ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

書類処理作業の増大

2007年05月31日 | 地域医療

勤務医の過重労働の要因の一つに、書類処理作業の増大があります。

外来診療、病棟回診、手術、分娩立会いと、忙しく働いている医師ほど、その仕事量に比例して、煩雑な事務量が爆発的に増大していきます。ただでさえ診療で手一杯で過労に陥っている医師に、書類処理作業の重圧がのしかかります。

例えば、1件手術を実施するとなると、手術の前には、手術に伴う合併症・後遺症などの説明内容に対する同意書、入院診療計画書、輸血・血液製剤使用の承諾書など、山のような書類を作成して、患者さんに一つ一つ署名してもらう必要があります。退院時には、患者さんが、生命保険の入院証明書だとか、職場に出す診断書だとか、1人で何枚もの書類をドサッと持ってきます。

1週間も書類処理を放置しておくと、机の上が書類の山になってしまいます。患者さんからは、『書類はまだですか?』という催促・苦情の電話が毎日何度もあります。以前は、その書類の山の処理のために、たまの休日を丸一日つぶしたり、平日時間外の夜中に病院に出勤して徹夜で書類の山の処理をしてました。

当科では、専属の非常に有能なクラークが書類作成を手伝ってくれるようになって、医師は書類にサインするだけで済むようになり、以前と比べて、書類処理の負担がかなり減って非常に助かっています。

医師不足対策として、国の方からも、最近、いろいろな構想が発表されてますので、そのうち、それらの政策の効果が現れるのかもしれませんが、それまで、病院の方がもってくれるか、わかりません。当面の緊急避難的な生き残り策として、各病院で、地域や病院の実情に応じて、いろいろ創意・工夫をしていく必要があります。


医師人口比:日本、20年に最下位へ OECD30カ国中 (毎日新聞)

2007年05月29日 | 地域医療

大野病院事件にしても、大淀病院事件にしても、広い地域の唯一の基幹病院であるにもかかわらず、産婦人科医がたった一人しか勤務してませんでした。これらの事件は地域の医療システム不備に起因する問題であるにもかかわらず、できる限りの対応をした担当の医師個人が、最高の医療を提供できなかった責任を厳しく追及されています。こういう現状では、地方から医師たちがどんどん逃げ出してしまい、地方の医療崩壊が進行していくのも、当然の現象だと思われます。

医師不足対策の一つとして、医学部を卒業したばかりの若手医師たちを、研修環境の整っていないへき地の医療崩壊地域に強制的に配置して、医師数の地域間格差を是正しようという構想もあるようです。しかし、よくよく考えてみると、その構想って、第二次世界大戦末期に神風特攻隊で多くの若者達の尊い命を犠牲にしたのと全く同じ発想だとは思いませんか? もしも、その政策が本当に実行に移されたとしたら、全国的に大混乱に陥ってしまうのではないか?と危惧します。

現状では、地方病院の研修環境は不十分の場合が多いと思います。若手医師を地方に強制的に配置するのであれば、その前に指導医を地方に十分配置し、若手医師が、地方でも、安心して満足できる研修を受けられる環境の整備が先決だと思われます。

医師数を、経済協力開発機構(OECD)加盟30カ国中の最低ランクの低い水準に抑制したままで、医師不足の問題を一時しのぎの政策だけで解決しようとしても、長期的には根本的解決に至るのが難しい気もします。

****** 毎日新聞、2007年5月28日

医師人口比:日本、20年に最下位へ OECD30カ国中

 人口1000人当たりの日本の医師数が、2020年には経済協力開発機構(OECD)加盟30カ国中最下位に転落する恐れがあることが、近藤克則・日本福祉大教授(社会疫学)の試算で分かった。より下位の韓国など3カ国の増加率が日本を大きく上回るためだ。日本各地で深刻化する医師不足について、国は「医師の地域偏在が原因で、全体としては足りている」との姿勢だが、国際水準から懸け離れた医師数の少なさが浮かんだ。

 OECDによると、診療に従事する03年の日本の医師数(診療医師数)は人口1000人あたり2人。OECD平均の2.9人に遠く及ばず、加盟国中27位の少なさで、▽韓国1.6人▽メキシコ1.5人▽トルコ1.4人--の3カ国を上回っているにすぎない。

 一方、診療医師数の年平均増加率(90~03年)はメキシコ3.2%、トルコ3.5%、韓国は5.5%に達する。日本は1.26%と大幅に低く、OECD各国中でも最低レベルにとどまる。各国とも医療の高度化や高齢化に対応して医師数を伸ばしているが、日本は「医師が過剰になる」として、養成数を抑制する政策を続けているためだ。

 近藤教授は、現状の増加率が続くと仮定し、人口1000人あたりの診療医師数の変化を試算した。09年に韓国に抜かれ、19年にメキシコ、20年にはトルコにも抜かれるとの結果になった。30年には韓国6.79人、メキシコ3.51人、トルコ3.54人になるが、日本は2.80人で、20年以上たっても現在のOECD平均にすら届かない。

 近藤教授は「OECDは『医療費を低く抑えると、医療の質の低下を招き、人材確保も困難になる』と指摘している。政府は医療費を抑えるため、医師数を抑え続けてきたが、もう限界だ。少ない医師数でやれるというなら、根拠や戦略を示すべきだ」と批判している。【鯨岡秀紀】

(毎日新聞、2007年5月28日)

****** 毎日新聞、2007年5月28日

医師不足:へき地に研修医誘導 大都市圏の枠削減--政府・与党対策原案

 政府・与党が31日の医師確保対策に関する協議会で決定する医師不足対策の原案が27日、明らかになった。対策は6項目で、地方の医師不足を招いたとされる臨床研修制度に関し、研修医が集中する大都市圏の定員を減らし、若手をへき地勤務へと誘導することなどが目玉。6月に決める「経済財政運営と構造改革に関する基本方針」(骨太の方針)に盛り込んだうえで、与党の参院選公約とする。

 臨床研修制度は、研修医と厚生労働省の指定病院の希望が一致して研修先が決まる。昨年の場合、定員1万1306人に対し、研修先が決まったのは8094人。受け入れ枠が上回り地方には1人もいない指定病院もあった。このため大都市圏の枠を減らす案が浮上。政府・与党はへき地の研修医に対し、進みたい分野に行けるよう留学の機会を与えたり、収入加算などの優遇措置を設ける意向だ。

 医師、看護師、助産師の業務分担の見直しも打ち出した。日本医師会などの反発を避けるために明記は避けたが、医師の業務の一部を看護師らに権限委譲し、医師の負担軽減を図る。【吉田啓志】

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 ■ことば

 ◇医師臨床研修制度

 医師免許取得後2年間の初期研修を終えた研修医を対象に04年に導入。それまで若手医師は所属大学病院の医局の指示で地域内の病院で研修し、地方の病院は研修医の受け入れで要員を満たしていた。しかし、病院が医局の派閥に組み込まれたことや勤務条件の過酷さが問題化し、研修先を原則として選べるようにした。

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 ■「緊急医師確保対策」の骨子

・定年した勤務医らを登録し、緊急の医師不足時には都道府県の要請で国が人材を派遣するシステム構築

・勤務医の過重労働を解消するための勤務環境の整備(交代制勤務の導入▽医師、看護師、助産師らの業務の分担の見直し)

・女性医師の働きやすい環境整備

・研修医の都市への集中の是正

・医療リスクに対する基本体制の整備(訴訟率の高さが医師不足を招いている産科で、医療事故補償制度創設▽診療にかかわる死因を究明する制度をつくる)

・医師不足の地域や診療科で勤務する医師の養成(大学医学部定員の地域枠拡充、国の奨学金返還を免除)

(毎日新聞、2007年5月28日)


若手医師の育成 

2007年05月27日 | 地域医療

私の勤務している病院の場合は、新臨床研修制度が始まり、医学部を卒業したばかりの若手医師が大勢勤務するようになって、以前と比べて、医師の平均年齢が若返り、病院の雰囲気が格段に良くなりました。

この制度が始まったばかりの頃は、研修医に何をどこまでやらせたらいいのか?全くわからず、見学が中心で、研修医達の満足度もかなり低かったのではないかと思います。新制度も4年目となり、スタッフや患者さんも、研修医の存在にかなり慣れてきたと思います。研修内容は年々よくなってきていると実感しています。

スタッフがつききりで手取り足取り指導し、やる気のある研修医には、妊婦検診、1ヶ月検診、分娩介助、帝王切開執刀、病棟回診など、どんどん積極的にやってもらってます。

かなりいろいろな診療が自力でできるようになってきて、面白くなってきた頃に、産婦人科研修は終了してしまいます。最近、産婦人科研修が終わったばかりの研修医のS先生は、産婦人科研修最終日のお別れ食事会で、「産婦人科は全く考えてもなかったけど、やってみたら結構楽しかったです。これで終わっちゃうのはちょっとさみしい気がします。あと何週間か続けたいです。」と言ってくれました。「じゃあ、この続きは、来年からの後期研修でやってみようよ。みんなで待ってるからね。」と言って、別れを惜しみました。

人がいなければ何もできません。人が増えれば未来の夢が広がります。医学生の臨床実習、初期臨床研修、後期臨床研修、サブスペシャリティ専門医研修などを充実させて、地道に少しづつ若手医師をを増やしていくしかないと思っています。


福島県立大野病院事件・第五回公判

2007年05月26日 | 大野病院事件

コメント(私見):

昨日の福島県立大野病院事件・第5回公判で、摘出子宮を鑑定した病理鑑定医(検察側の証人)が、争点の一つである子宮と胎盤の癒着の部位や程度について証言を行いました。

【検察側の見解】 全前置胎盤で、胎盤は子宮の前壁から後壁にかけて付着し、前回帝王切開の創痕にかかっていた。 胎盤が子宮筋層の1/2程度に侵入していた。

【弁護側の見解】 全前置胎盤ではあるが、胎盤は主に子宮の後壁に付着し、前回帝王切開の創痕にはかかっていなかった。胎盤が子宮筋層の1/5程度に侵入していた。

       ◇   ◇   ◇

同じ病理標本の病理診断なのに、病理医によって診断が一致しないのはそれほど珍しいことでもありません。特に、特殊な希少症例の場合は、その道の権威と言われている病理医達の病理診断でも、それぞれの診断が3者3様に分かれてしまい、なかなか最終結論が出せない場合もまれではありません。

『癒着胎盤』は、産科医が生涯で1回経験するかしないかというような非常にまれな特殊な疾患です。一般の(胎盤病理を専門としていない)病理医だと、癒着胎盤症例を経験する機会はほとんどありません。

従って、癒着胎盤の鑑定には、複数の胎盤病理を専門とする病理医達が、十分に議論を重ねて、慎重に結論を出す必要があると思います。

****** 福島中央テレビ、2007年5月25日

県立大野病院の裁判 鑑定医も証言が揺れる

 大熊町の県立大野病院で帝王切開の手術を受けた女性が死亡した事件の公判がきょう開かれ、女性の子宮を鑑定した病理鑑定医が証言に立ちました。

 業務上過失致死などの罪に問われている、県立大野病院の産婦人科医、K被告は、2004年の12月、当時29歳の女性の帝王切開の手術をした際、癒着した胎盤を無理に引き剥がして死亡させたなどとされています。

 きょう福島地裁で開かれた5回目の公判では、死亡した女性の子宮を鑑定した病理鑑定医の証人尋問が行われました。

 この鑑定医は、まず検察官の尋問に「胎盤の癒着を予測できた可能性がある」とする検察側の主張に沿った証言をしました。

 しかし、鑑定医は、弁護側の反対尋問には「手術の前に行う超音波検査では、癒着を予測するのは難しい」と違った見解も示し、争点の一つとなっている癒着の予測に関して、その判断の難しさが浮き彫りになった形です。

(福島中央テレビ、2007年5月25日)

****** 河北新報、2007年5月26日

福島・大野病院訴訟「剥離すれば止血は困難」鑑定医証言

 福島県立大野病院(大熊町)で2004年、帝王切開中に子宮に癒着した胎盤を剥離(はくり)した判断の誤りから女性患者=当時(29)=を失血死させたとして、業務上過失致死罪などに問われた産婦人科医K被告(39)の第5回公判が25日、福島地裁であり、患者の子宮を鑑定した医師が検察側証人として出廷した。

 争点になっている子宮と胎盤の癒着の程度について、医師は「三段階のうち中程度の癒着。胎盤が子宮表面の子宮筋層の2分の1に入り込んでいる状態で、剥離すれば止血は困難」と証言。弁護側の「胎盤は子宮筋層の5分の1しか入っておらず、限りなく軽度に近い中程度の癒着」とする主張を否定した。

 癒着の範囲についても「子宮の前壁から後壁にかけて全面的に癒着していた」と、検察側立証に沿う証言をした。

 起訴状によると、K被告は04年12月17日、女性の帝王切開手術で胎盤と子宮の癒着を確認し剥離を開始。継続すれば大量出血で死亡することが予見できる状況になっても子宮摘出などに回避せず、剥離を続けて女性を失血死させた。

(河北新報、2007年5月26日)

****** 読売新聞、2007年5月26日

子宮鑑定医師証人に 検察側主張に沿う証言

大野病院事件公判

 大熊町の県立大野病院で2004年12月、帝王切開手術で女性(当時29歳)を失血死させたなどとして、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われている産婦人科医、K被告(39)の第5回公判が25日、福島地裁であり、摘出された女性の子宮を鑑定した医師の証人尋問が行われた。

 公判では、争点の一つである子宮と胎盤の癒着の部位や程度について検察側と弁護側の立証が対立。医師は「子宮口をまたいで子宮の後ろから前にかけて癒着していたと推定される」と検察側の主張に沿う内容の証言をした。弁護側は、切り分けた子宮の一部に癒着が認められた場合、全体に胎盤の癒着があると推定した鑑定手法に疑問を呈した。

(読売新聞、2007年5月26日)

****** 朝日新聞、2007年5月26日

胎盤癒着「前壁から後壁に」

 県立大野病院で04年に女性(当時29)が帝王切開手術中に死亡した事件で、業務上過失致死と医師法(異状死体の届け出義務)違反の罪に問われた、産科医K被告(39)の第5回公判が25日、福島地裁であった。摘出した子宮を鑑定した病理医が「子宮の前壁から後壁にかけて胎盤が癒着していたと推定される」と証言した。

 この日、検察側の証人として出廷した県立医大病理学第二講座の杉野隆医師は、胎盤の癒着について「子宮頸部をはさんで後壁から前壁に癒着があった」と証言。「胎盤は前回の帝王切開の傷跡に癒着していたと推定される」と述べた。

 胎盤の癒着部分を巡っては、前壁から後壁にかけて癒着があったとする検察側と、後壁だけだったとする弁護側で、争点の一つとなっている。

 また、杉野医師は癒着の程度について「胎盤は子宮筋層の2分の1程度まで侵入していた」と述べ、「胎盤の侵入は5分の1程度」とする弁護側よりも、癒着が強かったとする認識を示した。

 証人尋問によると、杉野医師は、大野病院からの依頼を受けて04年12月に提出した病理診断では「癒着は後壁のみ」としていたが、05年6月に県警からの依頼で作成した鑑定書では「前壁から後壁にかけて癒着」と認識を改めていた。

 さらに07年2月、福島地検からの依頼を受けて回答した「鑑定書に関する追加説明書」では、より広範な範囲で癒着がみられるとした。

(朝日新聞、2007年5月26日)

****** 福島民報、2007年5月26日

癒着胎盤、広範囲に 大野病院医療過誤公判

 福島県大熊町の県立大野病院医療過誤事件で、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた産婦人科医K被告(39)の第5回公判は25日、福島地裁で開かれた。

 検察側の依頼で子宮を鑑定した男性医師への証人尋問を行った。男性医師は争点の一つである癒着胎盤の範囲と程度について「子宮口を挟んで子宮後壁から前壁に癒着していた。深さは子宮筋層の2分の1程度」と述べ、「後壁だけの癒着」とする弁護側の主張を認めなかった。さらに、「前壁にある前回帝王切開創部に癒着していた」と証言した。「癒着胎盤が前回帝王切開創部に及ぶほど広範囲だった」とする検察側主張に医学的な裏付けが付いた形で、最大の争点である「手術中に胎盤の癒着が分かったとき、胎盤はく離を中止すべきだったか」の判断に影響するとみられる。

 被害者は二度目の帝王切開手術で亡くなった。前回帝王切開した創部は胎盤が癒着しやすいといわれる。加藤被告は超音波検査などで調べた上で、前回帝王切開創部について「癒着なし」と判断した。

 弁護側は閉廷後、男性医師の鑑定について「真に科学的であるか疑問だ」と批判。弁護側も別の医師に子宮鑑定を依頼して「癒着は子宮後壁のみ」との結果を得ており「弁護側鑑定医の証人尋問で真実を明らかにしたい」とした。

(福島民報、2007年5月26日)

****** 毎日新聞、2007年5月26日

大野病院医療事故:鑑定医を証人尋問 癒着範囲めぐり攻防--公判 /福島

 県立大野病院で04年、帝王切開手術中に女性(当時29歳)が死亡した医療事故で、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた同病院の産婦人科医、K被告(39)の第5回公判が25日、福島地裁であり、死亡女性の子宮を病理鑑定した医師への証人尋問が行われた。当時の女性の胎盤の状況について、鑑定医は「胎盤が子宮の前壁部分にまで癒着していた」と、胎盤の癒着が広い範囲に及んでいたと証言した。

 鑑定医は、子宮の一部を採取したプレパラートを顕微鏡で観察し、子宮の前壁部分にも癒着の跡が認められたと証言。また「子宮筋層の2分の1程度まで胎盤が癒着していた」とし、弁護側が主張する「5分の1程度」を否定する見解を示した。

 一方、弁護側は鑑定書の補足説明の中で「プレパラートの一部で癒着が認められたら、その標本の採取部位全体に癒着胎盤があるとみなして範囲を推定した」という記述があることを指摘し、鑑定の信用性に疑問を投げかけた。鑑定医はこの日、「同じ標本の中でも癒着胎盤がある部分とない部分がある」とも証言した。【松本惇】

(毎日新聞、2007年5月26日)


周産期医療システムの不備は、誰に責任があるのだろうか?

2007年05月24日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

分娩中は、一定の確率で、いろいろな異変が起こり得ます。異変が起こった時に、自施設で対応できなければ、一刻も早く基幹施設に緊急母体搬送しなければなりません。

しかし、周産期医療システムが整ってない地域では、分娩中に何か異変が発生するたびに、大慌てで、母体搬送の受け入れ先を探し出さねばなりません。近隣に受け入れ先がどうしても見つからない場合は、県外のはるか遠方の病院にも受け入れ可能かどうかを打診しなければなりません。受け入れ先が見つからないのは、地域の周産期医療システムの問題であり、担当医個人の責任ではありません。

ですから、この事例は、本来、担当医個人の責任に帰する問題というよりは、むしろ、県全体の周産期医療システムの不備に帰する問題だと思われます。

もしも、『医療システムの不備によって生じた問題なのに、担当医個人が結果責任を問われる』ということになれば、今後、医療システムが整ってない地域では、誰も医療に従事することができなくなります。実際に、奈良県南部地域(県全体の面積の2/3の地域)が、完全に分娩不可能地帯となってしまったそうです。

参考:

転送拒否続き妊婦が死亡 分娩中に意識不明

奈良県警が業務上過失致死容疑で捜査へ 妊婦死亡問題

産婦人科医会「主治医にミスなし」 奈良・妊婦死亡で県産婦人科医会 (朝日新聞)

妊婦転院拒否、断った大阪に余裕なし 満床や人手不足 (朝日新聞)

<母子医療センター>4県で計画未策定 国の産科整備に遅れ

奈良の妊婦死亡、産科医らに波紋 処置に賛否両論

医療機関整備で県外派遣産科医の撤収へ 奈良・妊婦死亡 (朝日新聞)

転院断られ死亡の妊婦、詳細な診療情報がネットに流出(読売新聞)

****** 共同通信、2007年5月24日

母子医療センター整備遅れ 産科医の確保難しく

 遺族が提訴した奈良県の妊婦は、約20の病院に受け入れを断られた後、死亡した。厚生労働省は、緊急・高度な事態に対応できる「総合周産期母子医療センター」設置を各都道府県に求めているが、産科医の確保が難しく、整備は思うように進んでいない。

 同センターは、母体・胎児集中治療管理室(MFICU)や新生児集中治療室(NICU)を備えた24時間体制の医療施設で、複数の産科医が常駐する。

 厚労省によると、2006年12月現在、39都道府県に62あるが、奈良県をはじめ、山形、佐賀、鹿児島など8県にはない。

 施設のない県の中には独自の対応をしているところもあるが、産科医は勤務条件が厳しく訴訟リスクも高いとされ「手厚い人員配置のために地域によっては確保するのが難しい」(母子保健課)のが実情という。

 奈良県では04年、より高度な医療施設に緊急転送された妊婦の約37%は県外に搬送されていた。今回の問題を受け、県は昨年11月、計画を急きょ前倒ししてセンターを設置することを表明している。

(共同通信、2007年5月24日)

****** 読売新聞、2007年5月24日

奈良の妊婦死亡、適切な治療怠ったと賠償提訴

 奈良県大淀町の町立大淀病院で昨年8月、妊婦が出産時に脳内出血で意識不明となり、相次いで転院拒否された末、搬送先の病院で死亡した問題で、遺族が23日、「脳検査も治療もせず放置した」として、担当医と大淀町を相手に損害賠償を求める訴えを大阪地裁に起こした。この問題を巡っては、県警が担当医らを事情聴取するなど業務上過失致死容疑で捜査しており、刑事・民事の両面で真相解明が進むことになった。

 原告は、○○○○さん(当時32歳)の夫、◇◇さん(25)と生後9か月の長男△△ちゃん。原告側は請求額を明らかにしていない。

 訴状によると、○○さんは出産のため昨年8月7日に入院。翌8日午前0時ごろ、「頭が痛い」と訴えて意識を失った。担当医は「脳に異常はなく、陣痛などによる失神」と説明。その後、両手足が硬直し始めると、妊娠中毒症の妊婦が分娩(ぶんべん)中にけいれんを起こす「子癇(しかん)」と診断し、転院先を探した。

 ○○さんは意識消失の約6時間後、大阪府吹田市内の国立循環器病センターに搬送され、脳内出血と判明したが、△△ちゃんを出産後、死亡した。

 ◇◇さんは「自分や看護師だった親族らが脳内出血の可能性を再三、指摘したのに、担当医は途中で仮眠するなどし適切な治療を怠った」と主張している。

 町立大淀病院の***院長の話「今後、司法の場において明らかにしたいと考えております」

 ◇転院拒否◇

 ○○○○さんの転院を巡っては、大阪府と奈良県の計19病院が「ベッドが満床」「NICU(新生児集中治療室)がない」などと受け入れを拒否。産科医らの調査では、県で必要とされるNICUの病床数は119床だが現在40床しかない。症状の重い妊婦の約3~4割を県外に移送するなど、産科救急システムの深刻な不備を露呈した。

(読売新聞、2007年5月24日)

****** 毎日新聞、2007年5月23日

妊婦死亡:病院と医師の過失主張 遺族が提訴 奈良

 奈良県大淀町立大淀病院で昨年8月、同県五條市の○○○○さん(当時32歳)が分娩(ぶんべん)中に意識不明となり、転送先で脳内出血で死亡した問題で、遺族は23日、病院を経営する大淀町と担当産科医を相手取り、慰謝料など損害賠償を求める訴訟を大阪地裁に起こした。「大淀病院の担当医が脳の異常を見過ごしたことが死亡につながった」と過失責任を主張している。

 提訴したのは夫◇◇さん(25)と、転送先で生まれた9カ月の長男△△ちゃん。訴状によると、○○さんは昨年8月7日、出産のため大淀病院に入院。翌8日午前0時ごろ頭痛を訴えた後、突然意識を失った。産科医は頭痛と陣痛から来る失神と説明し、仮眠のため退室。同1時40分ごろ、両腕が硬直するなど脳内出血をうかがわせる症状が表れたが、来室した産科医は子癇(しかん)発作(妊婦が分娩中に起こすけいれん)と誤診して処置をせずに病室を離れ、同4時半ごろまで病室に来なかった。

 病院は同2時ごろまでに転送先探しを始め、○○さんは19病院で転送を断られた後、大阪府吹田市の国立循環器病センターに同6時ごろ到着。CT(コンピューター断層撮影)で右脳に大血腫が見つかった。△△ちゃんは帝王切開で生まれたが、○○さんは8日後に死亡した。

 死亡診断書では同センター受診時、○○さんの意識が刺激にまったく反応しないレベルに達していたなどとする記載があり、遺族は「脳内出血の発症は午前0時ごろ」と主張。「これ以降、家族らが再三脳の異常を訴えたのに産科医はCTなどの検査をせず、手術でも回復しないほど脳内出血を進行させた」としている。

 大淀病院の***院長は「今後、司法の場において(立場を)明らかにしてまいりたいと考えております」とのコメントを出した。【中村敦茂】

(毎日新聞、2007年5月23日)

****** 朝日新聞、2007年5月23日

奈良妊婦死亡 「医師が誤診」夫が提訴

 奈良県大淀町の町立大淀病院で昨年8月、出産中に意識不明となった○○○○さん(当時32)が、県内外の19病院に転院の受け入れを断られた末に死亡した問題で、夫の◇◇さん(25)=奈良県五條市=と生後9カ月の長男が23日、適切な治療を怠ったとして、大淀町と産婦人科(現・婦人科)の男性医師(60)を相手に、損害賠償を求める訴訟を大阪地裁に起こした。地方の産科医不足が解消されない中で、地域医療のあり方も問われそうだ。

 訴状などによると、○○さんは昨年8月7日朝、分娩(ぶんべん)のため同病院へ入院。翌8日未明に頭痛が始まり、まもなく意識を失ったが、担当医は「陣痛による失神」と判断して仮眠に入った。◇◇さんらは脳内出血を疑って頭部の画像診断を求めたものの、担当医は妊娠中毒患者がけいれんを起こす「子癇(しかん)」と診断して検査をしなかった。

 容体の悪化を受けて病院側は転院先を探し、奈良県の2病院、大阪府の17病院から「満床」などと断られた。意識喪失から6時間後、○○さんは搬送先の国立循環器病センター(大阪府吹田市)で右脳に大きな血腫ができていることが判明。帝王切開で△△ちゃんを出産したが、8日後に脳内出血で死亡した。

 原告側は、担当医は脳内出血を疑って必要な検査をし、治療に対応できる医療機関へすぐに転院させるべきだったと指摘。「症状を悪化させて死亡させた過失」は最初に入院した病院側にあると主張している。現段階で請求額は明らかにしていない。

 ○○さんの死をきっかけに、大淀病院は今年4月から産科の診療を休止。一方、奈良県警は業務上過失致死容疑で捜査している。◇◇さんは「病院が話し合いに応じず、提訴に踏み切った。産科医療が良い方向へ進むよう、真実をはっきりさせたい」と話した。

 大淀町立大淀病院の***院長の話 今後、司法の場で主張を明らかにしたい。

(朝日新聞、2007年5月23日)


医師不足 制度再構築は国の責任 (中國新聞)

2007年05月22日 | 地域医療

コメント(私見):

OECD(経済協力開発機構)がまとめた加盟国の人口10万人当たりの医師数のデータを見ると、全体平均は290名ですが日本は200名で、日本の医師数は加盟国の中では最低クラスです。従って、長期的な医師不足対策としては、医師数そのものを増やす(医師養成数を増やす)必要があると思われます。

しかし、今、医学部の入学定員を増やしたとしても、実際にその効果が現れるまでには最低でも10年はかかりますから、現実に目の前で進行している医療崩壊現象に対する即効薬にはなり得ません。

当面の短期的対策としては、現状の少ない医師を何とかうまくやりくりし、地域医療を維持していくようにいろいろ工夫していく必要があります。例えば、医師の拠点病院への集約化、病診連携システムの構築など、さまざまな対策を推進していく必要があります。

個々の病院の対策としては、なるべく多くの後期研修医に来てもらえるように、研修態勢を整備し、新人の勧誘に力を入れていく必要があります。

ただ、この後期研修医獲得競争では、自分の部署だけが独り勝ちすればいいというものではなく、各部署にバランスよく新人が参入してくれないと困ります。例えば、ある病院の産婦人科医が倍増したとしも、その病院の小児科、麻酔科が医師不足で消滅してしまえば、周産期医療を維持することはできません。

参考:医師不足 増やすことも選択肢に (信毎)

****** 中國新聞、2007年5月21日
http://www.chugoku-np.co.jp/Syasetu/Sh200705210084.html

医師不足 制度再構築は国の責任

 深刻な医師不足にどう対処するのか。先週末に開かれた政府、与党の「医師確保対策に関する協議会」で、総合対策を六月上旬までにまとめ、政府の骨太の方針に盛り込むことになった。

 (1)国公立大学の医学部定員に、へき地勤務を条件に入学を認める「地域枠」を新設する(2)国立病院など中核的な拠点病院から、不足地域の病院、診療所へ医師を一年程度の期限付きで派遣する―などが対策の柱。地域枠は四十七都道府県にほぼ五人ずつ、全国で二百五十人程度定員を増やす。

 これまで厚生労働省は「医師の総数は足りており、将来は過剰になる」としてきただけに、定員増を認める方向は一歩前進だが、それにしても遅すぎる。地域で診療できる医師を養成するには、最低でも十年以上はかかるからだ。

 一方で、日本病院会の調査では、宿直をしている全国の病院勤務医のうち、約九割が翌日も通常に仕事をせざるを得ない状況がある。長時間の過酷な労働実態を放置したままでは、不足地域への医師派遣もそう簡単とは思えない。

 そこで、開業医を幅広い疾患に対応できる「総合医」として養成し、救急や往診などもこなしてもらい、病院勤務医の負担を軽減するプランも浮上している。だが、日本医師会は「医師不足は国の責任」と反発しており、難航しそうだ。二〇〇四年からの国の研修制度改革で都市部に若手医師が集中し、過疎地などの不足を招いた背景があるからである。

 リスクが大きいため敬遠され、病院の診療科閉鎖などが起きている小児科や産科には、特に「即効薬」が必要だ。出産・育児などでいったん退いた女性医師の復職を促進する対策や、診療報酬の加算などが検討されている。

 問題は、誰が責任を持って制度の再構築を進めていくかである。診療報酬の見直しや療養病床の削減など、国は自らの医療費負担の削減ばかりに目を向けてきた。これまでの手法を改めるのでなければ説得力に乏しい。思い切って国費を投入し、企業にも負担を求める覚悟がなければ、抜本的な仕組みの実現は難しいだろう。

 医師確保のための法案を、参院選後の臨時国会に提出することも考えられている。国の責任の取り方によっては、地方自治体の財政を一層圧迫することにもなりかねない。本当に実効性のある対策にするには、医療現場や患者らの声も聞き、論議を深めるべきだ。

(中國新聞、2007年5月21日)


医師不足 増やすことも選択肢に (信濃毎日新聞)

2007年05月21日 | 地域医療

コメント(私見):

当県の地元国立大学の初期臨床研修医が年に40人程度で、大学で後期臨床研修を開始した医師の数は、初期臨床研修医の数と比べて、大幅に減っているのが現状のようです。

後期臨床研修を県内で開始した医師の数が、その年の実質的な新たな戦力となります。大学で後期臨床研修を開始する医師の数が激減している以上、大学からの医師派遣には今後あまり期待できそうにありません。

最近は、さまざまな医師確保対策が提案されていますが、結局のところ、少ない後期臨床研修医の各部署間の奪い合いになっていて、『どこかの部署が頑張って医師確保に成功すれば、他の部署は医師不足に陥る!』というのが、全体の構図です。

県全体の医師の数は急には増やせませんから、緊急避難的な対応として、医師の集約化(再配置)は必要ですが、長期的には、県全体の医師の数(後期臨床研修医の数)が増えてくれないことには、医師不足の問題は永久に解決できないと思います。

****** 信濃毎日新聞、2007年5月20日

医師不足 増やすことも選択肢に

 担当科の医師が1人で60日連続勤務した。

 医療が高度化して診療時間は増えているのに、医師の数が増えない。

 女性医師が働きやすい職場は少なく、このままではさらに医師不足が進む。

 いずれも、病院に勤務する医師の生の声だ。日本医労連が全国の病院勤務医の労働実態についてまとめた調査から、負担の重さが浮かび上がってくる。

 長野県内では医師79人が回答を寄せた。時間外労働では、過労死認定基準の「月80時間」を超えた医師は24・6%もいた。1カ月に休んだ日は1日もない医師が15・2%。平均は3・7日だった。

 県内でも医師がいなくなって診療科目を減らしたり、診療日数を減らす病院が相次いでいる。医師の数が多く1人の負担が軽い都市部の病院に移ったり、開業医に転じる医師が多くなるのも無理はない。

 政府与党は18日、医師不足に関する協議会を開いた。6月上旬にも対策をまとめ、参院選公約の「目玉」にする意向でいる。

 命に関わる重要な課題を、小手先の論議で終わらせてはいけない。いま、抜本的な対策を打ち出さないと地方の医療崩壊はますます進む。

 厚生労働省は中核病院への医師の重点配置、出産時の事故に対する無過失補償制度創設などの対策を打ち出しているものの、思わしい成果は上がっていない。今後の論議の重要なポイントは、医師はどれだけ必要なのか、ということだ。

 厚労省は、医師不足は都市部や一定の診療科目に集中する「偏在」が問題だとしている。一部の大学で医学部定員の増員を認めたが、あくまでも暫定措置である。昨年まとめた需給見通しでも、年々医師は増えており長期的には需要と供給のバランスが取れるとしている。

 しかし現場からは、医療の高度専門化で患者や家族への説明に時間がかかる、治療以外の事務仕事や研修の負担が大きい、といった声がある。妊娠や子育てで休む女性医師への対応も考えなければならない。医療訴訟が増え、丁寧な診療が求められている時代には、より多くの医師が必要になる。

 日本はOECD(経済協力開発機構)の加盟国の中でも、人口当たりの医師数が最低クラスだ。このままではいけない。

 厚労省は医療費を抑えるために、医師の増員には慎重だ。医療へのニーズが変わりつつある中、無駄を見直し、医療費の配分をあらためて検討したい。医師の増員も選択肢の1つになる。

(信濃毎日新聞、2007年5月20日)

****** 医療タイムス、長野、2007年4月19日

「5年もすれば外科医はいなくなる」 ~久保信大教授が危機感を表明

 18日の県医師会理事会では、深刻化する医師不足に関する意見交換が行われ、久保惠嗣理事(信大医学部内科学教授)は、県内では産科や小児科医師だけでなく、外科医を志す学生も非常に少なく、「5年もすれば外科医がなくなる」との懸念を示した。

 久保理事は、信大医学部の現況について、「将来、外科に進もうという学生がほとんどいない」と説明。その上で、現在は産科や小児科医不足だけがクローズアップされているが、「このままでは外科も(産科や小児科と)同じような状況になり、5年もすれば外科医がいなくなるという状況もありうる」との危機感を訴えた。

 解決策としては、「一時的な対応として医師の集約化は必要だが、長い目で見ると解決にならない。学生自身が『外科に進みたい』と思ってもらえるようにしなければならない」と述べ、一地方の問題としてではなく、診療報酬や医療訴訟などの面からも国が真剣に考えるべきと強調した。

■後期研修医確保 「県内高校 頑張って」

 また、同日は県内における研修医の確保対策にも話が及んだ。信大の前期・後期研修医の状況について久保理事は、前期は40人程度残るが、後期は出身地に戻ったり、都会の有名大学に進む研修医が多く、前期研修医からは大幅に減ると説明。その上で、「長野県出身者が20、30人信大に入学してこないと(後期研修医を確保するのは)厳しい。県内の高校に頑張って(信大に入学させて)もらうしかない」と述べた。

 これに対し伊藤隆一理事は、「東京に行った学生は地元に帰ってこない」と述べ、都会に研修医が集中している現状に問題意識を表明。また、信大の「県民入学枠」をさらに増やすべきとの意見もあった。

 大西雄太郎会長は、「都会に負けない、魅力ある病院になる必要がある。大学を育てるのは医師会」と述べ、大学の魅力づくりに医師会が積極的に関わっていく方針を示した。

(医療タイムス、長野、2007年4月19日)

****** 毎日新聞、2007年5月11日

9割以上の医師、不足感じ 長野県医労連が労働実態調査

 ◇4人に1人、月80時間の残業/半数が健康に不安、病気がち/6割が職場を辞めたい

 県医療労働組合連合会(長野市)は10日、医師の労働実態調査を発表した。9割以上の医師が医師不足を感じており、4人に1人が過労死ラインとされる月80時間以上の時間外労働(残業)を行っているなど、深刻な状況が明らかになった。

 県医労連は今年1月から3月にわたり、県内の医療機関と、そこで勤務する医師に対してアンケート調査を実施。回答を得られた17施設と、医師79人(うち女性16人)の結果をまとめた。

 調査結果によると、1日の平均労働時間は10・4時間だが、12時間以上は全体の42%を占めた。月平均休日数は3・7日と少なく、全く休みを取れない医師も15%に上った。最長連続勤務日数の平均は15・3日、勤務時間では36・3時間と長時間労働が常態化。医師の半数が「健康に不安、病気がち」と答え、約6割が「職場を辞めたいと思った」としている。

 現在の医療現場について、97%が医師不足を実感。1病院で平均5人程度の医師が不足し、最も深刻なのは患者の多い内科で、精神科や救急部などが続くという。

 アンケートでは「60日連続の勤務で、39度の熱を出しても当直勤務をした」「終業時間に帰れず、複数の緊急事態が発生すれば対応できない」などの切実な声も寄せられた。県医労連の鎌倉幸孝書記長は「忙しくてアンケート調査にさえも答えられない医師もいる。労働環境の厳しさが浮き彫りになった」と話した。

 医師不足について、村井仁知事は同日の会見で、「県としては予算の倍増や各医療機関の連携を取ることなどが精いっぱいできることだ」とした。【藤原章博】

(毎日新聞、2007年5月11日)

****** 長野日報、2007年5月11日

勤務医4人に1人月80時間以上超勤 県医労連調査

 勤務医の4人に1人が「過労死ライン」とされる月80時間以上の超過勤務を強いられ、こうした過酷な勤務実態が高じて、6割近い医師が職場を辞めたいと考えていたことが10日、県医療労働組合連合会(長野市)が公表した「医師の労働実態調査」で分かった。勤務医の実態と課題を明らかにする目的で実施したが「アンケートに答える時間的余裕がない勤務医もいた」(県医労連)とし、医師不足の深刻さと対策の緊急性を訴えた。

 調査は県内の医療機関に勤務する医師や病院などを対象に行い、女性16人を含む79人の勤務医と17医療機関から回答が寄せられた。

 1日の労働時間では、16時間以上と答えた勤務医も3人いたほか、週の労働時間は65時間以上が31.7%もいた。最長勤務時間では「日勤―当直―日勤」と続き、連続36.3時間勤務したケースもあった。県医労連は「睡眠時間もままならず、休みも取れない勤務医の“超長時間労働”が常態化している」と分析している。

 健康状態では、半数が「健康に不安・不健康」と訴え、「翌日まで疲れが残る・いつも疲れている」が半数近くの46.8%にのぼった。職場を辞めたいと思うことは―の問いに対して「いつもあった」12.7%、「しばしばあった」26.6%、「時々」20.3%あり、「なかった」の24.1%を上回った。

 医師確保、退職防止対策では「賃金や労働条件の改善」を求める回答が78.5%と最も多い。具体的な医師不足数では、15病院が計71人と回答。内科医20人、精神科・神経科9人、救急医8人の順で、産婦人科・小児科以外の医師不足も深刻になっている実態が浮き彫りになった。

 調査結果について、県医労連は「県も医師確保対策に力を入れていることはありがたいが、現実は医師の奪い合いが起きているのが実態だ」と指摘した。

(長野日報、2007年5月11日)


研修医、拠点病院に集約 修了後へき地に 政府与党検討 (朝日新聞)

2007年05月19日 | 地域医療

現状では、研修医は都会の病院に集中し、地方の地域拠点病院の多くは研修医数が大幅に定員割れしています。もしも、国の施策として、都会の研修医の定員を大幅に減らして、地方の研修医の定員を大幅に増やし、今の研修医偏在の流れを大きく変えることに成功すれば、それは非常に画期的なことだと思います。

しかし、地方の地域拠点病院の多くは、大学病院への医師引き揚げにより常勤医数が大幅に減少し、辞めた医師達の補充もないので、医師不足で非常に困窮しています。従って、少ない常勤医達が日常の診療に忙殺され、研修医の指導どころではないと思われます。

指導態勢が不十分な病院に、研修医が多く配属されたとしても、まともな研修ができる筈がありません。今後、地域拠点病院に多くの研修医を誘導する国の方針ということであれば、先行して、まず拠点病院の常勤医数を大幅に増やし、指導医が研修医の指導に専念できるような態勢を実現しておく必要があります。

また、2年間の初期研修が終了したばかりの若手医師をへき地に単独で配属しても、せいぜい、とりあえずの応急処置くらいしかできません。へき地に単独で配属する前に、初期研修に加えて、3年間程度の後期研修をちゃんと済ませておく必要があると思われます。

産科医療に関して言えば、今、多くの地域で、拠点病院に産科医を集約化し、分娩取り扱いの継続に必要な人員を確保しようとしています。もしも、育成中の若手産科医を拠点病院からへき地に派遣するのが義務化されたら、今後、多くの地域で産科医療の継続が非常に困難となってしまうでしょう。

****** 朝日新聞、2007年5月19日

研修医、拠点病院に集約 修了後へき地に 政府与党検討

 政府・与党は18日、医師の不足や地域間の偏在を解消するため、大学卒業後の研修医の受け入れ先を地域の拠点病院に限定し、拠点病院にへき地への若手医師派遣を義務づける方向で検討に入った。従来、医師を割り振る役割を担ってきた大学医学部が、04年度の新しい臨床研修制度の導入をきっかけに機能しなくなってきたため、地域医療の中心になる拠点病院に代替させる狙いだ。

 政府・与党は同日、医師不足対策のための協議会を発足。100人程度の医師を国立病院機構などにプールし不足地域に緊急派遣する対策とともに、拠点病院からの派遣策について具体的な検討を進め、6月の骨太方針に盛り込む方針だ。

 これまで新卒医師の7割以上は大学医学部の医局に在籍して研修を受け、強い人事権を持つ教授と地元病院などとの話し合いで決められた医療機関に派遣されることが多かった。

 だが、新臨床研修制度の導入で原則として医師が自分で研修先を決められるようになり、実践的な技術を学べる一般病院を選ぶ医師が急増。都市部の病院に研修医が集中する一方、地方では定員割れの病院が続出し、へき地に医師を派遣するゆとりがなくなった。

 政府・与党は、現在年1万1300人分ある研修医の定員総枠を、研修医の総数8600人程度に削減することを検討。都市部を中心に定員枠を大幅に削減することで、地方への研修医の流入を促進するとともに、受け入れ先を地域の拠点病院に限定する。

 そのうえで、拠点病院に対して、研修の終わった若手医師を医師不足が深刻な地域に派遣することを義務づける。勤務を終えた医師には拠点病院でのポストを約束することで、若手医師の理解を得たい考えだ。都道府県が条例などで拠点病院に医師派遣を義務づけられるようにし、医師の供給を確実にすることを目指す。

(以下略)

(朝日新聞、2007年5月19日)


卒後研修システムの変化

2007年05月18日 | 地域医療

かつての卒後研修システムでは、若手医師たちがどの病院でいつからいつまで研修するのか、自分自身では全く関与できませんでした。

私自身、若い頃、いくつかの研修病院で勤務しましたが、ある日突然、『来月1日付けで○○病院への転勤が決まった』と医局長からの電話通告があって、あわてふためいて引越しの準備を始めました。次の勤務先でいつまで働くことになるのやら、いつになったら大学病院に戻ることになるのやら、自分では全く予測もできませんでした。当時は、日本中の若手医師たちが同じような境遇に置かれていましたので、その研修システムに対して異議を唱える者はいませんでした。

最近、卒後研修システムががらりと変わって、今では、若手医師たちが自分の進路を自ら選択する時代となってきました。彼らは、民間の医師紹介会社などを利用して、自分の研修病院は自分自身の希望条件で探し求め、医師個人と病院との直接交渉で研修病院が決定されるのが主流となりつつあります。彼らは、全国の多くの就職先候補病院の研修環境、雇用条件、住環境などを比較検討し、『専門医資格に向けた訓練ができて、キャリアアップにもつながり、きちんとした給料をもらえる病院』を、自らの意思で選択できるようになりました。

いったん研修を開始した若手医師でも、いつまで勤務してくれるのか?は、実際の研修内容次第です。もしも、研修を開始してみたものの、この病院では自分の希望するような研修ができないと判明すれば、彼らは自らの意思ですぐに退職してしまい、次の研修病院を探し求めてさっさと移動してしまうかもしれません。

これからは、若手医師たちにとって魅力的な研修態勢が整備され、専門医資格が取得できる教育病院として学会から施設認定を受けてない限り、若手医師からは決して選択してもらえないと思われます。


医学部に地域勤務枠…全国250人、授業料を免除

2007年05月13日 | 地域医療

医学部卒業後、最初の2年間は初期臨床研修が行われます。2年間で、内科、外科、救急、小児科、産婦人科、地域医療などの主要な科を数週間づつ順番に回って研修します。初期研修の間に、全科で共通の入門期の基本的な技術は、ある程度、身に付くはずです。

それぞれの科には数週間づつしか滞在しないので、専門的な技術の修得は無理ですが、各科のだいたいの雰囲気や医師のQOL(生活の質)を観察することは十分に可能です。各科の雰囲気、医師のQOLを十分に比較検討して、自分が専門とする科を何にするか?の決意を固め、卒業後3年目からいよいよ専門科の研修(後期研修)が始まります。

楽器演奏であれ、語学修得であれ、臨床医学の修得であれ、世の中のどんな技術の修得過程でも、たった1回実地を経験しただけですぐに自分でスイスイできるようにはなりません。しっかりした指導者のもとで、何度も何度も実地の経験を繰り返していくうちに、技術が自然にだんだんと身についていくものです。

後期臨床研修では、実地の臨床経験を多く積んで、しっかりした技術を身に付けていく必要があります。研修病院としては、技術のしっかりした指導医がいて、経験できる症例が豊富であることが必須条件で、研修期間も(できれば複数の研修病院で)最低でも計5~6年は必要だと思われます。

『地域勤務枠』の医学部卒業生たちを、未経験のままで強制的にへき地に送り込んで放置しておけば、とりあえずの応急処置くらいはできるかもしれませんが、たった1人ではできることにも大きな限界がありますし、いつまでたっても技術は向上しません。『医者が1人でもいてくれさえすれば、全くいないよりは、はるかにましだろう』というような考えでは、いつまでたっても地域の医療レベルは向上しませんし、都会と地方との医療レベルの格差は今後ますます広がっていくばかりです。

医学の世界は日進月歩です。今後、地方でも都会と比べて遜色のない医療を提供し続けていくためには、それぞれの地域の拠点病院で、初期臨床研修から後期臨床研修、高度のサブスペシャリティ専門医教育まで一貫して実施できるシステムをつくりあげ、地域の中で担当者達が緊密に連携して医療を担っていく体制を構築し、将来にわたり維持していく必要があると思います。

これから医学部に『地域勤務枠』が創設されるとしても、その卒業生たちが世の中に出回ってくるのはまだまだ当分先の話ですが、地域における卒後臨床研修体制を充実させることは、どの地域にとっても現時点での最重要課題だと思います。

****** 読売新聞、2007年5月13日

医学部に地域勤務枠…全国250人、授業料を免除

政府・与党方針、卒業後へき地で10年

 政府・与党は12日、へき地や離島など地域の医師不足・偏在を解消するため、全国の大学の医学部に、卒業後10年程度はへき地など地域医療に従事することを条件とした「地域医療枠(仮称)」の新設を認める方針を固めた。

 地域枠は、47都道府県ごとに年5人程度、全国で約250人の定員増を想定している。地域枠の学生には、授業料の免除といった優遇措置を設ける。政府・与党が週明けにも開く、医師不足に関する協議会がまとめる新たな医師確保対策の中心となる見通しだ。

(中略)

 地域枠のモデルとなるのは、1972年に全国の都道府県が共同で設立した自治医科大学(高久史麿学長、栃木県下野市)だ。同大では、在学中の学費などは大学側が貸与し、学生は、卒業後、自分の出身都道府県でのへき地などの地域医療に9年間従事すれば、学費返済などが全額免除される。事実上、へき地勤務を義務づけている形だ。

 新たな医師確保対策で、政府・与党は、この“自治医大方式”を全国に拡大することを想定している。全国には医学部を持つ国公立と私立大学が計80大学ある。このうち、地域枠を設けた大学に対し、政府・与党は、交付金などによる財政支援を検討している。

 医療行政に影響力を持つ自民党の丹羽総務会長は12日、新潟市内での講演で、「自治医大の制度を全国47都道府県の国公立大などに拡大したらどうか。5人ずつ増やせば、へき地での医師不足は間違いなく解消する」と述べ、“自治医大方式”の拡大を提案した。

 医学部を卒業した学生にへき地勤務を義務づけることは当初、「職業選択の自由に抵触する恐れがある」との指摘もあった。だが、「入学前からへき地勤務を前提条件とし、在学中に学費貸与などで支援すれば、問題ない」と判断した。

(以下略)

(読売新聞、2007年5月13日)


拠点病院から医師派遣、地方での不足解消…政府・与党方針 (読売新聞)

2007年05月12日 | 地域医療

地方の医師不足を解消するために、拠点病院から地域の病院・診療所に医師を派遣する案が、政府・与党で検討されているようです。

しかし、国公立の地域拠点病院の多くは、従来より、医師供給源として大学の医局人事に全面的に依存してきました。

従って、地域拠点病院こそ、大学医局の医師派遣機能低下の影響を一番もろに受けていて、極端な医師不足に陥り、今後の医師確保には非常に頭を悩ませている病院も少なくないと思われます。

地域の拠点病院で、他の医療機関に医師を派遣するだけの人的余裕のある病院が、果たして、どれくらい存在するのでしょうか?

****** 読売新聞、2007年5月10日

拠点病院から医師派遣、地方での不足解消…政府・与党方針

 政府・与党は9日、地方の医師不足を解消するため、医師が集まる国公立病院など地域の拠点となっている病院から、半年~1年程度の期間を区切り、地方の病院・診療所へ医師を派遣する新たな制度を整備する方針を固めた。

 医師派遣の主体を都道府県や病院関係者らで作る「医療対策協議会」とし、復帰後に医師が人事で不利益を受けない仕組みを担保するほか、医師を放出する拠点病院への補助金制度も導入する。厚生労働、文部科学など関係閣僚が参加する政府・与党協議会で来週から詳細な検討に入り、今年度中の制度スタートを目指す。

 医師派遣は従来、大学病院の教授が若手の研修医の人事権を握り、派遣先を決定してきた。だが、2004年度から医師臨床研修制度が義務化されると、若手医師らは上下関係が厳しい大学病院を敬遠して待遇のいい国公立病院などに殺到し、大学病院中心の医師派遣は事実上、崩壊した。

 厚労省によると、2004年に13都道府県を対象に行った調査では、都道府県庁所在地と周辺地域で人口10万人当たりの医師数が3倍以上開いていた。大学病院から地方への医師派遣が途絶え、格差はより深刻化したという。

 政府・与党は医師の偏在・不足に対応するため、医師派遣の主体を、大学病院から、医師の人気が高い拠点病院と都道府県へと移して派遣制度を再構築することにした。

(以下略)

(読売新聞、2007年5月10日)


地方病院の医師供給体制について

2007年05月10日 | 地域医療

かつては、地方自治体病院で医師が足りなくて困った場合に、市長、院長、事務長などが雁首をそろえて大学の医学部にお参りをして、教室員を派遣していただくように要請し、大学の医局人事で医師を派遣してもらうというのが常套手段でした。

私自身も、医局人事で、現在勤務する病院に赴任しました。ある日突然、教授室に呼ばれ、何事か?と思って教授室に行ってみると、「今度、○○病院に産婦人科が開設されることになり、教室員を派遣するよう要請があった。君に行ってもらうことに決めた。」との天のお告げがあり、新天地での一人医長生活が始まりました。

現在でも、地方自治体病院にとって、大学の医局人事が非常に重要な医師供給源であることに全く変わりはありませんが、現行の新臨床研修制度が始まって、研修医達が自分の研修先を自由に指定できるようになり、医師供給体制が激変しました。

研修医の研修先が分散し、以前ほどには研修医が大学病院に集まらなくなってしまったために、大学病院自体の診療態勢を維持するのが困難となってきて、関連病院に医師を派遣する余裕がだんだん失われつつあります。派遣医師の大学病院への引き揚げにより、医師不足で診療態勢の維持が困難となっている地域中核病院も少なくありません。

研修医の研修先が医局人事により否応なく決まっていた従来のシステムはほとんど崩壊しつつあり、研修医の自由意志により研修先が決まる新しいシステムになったため、今後は、研修医にとって魅力のある研修態勢が整ってない限り、研修医は決して集まりません。

また、2年間の初期研修に続く後期研修でも事情は全く同じで、医師個人の自由意志での病院への就職がだんだん主流となりつつあり、大学病院も多くの就職先候補の一つという位置付けになってきています。従って、医師の供給源として、従来通りに大学の医局人事だけに依存していたんでは、いくら待っても、欠員補充の医師は永久に来ないかもしれません。

病院スタッフの平均年齢が年々上がり、医師数も減る一方で、残った医師は皆おじいさん先生ばかりで若い医師が全くいないような状況では、病院の明るい未来は決してあり得ません。今後、病院がこの世の中に生き残っていくためには、研修医に選ばれるような魅力ある研修態勢を整えてゆくことが必須条件だと思います。

かつての医学部卒業生は、いったんどこかの医局に入局したら最後、その後の自分の職場は、有無を言わせぬ医局人事で決まっていたので、自分自身では全く関与できませんでした。しかし、今の医学部卒業生は、他学部卒業生と全く同様に、自分の人生をかけて真剣に就職活動をするようになりました。

世の中の状況はどんどん変化しています。高齢化した医師だけの不十分な診療態勢でむりやり頑張り続けるのにも限界があります。もしも、この先、病院独自ではどうしても若いスタッフを集められなくなり、病院の診療態勢を維持することが困難になれば、病院の現態勢には早めに見切りをつけ、さっさとどこかの病院と合流して、集約化による診療態勢の再構築を目指すしか道はないのかもしれません。


転院断られ死亡の妊婦、詳細な診療情報がネットに流出(読売新聞)

2007年05月04日 | 報道記事

コメント(私見):

当時の読売新聞の記事(2006年10月31日)にも詳細な診療情報の記載やカルテの写真【画像】がありましたし、毎日放送のニュース番組(2006年11月2日)の映像にもカルテの写真【画像】が映ってました。

また、その後の情報で、2006年10月21日放映のTBS「ブロードキャスター」にカルテのコピーの映像【画像】があったことも判明しました。(5月8日に追記)

従って、当時、マスコミ側にはカルテのコピーが広く配布されていたと考えられますし、その配布された資料をもとにして書かれた当初の報道記事には専門医による医学的な検証がほとんどなく、担当医師の責任を追及する一方的な記事が多かったのは確かです。

しかし、この事件に関する最初の報道記事を読んだ時に、『待てよ。詳細はよくわからないけれど、もしかして、この事例は、医療過誤事件というより、むしろ、地域医療体制の不備が根本的な問題ではないのだろうか?』と感じました。他の医師たちのブログでも、同様の感想を多くみかけました。

            △

ところで、最近は、電子カルテを採用する病院が多くなり、患者さんへのカルテ開示は非常に容易になりました。診療中に患者さんから「今日の診療記録と検査結果を全部プリントアウトしてください」と言われれば、ワンクリックですぐに何でもプリントアウトでき、手術記録でも、病理検査レポートでも、エコーやMRIの写真でも、何でも気軽にどんどんプリントアウトして、患者さんに手渡してます。ですから、基本的に病院側と全く同じ診療情報が患者さん側にも存在することになります。

その情報を、患者さん側は自由にどこにでも公開できるが、病院側は一切外部に漏らしてはならないということになります。そういうことになると、万が一、診療情報の都合のいい部分だけを公開して、病院や医師個人を不当に攻撃するような人が出現した場合には、病院側としては一体全体どうやって反論したらいいのでしょうか? 法律的にはどうなっているのか、さっぱりわかりません。非常に難しい問題だと思われます。

参考:

転送拒否続き妊婦が死亡 分娩中に意識不明

奈良県警が業務上過失致死容疑で捜査へ 妊婦死亡問題

産婦人科医会「主治医にミスなし」 奈良・妊婦死亡で県産婦人科医会 (朝日新聞)

妊婦転院拒否、断った大阪に余裕なし 満床や人手不足 (朝日新聞)

<母子医療センター>4県で計画未策定 国の産科整備に遅れ

奈良の妊婦死亡、産科医らに波紋 処置に賛否両論

医療機関整備で県外派遣産科医の撤収へ 奈良・妊婦死亡 (朝日新聞)

****** 読売新聞、2007年4月29日

転院断られ死亡の妊婦、詳細な診療情報がネットに流出

 奈良県大淀町の町立大淀病院で昨年8月、○○○○さん(当時32歳)が出産時に脳内出血を起こし、19病院に転院受け入れを断られた後、死亡した問題で、○○さんの診療経過など極めて詳細な個人情報がインターネット上に流出していることがわかった。

 情報は医師専用の掲示板に、関係者らしい人物が書き込んだとみられ、「転載して結構です」としていたため、同じ内容が、医師や弁護士など、かなりの数のブログに転載されている。

 遺族側の石川寛俊弁護士が28日、大阪市内で開かれた産科医療をめぐる市民団体のシンポジウムで明らかにした。石川弁護士は、個人情報保護条例に基づく対処を町に要請した。遺族は条例違反(秘密漏示)などでの刑事告訴も検討している。

 書き込みは、昨年10月に問題が報道された翌日から始まった。仮名で「ソース(情報源)が確実なきょう聞いた話」「この文章はカルテのコピーを見ながらまとめました」などとして、最終月経の日付から妊娠中の経過、8月7日に入院して意識不明になるまでの身体状況や検査値、会話など、カルテや看護記録とほぼ同じ内容を複数回に分けて克明に書き込んでいた。

 この中には、入院前の記録など、当時、遺族が入手していなかった内容や、医師の勤務状況など病院関係者しか知らない内容も含まれていた。

 石川弁護士は「主治医と家族のやりとりを近くで聞いていた人物としか思えない書き込みもある。許しがたい」と批判している。

 遺族は「あまりに個人的な内容で驚いた。患者の情報が断りもなく第三者に伝わるなら、診察室で何も言えない」と話している。

 大淀病院の横沢一二三事務局長は「○○さんが入院した日に病院にいた職員を対象に聞き取りをした。全員が『情報を漏らしたことはない』と答えたので調査を終えたが、遺族の弁護士には伝えていない。掲示板の運営事業者への照会などは思いつかなかった。再度検討する」と話している。

(読売新聞、2007年4月29日)

****** 毎日新聞、2007年4月29日

診療情報流出:19病院で転送断られた妊婦遺族が告訴へ

 奈良県大淀町の町立大淀病院で昨年8月、分娩(ぶんべん)中に意識不明になった○○○○さん(当時32歳)が、県内外の19病院で転送を断られた末に搬送先の病院で出産後に死亡した問題で、○○さんの診療情報がインターネット上に流出していたことが分かった。遺族は被疑者不詳のまま町個人情報保護条例違反容疑で、5月にも県警に告訴する。

 流出したのは、○○さんの看護記録や意識を失った時刻、医師と遺族のやりとりなど。ネット上の医師専用の掲示板に書き込まれ、多数のブログなどに転載された。この掲示板は登録者数10万人以上で、問題が報道された昨年10月から書き込みが始まった。

 遺族は「医師専用掲示板には患者の中傷があふれている。診療情報の流出は自分たちだけの問題ではないと思い、告訴に踏み切ることを決めた」と話している。【中村敦茂】

(毎日新聞、2007年4月29日)

****** 産経新聞、2007年4月29日

死亡妊婦のカルテ内容、医師専用掲示板に流出

 奈良県の大淀町立大淀病院で出産中に意識不明になり約20の病院に受け入れを断られた後、死亡した○○○○さん=当時(32)=のカルテ内容などがインターネット上に流出していることが29日、分かった。医師専用の掲示板に「カルテのコピーを見た」などと書き込まれた文章が、ブログなどに転載された。遺族は、個人情報保護条例や地方公務員法(守秘義務)違反などでの刑事告訴を検討している。

 ○○さんは昨年8月、頭痛を訴え意識不明になったが、主治医はけいれんと判断。死因は脳内出血だった。遺族らによると、同年10月に○○さんの死亡が報道された直後から、医師免許を持つ人しか利用できない「国内最大級」をうたう掲示板で議論が始まった。

 同月中に、ある仮名の利用者が「カルテのコピーを見ました。コピーはもう返却しました」などとして、○○さんが8月7日に入院するまでの記録や診療の詳細など、遺族も知らない内容を書き込んだ。

 遺族は「女性にとって大切な情報がいとも簡単に流された。医師のモラルとしてあってはならないこと」と憤っている。ネット上で流出情報を基に遺族らへの中傷も相次ぎ、掲示板では「医師に責任はなかった」とする意見が多いという。

(産経新聞、2007年4月29日)

****** 日刊スポーツ、2007年4月30日

死亡妊婦カルテ、医師専用ネットに流出

 奈良県大淀町立大淀病院で昨年8月、出産中に意識不明となり、19の病院に受け入れを断られた後、死亡した○○○○さん(当時32)のカルテ内容がインターネット上に流出していることが29日、分かった。医師専用の会員制掲示板に「カルテのコピー」を見たとの書き込みがあり、複数のブログなどに転載された。○○さんの遺族は担当弁護士と協議し、個人情報保護条例や地方公務員法(守秘義務)違反などで刑事告訴を検討している。

 ○○さんの個人情報が、医師免許を持つ人しか利用できない会員制掲示板で、さらされていた。書き込みは昨年10月に○○さんの死亡が報道された直後から始まった。「カルテのコピーを見た。コピーはもう返却した」などとし、○○さんの最終月経の日付を含む入院するまでの妊娠中の経過、診療の詳細など、遺族も知らない内容が専門用語とともに書き込まれた。

 遺族は「掲載された掲示板は医師専用というが、女性の極めて個人的な情報を含む産婦人科のカルテが、家族に断りもなくネットに掲載されていいのか」と憤りを隠せない。「家族も知らない内容まで他人が勝手に見て話し合っている。そんなことが許されるのか。医師である前に人間としてどうか。世の中に問いたい」と話した。

 遺族が掲示板への情報流出を確認したのは昨年11月。掲示板には「遺族が騒ぐから産婦人科医が減って医療が崩壊する、など私たちへの批判もあった」という。公にすれば情報の流出範囲が拡大するとの懸念もあり、公表は控えていたが、大淀病院や大淀町への問い合わせにも返答がなく、公表を決意したという。担当弁護士と協議し、被疑者不詳での刑事告訴を検討している。

 ○○さんのカルテ内容とみられる情報は、医療関係者のものとみられる複数のブログなどに今も転載されている。あるブログは、掲示板への書き込み以前に、遺族が報道陣に「カルテのコピー」を公開していたと主張。コピーを医療関係者が分析してまとめただけとし「(個人情報保護条例違反には)当たらないだろう」と書き込んでいる。しかし、遺族側は「報道陣に公開したのは、出産のために入院した昨年8月7~8日の『看護記録』だけ。カルテなど公開してない。さらされた情報には、遺族も知らない通院中のカルテの内容が含まれ、病院関係者しか知り得ない情報だ」としている。

(日刊スポーツ、2007年4月30日)

****** 共同通信、2007年5月1日

カルテ内容がネット流出 奈良の妊婦死亡、告訴検討

 奈良県の大淀町立大淀病院で出産中に意識不明になり、約20の病院に受け入れを断られた後、死亡した○○○○さん=当時(32)=のカルテ内容などがインターネット上に流出していることが29日、分かった。

 医師専用の掲示板に「カルテのコピーを見た」などとして書き込まれた文章が、ブログなどに転載された。遺族は、個人情報保護条例や地方公務員法(守秘義務)違反などでの刑事告訴を検討している。

 ○○さんは昨年8月、頭痛を訴え意識不明になったが、主治医はけいれんと判断。死因は脳内出血だった。

 遺族らによると、同年10月に高崎さんの死亡が報道された直後から、医師免許を持つ人しか利用できない「国内最大級」をうたう掲示板で議論が始まった。

 同月中に、ある仮名の利用者が「カルテのコピーを見ました。コピーはもう返却しました」などとして、○○さんが8月7日に入院するまでの記録や診療の詳細など、遺族も知らない内容を書き込んだ。

 遺族は「女性にとって大切な情報がいとも簡単に流された。医師のモラルとしてあってはならないこと」と憤っている。

 ネット上で流出情報を基に遺族らへの中傷も相次ぎ、掲示板では「医師に責任はなかった」とする意見が多いという。

(共同通信、2007年5月1日)


医の現場 疲弊する勤務医 (1)「医師逮捕」心キレた (読売新聞)

2007年05月03日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

産科の場合、どの妊婦さんでも、妊娠や分娩の経過中にかなりの確率で異変が突発する可能性があり、24時間いつでも緊急事態に適切に対応できる体制を維持する必要があります。異変はいつ誰に起こるのか全く予測できませんから、産科業務を少ない人員で回そうとすれば、スタッフの負担は非常に大きくなります。劣悪な労働環境のまま放置すれば、必死で頑張ってきた産婦人科医たちも、いつか耐え切れずに医療現場から静かに立ち去っていくことでしょう。

今、多くの地域中核病院の産科が破綻し、分娩の取り扱いや急変患者の受け入れを休止しています。分娩経過中に何か異変が起こる度に、大あわてで搬送先を探して、救急車で患者を送り出すというような体制の分娩施設では、急変患者の受け入れ先がだんだん見つかりにくくなっています。

地域内の産婦人科医たちが燃え尽きて全員いなくなってしまってからでは、今後どこからも産婦人科医は補充されず、もはやどうすることもできません。手遅れとなる前に、地域の少ない医療資源を有効活用し、地域で協力して分娩体制を維持していく必要があります。

しかし、地域の協力体制で、産科崩壊の危機を何とかギリギリしのげたとしても、それはあくまで一時的な緊急避難措置にしか過ぎません。産婦人科医や助産師を地域で養成し、地道にその数を増やしていかない限り、地域の分娩体制を長期的に維持することは困難です。

****** 読売新聞、2007年4月30日

医の現場 疲弊する勤務医
(1)「医師逮捕」心キレた

ミスの不安と激務 女医辞める

 「精いっぱいやっても患者が亡くなれば逮捕。これではやっていけません」

 昨年夏、公立病院に勤務していた一人の女性産婦人科医(42)が、そんな理由で医療現場を去った。月6回の当直日は翌日夕まで32時間の連続勤務。仕事の合間にコンビニエンスストアのおにぎりをかじり、睡眠不足のまま手術することも。たまの休日でも呼び出しがかかる。スタッフ削減などで仕事は増える一方だ。

 体力の限界。この生活がいつまで続くのかという不安。燃え尽きる直前の女医に、白衣を脱ぐ決断をさせたのが福島県で起きた「大野病院事件」だった。

大野病院事件 2004年12月、福島県大熊町の県立大野病院で、帝王切開手術を受けた女性(当時29歳)が失血死した。同県警は昨年2月、業務上過失致死と医師法(異状死体の届け出義務)違反の容疑で産婦人科医(39)を逮捕。その後、起訴された医師は無罪を主張している。

               ◇

 「逮捕・起訴の時に殺到した医療関係者からの抗議のメールや投書が1年以上たった今も続いている。こんなことは初めてだ」。福島地検の幹部はそう明かす。

 福島県立大野病院で帝王切開手術を受けた女性が死亡し、医師が逮捕・起訴された事件は、医学界に空前の反発を巻き起こした。昨年2月の逮捕以降、捜査を遺憾とする陳情書の署名が、全国の病院勤務医を中心に1万2000人にも及んだ。

 「病院の産婦人科を支えるたった一人の医師をこんなふうにつぶしてしまえば、地域医療は崩壊する」。医学会や医師たちの会合、医師個人のブログで、そんな声があふれる。「医療に刑事罰はなじまない」とも。欧米では、捜査当局ではなく、第三者機関が原因を調べる方法が一般的なのに……。そんな考えが背景にある。

 今月27日、福島地裁で開かれた医師の第4回公判。「癒着胎盤の処置で過失があった」とする検察と、「できる限りの施術を尽くした」とする被告の主張は真っ向から対立したままだ。

 警察庁によると、医療事故で、医師が業務上過失致死容疑で逮捕されたのは大野病院事件が4件目。最初は1988年、鹿児島県で研修医が造影剤を脊髄(せきずい)に誤注射して患者を死亡させた事件だったが、当時、この逮捕は注目されなかった。

 分岐点は、1999年の横浜市大病院の患者取り違え事故。逮捕はなかったが、医療不信が燎原(りょうげん)の火のように広がった。その後も医師が腹腔(ふくくう)鏡手術で60歳患者を死亡させた慈恵医大青戸病院の事件(2003年)など、医師逮捕が続く。だが、過酷な労働実態の問題は棚上げされ、むしろ悪化した。医師の反発は今、臨界点に達した感がある。

               ◇

 今年2月、妊娠10か月の母親が東京都内の病院に担ぎ込まれた。異常妊娠で男児は死亡していたが、産婦人科医(35)は母親の命を守るため陣痛促進剤を使い、出産を支えた。「助けるよ。心配しないで」。十数時間の格闘で、医師は母親を励まし続けた。

 翌日、両親は男児の病理解剖を望んだ。「原因が分かれば他の赤ちゃんが救われる。でも顔は傷つけないで」

 が、その後の病院の対応が両親との信頼関係を壊す。大野病院事件の医師は異状死体の届け出義務違反でも立件されたが、この二の舞いを恐れた病院側が警察に連絡したのだ。警察官の姿を見た父親が叫んだ。「なぜ警察を呼ぶの?(司法解剖で)顔も切るの? 僕の赤ちゃんだよ」

 4か月以上の胎児は異状死の届け出対象になりえるが、その判断基準はあいまいなまま。この時は司法解剖は見送られたが、両親には病院への不信感が残った。格闘の末、母親の命を救った産婦人科医は月に8回以上の当直をこなしていた。彼は悔しそうに話す。「患者さんからの『ありがとう』の一言さえあればやっていけるのに。今はその関係さえ揺らいでいる」

 大野病院事件のショックで産婦人科医を辞めた女性は今、化学会社の専門職として働く。「改善の取り組みがなければ、踏みとどまっている元同僚たちも、遠からずいなくなります」

               ◇

 勤務医の劣悪な労働環境をどうするのか。厚生労働省は、患者の流れを整理し、病院の負担を軽くする「総合科」創設構想をまとめたが、医の現場では、医師不足に医療事故への不安が重なり、崩壊寸前の所もある。勤務医の現状を追う。

(2007年4月30日  読売新聞)