コメント(私見):
当時の読売新聞の記事(2006年10月31日)にも詳細な診療情報の記載やカルテの写真【画像】がありましたし、毎日放送のニュース番組(2006年11月2日)の映像にもカルテの写真【画像】が映ってました。
また、その後の情報で、2006年10月21日放映のTBS「ブロードキャスター」にカルテのコピーの映像【画像】があったことも判明しました。(5月8日に追記)
従って、当時、マスコミ側にはカルテのコピーが広く配布されていたと考えられますし、その配布された資料をもとにして書かれた当初の報道記事には専門医による医学的な検証がほとんどなく、担当医師の責任を追及する一方的な記事が多かったのは確かです。
しかし、この事件に関する最初の報道記事を読んだ時に、『待てよ。詳細はよくわからないけれど、もしかして、この事例は、医療過誤事件というより、むしろ、地域医療体制の不備が根本的な問題ではないのだろうか?』と感じました。他の医師たちのブログでも、同様の感想を多くみかけました。
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ところで、最近は、電子カルテを採用する病院が多くなり、患者さんへのカルテ開示は非常に容易になりました。診療中に患者さんから「今日の診療記録と検査結果を全部プリントアウトしてください」と言われれば、ワンクリックですぐに何でもプリントアウトでき、手術記録でも、病理検査レポートでも、エコーやMRIの写真でも、何でも気軽にどんどんプリントアウトして、患者さんに手渡してます。ですから、基本的に病院側と全く同じ診療情報が患者さん側にも存在することになります。
その情報を、患者さん側は自由にどこにでも公開できるが、病院側は一切外部に漏らしてはならないということになります。そういうことになると、万が一、診療情報の都合のいい部分だけを公開して、病院や医師個人を不当に攻撃するような人が出現した場合には、病院側としては一体全体どうやって反論したらいいのでしょうか? 法律的にはどうなっているのか、さっぱりわかりません。非常に難しい問題だと思われます。
参考:
転送拒否続き妊婦が死亡 分娩中に意識不明
奈良県警が業務上過失致死容疑で捜査へ 妊婦死亡問題
産婦人科医会「主治医にミスなし」 奈良・妊婦死亡で県産婦人科医会 (朝日新聞)
妊婦転院拒否、断った大阪に余裕なし 満床や人手不足 (朝日新聞)
<母子医療センター>4県で計画未策定 国の産科整備に遅れ
奈良の妊婦死亡、産科医らに波紋 処置に賛否両論
医療機関整備で県外派遣産科医の撤収へ 奈良・妊婦死亡 (朝日新聞)
****** 読売新聞、2007年4月29日
転院断られ死亡の妊婦、詳細な診療情報がネットに流出
奈良県大淀町の町立大淀病院で昨年8月、○○○○さん(当時32歳)が出産時に脳内出血を起こし、19病院に転院受け入れを断られた後、死亡した問題で、○○さんの診療経過など極めて詳細な個人情報がインターネット上に流出していることがわかった。
情報は医師専用の掲示板に、関係者らしい人物が書き込んだとみられ、「転載して結構です」としていたため、同じ内容が、医師や弁護士など、かなりの数のブログに転載されている。
遺族側の石川寛俊弁護士が28日、大阪市内で開かれた産科医療をめぐる市民団体のシンポジウムで明らかにした。石川弁護士は、個人情報保護条例に基づく対処を町に要請した。遺族は条例違反(秘密漏示)などでの刑事告訴も検討している。
書き込みは、昨年10月に問題が報道された翌日から始まった。仮名で「ソース(情報源)が確実なきょう聞いた話」「この文章はカルテのコピーを見ながらまとめました」などとして、最終月経の日付から妊娠中の経過、8月7日に入院して意識不明になるまでの身体状況や検査値、会話など、カルテや看護記録とほぼ同じ内容を複数回に分けて克明に書き込んでいた。
この中には、入院前の記録など、当時、遺族が入手していなかった内容や、医師の勤務状況など病院関係者しか知らない内容も含まれていた。
石川弁護士は「主治医と家族のやりとりを近くで聞いていた人物としか思えない書き込みもある。許しがたい」と批判している。
遺族は「あまりに個人的な内容で驚いた。患者の情報が断りもなく第三者に伝わるなら、診察室で何も言えない」と話している。
大淀病院の横沢一二三事務局長は「○○さんが入院した日に病院にいた職員を対象に聞き取りをした。全員が『情報を漏らしたことはない』と答えたので調査を終えたが、遺族の弁護士には伝えていない。掲示板の運営事業者への照会などは思いつかなかった。再度検討する」と話している。
(読売新聞、2007年4月29日)
****** 毎日新聞、2007年4月29日
診療情報流出:19病院で転送断られた妊婦遺族が告訴へ
奈良県大淀町の町立大淀病院で昨年8月、分娩(ぶんべん)中に意識不明になった○○○○さん(当時32歳)が、県内外の19病院で転送を断られた末に搬送先の病院で出産後に死亡した問題で、○○さんの診療情報がインターネット上に流出していたことが分かった。遺族は被疑者不詳のまま町個人情報保護条例違反容疑で、5月にも県警に告訴する。
流出したのは、○○さんの看護記録や意識を失った時刻、医師と遺族のやりとりなど。ネット上の医師専用の掲示板に書き込まれ、多数のブログなどに転載された。この掲示板は登録者数10万人以上で、問題が報道された昨年10月から書き込みが始まった。
遺族は「医師専用掲示板には患者の中傷があふれている。診療情報の流出は自分たちだけの問題ではないと思い、告訴に踏み切ることを決めた」と話している。【中村敦茂】
(毎日新聞、2007年4月29日)
****** 産経新聞、2007年4月29日
死亡妊婦のカルテ内容、医師専用掲示板に流出
奈良県の大淀町立大淀病院で出産中に意識不明になり約20の病院に受け入れを断られた後、死亡した○○○○さん=当時(32)=のカルテ内容などがインターネット上に流出していることが29日、分かった。医師専用の掲示板に「カルテのコピーを見た」などと書き込まれた文章が、ブログなどに転載された。遺族は、個人情報保護条例や地方公務員法(守秘義務)違反などでの刑事告訴を検討している。
○○さんは昨年8月、頭痛を訴え意識不明になったが、主治医はけいれんと判断。死因は脳内出血だった。遺族らによると、同年10月に○○さんの死亡が報道された直後から、医師免許を持つ人しか利用できない「国内最大級」をうたう掲示板で議論が始まった。
同月中に、ある仮名の利用者が「カルテのコピーを見ました。コピーはもう返却しました」などとして、○○さんが8月7日に入院するまでの記録や診療の詳細など、遺族も知らない内容を書き込んだ。
遺族は「女性にとって大切な情報がいとも簡単に流された。医師のモラルとしてあってはならないこと」と憤っている。ネット上で流出情報を基に遺族らへの中傷も相次ぎ、掲示板では「医師に責任はなかった」とする意見が多いという。
(産経新聞、2007年4月29日)
****** 日刊スポーツ、2007年4月30日
死亡妊婦カルテ、医師専用ネットに流出
奈良県大淀町立大淀病院で昨年8月、出産中に意識不明となり、19の病院に受け入れを断られた後、死亡した○○○○さん(当時32)のカルテ内容がインターネット上に流出していることが29日、分かった。医師専用の会員制掲示板に「カルテのコピー」を見たとの書き込みがあり、複数のブログなどに転載された。○○さんの遺族は担当弁護士と協議し、個人情報保護条例や地方公務員法(守秘義務)違反などで刑事告訴を検討している。
○○さんの個人情報が、医師免許を持つ人しか利用できない会員制掲示板で、さらされていた。書き込みは昨年10月に○○さんの死亡が報道された直後から始まった。「カルテのコピーを見た。コピーはもう返却した」などとし、○○さんの最終月経の日付を含む入院するまでの妊娠中の経過、診療の詳細など、遺族も知らない内容が専門用語とともに書き込まれた。
遺族は「掲載された掲示板は医師専用というが、女性の極めて個人的な情報を含む産婦人科のカルテが、家族に断りもなくネットに掲載されていいのか」と憤りを隠せない。「家族も知らない内容まで他人が勝手に見て話し合っている。そんなことが許されるのか。医師である前に人間としてどうか。世の中に問いたい」と話した。
遺族が掲示板への情報流出を確認したのは昨年11月。掲示板には「遺族が騒ぐから産婦人科医が減って医療が崩壊する、など私たちへの批判もあった」という。公にすれば情報の流出範囲が拡大するとの懸念もあり、公表は控えていたが、大淀病院や大淀町への問い合わせにも返答がなく、公表を決意したという。担当弁護士と協議し、被疑者不詳での刑事告訴を検討している。
○○さんのカルテ内容とみられる情報は、医療関係者のものとみられる複数のブログなどに今も転載されている。あるブログは、掲示板への書き込み以前に、遺族が報道陣に「カルテのコピー」を公開していたと主張。コピーを医療関係者が分析してまとめただけとし「(個人情報保護条例違反には)当たらないだろう」と書き込んでいる。しかし、遺族側は「報道陣に公開したのは、出産のために入院した昨年8月7~8日の『看護記録』だけ。カルテなど公開してない。さらされた情報には、遺族も知らない通院中のカルテの内容が含まれ、病院関係者しか知り得ない情報だ」としている。
(日刊スポーツ、2007年4月30日)
****** 共同通信、2007年5月1日
カルテ内容がネット流出 奈良の妊婦死亡、告訴検討
奈良県の大淀町立大淀病院で出産中に意識不明になり、約20の病院に受け入れを断られた後、死亡した○○○○さん=当時(32)=のカルテ内容などがインターネット上に流出していることが29日、分かった。
医師専用の掲示板に「カルテのコピーを見た」などとして書き込まれた文章が、ブログなどに転載された。遺族は、個人情報保護条例や地方公務員法(守秘義務)違反などでの刑事告訴を検討している。
○○さんは昨年8月、頭痛を訴え意識不明になったが、主治医はけいれんと判断。死因は脳内出血だった。
遺族らによると、同年10月に高崎さんの死亡が報道された直後から、医師免許を持つ人しか利用できない「国内最大級」をうたう掲示板で議論が始まった。
同月中に、ある仮名の利用者が「カルテのコピーを見ました。コピーはもう返却しました」などとして、○○さんが8月7日に入院するまでの記録や診療の詳細など、遺族も知らない内容を書き込んだ。
遺族は「女性にとって大切な情報がいとも簡単に流された。医師のモラルとしてあってはならないこと」と憤っている。
ネット上で流出情報を基に遺族らへの中傷も相次ぎ、掲示板では「医師に責任はなかった」とする意見が多いという。
(共同通信、2007年5月1日)