コメント(私見):
常位胎盤早期剥離(早剥)は、『正常位置に付着している胎盤が、妊娠後半期または分娩経過中に、胎児娩出前に子宮壁から部分的または完全に剥離し、ときに重篤な臨床像を呈する症候群』と定義されます。早剥は全妊娠の0.44~1.33%程度に発症すると言われてます。癒着胎盤のようなまれな疾患ではなく、発生頻度は比較的多い疾患です。
早剥のケースでは、来院時にすでに胎児死亡となっている場合がめずらしくありません。発症の予知がきわめて困難で、妊婦であれば誰にでもいつでも発症する可能性があり、母体死亡や児の周産期死亡に密接につながる緊急性のきわめて高い疾患です。重症例では、母体死亡率:4~10%、児死亡率:30~50%と言われています。この疾患で児が助かるかどうかは全くの偶発性に依存し、治療の主な目的は母体の救命にあります。
参考:常位胎盤早期剥離について
早剥で母児死亡 刑事介入 【産科医療のこれから】
我が国の妊産婦死亡率の推移を見ると、1950年は10万分娩に対して176でしたが、2000年には6.3となりました。また、周産期死亡率(早期新生児死亡率と妊娠28週以後の死産率との合計)の推移を見ても、1950年は出生1,000に対して46.6でしたが、2000年には3.8となりました。これらのデータから、この五十年間で分娩の安全性が著しく向上したことがわかります。しかし、今でも実際には、千人に4人の赤ちゃんが、また1万人に1人の妊婦さんがお産で亡くなっているわけですから、現在の医療水準であっても、必ずしも一般に信じられているように『お産は母児ともに安全』とは限りません。
参考:日本の周産期死亡率:過去、現在、未来
****** 朝日新聞、静岡、2008年5月3日
妊婦と胎児死亡/静岡厚生病院
静岡市葵区北番町の静岡厚生病院(玉内登志雄院長)は2日、陣痛を訴えていた女性(24)が大量出血し、妊娠40週の胎児とともに死亡する医療事故があったと発表した。同病院は静岡中央署に異状死として届け出た。同署は司法解剖して死因について調べている。
同病院によると、女性は4月27日午前0時ごろ、同病院に電話で陣痛を訴えた。対応した助産師の判断で自宅待機するように言われたが、6時間後に再度電話して、午前7時ごろに入院。午前8時10分ごろ、産婦人科医が超音波検査で胎児の心拍が停止しているのと、妊娠中に胎盤がはがれる「胎盤早期はく離」の症状を確認した。
病院は午前9時25分ごろ、帝王切開で胎児を取り出したが、すでに死亡していた。女性も手術中に大量に出血し、血圧が低下、午後1時40分に亡くなった。病院は同日、医師法に基づいて静岡中央署に届け出た。
病院によると、遺族は「もっと早く入院させてくれていたら」と話したという。遺族も同日、同署に事故の申告をした。
玉内院長は記者会見で「母子ともに亡くなった結果を招いたことに対し、遺族におわび申し上げます」と謝罪。「早期に入院していれば症状を発見できた可能性もある」と述べつつも、「やるべきことはやっており、医療過誤との認識はない」と話した。
(朝日新聞、静岡、2008年5月3日)
****** 毎日新聞、静岡、2008年5月3日
静岡厚生病院:妊婦と胎児が死亡
遺族は「医療ミス」
静岡厚生病院(静岡市葵区、玉内登志雄院長、265床)は2日、帝王切開の手術を受けた同市の24歳の妊婦と10カ月の胎児が死亡したと発表した。遺族は「病院がすぐに入院させなかったため措置が遅れた」などとして、静岡中央署に医療ミスがあったと届け出た。病院側も異状死として届け出ており、同署は司法解剖を行って詳しい死因を調べている。
病院側の説明によると、妊婦は出産予定日を3日過ぎた4月27日午前0時ごろに「(26日午後)10時ごろから陣痛が始まった」と病院に連絡した。症状を聞いた助産師が自宅待機を指示。27日午前7時ごろ入院したが、検査で、胎盤が分べん前に子宮からはがれ、酸素などの供給が止まる「胎盤早期はく離」と診断され、担当医が緊急に帝王切開手術を行った。
胎児を取り出して死亡を確認し、妊婦の縫合を終えた直後に、今度は妊婦の血圧が降下し、けいれんなどが起きた。輸血して手術を終えたが、午後1時40分に死亡した。妊婦の死因は不明という。
胎盤早期はく離は、200~300人に1人の割合で起きる疾患で、病院側は「事前予測は不可能」と説明。玉内院長は会見で、「自宅待機は本人が納得していた。妊婦への輸血量も十分で、死因に直結する医療過誤はなかったと考えている」と述べた。
一方、遺族は「妊婦と胎児が亡くなった原因と経緯を明らかにして、きちんと説明してもらいたい」と話している。
同病院は、1933年設立。妊婦と胎児双方が死亡する事故は最近20年では発生していないという。【松久英子、望月和美】
(毎日新聞、静岡、2008年5月3日)
****** 読売新聞、静岡、2008年5月3日
病院 「急変予測できず」
妊婦・胎児死亡 遺族は提訴検討
静岡厚生病院(静岡市葵区北番町、265床)は2日、同病院で4月27日に手術を受けた静岡市駿河区の妊婦(24)と10か月の胎児が死亡する医療事故があったと発表した。玉内登志雄院長は「典型症状ではなく、急激な悪化を予測できなかった」と述べ、想定外の事態だったことを強調したが、遺族は病院の対応に不信感を募らせている。
同病院によると、妊婦は初めての妊娠で、昨年9月から同病院に通院。妊婦は、死亡する約14時間前の27日未明、陣痛が出たため同病院に電話したが、応対した看護師や助産師が「痛みは強くない」と判断、いったん自宅待機となった。
同日早朝、再び陣痛が強くなり入院。胎児の心音が確認できず、呼び出された産婦人科医が、分娩前に胎盤が子宮内ではがれる「胎盤早期剥離(はくり)」と診断、帝王切開したが、胎児は死亡していた。手術後、妊婦も血圧が急激に低下し、大量出血を起こして死亡した。
胎盤早期剥離は妊婦の1%程度にみられ、胎児に酸素が供給されないため、胎児死亡率は30~50%と極めて高い。妊婦も出血を起こすことが多いが、死亡率は一般に10%未満で、妊婦、胎児とも死亡するのは「妊娠5000~1万例中に1例」(玉内院長)とまれだという。玉内院長は「胎盤早期剥離は予防できず、早期発見するしかない」と言うが、「死亡2日前の診察では異常は見られなかった」ともしている。
妊婦の父親(55)は読売新聞の取材に、「事故当日、病院は『出血はさほどなく、(死亡の)理由はわからない』と言っていたのに。今の時代に、母子ともに死亡するなんて信じられない。提訴も検討したい」と話した。
(読売新聞、静岡、2008年5月3日)
****** 静岡新聞、2008年5月2日
大量出血の妊婦死亡、胎児も助からず
静岡の病院
静岡厚生病院(静岡市葵区北番町、玉内登志雄院長)は2日、陣痛を訴えて来院した静岡市内の妊婦(24)が大量に出血し、死亡する医療事故があったと発表した。胎児も助からなかった。病院と遺族はそれぞれ、静岡中央署に届け出た。同署は司法解剖するなどして過失の有無について任意捜査を始めた。
同病院によると、妊婦は分娩(ぶんべん)予定日を3日すぎた4月27日午前0時ごろ、陣痛が始まったと同病院に電話連絡。対応した看護師、助産師は問題がないと判断し、自宅待機を伝えた。妊婦は約6時間後に再度電話で訴えて来院し、同日午前8時すぎに医師が診察したところ、既に胎児の心拍は無かった。
母体は、胎児がまだ子宮内にいるのに胎盤がはがれてしまう症状「胎盤早期剥離(はくり)」が確認された。緊急帝王切開を行い、子宮内から死亡した胎児を取り出した。母体は3リットルを超える大量の出血があり、輸血を含む5リットル以上の輸液で対処したが、けいれんや意識レベルの低下が起こり、妊婦は同日午後1時40分ごろ死亡した。
妊婦は昨年9月に同病院を初めて受診し、死亡2日前の4月25日の診察では母子ともに異常はなかったという。
玉内院長は「母子ともに亡くなった結果について遺族におわび申し上げます」と述べた上で、「現段階では医療過誤との認識はない」と話した。
病院の届け出を受けた静岡中央署は病院関係者から任意で事情を聴き、カルテなどの提出を受けた。
胎盤早期剥離 通常、胎児が生まれた後で胎盤が子宮壁からはがれるが、胎児がまだ子宮内にいるにもかかわらず胎盤がはがれてしまう状態。胎児への酸素供給が止まってしまうため、緊急に帝王切開して胎児を取り出す必要がある。重症だと母体は大量出血に見舞われ、生命の危険に及ぶ。妊娠中毒症患者らに発症の可能性が高いと指摘されているが、正常な経過をたどっていた妊婦が突然発症するケースもあり、予測は難しいという。
(静岡新聞、2008年5月2日)
****** 読売新聞、2008年5月2日
「大量出血」帝王切開で母子死亡…静岡厚生病院
静岡市葵区北番町の静岡厚生病院(265床)は2日、同病院で帝王切開手術を受けた同市の妊婦(24)と10か月の胎児が死亡する医療事故が起きたと発表した。
同病院は、静岡中央署に異状死の届け出を行った。
記者会見した玉内登志雄院長によると、妊婦は出産予定日を3日過ぎた4月27日朝に産気づき、診察を受けるなどしていた同病院に来た。胎盤が分娩前にはがれる胎盤早期剥離と診断され、医師が帝王切開したが、胎児は死亡。その後、妊婦も大量出血を起こし、同日午後に死亡した。
胎盤早期剥離を起こすと、胎児は低酸素状態になり、妊婦も大量出血で生命に危険が及ぶことがある。胎盤早期剥離は妊婦の1%弱に起きるが、双方が死亡するケースはまれで、同病院ではここ20年間起きていないという。玉内院長は「医療行為に、死因に直結する問題はなかったと考えている。事態の重大性を考え、公表した」と述べた。
(読売新聞、2008年5月2日)
****** 共同通信、2008年5月2日
帝王切開受けた妊婦死亡 静岡県警が司法解剖
静岡厚生病院(静岡市葵区)は2日、陣痛を訴え入院した静岡市内の妊婦(24)が先月27日、帝王切開の手術後に死亡したと発表した。同病院では「死亡に直結する医療ミスはなかった」としているが、2日までに異状死として県警に届け出た。県警が司法解剖して死因を調べている。
病院によると、妊婦は2007年9月に初診を受け、妊娠40週だった先月27日朝、陣痛を訴え入院。医師の診察で胎児の心拍がなく、胎盤のはく離が起きていたため、同日午前9時すぎ、帝王切開手術を行い、胎児が死亡しているのを確認した。妊婦は手術中にけいれんを起こし、意識レベルが低下。手術後の同日午後1時40分ごろ、死亡した。
玉内登志雄(たまうち・としお)院長は「患者が亡くなったことを遺族におわびしたい」としている。
(共同通信、2008年5月2日)