ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

秋田県の産科医不足の状況

2006年07月31日 | 地域周産期医療

****** コメント

助産師の活用についての私見:

総合病院の中のチーム医療として、産科医、新生児科医、麻酔科医との緊密なタイアップのもとで、助産師の活躍の場を広げてゆくことは非常に大切です。しかし、産科医不在の病院の中で、助産師を単独で活用しようとしても、助産師単独では患者の急変時に十分な対応ができないという大きな問題があります。

産科医、新生児科医、麻酔科医などの医療チームとの緊密なタイアップがあってこそ、助産師も思う存分に活躍できます。従って、産科医不在となった病院の助産師達を有効に活用しようとするのであれば、その病院の助産師全員が、即刻、産科医のいる病院に移籍するのがベストだと思われます。すなわち、今後は、産科医の集約化だけではなく、助産師の集約化も非常に重要だと思います。

『産科医がいなくなってしまったので、地域住民のために助産師だけで頑張ってくれ』というのでは、全くの丸腰で兵士を激戦地に送り出すようなもので、全員玉砕は間違いないです。

助産師は地域にとって非常に貴重な人材です。彼女達を地域の中でいかにして有効に活用するのか?をよくよく考えるべきだと思います。

****** 毎日新聞、2006年7月30日

産科医が足りない/秋田

 秋田大からの産科医師派遣が9月で中止される大館市立扇田病院の対応を検討する医療関係者の協議会が過日あった。医師不足は全国に広がる現象だが産科医療現場からの声はあまりにも切実だった。
 産科医療に定評があった扇田病院。大館鹿角地区の3病院での年間分べん件数は昨年1012件。このうち扇田病院は474件で約46%。最近5年の年間分べんは500件以上をコンスタントに扱う県北地区では産科医療の中心的存在だった。だが産科医師2人が9月で不在となる。大本直樹院長は「派遣中止はあまりに唐突」と大学側の体制に疑問を投げた。今後対応として「9月以降に助産師外来の開設を検討したい」と述べた。20週から40週の安定期に入った患者の検診を助産師が外来で対応するとの考えだ。
 助産師は看護師の免許取得後、助産の専門教育を受けた女性だけに与えられる資格。席上、産科医療では卓越した技術を持つ田中俊誠・秋田大医学部教授も「お産のプロである助産師の活用は医療現場では一番大切」と助産師外来へ理解を見せた。
 現在県北で出産を扱う医療施設は7施設で常勤の産科医師は13人いる。県助産師会大館北秋田支部によると出産の約99%は病院で行うのが通常。現場での助産師の存在は欠かせず「高リスクの出産を除いては助産師が対応するのがほとんど」という。分べんは産科医師、麻酔医師に加え小児科医師の参加も必要なチーム医療が必要な分野。その中でも助産師の存在は今後ますます必要、との方向でまとめた。
 「医は仁術」との例えがある。医は人命を救う博愛の道との意味だが、優れた医者は技術もあるが患者の心をとらえるすべにもたけているとのとらえ方だ。医療技術が日進月歩となっている現在、患者の不安を除去するのに、医師数の充足は最低限必要なことだ。一自治体だけでなく国レベルでの問題解決が迫られている。【村川幸夫】

(毎日新聞、2006年7月30日)

****** 毎日新聞、2006年7月7日

大館鹿角地域検討会、産科医不足、対応を協議、初会合/秋田

 県と大館・鹿角両市などの産科医療関係者でつくる「大館鹿角地域産科医療体制検討会」の初会合が6日、大館市内で開かれた。

 秋田大から大館市立扇田病院産婦人科への産科医師派遣が8月末で中止されるのに伴うもので、関係者23人が協議。鹿角組合総合病院の産科医師が9月以降、1人増員され2人体制になるのを受け、大館市立総合病院との連携で分べん受け入れの増大を図ることを決めたほか、産科医師確保▽助産師活用--などに取り組むことを確認した。

 扇田病院は秋田大から2人の医師派遣中止の通告を受けて、9月以降の産科診療の継続が困難な状況にある。市は対応策として総合病院の機能拡充で可能な限りカバーし、市内の人の分べんを優先。「市外在住者は原則として断り、里帰り出産も制限する」との方針を示している。

 市立総合病院によると昨年度の総分べん件数は総合病院が309件。これに対し扇田病院は総分べん件数が474件(市内分280件、市外分194件)。2病院で北秋田地域の大半を取り扱うのが現状だ。一方、この10年間で県全体では産科医師は17人減少し、昨年の産科医師数は97人となっている。【村川幸夫】

(毎日新聞、2006年7月7日)


医学部の「地域枠」急増

2006年07月30日 | 地域医療

卒業生達が県内に多く残留してくれるかどうか?は、地方の医学部にとってはまさに死活問題ですから、最近は、全国の大学医学部が、最重要課題として、非常に熱心にこの問題と取り組み始めたように感じています。

医学部入試の「地域枠」拡大も、その多くの試みの中の一つだと思われます。将来の地域医療を支えてくれる後継者達を養成するために、長期的な展望に立って、じっくりと取り組んでいっていただきたいと思います。

我々一般病院の医師達も、臨床実習の指導などで全面的に協力し、若い医学生達に地域医療の現場を実体験してもらい、将来は一緒に頑張ってもらいたいと願っています。

本音を言えば、個人的には、将来の専攻科が産婦人科であってくれたら一番うれしいのだけれど、小児科医や麻酔科医なども増えてくれないと話になりませんから、この際、別に産婦人科志望でなくてもいいから、とにかく、卒業後に県内に残留してくれると非常にありがたいと願いつつ、若い医学生達と接しています。

最近、当科に実習に来た医学生達(5年、6年)に進路を聞いてみると、例年よりも比較的多くの者が『卒業後は県内の病院で研修する』と言ってます。また、『将来の志望科として、産婦人科を考えています!』と断言する学生もけっこういます。

****** 読売新聞、2006年7月29日

医学部の「地域枠」急増

地方の医師不足解消策 定着には課題

 地方の医師不足を解消しようと、医学部の推薦入試に、地元高校出身者などに受験者を限定した「地域枠」を設ける大学が急増している。(地方部 上田詔子)

 今年度の入試で、秋田大や宮崎大など9校が新たに地域枠を設け、導入校は前年度の7校(募集人数56人)から16校(同121人)へと、一気に倍以上に増えた。来年度はさらに3校が新設するほか、4校が募集枠を拡大する。

 厚生労働省によると、医療に従事する医師は、年4000人のペースで増えており、人口10万人当たりの医師数は、ほぼすべての都道府県で増加している。しかし、大都市圏と地方との医師数の格差は大きく、政令市は全国平均の1・25倍、東京都区部では1・53倍にもなる。さらに地方では、県庁所在地などの都市部と町村部で医師の偏在化が深刻化している。

 医学部には、都市部から学生が集まる傾向が強い。医学部のある国公私立79校で、地元出身者は3割程度。さらに卒業から10年後、大学のある都道府県に残る割合は、地元出身者が78%なのに対し、地元以外は40%に過ぎない。

 こうした事情から、「地域枠」への期待は大きい。しかし、地域枠で入学しても地元に残る義務はなく、“残留率”を上げるためには、さらに工夫が求められる。

 その一つとして、厚労省の「医師の需給に関する検討会」は28日、地域枠と組み合わせた奨学金制度を推進すべきだという報告書をまとめた。奨学金の返済免除と引き換えに、地元医療機関で一定期間勤務してもらい、医師を確保しようという狙い。すでに秋田、鳥取など5県が同種の制度を設けている。

(以下略)

(2006年7月29日  読売新聞)


公判概略について

2006年07月28日 | 大野病院事件

周産期医療の崩壊をくい止める会のホームページより公判の経過(概略)について

 7月21日に本件の公判前整理の話し合いが福島地方裁判所で開催されました (10:30 AM~12:00AM)。この日では話し合いで結論にいたらず、次回8月11日 (金)に持ち越されました。今後の予定は8月11日(金)でも話し合いがつかない場 合は9月15日(金)と10月11日(火)となります。現在の状況判断では10月11日 (火)まで続く可能性があります。その後(話し合い成立した)1ヶ月後から裁判 が開始されるものとみられます。ただし9月15日(金)に結着できれば10月11日 (火)が裁判の1回目が開催される予定です。

公判前整理の話し合いが開催された以前のこれまでの経過(概略)です。

1. 平成18年6月9日

 福島地方検察庁より「証明予定事実記載書」が弁護団に届きました。 これは被 告人の経歴からはじまり、前置胎盤、ゆ着胎盤の説明、本件に至る経過、本件 の手術状況、被害者死亡後の状況等などが記載され、本件を起訴した証拠を提出してきました。

2. 平成18年7月7日

 弁護団はこれを受け、「証明予定事実記載書に対する求釈明事項書」を福島地 方裁判所刑事部に提出しました。また同時に「起訴状に対する求釈明事項書」 を裁判所に提出しました。

「証明予定事実記載書」に対する求釈明事項書」とは、検察官から証拠によって証明しようとする事実が何であるかを明らかにした書面中、弁護団が不明確 な点について説明を求めた書面です。また「起訴状に対する求釈明事項書」と は起訴状に起訴事実として記載されている文言について不明確な点について弁 護団から説明を求めた書面です。

 また同日、裁判所刑事部に弁護団より「証拠に対する意見書」も提出しまし た。これは検察官が裁判所に提出した、取り調べを請求した証拠に対して、弁 護人が取り調べをした「同意書面及び取調べ」に同意するかどうか(証拠とし て取り上げてよいかどうか)について意見を述べ、現段階ではその判断を留保 していることを述べる書面で弁護人が同意しない「同意書面及び取り調べ」の 書面については無条件に証拠となることはないとのことです。(つまり検察側 から提出した証拠のうち、裁判で争う時に証拠として認めるもの認めないもの を選択したことになります)

3. もう一つ弁護団から福島地方検察庁に「類型証拠開示請求書」を提出しま した。これは検察官が証拠として提出していない手持ちの証拠について類型的 に証拠の開示が認められている(刑事訴訟法)ので、証拠として弁護団(人) が証拠の開示を請求した書面です。

4. 平成18年7月14日

 福島地方検察庁は弁護団に対し「証拠開示請求に対する回答書」を送ってきま した。つまり類型証拠開示請求に対する回答です。同日検察庁は福島地方裁判 所に「意見書」を提出しました。類型証拠開示請求に対し、弁護人の請求に理 由不備の請求が含まれていることから弁護人にその不備の是正を求めるよう、 裁判所に求めた書面です。

5. 平成18年7月21日

 弁護団は①「証明予定事実記載書に対する求釈明事項書(2)」、②「証明予定事 実記載書に対する意見書」および③「類型証拠開示請求についての意見書」を 福島地方裁判所刑事部に提出しました。①は前述した如く、検察官から証拠によって証明しようとする事実が何である かを明かにした書面中、弁護人が不明確な点について説明を求めた書面です。 ③は検察官か弁護人の申し立て(要求)に対し、証拠の開示に応じない理由を 述べたことに対する弁護人の意見を述べた書面です。

6. 平成18年7月21日

 前述した如く、第一回目の公判前整理の話し合いが行われました。その後、午 後1時30分より県弁護士会館で記者会見をいたしました(弁護士の先生8名)。 この時記者団に配布した「コメント」をご覧いただきたく存じます。またこの次の日に新聞各紙にとりあげられました。

 裁判所に提出した書面、検察官から提出された各書面をすべて公開すること はできませんが、これまでの経過と今後の予定について、皆様にご報告させて いただきました。

福島県立医大 産婦人科 佐藤 章

Updated on July 28, 2006

****** 「コメント

平成18年7月21日

報道関係者各位

加藤医師業務上過失致死裁判に関するコメント

弁護士一同

 福島県立大野病院の産科医である加藤医師は、本年3月10日業務上過失致死及び医師法違反の罪に問われ、起訴され、本日第1回の公判前整理手続きが行われました。

 起訴事実は、死亡した女性の帝王切開手術に際し、①女性が全前置胎盤患者であり、前回帝王切開創部への胎盤の付着を認めていた上②女児が生まれた後、女性が「胎盤癒着」の患者であることを認識したので③このとき胎盤剥離を継続すれば胎盤剥離面から大量出血して女性の生命の危険があったのだから、④直ちに胎盤剥離を中止して子宮摘出手術等に移行して胎盤を子宮から剥離することに伴う大量出血による女性の生命の危険を回避すべき注意義務があるのに⑤胎盤剥離を中止して子宮摘出手術等に移行せず、クーパーを用いて漫然と胎盤の癒着部分を剥離した過失により、⑥胎盤剥離面からの大量出血により女性を失血死させた──というものです。

 本件において、女性が亡くなっていることに関し、その女性、ご家族に対しては心から哀悼の意を表するものです。

 しかしながら、女性に対する加藤医師の処置には、業務上過失致死罪に問われるべき過失はなかったと考えております。

 本件は女性が癒着胎盤という疾患のために、不幸にして亡くなった事例ですが、癒着胎盤は1万分娩に2~3回発生するかどうかというごく稀な疾患です。産科医が一生のうちに1例か2例遭遇するに過ぎない、あるいは遭遇しないこともあり得るような疾患といえます。

 癒着胎盤の事前の診断は、極めて難しく、穿通胎盤(percreta)という極めて高度の癒着は比較的事前診断が容易とされていますが、狭義の癒着胎盤(accreta)、嵌入胎盤(increta)という軽度、中等度の癒着が術前に判明することはまれです。癒着は通常、児の分娩後、胎盤が自然に剥離(いわゆる後産)せず、胎盤を物理的に剥離する過程で初めてわかるのであり、その程度を含めた正確な病名は、事後の病理診断をまたなければ判明しません。

 ただ、癒着胎盤になりやすいタイプの妊娠の類型が存在するので、そのような類型の妊娠においては、医師は癒着胎盤の可能性を考慮し、それに備えますが、胎盤癒着の可能性が低いと診断される場合には格別の準備はしません。

 本件で加藤医師は、子どもを娩出させた後に、胎盤を剥離させるという処置をするまでは、癒着胎盤であることは認識しておりませんでした。

 また、癒着胎盤の症例(特に帝王切開の術中に癒着胎盤と判明した場合)では、癒着判明後直ちに胎盤剥離を中止して子宮全摘出に移行する場合よりも、胎盤を剥離させる作業を継続し、その後の出血等の状況を見た上で、剥離を継続するのか、剥離を中止して子宮動脈の遮断術あるいは子宮全摘出に移行するのか判断することが多いのが臨床の実際です。

 胎盤が剥離できないままでは、子供が娩出された後も子宮の収縮不良は持続します。つまり胎盤を剥離させない限り出血が持続するのです。通常のお産では、子供が娩出された後子宮が収縮し、胎盤に血液を供給している子宮筋層内の血管部分周辺が収縮して出血が止まります。従って、癒着胎盤であっても、胎盤は剥離させるほうが、出血を押さえることができる場合は多いとも言えます。胎盤の剥離によって出血が止まれば、そのまま処置を終えますし、もし出血が止まらなかったり、胎盤を剥離させることができなければ、次に子宮動脈の遮断を試み、最終手段として子宮を摘出するという決断にすすむわけです。

 本件では、事前に子宮摘出に至る可能性があることは説明していましたが、女性は子宮を摘出しないことを希望していたこともあり、加藤医師はできるだけ子宮を温存する方向での処置を選択し、胎盤剥離の処置をしております。

 ただ、胎盤剥離後、出血が止まらず子宮摘出を決断しましたが、子宮摘出手術は、母体の血圧が安定し、輸血が十分できる状態にならなければできないために、加藤医師はペアン(手術器具)による子宮動脈の遮断をおこない、止血の処置をとり、輸血血液が届き、母体の状態が安定してから子宮を摘出しました。子宮摘出後も母体の状態は安定していましたが、最終処置の直前に、女性の容態は急変し、亡くなられたわけです。

 加藤医師の処置は、産科医と外科医、麻酔科医の三人で帝王切開に対応しているいわゆる一人医長の病院でできる限りのものであったと考えております。本件における女性の死は、担当医が加藤医師だからもたらされたものではなく、加藤医師ではない別の産科医が担当していても起こりえたことです。

 このように、加藤医師の処置に関し、一般の水準の産科医として欠けるところはなかった、すなわち過失はなかったと言え、その点は今後の公判で争うことになります。

 しかしながら、本件の問題点は、加藤医師が過失を争わなければならないことだけではありません。

 加藤医師のように、年間200人以上の新生児をとりあげ、年間40人の帝王切開を担当している医師が、明白な過失もなく、患者さんが亡くなったという理由で、逮捕されてしまったということの意味は大きいと思われます。患者さんが医療の途中で死亡するということはどんな治療にも内在する危険です。そもそも医療は身体の侵襲行為であり、危険を伴うものです。患者さんの持つもともとの様々な因子によって、何でもない医療行為で亡くなる可能性も否定しきれないのです。また、その患者さんの住む地域が、僻地であるがために、例えば東京に住むものと同じレベルの医療を受けることができずに亡くなる可能性は常にあるのです。

 このような医療行為の特殊性や地域の特性を考えたとき、患者の死という結果からレトロスペクティブ(後方視野的)に過失を探し、それを業務上過失致死という犯罪、例えば酒気帯び運転による交通事故で人が亡くなったときと同じ罪に問うことに疑問を禁じ得ません。 医療過誤の裁判は年々増え続け、患者さんが亡くなっている事件もかなりの数になっていると言われます。しかし、加藤医師を起訴した論理を貫けば、全ての医療事故によって患者が亡くなれば医師は業務上過失致死罪に問われかねません。しかし、厳しい労働条件の下で、医師としての誇りと良心を支えに医療行為に従事する者に対し、このような結果は酷に過ぎます。全ての医師に神になれとわれわれは要求することはできるのでしょうか。

 そして、国の無策からきた産科医不足という現実の中で、24時間、365日オン・コール態勢の中で、身を粉にして働く地域医療の担い手を逮捕・起訴することに妥当性はあるのでしょうか。現に加藤医師の逮捕により、大野病院の産科は閉鎖されました。住民にこのような犠牲を強いるほどに、加藤医師の逮捕・起訴は価値あるものでしょうか。それにより国民が得るものは何なのでしょうか。

 本件の裁判は、すぐれて今日的な観点を提供するものです。医療の現状、医療の限界、医療の危険とは何なのかという、ややもすれば見過ごされてきた問題点を浮かび上がらせています。地域医療が直面する現実を知らせてくれております。そして我々に、そのような問題に我々がどう対応すべきなのかということを考えさせ、どこまでが刑罰をもって規制されるべき限界なのかというような問題点にも向き合うことを求めています。

 この裁判に意義があるとすれば、そのような問題点を認識する機会であるということですが、ただ遺憾なのは、それを加藤医師が、自らの業務上過失致死事件の裁判という、人生を左右するような状況で個人的に担わされていることです。

 私たち弁護団は、可能限り医学的検証を徹底する努力をしたいと考えています。真に問われるべき過失が当該医師にあったと評価できるのかを問いたいと思います。また、刑罰を科さねばならない過失と言うべきなのかを問いたいと思います。

 報道関係者には、加藤医師の裁判が提供する今日的な意味をご理解いただき、どうか、正確な医学知識と事実認識のもとで、事件を見続けながら報道していただきたいと考えております。

以上


医師不足、新研修制度のせいではない

2006年07月27日 | 地域周産期医療

最近、全国的に「医師不足」がよく問題となっていますが、今後、いくら医師を大量に養成し続けたとしても、その新しく医師になった者達が、特定の地域、特定の診療科だけに集中してしまうようであれば、永久に「医師不足」の問題は解決しません。

また、全体の頭数では医師数が十分に足りていても、地域内で医師が分散して多くの施設にばらばらに別れて配置されていれば、どの施設も「医師不足」に陥ってしまって、地域内のどこに行ってもまともな治療を受けることができなくなってしまいます。

医師を適正に配置することが非常に重要です。

****** 読売新聞、2006年7月27日

医師不足、新研修制度のせいではない

 医師の人数は年々増えているのに、各地で医師不足が叫ばれている。

 厚生労働省の「医師の需給に関する検討会」が、将来の見通しをまとめた。全体的に見れば医師の数は十分確保できる、という。

 試算では、過重労働が日常化している医師の勤務時間を週48時間以内に収めるには、全国で9000人足りない。

 だが、医師の総数は毎年3000人以上のペースで増え続けている。減少傾向にある都道府県は無い。

 にもかかわらず、「医師がいない」という悲鳴が聞こえるのは、自治体病院など地域医療を担う中核病院で、突風的な医師の減少が生じているためだ。

 2年前に導入された新人医師の新しい研修制度が、きっかけだろう。

 以前の研修はほとんどが大学病院で行われていた。新人医師は狭い専門領域しか身につかず、徒弟制度のような医局で雑務を担うことも多かった。

 幅広い医療知識を習得させるために、一般病院でも研修できるようにしたところ、ほぼ半数が大学病院ではなく、主に都市部にある症例豊富な一般病院を選んだ。その反動で人手不足となった地方の大学病院が、自治体病院などに派遣していた中堅医師を引き揚げてしまった。

 加えて、産科・小児科など昼夜無く診察を求められる診療科から、医師がじわじわと逃げ出している。

 各病院に医師が広く薄く配置されているため、診療体制に余裕がなく、医療事故のリスクも高い。耐えかねた勤務医が開業医に転身し、新たな医師もやって来ない。大学病院の医師引き揚げは、こうした状況にも拍車をかけた。

 大学側は、新研修制度が混乱の原因、と批判している。これは筋違いだ。新制度に見直しは必要としても、根本的な問題は大学病院のあり方や、無計画に医師が配置されている現状にある。

 大学は一般病院に勝る研修環境を用意することで、研修医を呼び戻すのが常道だろう。自治体も隣接の市町村が協議して、地域の拠点となる診療科を割り振って医師を集中的に配置するなど、診療体制に余裕を持たせることが重要だ。

 新制度下で2年の研鑽(けんさん)を積んだ医師が第一線に出始めた。この人材を生かすことが、医師不足を解消するカギだ。

 若い医師は、必ずしも都会を志向しているわけではない。地方であっても、地域医療に情熱をもって取り組んでいる病院には研修医が大勢集まっている。

 地域をあげて、先駆的な医療体制の構築に取り組むことが、若い医師を引きつける近道ではないか。

(読売新聞、2006年7月27日1時59分)

県立大野病院事件、第1回公判前整理手続き、福島地裁

2006年07月22日 | 報道記事

裁判の諸手続きに関しては、「公判前整理手続き」とか言われても、私には何が何だかさっぱり訳がわかりません。また、この事件に関しては、それぞれの立場によっていろいろな意見があるかとは思いますが、加藤先生が不当な基準によって刑事罰に処せられることがないように、裁判の今後の経過について、注視していく必要があると考えています。

****** 福島民報、2006年7月22日

大野病院医療過誤の公判前手続き/癒着胎盤措置が争点

 大熊町の県立大野病院の産婦人科医が業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた医療過誤事件で、公判前整理手続きによる第1回協議が21日、福島地裁で開かれた。無罪を主張する弁護団はその後に会見し、癒着胎盤というまれな疾患だった被害者への処置について「胎盤をはく離させたほうが出血をおさえられる場合が多い」という主張を打ち出した。検察側は胎盤をはがしたことを過失としており、癒着胎盤への措置の是非が争点の一つになりそうだ。

(福島民報、2006年7月22日)

****** 朝日新聞、2006年7月22日

公判前手続き開始

 大熊町の県立大野病院で帝王切開の手術中に女性(当時29)が死亡した事件で、業務上過失致死などの罪に問われて逮捕・起訴された同病院の産婦人科医、加藤克彦被告(38)の公判前整理手続きが21日、福島地裁(大澤廣裁判長)で始まった。争点整理などが目的で、今後、数回の会合を経て、今秋の公判開始を目指す。弁護側は記者会見し、「産科医一人の病院で彼はできる限りのことをした。事件は別の産科医が担当しても起こりえた」などと真っ向から反論していく姿勢を明らかにした。

 公判前手続きには、保釈後、自宅待機していた加藤被告が弁護人8人とともに参加した。弁護側は検察側に対し、起訴状や検察側の立証内容をまとめた「証明予定事実記載書」についての補足説明を求めた。

 手続き後、弁護団は福島市内の県弁護士会館で会見を開き、「子宮から胎盤を剥離(はくり)したほうが出血を抑えられる場合は多く、加藤医師はできる限りの処置をした」などとし、改めて被告の無罪を訴えた。

 また、一緒に手術した麻酔科医が記載した手術中の出血量の記録に基づき、「胎盤剥離を終えた時点で出血量は約2500ccと、多くなかった。その後20分間で約4500ccと大量出血しているのは何らかの理由で子宮が十分に収縮しなかったのが原因の可能性がある」と指摘した。その上で「大量出血は予見はできなかった」とした。

 女性の死亡を24時間以内に警察署に届け出なかった点については「加藤医師には医療ミスの認識がなく、病院の規則に基づいて院長にも相談している」として医師法違反にあたらないと主張。検察側の「院長にも正しく報告していない」とする見方と対立した。

 一方、検察側は「癒着胎盤には癒着の度合いに差があるのが前提。剥離困難な癒着胎盤では、無理に胎盤の剥離を継続した場合に大量出血を引き起こす危険がある」とした上で、今回のケースについて「手で剥離することが困難なほどの癒着が認められ、剥離を中止すべきだった」とした。

 また、「検察側は起訴状や証明予定事実記載書への求釈明に十分応じていない」とする弁護側の訴えに対して、検察側は「引き続き、手続きは行われる予定であり、弁護側が現段階でそう判断するのは早計」とした。

 第2回の手続きは8月11日に行われ、早ければ10月に初公判が開かれる見通し。

 ―県立大野病院事件とは―
 04年12月、県立大野病院で帝王切開手術を受けた前置胎盤の女性(当時29)が、手術開始から約4時間半後、出血性ショックなどで死亡した事件。05年3月に公表された県の事故調査報告書をきっかけに県警が捜査。06年2月、執刀した産婦人科医加藤克彦医師(38)が業務上過失致死と医師法(異状死の届け出義務)違反の疑いで逮捕され、3月に起訴された。

 関係者の話をまとめると、手術は加藤医師のほか、麻酔科医と外科医の3人体制で実施。胎児摘出後も胎盤がはがれ落ちないため、加藤医師が胎盤を手で剥がしていた途中、胎盤が子宮後壁に癒着していることに気づいた。手術用ハサミ「クーパー」の先端でそぐように、一部はクーパーで切って胎盤を剥離した。

 通常、胎盤が剥がれると子宮が収縮し、血管が圧迫されて止血が進むが、今回はそののち大量出血した。

 準備していた輸血用血液5単位(1単位は200cc)では足りず、いわき市の血液センターに輸血製剤を依頼。1時間15分後の血液到着を待って子宮を摘出したが、まもなく女性は死亡した。この女性にとって帝王切開手術は2度目。子宮温存の希望があったとされる。

 起訴状は、癒着が認められた時点で直ちに子宮摘出に移るべきだったなどと指摘。胎盤の無理な剥離を過失とした。また術後24時間以内の警察への届け出を怠ったと指摘した。

(朝日新聞、2006年7月22日)

****** 読売新聞、2006年7月22日

大野病院妊婦死 争点「胎盤はく離」是非
公判前整理手続き 弁護側は無罪主張

 大熊町の県立大野病院で2004年12月、帝王切開の手術中に県内に住む女性(当時29歳)が出血性ショック死した医療事故で、業務上過失致死と医師法(異状死体の届け出義務)違反の罪に問われた産婦人科医師加藤克彦被告(38)の第1回公判前整理手続きが21日、福島地裁で開かれた。この手続きは、審理の迅速化を図るため、公判前に非公開で争点を絞り込むもので、弁護側は「女性に対する処置に過失はなかった」などと無罪を主張した。

 手続きには裁判官、検察官、弁護人に加え、加藤被告も出席して、午前10時から同11時50分まで行われた。この日は、争点の絞り込みには至らず、第2回公判前整理手続きを8月11日に行うことを決めた。早ければ10月にも初公判が開かれる見通し。

 手続き後、会見した県立大野病院事件弁護団長の平岩敬一弁護士(横浜弁護士会)は「癒着胎盤でも胎盤をはく離させた方が出血を抑えられる場合も多い」とした上で、「最大の争点は、癒着胎盤を認識したら、胎盤のはく離を中止し、子宮を摘出するのが医師の注意義務かどうかだ」と語った。

 一方、福島地検の片岡康夫次席検事は「本件の場合、胎盤のはく離が困難なほど強度に癒着しており、無理にはく離を継続するべきではなかった」とした。

 起訴状によると、加藤被告は、胎盤が子宮に癒着し、大量出血する可能性を認識していたにもかかわらず、本来行うべき子宮摘出を行わず、胎盤を無理にはがして大量出血を引き起こしたなどとされる。

(2006年7月22日  読売新聞)

****** 毎日新聞、2006年7月22日

大野病院医療事故:全面対決の構図に--公判前整理手続き /福島

 県立大野病院の医療事故で起訴された産婦人科医の加藤克彦被告(38)の公判前整理手続きが21日始まり、弁護側が全面否認の方針を示したことで、法廷では被告弁護側と検察側が真っ向から対立する構図となった。
 午前10時から始まった手続きには裁判官3人、検察官3人、弁護士8人と加藤被告が集まり、1時間50分間行われた。
 手続き後に会見した加藤医師の弁護団は総勢11人。加藤医師が手術用はさみで胎盤をはがしたことについて弁護団は会見で「そうした措置は珍しくない」と述べた。また、大量出血も「胎盤をはがしたあとの出血量は異常に多いわけではなかった」とし、大量出血の原因については「まだ分からない」と述べた。
 弁護側は検察側に起訴状などに関する求釈明に応じるように求めており、この日も再度要請した。福島地検は「釈明の必要があるものは釈明した。まだ手続きの途中で、この時点で弁護側が『検察側が十分に応じていない』と発表することは早計であり、誠に遺憾」との見解を示した。【町田徳丈】

7月22日朝刊

(毎日新聞) - 7月22日15時0分更新

****** 共同通信、2006年7月21日

医師に過失なしと弁護団 具体的争点整理は持ち越し

 帝王切開手術で女性=当時(29)=を死亡させたとして、業務上過失致死などの罪に問われた福島県立大野病院の産婦人科医加藤克彦被告(38)の公判前整理手続きの第1回協議が21日、福島地裁であった。地裁、検察、弁護団とも医療専門用語の意味を事前に擦り合わせることを確認したが、具体的な争点については8月11日の次回協議以降に持ち越した。
 平岩敬一主任弁護士らは協議後、福島市内で記者会見し「大量出血の予見可能性がなく、過失はなかった。胎盤をはがす方が出血を抑えられることが多く、女性も子宮摘出を望んでいなかった。異状死という認識もなかった」と起訴事実を否認し、無罪を主張する考えを示した。
 加藤被告の逮捕、起訴をめぐっては、医師会が抗議声明を出すなど反発が広がっている。

(共同通信) - 7月21日17時14分更新

****** 毎日新聞、2006年7月21日

<帝王切開死亡事故>第1回公判前整理手続き行う 福島地裁

 福島県立大野病院で帝王切開手術中に女性(当時29歳)が死亡した医療事故で、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた同病院の産婦人科医、加藤克彦被告(38)の第1回公判前整理手続きが21日、福島地裁で行われた。弁護側は、無罪を主張する方針を示した。初公判は10月ごろの見込みという。

(毎日新聞) - 7月21日20時21分更新

******

福島民報、2006年7月20日、社会面記事

****** 参考

大野病院医療事故:産婦人科医弁護団の動き(毎日新聞)

大野病院事件に関する地元紙の報道


不足深刻な小児・産科医の数、22道府県「把握せず」…厚労省調査(読売新聞)

2006年07月17日 | 地域周産期医療

産婦人科医の総数が減っているのと同時に、産婦人科医のなかで産科医療に従事している医師の割合も減り続けている。従って、実際に産科医療に従事している医師の実数は、厚労省や自治体で想定している推計数をかなり下回っている。各自治体が、産科医不足に対する今後の有効な対策を実施してゆくためには、まずは、現状をきちんと把握する必要がある。

****** 読売新聞、2006年7月17日

不足深刻な小児・産科医の数、22道府県「把握せず」…厚労省調査

 小児科や産科の医師不足が全国各地で問題となっているにもかかわらず、両科の医師数など、基本的データの実態把握が進んでいない都道府県が半数近くに上っていることが、厚生労働省の調査でわかった。

 同省は昨年12月、小児科医と産科医の確保が困難な地域について、中心となる病院に医師を集中させ、24時間体制の小児救急医療などを実現させる「集約化、重点化」の方針を打ち出した。その実施の必要性について、都道府県ごとに今年度中に検討するよう求めており、調査は、今年4月25日現在で、その進展度合いをたずねたもの。

 小児科と産科のある病院と、そこに配置されている小児科医、産科医の数について把握状況を聞いたところ、「既に把握している」が22都県、「小児科のみ把握」が3県だったのに対し、22道府県は「今後把握する予定」「把握していない」だった。

 また、集約化、重点化の必要性の検討を既に始めていたのは、静岡、三重など7県のみ。今後の検討スケジュールが決まっていたのも、奈良、千葉など19府県にとどまり、出足の鈍さが目立った。

 その一方で、同省に対する意見、要望としては、「集約化、重点化に協力する医療機関に対する財政的支援が必要」「小児科医、産科医の育成、確保は全国的な課題であり、国が実効性のある施策を始めるべきだ」などの声が多く、自治体の自助努力に頼る厚労省への不満もにじみでていた。

(2006年7月17日  読売新聞)

******

参考:
出産扱う産科は65% 3000施設、常勤医は8000人 学会調査、推計を下回る

<産科医全国調査>04年末比で施設4割、医師数2割減少

全国周産期医療データベースに関する実態調査の結果報告

朝日新聞:全国138病院が分娩休止 出産の場急減

読売新聞:[解説]産科医減少 対策は

読売新聞:深刻な産科医不足 集約化加速


大野病院事件に関する地元紙の報道

2006年07月12日 | 報道記事

****** 福島民報、2006年7月8日

大野病院医療過誤 
証拠調べ意見書を提出 公判前手続きで弁護団

 大熊町の県立大野病院の産婦人科医が業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた医療過誤事件の公判前整理手続きで、弁護団は七日、福島地検の証拠調べ請求に対する意見書などを福島地裁と福島地検に送った。

 意見書には各証拠に対する同意、不同意の意思を示した。福島地検が出した起訴状と証明予定事実記載書への求釈明書、証拠開示の請求書も合わせて提出した。

 福島地裁、福島地検、弁護団の三者の協議は二十一日に福島地裁で開かれる。一回では争点整理が終わらない見込みで、八月十一日にも協議の予定。初公判は九月ごろとみられる。

 起訴されたのは産婦人科医加藤克彦被告(三八)。起訴状によると、加藤被告は平成十六年十二月十七日、○○町の女性の帝王切開手術を執刀した際、癒着した胎盤をはがし、大量出血により死亡させた。女性が異状死だったのに、二十四時間以内に警察署に届けなかった。

「朝から夜まで長時間公判に」 弁護団

 弁護団によると、加藤被告の公判は異例の長時間の裁判となりそうだ。

 通常の公判は一回あたり、長くても四、五時間程度。だが今回は裁判員制度をねらった公判前整理手続きを適用したこともあり、開廷時間が七、八時間となることが予想される。審理の迅速化を狙った試みといえる。

 主任弁護人の平岩敬一弁護士は「朝から夜までの公判となる。月一回程度のペースで開くことになりそうだ」と話している。

(福島民報、2006年7月8日)

****** 参考:

大野病院医療事故:産婦人科医弁護団の動き(毎日新聞)

読売新聞:大野病院の妊婦死亡 「公判前整理手続き」適用

「公判前整理手続」とは?


後期研修医募集要綱

2006年07月10日 | 地域周産期医療

後期研修医の募集要項ができましたのでアップします。希望者があれば、説明会を実施する予定もあります。お気軽にお問い合わせください。

問い合わせ先:
〒395-8502 飯田市八幡町438 飯田市立病院
産婦人科 山崎(科長)、または庶務課 知久
電話番号:0265-21-1255 FAX:0265-21-1266

http://www.imh.jp/

    飯田市立病院産婦人科 後期研修プログラム

 本プログラムは、2年間の初期臨床研修を修了後に、日本産科婦人科学会の認定する産婦人科専門医および母体保護法指定医の資格取得を目指す3年間のコースである。

 当科における後期研修プログラムは、信州大学産科婦人科学教室(小西郁生教授)との緊密な連携のもとに実施される。本人の希望により、3年間の研修期間のうちの半年~1年間は信州大学産科婦人科学教室にてフルタイムで研修を行い、より多くの症例を経験することも可能である。当科および信州大学産科婦人科学教室において、産婦人科に関する臨床研究を行い、積極的に研究発表(論文も含む)を行う。

 飯田市立病院産婦人科は常勤産婦人科医4名、非常勤産婦人科医4名、助産師22名の診療体制である。年間約200例の婦人科手術を行い、新規の婦人科浸潤癌症例が年間約50例ある。婦人科内視鏡手術も年間約50例実施している。当科は、NICUとともに地域周産期センターに県より指定され、年間約1000例(月80~100例)の分娩を取り扱い、年間約50例の緊急母体搬送を受け入れ、当医療圏の異常分娩のほぼ全例を取り扱っている。臨床各科と協力して多数例の合併症妊娠にも対応している。また、年間約50例に体外受精(顕微受精を含む)を施行し、胚移植あたりの妊娠率は22.1%、総症例あたりの妊娠率は27.4%、個別症例あたりの妊娠率は39.6%である。

 本プログラムでは、産婦人科診療のほぼすべての領域において、多数の症例を経験し、産婦人科専門医資格を取得するために必要なすべての技能を修得することが可能である。本プログラムの指導医師達の専門分野は、産婦人科のほぼすべての領域をカバーしており、専門医資格取得のために必要十分な指導を受けることが可能である。

 また、地域周産期センターとしてNICUもあり、本人の希望により、NICUでの研修ができる。新生児科・小児科での正常新生児の健診や未熟児のフォローアップについても研修できる。さらに、当院麻酔科の指導により、産科麻酔(無痛分娩を含む)の研修もできる。

 なお、本プログラムを修了して日本産科婦人科学会専門医の基本資格を取得後に、さらに本人の希望により、当科において、婦人科腫瘍専門医、細胞診専門医、母体・胎児専門医、産婦人科内視鏡学会技術認定医、生殖医療指導医などの各種のsubspecialityにおける専門医資格を目指して研修・トレーニングするコースも順次用意される予定である。

指導担当(常勤):

 山崎輝行(産婦人科科長、昭和57年信州大学卒業、医学博士、信州大学医学部臨床教授)専門領域:婦人科腫瘍学、周産期医学。日本産科婦人科学会専門医、母体保護法指定医、細胞診専門医、婦人科腫瘍専門医、日本周産期・新生児学会暫定指導医、

 松原直樹(産婦人科医長、平成9年信州大学卒業)専門領域:内視鏡手術、生殖医学。日本産科婦人科学会専門医、母体保護法指定医

指導担当(非常勤、週1回):

 可世木久幸(日本医科大学医学部教授、専門領域:内視鏡手術、生殖医学)

 塩沢丹里(信州大学医学部助教授、専門領域:婦人科腫瘍学)

 金井誠(信州大学医学部講師、専門領域:周産期医学、臨床遺伝学)

****** 関連診療科の常勤指導医

 長沼邦明(小児科科長、昭和53年弘前大学卒、小児科専門医、医学博士、信州大学医学部臨床教授)

 竹岡正徳(小児科医長、平成6年独協医大卒、小児科専門医)

 青木 盛(小児科医長、平成10年信州大学卒)

 原 克実(麻酔科科長、昭和57年信州大学卒、麻酔指導医、医学博士)

 丸山晃一(麻酔科医長、平成2年山形大学卒、麻酔指導医、医学博士)

待遇:飯田市立病院規定に従う。身分:常勤医(1年ごとの契約更新)。年俸:1千万円程度となる見込み。宿舎あり。

募集人数:若干名

後期研修終了後の進路:研修終了時に病院側との話し合いで決定する。

問い合わせ先:〒395-8502 飯田市八幡町438 飯田市立病院産婦人科 山崎(科長)、または庶務課 知久、電話番号:0265-21-1255

当科の最近の主な業績:

山崎輝行,波多野久昭,鈴木章彦,菅生元康,中村正雄,関谷雅博,上田典胤,羽場啓子,塚原嘉治,藤井信吾:Normal-sized ovary carcinoma syndrome,14例の病理組織学的解析.日本産科婦人科学会雑誌 47:27-34,1995

Shimojo H, Itoh N, Shigematsu H, Yamazaki T : Mature teratoma of the placenta. Pathol Int 46 : 372-375, 1996

波多野久昭,山崎輝行,折井文香,八木ひかる,生山敏彦:腸チフス合併妊娠の1例. 産婦人科の実際 45:235-238,1996

野口 浩,横西清次,小谷俊郎,山崎輝行,波多野久昭,塚原嘉治,重松秀一:扁平上皮癌優位の下床癌を伴った外陰Paget病の1例.癌の臨床 43:793-796,1997

堀米直人,山崎輝行,神頭定彦,疋田仁志,金子源吾,千賀 脩,宮川 信,波多野久昭:消化管大量出血により発症した絨毛癌空腸転移の1例.飯田市立病院医誌第3号105-107,1997

大平哲史,波多野久昭,山崎輝行:卵巣原発の悪性中胚葉性混合腫瘍の2例.飯田市立病院医誌第4号91-95,1998

山崎輝行,波多野久昭,大平哲史,長沼邦明,津野隆久,朴 成愛,松下雅博,原田 大:胎盤多発梗塞を呈した原発性抗リン脂質抗体症候群の1例,飯田市立病院医誌 第4号:85-89,1998

大平哲史,山崎輝行,波多野久昭,津野隆久,長沼邦明:胎児母体間輸血症候群の1例.周産期医学 29:241-244,1999

山崎輝行:Normal-sized ovary carcinoma syndrome. 臨床婦人科産科 53,774-775,1999

大平哲史,波多野久昭,山崎輝行:膣壁に発生したAngiomyofibroblastomaの2例.日本産科婦人科学会関東連合地方部会会報 36:391-394,1999

Ohira S, Yamazaki T, Hatano H, Harada O, Toki T, Konishi I: Epithelioid trophoblastic tumor metastatic to the vagina: an immunohistochemical and ultrastructural study. Int J Gynecol Pathol 19: 381-386, 2000

大平哲史,波多野久昭,山崎輝行:頸部に発生したAngiomyofibroblastomaの1例.日本産科婦人科学会関東連合地方部会会報 37:41-44,2000

大平哲史,山崎輝行,波多野久昭,土岐利彦:特殊な絨毛性疾患,ETT (epithelioid trophoblastic tumor).半藤 保(編),新女性医学大系第37巻 絨毛性疾患,pp315-319,中山書店,東京,2000

松原直樹,山崎輝行,波多野久昭:原発性卵管癌の1例.飯田市立病院医誌第6号121-124,2002

西尾昌晃,実原正明,園原美恵子,赤羽美智子,荒木竜哉,山崎輝行,福島万奈,伊藤信夫:子宮頚部Glassy cell carcinomaの2例.飯田市立病院医誌第8号43-46,2002

Horiuchi A, Itoh K, Shimizu M, Nakai I, Yamazaki T, Kimura K, Suzuki A, Shiozawa I, Ueda N, Konishi I: Toward understanding the natural history of ovarian carcinoma development: a clinicopathological approach. Gynecol Oncol 88: 309-317, 2003

山崎輝行,波多野久昭,小野恭子,実原正明,西尾昌晃,金井信一郎,伊藤信夫:脈管侵襲を伴う子宮頚癌Ia1期における骨盤内リンパ節転移例.飯田市立病院医誌第10号67-70,2004

山崎輝行,波多野久昭,小野恭子,伊藤信夫,金井信一郎,正木千穂,大平哲史,塩沢丹里,小西郁生:不妊治療中に発見された高カルシウム血症型卵巣小細胞癌(大細胞亜型)の1例.日本婦人科腫瘍学会雑誌第23巻163-170,2005

山崎輝行、小野恭子、正木千穂、松原直樹、波多野久昭:帝王切開後の経腟分娩(VBAC)で発生した子宮破裂の3症例.産婦人科の実際第54巻845-849,2005


外陰原発の悪性腫瘍

2006年07月10日 | 婦人科腫瘍

外陰に原発する悪性腫瘍の発生頻度は全女性性器癌の約4%とされる。すなわち女性人口100万人当たりの年間発生数が10例前後と推定される比較的まれな疾患である。

外陰悪性腫瘍の組織型は、扁平上皮癌がその大部分を占め、悪性黒色腫がそれに次ぐ。

扁平上皮癌 Squamous cell carcinomaは、角化型 Keratinizing、非角化型 Nonkeratinizing、類基底細胞型 Basaloid、疣状型 Verrucous、湿疣型(コンジローマ様癌) Warty (condylomatous)、その他 Othersに分類される。このうち類基底細胞型、湿疣型は、ヒトパピローマウイルス16型との関連が指摘されている。

臨床進行期分類として国際産科婦人科連合(International Federation of Gynecology and Obstetrics: FIGO)の分類が使われている。

ちなみにFIGOのAnnual reportでの5年生存率は、Ⅰ期69.4%、Ⅱ期48.8%、Ⅲ期31.7%、Ⅳ期12.6%である。

外陰癌の進行期分類

1994年FIGO進行期分類

0期:上皮内癌

Ⅰ期:外陰または会陰に限局した最大径2cm以下の腫瘍。リンパ節転移はない。
 Ⅰa期:外陰または会陰に限局した最大径2cm以下の腫瘍で、間質浸潤の深さが1mm以下のもの※。
 Ⅰb期:外陰または会陰に限局した最大径2cm以下の腫瘍で、間質浸潤の深さが1mmを超えるもの。
 ※浸潤の深さは隣接した最も表層に近い真皮乳頭の上皮間質接合部から浸潤先端までの距離とする。

Ⅱ期:外陰および/または会陰のみに限局した最大径2cmを超える腫瘍。リンパ節転移はない。

Ⅲ期:腫瘍の大きさを問わず、
(1) 隣接する下部尿道および/または膣または直腸に進展するもの。
  および/または
(2) 一側の所属リンパ節転移があるもの。

Ⅳa期:腫瘍が次のいずれかに浸潤するもの:
上部尿道、膀胱粘膜、直腸粘膜、骨盤骨および/または両側の所属リンパ節転移があるもの。

Ⅳb期:骨盤リンパ節を含むいずれかの部位に遠隔転移があるもの。


地方国立大で「地域枠」を創設・拡大する動き

2006年07月10日 | 地域周産期医療

 地方における医師不足の対応策としては、短期的には(地域内の総医師数を増やすことは困難であるので)、地域内に分散している医師を拠点病院に集約化する必要がある。

 しかし、根本的には地域内の総医師数が増えないことには解決できない問題なので、長期的対策としては、地域内の総医師数を増やしてゆく方策もいろいろと考えてゆかねばならない。

 現状では、地方国立大学医学部は、都会の受験生の滑り止めという位置付けになっている場合が多いので、医学部卒業と同時に多くの者が去ってゆく。中には、卒業生の大半が地域に残らない大学もある。

 今後、地域に定着する医師を増やすさまざまな取り組みが必要であるが、医学部の入学者選抜における「地域枠」の創設・拡大もその一つの試みである。

****** 読売新聞、2006年7月8日

医師不足で国立大3校医学部が県内者推薦の「地域枠」

 医師不足に悩む自治体などの要望を受け、地方の国立大学3校の医学部が来年度の推薦入試で、県内高校出身者に限定した地域枠を設ける予定であることが7日、文部科学省のまとめでわかった。

 また、既に導入した国公私立大16校のうち国立4校が地域枠を拡大する方針で、地域に定着する医師を増やそうとする取り組みが本格化している。

 地域枠を新設するのは、富山、山口、大分の3大学で募集人数は計21人。

 弘前、信州、三重、島根の4大学は地域枠の募集人数を5~8人ずつ増やす。

(読売新聞、2006年7月8日)


大野病院医療事故:産婦人科医弁護団の動き(毎日新聞)

2006年07月09日 | 報道記事

****** 毎日新聞、2006年7月8日

大野病院医療事故:起訴状の詳しい説明など求める--産婦人科医弁護団 /福島

 県立大野病院で帝王切開手術中に女性が死亡した医療事故で、起訴された産婦人科医(38)の弁護団は7日、福島地裁と福島地検に対し、検察側に起訴状についてより具体的な説明を求める求釈明や証拠開示請求など4種類の書面をファクスと郵送で送付した。第1回公判前整理手続きは、21日に同地裁で行われる。【松本惇】

(毎日新聞、2006年7月8日)

****** 河北新報、2006年6月14日

大野病院事件「命の危険回避怠る」 ~福島地検 事実記載書を提出

 福島県立大野病院(大熊町)で帝王切開手術を受けた女性=当時(29)=が死亡し、産婦人科医の加藤克彦被告(38)が業務上過失致死罪などに問われた事件で、福島地検は13日までに、公判で立証する内容を記した「証明予定事実記載書」を福島地検と弁護側に提出した。同事件の公判前手続きは、記載書を基に論点整理が進められる。
 検察側は記載書で「加藤被告は大量出血を予見できたのに子宮に癒着した胎盤をはがし、子宮の摘出など女性の命の危険を回避する注意義務を怠った」との主張を展開。手術に立ち会った病院関係者らの供述を基に加藤被告の過失を立証する内容となっている。弁護側は「帝王切開手術や癒着胎盤の病理状態について理解に欠けた主張があり、釈明を求めたい」としている。弁護側は7月7日までに、記載書に対する意見書を地検と地裁に提出。三者による第1回公判前手続きは7月21日に開かれる。

河北新報、2006年6月14日

****** 福島民報、2006年6月9日

きょう証明予定事実書提出/大野病院医療過誤 公判前整理 福島地裁に地検

 大熊町の県立大野病院の産婦人科医が業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた医療過誤事件の公判前整理手続きで、福島地検は9日、立証予定の事実を示す証明予定事実記載書を福島地裁に提出する。
 弁護団は7月7日に記載書に対する意見書を出す。記載書と意見書を踏まえた福島地裁、福島地検、弁護団の3者の協議を7月21日に行う。初公判は9月ごろになる見込み。
 起訴されたのは大熊町下野上、産婦人科医被告(38)。
 起訴状によると、被告は平成16年12月17日、楢葉町の女性の帝王切開手術を執刀した際、癒着した胎盤をはがし、大量出血により死亡させた。女性が異状死だったのに、24時間以内に警察署に届け出なかった。

(福島民報、2006年6月9日)

参考:

読売新聞:大野病院の妊婦死亡 「公判前整理手続き」適用

「公判前整理手続」とは?
NHKイブニング信州、ニュースのはてな、2005年11月21日

「公判前(ぜん)整理手続」とは、刑事裁判の審理を早めようと取り入れられた手続きです。

11213 従来の刑事裁判では、検察側と弁護側のやりとりは全て公開の法廷で行われます。裁判が始まってから検察側は証拠などを示して事実を立証し、弁護側はそれを受けて被告の弁護を行います。そのため、審理の進行は月に一回程度のペースになり複雑な事件の場合は判決までに10年以上かかることも珍しくありませんでした。

11214 そこで、新たに導入されたこの「公判前整理手続」では、裁判を始める前に、非公開で検察官と弁護士が裁判官の前でそれぞれの主張を明確にし、争点を整理します。そして証拠調べの請求や開示をしたり裁判の日程などを決めます。

日程は3日から5日ぐらい連日で法廷を開き、合わせて1週間程度で判決まで言い渡すのが目標です。


卵巣癌のFIGO臨床進行期分類(1988年)

2006年07月08日 | 婦人科腫瘍

FIGO (国際産科婦人科連合、International Federation of Gynecology and Obsterics)

進行期の決定は臨床的検査ならびに/あるいは、外科的検索によらねばならない。進行期決定にあっては組織診を、また体腔滲出液については細胞学的診断を考慮すべきである。骨盤外の疑わしい箇所については生検して検索することが望ましい。

******

Ⅰ期:卵巣内限局発育

Ⅰa:腫瘍が一側の卵巣に限局し、癌性腹水がなく、被膜表面への浸潤や被膜破綻の認められないもの。
Ⅰb:腫瘍が両側の卵巣に限局し、癌性腹水がなく、被膜表面への浸潤や被膜破綻の認められないもの。
Ⅰc:腫瘍は一側または両側の卵巣に限局するが、被膜表面への浸潤や被膜破綻が認められたり、腹水または洗浄の細胞診にて悪性細胞の認められるもの。

【注】 腫瘍表面の擦過細胞診にて腫瘍細胞陽性の場合はⅠcとする。

Ⅱ期:腫瘍が一側または両側の卵巣に存在し、さらに骨盤内への進展を認めるもの

Ⅱa:進展ならびに/あるいは転移が、子宮ならびに/あるいは卵管に及ぶもの。
Ⅱb:他の骨盤内臓器に進展するもの。
Ⅱc:腫瘍発育がⅡaまたはⅡbで、被膜表面への浸潤や被膜破綻が認められたり、腹水または洗浄の細胞診にて悪性細胞の認められるもの。

【注1】 ⅠcおよびⅡc症例において予後因子としての関連を評価するために、下記のごとく分類・表記することが望ましい。
 Ⅰc(a):自然被膜破綻
 Ⅰc(b):手術操作による被膜破綻
 Ⅰc(1):腹腔洗浄液細胞診陽性
 Ⅰc(2):腹水細胞診陽性
  Ⅱcも同様とする。

【注2】 他臓器への進展、転移などは組織学的に検索されることが望ましい。

Ⅲ期:腫瘍が一側または両側の卵巣に存在し、さらに骨盤外の腹膜播種ならびに/あるいは後腹膜、または鼠径部のリンパ節転移を認めるもの
 
また腫瘍は小骨盤に限局しているが小腸や大網に組織学的転移を認めるものや、肝表面への転移の認められたものもⅢ期とする。

Ⅲa:リンパ節転移陰性で腫瘍は肉眼的には小骨盤に限局しているが、腹膜表面に顕微鏡的播種を認めるもの。
Ⅲb:リンパ節転移陰性で、組織学的に確認された直径2cm以下の腹腔内播種を認めるもの。
Ⅲc:直径2cmをこえる腹腔内播種ならびに/あるいは後腹膜または鼠径リンパ節に転移の認められるもの。

【注1】 腹腔内病変の大きさは最大のものの径で示す。すなわち、2cm以下のものが多数認められてもⅢbとする。

【注2】 リンパ節郭清が行われなかった場合、触診その他できうるかぎりの検索で知りえた範囲で転移の有無を判断し進行期を決定する。

Ⅳ期:腫瘍が一側または両側の卵巣に存在し、遠隔転移を伴うもの
 胸水の存在によりⅣ期とする場合には、胸水中に悪性細胞を認めなければならない。また肝実質への転移はⅣ期とする。

【注】 肝実質転移は組織学的(細胞学的)に証明されることが望ましいが、画像診断で転移と診断されたものもⅣ期とする。

参考文献: 卵巣腫瘍取り扱い規約(第2部)改訂第2版、日本産科婦人科学会、1997年刊

****** EXERCISE
(産婦人科研修の必修知識2004より)

Q 卵巣癌のFIGO臨床期分類で正しいものはどれか
a) 子宮のみへの浸潤を認めた:Ⅱb期
b) 腫瘍は一側卵巣に限局していたが、術中、卵巣腫瘍が破綻した:Ⅰa期
c) S状結腸浸潤を認め、腹水細胞診が陽性:Ⅱc期
d) 脾実質への転移を認めた:Ⅳ期
e) 肝実質への転移を認めた:Ⅳ期

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解答:e

a) Ⅱa期:進展ならびに/あるいは転移が、子宮ならびに/あるいは卵管に及ぶもの。

b) Ⅰc(b)期:手術操作による被膜破綻

c) d) Ⅲ期:腫瘍が一側または両側の卵巣に存在し、さらに骨盤外の腹膜播種ならびに/あるいは後腹膜、または鼠径部のリンパ節転移を認めるもの。また腫瘍は小骨盤に限局しているが小腸や大網に組織学的転移を認めるものや、肝表面への転移の認められたものもⅢ期とする。

e) 肝実質への転移はⅣ期とする。


兵庫県の産科医不足の状況

2006年07月07日 | 地域周産期医療

日本全国各地の地域産科医療の厳しい状況について連日のように全国紙や地方紙で報道されています(北海道、東北地域、神奈川県、山梨県、長野県、北陸地域、九州・沖縄地域、など)。

兵庫県の産科医療の厳しい状況についても、最近しばしば報道されています。

市立加西病院、西宮市立中央病院などの分娩取り扱い中止

加西病院:産婦人科医、来月からゼロに

県内の産科、10年で3割減

****** 神戸新聞、2006年7月4日

産科空白地帯 県内に12市町

00064729  兵庫県内の十二市町が、実際に出産できる病院・診療所がない空白地帯となっていることが三日、神戸新聞社の調べで分かった。うち四市町は市町立病院での再開や開設を検討するが、医師不足のため困難な状況だ。大半の市町が小児救急の体制維持、整備などの課題を抱えており、安心して子どもを産み育てるための基盤が揺らいでいる。

 県内の全四十一市町に、出産できる病院・診療所の有無▽産科充実の対策▽産科や小児救急の不足-など子どもを取り巻く医療の現状や課題を尋ねた。

 それによると、出産施設の空白地は相生、たつの、加西、朝来、淡路、加東市、猪名川、播磨、市川、佐用、香美、新温泉町。市町立病院での再開を目指すのは、加西、加東市と香美町で、たつの市は開設を検討している。

 加西市立加西病院は、医師二人がほかの病院に移ったため、今年六月から分(ぶん)娩(べん)の取り扱いを休止した。存続を求める約二万人分の署名が出され、病院側は神戸大などに医師派遣を依頼するなどしたが、確保できないまま。同市の出生数は年間四百人以上あり、不安の声が上がる。

 香美町立の公立香住総合病院も、二〇〇五年三月で分娩を休止。町民は近隣自治体で出産せざるを得ないが、同町は「病院まで時間がかかり、妊婦や家族は心配を抱える。雪が積もればさらに負担が大きい」と話す。

 たつの市は、合併に伴い誕生した市立御津病院を一一年に建て替える計画。産科開設の方向で検討するが、医師確保が難題という。

 ただ、地域によって事情は異なり、空白地帯でも、播磨町は、町域が狭く、近隣市に病院や診療所があるため、問題は生じていないという。

 子どもを取り巻く医療では、全体の七割にあたる三十一市町が、産科・小児科の医師不足、夜間や休日の小児救急体制の整備・維持を課題に挙げた。

 医師不足は全国的な課題で、都市部でも深刻。「小児科医の減少や新人医師が小児科を敬遠するため、二十四時間の救急体制の維持が難しくなっている」(姫路市)「休日夜間急病診療所の小児科が近い将来維持できない可能性が高い」(尼崎市)などと答えた。

****** 神戸新聞、2006年7月4日

妊婦に負担、不安

 実際に出産できる病院や診療所がない空白地帯が、兵庫県内で急速に広がり、空白となった市町では深刻な問題になっている。「妊婦の体力的、精神的負担が大きい」「出費もかさむ」など、市民から不安を訴える声が相次ぐ。空白一歩手前の三木市では、産婦人科医院誘致のため上限五千万円の助成を決め、医師探しに奔走している。

 市立加西病院が分娩(ぶんべん)の取り扱いを今年六月から休止しため、空白地帯となった加西市。長女を同病院で出産した市内の主婦(31)は「夜中に何かあってもすぐ行けるので安心だった。市外での出産となると、二人目以降の妊娠をちゅうちょする」と不安を語る。産婦人科の存続を求める署名を集めた市連合婦人会の板井ちさ代会長は「市外に通うのは、妊婦の体力的、精神的な負担が大きく、支える側も大変。早く解決するよう市や病院に働き掛ける」と話す。

 淡路市の妊婦は、海を隔てた明石市か、隣接の洲本市で出産せざるをえない。三十代の女性は長女(1つ)の出産時、妊婦検診のため明石市内に高速船で通い、出産した。洲本市内の病院へは、五十分車を運転するか、一時間かけて路線バスを乗り継ぐか。現在、第二子を妊娠中で、今回も明石へ通う。「船は欠航や揺れの恐れがある。いざというときの不安も。出産以外での労力、出費が大きい。もっと近くに病院がほしい」と訴える。

 一方三木市では、市民病院が二〇〇五年七月から分娩の取り扱いを止めた。出産可能な産科は九床の有床診療所一カ所だけになり、神戸市や小野市で出産する人が多いという。五千万円は、建物、医療機器の購入などに対する助成。薮本吉秀市長自ら大学や民間病院を訪ね、誘致を目指す。


上皮性卵巣癌に対する標準的化学療法

2006年07月06日 | 婦人科腫瘍

卵巣癌は化学療法が奏功する腫瘍である。一般に進行癌が多く、早期癌でもしばしば再発することから、多くの症例が化学療法の対象となる。

上皮性卵巣癌の標準的寛解導入・補助化学療法の変遷(CAP療法以降)

1.1980年代後半から1990年代前半にかけては、CAP療法(シクロホスファミド+ドキソルビシン+シスプラチン)あるいはCP療法(シクロホスファミド+シスプラチン)が標準治療とされた。

GOG47(1986年):CA療法(シクロホスファミド+ドキソルビシン)よりシスプラチンを含むCAP療法が、奏功率、生存率、無病期間において優れていることが報告された。

GOG52(1989年):CP療法とCAP療法の比較試験で、両者に奏功率、生存率、無病期間に差がないことが報告された。

  GOG: Gynecologic Oncology Group

2.TP療法(パクリタクセル+シスプラチン)とCP療法の比較試験が施行されて、TP療法の有益性が示され、TP療法が標準治療となった。

GOG111(1996年):CP療法 vs TP療法の比較試験が行われ、これによりTP療法の優位性が示された。

OV-10(1998年):GOG111の追試が行われ、同様の結果が得られた。

3.プラチナ製剤としてカルボプラチンとシスプラチンを比較した場合、抗腫瘍効果は同等であるが、毒性の軽減と簡便性によりカルボプラチンが選択されることが多い。TJ療法(パクリタクセル+カルボプラチン)は、現時点での標準治療として定着している。

GOG158(1999年):TP療法 vs TJ療法の比較試験が行われ、両者の抗腫瘍効果は同等であるものの神経毒性に関してはTJ療法の方が軽度であることが示された。

4.TJ毎週投与(weekly TJ)療法
以下の点より注目されている。
a.標準的な投与に比べて骨髄抑制が有意に低い。
b.その他の副作用では有意差はみられない。
c.標準的な投与に比べて奏功率は差がない。

5.TJ療法とDJ療法(ドセタキセル+カルボプラチン)とを比較するphase Ⅲ study(SCOTROC: Scottish Randamized trial in Ovarian Cancer、2001年)で、奏功率、progression free survivalで両者に差を認めなかった。しかし、長期予後に関する結論がまだ出ていないので、DJ療法を卵巣癌の標準初期治療とするには時期早尚である。合併症として末梢神経障害が危惧される患者に対しては、DJ療法を選択し施行することも十分に想定される。

参考文献:

卵巣がん治療ガイドライン、2004年版、日本婦人科腫瘍学会http://www.jsgo.gr.jp/09_guideline/guideline/guide01_02.pdf

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新臨床研修制度のもとでの今後の地域医療

2006年07月05日 | 地域医療

卒後臨床研修制度が改正されて、医学部卒業後の人の流れが、従来と比べて、大きく変わりました。

新臨床研修制度に移行してから2年3ヶ月が経過し、すでに3回のマッチングが実施されました。今回は4回目のマッチングで、多くの病院で医学部6年生に対する採用試験が行われる時期になりました。また、2年間の初期臨床研修を修了した者達に対して、後期研修医の募集が行われています。後期研修医の募集は今回で2回目となります。

初期臨床研修でも、後期臨床研修でも、一部の都会の有名病院に人気が集中する傾向がはっきりしてきました。地方の大学病院や一般病院などでは、なかなか人を集めることができず、募集定員を大幅に割り込んでいるところが多い一方で、都会の人気病院では募集定員の何十倍もの応募があると聞いています。

そのため、地方では、大学病院でも一般病院でも、多くの科が深刻な医師不足に陥っており、地域医療崩壊の危機に直面しているのが現状です。

とにかく、突然、世の中の制度が大きく変わってしまい、今後はこの制度の下で皆やってゆくしかありません。従来通りにやっていたんでは、もうこの先どうにもやっていけなくなるのは明らかで、この新しい制度の下で、何とか工夫して、地域の医療を継続・発展させていくように努力してゆくしかありません。

地方の病院にとっては、研修医達に十分に満足してもらえるような研修・指導体制を整備することが、現在の最重要課題だと考えています。大学病院と関連病院が連携して、地方にあっても十分に魅力のある研修環境を整備していく必要があります。