30週頃までには超音波による胎児計測を行い、必要に応じて再検する。(B)
3. FGRの危険因子(表)を有する妊婦では、危険因子を除去するよう指導し、より慎重な胎児発育評価を行う。(C)
4. FGRの診断には、出生時体重基準曲線ではなく、胎児体重基準値を用い、-1.5SD値以下を診断の目安とする。そのほか胎児腹囲などの所見、あるいは再検による経時的変化の検討から、総合的にFGRの臨床診断を行う。

(表)FGRの危険因子・ 内科的合併症: 高血圧、糖尿病、腎疾患、炎症性腸疾患、抗リン脂質抗体症候群、膠原病、心疾患、など・ 生活習慣: 喫煙、アルコール・大量のカフェインの摂取など・ その他: light for gestational age(LGA)児分娩既往、妊娠前のやせ、妊娠中の体重増加不良、など

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胎児体重の妊娠週数ごとの標準値
Hyo13

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子宮内胎児発育曲線EFWによる基準値(実線±2.0SD、破線±1.5SD)
Efw

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標準化された胎児体重推定式(日本超音波医学会)
EFW=1.07 x BPD3 + 0.30 x AC2 x FL
BPDの測定方法・測定断面:胎児頭部の正中線エコーが中央に描出され、透明中隔腔と四丘体槽が描出される断面・測定方法:探触子に近い頭蓋骨外側から対側の頭蓋骨内側までの距離を計測
ACの測定方法・測定断面:胎児の腹部大動脈に直交する断面で、胎児の腹壁から脊椎までの距離の前方1/3から1/4の部位に肝内臍静脈および胃泡が描出される断面・測定方法:エリプス法による上記断面の外周をACとする
FLの測定方法・測定断面:大腿骨の長軸が最も長く、両端の骨端部まで描出される断面・測定方法:大腿骨化骨部分両端のエコーの中央から中央を計測する

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子宮底長に関してFGRスクリーニングとしての有用性を疑問視する意見もある。毎回超音波検査を実施する場合には、子宮底長計測は省略できる。

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産婦人科診療ガイドライン・産科編2011
CQ310 胎児発育不全(FGR)の取り扱いは?
Answer
1. 以下の検査項目を参考に、原因を検索する。・ リスク因子に関する再確認(CQ309参照)(B)・ 胎児形態異常・胎盤臍帯異常の精査(超音波など)(B)・ 妊娠高血圧症候群関連検査(血圧、蛋白尿、各種血液検査など)(C)・ その他母体疾患(糖尿病、甲状腺機能異常、抗リン脂質抗体症候群など)に関する検査(C)・ 先天感染異常診断のための母体血清学的検査(C)
2. 複数の形態異常、当該疾患に特徴的な形態異常、および高度FGRを認める場合には、染色体異常も疑う。染色体検査については妊婦の意志を尊重する。(B)
3. 分娩時期の決定には、以下の検査を必要に応じて行い、その結果を参考にする。・ NST(non-stress test)、CST(contraction stress test)、BPP(biophysical profile)(B)・ 超音波パルスDoppler法による胎児臍帯動脈血流測定など(B)・ 超音波による胎児計測(推定体重や頭部発育)の推移(C)
4. 分娩中は分娩監視装置を用い、連続的胎児心拍数モニタリングを行う。(B)

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FGRの分類
①均衡型(symmetrical type) 発育不全型・妊娠初期から発育が障害されるため、均整のとれた発育障害となる・染色体異常、胎内感染、胎児奇形 など・頻度:20~30%、児の予後は不良
②不均衡型(asymmetrical type) 胎児栄養失調型・胎盤血流障害に起因した栄養障害によって生じる・血流再配分が生じる結果、頭囲の発育は正常範囲にあるが躯幹の小さい不均衡な発育を示す・妊娠後期で発症することが多い・胎盤梗塞、前置胎盤、臍帯付着異常、妊娠高血圧症候群、多胎、母体合併症妊娠、喫煙 など・頻度:70~80% 、児の予後は比較的良好

Fgr

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normal small
10パーセンタイル未満または-1.5SD未満であっても正常な胎児を、normal smallとよぶ。
基準より体重が少なくても超音波検査や染色体検査で異常所見を示さない場合、normal smallの可能性が高い。
母体が低身長の場合と高身長の場合とでは児の発育は異なるであろうと推測される。母体低身長例では、-1.5 SDを下回る可能性もあり、このような場合には、symmetrical type を呈する。

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FGRの子宮内管理に必要な胎児well-beingの評価方法
①胎児心拍数モニタリング:  26~28週では、胎児評価に対するコンセンサスは得られてない。この時期の未熟な胎児の場合には、accelerationが認められないことをもってnon-reassuring とは評価できない。
②超音波断層法:  推定体重、羊水量、胎児心拡大
③超音波パルスドプラ法:  臍帯動脈拡張期末期血流の途絶、逆流
臍帯動脈血流における拡張期の途絶・逆流の出現は、胎児胎盤循環不全を示唆する重要な所見である。
FGR例においてこれらの所見が認められた群の周産期死亡率は極めて高率であり、厳重な周産期管理を要する。

Zu007

Tozetsu

Fgr1

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asymmetrical type FGR 娩出時期の決定
①軽症例: CST・胎児心拍数モニタリングによる評価
②重症例:  
 ・不可逆的な状況に陥る前に娩出を決定することが重要である。
 ・2週間以上の頭囲発育停止例では娩出を考慮する。
 ・BPSによる評価を参考にすることができる。

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symmetrical type FGR 児娩出の時期や方法について
・妊娠初期の胎児感染や多発奇形による問題も絡み、必ずしも早期娩出や帝王切開によって予後の改善が期待できるとは限らない。
・児の状況によっては、救命が困難な場合もあり、このような場合には、帝王切開の回避もまた必要である。

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今年度の長野県内主要病院の卒後3年目の後期研修医採用状況

2010年04月21日 | 地域医療

・信州大付属病院 56人
(呼吸器・感染症科:2人、循環器科:4人、内科(2):8人、内科(3):3人、加齢総合診療科:0人、精神神経科:2人、小児科:6人、皮膚科:0人、放射線科:3人、外科(1):2人、外科(2):3人、整形外科:2人、脳神経外科:2人、歯科口腔外科:3人、泌尿器科:1人、眼科:2人、耳鼻咽喉科:1人、産科婦人科:5人、麻酔科蘇生科:2人、形成外科:1人、高度救命救急センター:3人、臨床検査部:1人)

・佐久総合病院 20人
・諏訪赤十字病院 4人
・諏訪中央病院 4人
・長野赤十字病院 4人
・相澤病院 3人
・伊那中央病院 3人
・長野市民病院 3人
・飯田市立病院 2人

医療タイムス社の調査、3月29日現在

****** 朝日新聞、長野、2010年2月13日

後期研修医焦点の医師確保 県新年度から

 県は新年度から、医学部卒業後3~5年目の「後期研修医」を一定以上抱える病院に、指導医の待遇を改善したり、研修環境を整備したりするための費用を支援する新規事業を始める。実質的な「戦力」である後期研修医を増やし、県内の医師不足緩和につなげるのが狙いだ。(長谷川美怜)

 同事業には、国の基金を充てる。予算は8千万円で、来年度以降4カ年で計3億2千万円を計上する。対象病院の基準は現在検討中だが、8病院程度を選ぶ予定という。

 卒業後1、2年目に複数の診療科を回る初期研修を終え、各診療科に分かれて専門的な知識や技術を学ぶ後期研修医は、病院内で「大変な戦力」(村井仁知事)となっている。信大地域医療推進学講座によると、県内では25病院で計約300人弱の後期研修医を受け入れており、研修環境の整備や、研修医の招致に必要な費用の助成によって、県内の後期研修医を更に増やすのが目的だ。

 また、これまで信大病院が中心となって県内各地の病院に医師を派遣していたが、2004年度の初期研修必修化に伴い研修先の病院を学生が自由に選べる仕組みができたため、信大病院では以前よりも研修医が減り、派遣できる余力がなくなってきた。このため、信大病院以外の病院間の連携を密にし、医師の派遣が他病院でもスムーズにできるよう、研修の共同実施などの取り組みも支援する。

 ただ、信大病院の医局が県内の各病院への実質的な人事権を持つ現在の仕組みに、他病院の派遣機能をどう組み合わせるか、具体的な見通しは立っていないのが実態だ。

 「後期研修医確保・養成支援」などの「医師確保対策」は、村井知事が県政の最重要課題に位置づける事業の一つ。新年度予算では、前年度比約2倍だった09年度(5億1827万円)とほぼ同額の5億1051万円を計上した。新年度から独立行政法人化される県立病院にかかわる予算(約5千万円)が含まれない。このため、実際には09年度予算より約4千万円多い計算になる。

 県内病院への医師の就職を仲介する「ドクターバンク事業」や、女性医師復職支援などの環境整備、研究資金貸与などの既存事業はほぼ継続する。8日の会見で、村井知事は「医師確保は限られた資源の取り合い。手を緩めた途端に持って行かれるので、やらざるを得ない」と話した。

 ただし、ある担当課職員は「環境整備は呼び水程度にしかならない」と限界を認める。村井知事も会見で「(医師増員のため)根本的な政策を国が改変し、医療費をもっと払う必要がある」との問題意識を示している。

(朝日新聞、長野、2010年2月13日)


臍帯異常

2010年04月21日 | 周産期医学

・臍帯の構造

臍帯内には、2本の臍動脈と1本の臍静脈があり、その間をWharton膠質が埋めている。

周囲は羊膜鞘で覆われている。

臍動脈:胎児側から胎盤側へ静脈血を運ぶ。

臍静脈:胎盤の絨毛間腔にて動脈血化された血液を胎児側に運ぶ。

Wharton膠質:血管を包みこみ、臍帯圧迫から血管を保護する。

Saitai

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・単一臍動脈

臍動脈の一次的無形成や二次的委縮によって生じるとされる。

全出産の約1%に認めるとされる。

胎児奇形(腎・泌尿器科系や心奇形)、染色体異常(18トリソミー)および子宮内胎児発育遅延の合併頻度が高い。

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・臍帯過捻転

臍帯の捻転が過剰となると血流障害、特に静脈のうっ血を生じやすく、子宮内胎児発育遅延や胎児死亡をきたすとされる。

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(日本産婦人科医会研修ノートNo.76より)

捻転のピッチ=L/R
捻転のピッチが2.0 未満の場合を過捻転とした。

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臍帯過捻転のために臍静脈に血流うっ滞が発生し、臍帯全体のコンプライアンスが低下して羊水中でループ状やアーチ状に緊張して見られる臍帯。
(日本産婦人科医会研修ノートNo.76より)

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・臍帯卵膜付着(velamentous insertion of the cord)

臍血管が卵膜に付着した場合、Wharton膠質が欠損しており、物理的圧迫により容易に血流障害を生じることから、子宮内胎児発育遅延や胎児死亡の危険性が高いとされる。

Photo

特に卵膜を走行する血管が内子宮口に存在するものを前置血管(vasa praevia)と呼び、分娩進行中に臍帯の血流障害や断裂を生じる危険性が高いことから、分娩は帝王切開術が行われる。

Zu76042

Zu76043
(日本産婦人科医会研修ノートNo.76より)


羊水異常

2010年04月18日 | 周産期医学

・羊水量の評価

羊水量は妊娠30~34 週頃が最も多く(約800 ml )、その後は満期まで減少し続け、さらに妊娠42週に近づくと急激に少なくなることがある。臨床上、超音波断層法で半定量的に計測し評価する。羊水量は個々の胎児で量的な差異があるので、胎児評価においてはその変化が重要である。

羊水深度法
羊水腔の最大垂直深度で表す。

羊水ポケット法
羊水腔に最大何cm の直径の円が描けるかで測定する。

Ampo
(日本産婦人科医会研修ノートNo.76)

 ①②の正常値:2~8cm

羊水インデックス(AFI = Amniotic Fluid Index)法
臍部を中心に子宮腔を4分割した空間を想定し、おのおのの腔における最大深度値の総和を求める。 ③の正常値:5~24cm

Afi
(日本産婦人科医会研修ノートNo.76)

・羊水過多症(polyhydramnios)

[定義] 羊水量が800mLを超える場合を羊水過多という。これに何らかの臨床的な自他覚症状を伴うものを羊水過多症という。

[症状] 腹部緊満感、呼吸困難、頻尿、悪心、嘔吐、下肢・外陰部の浮腫、静脈瘤、前期破水、分娩遷延、臍帯脱出、弛緩出血など

[頻度] 軽度で慢性のものは全妊娠の0.5%、治療を要する急性で高度なものは0.1%以下。

[診断] 経腹超音波検査にて、 羊水ポケット≧8cmもしくはAFI≧24cm (施設によってはAFI≧25cm)

[原因]
1. 胎児側原因
①胎児の奇形:脊椎破裂、無脳児、膀胱外反症
②静脈系の閉鎖または停滞:胎盤絨毛血管腫、臍帯血管の狭窄、胎児大動脈の狭窄、心疾患、肝硬変、胎児梅毒など
③胎児の食道または十二指腸の狭窄または閉鎖
④胎児の腫瘍:大網血管腫、腎肉腫
⑤一卵性双胎 ⑥胎児赤芽球症

2. 母体側原因: 母体の心、肺、肝、腎などの疾患、とくに糖尿病との関係が深い。

3. 特発性(原因不明):約60%を占める。

[治療]
①入院し安静をとる。
②原因を検索し、原因がわかればそれに応じた治療を行う。
③必要に応じて子宮収縮抑制薬を投与する。
④胎児の肺が成熟していれば分娩誘導をする。
⑤圧迫症状が強い場合、羊水穿刺・排液をすることもある。

[予後]
①母体に対する予後は良好。
時に、腎、心、肺の障害および腹水、胸水、感染、胎盤早期剥離、微弱陣痛、弛緩出血、ショックなどをみることがある。

②胎児への予後は一般に不良。
本症の胎児の約20%に先天性奇形があり、流早死産、臍帯脱出などをみることがあり、周産期死亡率は健常児の約2~7倍となる。

・羊水過少症(oligohydramnios)

[定義] 羊水量が100mL未満の場合を羊水過少とし、これに臨床的な自他覚症状が出たものを羊水過少症という。

[症状]
・子宮は小さい。
・胎児部分を明瞭に触知する。
・胎動を感じやすい。
・臍帯圧迫(変動一過性徐脈)
・強制胎位(関節拘縮)
・胎児の奇形が多い
・肺の低形成(胎児呼吸様運動ができない)
・羊膜索症候群(羊膜と胎児の癒着、奇形、四肢離断、内反足、四肢彎曲、脊椎彎曲、褥瘡など)

[原因] 胎児尿の産生障害や羊水腔からの羊水流出によって生じる。羊水過少の原因の約半数は前期破水とされる。

[診断] 経腹超音波検査にて、 羊水ポケット≦2cmもしくはAFI≦5cm

[原因]
①前期破水:
 妊娠早期に長期化すると胎児肺低形成の原因になる。
②過期妊娠:
 正期産の時期になると羊水量は減少し始める。胎児機能不全の原因となる。
④子宮内胎児発育遅延:
 循環血液量の再配分によって胎児腎血流量が減少し発症する。
④胎児腎尿路異常:
 典型例はPotter症候群と診断される(両側腎無形成、肺低形成、特徴的顔貌、四肢の骨形成異常)。

[管理]
①羊水量の経時的チェック
②胎児心拍モニタリング: 変動一過性徐脈(variable deceleration)などの出現に注意する。
③胎児呼吸様運動: 肺低形成をきたすことが予想される。
④人工羊水注入: 分娩時に変動一過性徐脈が頻発したら羊水腔に生理食塩水を注入する場合もある。

羊膜索症候群(amniotic band syndrome):
①羊水過少が早期に発症すると羊膜の一部は胎児に癒着し、これが伸びて紐状となることがある。
②これを羊膜索という。これが胎児の指趾などに巻きついて、これを離断することがある。
③本症が比較的遅く起こると、胎児の皮膚は乾燥してなめし革様になり、内反足、四肢彎曲、脊椎彎曲、褥瘡、皮膚欠損などをみる。


前置胎盤

2010年04月15日 | 周産期医学

placenta previa

[定義] 前置胎盤とは、「胎盤の一部または大部分が子宮下部(子宮峡)に付着し、内子宮口におよぶものをいう。内子宮口にかかる程度により、全・一部・辺縁の3種類に分類する。これは子宮口開大度とは無関係に診断の時点で決め、検査を反復した場合は最終診断による。なお、低置胎盤は含まない」と定義されている。
(日本産科婦人科学会用語委員会)

[発生頻度] 全分娩の0.5~1.0%とされる。
経産回数が多いほど発生率が高い。

[リスク因子]
①子宮内膜に炎症、瘢痕化などの損傷が生じ、子宮体部に着床できない:  帝王切開の既往、人工妊娠中絶や子宮筋腫核出術の既往、経産婦(特に多産婦)

②胎盤面積が広い: 多胎妊娠、胎盤形態異常。

③その他:  喫煙妊婦、高年妊娠、前置胎盤の既往。

[症状]
①初回の出血(警告出血:alarm bleeding)は突発的で少量である。妊娠34週で最も多い。

②無痛性子宮出血を繰り返す。(ときに陣痛様の下腹部痛を認めることもある。)

③大量の外出血をきたす。⇒緊急帝王切開

[診断] 無痛性の出血があればまず前置胎盤を疑い超音波検査を施行する。胎盤が内子宮口に達するか、これを覆っていれば前置胎盤と診断する。確定診断には経腟超音波を用いることが望ましい。

前置胎盤の疑いがあれば内診は禁忌である。

妊娠前半期には前置胎盤と診断することはできない。前置胎盤の診断時期は、子宮峡部が子宮腔の一部になる妊娠22週以降にすべきであるとされている。妊娠30週以降に前置胎盤と診断された症例では最終診断も変わらないことが多い。前置胎盤は妊娠32週頃までに診断しておくことが望ましい。

[前置胎盤の超音波診断]

Plapre1
(日本産婦人科医会・研修ノートNo.76より)

Plapre2
(日本産婦人科医会・研修ノートNo.76より)

[合併症]
①胎位異常、②癒着胎盤、③治療的早産
(羊水過多は合併しない)

[予後]
①母体予後
1) 前置胎盤の帝王切開では、術中・術後の出血量が多い。
2) 癒着前置胎盤は術中に止血困難な多量出血をきたすため、母体が最も危険な状態にいたる。この場合、子宮摘出を躊躇してはいけない。

②児の予後
多量出血により早期に帝王切開になることがある。このため早産児、低出生体重児、新生児仮死が多い。

[妊娠管理・治療]
①入院・安静
28~30週以降は出血がなくても入院管理とする。

②対症療法
1) 子宮収縮抑制剤投与:
 妊娠34~35週までは子宮収縮抑制を行う。
2) 感染徴候があれば、抗菌剤の投与を行う。
3) 出血が少量で、妊娠34週未満であれば入院管理(安静・止血剤投与)とするが、多量出血や胎児機能不全が発生すれば、ただちに帝王切開とする。妊娠36週以降であれば、ただちに帝王切開とする。
4) 胎児が成熟したら、帝王切開分娩とする。帝王切開の時期は可能な限り妊娠37週を目標とする。
5) 分娩時に本症と診断された場合はただちに帝王切開とする。

[前置胎盤症例の帝王切開] 
前置胎盤症例の予定帝王切開は、輸血(自己血あるいは同種血)ができる体制を整えて行う。術中に出血コントロールが困難な場合には子宮摘出も考慮する。

帝王切開既往回数が0回、1回、2回、3回、4回以上である前置胎盤患者の癒着胎盤合併率はそれぞれ、1~5%、14%、23%、35%、50%と報告されている。

現時点では、帝王切開既往患者が前置胎盤を合併した場合、癒着胎盤の存在を想定して管理・分娩にあたることが重要であろう。

参照記事:

前置胎盤、問題と解答

癒着胎盤


早産、切迫早産、絨毛膜羊膜炎

2010年04月14日 | 周産期医学

・早産 preterm delivery

[定義] 妊娠22週以降から37週未満の分娩。

[頻度] わが国における早産率は約5%であり、その多くは妊娠32週以降に発生する。早産の発生頻度は近年増加傾向にある。

早産児は未熟で胎外の生活に十分な適応性がなく、多彩な合併症が出現する。早産児では正期産児と比べ、周産期死亡率や死産率が高い。

早産児(preterm infant)

a. 低出生体重児 (low birth weight infant)
 出生体重:2500g未満

b. 極低出生体重児 (very low birth weight infant)
 出生体重:1500g未満

c. 超低出生体重児 (edtremely low birth weight infant)
 出生体重:1000g未満

・早産未熟児の3大合併症
①呼吸窮迫症候群(RDS)
②頭蓋内出血
③子宮内感染(髄膜炎、敗血症)

・早産の分類
①自然早産:
 様々な原因により妊娠の継続が不可能となり自然に分娩に至る。

②人工早産:
 母児救命のため、ターミネーション(分娩誘発または帝王切開)し、人為的に出産させる。

・自然早産の原因
① 既往産科歴:
前回妊娠での早産、円錐切除術の既往

②現症:
細菌性腟症、絨毛膜羊膜炎、頸管無力症、多胎妊娠、羊水過多症、常位胎盤早期剥離、前置胎盤、重篤な妊娠合併症、高年出産

③生活習慣:
ヘビースモーカー、 過激なダイエットによるやせ

・人工早産の原因
①母体合併症:
前期破水、
重篤な妊娠高血圧症候群、
常位胎盤早期剥離、
前置胎盤、
重篤な妊娠合併症

②胎児合併症:
胎児機能不全(NRFS)、
子宮内胎児発育遅延(IUGR)

・早産の管理
1. 呼吸窮迫症候群(RDS)の予防
 成熟度を判定(L/S比、推定体重)し、未成熟なら待機療法とする。

2.頭蓋内出血の予防
 ①骨盤位は帝王切開とする。
 ②頭位の場合も、推定体重≦1500g、妊娠28週未満では帝王切開とする。

3.子宮内感染の予防
  抗生物質を投与する。

・切迫早産
threatened preterm delivery

[定義] 妊娠22週以降37週未満の時期に、規則的な子宮収縮と頸管熟化がみられ、早産の危険が高い状態。

[症状] 下腹部痛、腹部緊満感、規則的な子宮収縮、少量の性器出血、水様帯下など

切迫早産の原因の大半は絨毛膜羊膜炎(CAM)である。

・絨毛膜羊膜炎(CAM)
chorioamnionitis

[定義] 胎児付属物である卵膜(絨毛膜、羊膜)に細菌が感染して生じる炎症性疾患。

CAMが進行すると、頸管熟化、前期破水、早発陣痛が引き起こされ、早産にいたる。

CAMは早産や前期破水の主要な原因であり、極低出生体重児例の70%にCAMが関与しているとされる。

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顕性(臨床的)CAMの診断基準
(Lenckl et al., 1994)

①母体の発熱(≧38℃)がある場合、以下のうち1項目以上あること
・ 母体の頻脈(≧100bpm)
・ 子宮の圧迫
・ 腟分泌物・羊水の悪臭
・ 白血球増多(≧1500/??)

②母体の発熱がない場合、上記4項目すべてを満たすこと
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顕性CAMでは、約半数が24時間以内に早産に至り、約90%は1週間以内に早産に至る。

・CMのスクリーニング

①細菌性腟症
・ 多くを占める菌種:バクテロイデス属、ガルドネラ・バジナリス、モビルンカス属、マイコプラズマ・ホミニス、B群溶連菌(GBS)など
・ 腟分泌物pH:弱酸性(pH4.5以上)
・ 帯下の増加、魚の生臭いにおい(アミン臭)

②早産マーカー
・ 顆粒球エラスターゼ(子宮頸管粘液)
・ 癌胎児性フィブロネクチン(腟分泌物)

無症状で未だ子宮内感染のない不顕性CAMの時点で早期診断・早期治療を行うことが、早産の予防にとって最も重要である。

・切迫早産の子宮頸管所見:
(経腟超音波検査

①内子宮口の開大
②頸管長の短縮
(妊娠28週未満で30mm未満、特に妊娠24週未満で頸管長が25mm以下であれば早産のリスクが高い。)

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(画像はInternet hospital. netより)

cf. 正常妊婦の子宮頸管長:
 
妊娠の経過に従って徐々に短縮していく。
 妊娠30週未満では35~40mm
 妊娠32~40週では25~32mm

Normal
(画像は日本産婦人科医会研修ノートNo.76より)

・早産指数(tocolysis index)

Photo

・切迫早産の診断

①臨床症状:
 腹部緊満感、背部痛、血性帯下、不正出血、粘液性帯下の増量

②早産指数(Baumgarten、1977)

③胎児心拍数陣痛図(CTG):
 規則的な子宮収縮

④経腟超音波所見:
 内子宮口の開大、
 頸管長の短縮

・切迫早産管理の基本指針

1.未破水の場合:
 子宮収縮を抑制して、可能な限り妊娠期間の延長をはかる。

2.破水例の場合:
 ①児の肺成熟が未熟で感染徴候がなければ、可能な限り待機する。
 ②感染徴候が認められたら、NICU(新生児集中治療部)などの出生後の条件を整えてターミネーション(妊娠中断)を考慮する。

・切迫早産の薬物治療

①塩酸リトドリン(内服、点滴静注):
子宮収縮による分娩の進行を抑制する。

②硫酸マグネシウム(点滴静注):
塩酸リトドリンが無効の場合に使用する。

③抗菌薬の投与、5%ポビドンヨードで腟内洗浄:
破水後の感染を予防する。

④ウリナスタチン(腟坐剤):
エラスターゼ活性を抑制し、頸管熟化を防ぎ、破水を予防する。(保険適用なし)

⑤副腎皮質ステロイド(筋注):
児の肺成熟を促し、出生後の呼吸窮迫症候群を予防する。子宮内感染がない場合に、妊娠23週から32週未満まで使用する。


お花見

2010年04月10日 | 南信州観光名所めぐり

本日は、桜の名所で有名な高森町の瑠璃寺(るりじ)に家族でお花見にでかけました。ちょうど桜が満開で見頃でした。

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枝いっぱいに満開の花が咲く瑠璃寺の枝垂(しだれ)桜。鎌倉幕府を開いた源頼朝公が寄進した桜の子孫と伝えられています。枝垂桜の根元の幹回りは約6.5メートルで、地面から数十センチのところにまで花をつけた枝が垂れ下がってます。約二百年の周期で枯れては根元から再び新芽が出るといい、現在は4代目と言われています。

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瑠璃寺からの帰途、飯田市座光寺の麻績(おみ)の里の舞台桜にも立ち寄りました。五弁から十弁の花が交じり合って咲くことから「半八重枝垂れ紅彼岸桜」とも呼ばれています。 雄しべが花弁に変わるという珍しい品種で、樹齢は約三百年、樹高約12メートルです。こちらの桜もちょうど満開で見頃した。

Butaizakura 

Butaizakura1


流産

2010年04月04日 | 周産期医学

abortion

[定義] 流産とは「妊娠22週未満の妊娠中絶」と定義される。

[頻度] 自然流産の発生頻度は約15%とされ、その多くが妊娠12週未満に発生する。母体の加齢に伴い頻度が高くなり、40歳以上での妊娠では約25%に生じるとされる。

[発症時期による分類]
①早期流産(妊娠12週未満)
自然流産の90%以上を占める。原因の50~60%は染色体異常である。

②後期流産(妊娠12週以後~妊娠22週未満)
絨毛膜羊膜炎、子宮奇形、子宮筋腫、子宮頸管無力症などの母体側の異常によって生じることが多い。死産として扱われる。

[臨床分類]
①切迫流産(threatened abortion)
[定義]少量の出血や下腹部痛を伴う流産への移行状態であるが、頸管が未開大で、超音波検査で胎芽(胎児)、胎児心拍が認められ、正常妊娠への回復が可能な状態である。絨毛膜下血腫が認められることもある。
[治療](1) 安静、臥床。
 (2) 妊娠16週以後で子宮収縮を認める場合、子宮収縮抑制剤(塩酸リトドリン)を投与する。

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(日本産婦人科医会研修ノートNo.74)

②進行流産(inevitable abortion)
[定義]流産が開始し、陣痛様下腹痛、出血が強く、子宮頸管が開大して、保存的治療の対象にならない状態。
[治療]妊娠継続は不可能であるため、子宮内容除去術(D&C)を行う。完全流産であれば治療は不要である。

③完全流産(complete abortion)
[定義]胎芽あるいは胎児とその付属物が完全に子宮外に排出された状態。超音波検査で胎嚢の消失を認める。
[治療]自然に子宮収縮が起こり復古が進むので治療は不要である。

④不全流産(incomplete abortion)
[定義]胎芽あるいは胎児と付属物が完全に排出されず、一部が子宮内に残存している状態。出血、下腹部痛が持続する。
[治療]子宮内容除去術。子宮内容物が自然に排出されるのを待つ待機療法が行われる場合もある。

⑤稽留流産(missed abortion)
[定義]妊娠22週未満に胎芽あるいは胎児が死亡後、症状がなく子宮内に停滞している状態。
 稽留流産のうち、胎嚢が25mm以上に大きくなっても、胎児心拍を認めず、1週間後の超音波検査でも胎嚢の発育を認めないものを枯死卵(blighted ovum)という。
[治療]子宮内容除去術。

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(日本産婦人科医会研修ノートNo.74)

Zu74_020
(日本産婦人科医会研修ノートNo.74)

⑥化学流産(chemical abortion)
[定義]尿中hCG測定などで妊娠と診断されながらも、超音波検査にて胎嚢が確認される時期より前に流産(月経様出血)になってしまうもの。
 近年、市販の妊娠検査薬の感度が非常に高くなり、従来は「流産」として意識されなかったものまで「流産」として認識されるようになった。化学流産は、特に妊娠を気にしている不妊患者が気付くことが多い。

⑦感染流産(infectious abortion)
[定義]流産経過中に子宮内感染が生じた状態。この状態を放置すれば、敗血症、DICなどの重篤な合併症を引き起こすため、早急に治療が必要となる。
[治療]抗菌剤投与、子宮内容除去術。

◎死胎児症候群 dead fetus syndrome:
 稽留流産や双胎一児死亡などの場合、死亡児から分泌される組織因子が母体内に流入、血液凝固が亢進し、その結果、母体にDICを引き起こすことがある。これを死胎児症候群という。


新年度入り

2010年04月03日 | 飯田下伊那地域の産科問題

4月1日付けで当院に着任した新入医師は(初期研修医の10人を含み)計22人で、見慣れない多くの若い先生方が院内を元気に闊歩し、まるで急に別世界の病院に迷い込んでしまったような雰囲気です。

産婦人科にも2人の新進気鋭の医師を迎え、助産師も総勢37人となって、我々の診療体制も新たな局面に突入しつつあります。分娩予約件数は毎月100件を越すようになり、婦人科手術の予約も数カ月先まで埋まってます。予定手術の合間に、帝王切開や子宮外妊娠手術などの緊急手術も多く実施してます。

スタッフの頭数によって、診療の規模は自ずと制限されます。スタッフの頭数が減れば、それに応じて診療規模の制限を余儀なくされるのは当然です。当院産婦人科の常勤医師数は、ここ数年間、一進一退を繰り返し、非常に厳しい状況下にあります。今後も厳しい状況が続き、繰り返し存亡の危機に直面することも予想されますが、その都度みんなで力を合わせて臨機応変に対応し、何とかして必要最低限のスタッフの頭数を維持し、地域で必要とされる診療の規模を維持していきたいと考えています。