●卵巣がんの疫学
卵巣癌は日本で増加傾向にあり、1998年度中に4,173人の女性が卵巣がんで亡くなっています。日本で毎年新たに卵巣がんと診断される人は約6500人程度と推定されます。卵巣がんの約90%は,卵巣の表層を覆う細胞に由来する上皮性のがんです。日本人が卵巣がんにかかるリスクは欧米人に比べると半分以下ですが、この差は最近縮まっています。また、母親や姉妹が卵巣がんである場合は、卵巣がんにかかるリスクが3倍くらい高くなることも知られています。
●卵巣がんはどのように広がってゆくか?
卵巣がんの初期には自覚症状がないので、ほとんどの場合、転移した状態で初めて病院を訪れます。卵巣がんに最もよく起こる転移形式は腹膜播種(種を蒔くように癌細胞が腹膜を広がってゆく転移)です.腹膜播種が進むと腹水が貯まってきます。横隔膜から更に胸腔内に癌が拡がると胸水が貯まってきます。リンパ節転移は、まず、腹部大動脈の周りや骨盤内のリンパ節に転移し、次第に胸部や首のリンパ節にも拡がっていきます。
●卵巣がんの症状
初期の卵巣がんのほとんどは無症状です。なかには、婦人科検診で偶然発見される場合や、下腹部にしこりが触れるとか圧迫感があるなどの症状で婦人科を受診する場合も時にありますが、腹水のために腹部全体が大きくなるとか、胸水で息切れがするなど、癌の転移による症状で初めて異常を自覚する場合が多いのが卵巣がんの特徴です。
●卵巣がんの診断
いかにすれば卵巣がんを初期の段階で発見できるか?
何か効率の良い卵巣がんの検診方法はないか?
婦人科の診察(内診)で骨盤内の腫瘍が疑われる場合は、超音波検査、CT、MRI等の画像診断によって、子宮の腫瘍か卵巣の腫瘍か、腫瘍の内部構造、転移の有無などを詳しく調べます。検査によって、腫瘍の発生部位、良性か悪性かを推定することができます。血液中のCA125 という腫瘍マーカーを測定することは良性、悪性の判定に役立ちます。転移のある卵巣がんではほとんどの人がCA125陽性で、多くは非常に高い値になります。しかし、早期癌では陽性率は低く、また癌がなくても軽度陽性の人もいるので、CA125は卵巣がんの早期発見にはあまり役立ちません。
そこで、無症状の卵巣がんを早期発見する検診方法の研究(腫瘍マーカーでのスクリーニング、経膣超音波による検診など)が、世界中で多く試みられてますが、現在のところ有効な卵巣がんの検診方法は確立されていません。そのため、いまだに初期で発見される卵巣がんは非常にまれで、卵巣がんのほとんどのケースでは、かなり広がった状態で初めて診断されているのが現状です。
子宮筋腫などで開腹手術を行った際に、本人の希望で正常と思われる卵巣も同時に切除して、たまたま偶然に、摘出物の病理検査で卵巣の表層に微小な卵巣がんが発見されることがあります。そのような初期の卵巣がんと考えられるような場合であっても、すでに腹膜播種や少量の癌性腹水が認められることが少なくありません。また、不妊治療などで毎日のように産婦人科で超音波検査による卵巣の観察を実施している患者さんにたまたま卵巣がんが発生したようなケースでも、診断時にはすでに進行した卵巣がんとなっていて腹腔内に広く播種病巣が認められる場合が多いです。従って、『卵巣がんの多くは、卵巣の表面の腹膜を含めた骨盤腹膜の広い領域で同時多発的に発生する』と私は考えています(私見)。
●卵巣がんの治療
治療方法には手術療法、放射線療法、化学療法があります。
卵巣癌の手術方法は、転移の状態(病期)、年齢などによって異なりますが、標準的な手術方法では,両側の卵巣、卵管、子宮を含めて切除し、さらに大網切除(+後腹膜リンパ節郭清)などが行われます.また,腹腔内の転移巣をできる限り切除します。ただし、挙児希望のある若年婦人で癌が片側の卵巣だけに限局し、組織学的にも悪性度が低い場合(分化型腺癌など)は、片側の卵巣および卵管のみ切除して、子宮および健側の卵巣を温存する場合もあります。
卵巣がんでは手術後の残存腫瘍に対して、以前はよく放射線治療が行われましたが、最近では化学療法の方が主に行われています。
抗癌剤を使う治療を化学療法といいます。化学療法は、手術で取りきれなかった癌に対する治療として使われます。卵巣がんは抗癌剤が比較的よく効きます。抗癌剤は、内服されるか、静脈注射、あるいは直接腹腔内に注入されることがあります。抗癌剤を繰り返し使うことによって癌細胞が完全に消滅することもありますから、効果がある限り、ある程度副作用が起こるまで使用します。卵巣がんによく使われる抗癌剤の副作用として、血液中の白血球と血小板の減少、貧血、吐き気や嘔吐、食欲の低下、脱毛、手足のしびれなどがおこります。
初回手術で切除できずに残った癌が化学療法によって縮小し切除可能となった場合には再手術(セカンドルック手術)が行われます。
化学療法と組み合わせて徹底的に実施される手術療法と、卵巣がんに有効な抗癌剤の開発とその副作用対策の進歩などによって、卵巣がんの治療成績は近年飛躍的に向上しつつあります。
上皮性卵巣がんの初回化学療法の標準レジメンは、現在、パクリタクセルとプラチナ製剤の組み合わせとされています。以前と比べると完全寛解率や生存率はかなり改善されてきましたが、卵巣がんの長期生存率は依然として不良であり、5年生存率が約30%、10年生存率が約10%であり、治療成績は現在でも決して良好とは言えません。
現在の医療水準に見合った分娩の安全性を社会が求めるのであれば、その社会要請に応じて、医療圏ごとに地域の周産期医療システムを構築し、大勢の専門医達がチームを組んで一致協力して24時間体制で母児の急変に対応してゆく必要があります。しかし、産科医、新生児科医、麻酔科医などの専門医の数は全国的に全く足りていないという現状があり、今後、広域医療圏ごとに、産科医、新生児科医、麻酔科医などの専門医をセンター病院に集約化してゆかざるを得ない時代の流れであると考えられます。
私自身は、現在勤務している職場が今後もこの世の中に存続してゆけるように退職までにあとひと頑張りしてみようかと今は一応考えています。しかし、私もいつ健康を害して働けなくなってしまうかわかりませんし、職場と心中する気など毛頭ありませんから、もしも地理的条件などから他の医療施設に専門医を集約して、より広域の医療圏をカバーする周産期センターを構築するというような時代の流れとなってくれば、その新しい時流に素直に従って、他の専門医達と全面的に協力してゆく道を選びたいと考えています。今の職場の存続には全くこだわりません。産科医療自体の存続の方がはるかに重要な問題だと思います。