ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

組織診、問題と解答

2006年10月23日 | 婦人科腫瘍

25歳未婚女性が細胞診クラス分類でⅢaで精査目的で来院し、コルポスコピーでSCJは確認され、モザイクの所見が得られた。
Q31 狙い組織診で図のごとくであった。病理診断はどれか。
a)軽度異形成上皮
b)中程度異形成上皮
c)高度異形成上皮
d)上皮内癌
e)微少浸潤癌

Cin2

Cin22

解答:b

上皮の下層2/3に異型細胞が見られるものを中等度異形成とする。写真は表層に著明なコイロサイトーシスを認め、中層ぐらいにまで異型細胞が出現している。表層に見られる大型核を持つ異型細胞はHPV感染によるものととらえる。したがって,本病変を高度異型とするのは病変を強くとらえ過ぎである。

a)軽度異形成上皮

Cin1

表層にコイロサイトーシスが見られるもの、上皮の下層1/3に異型細胞が見られるものを軽度異形成とする。

c)高度異形成上皮

Cin3

上皮の表層1/3にまで異型細胞が見られるものを高度異形成とする。クロマチンに富む核を持つ異型細胞が、表皮の表層1/3に及んで増殖している。表層の上皮は扁平化している。細胞密度が高く、核クロマチンの増量も認められる。

d)上皮内癌

Cis

核クロマチンの増量を伴うN/Cの高い癌としての形態学的特徴を有する異型細胞が、上皮の全層に見られるものを上皮内癌とする。

e)微小浸潤癌

Mic

Mic2

浸潤の深さ5mm以内、縦軸への広がり7mm以内の微小浸潤を示す扁平上皮癌。写真では癌が基底膜を破壊して浸潤性に増殖するため、癌胞巣周囲に間質反応を認める。

******

Q32 この患者の組織診断がCIN3であった場合の適切な処置はどれか。
a)細胞診の3カ月ごとの経過観察
b)円錐切除
c)子宮頸管内掻爬
d)組織診の再検査
e)単純性子宮全摘出

解答:b

******

Q33 子宮腟部擦過細胞診異常者のルーチーンの頸管内掻爬の目的はどれ
か.
a)HPV感染の検出
b)クラミジア頸管炎の診断
c)卵管癌や卵巣癌の検出
d)頸管内CINや腺癌の診断
e)体部癌の頸管侵襲の診断

解答:d

******

Q34 子宮腟部擦過細胞診異常者で円錐切除の禁忌となるのは。
a)コルポスコピー不適格症例
b)子宮頸管内掻爬で悪性細胞陽性の症例
c)細胞診と組織診が不一致例
d)微少浸潤が疑われる症例
e)肉眼的な癌の症例

解答:e

円錐切除術の適応
①細胞診断と組織診断の不一致例
②コルポスコピー不適格症例
③子宮頸管内掻爬で悪性細胞陽性
④微小浸潤癌を疑う症例
⑤浸潤癌の診断に疑問である症例

円錐切除の禁忌
①肉眼的に明らかな癌においては組織型や分化度を知るためにパンチ生検を行うが、円錐切除はむしろ禁忌である。
②強度の炎症所見を伴う感染症の場合、治療後に施行する。急性炎症期には出血の頻度が増すとされる。
③妊娠中は原則として行わない。ただし、微小浸潤癌を疑う場合や浸潤癌の鑑別が必要な場合はこの限りではない。できるだけ妊娠中期が望ましい。この場合破水に注意する必要がある。頸管深く切除することは避ける。

Q35 この患者が妊娠16週で、CIN3であった場合適切な治療は。
a)分娩まで細胞診にて経過観察する。分娩後円錐切除術を行う
b)毎月に組織診を行い浸潤開始を早期に診断する。浸潤の開始が疑われればただちに子宮摘出術を行う
c)病変の妊娠による進展を防ぐため、ただちに円錐切除術を施行する。その後、妊娠を継続する
d)妊娠中絶後ただちに円錐切除術施行し、次回の妊娠に備える
e)患者の生命を第一とする立場から妊娠子宮を単純性に全摘出する

解答:a


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7 コメント

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高度異形成と上皮内癌 (kururu123)
2020-08-26 13:54:40
すみません。昨日も生意気なコメントさせてもらいましたが、今日は、素朴な率直な質問です。
私の病理診のコメントを読んで、先生のご意見をお聞かせください。診断は全て高度異形成ででした。2008年8月の異型細胞が全層と、Q3!の上皮内癌の説明とは、違うのでしょうか?
また円形や緊満感や小型細胞等は、私の調べた資料では、上皮内癌の特徴として書かれています。これに対して高度異形成判定が分かりません。
宜しくお願いします。
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高度異形成と上皮内がん (管理人)
2020-08-26 17:48:06
区別はむつかしいです。私自身はかなり以前より上皮内がんと高度異形成はほぼ同義語と考えて、この二つの用語を区別して考えたことはあまりありませんでした。現在では、高度異形成~上皮内がんの病理診断はCIN3として一括して報告されている場合が多いです。どっちにしてもCIN3は前がん病変(良性と悪性の境界病変)として治療対象(円錐切除または単純子宮全摘)となります。
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マニュアルの回答と、もう一つの回答 (kururu123)
2020-08-27 14:57:41
回答の後にあるコメントは、ブログ主様先生が書かれたものですか?このマニュアルを取り寄せたら、回答以外に説明等も書かれてあるのでしょうか?
資料を提示しても、全て「絶対ではない!」の言葉。細胞診と組織診が不一致だったら「円錐切除が必要」とはっきり言いたいのです。

それと0期の件で質問しましたが、毎年報告する「子宮頸癌患者年報」の0期には高度異形成も含めた数なのかを、日本産科婦人科に質問をし、昨夕回答が届いて
1.子宮頸癌登録は癌を登録するので、高度異形成は把握されてない。
2.0期には高度異形成は含まれない。よって会としては、[高度異形成は登録されていないと認識している」
しかし、CIN3の概念で登録されてることは否定できず、高度異形成が混入することも否定できない。」の返事でした。
高度と上皮内癌を総括しCIN3の表現を提示しながら高度入れないって?その判断は誰がするのでしょう?結局は両方OK!これで統計なのか・・・?
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Unknown (管理人)
2020-08-27 16:54:58
医師国家試験や専門医試験問題に出るような病理写真は、子宮摘出標本や円錐切除標本の典型的な像なので、学生や産婦人科医でも判断可能ですが、実際の生検病理標本では、組織がばらばらになっていたり、表層がはがれていたりして小さな組織片で判断しなければならないので、診断が難しい場合が多いです。小さな生検標本で、高度異形成、上皮内がん、微小浸潤がんを鑑別するのは専門の病理医でも非常に難しいです。同じ病理標本を3人の経験豊かな病理医が診断して、高度異形成、上皮内がん、微小浸潤がんと3者3様に診断が分かれた経験もあります。ですから、境界病変が疑われる場合は円錐切除をして診断確定をしてます。現在は高度異形成~上皮内がんを境界病変としてますが、以前は上皮内がんを境界病変としていた時代もありました。また、病理医によって、診断名が、異形成~上皮内がん、CIN分類、SIL分類といろいろな場合があるので、同じ病理標本でも、高度異形成、CIN3、HSILと病理の先生によって診断が変わります。病理医の診断は絶対で臨床医が勝手に変えることは許されません。
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マニュアルの回答と、もう一つの回答 (kururu123)
2020-08-28 10:43:19
あー分かりました。それぞれに専門の判断があり、それにまで口出ししていたら、組織として成立しなくなりますね!
それぞれの判断から総合的に医師がみて、その後の対応を判断する!って事なんですね。
すみません。唐突に変な質問をしてきたようで、、、
ご丁寧に対応していただきありがとうございました。
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Unknown (管理人)
2020-08-28 18:41:11
30年以上前になりますが、私が大学院生だった頃、研究テーマが婦人科腫瘍学だった関係で、病理組織標本や細胞診標本を毎日見てました。当時、生検病理標本で高度異形成か上皮内癌かよくわからないと、知り合いの病理専門医の先生方のところにガラス標本を直接持って行って診断してもらってました。それぞれの先生によって診断が違う場合もありましたし、極端な場合、同じ標本を同じ先生のところに別の日に持って行って診断してもらったら違う診断になったことすらありました。ですから、当時から個人的には、高度異形成と上皮内癌とはほとんど同じ病態で、これらを区別するのはあまり意味がないのではないか?と疑問に感じてました。しかし、病理医が0期の子宮頸がんだと診断すると、当時私の所属した教室では必ず子宮摘出となってました。病院によっては広汎子宮全摘が実施されることすらありました。0期といっても子宮頸がんなんだから救命第一で根治的な手術が絶対に必要と考える産婦人科医がほとんどで、現在のように子宮温存という治療の選択肢は当時はあり得ませんでした。どっちか迷うときはとりあえず高度異形成と診断しておけば3か月後のフォローアップ・再検査と産婦人科医の対応はがらりと変わりましたから、病理の先生方も上皮内がんの診断には相当慎重になっていたのではないかと思います。その後、30年以上経過しそれらを区別しないような時代の流れに変わってきました。米国では、中等度異形成と高度異形成の区別すらしなくなって、上皮内病変はLSIL(軽度異形成)とHSIL(中等度異形成~上皮内がん)と2つのカテゴリーしかなくて、HSILであれば治療対象となりフォローアップはしない流れになってます。時代とともに考え方も変わってきますから、もしかしたら、将来的には日本でもそのように変わっていくかもしれません。
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マニュアルの回答と、もう一つの回答 (kururu123)
2020-08-30 00:09:52
貴重な体験談までありがとうございました。医療(がん)に対する考え方も、素人の私から見ても年と共に変わってきているのが分かります。
そんな中で、先生たちもそれに合わせ、更に教えられた環境や施設の違い・先輩の個々の思考?等、色々ある中で、患者と対応されているんだなぁーと、
ただただ偉くしている「医者」のイメージとは違って、ほんの少しだけ逆の立場から見れたように感じます。(角が少し丸くなれた感じです。)
ありがとうございました。
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