ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

大野病院事件 第10回公判

2007年11月30日 | 大野病院事件

癒着胎盤で母体死亡となった事例

第1回公判 1/26 冒頭陳述
第2回公判 2/23 近隣の産婦人科医 前立ちの外科医
第3回公判 3/16 手術室にいた助産師 麻酔科医
第4回公判 4/27 手術室にいた看護師 病院長
第5回公判 5/25 病理鑑定医
第6回公判 7/20 田中憲一新潟大教授(産婦人科)
第7回公判 8/31 加藤医師に対する本人尋問
第8回公判 9/28 中山雅弘先生(胎盤病理の専門家)
第9回公判 10/26 岡村州博東北大教授(産婦人科)
第10回公判 11/30 池ノ上克宮崎大教授(産婦人科)

【今後の予定】 
12/21 加藤医師に対する本人尋問
  3/14 論告求刑
  5/ 9  弁護側の最終尋問
-------------------------

ロハス・メディカル ブログ

 福島県立大野病院事件第10回公判(0)

 福島県立大野病院事件第10回公判(1)

大野事件 第10回公判!【産科医療のこれから】

大野病院事件についての自ブロク内リンク集

周産期医療の崩壊をくい止める会のホームページ

第10回 公判傍聴記   平成19年11月30日

 9時30分開廷、本日は、弁護側証人として宮崎大学医学部産婦人科 池ノ上 克(ツヨム)教授。

 平成13年から本年まで16年間で前置胎盤で癒着胎盤であった症例は12例(4700件の分娩のうち)あったと証言。前壁に癒着胎盤があった症例は10例で、後壁に癒着があったものは1例(4700の分娩に1例)であったと証言した。12例の癒着胎盤の中で子宮摘出したものは9例あり、9例中、胎盤剥離をせず子宮を摘出したものは5例であり、これらは開腹後子宮前壁に穿通胎盤と明らかに癒着胎盤とわかった症例と、術前の超音波診断で強く癒着胎盤が疑われ、子供さんが二人以上いてこれ以上子供さんを希望していない症例に子宮を摘出したと証言した。

 胎盤を剥離後、やむをえず子宮を摘出したのは4例、子宮摘出前に胎盤を剥離するときは、途中で胎盤剥離を中止せず、すべて胎盤剥離を完了してしまうと証言、その方が子宮収縮が起き、出血が少なくなり、また止血操作がやりやすいことを説明した。逆に、もし胎盤の剥離操作を途中で止めて子宮摘出に移ると、出血が非常に多くなり、手術操作もやりにくい、そのために胎盤剥離を完了すると証言した。

 術前診断について、超音波診断で、①クリアゾーンの消失、②プラセンターラクネの存在、③ブラッダーラインの途絶の3つの所見について検討すると、これら3つの所見がすべて存在した症例ではすべて癒着胎盤であったが、1又は2つの所見のみの場合はすべて癒着胎盤ではなく、術前の癒着胎盤の診断は困難であることを示した。後壁の癒着胎盤は超音波診断はできないこと、そのためMRIの有用性について検討したが現在の段階では、超音波診断を凌駕するまでの検査法ではないことを証言した。

 胎盤剥離には、帝王切開症例はすべて用手剥離を施行しているが、剥離困難の場合に局所的にキュレットを使用していること、証人本人はクーパーを使用したことはないが、大阪の国立循環器病センターの池田先生はクーパーを使用していると聞いているし、また、Operative Obstetricsという教科書にも記載があることも証言した。

 前置胎盤では、子宮下部に胎盤が付着しているため、胎盤剥離後、その場所の子宮収縮は体部と比べて悪く、出血がどうしても多くなる。妊娠末期の子宮には、1分間450~600 mlの血液が流れているので、短時間に大量の出血が起こることはしばしばあることも証言した。今回の症例は、出血量が8000 ml以上になった時にDICになった可能性が高いことを強調した。

 今回の件で、加藤医師が応援を頼まなかった事について、止血操作のためになしえる処置が全て行われていること、他の産婦人科医師を頼んでも、それ以上できることはなく、一連の加藤医師の医療行為で、間違ったことはなかったと証言した。

 午後は、13時15分より、検察側から池ノ上教授に尋問があった。午前中に証言したことを繰り返して尋問した。術中超音波検査の意義、および術前の超音波検査の写真について、キュレットの使用のこと、応援医師を頼まなかったことの是非、剥離を途中で中止して子宮摘出に移るべきであったのではないか、と尋問したが、午前中と同じ答えを、池ノ上教授は検察側に説明した。

とくに、DICについて、DICとはどのような病態なのか、また産科DICスコアについての尋問があったが、池ノ上教授は医学生に講義するように答えた。産科DICを作成したのが池ノ上教授であることを、尋問した検事は知っていたのであろうか。午後の検察側の尋問は迫力なく、午後4時10分頃に終了した。

 公判後、期日間整理が行われ、弁護側が申請していた、医師法21条について、東京大学大学院法学政治学研究科の樋口範雄教授の証人喚問は拒否された。従って、今後の予定は以下の如く決まった。

  12月21日  被告人尋問

  1月25日  書証調べ

  3月14日  論告求刑

  5月9日  最終弁論  で結審する予定である。

             文責   佐藤 章

周産期医療の崩壊をくい止める会のホームページより)

****** m3.com 医療維新、2007年12月3日

福島県立大野病院事件◆Vol.4

起訴根拠を周産期医療の専門家が否定

第10回公判の証人尋問で加藤医師の妥当性支持

  橋本佳子(m3.com編集長)

検察官:「(加藤医師の施術について)他にやるべきことがあったのでしょうか」
証人:「ありません。私も同じことを実施したと思います」

検察官:「業務上過失致死罪で起訴されたことについて、どう思いますか」
証人:「個人的には、産科医療が生物学的に特殊であることを十分に理解されていない状態で、物事が動いていると思います。自分としては心穏やかでありません」
  
 11月30日に開かれた福島県立大野病院事件の第10回公判で、証人尋問に立った医師は検察官の問いにこう答え、本事件の被告である加藤克彦医師の帝王切開手術が妥当であったと証言した(事件の概要は、「公判では検察側に不利な証言続く」参照)。

 ここで言う「特殊な医療」とは、分娩は時に予期しない大量出血を来すなど、他科とは異なる危険性を伴うことを指す。そのほか弁護側の主尋問では、術前の検査のあり方や、胎盤剥離を完遂したことなどについて、検察の起訴事実を否定する証言が相次いだ。一方、検察側は、それを覆す反対尋問ができず、苦しい展開となった。

「術前の診断、手術時の対応ともに適切」

 弁護側の主尋問は、午前9時30分から午後0時10分まで、検察側の反対尋問は午後1時15分から、途中20分の休憩をはさんで午後4時まで行われた。

 この日の弁護側の証人は、国立大学の産婦人科教授で、周産期医療の第一人者。加藤医師の起訴直前の2006年3月9日に意見書、2007年1月4日に鑑定意見書、同10月24日に鑑定意見書追加をまとめている。

 大野病院事件の患者は、前置胎盤かつ癒着胎盤で、帝王切開手術後、大量出血を来して死亡した。術前に前置胎盤との診断は付いていたが、癒着胎盤であることは分かっていなかった。癒着胎盤の場合、胎盤剥離が容易ではなく、大量出血を来しやすいとされている。

 以下が、公判の主な争点だ。
(1)帝王切開手術前に、超音波検査だけでなく、MRIも実施すれば、癒着胎盤を診断できたのではないか。
(2)胎盤剥離の際、用手剥離に加えて、クーパーを使ったのは問題ではないか。
(3)子宮と胎盤の剥離が困難になった時点で、剥離を中断し、子宮摘出手術に切り替えるべきだったのではないか。
(4)大量出血を来した時点で、他院の産婦人科医に応援を頼むべきだったのではないか(大野病院の産婦人科医は加藤医師1人のみだった)。

 (1)について、証人の教授は、まず自らの研究を報告。1993年1月から2006年7月に自らかかわった分娩3757例のうち、前置胎盤は46例。そのうち超音波検査で癒着胎盤が疑われる所見が認められたのは13例だが、術後に病理学的に癒着胎盤が確認されたのは7例だった。この結果を踏まえ、超音波検査は癒着胎盤の診断に有用だが、100%の確率で診断することはできず、「MRI検査を追加しても、超音波検査を凌駕(りょうが)するほどの所見が得られるとは限らない」と教授は述べた。

 (2)では、「自院でもキュレット(子宮の内容物を取り出す際などに使う器具)を使うことがある。クーパーを使うことは不適切なことだとは思わない」とした。

 (3)については、「現在の所属大学でこれまで経験した約4700例のうち、癒着胎盤は12例。うち胎盤剥離を実施した7例(残る5例は最初から子宮摘出)については、剥離を中断したことはない」と述べた。その上で、「子宮喪失」という患者の心情に配慮したり、娠の可能性を残すためにも、可能な限り子宮を温存するのが重要であること、胎盤剥離の完遂で止血が期待できること、胎盤を剥離しないと次の手術がやりにくいことなどから、「胎盤剥離を完遂するという判断に誤りはない」と断言した。
 
 (4)についても、「加藤医師はスタンダードな対応をしているのであり、特段誤ったことはしていない。他院の産婦人科医に応援を求めても出血のコントロールに差はなかったのではないか」とした。

 その上で、患者は単なる大量出血ではなく、産科DIC(播種性血管内凝固症候群)に陥ったのではないかと示唆した。

来年3月に論告求刑、判決は夏ごろか

 公判後の記者会見で、主任弁護人の平岩敬一氏は、「本件は、胎盤剥離の続行が違法ということで逮捕・起訴に至っている。それがおかしいということが、これまでの証人尋問で明らかになったのではないか」との見解を述べた。その上で、「そもそも癒着胎盤は非常に稀な病気であるにもかかわらず、これまで検察側は一人も専門家の意見を聞いていない」と問題視した。弁護側は、胎盤病理や周産期医療の日本でもトップレベルの医師に鑑定を依頼したり、証人尋問を行っている。

 証拠から言えば、現時点では弁護側の方が有利なのは明らかだ。「胎盤剥離をクーパーで実施した」→「それが大量出血を招いた」→「胎盤剥離を中断して子宮摘出に切り替えるべきだったのに、剥離を完遂した過失がある」という検察の論理は、これまでの大半の証人が問題視している。

 次回の公判は12月21日、被告の加藤医師への尋問が予定されている。2008年1月25日に証拠の採否など手続き面での公判が開かれる。3月14日に論告求刑、5月9日に弁護側の最終弁論という予定で、判決は夏ごろになる見込みだ。(関連記事「証人の説得力と検察官の稚拙さ、両者の対比が際立つ―第10回公判傍聴記」

(m3.com 医療維新、2007年12月3日)

****** m3.com 医療維新、2007年12月3日

福島県立大野病院事件◆Vol.5

証人の説得力と検察官の稚拙さ

両者の対比が際立つ―第10回公判傍聴記

  橋本佳子(m3.com編集長)

 第10回公判が開かれた11月30日、福島は初冬にしてはやや暖かい日和だった。公判開始は通常より30分早い午前9時30分なので、私は6時台の新幹線に乗って福島に向かった。

 27人分の一般傍聴券を求めて並んだのは54人。周産期医療では高名な教授への証人尋問だったにもかかわらず、これまでの公判の中で最も抽選倍率は低かった(「公判では検察側に不利な証言続く」参照)。先月の第9回も周産期医療の専門家への証人尋問が行われ、公判の行方がある程度予想されたためか、それともいつもより早い開始時間で間に合わなかったのか――、定かではない。

じっと発言者を見つめる裁判長

 開廷は午前9時30分。5分前に法廷に入ると、既に検察側、弁護側ともに全員が席に着いていた。両者それぞれ8人という体制だ。傍聴席は、一般傍聴席のほか、関係者や報道席も含めて計48席。

 9時30分ちょうどに、裁判長をはじめ3人の裁判官が入廷、全員起立して一礼、着席する。報道機関による2分間の撮影後、被告の加藤医師が入廷する。加藤医師はいつもスーツ姿。着席前に、裁判官に一礼、傍聴席に座っている本事件の遺族に一礼する。これまでと同様に、非常に落ち着いた動作、表情だ。
 
 次いで、この日の証人である大学教授が入廷してくる。「虚偽の証言をすると、偽証罪に問われることもある」という説明を裁判長から受け、本人が宣誓する。

 その後、午後0時10分まで弁護側の主尋問が行われた。昼食休憩後、午後1時15分に再開、途中20分の休憩をはさんで午後4時まで検察側の反対尋問が行われた。第2回から第4回の公判では、午前と午後に一人ずつ、計2人の証人への尋問が行われていたが、ここ数回は1人の証人に丸1日かけている。

 途中、やや退屈なやり取りが何度か続いたため、裁判官たちの様子を観察してみた。裁判長は、発言者の顔を、つまり証人、弁護人、検察官のいずれかの表情をじっと見つめていた。日本の刑事裁判は、「自由心証主義」。カルテなどの客観的資料のほか、証人の意見をどのように証拠としてとらえるかを判断するため、慎重に耳を傾けていたのだろう。他の2人の裁判官は、メモを取りながら、話を聞いていたようだ(傍聴席から、2人の手元は見えない)。

 閉廷して傍聴者退席後、期日間整理手続(公判の合間に、裁判官、検察官、弁護人で行われる非公開の手続き)が行われた。1時間以上もかかり、福島県庁で弁護側の記者会見が始まったのは、午後6時少し前のことだ。約50分にわたり、報道各社の記者などとのやり取りが続いた。

証人教授の発言は「大学の講義」のよう

 今日の証人の国立大学教授は、意見書や鑑定書を年に1~2件手がけるほか、過去に法廷で証人尋問を受けた経験もある。さらに、最高裁判所の医事関係訴訟委員会は、鑑定人確保が容易になるよう、各学会に鑑定人の推薦を依頼しているが、この鑑定人にも選出されている。

 教授は、「起訴根拠を周産期医療の専門家が否定」で紹介したように、検察の起訴根拠を否定し、加藤医師の妥当性を支持した。尋問では、様々な場面で医学的な質問が投げかけられたが、その一つひとつにハキハキと答えた。その様子は、まるで大学で講義を聞いているかのようだった。医学の専門家ではない裁判官、検察官、弁護人に、丁寧かつ自信を持って説明する教授は、圧倒的な存在感を示した。

 これとは対照的に、この日の公判で目立ったのが、検察官の反対尋問の稚拙さだ。証人が書いた鑑定書について尋問をしたと思えば、帝王切開手術時の麻酔記録について見解を求めたり、また鑑定書に戻ったりするなど、いったい何を聞きたいのかが分からない尋問が続いた。

今春に裁判長変更、来春にも一人交代か

 過去10回の公判を振り返ると、改めて痛感するのは証人の重要さだ。

 裁判官を前に、かつ多数の傍聴人がいる中で証言するのは緊張を強いられることだろう。とはいえ、そこは医療のプロ。証人となった医師の大半は、自らの専門分野の尋問については自信を持って的確に答えていた。その一方で、専門外の事項に関しては、「何も分かっていない」(傍聴人席に座る専門家の意見)と受け取られる回答をしている医師も見られた。
 
 話し方や態度も、本来の性格か、あるいは自信の有無の差か、正々堂々としている人から、ややおどおどとしている人まで様々だった。もちろん証言内容そのものが重要だが、それをどう説明するかで裁判官への印象が変わってくるのでは、と裁判の素人目には映る。

 なお、証人については、一つだけ疑問が残る。加藤医師は医師法21条違反(異状死の届け出の規定)でも起訴されている。この点については、第4回の公判で大野病院の院長が証人となり、事故当時の様子を語っただけだ。弁護側は、医師法21条に詳しい法学者の証人尋問を求めたが、裁判所は「不必要」として採用を認めていない。

 「起訴根拠を周産期医療の専門家が否定」で言及したように、判決は来年の夏ごろになる見込みだ。福島県立大野病院事件の初公判は今年1月で、この春に裁判長が人事異動で変わった。来春も裁判官の一人が代わる可能性があるという。人事異動は致し方ないのだろうが、継続的な視点での判断を望むばかりだ。

(m3.com 医療維新、2007年12月3日)

****** OhmyNews、2007年12月2日

「剥離完遂の判断に誤りはない」検察側証言を完全否定

福島県立大野病院事件第10回公判

OhmyNews編集部

 福島県立大野病院で2004年12月、帝王切開手術を受けた女性が死亡し、執刀した産婦人科の加藤克彦医師が業務上過失致死と医師法21条(異状死の届け出)違反に問われている事件の第10回公判が11月30日、福島地裁で開かれた。

 弁護側の証人尋問は4回目で、この日は、周産期医学を専門とする宮崎大学医学部産婦人科の池ノ上克教授(同大医学部長)が出廷。ハイリスク分娩を主として扱う同大病院周産母子センターで、現在も年約300件の分娩に直接・間接に関与する臨床医の立場から、

 「一般的な産科医療のレベルから見て、(加藤医師がこの件で行った処置に)間違いがあったとはいえない。私も同じような処置をしたと思う」と、加藤医師を全面的に擁護する主張を展開した。

「胎盤剥離を中止することはない」

 裁判で検察側は、加藤医師が手術中、癒着胎盤であると判断した時点で胎盤剥離を中止し、ただちに子宮を摘出すべきだったと、加藤医師の判断ミスを指摘している。

 これに対し池ノ上教授は、宮崎大学病院産婦人科で91年(当時は宮崎医科大学)から扱った癒着胎盤症例の実績を説明。症例12例のうち、胎盤剥離をせずに子宮を摘出したケースは5例で、残りの7例はいずれも胎盤を剥離したのちに子宮を摘出(4例)あるいは温存(3例)したとして、

 「胎盤を除去すれば、子宮筋層が収縮して血管を押しつぶすので血が止まりやすくなるという機序(仕組み)だから、胎盤はく離を優先する」

 「子宮を摘出するにしても、大きな胎盤が残ったままだと手術操作がしにくいので、(胎盤剥離を始めたら)中止することはない」

と述べ、検察側の主張を否定した。

 また、争点のひとつとなっているクーパー(手術用はさみ)の使用について、池ノ上教授は、

 「(遺残した胎盤をかき出すのに)私たちの教室ではキュレットを使っている」

と、器具を用いることに問題はないと証言。キュレットとは、先端部に穴が開いていて、にぶい刃のようなものが付いた長さ30cm程度の細長い器具で、子宮内の組織をかき出すのに使用されるものだ。さらに

 「私自身はないが、かつての同僚が(胎盤剥離に)クーパーを使っていると聞いたことがある」

と述べ、クーパーを使用したことには問題がなかったとする弁護側の主張を裏付けた。

 また、第6回の公判で、検察側証人に立った新潟大学医学部産婦人科学の田中憲一教授の「胎盤剥離を完了する前に子宮を摘出すべきだった」との証言に対しては、

 「後から振り返って見ればそうかもしれないが、その時点に立って考えてみれば(胎盤剥離を完了した直後の2555ccという)出血量は多くないので、私も子宮摘出という判断はしない。加藤医師が胎盤剥離を完了させた判断に誤りはない」

と反論。その後、15分間で5000ccを超える大量出血となったことについても、

 「癒着胎盤に続いてDIC(播種性血管内凝固症候群=血液凝固因子が不足して、血が止まらなくなる状態)が起こり始めたのではないか。一般的に産科医が行う止血処置はすべてしている」

と述べ、予測不能な事態が起こったこと、それに対しては最善の処置が行われていると、加藤医師を擁護した。

 検察側は反対尋問で、大量出血となったにもかかわらず、加藤医師が他の医師の応援を断ったことについて問いただしたが、池ノ上教授は、

 「基本的な処置ができる外科医が助手についていれば応援は必要ない。加藤医師も最終的に子宮摘出できている」

と一蹴。

 検察側は、池ノ上教授が供述書や病理記録を吟味せずに、カルテだけを見て意見書や鑑定書を書いた点を突き、証言の信憑性を弱めようと試みる場面も見られたが、全体的に弁護側の主尋問をなぞるような質問に終始し、有効な証言を引き出せないまま、普段より1~2時間早い16時に証人尋問は終了した。

 今回の尋問を担当した兼川真紀弁護士は裁判後の記者会見で、

 「臨床の現場がどのようなものかを伝えたいという気持ちで質問した。裁判官は実際の医師がどのように手術をしているかを知って判断してほしい」

と話した。

判決は来年夏以降に?

 次回は12月21日に加藤医師に対する本人尋問の続きがおこなわれる予定だが、弁護側が医師法21条をめぐり申請していた証人(東京大学法学部・大学院法学政治学研究科・樋口範雄教授)は却下された。医師法21条違反で起訴されているにも関わらず、これについての弁論は行われないことになる。

 そのため、弁護側は早い結審を求めたが、「書面のやりとりで反論するのに時間がかかる」とする検察側の要請で、論告求刑が3月14日、弁護側の最終尋問が5月9日と決まった。

 来年春ごろと見られていた判決は、夏ごろにずれ込みそうだ。

(OhmyNews、2007年12月2日)


迫る限界 お産の現場

2007年11月29日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

全国各地で分娩を取り止める産科施設が相次いでいる中で、何とか生き残って、分娩取り扱い業務を続けている医療機関では、業務量が以前と比べて急増しているにもかかわらず、勤務する産科医師の絶対数はむしろ年々減少し続けてます。

それぞれの地域の実情に合わせて、病診連携、助産師の活用、分娩予約の制限など、あの手この手の必死の生き残り策が次々に実行に移されてます。

しかし、産科医療を取り巻く状況は急速に悪化する一方であり、個々の医療機関や自治体の生き残りを賭けた自助努力も、そろそろ限界に近づきつつあります。

参考記事: 

 周産期医療が危ない   

 分娩取り扱う病院 激減

 産める病院が1年半で1割減、読売新聞全国調査

 産科医療に関する新聞記事

 分娩体制崩壊の危機

****** 朝日新聞、島根、2007年11月28日

迫る限界 お産の現場

 隠岐病院(隠岐の島町)での分娩業務が休止され、島に住む妊婦がいっせいに海を渡ったのは昨年春から秋にかけてのこと。医療過疎地を多く抱える島根の慢性的な産科医不足は依然解消されず、分娩を取りやめる施設が相次ぐ。業務を今も続けている病院や診療所の自助努力は限界に近づいている。

Shimane

解消されない医師不足/5病院 相次ぎ分娩休止

 松江生協病院(松江市)の看護部長室には2199人分の署名用紙の束が置かれている。「産科及び不妊外来の継続に関する嘆願書」。この病院で出産したある女性は「また妊娠したら、是非生協病院で出産したい」と余白につづっていた。錦織美智枝部長は「現場にいる看護師や助産師は残念な気持ちでいっぱいです」と語る。

 女性診療科(産婦人科)の常勤医3人のうち2人が、年内で退職する。病院が年明けから分娩を休止する方針を決めたのは10月中旬。後任を探すため、ホームページに広告を載せたり、大学病院を回ったりしているが、今のところあてはない。このままだと、同病院で健診を受けていた50人余りの妊婦が、ほかで産まなければならなくなる。同病院の大田誠院長は「妊婦さんには申し訳ないが、医師確保は難しい状況だ」と表情を曇らす。

   ◇   ◇   

 県内の施設での分娩休止は今に始まったことではない。公立邑智病院(邑南町、03年7月)、飯南町立飯南病院(04年4月)、出雲市立総合医療センター(同4月)と続き、昨年7月には安来市立病院が取りやめた。津和野共存病院(津和野町)の場合、産婦人科医をサポートする常勤の小児科医がいなくなったため、今春から休止している。

 今年3月に開かれた県の地域医療支援会議。席上、後継者不足と高齢化に直面する県内の産婦人科医のデータが示された。

 分娩を扱う診療所は96年の21から05年は11に。医師56人(病院と診療所合計)のうち、20人が50代以上――。

 県医療対策課の担当者は「『正常分娩は診療所、リスクの高い分娩は病院で』という役割分担の形が崩れ、病院に業務が集中しつつある」と指摘し、勤務医の過酷労働を懸念する。実際に県西部では、病院がほとんどのお産を担う事態に陥っている。

「病院連携」新たな動きも

 県内に七つある「医療圏」のうち、浜田、江津両市がエリアの「浜田医療圏」では今年8月から、「お産応援システム」が始まった。年間約730件のお産を2カ所の病院と1カ所の診療所で担っていたが、診療所が7月いっぱいで分娩を休止。病院の負担をできるだけ軽くするため、健診は診療所で受けるよう呼びかける。

 浜田保健所は10月から3カ月間の予定で、市役所に出生届を出した母親にアンケートを始めた。健診と分娩の場所、選んだ理由、感想などを質問。新しいシステムが機能しているかどうかだけでなく、母親たちの満足度をつかむのが狙いだ。

(朝日新聞、島根、2007年11月28日)

****** 朝日新聞、島根、2007年11月28日

県立中央病院が分娩予約を制限

来年1月から/「安全の確保へ医師も設備も限界

 出産件数が増えている県立中央病院(出雲市)は来年1月から、分娩予約を制限する。同病院は高度な医療が必要な重症の妊婦や新生児が県内全域から運ばれてくる拠点病院。機能を維持するための「やむを得ない措置」と説明する。

 今月13日、同病院のホームページに、「当院で出産を希望される方へ」と題した文章を載せた。このなかで「産婦人科の診療機能が限界になっています」と説明。来年1月以降の分娩予定日の人から、予約数を制限することに理解を求めている。

 実際に制限の対象となるのは正常分娩で、里帰り出産など同病院で途中から診察を受ける人。妊娠がわかった時点から、受診していた妊婦は従来通り予約を受け付ける。

 02年度に897件だった分娩件数は05年度966件、昨年度1099件と年々増えている。分娩施設が減る一方、高齢出産などで病院を選ぶ人や里帰り出産(05年157件、06年178件)が増えていることが要因とみられる。

 病院側は昨年4月以降、月74~107件のペースで推移している分娩件数を70~80件程度に抑えたい意向だ。藤原二郎・中央病院総務管理部長は「医師も設備も限界で、このままでは安全の確保が難しくなる。危険度の高い患者さんを受け入れるために、協力してほしい」と呼びかけている。

(朝日新聞、島根、2007年11月28日)

****** 朝日新聞、島根、2007年11月28日

助産所ゼロ 安全模索/どうなる出産

 県内で2カ所だけになっていた開業助産所が今年3月と7月、相次いで分娩(ぶんべん)をとりやめた。妊婦の心強い味方となってきたベテラン助産師の思いは後輩に受け継がれ、助産師の活躍の舞台は今後、病院や診療所に移る。医師や看護師と連携し、互いの力をどう高めていくか。安全なお産を守るための模索が続く。(上原賢子)

緊急時、病院頼れなくなった/902人「感謝の気持ち」

◇長野助産院・長野千恵子さん◇

 隠岐の島町の長野千恵子さん(74)は7月いっぱいで「長野助産院」を閉めた。

 緊急時に妊婦を受け入れてくれた隠岐病院が今年4月から常勤医1人態勢になった。分娩の受け入れは正常な経過をたどっている経産婦に限られることになり、緊急の際に頼れなくなった。

 2月の町民向け説明会で、松田和久町長から「医者は探してくるから」と声を掛けられた。だが、全国的な産科医不足のなか、医師が島にやって来る見込みはなかった。「『夜中でも構わないから早くおいでー』と妊婦さんを迎える自信がなくなってしまった」

 岡山大学医学部の付属学校で学び、57年に助産師の資格を取った。東京の病院や隠岐病院の勤務を経て、81年に開業した。

 出産を終えるまで要した時間の最長は98年2月の31時間45分。途中、妊婦に「病院で陣痛促進剤をお願いすれば楽になるよ」と言うと、「ここで産みたい。がんばります」との答えが返ってきた。身の引き締まる思いがしたのを昨日のことのように思い出す。

 26年間、かかわってきた母子の様子を大学ノートに日付順に書き留めてきた。最後の記録は、1月14日にとり上げた902人目の赤ちゃん。「感謝の気持ちと満足感でいっぱいです」としみじみ語った。

お産減り、手伝い確保困難に/「またかかわりたい」

◇森脇助産院・森脇正子さん◇

 出雲市の「森脇助産院」を営む森脇正子(しょうこ)さん(67)は3月いっぱいで、分娩業務をやめた。分娩台は処分したが、診察室で母乳の相談などに応じている。

 母の笑子(えみこ)さん(93)が助産師として、各家庭を回る姿を見て育った。大阪赤十字病院の付属学校で学び、63年に助産師になった。

 翌年、出雲市多伎町の実家に戻り、県立湖陵病院や県立中央病院で助産師として勤務した。笑子さんが71年に自宅に助産院を開業すると、夜は助産院でのお産も手伝った。

 95年に病院を退職。笑子さんから助産院を引き継いだ。不測の事態に備え、妊婦の出産予定日が近づくと、医療機関に健診に行くのに付き添った。「様子が少しでもおかしいと感じたら、すぐ連絡してね」とアドバイス。陣痛が来た妊婦とは一緒に和室でお茶を飲んだり、散歩に出かけたりして、緊張を和らげるよう努めた。

 病院や診療所で産む人が増え、訪れる妊婦はここ数年、年1けたに減っていた。分娩をやめたのは、少なくなったお産のために、施設の維持や食事作りなどの手伝いを頼む人を確保するのが難しくなってきたからだ。

 「オギャーの産声にほっとして、次もがんばろうという気になれた」。場所は変わっても、またお産にかかわりたいと思っている。

◆助産師の役割重さ増す◆

 日本助産師会県支部によると、県内では20年前、10の開業助産所があった。同会によると、岩手や山形、徳島などでもすでになくなっている。

 減っている理由としては、医療機関での出産を望む人が増えている▽今年4月の医療法改正で産婦人科の嘱託医と連携医療機関の指定が義務づけられた――などが挙げられる。その一方で、産婦人科医が不足するなか、助産師の役割は重要さを増している。

 常勤産婦人科医が2人から1人に減り、再び出産に対応できなくなる危機に直面した隠岐病院に4月、院内助産所ができた。出産を受け付ける対象は、2人目以降を産む人で経過が正常な場合。原則として分娩に医師は立ち会わず、2人の助産師が対応する。これまでここで26人が出産した。

 県支部は10月末、松江市内で開いた研修会でこの院内助産所の取り組みを紹介。一ノ名(いちのみょう)緑支部長は「ほかの病院への広がりや、新たな助産所の設立に向け、助産師一人ひとりの力を高めていきたい」と話す。

(朝日新聞、島根、2007年11月28日)

****** 朝日新聞、2007年11月28日

妊婦搬送に担当医 都内8病院が受け入れを調整

 妊婦の搬送受け入れ拒否が問題化するなか、東京都内で高度医療を担う病院に、他の医療機関と連絡を取り合い搬送先の調整を主に担当する医師が配置されることになった。都が来年度から「総合周産期母子医療センター」に指定する8民間病院を対象に、こうした医師の人件費を助成する制度を始める。患者の受け入れについて医師同士がやりとりすることで、救急隊員よりもきめ細かな対応に期待する。

 都は、8病院に搬送調整を主に担う医師を1人ずつ増やす方針だ。例えば、ある病院のNICU(新生児集中治療室)が満床でもただちに新患の受け入れを断るのではなく、その病院の医師と相談して比較的回復している新生児を別室に移し、新たな患者を受け入れさせるといった調整をする。

 総務省消防庁の調査では、都内で06年に産科や周産期の病院に救急搬送された4179件のうち、救急車が現場に到着してから病院に出発するまでに30分以上かかったのが329件あった。10回以上病院に断られたのは30件で、27回目で受け入れ先が見つかったケースもあった。

(朝日新聞、2007年11月28日)

****** 山梨日日新聞、2007年11月28日

県東部で分娩継続を 広域連合議会が可決
県、山梨大に要請へ

 都留市立病院が分娩(ぶんべん)の予約受け付けを休止している問題で、県東部広域連合議会は二十七日、十一月定例会を開き、議員提案された県東部地域での分娩継続を求める意見書を可決し、閉会した。

 意見書は「都留市立病院は県東部地域における唯一の分娩可能施設で、分娩の廃止は同地域に深刻な打撃となる」として、県東部地域での分娩継続に向けて、県と山梨大に協力するよう求める内容。近く両者に文書を提出する。

 一方、都留市議会の市立病院産婦人科問題特別委員会が同日開かれ、意見書を国に提出することを決めた。

(山梨日日新聞、2007年11月28日)

****** 産経新聞、神奈川、2007年11月29日

助産師外来 普及は“難産” 出産難民の救世主…悩みはやはり人手不足

 産科医が不足し、「出産難民」が問題化するなか、「助産師外来」を導入する医療機関が増えている。医師の診療の一部を助産師がケアする外来だ。神奈川県横須賀市立市民病院もそのひとつで今年10月、「助産師外来」を開設。妊婦に好評を博している。ただ、助産師自体の不足もあり、全国的な広がりにはまだ課題が多い。(横浜総局 豊島康宏)

                   ◇

 開設したばかりの横須賀市立市民病院の助産師外来を訪ねた。

 妊婦はBGMを流し、リラックスできるよう作られた専用の個室で、助産師の保健や母乳指導のほか、健診を受ける。この日は、妊婦が腹部エコー検査を受けていた。助産師が「女の子ですね」と伝えながら、モニターに映る胎児の様子を見せると、妊婦も穏やかにながめていた。

 同病院の助産師外来は月8、9回で、完全予約制。保健指導や健診は妊娠中2回程度、原則として正常な経過で希望する妊婦が受けられる。

 妊婦健診は1回30分、5000円で、医師による妊婦健診と同じ金額だ。異常が発見された場合は、医師が診療する。最終的には、助産師が正常経過の女性の分娩(ぶんべん)まで行う「院内助産」を目標にしている。

 ≪「信頼」築きやすく≫

 助産師外来を設置する医療機関は年々増加している。背景にあるのは産科医不足。分娩を休止する医療機関が相次ぎ、地元で出産できない「出産難民」と呼ばれる妊婦が出るなど、各地で深刻な状況が浮き彫りになっている。

 助産師外来は厳しい現状の救世主とみられており、昭和51年に誕生した助産師外来は現在、推定で208にのぼっている。

 静岡赤十字病院(静岡市)では今年3月に開設。すでに700人以上の妊婦をみてきた。曜日ごとの担当を固定しているため、同じ助産師に担当してもらえ、信頼関係が築きやすい。

 千葉市の川鉄千葉病院でも昨年4月に開設。妊娠中少なくとも1回受診が可能だ。北里研究所メディカルセンター病院(埼玉県北本市)も医師と連携して、希望者の受診に取り組んでいる。東京都保健医療公社荏原病院は6月の助産師外来設置に続き、9月には院内助産所を開設した。

 助産師外来はおおむね好評で、静岡赤十字病院では「検査の内容を助産師が分かりやすく教えてくれる」との声が相次ぐ。

 横須賀市立市民病院のアンケートでも「じっくり話を聞くことができた」「質問したいことの答えがほとんど得られたので良かった」と評価が高かったという。

 ≪全国に2万5775人≫

 好評な助産師外来だが、急増しているかというとそうでもない。全国に208あるとされるが、産科や産婦人科をもつ医療機関約6000のうちではごくわずかだ。

 理由のひとつは助産師の絶対数の不足。全国で就業している助産師は2万5775人(平成18年現在)。緩やかな増加傾向にあるものの、人手不足の状態が続く。

 さらに、厳しい経営状態の病院が多いなか、新たな外来の設置に二の足を踏む医療機関があるとみられる。

 このため、厚生労働省は助産師外来設置に向け、予算獲得に必死だ。同省では「助産師外来の普及が進めば」と話している。

(産経新聞、神奈川、2007年11月29日)

****** 毎日新聞、長野、2007年11月27日

上田市産院:「助産師外来」市が今年度中に新設へ 分娩数200件減に

 院長が辞職願を提出した「上田市産院」(同市常磐城)について、上田市の母袋創一市長は26日、助産師が医師に代わって検診などを行う「助産師外来」を今年度中に新設する方針を明らかにした。ただ、新たな医師の確保については見通しが立っていないため、年間の分娩(ぶんべん)数を200件程度減らして、乗り切る構えだ。

 母袋市長は、この日開かれた市議会全員協議会で、「全国的に産科医が不足して新たな医師確保が困難な現状だ。産科医の負担を減らすため、医師の管理の下、助産師外来の導入を考えていきたい」と述べた。その上で、現在約700件ある同院の分娩数については「約500件を目指したい」と語った。

 今後の医師体制に関し同市では常勤医1人、非常勤医1人の計2人体制を維持する。ただ、非常勤医の勤務を現状の週3日から週4、5日に増やす方向で調整に入っている。来年4月までの分娩は予約通り継続する。

 一方で、一部住民らが要望している助産師が分娩を主導する「バースセンター」や「院内助産院」の設置について、母袋市長は「訴訟のリスクもあり、国などが法的な体制を整えてから検討すべきだ」と述べ、否定的な見解を示した。

 また、母袋市長は甲藤一男院長(57)の辞職願を21日付で正式に受理したことを明らかにした。

 甲藤氏について、同市長は「非常勤ということも含めて、何らかの形でかかわってもらうことを要請している」と語った。【川口健史】

(毎日新聞、長野、2007年11月27日)

****** 西日本新聞、大分、2007年11月27日

国東市での出産困難に 唯一の医院、産科休診へ

 国東市で唯一お産ができる福田産婦人科内科医院(同市国東町)が今年いっぱいで出産の扱いをやめることが26日、分かった。この結果、国東半島北部(同市、豊後高田市、姫島村)で出産に対応する病院はなくなり、杵築市と宇佐市の産婦人科が最寄りになる。

 同医院は1981年に開業。半島北部の妊婦が利用している。出産数は、ピーク時の86年には年間約250件あったが、その後減り続け現在は100件ほどという。

 産科休止の理由について福田栄院長は「過疎化と少子化が進む地域で採算が取れなくなった」と話している。また近年、高齢出産が増え、リスクの高い手術をするだけの人員確保が難しくなったことも要因という。婦人科と内科、小児科機能を残し、乳児や妊婦の健診は続ける。

 国東地区の中心的医療を担う国東市民病院(同市安岐町)の産婦人科は2年前に休止しており、再開のめどは立っていない。県医務課によると、現在、産婦人科医は県内に100人おり大分市と別府市に集中。臼杵市・津久見市に1人、佐伯市1人、中津市2人など偏在が顕著になっている。

(西日本新聞、大分、2007年11月27日)

****** 下野新聞、栃木、2007年11月26日

産科医、さらに減少/常勤医総数は横ばい/県内28病院

 入院が必要な重症患者を受け入れる二次救急を担う県内二十八カ所の中核病院で今年十月現在の常勤医は、臨床研修医を除くと七百九十三人となり、四月比でほぼ横ばいだったが、産科の減少に歯止めがかかっていないことが二十五日までに、県保健福祉部の調査で分かった。産科を中心とした県の医師確保対策の効果が思うように表れていないのが現状で、同部は「非常に危機的な状況」との認識を示している。

Tochigi  調査は県内の二大学病院を除いて実施。内科系三百十三人、外科系三百五十五人と四月比で二けたの増減になったが、統計の取り方の変更が大きな要因で、総数は六百六十八人と同数だった。

 一方、小児科は二人増の四十八人だったが、産科は引き続き減少し四十一人になった。今年四月から出産受け入れを大幅に縮小した国立病院機構(NHO)栃木病院(宇都宮市)は、産科医二人を今夏以降も維持した。

 県は医師確保対策として返済免除がある研修資金貸与や県職員として採用するドクターバンク制度、女性医師の現場復帰支援などに取り組んでいる。しかし研修資金貸与は募集定員割れが続き、現場復帰もやっと一病院が利用しただけだ。ドクターバンクは三回目の募集中だが、応募はもちろん、問い合わせすらほとんどないという。

 さらに休日・夜間の時間外診療で中核病院に救急患者が集中する実態が続いている。大学病院を含めると二〇〇六年度も救急患者全体の七割に達したが、ほとんどが入院の必要のない「時間外診療」の対応だった。

 県北地域で初期の小児救急も担う中核病院の病院長は、県の会合で「周産期医療の新生児を背負いながら初期救急もしなければならない。極めて危機的な状況で、勤務環境が悪ければ、いつ大学から派遣中止を言われるか分からない」と窮状を訴えた。

 県は現在策定中の次期保健医療計画(〇八-一二年度)で救急や周産期など医療連携体制の整備を目指しており、どれだけ実効性のある内容を盛り込めるかが今後の医師確保で鍵を握りそうだ。

(下野新聞、栃木、2007年11月26日)


第1回婦人科腫瘍専門医試験(2006年) 問題と解答例

2007年11月27日 | 婦人科腫瘍

問題001~問題010   問題011~問題020 

問題021~問題030   問題031~問題040

問題041~問題050   問題051~問題060

問題061~問題070   問題071~問題080

問題081~問題090   問題091~問題100


第1回婦人科腫瘍専門医試験(2006年)、問題091~問題100

2007年11月27日 | 婦人科腫瘍

第1回婦人科腫瘍専門医試験(2006年)、問題と解答例

【問題091~問題100】

問題091 手術解剖で誤っているのはどれか。
a)仙骨リンパ節は子宮頚癌の所属リンパ節である。
b)子宮底部からのリンパ管は傍大動脈リンパ節に入る。
c)基靱帯の血管部は神経部よりも骨盤底側に存在している。
d)準広汎子宮全摘出術ではリンパ節郭清の有無を問わない。
e)骨盤神経はS2~S4より発する副交感神経である。

問題092 傍大動脈リンパ節郭清の解剖で正しいのはどれか。
a)下大静脈は下行大動脈の左方に位置する。
b)下大静脈の分岐部は下行大動脈の前方(腹側)に位置する。
c)左尿管は下腸間膜動脈の前方(腹側)を走行する。
d)右卵巣静脈は右腎静脈に注ぐ。
e)下腸間膜動脈は下行大動脈の前方(腹側)から発する。

問題093 広汎子宮全摘出術の解剖で正しいのはどれか。
a)膀胱側腔は外腸骨動静脈の内側で基靱帯の足方に位置する。
b)直腸腟靱帯の外側には神経線維は少ない。
c)基靱帯浅層部には神経線維を豊富に含む。
d)膀胱子宮靱帯の前層は神経線維を豊富に含む。
e)直腸側腔は外腸骨動脈の直内側に入って展開する。

問題094 臨床試験について正しいのはどれか。
a)第Ⅰ相試験は前臨床試験である。
b)第Ⅱ相試験は薬剤の至適用量を決定するための試験である。
c)第Ⅲ相試験は薬剤の抗腫瘍効果を評価するための試験である。
d)第Ⅲ相試験は標準的治療法を決定するための試験である。
e)第Ⅲ相試験におけるランダム化は封筒法で行う。

問題095 倫理委員会(IRB)について正しいのはどれか。
(1)IRBは臨床研究の倫理性を審議する。
(2)IRBメンバーは両性で構成されるべきである。
(3)IRBメンバーは医学専門家のみで構成される。
(4)IRBメンバーには一般人を加えない方がよい。
(5)研究施設代表者はIRBの委員長になれない。

a(1)(2)、b(1)(5)、c(2)(3)、d(3)(4)、e(4)(5)

問題096 臨床試験の実施で正しいのはどれか。
a)承認薬を用いる試験では倫理委員会(IRB)での承認は必要ない。
b)口頭での十分な説明の後、その場で速やかに文書での同意を得る。
c)治療が開始すれば患者の希望によるプロトコール中止はできない。
d)患者の同意、症例登録、治療開始の順番を厳守する。
e)安全性の観点から、治療開始や中止は各医師の裁量で行う。

問題097 臨床試験における同意で正しいのはどれか。
a)臨床試験参加の同意を口頭のみで得た。
b)臨床試験参加の同意文書を家人のみから得た。
c)臨床試験参加の同意文書を本人のみから得た。
d)臨床試験参加登録を行った後に同意を得た。
e)臨床試験参加の同意文書を治療開始後に得た。

問題098 癌化学療法の効果判定基準RECISTで誤っているのはどれか。
a)評価の対象となる病変は測定可能病変のみである。
b)CTやMRIで測定可能病変の最小サイズが定義されている。
c)PRとは病変長径30%以上の縮小が4週間以上のものをいう。
d)PDとは病変長径20%以上の増大をいう。
e)効果を総合的に判断する総合判定基準が設けられている。

問題099 癌化学療法に使用するG-CSF製剤や5-HT3受容体拮抗剤で正しいのはどれか。
a)好中球減少Grade 4が確認されたらG-CSF製剤の投与が必須である。
b)好中球数が5,000/mm3を超えたらG-CSF製剤の投与を中止する。
c)G-CSF製剤や5-HT3受容体拮抗剤は原則的に抗癌剤と同日投与する。
d)有熱性好中球減少症Grade 3では第3世代抗菌剤の投与が必須である。
e)5-HT3受容体拮抗剤は遅発性嘔吐に著効する。

問題100 抗癌剤の毒性が現れやすい臓器・組織で誤っているのはどれか。
a)ドキソルビシン - 心筋
b)エトポシド - 呼吸器
c)イリノテカン - 消化器
d)パクリタクセル - 神経
e)シクロホスファミド - 卵巣

―――――――――――――――――――――――――

解答例 (誤答の場合は御指摘ください)

問題091 手術解剖で誤っているのはどれか。
a)仙骨リンパ節は子宮頚癌の所属リンパ節である。
b)子宮底部からのリンパ管は傍大動脈リンパ節に入る。
c)基靱帯の血管部は神経部よりも骨盤底側に存在している。
d)準広汎子宮全摘出術ではリンパ節郭清の有無を問わない。
e)骨盤神経はS2~S4より発する副交感神経である。

解答:c

a)子宮頚癌の所属リンパ節:基靱帯リンパ節、閉鎖リンパ節、外腸骨リンパ節、内腸骨リンパ節、総腸骨リンパ節、仙骨リンパ節

e)下腹神経:T11~L2より発する交感神経。直腸の両側を下降し、仙骨子宮靱帯および直腸腟靱帯の外側を走行し、骨盤神経叢を形成し、さらに膀胱に至り排尿筋を弛緩させる。
 骨盤神経:S2~S4より発する副交感神経。基靱帯の神経部分を構成し、交感神経とともに骨盤神経叢を形成し、排尿筋を収縮させる。

******

問題092 傍大動脈リンパ節郭清の解剖で正しいのはどれか。
a)下大静脈は下行大動脈の左方に位置する。
b)下大静脈の分岐部は下行大動脈の前方(腹側)に位置する。
c)左尿管は下腸間膜動脈の前方(腹側)を走行する。
d)右卵巣静脈は右腎静脈に注ぐ。
e)下腸間膜動脈は下行大動脈の前方(腹側)から発する。

解答:e

a)下大静脈は下行大動脈の右方に位置する。

b)下大静脈の分岐部は下行大動脈の後方(背側)に位置する。

c)左尿管は下腸間膜動脈の後方(背側)を走行する。

d)右卵巣静脈は下大静脈に注ぐ。

******

問題093 広汎子宮全摘出術の解剖で正しいのはどれか。
a)膀胱側腔は外腸骨動静脈の内側で基靱帯の足方に位置する。
b)直腸腟靱帯の外側には神経線維は少ない。
c)基靱帯浅層部には神経線維を豊富に含む。
d)膀胱子宮靱帯の前層は神経線維を豊富に含む。
e)直腸側腔は外腸骨動脈の直内側に入って展開する。

解答:a

e)直腸側腔は、尿管と内腸骨動脈の間隙を確認し、その間を左右に鈍的に開いて展開する。

******

問題094 臨床試験について正しいのはどれか。
a)第Ⅰ相試験は前臨床試験である。
b)第Ⅱ相試験は薬剤の至適用量を決定するための試験である。
c)第Ⅲ相試験は薬剤の抗腫瘍効果を評価するための試験である。
d)第Ⅲ相試験は標準的治療法を決定するための試験である。
e)第Ⅲ相試験におけるランダム化は封筒法で行う。

解答:b

臨床試験:治療効果を評価する目的で人を対象に行う科学的実験。

前臨床試験:動物での安全性や有効性を試す実験。

第Ⅰ相試験(臨床薬理試験):健康な成人ボランティア(通常は男性)に対して開発中の薬剤を投与し、その安全性(人体に副作用は無いか)を中心に、薬剤が体にどのように吸収され排泄されていくかといった「薬物動態」を確認する。

第Ⅱ相試験(探索的試験):比較的少数の患者に対して第Ⅰ相試験で安全性が確認された用量の範囲で薬剤が投与される。その安全性、用法(投与の仕方:投与回数、投与期間、投与間隔など)、用量(最も効果的な投与量)を調べる。第Ⅱ相試験で行われる臨床試験としては、単回投与試験→ パイロット試験→ 用量設定試験→ 長期投与試験が行われます。

用量設定試験:第Ⅱ相試験で行われる臨床試験の試験デザインの1つ。承認申請の効能・効果が期待される適応疾患患者を対象として、主に二重盲検法を用いて、低量・中量・高量の2~3種類の用量の被検薬で、時にはプラセボを対照薬に含め、比較試験を行う。この結果から、被検薬の用法・用量・至適用量幅が設定され、第Ⅲ相試験で検証される。

第Ⅲ相試験(検証試験):従来の治療あるいはプラシーボと新しい治療を比較する。多数の患者を対象に、比較試験(二重盲検試験)で、実際の臨床使用における有効性・安全性を確認する。適応疾患における用法・容量を確認する。

第Ⅳ相試験:市販後調査であり、多くの人々に対し長期副作用、長期効果について検討する。

封筒法:予め組み入れられる群が記入された紙の封筒を決められた順番で破っていく方法。

ランダム化の割付を(センターではなく)各施設で行った場合には、質の高い研究とはみなされません。なぜなら、公正な割付がなされないことが経験的にわかっているからです。治療群と無治療群を比較すると仮定すると、通常医師は治療群に割り当てられることを望みます。また2つの治療法の比較の場合には、通常どちらか自分が優れていると思っている治療法に割り当てられることを望みます。特に重要な患者(有力者や親しい人の紹介患者)、自己主張の強い患者では、優れていると信じている方の治療を割り付けたくなります。このため、封筒法では無治療群に割り当てられた場合にもう一枚封筒を破いたり、勝手に治療群に変更したりということが高い確率で発生します。このため、封筒法を採用して、治療群と無治療群に割り付けると、治療群の患者数が無治療群の患者数よりも多くなります。

******

問題095 倫理委員会(IRB)について正しいのはどれか。
(1)IRBは臨床研究の倫理性を審議する。
(2)IRBメンバーは両性で構成されるべきである。
(3)IRBメンバーは医学専門家のみで構成される。
(4)IRBメンバーには一般人を加えない方がよい。
(5)研究施設代表者はIRBの委員長になれない。

a(1)(2)、b(1)(5)、c(2)(3)、d(3)(4)、e(4)(5)

解答:a

******

問題096 臨床試験の実施で正しいのはどれか。
a)承認薬を用いる試験では倫理委員会(IRB)での承認は必要ない。
b)口頭での十分な説明の後、その場で速やかに文書での同意を得る。
c)治療が開始すれば患者の希望によるプロトコール中止はできない。
d)患者の同意、症例登録、治療開始の順番を厳守する。
e)安全性の観点から、治療開始や中止は各医師の裁量で行う。

解答:d

******

問題097 臨床試験における同意で正しいのはどれか。
a)臨床試験参加の同意を口頭のみで得た。
b)臨床試験参加の同意文書を家人のみから得た。
c)臨床試験参加の同意文書を本人のみから得た。
d)臨床試験参加登録を行った後に同意を得た。
e)臨床試験参加の同意文書を治療開始後に得た。

解答:c

******

問題098 癌化学療法の効果判定基準RECISTで誤っているのはどれか。
a)評価の対象となる病変は測定可能病変のみである。
b)CTやMRIで測定可能病変の最小サイズが定義されている。
c)PRとは病変長径30%以上の縮小が4週間以上のものをいう。
d)PDとは病変長径20%以上の増大をいう。
e)効果を総合的に判断する総合判定基準が設けられている。

解答:a

RECISTガイドラインでは、病変を測定可能な標的病変と腹水や胸水などの非標的病変に分類する。

標的病変の評価(1臓器につき最大5病変、合計10病変までの最長径の和で評価)
完全奏効 CR (complete response):すべての病変の消失が4週間以上。
部分奏効 PR (partial response):ベースライン最長径和と比較して、標的病変の最長径の和が30%以上減少が4週間以上。
進行 PD (progressive disease):治療開始以降に記録された最小の最長径の和と比較して、標的病変の最長径の和が20%以上増加。
安定 SD (stable disease):PRとするには縮小が不十分、かつPDとするには増大が不十分。

非標的病変の評価(測定不要)
完全奏効 CR:すべての非標的病変の消失かつ腫瘍マーカー値の正常化。
不完全奏効/安定 IR/SD (incomplete response/stable disease):1つ以上の非標的病変の残存かつ/または腫瘍マーカーが正常上限値を超える。
進行 PD:既存の非標的病変の明らかな増悪。

******

問題099 癌化学療法に使用するG-CSF製剤や5-HT3受容体拮抗剤で正しいのはどれか。
a)好中球減少Grade 4が確認されたらG-CSF製剤の投与が必須である。
b)好中球数が5,000/mm3を超えたらG-CSF製剤の投与を中止する。
c)G-CSF製剤や5-HT3受容体拮抗剤は原則的に抗癌剤と同日投与する。
d)有熱性好中球減少症Grade 3では第3世代抗菌剤の投与が必須である。
e)5-HT3受容体拮抗剤は遅発性嘔吐に著効する。

解答:b

G-CSF製剤の癌化学療法による好中球減少症に対する適応は好中球数が500/μl(白血球数1000/μl)未満の時である。好中球数が5000/μl(白血球数10000/μl)以上で投与中止と規定されている。

******

問題100 抗癌剤の毒性が現れやすい臓器・組織で誤っているのはどれか。
a)ドキソルビシン - 心筋
b)エトポシド - 呼吸器
c)イリノテカン - 消化器
d)パクリタクセル - 神経
e)シクロホスファミド - 卵巣

解答:b


分娩体制崩壊の危機

2007年11月25日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

基幹病院の産科が機能不全に陥ってしまうと、単にその病院で出産する予定だった妊婦さんの分娩場所がなくなってしまうというだけにとどまらず、その医療圏内の産科診療所や助産所などのバックアップ機能もなくなってしまうわけですから、その医療圏では安全に分娩が取り扱えなくなってしまうことを意味し、その地域全体にとって大問題となります。

現在、基幹病院に勤務する中堅の産科医がどんどん離職していく中で、産科医の需給バランスは著しくくずれていますので、どこの基幹病院の産科も離職者の補充は容易でなく、医療提供体制の維持が非常に難しい状況に追い込まれつつあります。

一つの医療圏の分娩体制が崩壊すれば、その医療圏の妊婦さん達が大挙して近隣の医療圏に押し寄せて行くことになるわけですから、近隣医療圏の産科の負担も急増してしまいます。ですから、近隣の医療圏同士の壮絶な生き残り戦の末に結局は共倒れになってしまうという可能性も十分に考えられます。

数年後に県内のどの基幹病院の産科がこの世に生き残っているのか?の予測は非常に難しいです。最悪でも全滅だけは避けたいと思っています。

参考記事: 

 周産期医療が危ない   

 分娩取り扱う病院 激減

 産める病院が1年半で1割減、読売新聞全国調査

 産科医療に関する新聞記事

****** 毎日新聞、山梨、2007年11月22日

お産難民のゆくえ:求められる「助産師」像/上 分娩体制崩壊の危機

 ◇産婦人科医の確保に限界

 全国的に産婦人科医不足が進み、県内でも分娩(ぶんべん)できる医療機関が激減する中、妊婦が安心して身近な施設で出産できない「お産難民」が現実になりつつある。県は医師確保に奔走する一方、助産師の存在に着目し、妊婦の健診を行う「助産師外来」の検討に入った。ただ、県内の医療機関における助産師の充足率は全国最低レベルという問題を抱える。助産師はお産難民を救えるのか――。可能性を探った。【吉見裕都】

 県東部で唯一出産ができる都留市立病院(都留市)の関係者らが10月中旬、市民約2万人の署名を携えて山梨大医学部付属病院(中央市)の星和彦病院長を訪れた。きっかけは、都留病院の産婦人科に医師を派遣している付属病院が示した08年4月からの引き揚げ方針。付属病院の医師不足が理由だが、都留病院は同3月から分娩中止に追い込まれるため、関係者が医師の派遣継続を付属病院に訴えた。

 集まった署名は、約1カ月で18歳以上の市民の9割近く。短期間での盛り上がりに、市議会の藤江厚夫議長は語気を強めた。「市民も切羽詰まっている証拠だ」

 同様の理由で、9月末で分娩を取りやめた甲州市の塩山市民病院でも、医師の派遣継続を求めて約7万7000人が署名した。

 30年にわたり甲府市下石田2で開業している「杉田産婦人科医院」(杉田茂仁院長)も、10月から分娩を取りやめた。1人で対応してきた杉田院長(70)は「365日24時間働き、人間的な生活はできないと覚悟してきたが、年齢的に厳しくなった」と話す。長男(40)は千葉の病院で産婦人科医として勤務するが、「医師1人の開業は安全面で懸念を持っているようだ」とした。

 県内の分娩可能な医療機関はここ10年で半数以下の17カ所に減少。うち9カ所が甲府市内に集中している。

  ×  ×  ×

 困窮の度合いを増すお産現場の改善に向け、分娩場所の拠点化や医師の集約化が議論に上っている。国立病院機構甲府病院の外科系診療部長で産婦人科医の深田幸仁医師(44)は「若い医師が安全に安心して働ける勤務環境を整えないと産婦人科医は増えない」と訴え、この動きを支持する。

 受け入れ病院が決まるまでの照会件数は、消防庁によると、県内は04年のゼロから06年は▽1回1件▽3回2件▽5回1件――と急増した。集約化により、既に分娩場所のない峡南地域など都市部以外の妊婦に、さらなる長距離移動を強いることにつながりかねないとの指摘もある。

 県産婦人科医会の武者吉英会長は「2、3年後には県内の分娩体制が崩壊する恐れがある」と警鐘を鳴らす。県は、県内で医師として働くことを条件にした奨学金制度の導入などに着手したが、限られた産婦人科希望の学生を全国で奪い合う構図に「限界がある」との声も漏れる。

 そんな中、横内正明知事は9月議会で助産師外来設置の検討を表明した。病院によっては1人の医師が1日で70人もの妊婦に行う健診を助産師に担ってもらい、医師の負担を減らすのが狙いだ。医師不足をカバーしようと、同医会も助産師を養成しやすい仕組み作りを行政に働きかけ始めた。「医師が一人前になるには何年もかかる。助産師養成の方が早く、頼もしいパートナーになり得る」。武者会長も期待を寄せる。

………………………………………………………………………………………………………

助産師 保健師助産師看護師法(保助看法)で定められた国家資格。助産師になるには、大学の看護学科で学んだり、看護師資格を取得して「養成所」に1年間通った後、国家試験に合格する必要がある。保健指導や正常分娩の介助、子宮収縮の状態を調べる「内診」などの助産行為にあたることができる。

(毎日新聞、山梨、2007年11月22日)

****** 毎日新聞、山梨、2007年11月23日

お産難民のゆくえ:求められる「助産師」像/中 助産師主導に賛否両論

 ◇医療事故時の対応に課題

 「生まれた赤ちゃんをすぐに母親の胸に置くと、赤ちゃんは慣れ親しんだ心音を聞き、泣きもせずに静かに過ごします。へその緒も急いで切る必要はなく、1時間もすると自分でおっぱいに吸いつく。この時間が母子にかけがえのないきずなを築かせるんです」

 今月2日、甲府市内で行われた講演会。自然分娩(ぶんべん)を中心に行っている上田市産院(長野県上田市)の広瀬健副院長は、分娩のあるべき姿として熱っぽく語った。

 一方で、一般的な病院での分娩は「訴訟に対する『医師の安全』を優先している」と疑問を表明。妊娠から分娩、産後まで長期的に助産師が主導し、異常出産時に産婦人科医がバックアップする体制の確立を訴えた。

 ただ、助産師が分娩まで行う助産院は、県内に2施設しかない。その一つ、韮崎助産院(韮崎市富士見1)を訪れると、甲府市善光寺2、主婦、田中真理さん(30)が助産師の雨宮幸枝さん(65)と紅茶を飲みながらくつろいでいた。「病院での分娩は不自然さを感じます。本来人間に備わっている力でお産をしたい」。田中さんは助産院を選んだ理由をこう話し、雨宮さんに絶対の信頼を置いている様子だった。

 出産をスムーズに行うため、病院分娩では陣痛促進剤がよく使われ、会陰切開も少なくなく、赤ちゃんは母親と離れて数日間、新生児室で過ごす。助産師による自然分娩を望む妊婦もいるが、甲州市のサークル「子育てネットこうしゅう」の坂野さおり代表(38)は「妊婦と病院で産みたいスタイルにズレがあるが、出産施設の減少で選択肢がない」と妊婦の悩みを代弁する。

 一方、医師側は「助産師主導」の早期展開に懐疑的だ。県産婦人科医会の武者吉英会長は、情報化の進展で妊婦は高度な出産知識を持っているとして、「助産師に妊娠から産後まで任せるといっても、医療事故まで受け入れられないだろう。仮に妊婦にその気持ちがあっても、夫や両親といった周辺は納得しない」と分析。韮崎助産院でも分娩直前に家族に促され、最終的には病院でお産をする妊婦も時折いるという。

 国立病院機構甲府病院の産婦人科医、深田幸仁医師(44)は、さらに「リスクを背負うことになり、助産師自身が主導を望んでいるかどうか」と指摘する。今年2月には新生児の死亡は助産師の過失が原因として、横浜市の医院が慰謝料など5320万円を求められる訴訟が起こされ、06年には栃木県の助産所の助産師が新生児の死亡事故で提訴され、3700万円で和解している。

 武者会長は「医師の厳しい勤務環境が続く中、助産師に仕事が流れるなどという思いはなく、助産師の活躍の場が広がるのをむしろ歓迎する」と話す。ただ、深田医師は「助産師主導」について、「検討する前に、妊婦と助産師の意向を確認する必要がある」と述べ、前のめりの議論にくぎを刺した。【吉見裕都】

(毎日新聞、山梨、2007年11月23日)

****** 毎日新聞、山梨、2007年11月26日

お産難民のゆくえ:求められる「助産師」像/下 医師との分業体制

 ◇“ダンス踊れる”連携必要

 「スタッフがついてこれるか、いつも気にしています」
 助産師外来を導入している渕野辺総合病院(神奈川県相模原市)の尾崎信代看護師長は10日、甲府市であった県母性衛生学会で講演後、参加者の質問にこうもらした。
 助産師外来とは、妊婦への健診や保健指導を助産師が行い、分娩(ぶんべん)は医師の責任下に置く分業体制で、同病院は05年10月に開設。尾崎さんは「異常の発見ではなく、お産が正常に進むように妊婦の『セルフケア』を誘導していくのが助産師の役割」と述べ、医師との分担の必要性を説く。

 課題は「マンパワー」。同病院の常勤助産師8人のうち外来は4人で担当しているが、実際は尾崎さんが8割を担う。長く医師のサポート役だったこともあり、助産師が責任を負う外来に行きたがらないという。

 助産師のかかわり方として、▽助産師主導の分娩▽病院の助産師外来▽地域で開業した助産師が健診、分娩は病院――などさまざまな方法が考えられ、医師の仕事量が減るのは間違いない。これにより、激務のため敬遠していた医学生が産婦人科医を志す可能性は高い。

 しかし、医師と同様、絶対数が少ないのは助産師も同じだ。助産師の数は全国でピーク時5万人を超えていたが、今は2万人台で、県内も158人(06年12月末)と減少傾向。日本産婦人科医会によると、県内の助産師の充足率(06年3月)は診療所が16・28%と全国ワースト2位、病院も71・33%で同4位と低水準に陥っている。

 県内で助産師になるには、県立大看護学部か山梨大医学部看護学科で学ぶしかないが、枠は十数人分しかなく、何人かは県外へ出てしまう。他県には看護師を対象に1年間で助産師資格が取れる「養成所」があるが、県内にはない。県立大の伏見正江准教授(助産学)は定員や教員の増加を訴え、県産婦人科医会の武者吉英会長は行政による養成所設置を提案する。

 助産師の熱意の醸成も重要だ。活躍の場が広がることを期待する助産師ばかりではないが、韮崎助産院(韮崎市富士見1)の助産師、雨宮幸枝さん(65)は訴える。「妊婦さんにはいい状況といえないが、助産師が見直されるチャンス。母子の命を守る厳しい仕事だが、お産の喜びはたまらないはず」。尾崎さんも「自分の技術でお金をもらうんだからプロ意識を持って」と強調する。

 県内でも、医師と助産師が連携する動きが出てきた。近くの産婦人科医、中島達人医師(58)や国立病院機構甲府病院の深田幸仁医師(44)と連携する雨宮さんは「恥をかいてもいいから早めの相談。状況が悪くなってからではお医者さんも困るでしょう」と相互連絡の“ツボ”を話す。

 ただ、深田医師は懸念する。「新生児集中治療室(NICU)のある病院がない郡内地域では医師もバックアップできない。そもそも忙しい医師が十分に助産師を支えられるのか」。医師確保も重要というわけだ。

 自分の体験も踏まえ、雨宮さんは医師との協力関係をたとえた。「医師と助産師はチークダンスを踊れるような関係じゃないといけないんですよ」【吉見裕都】

(毎日新聞、山梨、2007年11月26日)

****** 東京新聞、茨城、2007年11月24日

妊婦『受け入れ拒否』の危機 分娩施設が激減 医師は『もう限界』

 奈良県橿原市で八月、妊婦の救急搬送依頼が相次いで拒否され、胎児が死亡した問題は、出産の安全性が脅かされている現実を浮き彫りにした。茨城県で同様の事例報告はないが、分娩(ぶんべん)施設は激減し、産科医からは「もう限界」と悲鳴も上がる。県は「今のままでは『たらい回し』が起きかねない」と危機感を強め、妊婦の受け入れ先を見つけられるシステムの検討を始めた。 (生島章弘)

 常陸大宮市野口の主婦小室孝子さん(32)は、自宅から車で約四十分かけて水戸市の水戸済生会総合病院まで通う。双子の妊娠が分かり、地元の診療所の紹介で転院した。

 県から「総合周産期母子医療センター」に指定される同病院の産科医は六人。年間約六百件の出産を扱うが、半数はほかの医療機関から搬送される妊婦。「ベッドがすべて埋まったり、陣痛室が定員オーバーしたりすることはたびたび」(山田直樹センター長)という綱渡りの運営が続き、今年からは「里帰り出産」の受け付けも中止した。

 年末に帝王切開手術を受ける予定の小室さんだが「出産が早まったとき、受け入れてもらえるか」という不安が頭をかすめる。「心配しても仕方ない。出産にリスクはつきもの」と、自分に言い聞かせている。

■救急搬送が難航

 県は医療機関が連携する周産期医療体制を整備している。ただ、この仕組みの搬送対象は、産婦人科を受診している妊婦だけ。かかりつけ医がいなければ、救急隊が受け入れ先を探すほかなく、その点では橿原市のケースと変わりない。

 県の調査によると、妊婦の救急搬送で医療機関に六回以上受け入れを照会したケースは昨年一月から今年八月までに十六件。産婦人科を受診した妊婦はスムーズに受け入れ先が決まる一方、かかりつけ医がいない場合は見つかりにくい傾向を示した。ある産科医は「情報のない妊婦をいきなり診るのは無理。結果が悪ければ訴訟に発展することもあり、簡単に『はい、どうぞ』とはいかない」と明かす。

■労働環境も悪化

 事態を深刻化させているのは医師不足だ。県内の産科医は約百五十人で、分娩施設は十年前から半減して五十カ所。石渡勇・県産婦人科医会長は「産科医はほとんど休みが取れず、出産の安全を確保できるとは言い切れないほど労働環境が悪化している」と焦りをのぞかせる。

 県は一人でも多くの産科医を確保しようと、医学部生への奨学金制度を創設。「たらい回し」防止策としては、現行の周産期医療体制の搬送対象を拡大し、かかりつけ医がいない妊婦も含めるよう、医療関係者でつくる「救急医療対策検討会議」に提案したい考えだ。

 しかし、医療関係者の間では、これ以上の負担に反対が根強く、実現性は不透明。県医療対策課は「現行の制度上、『たらい回し』の可能性は否定できない」と危機感を募らせている。

<メモ>県内の周産期医療体制 「県北・県央」「県南・鹿行」「つくば・県西」の3ブロックの総合周産期母子医療センターと、「県北・県央」内の「県北サブ」ブロックの地域周産期母子医療センターを中心に運営。高度医療を提供する4カ所のセンターは、ブロック内の診療所などが手に負えない場合の妊婦を引き受けるほか、病院をあっせんする役割を果たす。

 県産婦人科医会によると、母体搬送の70%はブロック内で実施。不測の事態に対応するため、受け入れ先の病院までは原則、かかりつけ医や看護師らが付き添う。

(東京新聞、茨城、2007年11月24日)

****** 中国新聞、2007年11月22日

呉圏の産科が2院に集約 来年4月

▽医療センターと中国労災病院、地元専門部会が承諾

An20071122036501 産科医師不足を受け、広島大や広島県が産科医療の集約化を検討する中、呉市地域医療検討専門部会(豊田秀三会長)は二十一日、呉、江田島市をエリアとする呉二次保健医療圏で来年四月から、分娩(ぶんべん)可能な医療機関を呉市の国立病院機構呉医療センターと中国労災病院に集約することを承諾した。呉共済病院での分娩はできなくなる。

 ■広島大・県の意向反映

 呉市、五つの公的病院、呉市医師会で構成する専門部会は、十月十五日から三回開いた。高度医療に対応できる設備や地理的条件などを考慮し、二病院に医師を集中させる広島大と県の提案を承諾。広島大などに三病院体制の継続も要望したが実現しなかった。

 集約の方針は二十九日、県や江田島市を含めて開く呉地域保健対策協議会で報告される。

 産科医師数は現在、呉医療センターが七人、呉共済病院が三人、中国労災病院は二人。

 集約化で、広島大が医師を引き揚げる呉共済病院に産科医師はいなくなるが、呉医療センターに現在と同じ七人、中国労災病院には広島大からの派遣で六人が配置される予定という。

 三病院での分娩件数は昨年度、五百六十八~六百十五件だった。今後の分娩については、産科医師が実務者会議で振り分けを考え、広島市内の病院への受け入れ要請も検討。呉市は近く、市保健所内に市民の不安を解消するための相談窓口を設ける。(増田咲子)

(中国新聞、2007年11月22日)

****** 秋田魁新報社、2007年11月22日

県内産科医、7カ月で1割減少 中堅の県外転出が顕著

 県内の病院などに勤務し、お産を扱う産婦人科医が、今年4月からの7カ月余りで7人減ったことが、日本産婦人科医会県支部の調査で分かった。出身地に移ったり、結婚を機に配偶者の居住地に転居するなど県外へ転出したケースがほとんどで、4月に比べ医師数は実に1割以上減った計算。同支部は「残された勤務医の激務に拍車が掛かっている。激務に燃え尽きて病院を去るという悪循環も懸念される」と警戒する。

 同支部によると、県内でお産を扱う医師は18年度末時点で69人いたが、21日現在で62人に減少した。1人は開業に伴い、お産の取り扱いをやめた医師だが、ほかは全員が県外に転出。同支部が把握しているだけで、年内にさらに勤務医1人が県外に出る見込みだ。転出医師の大半を30?40代の中堅が占めているのも特徴。

 県によると、お産を扱う病院・診療所は計30施設。この中には2人いた医師が1人に減り、通常分娩(ぶんべん)を取りやめてハイリスク分娩だけに対応している病院もある。

 一方、出生数は16?18年の3年間、7000人台後半とほぼ横ばいで推移しており、医師1人当たりの負担が大きくなっている様子がうかがえる。

(秋田魁新報社、2007年11月22日)

****** 読売新聞、岩手、2007年11月22日

周産期医療圏見直し  医大へ搬送集中回避、県が方針

 県は、低体重児の出産などリスクが高い分娩(ぶんべん)が岩手医大に集中している現状を改善するため、三つに分かれている現行の周産期医療圏を見直し、県南部に新たな医療圏を設ける方針を決めた。現在の体制では、中央(盛岡市)、久慈、大船渡の県立3病院に置かれた地域周産期医療センターが、リスクの高い出産に対応し、より高度な医療技術が必要な場合に岩手医大の総合周産期母子医療センターに搬送することになっているが、地域センターのない県南部からは、中央や大船渡病院を経ずに医大に搬送するケースが多かった。

 県によると、2005年中に医大に搬送後、母体胎児集中治療室(MFICU)や付属病院内の産科で出生した妊婦は153人。このうち、医大が受け入れ対象としている1500グラム未満の新生児を出生した割合は77人。これに対し、想定外の1500グラム以上を出生した妊婦は76人に上った。

 この76人を追跡調査したところ、58人については、多胎や異常分娩など危険なケースだったが、医大以外で完全に対応可能だったリスクの低い妊婦は18人と全体の11%を占めていた。県内の医療関係者は、「地域の拠点病院が機能していれば、ハイリスク妊婦の何割かは医大以外でも対応できた」とし、県内の医師不足が背景にあると指摘する。

 また、医大の新生児集中治療室(NICU)に運ばれた新生児32人では、1500グラム未満は4人で、残り28人は1500グラム以上。このうち20人は、高熱や気胸などで急を要したケースだが、残り8人は医大以外で対応できたとされる。

 県内の周産期医療体制は3医療圏に分かれ、1500グラム以上の胎児のハイリスク分は、中央、久慈、大船渡の県立3病院が受け入れることになっている。地域センターが置かれていない奥州市や一関市の県南部では、中央、大船渡両病院に搬送する取り決めだが、「中央への搬送は1時間以上かかる」「大船渡では医師が不足している」などとし、医大に直接搬送されるケースが多いという。

 このため、県は、県南部の大規模病院を新たに地域周産期母子医療センターに指定し、県内の周産期医療体制を現行の3医療圏から4医療圏体制に改めることで、医大の負担軽減を図ることにした。県はさらに、病院間の患者データを共有する仕組みを作り、医大搬送の前段階の各医療圏の分娩扱い数を増やすことも検討している。

(読売新聞、岩手、2007年11月22日)

****** 神奈川新聞、2007年11月22日

妊産婦の搬送先決定まで30分以上が急増/相模原市

 救急隊が妊産婦を病院に運ぶ際、搬送する病院が決定するまでに三十分以上かかったケースが相模原市内で急増していることが、二十一日までの同市消防局の調査で分かった。今年一月から十月までの産科搬送件数の一割に当たる十七件で、昨年一年間の七件を大きく上回っている。決定まで一時間半もかかるケースもあり、同市の厳しい周産期救急の現状が浮き彫りになった。

 同市内の産科救急医療について対策を検討する市医療対策協議会(産科医療対策)の二十日の会合で、市側が明らかにした。

 それによると、救急隊の現場到着から搬送病院が決まるまでに三十分以上かかったのは二〇〇五年が三件だったのに対し、〇六年は七件、〇七年は十月までで既に十七件と急増。産科搬送件数に占める割合でも〇五年の1・4%から〇六年は3・2%、〇七年は10・3%となっている。

 〇七年では、受け入れ決定までの依頼回数は七回が最高だが、所要時間が一時間を超えたケースが二件あり、最大一時間二十六分だった。

 また横浜市戸塚区や海老名市など市外への搬送が四件あった。症状別では、切迫早産や切迫流産が多かった。

 市消防局救急対策課は、分娩を扱う市内の医療機関が減少している上、適切な受け入れ先を探すための症状把握に時間を要するケースが増えているためと分析。「収容までの依頼回数だけでなく、時間短縮も大きな課題」と指摘している。

 二十日に行われた医療対策協では、こうしたデータを基に対応策を議論。「症状別に一次・二次・三次救急の“線引き”を行うべき」「未受診者を減らすためにも妊婦検診の公費負担を増やす必要がある」といった意見が出された。同対策協は来年三月までに、相模原市の産科救急医療体制案をまとめる予定。

(神奈川新聞、2007年11月22日


第1回婦人科腫瘍専門医試験(2006年)、問題081~問題090

2007年11月24日 | 婦人科腫瘍

第1回婦人科腫瘍専門医試験(2006年)、問題と解答例

【問題081~問題090】

問題081 家族性卵巣がんに関与する遺伝子はどれか。
a)p53
b)K-ras
c)PTEN
d)BRCA2
e)HER2/neu

問題082 家族性癌で誤っているのはどれか。
a)家族性非ポリポーシス大腸癌(HNPCC)では子宮体癌を併発する。
b)家族性非ポリポーシス大腸癌(HNPCC)はDNA修復遺伝子に異常がある。
c)BRCA1遺伝子は家族性卵巣癌の原因遺伝子である。
d)家族性卵巣癌の組織型では漿液性腺癌が多い。
e)p53遺伝子変異が検出された女性に予防的卵巣摘出術が行われる。

問題083 放射線感受性が高い腫瘍はどれか。
a)妊娠性絨毛癌
b)子宮頸部腺癌
c)子宮平滑筋肉腫
d)外陰悪性黒色腫
e)卵巣未分化胚細胞腫

問題084 放射線による細胞死の主な標的はどれか。
a)細胞膜
b)ミトコンドリア
c)核小体
d)核内DNA
e)核内RNA

問題085 子宮頚癌の腔内照射で用いられるA点の定義はどれか(いずれも前額面)。
a)体軸正中線で外子宮口から上方2cmの点
b)体軸正中線で外子宮口から上方2cmの高さを通る垂直線の側方2cmの点
c)体軸正中線で外子宮口から上方2cmの高さを通る垂直線の側方5cmの点
d)子宮腔長軸で外子宮口から上方2cmの点
e)子宮腔長軸で外子宮口から上方2cmの高さを通る垂直線の側方2cmの点

問題086 子宮頚癌に対する化学療法同時併用放射線療法で選択すべき薬剤はどれか。
a)シスプラチン
b)アドリアマイシン
c)シクロホスファミド
d)メソトレキセート
e)塩酸イリノテカン

問題087 放射線腸炎で誤っているのはどれか。
a)大腸より小腸が傷害されやすい。
b)早期障害の症状として下痢や血便がある。
c)晩発性障害として腸閉塞や瘻孔形成がある。
d)蛋白漏出性腸炎の原因となる。
e)副腎皮質ステロイド薬が著効する。

問題088 子宮頚癌放射線治療の合併症・後遺症に関連性が低いのはどれか。
a)下血
b)血尿
c)下肢浮腫
d)皮膚障害
e)肝機能障害

問題089 放射線晩期合併症をきたすため照射時に遮蔽を要する臓器はどれか。
a)腎臓
b)骨盤骨
c)腸骨動脈
d)直腸
e)膀胱

問題090 Surgical stagingで傍大動脈リンパ節郭清(生検)が必要なのはどれか。
a)絨毛癌
b)子宮体癌
c)腟癌
d)子宮頚癌
e)外陰癌 

―――――――――――――――――――――――――

解答例 (誤答の場合は御指摘ください)

問題081 家族性卵巣がんに関与する遺伝子はどれか。
a)p53
b)K-ras
c)PTEN
d)BRCA2
e)HER2/neu

解答:d

家族性乳癌・卵巣癌症候群:BRCA1遺伝子、BRCA2遺伝子(癌抑制遺伝子)の異常が、乳癌、卵巣癌の家族性発症に関与する。

******

問題082 家族性癌で誤っているのはどれか。
a)家族性非ポリポーシス大腸癌(HNPCC)では子宮体癌を併発する。
b)家族性非ポリポーシス大腸癌(HNPCC)はDNA修復遺伝子に異常がある。
c)BRCA1遺伝子は家族性卵巣癌の原因遺伝子である。
d)家族性卵巣癌の組織型では漿液性腺癌が多い。
e)p53遺伝子変異が検出された女性に予防的卵巣摘出術が行われる。

解答:e

家族性非ポリポーシス大腸癌(HNPCC):DNAミスマッチ修復遺伝子の変異が原因で、大腸癌、子宮体癌を始めとして多くの癌が家族性に発生する症候群。常染色体優性遺伝形式。HNPCCに関与する遺伝子:MLH1、MSH2、MSH6、MLH3、PMS2。

BRCA1変異陽性の卵巣癌の組織型は漿液性腺癌が大部分を占め、予後が良好であるといった報告もみられる。

******

問題083 放射線感受性が高い腫瘍はどれか。
a)妊娠性絨毛癌
b)子宮頸部腺癌
c)子宮平滑筋肉腫
d)外陰悪性黒色腫
e)卵巣未分化胚細胞腫

解答:e

******

問題084 放射線による細胞死の主な標的はどれか。
a)細胞膜
b)ミトコンドリア
c)核小体
d)核内DNA
e)核内RNA

解答:d

放射線は、細胞の核内に存在するDNAを障害する。

******

問題085 子宮頚癌の腔内照射で用いられるA点の定義はどれか(いずれも前額面)。
a)体軸正中線で外子宮口から上方2cmの点
b)体軸正中線で外子宮口から上方2cmの高さを通る垂直線の側方2cmの点
c)体軸正中線で外子宮口から上方2cmの高さを通る垂直線の側方5cmの点
d)子宮腔長軸で外子宮口から上方2cmの点
e)子宮腔長軸で外子宮口から上方2cmの高さを通る垂直線の側方2cmの点

解答:e

A 点の定義:外子宮口を基準として、前額面上、子宮腔長軸に沿って上方2cmの高さを通る垂線上で、側方に左右それぞれ2cmの点とし、腔内照射の病巣線量の基準点に用いる。A 点線量は原発巣の治療量、膀胱・直腸の障害量の指標となる。 A 点線量は左右2つあるが、左右差があるときは少ない方の線量を用いる。

******

問題086 子宮頚癌に対する化学療法同時併用放射線療法で選択すべき薬剤はどれか。
a)シスプラチン
b)アドリアマイシン
c)シクロホスファミド
d)メソトレキセート
e)塩酸イリノテカン

解答:a

CDDP を用いたCCR によって、放射線単独療法群やCDDP以外の薬剤併用群より有意に高い生存率が得られたとの報告がある。米国では、NCIが,CDDP 併用によるCCR を推奨する勧告を出しており、今後、本邦においても、進行頸癌、あるいは再発頸癌の治療において、CDDPを併用したCCR が主流になると思われる。

******

問題087 放射線腸炎で誤っているのはどれか。
a)大腸より小腸が傷害されやすい。
b)早期障害の症状として下痢や血便がある。
c)晩発性障害として腸閉塞や瘻孔形成がある。
d)蛋白漏出性腸炎の原因となる。
e)副腎皮質ステロイド薬が著効する。

解答:e

******

問題088 子宮頚癌放射線治療の合併症・後遺症に関連性が低いのはどれか。
a)下血
b)血尿
c)下肢浮腫
d)皮膚障害
e)肝機能障害

解答:e

******

問題089 放射線晩期合併症をきたすため照射時に遮蔽を要する臓器はどれか。
a)腎臓
b)骨盤骨
c)腸骨動脈
d)直腸
e)膀胱

解答:d

******

問題090 Surgical stagingで傍大動脈リンパ節郭清(生検)が必要なのはどれか。
a)絨毛癌
b)子宮体癌
c)腟癌
d)子宮頚癌
e)外陰癌

解答:b 


産科医療に関する新聞記事

2007年11月21日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

多くの分娩を取り扱ってきた産婦人科の一つが分娩の受け入れを休止すれば、近隣の病院の産婦人科に地域の妊婦が集中することになり、近隣病院の労働環境も急激に悪化します。

今は、どの病院の産婦人科でもギリギリの体制で維持されてますから、急激な業務量の増加にはそうそう簡単に対応できません。それどころか、労働環境が急激に悪化してスタッフの中に離職者が続出するような事態となれば、それまで順調に運営されていた病院の産婦人科であっても、一気に分娩の受け入れを休止せざるを得なくなってしまうこともあり得ます。

そして、今、全国各地で、分娩できない地域(お産空白地帯)が急速に拡がっています。

絶滅の危機に瀕している近隣の病院間で、病院の生き残りを賭けて少ない医師を奪い合っていれば、共倒れの危険性が高くなっていくだけです。分娩を取り扱う病院の数を維持することにこだわっても、現場のスタッフがどんどん辞めてしまうような施設ばかりでは全く意味がありません。

現実を直視し、分娩を取り扱う病院の数を維持することよりも、まずは、『産婦人科医師数の減少をくい止めるためにはどうしたらいいのか?』を最優先に考えていく必要があります。

今は何よりもまず、現場で辞めずに必死に頑張っている産婦人科医、小児科医、麻酔科医などのトータルの数を維持することが最も重要だと思います。

産める病院が1年半で1割減、読売新聞全国調査

****** 読売新聞、2007年11月20日

11月20日付 よみうり寸評

 案ずるより産むがやすい――物事は初めはあれこれ考え心配なものだが、いざ実行となると案外簡単だということ。取り越し苦労をするなという慰め、決断の勧め、事後の述懐などの言葉になる。お産に例えたものだが、近ごろは比喩(ひゆ)のもとであるお産の方が何やらあれこれ心配しなければならない状況になっている。

 先日の読売新聞の全国調査によると、昨年4月以降に出産の取り扱いを休止した病院が全国で少なくとも127か所に上る。また来春までに休止の方針という病院が12か所あった。合わせて出産を扱う病院全体の約1割。産科医不足の深刻な反映。お産の「空白地帯」が広がった。

 1994年に1万1391人いた産婦人科医は2004年には1万594人で約7%の減。妊婦が集中する病院では勤務医の労働環境が悪化、救急搬送拒否の問題もある。産科医不足の背景には、激務に加えて、訴訟リスクの高いこともある。

 厚生労働省は「医師の偏在はあるが、不足はない」という立場だったが、もうそれは通らない。

 案ずるより産むはやすくない。

(読売新聞、2007年11月20日)

****** 熊本日日新聞、2007年11月20日

未管理妊婦36人、23人が緊急出産 06年県内

 一度も健診を受けないまま容体が悪化し、急きょ産婦人科で治療を受けた「未管理」の妊婦が二〇〇六年の県内で三十六人おり、そのうち二十三人は緊急出産していたことが二十日、県の調査で分かった。県は「妊娠二十四週の早産など極めて危ないケースもあった。妊娠・出産のリスクをもっと啓発する必要がある」と話している。

 今年八月に奈良で起きた妊婦のたらい回し事件を契機に、県内の全産婦人科八十四施設にアンケート。そのうち七十三施設が回答した。

 三十六人のうち一人が即日入院、二人が別の施設に搬送や紹介され、十人は外来治療後に帰宅した。妊娠三十七週以降の「満期」を迎えていたのは二十二人。たらい回しになったケースはなかった。

 未管理の理由は「経済的理由」が最多の十五人、「未婚、婚外の妊娠だから」が十二人、「受診が遅れた」が六人だった。年齢別では三十代前半が十人と最も多く、二十代前半と同後半がそれぞれ八人、十代は五人。

 県健康づくり推進課は「約一万六千人の出生数と比べると割合は高くないが、命にかかわることなので注視している。特に十代では未婚が目立つ。思春期の性教育の充実を学校などに働き掛けていきたい」と話している。【梅野智博】

(熊本日日新聞、2007年11月20日)

****** 読売新聞、2007年11月19日

飛び込み出産 病院悲鳴

「お金かかる」未受診の妊婦増加

 妊婦健診を受診せず、陣痛が始まって初めて病院に駆けつける「飛び込み出産」の増加に対し、「健診を受けていないため、母体と胎児の状態が分からず、責任が持てない」と病院側に困惑が広がっている。

搬送拒否、2年で4倍 「責任持てぬ」

 総務省が先月まとめた救急搬送の実態調査では、飛び込み出産を理由に医療機関に搬送を拒否された回数が、2006年は延べ148件と、04年の4倍になった。経済的な理由で健診を受けていないケースも多いため、自治体が健診費用の助成に乗り出しているが、まだ自治体間で格差があるのが実情だ。

 「お金がかかるし、糖尿病で中絶を勧められるかもしれないから、妊婦健診は受けなかった」

 10月中旬の深夜。夫に連れられ、埼玉県の川口市立医療センターに突然やってきた20歳代の女性は、健診を受けてこなかった理由をそう説明した。母子手帳もなく、最初は母体や胎児の状態が全く分からない。当直の医師が診察した結果、妊娠38週と判明。胎児の心音に乱れがあったため、翌朝、帝王切開手術で出産した。

 女性は初産で、市に妊娠の届けを出していなかったため、川口市の場合だと2回まで無料で健診を受けられることも知らなかった。

 別の病院関係者が打ち明ける。「飛び込み出産した後、出産費用を払わない人は病院によって3~5割にも上る。病院にとっては、経済的なリスクも大きい」

 今月8日、横浜市内で医療者と救急関係者を集めて開かれたシンポジウムでは、昨年8月に妊娠30週で切迫早産になった30歳代の妊婦が、健診を受けていないことを理由に11病院から搬送を断られたケースが紹介された。最終的に12病院目での受け入れが決まるまで、1時間15分を要したという。

 救急救命士は「何とか受け入れてもらいたいと、病院に電話しても、『そんな無責任な妊婦を連れて来るな』と怒られることもある」。医師側からは「妊娠何週目かや合併症の有無などを基に(自分の病院で)受け入れ可能かどうかを判断しており、母体と胎児の状態が全く分からない妊婦を安易に引き受けることは出来ない」との意見が出された。

 病院側の負担は深刻だ。神奈川県内の大学病院など8基幹病院で扱った飛び込み出産は、03年の20件から年々増え、06年は44件。今年は4月までに既に35件で、100件を超える勢いだ。横浜市大の平原史樹教授(産婦人科)は「飛び込み出産の急増で救急病院の負担が大きくなり、本来の業務に支障をきたしている」と困惑を隠さない。

 出産を取り扱う医療機関の減少で、出産出来る病院を見つけられずに飛び込み出産になるケースもあるという。だが、同大付属市民総合医療センターの小川幸医師は、多くは〈1〉妊娠への対応が分からなかった若い未婚女性〈2〉低所得の(すでにお産を経験した)経産婦〈3〉不法滞在の外国人――の3パターンだと分析する。合併症やアレルギーを持つ妊婦も多い上、早産や未熟児の生まれる割合が高いなどリスクは高く、生まれた三つ子が全員死亡したケースもあるという。

 平原教授は「健診は母体と胎児の状態を把握する大切なもので、受診しなければ出産のリスクは一気に高まる。受診を促す体制整備も必要だ」と話した。

健診助成 自治体で格差 秋田10回、大阪1.3回

 妊娠は病気ではないため、1回あたり数千円から1万円程度かかる妊婦健診は、自己負担が原則だ。健診の回数は、13~14回程度が望ましいとされているが、このうち市町村の負担で一部または全額無料で受けられる回数は、全国平均2・8回。最も多い秋田県は平均10・0回、最も少ない大阪府は同1・3回と、自治体間の格差が大きい。

 厚生労働省は今年1月、健診を受けない妊婦が増えている実態を踏まえ、最低でも5回程度は公費負担するよう各都道府県などに通知した。同省によると、全国1827市区町村のうち、今年度から公費負担の回数を増やしたか、増やす予定なのは約23%。59%が来年度以降に増やすことを検討しているという。

(読売新聞、2007年11月20日)

****** 千葉日報、2007年11月18日

19病院で産科消える

医師不足が深刻化 県内

 国の医療制度改革が本格化してから、県内で産科があった十九の病院で、廃院もしくは産科の廃止・休止が相次いでいる。救急搬送中の妊婦が十数回も受け入れを断られた事例も発覚、国は医師の偏在を主張している中で、いずれの病院も廃止・休止の理由を「医師が確保できない」と口をそろえており、産科医不足が急速に進んでいることが浮き彫りになった。

 県医療整備課によると、二〇〇二年度から開院した産科・産婦人科のある病院は八千代市の東京女子医大八千代医療センターのみ。一方で、廃院したのは大多喜町の川崎病院をはじめ四病院。産科・産婦人科を廃止したのは、八千代市のセントマーガレット病院など六病院。産科・産婦人科(ぶんべつ)の看板を掲げながら分娩できない休止中の病院は船橋市の千葉徳洲会病院など九病院。

 「廃止」とされた千葉社会保険病院は「あくまで休止。医師がいればすぐにでも再開したい」と反論するが、「退職をした後の補充がない。非常勤の先生しかおらず、お産ができない」と嘆く。

 国保匝瑳市民病院は「休止として医師の募集はしているが、産科病棟はなくなっている」と事実上の廃止を認めた。〇三年一月には小児科も休止していることから、「他の科も医師確保が難しくなっている。特に産科は二十四時間体制で仕事が厳しい」と話した。

 また、白井市の白井聖仁会病院は、一九九六年十二月に分娩を取りやめていたといい、県も県内全体の実態を把握しきれていない。

 事実、「休止」とされた千葉市若葉区のみつわ台総合病院は、「すでに保健所に再開する考えはないと届け出た」とし、銚子市立総合病院は「助産師も辞めた。(産科病棟の)療養病棟への切り替えを検討中」という。

 妊婦の受け入れ拒否問題について同課は、「かかりつけ医がないケースだった」と廃止・休止の増加との関係は否定。ただ、産科・産婦人科医師の不足は「医療訴訟も多い。労働環境も厳しい」と分析した。

 国がまとめた二〇〇二年と〇四年の県内産科・産婦人科医師数の比較では十二人増えているが、病院の廃院・廃止・休止は〇四年以降がほとんど。

 同課は「国は医師不足ではなく、偏在しているというが、現場は不足しているという声しかない」と国のとらえ方に首をひねった。

(千葉日報、2007年11月18日)

****** 神奈川新聞、2007年11月18日

産科医療機関と産科常勤医、ともに過去5年で最大の減少/神奈川県内

 県内で分娩(ぶんべん)を扱う産科医療機関がこの一年間で十五施設減少し、産科常勤医も三十五人減ったことが、県産科婦人科医会(八十島唯一会長)の実態調査で分かった。ともに過去五年間で最大の減少幅で、激務を背景とした産科医の「お産離れ」が一段と進んだ形。少子化に伴う出生減のペース以上のため、限られた産科に出産が集中。現場が疲弊し、担い手がさらに減る悪循環に歯止めがかからない。

 実態調査は同医会加盟の病院や診療所を対象に年一回行われ、これで三回目。今年七月現在の常勤医数や二〇〇六年の分娩実績などを尋ねた。

 それによると、〇六年一月から今年七月までに分娩を一件以上扱ったのは百三十八施設(病院六十八、診療所七十)。百五十三施設(病院七十五、診療所七十八)だった前回調査以降、横浜と川崎で各三施設、平塚と相模原で各二施設、横須賀、鎌倉、藤沢、秦野、寒川で各一施設減った。

 【1】人手不足の大学病院から産科医が派遣されなくなる【2】開業産科医が高齢化し、婦人科診療などに特化する-のが主な理由。横浜市大病院産婦人科部長の平原史樹教授は「(帝王切開で女性を死亡させたとして産科医が刑事責任を問われた)福島県立大野病院の事件や横浜市の堀病院への強制捜査が及ぼした影響も大きい」と指摘する。

 分娩を扱う県内の産科は〇二年に百七十四(病院七十一、診療所百三)を数えたが、五年間で約20%減少。この間、常勤医も五百十五人から四百四十一人へと七十四人(約15%)少なくなった。一方、分娩件数は七万二百六十二件(〇二年)から5%程度しか減っておらず、分娩を続ける産科がしわ寄せを受けている。

 調査に当たった小関聡医師によると、「一人や少数の産科医でなんとか維持している病院も少なくない」という。

 苦肉の策として、女性が実家近くの産科で産む「里帰り出産」や分娩予約を制限する動きが進むが、負担軽減にはつながっていない。調査を基に試算した〇六年の常勤医一人当たりの年間分娩件数は、横須賀(一七七・六件)や湘南(一七五・一件)、西湘(二七二・一件)などで県平均(一四三・九件)を上回り、地域格差も拡大している。

 横浜市栄区や川崎市麻生区、厚木市などで調査後に分娩を休止した産科があるほか、横浜市緑区や三浦市、寒川町では十年以内に出産ができなくなる見通し。同医会は「危機的状況」と訴える。

(神奈川新聞、2007年11月18日)

****** 朝日新聞、2007年11月17日

「飛び込み出産」が急増、経済苦や産科施設減が背景

 妊婦健診を一度も受けず、生まれそうになってから病院に駆け込む「飛び込み出産」が増えている。今夏、奈良など各地で妊婦の搬送受け入れ拒否が発覚したが、病院側が断った理由の一つは「未受診」だった。医学的にもリスクが高く、振り回される医師からは「妊婦としての自覚をもって」との悲鳴が上がる。背景には経済苦や産科施設が減って遠くなったことなど、様々な格差が横たわる。

      ◇

 「破水した」――。

 大阪市浪速区の愛染橋病院に、40歳代の女性がいきなり訪れたのは7月上旬の夜。妊娠30週で一度も妊婦健診を受けていなかった。そのまま入院、2日後、帝王切開で出産。早産のため、赤ちゃんは新生児集中治療室(NICU)に入った。

 その10日ほど後にも、この病院に未受診妊婦が救急車で運ばれてきた。妊娠40週。すでに産道が開きかけており、到着30分後に出産した。

 同病院によると、今年1~7月、20週以上で未受診のまま陣痛や異常を訴えて駆け込んできたのは、19歳~40代の18人。「妻が無職で夫の欄が空欄」か「夫婦ともに無職」が11世帯、生活保護を5世帯が受けていた。同病院など府内2院が96~00年に受け入れた205人のうち、カルテから未受診の理由が分かる99人の半数が「経済的理由」をあげた。

 神奈川県産科婦人科医会が、周産期救急搬送システムの八つの基幹病院を調べたところ、03年に20件だった飛び込み出産が、07年1~4月には35件。通年では100件を超える見込みだ。

 同県内では産科医不足などで昨年度、7病院が産科を閉じた。調査をまとめた横浜市立大学の平原史樹教授は「妊娠は病気ではないという安全神話が広まったところに、分娩(ぶんべん)施設の相次ぐ閉鎖が追い打ちをかけた。健診費が比較的安い公立病院から産科が撤退、収入が少ない若い貧困層が健診を敬遠している。経産婦も上の子の手を引いて遠くの病院を受診するのはおっくうなのでは」。

 ●現場は疲弊●

 未受診出産は、医師不足でかつかつの現場をさらに疲弊させている。

 日本医科大多摩永山病院が、未受診妊婦41人を分析したところ、子が死亡したのは4例。周産期(妊娠22週~生後1週間)の死亡率は、通常の約15倍だった。11人が出産費用を支払っていなかった。

 調査した中井章人・同大教授は「医学的にハイリスクで、高次医療機関でしか対応できない。未収金のリスクもあり、病院側の負担が増す」。

 奈良で11病院に搬送受け入れを断られ死産▽千葉で16病院に断られ切迫流産▽大阪で19病院に断られ自宅出産。8月から相次ぎ発覚したケースはいずれも未受診妊婦だった。

 搬送受け入れ拒否問題を受け、奈良県立医大が緊急調査をしたところ、同大学病院への飛び込み出産は98~06年に50件。98年の3件が、03年に11件と3倍以上に増えていた。妊婦・新生児ともに異常は多く、妊婦の胎盤早期剥離(はくり)は2人で通常の10倍、呼吸障害など治療が必要な新生児は19人と通常の約20倍だった。同医大産婦人科の小林浩教授は「未受診だとリスクが非常に高い。妊婦さんも家族もそのことをよく知って、必ず健診を受けてほしい」と話す。

 ●少ない助成●

 ただ、未受診の背景には経済苦が広がる。生活保護の出産扶助で現金支給を受けた人は、97年の839人から06年には1396人に。これとは別に、低所得者の出産費に自治体が配布する「助産券」を利用した人は97年の3392人から05年には5756人に増えた。受診できる態勢づくりも必要だ。

 妊婦健診は1回5千~1万円程度かかる。出産までに14~16回受診する必要があるが、自治体の公費助成は平均2.8回。厚生労働省は今年1月、5回程度が望ましいとしたが、多くの自治体が財政難などを理由に回数増には踏み切っていない。特に関西は1回の自治体が、大阪32、兵庫19、奈良24と低調だ。

 大阪府の阪南中央病院産婦人科の加藤治子医師は、最近、こんなケースに遭遇した。「派遣社員で妊娠を機に退職したが、前年度に課税所得があり、助産券が交付されなかった」「国民健康保険の滞納があったため、出産一時金はその解消に充てられた」

 茨城県立医療大学の加納尚美教授(助産学)は「国は妊娠・出産に関し最低必要な医療内容と費用を算出し、その部分は公費で手当てしてほしい」と話す。

(朝日新聞、2007年11月17日)

****** 読売新聞、関西発、2007年11月17日

兵庫・明石市民病院産婦人科 入院と出産業務休止へ 常勤医減で来年6月から

 兵庫県明石市立市民病院(佐々木享院長、398床)は16日、常勤の産婦人科医が3人から2人に減るため、来年6月から入院と出産業務を休止すると発表した。すでに予約を受けている患者については対応するが、新規の患者の受け入れはしない。同病院は診療体制の見直しも検討しており、「県医師会や大学への要請などを通じて、早期に再開できるよう努めたい」としている。

 同病院によると、2005年4月に常勤の産婦人科医が4人から3人に減少した。06年にはさらに2人が退職したため、京都府立医科大(京都市)などから2人の派遣を受け、3日に1回の泊まり勤務をするなどして急場をしのいでいた。

 しかし、うち1人が08年5月末で契約が切れ、新たな医師も見つかっていないことから、「常勤医2人では24時間体制で取り組むお産に対応できない」と判断、休診を決めた。

 昨年の明石市への出生届2779件に対し、同病院で扱った出産の数は441件。市内の分娩(ぶんべん)可能な病院はほかに6病院あるが、市民病院は中核病院としての機能を果たしており、今後、リスクの高い患者は、県立こども病院(神戸市)や加古川市民病院へ搬送されることになる。

 また、常勤医が2人になることで、通常業務への負担も増えることから、同病院は「新たな医師が確保できない場合、産婦人科を婦人科だけにするなど、診療体制を見直す必要もある。年明けには対応を決めたい」としている。

 兵庫県内の産科医療を巡っては、医師不足などを理由に西宮市立中央病院や高砂市民病院、小野市民病院などが産科を休診している。

(読売新聞、関西発、2007年11月17日)

****** 神戸新聞、2007年11月17日

明石市民病院が出産休止 早期の再開は困難

 医師不足、明石でも-来春以降の産科医が確保できず、来年六月から、出産受け入れの休止を決めた明石市立市民病院。病院側は「医師を確保し早急に再開したい」とするが、早期の再開は困難な見通しだ。合併症などリスクの高い妊婦も受け入れてきた中核病院での出産休止に、市内のある病院の産婦人科医師は「どの病院も産科は医師不足。(妊婦を)受け入れる負担は大きい」との悲鳴も聞こえる。(川口洋光、永田憲亮)

 市民病院の産婦人科常勤医三人は、夜間当直勤務を三日ごと、月に八回こなす。当直明けでも、午前中から再び外来診療を担当し、手術などが入れば引き続き夜まで勤務することもある。

 同病院事務局は「連続三十時間以上の当直勤務がある。お産には年末年始や土日も関係ないので、休みにくい」と勤務の過酷さを訴える。

 同病院は地域医療の拠点として、出産に二十四時間対応するため、産科医一人が夜間に常駐する。常勤医師はかつて四人いたが、二〇〇七年四月から三人に。

 非常勤医師が週に一回宿直を担当するが、ぎりぎりの態勢で勤務を回してきた。「常勤医三人は最低人数。二人以下だと診療が成り立たない」と和田満・事務局次長はため息をつく。

リスク伴う出産、市外受け入れも

 十八の診療科と約四百床のベッド数を有する市民病院は、地域の中核病院として一次、二次医療を担う。産婦人科は、昨年一年間で四百四十一件の出産を取り扱った。

 自然分娩(ぶんべん)だけでなく、妊婦が合併症でほかの診療科との連携や高度医療設備が必要な場合の出産にも対応。「市内産婦人科病院のバックアップ」(同病院事務局)にも当たる存在だった。

 しかし、出産の中止で今後は市内外のほかの医院、病院に頼らざるをえない。リスクが伴う出産のケースは、態勢が整う県立こども病院(神戸市須磨区)や加古川市民病院(同市米田町)が受け入れ先となる可能性が高いという。

(神戸新聞、2007年11月17日)

****** 毎日新聞、島根、2007年11月17日

県立中央病院:出産予約、1月から制限 母子医療センター機能、維持限界に

 ◇分娩増加で

 県立中央病院(出雲市)は早産や帝王切開が必要なハイリスクの患者への対応能力を維持するため、来年1月以降、出産予約の制限を始める。同病院は県内唯一の総合周産期母子医療センターの指定を受けているが、近年は県内の分娩(べん)施設の減少や里帰り出産の増加で、通常分娩への対応も急増。分娩受け入れを制限することで、同センターとしての機能を維持することが目的だという。

 予約を制限するのは、里帰り出産などで途中からの受診となったり、同病院での初診が遅かったケース。妊娠初期から通院する妊婦や、他の病院からの紹介者、早産などハイリスク出産には、従来通り対応する。

 里帰り出産の増加、妊婦の総合病院志向などで、同病院では00年度以降に産婦人科での出産対応が急増。年間900件前後で推移していたが、06年度は1099件と1000件を越えた。40床ある産婦人科病床は満員状態が続いているという。

 一方で、同病院の産婦人科医は9人(うち3人は嘱託)。06年には総合周産期母子医療センターに指定され、出産のうち4分の1が帝王切開で、常に重症の妊産婦や新生児、緊急時への対応も求められている。

 岩成治・母性小児診療部長は「物理的にセンターとしての機能に限界がきている。医師も足りない中で、これ以上分娩取り扱いが増えると、安全確保が困難になる」としている。【細川貴代】

(毎日新聞、島根、2007年11月17日)

****** 中国新聞、島根、2007年11月16日

出産予約を来年から制限 島根県立中央病院

▽件数急増、医師不足続く

 島根県内で唯一、総合周産期母子医療センターに指定されている県立中央病院(出雲市)が来年一月以降、出産予約を制限することが十五日、分かった。妊娠初期から通院する妊婦は従来通り対応する一方、里帰り出産など転院を伴う出産の予約は、一部受け入れない可能性がある。産婦人科不足を背景に近年、同病院の出産件数が急増し、センター機能の低下が生じる恐れがあるためで、医師不足は基幹病院にも影を落としている。

 ■周産期医療の役割維持

 予約を制限するのは、同病院での初診が遅かったり、里帰り出産などで途中からの受診となるケースで、その場合、他の病院を紹介する。初診から通う妊婦をはじめ、早産や帝王切開などハイリスク出産は受け入れる。

 予約制限の導入に踏み切るのは、産婦人科での出産対応件数が急増したため。一九九七年度は五百九十四件だったのに対し、二〇〇二年度は八百九十七件、〇六年度は千九十九件と初めて千件を超えた。お産を扱う病院の減少や、里帰り出産の増加、総合病院での出産を望む妊婦や家族の安全志向なども増加の要因とみられる。

 出産件数の増加に対し同病院の産婦人科医の人手不足は解消されておらず、本年度は嘱託を含めて九人しかいない。四十床の産婦人科のベッドは満員状態が続いている。

 さらに、同病院は〇六年一月、重症の妊婦や新生児治療の中核を担う総合周産期母子医療センターに指定。出産件数の四分の一は帝王切開が占めるなど、県内各地からリスクが高い妊婦を受け入れ、通常の出産とともに緊急出産への対応も求められる。

 母性小児診療部の岩成治部長は「人的、設備的に、出産を希望する妊婦すべて受け入れるには限界を迎えている。不便をおかけするが、総合周産期母子医療センターの役割を維持するため協力してほしい」と呼び掛けている。(城戸収)

 ●クリック 総合周産期母子医療センター

 合併症のある妊娠や重い妊娠中毒症、切迫早産、胎児の異常など、正常な出産が困難な病気やリスクが高い妊娠に対応するため、24時間態勢で妊産婦と新生児を受け入れる医療施設。新生児集中治療室(NICU)病床数などに基づき、都道府県が指定する。厚生労働省は各都道府県に1施設以上の設置を目指している。

(中国新聞、2007年11月15日)

****** 読売新聞、関西発、2007年11月15日

出産取り扱う病院 兵庫では10か所休止

 産科医不足の深刻化に伴い、昨年4月以降に出産の取り扱いを休止した病院が、全国で少なくとも127か所に上ることが読売新聞の全国調査でわかった。出産を扱う病院がこの1年半で約1割減ったことになる。休止は、地域医療の中核を担う総合病院にも及び、お産の「空白地帯」が広がっているほか、その近隣の病院に妊婦が集中し、勤務医の労働環境がさらに悪化する事態となっている。

 調査は、各都道府県が休止を把握している病院の数に、休止を周知している病院への取材も加えて集計した。それによると、2006年4月以降にお産の扱いを休止した病院は132病院だったが、このうち5病院は、産科医を確保するなどして再開。また、来春までに休止方針を打ち出している病院も12か所あった。

 国は3年に一度、出産を扱う病院数を調査しており、直近の05年10月現在では1321病院だった。これを母数とした場合、すでに休止した127病院は全体の9・6%に相当し、来春までの休止予定も含めると、10・5%の病院がお産の扱いをやめることになる。

 都道府県別では、兵庫の10か所が最多。北海道の9か所、福島、東京、新潟の6か所、大阪、千葉、神奈川、山梨、長野の5か所と続く。主な休止理由は〈1〉医師不足に伴い、大学医局からの派遣医を引き揚げられた〈2〉労働条件の悪化を理由に、勤務医が開業医や(お産を扱わない)婦人科に転身してしまい、穴埋めができない〈3〉産科医不足対策の一環で、近隣病院に産科医を集約する――などとしている。

(読売新聞、2007年11月15日)

****** 毎日新聞、長野、2007年11月18日

上田でバースセンター設立運動

「産み方」選びたい

 上田市の住民を中心に、助産師が主体となってお産を担う「バースセンター」(助産院)の設立を訴える運動が熱を帯びている。産科医が不足している現状に加え、「お産という人生の一大事にあって、『産み方』の選択肢を増やしたい」という母親たちの切なる願いが運動の背景にあるようだ。 【川口健史】

 「病院で産んだ子は愛しにくい」。上田市でバースセンター設立を訴える「安心してお産と子育てができる地域をつくる住民の集い」のメンバーのほとんどは、病院と助産師によるお産を経験している女性たち。彼女たちが口をそろえるのは病院出産に対する不満だ。

 同市の主婦、斉藤八重子さん(31)も病院出産と、助産師出産の両方を経験した。東京都内の病院で最初の子を産んだ時の経験は今でも鮮明に覚えているという。「分娩(ぶんべん)台にあおむけで乗せられ、機械的に処理された。子供が生まれてもすぐに引き離され、苦痛だけが記憶に残った」

 助産師による自然分娩を積極的に取り入れている「上田市産院」(同市常磐城)で、出産を経験したことがある同市の武田千秋さん(29)は、「安心感が違う」と利点を強調する。助産師の出産は、分娩台に乗せられず、恥ずかしい格好をさせられたり、苦しい体勢を強いられることがない。また陣痛促進剤を使われるなど医療行為もないという。病院での出産とは異なり、出産で最も重要な「精神的な負担が軽減された」と話す。

 住民グループの副代表、桐島真希子さん(32)は、病院と助産院との出産のすみ分けを図ることが必要と力説する。桐島さんは「緊急度が高く難しいお産は病院に。安全な自然分娩を望む人は助産師による出産を選ぶことで、医師不足問題も解決するし、お産に対する恐怖心も薄れ、少子化対策にも役立つのではないか」と指摘する。

 日本助産師会によると、県内の助産院は長野市や須坂市、松本市など数カ所しかない。一方で県内でお産を取り扱う産科施設は49カ所。病院での出産が圧倒的多数を占める。多くの妊婦にとって「助産院での出産」という選択肢が用意されていないのが現状だ。

 住民グループでは、9月からバースセンターや、院内助産院の設立を求める署名活動を展開している。今月末には県や上田市に請願書を提出する予定だ。助産師を活用する出産に積極的な上田市産院の広瀬健・副院長も「産前産後の周産期の母親のケアに有効であることと、医師の負担が軽減でき、重症度の高い患者に向き合えるようになる」と利点を強調した。

(毎日新聞、長野、2007年11月18日)

****** 毎日新聞、長野、2007年11月14日

上田市産院:甲藤院長が辞職届 分娩体制維持、困難に

 年間の分娩(ぶんべん)件数が700件近くある「上田市産院」(上田市常磐城)の甲藤一男院長(57)が年内をめどに辞職する意向であることが13日、分かった。辞職の理由について、甲藤院長は「年齢的に体力、気力が限界にきている」と説明。辞職すると常勤、非常勤あわせて医師2人体制になり、現在の分娩体制を維持することが難しくなる。

 関係者によると、甲藤院長はおよそ2カ月前から、管理者である母袋創一市長らに辞意を漏らしていた。母袋市長が慰留したものの、本人の意思が固く、9日に母袋市長に辞職届を提出した。母袋市長は辞職届を正式に受理していないが、「本人の希望に沿う形になるだろう」と述べ、辞職を了承する意向だ。

 同市では、近く対策会議を開いて今後の対応を協議する。母袋市長は「廃院は考えていない」としているが、特定の地域に医師が偏る問題が県内各地で表面化しており、新たな医師確保は厳しい状況だ。母袋市長は「分娩回数を減らすことも視野に入れている」と語り、規模を縮小して存続することを示唆した。

 同産院によると、年間分娩件数は688件(06年度)。上田市などで分娩を扱う病院が減少した影響などで、前年度より149件も増えた。医師1人あたりの分娩回数は平均150~200件とされ、「医師の負担はかなり大きくなっていた」(産院関係者)という。

 同産院を巡っては、05年に常勤医師が信州大に引き揚げられたことで、廃院問題が浮上。存続を求める市民らが約9万人の署名を集めるなどして、常勤医師を確保して存続した経緯がある。【川口健史】

(毎日新聞、長野、2007年11月14日)

****** 朝日新聞、島根、2007年11月13日

1月から「分娩」休止へ/どうなる出産

 松江生協病院(松江市西津田8丁目)の分娩(ぶん・べん)業務が存続の危機に立たされている。女性診療科(産婦人科)の常勤医3人のうち2人が来月いっぱいで退職し、後任医師を確保するめどが立っていないためだ。同病院は安全な出産のためには「複数の常勤医での対応が必要」との立場。このまま補充できなければ、来年1月から分娩を休止する方針だ。(上原賢子)

≡常勤医複数確保できず≡

 同病院によると、2人の常勤医が9月下旬から10月初めにかけて、相次いで退職の意向を示した。直後から医師探しを始め、10月11日には医師の派遣を受けている鳥取大医学部を大田誠・病院長らが訪ね別の医師の派遣を要請したが、大学側も医師不足で派遣できないと回答があった。12日に院内で協議した結果、「12月末までに医師を確保するのは難しい」として、来年1月から出産への対応を中止する方針を決めた。

 その後、職員に文書などで知らせるとともに、女性診療科の外来窓口で、「分娩の一時休止についてのお詫び」と題したチラシを配り始めた。

 1月以降の分娩を予約していた54人には、松江市内の病院や診療所を紹介しているという。外来の妊婦健診は続ける。

 同病院は87年に産婦人科病棟を設け、ここ10年の分娩件数は年200件前後。不妊治療の専門外来もある。

 昨年同病院で出産し、今回の事態を知った女性たちが呼びかけ人になり、署名活動を展開。「産科及び不妊外来の継続に関する嘆願書」を11月3日、1482人分の署名とともに病院に提出した。

 大田病院長は「患者さんの気持ちに応えるために分娩業務は続けたいが、全国的に産科医が不足するなか、私たちの力だけでは医師確保は難しい」と話している。

(朝日新聞、島根、2007年11月13日)

****** 読売新聞、群馬、2007年11月13日

産婦人科 もう志だけでは続かない

 「地域の総合病院に産科がないなんて、どこで産めというのだろう」
 2005年に長女を出産した館林市の主婦(39)は首をかしげる。不妊治療の末に妊娠。高齢出産で比較的リスクが高いため、総合病院で産もうとしたが、すでに館林地区の中核病院である館林厚生病院は、06年3月で分娩(ぶんべん)を休止することになっていた。群馬大が産婦人科医2人を引き揚げるためだ。この主婦は出産後のことも考え、結局、太田市の病院に1時間近くかけて通って出産したという。

 館林市内の別の主婦(40)は、埼玉県内の総合病院の近くにある個人病院にかかった。「厚生病院がだめなら、遠くても総合病院に産科がある他市の病院に行った方が、危険な時にすぐ運んでもらえそう」というのが理由だった。休止は今も続いている。

 地元の開業医も「リスクが高い場合の搬送先探しが難しい」と認める。県内で産科が比較的整った病院までは1時間近くかかる。隣接する栃木県内の病院に運ぶと、「県内でどうにかならないか」と言われてしまうという。開業医は「この地域のお産は見捨てられたのかな」とつぶやいた。

     ◇

 県内の中核病院の大半を占める群馬大派遣の産婦人科医は、2000年の69人から05年は49人に減少。病院に1人の医師では当直態勢が組めず、突発的な重症患者に対応できないことがあるため、同大は分娩を行う病院に医師を3人以上集めている。その結果、医師が引き揚げられた館林厚生病院や原町日赤病院(東吾妻町)などは分娩が行われなくなり、地域的な穴が開いている。

 減少要因の一つに、厳しい労働環境で若いなり手が少ないことがある。当直が月10回の病院もあり、夜間の分娩で呼び出され、翌日も勤務という時も珍しくない。女性の割合が高く、家庭生活が成り立たずに辞める例も多い。県内の産婦人科医のうち30歳代は10%強で、全国平均より10ポイントほど低いうえ、その6割が女性だ。群馬大の峯岸敬教授は「女医への対応がなければこの態勢は続かない」と指摘する。こうした中、公立富岡総合病院(富岡市)は院内保育所を設置し、個々の事情に合わせて勤務時間を変えるなど、女医の受け入れに取り組む病院は増えつつある。柴山勝太郎院長は「朝から昼過ぎまでの非常勤でも戦力になる。女医の新しい働き方を考えなくては」と語る。

 佐藤病院(高崎市)は03年から、分娩をしない9診療所と提携し、妊婦検診を診療所で受け、分娩は病院で行う「セミオープンシステム」を始めた。病院は分娩に集中でき、患者も近くの診療所で受診できる利点がある。女医や高齢の医師の働き場も広がるという。佐藤雄一副院長は「今までも無理をしてきたが、もう志だけでは続かない」と語り、労働環境の改善の必要を訴えた。

(読売新聞、群馬、2007年11月13日)


第1回婦人科腫瘍専門医試験(2006年)、問題071~問題080

2007年11月20日 | 婦人科腫瘍

第1回婦人科腫瘍専門医試験(2006年)、問題と解答例

【問題071~問題080】

問題071 TJ療法(パクリタキセル+カルボプラチン)3週間毎投与で正しいのはどれか。
a)薬剤投与順序はカルボプラチンが先でパクリタキセルが後である。
b)パクリタキセルの投与量は17.5 mg/m2静注、day 1(3時間投与)である。
c)カルボプラチンの投与量はAUC=1-2静注、day 1(1-2時間投与)である。
d)Calvertによるカルボプラチン投与量は目標AUCx(GFR+25)で計算できる。
e)カルボプラチン投与による急性過敏性反応は初回治療後に最も多い。

問題072 卵巣癌の化学療法で誤っているのはどれか。
a)パクリタキセルは24時間投与に比し3時間投与で神経毒性が高度である。
b)化学療法をスケジュールどおりに遂行するためG-CSFを投与する。
c)進行癌に対する維持化学(地固め)療法の生存期間延長効果は未知である。
d)進行した境界悪性腫瘍における補助化学療法の有用性は証明されていない。
e)初回療法から6ヶ月以上の再発では同じ化学療法が奏効する可能性が高い。

問題073 卵巣悪性胚細胞腫瘍に対する第一選択の化学療法はどれか。
a)シスプラチン/ドキソルビシン/シクロホスファミド
b)パクリタキセル/カルボプラチン
c)イリノテカン/シスプラチン
d)ブレオマイシン/エトポシド/シスプラチン
e)フルオロウラシル/シスプラチン

問題074 卵管癌で誤っているのはどれか。
a)卵管溜水症の形態を示すことがある。
b)卵巣癌に準じた腫瘍減量手術を行う。
c)寛解導入化学療法にTJ療法を用いる。
d)術後治療の第一選択は放射線療法である。
e)CA125が腫瘍マーカーとして有用である。

問題075 原発性腹膜腺癌で正しいのはどれか。
a)組織型として類内膜腺癌が多い。
b)術前化学療法の有用性が証明されている。
c)化学療法は白金製剤を中心にして行われる。
d)生存期間は進行卵巣癌に比べて著しく短い。
e)術後治療としてホルモン療法も有用である。

問題076 わが国で最も発生頻度が低い癌はどれか。
a)外陰癌
b)腟癌
c)子宮頸癌
d)子宮体癌
e)卵巣癌

問題077 ヒトパピローマウイルス(HPV)と関係が深い癌抑制遺伝子はどれか。
(1)p53
(2)BRCA1
(3)FHIT
(4)NF1
(5)Rb

a(1)(2)、b(1)(5)、c(2)(3)、d(3)(4)、e(4)(5)

問題078 子宮頸部悪性腺腫と関連が深いのはどれか。
a)遺伝性非ポリポーシス大腸癌 (hereditary nonpolyposis colorevtal cancer)
b)家族性大腸ポリポーシス (familial adenomatous polyposis coli)
c)リ・フラウメニ症候群 (Li-Fraumeni syndrome)
d)カウデン病 (Cowden syndrome)
e)ポイツ・イエーガー症候群 (Peutz-Jeghers syndrome)

問題079 タイプⅠ子宮体癌の遺伝子異常で頻度が高いのはどれか。
(1)microsatellite instability (MI)
(2)K-ras
(3)PTEN
(4)p53
(5)BRCA1

a(1)(2)(3)、b(1)(2)(5)、c(1)(4)(5)、d(2)(3)(4)、e(3)(4)(5)

問題080 子宮体部の漿液性腺癌で高頻度に変異がみられる遺伝子はどれか。
a)PTEN
b)K-ras
c)BRCA1
d)p53
e)MLH1

―――――――――――――――――――――――――

解答例 (誤答の場合は御指摘ください)

問題071 TJ療法(パクリタキセル+カルボプラチン)3週間毎投与で正しいのはどれか。
a)薬剤投与順序はカルボプラチンが先でパクリタキセルが後である。
b)パクリタキセルの投与量は17.5 mg/m2静注、day 1(3時間投与)である。
c)カルボプラチンの投与量はAUC=1-2静注、day 1(1-2時間投与)である。
d)Calvertによるカルボプラチン投与量は目標AUCx(GFR+25)で計算できる。
e)カルボプラチン投与による急性過敏性反応は初回治療後に最も多い。

解答:d

a)パクリタキセル→カルボプラチンの順で投与する。

b)パクリタキセルの投与量:60~80mg/m2静注、day 1、8、15

c)カルボプラチンの投与量:AUC 6、day 1、3週間隔で投与
 またはAUC 2、day 1、8、15、4週間隔で投与

d)Calvertによるカルボプラチン投与量=目標AUCx(GFR+25)

e)カルボプラチン投与による急性過敏性反応は初回や2~3回目の治療では発症することは稀でカルボプラチン投与の半ばで発症することが多い。

******

問題072 卵巣癌の化学療法で誤っているのはどれか。
a)パクリタキセルは24時間投与に比し3時間投与で神経毒性が高度である。
b)化学療法をスケジュールどおりに遂行するためG-CSFを投与する。
c)進行癌に対する維持化学(地固め)療法の生存期間延長効果は未知である。
d)進行した境界悪性腫瘍における補助化学療法の有用性は証明されていない。
e)初回療法から6ヶ月以上の再発では同じ化学療法が奏効する可能性が高い。

解答:b

一次予防を目的としたCSF投与は原則的には推奨されない。重度の好中球減少症発症のリスクが20%以上見込まれるようなハイリスク症例には一次予防投与を考慮する。二次予防(化学療法2サイクル目でのCSFの使用)としてのCSF投与もルーチンには推奨されない。CSFを投与して化学療法のスケジュールをこなしても生存期間は改善しない。

******

問題073 卵巣悪性胚細胞腫瘍に対する第一選択の化学療法はどれか。
a)シスプラチン/ドキソルビシン/シクロホスファミド
b)パクリタキセル/カルボプラチン
c)イリノテカン/シスプラチン
d)ブレオマイシン/エトポシド/シスプラチン
e)フルオロウラシル/シスプラチン

解答:d

卵巣悪性胚細胞腫瘍では、BEP療法(ブレオマイシン/エトポシド/シスプラチン)が標準的治療である。

******

問題074 卵管癌で誤っているのはどれか。
a)卵管溜水症の形態を示すことがある。
b)卵巣癌に準じた腫瘍減量手術を行う。
c)寛解導入化学療法にTJ療法を用いる。
d)術後治療の第一選択は放射線療法である。
e)CA125が腫瘍マーカーとして有用である。

解答:d

卵管癌の治療方針は卵巣癌と同様であり、手術療法と化学療法を組み合わせる。両側付属器切除術、単純子宮全摘術、大網切除術、および骨盤内および傍大動脈リンパ節郭清術を行い、腹腔内播種性病変も可能な限り切除する。また卵管から直接浸潤した隣接臓器を合併切除することは予後改善における意義が大きい。術後化学療法として、これまでのCAP(cyclophosphamide+adriamycin+cisplatin)療法が行われ有効性が報告されてきたが、最近のTJ(paclitaxel+calboplatin)療法も有効である。

******

問題075 原発性腹膜腺癌で正しいのはどれか。
a)組織型として類内膜腺癌が多い。
b)術前化学療法の有用性が証明されている。
c)化学療法は白金製剤を中心にして行われる。
d)生存期間は進行卵巣癌に比べて著しく短い。
e)術後治療としてホルモン療法も有用である。

解答:c

a)組織学的に卵巣漿液性癌と区別できない腫瘍が腹膜表面にびまん性に認められるが、卵巣は正常ないしごく表層のみに認められる。

c)治療は卵巣癌に準じて行われる。

d)予後は卵巣癌よりも悪く、一時的軽快は見られても再発は必発であり、平均生存期間は14.7ヵ月とされている。

******

問題076 わが国で最も発生頻度が低い癌はどれか。
a)外陰癌
b)腟癌
c)子宮頸癌
d)子宮体癌
e)卵巣癌

解答:b

外陰癌:全女性性器癌の約4%

腟癌:全女性性器癌の約1~2%

******

問題077 ヒトパピローマウイルス(HPV)と関係が深い癌抑制遺伝子はどれか。
(1)p53
(2)BRCA1
(3)FHIT
(4)NF1
(5)Rb

a(1)(2)、b(1)(5)、c(2)(3)、d(3)(4)、e(4)(5)

解答:b

HPVのもつ2つの癌原遺伝子、E6遺伝子とE7遺伝子が発癌に関与している。E6蛋白質とE7蛋白質はHPVが産生する蛋白質で、宿主細胞の癌抑制遺伝子産物であるp53蛋白質、Rb蛋白質と結合し、その機能を抑制する。

******

問題078 子宮頸部悪性腺腫と関連が深いのはどれか。
a)遺伝性非ポリポーシス大腸癌 (hereditary nonpolyposis colorevtal cancer)
b)家族性大腸ポリポーシス (familial adenomatous polyposis coli)
c)リ・フラウメニ症候群 (Li-Fraumeni syndrome)
d)カウデン病 (Cowden syndrome)
e)ポイツ・イエーガー症候群 (Peutz-Jeghers syndrome)

解答:e

子宮頸部悪性腺腫(adenoma malignum)は、ポイツ・イエーガー症候群 PJS(Peutz-Jeghers syndrome:STK11遺伝子の欠失)と高い頻度の合併がある。

******

問題079 タイプⅠ子宮体癌の遺伝子異常で頻度が高いのはどれか。
(1)microsatellite instability (MI)
(2)K-ras
(3)PTEN
(4)p53
(5)BRCA1

a(1)(2)(3)、b(1)(2)(5)、c(1)(4)(5)、d(2)(3)(4)、e(3)(4)(5)

解答:a

タイプⅠ子宮体癌(類内膜腺癌)は、過剰のエストロゲンの支持を受けた一連の増殖性病変を経て発生し、子宮体癌の3/4を占める。タイプⅠ子宮体癌では、microsatellite instability (MI)、K-ras変異、PTEN変異が高率で見られる。MIは、類内膜腺癌なかでも低分化腺癌に多く、漿液性腺癌ではまれである。

癌組織では正常組織にはみられない塩基の繰り返し配列数の異常が検出されることがあり、これをmicrosatellite instability (MI)という。MIは、DNAミスマッチ修復異常によりDNA複製時のエラーの頻度が上昇していることを反映している。

******

問題080 子宮体部の漿液性腺癌で高頻度に変異がみられる遺伝子はどれか。
a)PTEN
b)K-ras
c)BRCA1
d)p53
e)MLH1

解答:d

子宮体部の漿液性腺癌や低分化型腺癌では、p53変異が高率に見られる。明細胞癌に関しては特異的な遺伝子異常はこれまで報告されていない。


産める病院が1年半で1割減、読売新聞全国調査

2007年11月15日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

読売新聞の全国調査の集計によると、最近1年半の間に全国で少なくとも127か所もの病院が分娩の取り扱いを中止しました。今の分娩施設減少の勢いは、今後も当分の間はおさまりそうにありません。

半年後、1年後、2年後に、分娩施設の数がどこまで減少してしまうのか?の予測は非常に難しいと思います。

分娩を取り扱う施設としてこの世の中に生き残っていくのも大変なことですが、生き残ったら生き残ったで、地域の妊婦さんが否応なく集中してしまうので、その施設は大混雑となり、激務のためにそこで勤務する医師の離職が続出することも予想されます。

離職者の補充が非常に難しくなってきていますので、今現在、現場で頑張っている勤務医達の離職を防止する対策(業務負担の軽減、勤務環境や待遇の改善、など)が非常に重要だと思われます。

****** 読売新聞、2007年11月15日

産める病院が1年半で1割減…読売新聞全国調査

 産科医不足の深刻化に伴い、昨年4月以降に出産の取り扱いを休止した病院が、全国で少なくとも127か所に上ることが読売新聞の全国調査でわかった。出産を扱う病院がこの1年半で約1割減ったことになる。休止は、地域医療の中核を担う総合病院にも及び、お産の「空白地帯」が広がっているほか、その近隣の病院に妊婦が集中し、勤務医の労働環境がさらに悪化する事態となっている。

 調査は、各都道府県が休止を把握している病院の数に、ホームページなどで休止を周知している病院への取材結果も加えて集計した。それによると、2006年4月以降にお産の扱いを休止した病院は132病院だったが、このうち5病院は、その後、産科医を確保するなどして再開にこぎつけた。また、来春までに休止方針を打ち出している病院も12か所あった。

 国は3年に一度、出産を扱う病院数を調査しており、直近の05年10月現在では1321病院だった。これを母数とした場合、すでに休止した127病院は全体の9・6%に相当し、来春までの休止予定も含めると、10・5%の病院がお産の扱いをやめることになる。

 都道府県別では、兵庫の10か所が最多。北海道の9か所、福島、東京、新潟の6か所、千葉、神奈川、山梨、長野、大阪の5か所と続く。主な休止理由は、〈1〉医師不足に伴い、大学医局からの派遣医を引き揚げられた〈2〉労働条件の悪化を理由に、勤務医が開業医や(お産を扱わない)婦人科に転身してしまい、その穴埋めができない〈3〉産科医不足対策の一環で、近隣病院に産科医を集約化することになった――など。

(以下略)

(読売新聞、2007年11月15日)


第1回婦人科腫瘍専門医試験(2006年)、問題061~問題070

2007年11月12日 | 婦人科腫瘍

第1回婦人科腫瘍専門医試験(2006年)、問題と解答例

【問題061~問題070】

問題061 卵巣成熟嚢胞性奇形腫の悪性転化で正しいのはどれか。
a)頻度は約10%である。
b)閉経後の患者に多い。
c)腫瘍径の小さいものが多い。
d)両側性発生例が多い。
e)組織型は明細胞腺癌が多い。

問題062 若年者の卵巣悪性胚細胞性腫瘍で正しいのはどれか。
a)原則として妊孕性温存手術を考慮する。
b)未分化胚細胞腫は放射線感受性が低い。
c)未熟奇形腫では血性LDH高値を示す。
d)絨毛癌の予後は良好である。
e)治療後の問題点は妊孕能のみである。

問題063 転移性卵巣癌で正しいのはどれか。
a)悪性卵巣腫瘍の約40%を占める。
b)20歳代の若年女性に頻度が高い。
c)ほとんどが片側性発生である。
d)原発性では肺癌が最も多い。
e)胃癌の転移は印環細胞癌が多い。

問題064 卵巣癌の進行期分類(FIGO 1988、取り扱い規約1992)で正しいのはどれか。
a)一側の卵巣に限局する被膜浸潤を認める場合はⅠb期である。
b)骨盤腹膜に顕微鏡的な播種を認める場合はⅢb期である。
c)直径2cmをこえる腹腔内播種を認める場合はⅢc期である。
d)肝実質転移は組織学的に確認された場合にのみⅣ期とする。
e)大量胸水の存在は悪性細胞の有無にかかわらずⅣ期とする。

問題065 卵巣癌の進行期分類(FIGO 1988、取り扱い規約1992)でⅣ期はどれか。
a)膀胱漿膜浸潤
b)肝表面の播種
c)鼠径リンパ節転移
d)縦隔リンパ節転移
e)胸水貯留で細胞診陰性

問題066 卵巣癌の妊孕性温存手術で誤っているのはどれか。
a)基本術式は患側付属器摘出術と大網切除術である。
b)開腹所見がⅠa期と思われても腹腔細胞診を採取する。
c)進行期Ⅰa期を対象とし、病理組織所見は問わない。
d)後腹膜リンパ節の評価は触診、視診、必要に応じ生検で行う。
e)対側卵巣の生検は肉眼的に異常所見が認められた場合に行う。

問題067 卵巣癌の手術用語(卵巣がん治療ガイドライン、2004)で正しいのはどれか。
a)基本術式とは患側付属器摘出術、子宮摘出術、大網切除術をいう。
b)staging laparotomyとは進行期の確定に必要な手技を含む手術をいう。
c)試験開腹とは原発腫瘍の摘出が困難なため何もしないで閉腹する手術をいう。
d)cytoreductive surgeryとは腫瘍減量のために腸管切除を伴う手術をいう。
e)second look operationとは初回手術の6か月後に行う再開腹手術をいう。

問題068 卵巣癌の治療で誤っているのはどれか。
a)Ⅰa期で組織学的分化度grade 1の症例では術後化学療法は省略できる。
b)進行癌におけるprimary cytoreductive surgeryの意義は確立されている。
c)進行癌の術後化学療法には標準治療としてTJ療法が行なわれる。
d)進行癌におけるsecond look operationは予後改善効果がある。
e)interval debulking surgeryがoptimalであれば予後改善が期待できる。

問題069 卵巣癌の治療で誤っているのはどれか。
a)術前化学療法によりinterval debulking surgeryで腫瘍摘出率が向上する。
b)早期卵巣癌に対する維持(地固め)化学療法の有用性は示されていない。
c)腹腔内化学療法は抗がん剤静脈内投与にとって代わる標準療法ではない。
d)造血幹細胞移植併用の超大量化学療法で生存期間延長の報告がある。
e)化学療法後の再発例では放射線療法も選択肢の一つとなる。

問題070 再発卵巣癌の治療で正しいのはどれか。
a)手術療法は適応とならない。
b)初回化学療法後6か月以内の再発は薬剤抵抗性の可能性が高い。
c)初回化学療法後6か月以降の再発には薬剤の変更が必要である。
d)シスプラチン耐性例にはカルボプラチンが第1選択となる。
e)化学療法では単剤よりも多剤併用療法が有効である。

―――――――――――――――――――――――――

解答例 (誤答の場合は御指摘ください)

問題061 卵巣成熟嚢胞性奇形腫の悪性転化で正しいのはどれか。
a)頻度は約10%である。
b)閉経後の患者に多い。
c)腫瘍径の小さいものが多い。
d)両側性発生例が多い。
e)組織型は明細胞腺癌が多い。

解答:b

a)成熟嚢胞性奇形腫の悪性化は約2%の頻度である。

b)閉経後女性に発生することが多い。

c)腫瘍径の大きいものが多い。腫瘍の急速な増大を示す場合がある。

d)すべてが片側発生である。

e)80%は扁平上皮癌である。

******

問題062 若年者の卵巣悪性胚細胞性腫瘍で正しいのはどれか。
a)原則として妊孕性温存手術を考慮する。
b)未分化胚細胞腫は放射線感受性が低い。
c)未熟奇形腫では血性LDH高値を示す。
d)絨毛癌の予後は良好である。
e)治療後の問題点は妊孕能のみである。

解答:a

b)未分化胚細胞腫は放射線感受性が高い。

******

問題063 転移性卵巣癌で正しいのはどれか。
a)悪性卵巣腫瘍の約40%を占める。
b)20歳代の若年女性に頻度が高い。
c)ほとんどが片側性発生である。
d)原発性では肺癌が最も多い。
e)胃癌の転移は印環細胞癌が多い。

解答:e

a)癌患者の剖検時に発見される卵巣転移率は肉眼的には6%で、顕微鏡的には12%に達する。

c)両側性は65%~75%である。

d)卵巣転移の原発巣は、消化管、乳腺、女性性器の癌が90%以上を占める。

e)印環細胞癌(signet ring cell carcinoma、粘液産生性の腺癌細胞が印環細胞を作り、粘液を細胞内に貯留しながら、びまん性に浸潤するもの): 原発巣の大多数は胃癌で、極めてまれに大腸癌や乳癌がある。

******

問題064 卵巣癌の進行期分類(FIGO 1988、取り扱い規約1992)で正しいのはどれか。
a)一側の卵巣に限局する被膜浸潤を認める場合はⅠb期である。
b)骨盤腹膜に顕微鏡的な播種を認める場合はⅢb期である。
c)直径2cmをこえる腹腔内播種を認める場合はⅢc期である。
d)肝実質転移は組織学的に確認された場合にのみⅣ期とする。
e)大量胸水の存在は悪性細胞の有無にかかわらずⅣ期とする。

解答:c

a)Ⅰc期: 腫瘍は一側または両側の卵巣に限局するが、被膜表面への浸潤や被膜破綻が認められたり、腹水または洗浄の細胞診にて悪性細胞の認められるもの。

b)Ⅲa期: リンパ節転移陰性で腫瘍は肉眼的には小骨盤に限局しているが、腹膜表面に顕微鏡的播種を認めるもの。

c)Ⅲc期: 直径2cmをこえる腹腔内播種ならびに/あるいは後腹膜または鼠径リンパ節に転移の認められるもの。

d)肝実質転移は組織学的(細胞学的)に証明されることが望ましいが、画像診断で転移と診断されたものもⅣ期とする。

e)胸水の存在によりⅣ期とする場合には、胸水中に悪性細胞を認めなければならない。

******

問題065 卵巣癌の進行期分類(FIGO 1988、取り扱い規約1992)でⅣ期はどれか。
a)膀胱漿膜浸潤
b)肝表面の播種
c)鼠径リンパ節転移
d)縦隔リンパ節転移
e)胸水貯留で細胞診陰性

解答:d

Ⅲ期: 腫瘍が一側または両側の卵巣に存在し、さらに骨盤外の腹膜播種ならびに/あるいは後腹膜、または鼠径部のリンパ節転移を認めるもの。また腫瘍は小骨盤に限局しているが小腸や大網に組織学的転移を認めるものや、肝表面への転移の認められたものもⅢ期とする。
 Ⅲa: リンパ節転移陰性で腫瘍は肉眼的には小骨盤に限局しているが、腹膜表面に顕微鏡的播種を認めるもの。
 Ⅲb: リンパ節転移陰性で、組織学的に確認された直径2cm以下の腹腔内播種を認めるもの。
 Ⅲc: 直径2cmをこえる腹腔内播種ならびに/あるいは後腹膜または鼠径リンパ節に転移の認められるもの。
【注1】 腹腔内病変の大きさは最大のものの径で示す。すなわち、2cm以下のものが多数認められてもⅢbとする。
【注2】 リンパ節郭清が行われなかった場合、触診その他できうるかぎりの検索で知りえた範囲で転移の有無を判断し進行期を決定する。

Ⅳ期: 腫瘍が一側または両側の卵巣に存在し、遠隔転移を伴うもの
 胸水の存在によりⅣ期とする場合には、胸水中に悪性細胞を認めなければならない。また肝実質への転移はⅣ期とする。
【注】 肝実質転移は組織学的(細胞学的)に証明されることが望ましいが、画像診断で転移と診断されたものもⅣ期とする。

******

問題066 卵巣癌の妊孕性温存手術で誤っているのはどれか。
a)基本術式は患側付属器摘出術と大網切除術である。
b)開腹所見がⅠa期と思われても腹腔細胞診を採取する。
c)進行期Ⅰa期を対象とし、病理組織所見は問わない。
d)後腹膜リンパ節の評価は触診、視診、必要に応じ生検で行う。
e)対側卵巣の生検は肉眼的に異常所見が認められた場合に行う。

解答:c

妊孕性温存手術を行うことのできる臨床病理学的な必要条件: Ⅰa期で高分化型または境界悪性腫瘍であること。明細胞癌は除かれる。

******

問題067 卵巣癌の手術用語(卵巣がん治療ガイドライン、2004)で正しいのはどれか。
a)基本術式とは患側付属器摘出術、子宮摘出術、大網切除術をいう。
b)staging laparotomyとは進行期の確定に必要な手技を含む手術をいう。
c)試験開腹とは原発腫瘍の摘出が困難なため何もしないで閉腹する手術をいう。
d)cytoreductive surgeryとは腫瘍減量のために腸管切除を伴う手術をいう。
e)second look operationとは初回手術の6か月後に行う再開腹手術をいう。

解答:b

a)基本術式: 両側付属器切除術・子宮摘出術・大網切除術

b)staging laparotomy: 進行期の確定に必要な手技を含む手術

c)exploratory laparotomy(試験開腹術): 原発腫瘍の摘出が困難で生検と最小限の進行期確認にとどめる手術

d)debulking (cytoreductive) surgery(腫瘍減量手術): 病巣の完全摘出または可及的に最大限の腫瘍減量に必要な手技を含む手術

e)second look operation (SLO): 初回手術後の臨床的寛解例に対する化学療法の効果判定を目的として行われる手術。その際発見された再発腫瘍を切除するものはSLO/SDSと表現。(SDS=secondary debulking surgery)

******

問題068 卵巣癌の治療で誤っているのはどれか。
a)Ⅰa期で組織学的分化度grade 1の症例では術後化学療法は省略できる。
b)進行癌におけるprimary cytoreductive surgeryの意義は確立されている。
c)進行癌の術後化学療法には標準治療としてTJ療法が行なわれる。
d)進行癌におけるsecond look operationは予後改善効果がある。
e)interval debulking surgeryがoptimalであれば予後改善が期待できる。

解答:d

d)SLOは治療後の病変の有無を最も正確に評価できる方法であるが、その治療的意義に関する科学的根拠に乏しく、現時点では臨床試験以外には適応されない。

******

問題069 卵巣癌の治療で誤っているのはどれか。
a)術前化学療法によりinterval debulking surgeryで腫瘍摘出率が向上する。
b)早期卵巣癌に対する維持(地固め)化学療法の有用性は示されていない。
c)腹腔内化学療法は抗がん剤静脈内投与にとって代わる標準療法ではない。
d)造血幹細胞移植併用の超大量化学療法で生存期間延長の報告がある。
e)化学療法後の再発例では放射線療法も選択肢の一つとなる。

解答:d

造血幹細胞移植を併用することで通常投与量の5~10倍まで増量が可能とする大量化学療法は、いずれも治療成績を向上できるとする報告はなく、推奨されない。

******

問題070 再発卵巣癌の治療で正しいのはどれか。
a)手術療法は適応とならない。
b)初回化学療法後6か月以内の再発は薬剤抵抗性の可能性が高い。
c)初回化学療法後6か月以降の再発には薬剤の変更が必要である。
d)シスプラチン耐性例にはカルボプラチンが第1選択となる。
e)化学療法では単剤よりも多剤併用療法が有効である。

解答:b

再発卵巣癌に対する化学療法の奏功期間は初回化学療法の奏功期間を超えることはなく、化学療法の限界も認識すべきである。一般的には再発までの期間が長いほど2次化学療法の奏功率は高い。一般的に初回化学療法後6か月以内の再発は初回化学療法に抵抗性ありと判断され、6か月以降の再発には抵抗性なしと判断されるため、初回と同じ抗癌剤が推奨される。


分娩取り扱う病院 激減

2007年11月10日 | 地域周産期医療

病院に勤務する産婦人科医師の数が予想以上のスピードで減少し続けているという現実がある以上、今後、分娩を取り扱う病院の数がさらに減少していくのは当然の帰結です。

絶滅の危機に瀕している近隣の病院間で、病院の生き残りを賭けて少ない医師を奪い合っていれば、共倒れの危険性が高くなっていくだけです。分娩を取り扱う病院の数を維持することにこだわっても、現場のスタッフがどんどん辞めてしまうような施設ばかりでは全く意味がありません。

現実を直視し、分娩を取り扱う病院の数を維持することよりも、まずは、『産婦人科医師数の減少をくい止めるためにはどうしたらいいのか?』を最優先に考えていく必要があります。

今は何よりもまず、現場で辞めずに必死に頑張っている産婦人科医、小児科医、麻酔科医などのトータルの数を維持することが最も重要だと思います。


第1回婦人科腫瘍専門医試験(2006年)、問題051~問題060

2007年11月10日 | 婦人科腫瘍

第1回婦人科腫瘍専門医試験(2006年)、問題と解答例

【問題051~問題060】

問題051 卵巣腫瘍の組織分類で正しい組合わせはどれか。
a)ブレンナー腫瘍 - 表層上皮性・間質性腫瘍
b)未分化胚細胞腫 - 表層上皮性・間質性腫瘍
c)漿液性嚢胞腺腫 - 性索間質性腫瘍
d)顆粒膜細胞腫 - 胚細胞腫瘍
e)莢膜細胞腫 - 胚細胞腫瘍

問題052 卵巣腫瘍組織分類で胚細胞腫瘍でないのはどれか。
a)卵黄嚢腫瘍
b)ステロイド細胞腫瘍
c)未熟奇形腫
d)卵巣甲状腺腫
e)カルチノイド

問題053 卵巣腫瘍の組織学的特徴で誤っているのはどれか。
a)顆粒膜細胞腫 - Call-Exner body
b)未分化胚細胞腫 - Schiller-Duval body
c)明細胞癌 - hobnail cell
d)Krukenberg腫瘍 - signet-ring cell
e)Brenner腫瘍 - coffee-bean nuclei

問題054 卵巣腫瘍で誤っているのはどれか。
a)漿液性腺癌はpsammoma bodyをしばしば伴う。
b)わが国では明細胞腺癌の発生頻度が欧米に比し高い。
c)移行上皮癌はブレンナー腫瘍成分を認めないものをいう。
d)良性胚細胞腫瘍の大部分は卵巣甲状腺腫である。
e)未熟奇形腫では未熟神経組織の量が予後と相関する。

問題055 卵巣腫瘍と腫瘍マーカーの組み合わせで誤っているのはどれか。
a)漿液性嚢胞腺癌 - CA125
b)粘液性嚢胞腺癌 - CA19-9
c)顆粒膜細胞腫 - エストロゲン
d)卵黄嚢腫瘍 - AFP
e)Krukenberg腫瘍 - SCC

問題056 卵巣腫瘍のMRI検査でT1強調像、T2強調像ともに低信号を呈するのはどれか。
a)漿液性嚢胞腺癌
b)粘液性嚢胞腺癌
c)線維腫
d)成熟嚢胞性奇形腫
e)子宮内膜症性嚢胞

問題057 卵巣がんで誤っているのはどれか(卵巣がん治療ガイドライン)
a)わが国における罹患数は毎年約6,000人である。
b)わが国では1995年には3,892人が死亡した。
c)Ⅰ期の5年生存率は90%を越える(1998~1994年、FIGO)。
d)Ⅱ期の5年生存率は約70%である(1998~1994年、FIGO)。
e)Ⅲ期の5年生存率は約50%である(1998~1994年、FIGO)。

問題058 卵巣癌で正しいのはどれか。
a)漿液性腺癌の多くは境界型悪性腫瘍を経て発生する。
b)粘液性腺癌では境界悪性腫瘍病変の合併は稀である。
c)類内膜腺癌の多くは内膜増殖症を経て発生する。
d)類内腺腺癌が子宮と卵巣にあれば原発巣は子宮である。
e)明細胞腺癌では子宮内膜症の合併が高頻度にみられる。

問題059 卵巣明細胞腺癌で正しいのはどれか。
a)20歳代の若年女性に好発する。
b)上皮性卵巣癌で最も頻度が高い。
c)進行期ではⅠ期癌が最も多い。
d)hobnail patternは予後不良である
e)プラチナ製剤が奏功する。

問題060 卵巣腫瘍と腹膜偽粘液腫で正しいのはどれか。
a)多量の血性腹水が貯留した状態である。
b)漿液性境界悪性腫瘍でしばしば認められる。
c)粘液性嚢胞腺癌に合併することはない。
d)手術では虫垂切除も行なう必要がある。
e)術後のTJ化学療法が奏功する。

―――――――――――――――――――――――――

解答例 (誤答の場合は御指摘ください)

問題051 卵巣腫瘍の組織分類で正しい組合わせはどれか。
a)ブレンナー腫瘍 - 表層上皮性・間質性腫瘍
b)未分化胚細胞腫 - 表層上皮性・間質性腫瘍
c)漿液性嚢胞腺腫 - 性索間質性腫瘍
d)顆粒膜細胞腫 - 胚細胞腫瘍
e)莢膜細胞腫 - 胚細胞腫瘍

解答:a

a)ブレンナー腫瘍: 表層上皮性・間質性腫瘍。特異な上皮構造(移行上皮型の充実巣)と間質の増殖を伴い、大部分が良性である。上皮細胞の核はしばしば縦溝を呈し、コーヒー豆様(coffee-bean nuclei)と表現。境界悪性腫瘍は増殖性ブレンナー腫瘍悪性腫瘍は悪性ブレンナー腫瘍と呼ばれる。

b)未分化胚細胞腫: 胚細胞腫瘍。原始生殖細胞に類似した比較的大型の細胞とそれを取り巻くような小形の円形細胞から構成される2相性の腫瘍、若年者に好発、両側性が多い。

c)漿液性嚢胞腺腫: 表層上皮性・間質性腫瘍。卵巣表層上皮が卵管上皮への分化を示す良性腫瘍。卵管と同様に線毛細胞が観察される。単房性の嚢胞性腫瘤であることが多く、内壁も卵管壁に似てしばしば乳頭状構造を呈する。

d)顆粒膜細胞腫: 性索間質性腫瘍。顆粒膜細胞に類似した細胞が主体の境界悪性型腫瘍。しばしばエストロゲンを産生する。

e)莢膜細胞腫: 性索間質性腫瘍。莢膜細胞に類似した細胞が主体の良性腫瘍。エストロゲンを産生する。

******

問題052 卵巣腫瘍組織分類で胚細胞腫瘍でないのはどれか。
a)卵黄嚢腫瘍
b)ステロイド細胞腫瘍
c)未熟奇形腫
d)卵巣甲状腺腫
e)カルチノイド

解答:b

b)性索間質性腫瘍。ステロイドホルモン産生腫瘍。ライディク細胞、黄体化細胞ないし副腎皮質細胞類似の細胞からなる腫瘍。ライディク細胞腫(良性)、間質性黄体腫(良性)、分類不能型(境界悪性)に分類。

******

問題053 卵巣腫瘍の組織学的特徴で誤っているのはどれか。
a)顆粒膜細胞腫 - Call-Exner body
b)未分化胚細胞腫 - Schiller-Duval body
c)明細胞癌 - hobnail cell
d)Krukenberg腫瘍 - signet-ring cell
e)Brenner腫瘍 - coffee-bean nuclei

解答:b

b)卵黄嚢腫瘍:特徴ある多彩な組織像を呈する腫瘍で、種々の組織像が混在し、移行もみられる。免疫組織化学的にAFPが証明される。主として次の4 組織像からなる。
 ①内胚葉洞型:最も高頻度で、網目状、Schilller-Duval body(腫瘍細胞が血管周囲に配列),hyaline globules(好酸性球状の硝子様小球)などがみられる。
 ②多嚢胞性卵黄型:卵黄嚢に類似した多数の嚢胞からなり、一層の扁平な中皮様細胞に被覆。
 ③類肝細胞型:未熟肝細胞あるいは肝細胞癌に類似する腫瘍細胞が索状に配列。
 ④腺型:立方形の腫瘍細胞が管状、胞巣状あるいは原腸状配列を示す。

******

問題054 卵巣腫瘍で誤っているのはどれか。
a)漿液性腺癌はpsammoma bodyをしばしば伴う。
b)わが国では明細胞腺癌の発生頻度が欧米に比し高い。
c)移行上皮癌はブレンナー腫瘍成分を認めないものをいう。
d)良性胚細胞腫瘍の大部分は卵巣甲状腺腫である。
e)未熟奇形腫では未熟神経組織の量が予後と相関する。

解答:d

c)悪性ブレンナー腫瘍と移行上皮癌との区別は、良性のブレンナー構造を混在すれば前者であり、無ければ後者とWHO/日産婦は分類している。

d)胚細胞性腫瘍の90%以上が成熟奇形腫である。

******

問題055 卵巣腫瘍と腫瘍マーカーの組み合わせで誤っているのはどれか。
a)漿液性嚢胞腺癌 - CA125
b)粘液性嚢胞腺癌 - CA19-9
c)顆粒膜細胞腫 - エストロゲン
d)卵黄嚢腫瘍 - AFP
e)Krukenberg腫瘍 - SCC

解答:e

******

問題056 卵巣腫瘍のMRI検査でT1強調像、T2強調像ともに低信号を呈するのはどれか。
a)漿液性嚢胞腺癌
b)粘液性嚢胞腺癌
c)線維腫
d)成熟嚢胞性奇形腫
e)子宮内膜症性嚢胞

解答:c

c)線維腫は、T1、T2 強調画像でいずれも均一な低信号を示す境界明瞭な腫瘤として認められ、信号強度は子宮筋腫に類似する。

******

問題057 卵巣がんで誤っているのはどれか(卵巣がん治療ガイドライン)
a)わが国における罹患数は毎年約6,000人である。
b)わが国では1995年には3,892人が死亡した。
c)Ⅰ期の5年生存率は90%を越える(1998~1994年、FIGO)。
d)Ⅱ期の5年生存率は約70%である(1998~1994年、FIGO)。
e)Ⅲ期の5年生存率は約50%である(1998~1994年、FIGO)。

解答:e

b)わが国の卵巣がん死亡数は、1995年には3,892人、1996年には4,006人、2005年には4467人と、明らかに近年死亡数が増加傾向にある。

c)Ⅰ期の5年生存率は92.55%である。

d)Ⅱ期の5年生存率は70.12%である。

e)Ⅲ期の5年生存率は37.45%である。

******

問題058 卵巣癌で正しいのはどれか。
a)漿液性腺癌の多くは境界型悪性腫瘍を経て発生する。
b)粘液性腺癌では境界悪性腫瘍病変の合併は稀である。
c)類内膜腺癌の多くは内膜増殖症を経て発生する。
d)類内腺腺癌が子宮と卵巣にあれば原発巣は子宮である。
e)明細胞腺癌では子宮内膜症の合併が高頻度にみられる。

解答:e

******

問題059 卵巣明細胞腺癌で正しいのはどれか。
a)20歳代の若年女性に好発する。
b)上皮性卵巣癌で最も頻度が高い。
c)進行期ではⅠ期癌が最も多い。
d)hobnail patternは予後不良である
e)プラチナ製剤が奏功する。

解答:c

b)卵巣癌の6~8%を占める。

c)約50%がFIGOⅠ期症例である。

e)化学療法が奏功せず、予後は漿液性腺癌に比較して不良である。

******

問題060 卵巣腫瘍と腹膜偽粘液腫で正しいのはどれか。
a)多量の血性腹水が貯留した状態である。
b)漿液性境界悪性腫瘍でしばしば認められる。
c)粘液性嚢胞腺癌に合併することはない。
d)手術では虫垂切除も行なう必要がある。
e)術後のTJ化学療法が奏功する。

解答:d

腹膜偽粘液腫の大多数は、卵巣原発ではなく、消化管とくに虫垂原発癌の腹膜播腫による。化学療法が無効で、治療法は頻回の腫瘍切除しかない。進行は遅いが治癒は難しい。


飯田下伊那医療圏の産婦人科医療 里帰り分娩と他地域在住者の分娩の受け入れを中止

2007年11月06日 | 飯田下伊那地域の産科問題

飯田下伊那医療圏の産婦人科医療にかかわっている産婦人科医師数は、最近まで計13人程度(市立病院:常勤5人非常勤3~4人、下伊那日赤:1人、西沢病院:1人、3診療所:計3人)でした。しかし、それが来年4月には計6~7人(市立病院:3~4人、3診療所:計3人)にまで減る見込みとなり、医療圏全体で担う産婦人科医療の業務量を縮小する方向で調整しています。

****** 南信州新聞、2007年11月6日

飯田市立病院 里帰り出産を中止 来年4月から 産科維持へ苦渋の選択

 飯田下伊那地域の産科医療について考える「第6回産科問題懇談会」(会長・牧野光朗南信州広域連合長)が4日飯田市役所で開かれ、飯田市立病院の産婦人科医が1人減る来年4月から、市立病院の里帰り出産と他地域在住者の出産を中止することを決めた。牧野連合長は「産科医療体制を守るためやむを得ない措置」とし、苦渋の選択に理解を求めた。

 飯伊地域は市立病院と椎名レディースクリニック、羽場医院が連携し、昨年度は約1600件のお産を扱った。ところが来年4月以降、市立病院の産婦人科医が現在の5人から4人に減員。もう1人減る可能性もあることから、出産制限に踏み切った。

 同じく昨年度中に4人いたパート医師も、現時点ではゼロとなっている。

 産婦人科医が増員するまでの間は、出産件数を1300程度に抑える。昨年度の里帰り出産と他地域在住者の出産約300件を差し引いたもので、「若干無理をすれば維持できる」(椎名一雄産婦人科医)という。

 今後、市立病院での出産を希望する場合は、連携する診療所で検診を受けた後、予約を取ることが必要になる。

 また、信州大学から派遣予定だった産婦人科医1人については、昭和伊南病院(駒ヶ根市)の産科休止に伴い、伊那中央病院(伊那市)に派遣された。増員を前提に協議していた、市立病院と下伊那赤十字病院(松川町)との連携は難しくなった。

 赤十字病院は来年3月で常勤の産婦人科医1人が退職。今後は非常勤の産婦人科医1人が木、金曜日の妊婦検診とがん検診に対応していくことになる。

 牧野連合長は厳しい現状を踏まえ、「改めて国や県に対して一層の支援を求める。地域の産婦人科医療を守るため最大限の取り組みをしていく」と強調した。

 懇談会には南信州広域連合をはじめ、下伊那郡町村会、飯田医師会、産婦人科医会など25人が参加した。

(南信州新聞、2007年11月6日) 


貴重な助産師パワーの活用

2007年11月05日 | 地域周産期医療

ある地域の産科医療が崩壊の危機に陥って、産婦人科医を緊急避難的に増員しなければならない事態に陥った場合には、地域ごとの産婦人科医数のバランスを考えて、産婦人科医数に多少とも余裕があるように見える地域の医師を引き揚げて、不足地域に人員を投入するような調整も当然行なわれます。

従って、各施設で産婦人科医数を増やそうといくら努力しても、結局は施設の産婦人科医数は不足した状態のままで一進一退を繰り返し、施設の産婦人科医数に余裕を作ることはなかなか難しい状況にあります。

地域の産科医療を存続させるためには、地域の助産師を総動員して多くの助産師に地域の産科医療に積極的にかかわっていただき、従来以上に助産師パワーを有効活用するように病院のシステムを変えていくことも重要だと思います。

****** 朝日新聞、長野、2007年11月3日

助産師に超音波診断の研修 県が来年

 医師不足で分娩(ぶんべん)を扱えなくなる病院が相次ぐなか、院内で働く助産師が主体的に産前産後のケアを受け持つ「助産師外来」の導入を促そうと、県が年明けに研修会を開く。柱になるのが、胎児の位置や大きさを把握する超音波診断装置(エコー)の取り扱い実習だ。助産師や医師からなる県「助産師支援検討会」が2日、松本市で開かれ、研修の骨格が固まった。(田中洋一)

 県医療政策課によれば、昨年の県内での分娩は約1万9千件。病院などの施設分娩が99%を占めるが、産科医の引き揚げや退職で、産婦人科の廃休止・縮小が相次いでいる。そこで県は、助産師が妊婦健診などをする助産師外来を開設し、産科医の負担を軽減できないかと考えた。先月行った助産師外来についての調査で、県内医療機関の2割が開設済みで、ほかの2割が開設を希望していることがわかった。

 助産師外来で求められるのが、まず超音波診断装置の取り扱い。従来は習わない助産師が多いので、研修で使えるように指導し、病院で実習を積んでもらう。対象は、助産師外来開設を検討中の医療機関の助産師ら約100人を見込み、来年1~2月に3日程度の研修会を開く方向で調整している。超音波診断のほかに、助産師外来を運営するノウハウや課題も学ぶことになる。

(以下略)

(朝日新聞、長野、2007年11月3日)