ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

胎児の位置に関する用語

2013年02月23日 | 周産期医学

日本と英米諸外国とでは胎児の位置に関する用語の使い方に相違があり、日本では、胎児の位置は、胎位、胎向、胎勢で表現されるのに対して、英米諸国では、胎児の位置は、Lie、Presentation、Positionで表現されます。産科関係の英語文献を読む際には、英米諸国での用語の用い方を理解しておく必要があります。

****** 日本の定義(日独式)

胎位
胎位とは胎児縦軸と子宮縦軸の位置関係をいう。両者の縦軸が一致するものを縦位といい、このうち児頭が母体の骨盤に向かうものを頭位、胎児の骨盤端が母体の骨盤に向かうものを骨盤位という。胎児縦軸と子宮縦軸が直角に交わるものを横位といい、斜めに交わるものを斜位と呼ぶ。臨床的に横位と斜位の区別は必ずしも明確でない。妊娠末期の胎位は約95%が頭位である。頭位以外は胎位異常とされる。

胎向
胎向とは胎児の母体左右・前後側に対する向きをいい、頭位と骨盤位の場合は児背の向きで表現し、横位の場合は児頭のある方向で表現する。頭位と骨盤位の場合は、児背が母体の左側を向くものを第1胎向、右側を向くものを第2胎向、児背が母体の前方に傾くものを第1分類、後方に傾くものを第2分類とする。横位の場合は、児頭が母体の左側にあるものを第1横位、右側にあるものを第2横位とする。

胎勢
胎勢とは胎児各部分の位置的相互関係(すなわち胎児の姿勢)をいう。頭位の場合の胎勢には屈位と反屈位とがある。
?屈位(正常の胎勢): 児の脊柱が軽く前彎し、頤部が胸壁に近く、後頭が先進し、肘関節、股関節、膝関節で四肢が屈曲する姿勢。
?反屈位(異常の胎勢): 児の頤部が次第に胸壁を離れ、児頭や脊柱が伸展・後彎する姿勢。先進部により前頭位(経度反屈)、額位(中等度反屈)、顔位(強度反屈)に分けられる。

****** 英米など諸外国の定義(英米式)

Lie
Lieとは、母体と胎児の長軸における位置関係と定義され、縦位横位斜位とに分類される。縦位は頭位と骨盤位に分類される。

Presentation
Presentationとは、産道における胎児の先進部のことをいう。頭位(cephalic presentation)骨盤位(breech presentation)肩甲位(shoulder presentation)などがある。

Position
Positionとは、胎児先進部の基準点と母体骨盤との関係を示す。例えば、頭位の基準点は後頭部(occiput)で、児の後頭部が母の恥骨結合の方にある時、その児は OA(occiput anterior) である。児の後頭部が母体の背面を向いている時、児はOP(occiput posterior) で、その中間は、LOA/ROALOT/ROTLOP/ROP となる。 児の後頭部が母体の背面を向いている時、日本においては先進部を考慮して後方後頭位や前方前頭位という表現を使うが、英米諸国では先進部にかかわりなくOP と表現する。

Oa
OA(direct occiput anterior)

Loa
LOA(left occipit anterior)

Lot
LOT(left occipit transverse)

Lop
LOP(left occipit posterior)

Op
OP(direct occiput posterior)


常位胎盤早期剥離

2013年02月14日 | 周産期医学

(じょういたいばんそうきはくり)

広報いいだ平成25年2月1日号に掲載:

常位胎盤早期剥離とは、妊娠中まだ胎児が子宮の中にいる間に、正常な位置にある胎盤が子宮の壁から剥がれることをいいます。胎児は胎盤を介して母体から酸素や栄養を受けているため、胎盤が先に剥がれてしまうと酸素が不足し、脳性麻痺などの障害が残ることや死亡することがあります。また、母体が重篤な状態になることもあります。そのため、常位胎盤早期剥離の発症後は大至急の対応が必要です。

常位胎盤早期剥離の代表的な症状は、急な腹痛、持続的なお腹の張り、多めの性器出血などです。判断に困るときは、我慢せずに分娩機関に相談しましょう。妊娠高血圧症候群、常位胎盤早期剥離の既往、切迫早産、交通事故などの腹部の外傷、喫煙などの危険因子に該当する場合、常位胎盤早期剥離を発症しやすくなります。これらの危険因子に該当しない場合でも常位胎盤早期剥離を突然発症することもありますので注意してください。

臨床症状から常位胎盤早期剥離を疑った場合、腹部超音波検査、胎児心拍モニター、血液検査などを行います。これらの検査で常位胎盤早期剥離と診断された場合は、できるだけ早急に分娩を終了させる必要があり、胎児の生存が確認された場合、経腟分娩の直前でなければ緊急帝王切開を行います。胎児が死亡した場合でも、時間の経過により母体のDIC(血が止まらなくなる状態)が進行するので、すみやかな経腟分娩(それが期待できなければ帝王切開)を行います。それと同時にDICに対する予防あるいは治療を行います。

妊婦健診をきっかけに妊娠高血圧症候群などの常位胎盤早期剥離の危険因子がみつかることもあります。特に気にかかることがなくても、適切な時期や間隔で妊婦健診を受けましょう。   


常位胎盤早期剥離とは? Q&A

2013年02月13日 | 周産期医学

飯田エフエムで放送した内容:

① 常位胎盤早期剥離とはどういう状態のことを指すのでしょうか?

常位胎盤早期剥離とは、妊娠20週以降で、まだ胎児が子宮の中にいる間に、正常な位置にある胎盤が子宮の壁から剥がれることをいいます。

② 母体と胎児にはどのような影響があるのでしょうか?

胎児は胎盤を介して母体から酸素や栄養を受けているため、妊娠中に胎盤が剥がれてしまうと酸素が不足し、脳性麻痺などの障害が残ることや、子宮内で胎児が死亡することがあります。また、母体がDICなどの重篤な状態になることもあります。DICとは出血傾向、多臓器不全のみられる非常に重篤な状態で、DIC発症時にはできるだけ早急に診断し治療を開始する必要があります。

③ おもな症状は?

常位胎盤早期剥離の典型的な自覚症状は、動けなくなるぐらいに激烈な下腹痛で、お腹は板のように硬くなります。 性器出血がみられることもあります。 胎動を感じにくくなります。症状が典型的でない場合も多いです。

④ 主な原因、なりやすい月齢などさらに詳しくお話しください。

妊娠高血圧症候群、常位胎盤早期剥離の既往、切迫早産、交通事故などの腹部の外傷、喫煙などの危険因子に該当する場合、常位胎盤早期剥離を発症しやすくなります。これらの危険因子に該当しない場合でも常位胎盤早期剥離を突然発症することもあります。常位胎盤早期剥離の頻度は全妊婦に対し0.5~1% で、その大部分は妊娠32週以降に発症すると言われています。

⑤ちなみに原因の一つ妊娠高血圧症候群とは何でしょうか?症状は?

妊娠高血圧症候群の定義は、「妊娠20週以降、分娩後12週まで高血圧が見られる場合、または高血圧に蛋白尿を伴う場合のいずれかで、かつこれらの症状が単なる妊娠の偶発合併症によるものではないもの」とされています。以前は妊娠中毒症と呼ばれましたが、最近、名称が妊娠高血圧症候群と改められました。妊娠高血圧症候群の頻度は全妊婦の約5%で、母体や胎児のさまざまな合併症の原因となりますので、妊婦健診では毎回必ず血圧測定や尿蛋白の検査が行われます。

⑥常位胎盤早期剥離と疑われた場合、どのような検査を行うのでしょうか?

臨床症状から常位胎盤早期剥離を疑った場合、腹部超音波検査、胎児心拍モニター、血液検査などを行います。超音波検査で胎盤と子宮の壁との間に血の塊(すなわち胎盤後血腫)が認められた場合の診断は確実ですが、実際には超音波検査ではっきりした所見が認められないことも多いです。

⑦それらの検査で常位胎盤早期剥離と診断された場合、どのような対処を行いますか?

常位胎盤早期剥離と診断された場合は、できるだけ早急に分娩を終了させる必要があり、胎児の生存が確認された場合、経腟分娩の直前でなければ緊急帝王切開を行います。胎児が死亡した場合でも、時間の経過により母体のDICが進行するので、すみやかな経腟分娩または帝王切開を行います。それと同時にDICに対する予防あるいは治療を行います。

⑧ 次の妊娠への影響はありますか?

常位胎盤早期剥離を発症した場合、次の妊娠でまた常位胎盤早期剥離を発症する頻度は5~10%と極めて高率となり、発症率は約10倍に増加しますので、厳重な管理が必要となります。

⑨常位胎盤早期剥離を起こさないようにするために気を付けることはありますか?

常位胎盤早期剥離は母児の命にかかわる非常にこわい病気ですが、いつ誰におこるのかの予測は非常に困難です。重症の妊娠高血圧症候群がある場合におこりやすいと言われていますが、実際には妊娠高血圧症候群と関係なく発症することも多いです。適切な予防法もありません。常位胎盤早期剥離がおこった場合に発症後できるだけ早く診断して緊急帝王切開などの母児の緊急救命処置を行うことが、我々にできる唯一かつ最善の道です。常位胎盤早期剥離はそれほど珍しい病気ではなく、飯田市立病院でも昨年1年間だけで6例経験しました。気になる症状があれば、自宅で様子を見ることなく病院にすぐに連絡していただきたいと思います。


ALSOプロバイダーコースの開催に向けて

2013年02月02日 | 飯田下伊那地域の産科問題

ALSOプロバイダーコースの開催に向けて努力したいと考<wbr></wbr>えてます。最初は準備もこまごまとした点で難渋するかと思われますが、<wbr></wbr>多くの人達に協力してもらって開催まで何とかこぎつけたいです。<wbr></wbr>当院産婦人科医師の構成メンバーは数年ごとにほぼ総<wbr></wbr>入れ替えになってますし、毎年多くの若い新人助産師が就職して来<wbr></wbr>るので、当院産科チームの機能をこれからも維持・発展させてい<wbr></wbr>くためには、院内での継続的な教育態勢を確立させることが大切だと考<wbr></wbr>えます。現在の当院産婦人科の所属医師は全員ALSOプロバ<wbr></wbr>イダーで、ALSOマインドで地域の産科医療に取り<wbr></wbr>組んでいます。今後は、当院の助産師達や地域の産婦人科の先生方にもALSO<wbr></wbr>プロバイダーコースを順次受講してもらい、地域で一つの周産期医療チームを作り、みんなで協力して当<wbr></wbr>地域の産科医療に取り組んでいきたいで<wbr></wbr>す。