ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

コンセンサス2010に基づく新生児蘇生法

2011年02月27日 | 周産期医学

Neonatal Cardio-Pulmonary Resuscitation

日本版救急蘇生ガイドライン2010に基づく新生児蘇生法テキスト改訂第2版、監修:田村正徳、2011年1月刊行

2010 新生児の蘇生法アルゴリズム図

Consensus2010

● はじめに

新生児の約10%は、出生時に呼吸を開始するために何らかの助け(呼吸刺激や吸引など)を必要とする。さらに、新生児の約1%は、救命のために本格的な蘇生手段(人工呼吸、胸骨圧迫、薬物治療、気管挿管など)を必要とし、適切な処置を受けなければ、死亡するか、重篤な障害を残す。

すべてのハイリスク児の出生予知は不可能であり、またまったく順調な妊娠を経過した場合でも、子宮外生活への適応障害が突然出現することもまれではない。

新生児仮死は、バッグとマスクを用いた人工呼吸だけで90%以上が蘇生できる。さらに胸骨圧迫と気管挿管まで加えれば99%蘇生できる。

現在、ほとんどの分娩が医療機関内で行われ(日本では99.8%)、分娩に関与するスタッフは非常に限られているので、新生児を取り扱うすべての医療従事者(小児科医、産科医、助産師、NICU看護師など)が新生児蘇生法に習熟すれば、その意義は非常に大きい。

わが国では、日本周産期・新生児医学会を実施主体として、新生児蘇生法普及事業が展開されている。新生児蘇生法の講習会として、「一次」コース(B コース)、「専門」コース(A コース)、「専門」コースインストラクター養成講習会(I コース)が開催され、コース修了者を学会が認定している。修了認定者が活動する領域に応じて、適切なコースを選択することが望ましい。

「すべての周産期医療関係者が標準的な新生児救急蘇生法を体得して、すべての分娩に新生児の蘇生を開始することのできる要員が専任で立ち会うことができる体制を実現する」ことが新生児蘇生法普及事業の最終目標である。

● 一次性無呼吸と二次性無呼吸

Photo

一次性無呼吸の状態ではチアノーゼは著明であるものの、心拍数、血圧はむしろ上昇気味であり、この段階であれば呼吸刺激や吸引で容易に自発呼吸は再開する。

あえぎ呼吸は一次性無呼吸の後に数分で出現するが、あえぎ呼吸では十分な換気はできず、心拍数、血圧は徐々に低下していく。

二次性無呼吸では血圧、心拍数とも低下しており、この段階では気道開通や呼吸刺激、酸素投与のみでは児は回復せず、人工呼吸を含めた積極的な蘇生が必要である。

一次性無呼吸は刺激で回復が可能であるが、二次性無呼吸では高度のアシドーシスに陥っており、呼吸回復は起こらず、人工呼吸を必要とする。

****** ステップ1 

出生直後の児の状態の評価

以下の3項目を評価し、すべて問題なければルーチンケアを行い、もし異常があれば蘇生の初期処置を開始する。

出生直後のチェックポイント:
1. 正期産児か?
2. 呼吸や啼泣は良好か?
3. 筋緊張は良好か?

Muscletone

※コンセンサス2005では、さらに「羊水の胎便混濁の有無」をチェックして、羊水の胎便混濁があり、児に活気がなければ、口腔内吸引に加えて気管内吸引をすることになっていたが、コンセンサス2010では、出生時に蘇生処置が必要かどうかを評価するための評価項目から「羊水の胎便混濁の有無」は除外された。

****** ステップ2

ルーチンケア

Ncpr1

出生時に特に問題のない児のルーチンケアとしては、低体温防止に努めながら、気道を開通する体位をとらせ、皮膚の羊水を拭き取ってから、皮膚色を評価する。

鼻や口の分泌物はガーゼやタオルでぬぐえばよく、必ずしも吸引は必要ない。(乱暴に咽頭を吸引すると、喉頭痙攣や迷走神経反射による除脈、自発呼吸調節開始の遅延をもたらすことがある。)

ルーチンケアのために母と児を分離すべきではなく、羊水をぬぐって皮膚を乾かした新生児を、母親の胸部に肌と肌が触れ合うように抱いてバスタオルなどで覆う方法には保温効果があり、また早期の母子接触は愛着形成にも有用であるが、スタッフによる注意深い観察が必要である。

ルーチンケア
 ・ 保温に配慮する
 ・ 気道を確保する体位をとらせる
 ・ 皮膚の羊水を拭き取る
以上の処置を行ってから、皮膚色を評価する

※ コンセンサス2010では、児のケアを母親のそばで行うということがはっきりと明記された。カンガルーケアも含めた母子関係への配慮が求められる。

****** ステップ3

蘇生の初期処置

Ncpr2

出生直後のチェックポイントの3項目(正期産児、呼吸または啼泣、筋緊張)のうち、いずれかの項目に異常があれば蘇生の初期処置を開始する。

新生児心肺蘇生法の初期処置
 1. 保温し、皮膚の羊水を拭き取る
 2. 気道確保を行う
 (気道確保の体位と、胎便除去を含む必要に応じての吸引)
 3. 優しく刺激する
 4. 再度気道確保の体位をとる

※ 胎便による羊水混濁があって、児に活気が無い場合に、MAS防止策としての出生後の気管内吸引はルーチン処置から外されたが、児の状態やスタッフの熟練度によっては実施してもよい。

****

1) 蘇生中の保温

① 蘇生処置はラジアントウォーマ上で行う。新生児の身体を乾いたタオルでよく拭く

② 在胎28週未満で出生した新生児は、出生直後にポリエチレンのラップか袋で完全に首から下を包む。在胎28週未満の新生児では、分娩室の温度は最低でも26℃にする。

28w

※ 出生直後にポリエチレンのラップか袋を用いる場合に、皮膚の乾燥を行うべきか否かに関するエビデンスはない。

2)気道開通(体位と必要に応じての吸引)

①仮死の徴候のある新生児は、直ちに仰臥位でsniffing position(においをかぐ体位)をとらせることで、気道確保を図る。肩枕(肩の下に巻いたハンドタオルやおむつを敷く)を入れると気道確保の体位がとりやすい。

Sniffing
            sniffing position

②この体位で呼吸が弱々しい場合や、呼吸努力があるにもかかわらず十分な換気が得られない場合は、気道の閉塞が考えられるので吸引を行う。吸引が必要な場合には、ゴム球式吸引器または吸引カテーテルまず口腔を吸引し、次いで鼻腔を吸引する。

Kyuin

吸引カテーテルのサイズは、羊水の胎便混濁があった場合は太めの吸引カテーテル(12または14Fr)、羊水が清明な場合は正期産児で10Fr、低出生体重児では児の大きさに応じて8Frまたは6Frの吸引カテーテルを用いる。

出生後数分間に後咽頭を刺激すると、徐脈や無呼吸の原因となる迷走神経反応を引き起こすことがあるので、心拍モニターがされてない場合は、カテーテルを咽頭まで深く挿入したり、長い時間の吸引操作は避ける。

吸引操作は口腔内と鼻腔内を5秒程度にとどめ、激しくあるいは深く吸引しないように注意する。また、吸引に用いる陰圧は100mmHgを超えないようにする。

分泌物が少なく呼吸に問題がなければ、ルーチンに吸引する必要はない。

必要ならば気管挿管し吸引することを考慮してもよいが、活気が無い場合でもルーチンに気管内吸引をする必要はない。

羊水混濁の有無にかかわらず、児の口咽頭および鼻咽頭を分娩中にルーチンに吸引することは推奨しない。

3)皮膚乾燥と皮膚刺激

① 乾いたタオルで皮膚を拭くことは、低体温防止だけでなく、呼吸誘発のための刺激ともなる。児の背部、体幹、あるいは四肢を優しくこする。

② これで自発呼吸が開始されなければ、児の足底を平手で2~3回叩いたり指先で弾いたりする。背部をこすってもよい。

そして再度、気道確保の体位をとる。

児の出生後30秒を目安にここまでの処置を行い、その後児の状態を評価する。

※それでもなお十分な呼吸運動がなければ人工呼吸が必要である。自発呼吸を誘発させるための皮膚刺激に時間をかけすぎない。

****** ステップ4

蘇生の初期処置の効果の評価と次の処置
(パルスオキシメータ、酸素投与、人工呼吸)

Ncpr3  

1) 呼吸と心拍数のチェック

蘇生の初期処置(1)保温、(2)気道確保、(3)皮膚乾燥と皮膚刺激を行った後、その効果を判定するために、呼吸心拍数をチェックする。蘇生や呼吸補助が必要な場合はパルスオキシメータ(経皮酸素飽和度SpO2モニター)を右手に装着する。

※ 肉眼的な皮膚色は評価項目から外された。

呼吸と心拍数をチェックし、自発呼吸なし(無呼吸、あえぎ呼吸)あるいは心拍100/分未満の場合は、直ちにバッグ・マスクを用いた人工呼吸開を開始し、パルスオキシメータを右手に装着する。30秒後に再評価する。

※ 心拍60/分未満でも胸骨圧迫から始まらない事に注意!

あえぎ呼吸は換気効果がほとんどないので、無呼吸と同じに解釈する。

心拍数の評価方法は、胸部聴診(聴診器で直接胸部の聴診を行って確認する)を第一選択とする。更にはパルスオキシメータでの心拍数の測定の方が正確である。

聴診する場合は、1分間脈拍数=6秒間の脈拍数 x 10倍

※ コンセンサス2005で第一選択とされていた臍帯動脈の拍動触知は、他の部位の触診よりは優れているが、心拍数を過小評価する可能性が高い。

2) パルスオキシメータの装着

酸素化の評価はパルスオキシメータの使用が強く推奨された。

Spo2
   パルスオキシメータ(SpO2モニター)

蘇生や呼吸補助が必要な場合は、パルスオキシメータの新生児用プローブを動脈管の影響を受けない右手に装着する。

※ SpO2が不明の時は皮膚色で酸素化を評価するが、信頼性は低い。

3) 高濃度酸素投与の問題点

人工呼吸で蘇生を受ける児では、100%酸素は空気と比べ短期的予後に対し何ら利点はなく、第一啼泣までの時間を延長させる。

人工呼吸時に過剰酸素投与を回避するために必要なもの
・ パルスオキシメータ(必須)
・ ブレンダー(推奨)

Blender

4) 空気を用いたCPAPかフリーフローの酸素投与

初期蘇生の後に、自発呼吸があり、かつ心拍数が100/分以上の場合には、次に、努力呼吸と中心性チアノーゼの確認を行う。

努力呼吸(陥没呼吸、呻吟、多呼吸)
・陥没呼吸: 吸気時に剣状突起部・胸骨下や胸骨上、肋骨間が陥没する呼吸。
・呻吟: 呼気時にウーウーと唸るような声を伴って呼吸する状態。
・多呼吸: 一般的に新生児の呼吸数は40/分前後のことが多い。これが60~100/分のときは多呼吸と考える。

中心性チアノーゼは、口唇、舌、躯幹の色から判断するが、中等度以下は見落としやすい。(末梢性チアノーゼは正常でも数時間続くことがあり、特に処置は必要としない。)

両者共に認めなければ経過観察として蘇生後のケアを行う。

心拍数が100/分以上で自発呼吸がしっかりしているが、努力呼吸かつ中心性チアノーゼを認めた場合は、パルスオキシメータを右手に装着し、まずは空気を用いた持続的気道陽圧(CPAP)を行う。

※ CPAP: continuous positive airway pressure

Maskcpap

Mask CPAP
圧マノメーターを見ながらCPAP圧を調節する。
5~6cmH2Oを目標(8cmH2Oをこえない)

空気によるCPAP管理がどうしても適応できない状況では、フリーフローの酸素投与を検討する。フリーフローの酸素投与も基本的には100%酸素は避け、酸素ブレンダー(酸素濃度調節器)を用いおおむね30%から60%程度の酸素濃度を目安に開始することが望ましい。

これらの処置を行った30秒後の評価によって、すべてが解消されれば蘇生後のケアへ、まだ努力呼吸と中心性チアノーゼが残っていれば人工呼吸を開始する。

努力呼吸のみ続く場合は原因検索とCPAPを検討する。中心性チアノーゼのみ続く場合はチアノーゼ性心疾患を鑑別する。

Ncpr8

5) 人工呼吸

① 目標とするSpO2

出生時、陽圧人工呼吸で蘇生を受ける正期産児に対して、蘇生は100%酸素ではなく、空気を使用して開始する。

効果的な人工呼吸にもかかわらず心拍数の増加が得られない場合やパルスオキシメータで示される酸素化の改善が不良な場合は、酸素の使用を考慮すべきである。しかし心拍数が100/分以上でかつ酸素飽和度が上昇傾向であれば、緊急に酸素を投与する必要はない。

目標とするSpO2値:1分60%以上3分70%以上5分80%以上10分90%以上で、いずれも上限は95%とする。

酸素投与を開始した場合は、SpO2が下限値以上で上昇傾向にあれば、SpO2が95%に達しなくても、酸素投与をいったん中断してSpO2モニターで経過観察してもよい。

正期産児で心拍数が増加傾向でも100/分以上とならない場合や、パルスオキシメーターで示される酸素化が改善傾向でも目標値に達しない場合は、ブレンダーなどを用いた酸素と空気の混合ガスを使用する。その場合は、酸素濃度は30~40%で開始する。

酸素を使用した状況でSpO2値が95%以上あれば必ず酸素濃度を減量する。

人工呼吸開始後30秒の時点でも除脈(心拍数が60/分未満)が認められる場合や、酸素化の改善が受容できない場合は、高濃度酸素投与を行い心拍数が正常化するまでこれを続ける。

ブレンダー装置が利用できない場合は、リザーバーを装着しない自己膨張式バッグに酸素チューブを接続して人工呼吸を施行する。リザーバーがなければ、吸入酸素濃度は40%未満となる。それで目標SpO2値に達しない場合は、リザーバーを装着する。

② 人工呼吸の適応

蘇生の初期処置の後で、自発呼吸なし(無呼吸、あえぎ呼吸)あるいは心拍100/分未満の除脈の場合、もしくは、酸素投与やCPAP実施によっても努力呼吸と中心性チアノーゼが続く場合には、人工呼吸の適応となる。

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※ 心拍60/分未満でも胸骨圧迫から始まらない事に注意!

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※ 90%の仮死児はバッグ・マスクを用いた人工呼吸までの蘇生処置で回復するので、確実にバッグ・マスクを用いた人工呼吸を施行できる訓練をしておく。

③ 自己膨張式バッグ(self inflating bag)

過剰加圧防止弁がついており、一定の圧以上の高圧がかからないようになっている。また、特殊な閉鎖式の酸素リザーバーをつけない限り、90%~100%の高濃度酸素やフリーフローの酸素は供給できない。

リザーバー無しの自己膨張式バッグでは、吸入酸素濃度は最大でも40%である。

40%以上の吸入酸素濃度必要時は自己膨張式バッグにリザーバーをつける。

④ 流量膨張式バッグ(flow inflating bag)

フリーフロー酸素の投与が可能である。

熟練者では、児の肺の硬さを、バッグを押す手に感じることができる。

必ず圧マノメーターに接続し、換気圧をチェックする必要がある。

流量膨張式バッグに流す酸素の流量は、新生児では5~10L/分くらいが適量である。

バッグの事前チェック: マスクを手で覆ってバッグを圧迫して、バッグが適切に膨張するか、圧が十分に上がるか、リークがないか、圧マノメーターは機能しているかをチェックする。

⑤ Tピース蘇生装置の使用

Tピース蘇生器(T piece resuscitator)は、酸素源に接続して、あらかじめ設定された最大吸気圧(PIP)と呼気終末陽圧(PEEP)をかけることができる。圧の調節が容易かつ安全である。吸気時間も指で押す時間で自由に設定できる。

最大吸気圧(peak inspiratory pressure: PIP
呼気終末陽圧(positive end expiratory pressure: PEEP

Tpiece

⑥ マスク

丸型と鼻合わせ型の2種類がある。マスクは児の鼻と口を覆うが眼にはかからないサイズを選択する。クッション付顔マスクを用いると、顔に密着しやすくてマスク周囲からのリークが少ない。

親指と人差し指でCの字をつくり、マスクを顔に密着させ、中指で下顎を軽く持ち上げる(ICクランプ法)。

Mask
           ICクランプ法

ICクランプ法の要点:
・ マスクは眼より下、顎より上できっちり鼻と口をカバーできるものを使用する。
・ 眼にかかると眼損傷を、顎より外に出てしまうとガス漏れを起こす。
・ 親指と人差し指を用いた”C”ではマスクを顔面に密着させることに注意する。
・ 肩枕を入れるとマスクを”C”で顔面に密着させるだけでもバッグ・マスク換気が容易となる。
・ 新生児では中指のみで下顎を引き上げる。下顎の骨の部分に中指をかけ、決して喉頭の軟らかい部分を圧迫しないようにする。

⑦ バッグ・マスクの実施法

片手で児の下顎とマスクを固定し、他方の手でバッグを加圧する。

通常、肩枕を使用して、頸部を伸展、頭部を後屈、下顎を拳上させる体位をとる。

出生直後の空気呼吸開始時には20~30cmH2Oあるいはそれ以上の高い圧と長めの吸気時間が必要とされることもある。しかし、効果的な換気かどうかは、圧を指標とするよりも児の胸部の動きの方が信頼できる。

人工呼吸の回数は40~60回/分(胸骨圧迫を併用する場合は30回/分)が必要である。

・ 経口胃内カテーテルの挿入
 バッグ・マスクを長時間使用する時は、6~10Frのカテーテルを胃内に経口的に挿入留置し、胃内容を十分吸引したのちカテーテルの先端を開放にしたまま人工呼吸を行うと胃膨張が防止できる。
 胃内に留置するカテーテルの長さの測定法: 鼻の付け根-外耳孔-剣状突起と臍の中間

・ バッグ・マスクができないとき
 
分娩が設備のないところで行われた場合(車中や一般家庭など)、緊急避難的に人工呼吸は呼気吹込み口対口鼻人工呼吸法を行う。すなわち、頭部後屈あご先挙上法で気道を確保し、術者の口で児の口と鼻を覆い、胸の動きを観察しながら術者の呼気を1~1.5秒かけて吹き込む。しかし感染のリスクがあるため、極力避けるようにする。

⑧ バッグ・マスクが無効なとき

・ バッグ・マスクのチェックポイント

約30秒間バッグ・マスクを用いた人工呼吸を行っても、自発呼吸が十分でなく、かつ心拍数が100/分未満であれば気管挿管を検討する。

しかし、90%の仮死児はバッグ・マスクを用いた人工呼吸までの蘇生処置で回復するので、あわてて気管挿管する前に、バッグ・マスクで人工呼吸の効果があがらない原因をチェックする。

バッグ・マスクで効果的な人工呼吸ができない原因
 マスクが顔に密着していない
 気道が閉塞している
 バッグを押す圧が低い
 バッグが破れている
 流量調節弁が開放している
 酸素や空気の流量が少ない
 酸素濃度が低い

・ バッグ・マスクが無効で、気管挿管が不成功または実行不可能なとき

 出生体重2000g以上、在胎34週以上の新生児においては、熟練者であれば、ラリンゲアルマスクエアウェイ(LMA)を使用する。

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****** ステップ5

人工呼吸の効果の評価と次の処置(胸骨圧迫)


妊婦エコーの取り扱いについて

2011年02月24日 | 周産期医学

超音波診断装置の性能は年々向上し、最近では以前とは比べ物にならないほど胎児の詳細な情報がわかるようになってきました。日本における妊婦健診では、一般に超音波検査が広く行われてます。

例えば、妊娠初期では、子宮内妊娠か、子宮外妊娠か?ということがまず問題となります。

その後の妊婦健診でも、妊娠週数によって毎回調べるポイントがあり、流産しそうかどうか? 胎児発育は順調か? 胎盤の位置は正常か? 羊水量は適正か? 心臓の先天奇形はあるか? など超音波検査を行うのが半ば当たり前になってきつつあります。

また、妊婦さんが腹痛や性器出血などの症状を訴えて来院した場合も、まず超音波検査を行って、胎児は元気か? 常位胎盤早期剥離ではないか? 子宮頸管長は短縮してないか? など超音波所見の異常の有無を検討します。

超音波検査装置がなかった頃は、熟練した産科医でも、胎児が生きているのか死んでいるのか?、単胎か双胎か?、奇形があるのかないのか?、前置胎盤があるのかないのか?、などの子宮内の情報は産まれるまでほとんど何もわかりませんでした。時代が大きく変化し、簡単に子宮内の胎児情報がわかる時代になってきました。さらに今後も超音波診断装置は改良されていくことでしょうし、得られる胎児情報は今後ますます多くなっていくことが予想されます。

胎児の病気の有無を調べる目的でなくても、妊婦さんの超音波検査を行うと、偶然、胎児の重大な病気が見つかってしまうこともあります。妊婦さんにその事実をどのように伝えるべきなのか?は非常に大きな問題です。

****** 共同通信、2011年2月23日

妊婦エコーは遺伝学的検査 学会、慎重な扱い求め指針案

 日本産科婦人科学会は23日までに、胎児が順調に育っているかを調べる妊婦の超音波検査(エコー)は、出生前に胎児の病気や異常を把握する「遺伝学的検査」になりうるとして、検査結果の慎重な取り扱いを求める倫理指針改定案をまとめた。4月の総会で正式決定する。

 超音波検査では胎児が入っている胎のうや心拍の様子などをみるが、奇形などが偶然見つかって染色体異常が疑われる場合があり、遺伝学的検査にもなるとしている。

 改定案では、偶然異常が見つかった場合、妊婦や家族に、検査結果をどう解釈すべきかや、どのような対応が選択できるのかなどを十分に伝える必要があるとした。初めから病気の有無を調べる目的の場合には、事前のカウンセリングを十分にするよう求めた。

 近年、妊娠中にダウン症などの病気を見つけるため、胎児の首の後ろのむくみ「後頸部浮腫(NT)」の厚みを超音波検査で測定する方法が注目されているが、病気と判定するための信頼できるデータはないとして積極的な位置付けはしなかった。

 また学会は、妊婦から採血し胎児の染色体異常の可能性を調べる「母体血清マーカー検査」に消極的な姿勢だったが、改定案では「妊婦や社会の認識やカウンセリング体制整備が進んだ」として、検査について適切に情報を提供すべきだとの方針に転じた。

(共同通信、2011年2月23日)

母体血清マーカー検査: 
羊水検査や胎児血検査などとともに「出生前診断」の1つ。妊婦の血液中にあるタンパク質やホルモンの量を測定、胎児がダウン症や18トリソミー、神経管欠損症である確率を算出する。流産の危険が伴う羊水検査などと比べ、採血だけで妊婦の負担は軽いが、確率しか示さず確定診断はできない。旧厚生省の専門委員会は、1999年6月、「医師が妊婦に本検査の情報を積極的に知らせる必要はなく、検査を勧めるべきでもない」との見解を公表した。


インフルエンザ、妊婦に対する対応

2011年02月20日 | 周産期医学

インフルエンザ(流行性感冒)とは?

インフルエンザウイルスによる急性感染症で、発病すると、高熱、筋肉痛などを伴う風邪のような症状があらわれ、急性脳症や二次感染により死亡することもある。

インフルエンザウイルスとは?

インフルエンザの病原体(RNAウイルス)。本来はカモなどの水鳥を自然宿主として、その腸内に感染する弱毒性のウイルスであったものが、突然変異によってヒトの呼吸器への感染性を獲得したと考えられている。

インフルエンザAウイルス、インフルエンザBウイルスは、患者の気道分泌物から飛沫感染により伝搬する。B型は宿主域が狭いために世界的大流行(パンデミック)が発生しないが、A型はヒト、鳥類、ウマ、ブタなどに感染し、時に種を超えて感染し、パンデミックをきたすことが懸念されている。

インフルエンザ・パンデミック(世界的大流行)の歴史:

・1918~19年: スペインかぜ、H1N1亜型のA型インフルエンザ、感染者6億人、死者4000~5000万人。

・1957年: アジアかぜ、H2N2亜型のA型インフルエンザ、死者100万人以上。

・1968~69年: 香港かぜ、H3N2亜型のA型インフルエンザ、死者50万人以上。

・1977~78年: ソ連かぜ、H1N1亜型のA型インフルエンザ、パンデミックと言われることもあるが、主に青年のみに感染したため厳密にはパンデミックではなく、エピデミック(局地流行)である。

・2009~10年: 2009年新型インフルエンザ、H1N1亜型のA型インフルエンザ、死者約10万人程度。本インフルエンザに対するワクチンはすでに完成しており、2010年後半から接種可能なインフルエンザワクチンは、通常の季節性インフルエンザワクチン2種に加えて新型インフルエンザワクチンにも対応した3価ワクチンとなっているものがほとんどである。

・今後も新型インフルエンザウイルスが出現することが予測されており、世界的規模で警戒し続けられている。

症状:
・ 気道感染症状、発熱、頭痛、筋肉痛、全身倦怠感など。

・ 健康人に感染して合併症がない場合は、対症的対応で感染により1週間以内で軽快することが多い。

・ 65歳以上の高齢者、妊娠28週以降の妊婦、慢性肺疾患(肺気腫、気管支喘息、肺線維症、肺結核など)、心疾患(僧帽弁膜症・鬱血性心不全など)、腎疾患(慢性賢不全・血液透析患者・腎移植患者など)、代謝異常(糖尿病・アジソン病など)、免疫不全状態の患者などの場合には、ハイリスクとしての対応が必要である。

診断:
・ 迅速診断キット: 鼻の奥の咽頭に近い部分を採取すると検出率が高い。15~20分で結果が分かる。A型とB型の鑑別も可能である。

オセルタミビル(商品名:タミフル)は発症後48時間以内でないと効果が期待できないため、迅速診断キットは非常に重要な検査方法となっているが、発症直後ではウイルス量が少ないため陽性と判定されないことがある。検査で陰性と判定されても症状などから医師の判断で抗ウイルス薬を処方する場合もある。

インフルエンザウイルスの胎児への直接的影響:

妊婦が妊娠初期にインフルエンザに罹患した場合、直接的な胎児への催奇形性はないと考えられる。

妊婦に対する治療:

妊婦は心肺機能や免疫機能に変化を起こすため、インフルエンザに罹患すると重篤な合併症を起こしやすい。

米国疾病予防管理センター(CDC)ガイドラインでは、インフルエンザ流行期間に妊娠予定の女性へのインフルエンザワクチン接種を推奨している。妊娠全期間においてワクチン接種希望の妊婦には接種可能としている。これまでのところ、妊婦にインフルエンザワクチンを接種した場合に生じる特別な副反応の報告はなく、胎児に異常の出る確率が高くなったとするデータもない。

妊婦がインフルエンザに罹患した場合、一般的な対症療法のほか、抗インフルエンザ薬(ザナミビル:リレンザ、オセルタミビル:タミフル)が有効であり、児への有害事象もないとされる。

****** 日本産科婦人科学会、お知らせ

妊娠している婦人もしくは授乳中の婦人に対してのインフルエンザに対する対応Q&A

平成22年12月22日
社団法人 日本産科婦人科学会

分娩前後に母親が感染した場合の対応については昨シーズンと大きく異なっていますのでご注意下さい

Q1: 妊婦は非妊婦に比して、インフルエンザに罹患した場合、重症化しやすいのでしょうか?

A1: 妊婦は重症化しやすいことが知られています。幸い、昨シーズンの新型インフルエンザでは本邦妊婦死亡者はありませんでしたが、諸外国では妊婦死亡が多数例報告されています。昨シーズン、新型インフルエンザのため入院を要した妊婦では早産率が高かったことが報告されています。また、タミフル等の抗インフルエンザ薬服用が遅れた妊婦(発症後48時間以降の服用開始)では重症化率が高かったことも報告されています。

Q2: 妊婦へのインフルエンザワクチン投与の際、どのような点に注意したらいいでしょうか?

A2: 妊婦へのインフルエンザワクチンに関しては安全性と有効性が証明されています。昨シーズンの新型インフルエンザワクチンに関しても、妊婦における重篤な副作用報告はありませんでした。チメロサール等の保存剤が含まれていても安全性に問題はないことが証明されています。
 インフルエンザワクチンでは重篤なアナフィラキシーショックが100万人当たり2~3人に起こることが報告されており、卵アレルギーのある方(鶏卵、鶏卵が原材料に含まれている食品類をアレルギーのために日常的に避けている方)ではその危険が高い可能性があります。したがって、卵アレルギーのある妊婦(鶏卵、鶏卵が原材料に含まれている食品類をアレルギーのために日常的に避けている方)にはワクチン接種を勧めず、以下が推奨されます。
1) 発症(発熱)したら、ただちに抗インフルエンザ薬(タミフル)を服用(1日2錠を5日間)するよう指導します。
2) 罹患者と濃厚接触した場合には、ただちに抗インフルエンザ薬(タミフル、あるいはリレンザ)を予防的服用(10日間)するよう指導します。

Q3: インフルエンザ様症状が出現した場合の対応については?

A3: 発熱があり、周囲の状況からインフルエンザが疑われる場合には、「できるだけ早い(可能であれば、症状出現後48時間以内)タミフル服用開始が重症化防止に有効である」ことを伝えます。妊婦から妊婦への感染防止という観点から「接触が避けられる環境」下での診療をお勧めします。妊婦には事前の電話やマスク着用での受診を勧めます。一般病院への受診でもかまいませんが、原則としてかかりつけ産婦人科医が対応します。
 インフルエンザ感染が確認されたら、ただちにタミフル投与を考慮します。妊婦には、「発症後48時間以内のタミフル服用開始(確認検査結果を待たず)が重症化防止に重要」と伝えます。

Q4: 妊婦がインフルエンザ患者と濃厚接触した場合の対応はどうしたらいいでしょうか?

A4:抗インフルエンザ薬(タミフル、あるいはリレンザ)の予防的投与(10日間)を行います。予防投与は感染危険を減少させますが、完全に予防するとはかぎりません。また、予防される期間は服用している期間に限られます。予防的服用をしている妊婦であっても発熱があった場合には受診するよう勧めます。

Q5: 抗インフルエンザ薬(タミフル、リレンザ)は胎児に大きな異常を引き起こすことはないのでしょうか?

A5:?昨シーズン、多数の妊婦(推定で4万人程度)が抗インフルエンザ薬(タミフル、リレンザ)を服用しましたが、胎児に問題があったとの報告はあがってきていません。

Q6: 抗インフルエンザ薬(タミフル、リレンザ)の予防投与(インフルエンザ発症前)と治療投与(インフルエンザ発症後)で投与量や投与期間に違いがあるのでしょうか?

A6:以下の投与方法が推奨されます。
1) タミフルの場合?
予防投与:75mg錠 1日1錠(計75mg)10日間、 
治療のための投与:75mg錠 1日2回(計150mg)5日間。
2) リレンザの場合 ?
予防投与:10mgを1日1回吸入(計10mg)10日間、
治療のための投与:10mgを1日2回吸入(計20mg)5日間。

Q7: 予防投与した場合、健康保険は適応されるのでしょうか?

A7: 予防投与は原則として自己負担となりますが、自治体の判断で自己負担分が公費負担となる場合があります。

Q8:分娩前後に発症した場合は?

A8:タミフル(75mg錠を1日2回、5日間)による治療をただちに開始します。新生児への対応は以下のように行ないます。
1) 母親が妊娠~分娩 8 日以前までにインフルエンザを発症し治癒後に出生した場合
・通常の新生児管理を行います。
2) 母親が分娩前 7 日から分娩までの間にインフルエンザを発症した場合
・分娩後より、母子で個室隔離。分娩後より、飛沫・接触感染予防策を講じて母子同室とします。
・個室がない場合は母子を他の母子と離して管理します。その際、飛沫・接触感染予防策を十分講じます。
・児への抗インフルエンザ薬の予防投与はせず、児の症状の観察とバイタルサインのモニタリングを行います。
3)母親が分娩後~産院退院までにインフルエンザを発症した場合(カンガルーケアや直接授乳などすでに濃厚接触している場合)
・個室にて、直ちに飛沫・接触感染予防策を講じて母子同室を継続します。その際、児を保育器に収容等の予防策を講じ、母子間の飛沫・接触感染の可能性につき十分注意を払います。
・母親の発症状況や児への曝露の程度を総合的に判断して、必要な場合、厳重な症状の観察とバイタルサインのモニタリングをできる環境に児を移送し、発症の有無を確認します。移送後の児は、保育器管理を行います。保育器がない場合は他児と十分な距離をとります(1.5m 以上,可能ならば,他児との間をカーテン等で分離する)。
・児への抗インフルエンザ薬の予防投与は原則、行なわないことにします。
4)新生児に発熱、咳嗽・鼻汁・鼻閉などの上気道症状、活気不良、哺乳不良、多呼吸・酸素飽和度の低下などの呼吸障害、無呼吸発作,易刺激性 などが認められた場合
・直ちにインフルエンザの検査診断(簡易迅速診断キットによる抗原検査と可能ならば RT-PCR 検査の施行が望ましい)を行います。治療を行う事も考慮します。また,新生児の場合、インフルエンザ以外の疾患で上記の症状を認める場合があるので、鑑別診断に努め適切な治療を行う必要があります。
・早産児へのインフルエンザの影響は不明なことが多いので、疑い例であってもウイルス検査を行うように努めます。

Q9: 感染している(感染した)母親が授乳することは可能でしょうか?

A9: 原則,母乳栄養を行います. 以下が勧められます。
・母親がインフルエンザを発症し重症でケアが不能な場合には、搾母乳を健康な第 3 者に与えてもらう。
・母親が児をケア可能な状況であれば、マスク着用・清潔ガウン着用としっかりした手洗いを厳守すれば(飛沫・接触感染予防策)、直接母乳を与えても良い。
・母親がオセルタミビル・ザナミビルなどの投与を受けている期間でも母乳を与えても良いが、搾母乳とするか、直接母乳とするかは、飛沫感染の可能性を考慮し発症している母親の状態により判断する。
・母親の症状が強く児をケアできない場合には、出生後、児を直ちに預かり室への入室が望ましい。その際、他児と十分な距離をとる(1.5m 以上)。
・哺乳瓶・乳首は通常どおりの洗浄でよい。
・原則、飛沫・接触感染予防策の解除は、母親のインフルエンザ発症後 7 日以降に行う。

本件Q&A改定経緯:
初版 平成21年5月19日
2版 平成21年6月19日
3版 平成21年8月4日
4版 平成21年8月25日
5版 平成21年9月7日
6版 平成21年9月28日
7版 平成21年10月22日
8版 平成21年11月9日
9版 平成22年12月22日


先天性サイトメガロウイルス感染症について

2011年02月19日 | 周産期医学

Ⅰ サイトメガロウイルス感染症はどんな感染症か?

サイトメガロウイルス(Cytomegalovirus:CMV)はヘルペスウイルス科のDNAウイルスで、どこにでもいるありふれたウイルスであるため結果的にほとんどのヒトが感染する。CMV感染は直接的、間接的なヒトとヒトの接触によって起こり、感染源になりうるものとしては、尿、唾液、鼻汁、子宮頸管粘液、腟分泌液、精液、母乳、涙、血液などが知られている。人類に広く分布し、ほとんどのCMV感染症は不顕性であるが、健常人でも初感染に際して伝染性単核球様の症状を呈する場合がある。主に臨床的に問題となるのは、先天性(胎内)CMV感染症および免疫不全患者での日和見感染症である。

妊娠中のCMV初感染では、経胎盤的に胎児にも感染し、感染児に重い後遺症を残すこともある。感染児の多くは無症状であるが、重症の場合は肝脾腫大、黄疸、出血などの症状の他、小頭症や水頭症などの神経障害も加わり、胎児や新生児が死亡することもある。出生時には無症状であっても、5歳頃までに難聴や知能障害、運動障害、眼の異常などの続発症状が発症する場合もある。

胎内CMV感染症は、既知の胎内ウイルス感染症の中では発生頻度が最も高い。 近年、若年者におけるCMV抗体保有率が低下し、妊娠初期に妊婦がCMVに感染する機会が増え、胎内CMV感染症の発生頻度の増加につながることが懸念されている。

Ⅱ 症候性胎内CMV感染症

妊娠初期のCMV初感染の場合、症候性胎内CMV感染症が発生するリスクが高い。再感染例でも異なるCMV株に感染すると症候性胎内CMV感染症が発生する可能性があると考えられている。

CMVが胎内で感染する頻度は、全出生の0.4~1%であり、そのうち85~90%は出生時に無症状で、10~15%は出生時に様々な程度の臨床症状を呈している。感音性難聴、運動障害、知能障害などの続発症状は、出生時症候性感染児の90%、出生時非症候性感染児の5~15%にみられる。

わが国では、胎内CMV感染症によって毎年1000人を超える精神発達遅滞や難聴の児が出生していると推定されている。

Ⅲ 胎内CMV感染症を疑う母体・胎児・新生児の非特異的所見

① 母体の所見:
原因不明の発熱、発疹、肝機能障害、羊水量の異常

② 胎児の所見:
子宮内胎児死亡、子宮内胎児発育遅延、脳室拡大、胎児水腫、腹水、小頭症、肝脾腫大、腸管高輝度エコー像

③ 新生児の所見:
点状出血斑、肝脾腫大、脳室拡大、小頭症、上衣下嚢胞、低出生体重(light for date)

Ⅳ 胎内CMV感染症の出生前診断の問題点

現在、胎内CMV感染症を出生前診断しても胎内治療の適応基準はなく、有効な治療法も確立してないため、胎内CMV感染症の出生前診断に対して否定的な意見が多い。妊婦のCMVスクリーニングに関しては、陽性と判明した場合の適切な医療介入方法が確立されていないので現段階では不適切とされる。

分娩時低酸素症による脳障害と胎内CMV感染症による脳障害とを区別するために、胎内CMV感染症の出生前診断は重要という意見もある。胎内CMV感染症の出生前診断に用いる検体は羊水が一般的に多く用いられている。羊水中のウイルス培養やPCR検査でウイルスを検出することができる。ただし、羊水からCMVが検出されなくても胎内CMV感染症を否定することはできない。感染が証明できても、児が症候性かどうかはわからない。

胎内CMV感染症を効率よく血清学的にスクリーニングするのは困難である。従来用いられたCF法は感度が低いために有用性に欠ける。EIA法によるCMV-IgM抗体は、初感染妊婦でも陰性を示す場合や、逆に長期にわたり陽性を示し続ける例が存在するので、その臨床的意義の解釈に注意を要する。

Ⅴ 妊娠中の初感染予防

わが国において、母体のCMV抗体保有率は年々低下傾向にあり、近年では70%前後まで低下したことから、今後、妊娠中の初感染の増加が懸念されている。

感染予防として、性交時のコンドーム使用と乳幼児の尿や唾液に触れる際の手袋の着用や触れたのちに手洗いを行うことが主に勧められている。子供からの感染は、保育所勤務や病院勤務者ばかりでなく、自分の子供からの感染の可能性もあり注意を要する。

Ⅵ 治療法

現段階では胎内CMV感染症に対する有効な予防策や治療法は確立されてない。CMVに対するワクチンはまだ実用化されてない。

胎内CMV感染症に対する考えられる治療法としては、母体への抗CMV高力価γグロブリン投与、胎児腹腔内への抗CMV高力価γグロブリン投与、母体へのGanciclovir(GCV)投与、胎児腹腔内へのGCV投与などであるが、適応基準、安全性、有効性を、今後十分に検討していく必要があるものと思われる。

先天性感染児の治療として、米国では、GCV 12mg/kg/日を6週間、およびγグロブリン200mg/kg/日を1週間に1度、2回投与するスケジュールで第3相臨床試験が行われ、感音性難聴の改善もしくは進行停止が得られたとの報告がある。

Ⅶ まとめ  

胎内CMV感染症は、既知の胎内ウイルス感染の中では発生頻度が最も高い。

若年者におけるCMVの抗体保有率が低下している中で、その発生頻度は今後ますます高くなることが懸念されている。

胎内CMV感染症は、神経学的後遺症をもたらす疾患のひとつとしてその重要性は高く、発症予防と治療法に関する研究の今後の発展が望まれる。

参考:

先天性サイトメガロウイルス感染症に対する免疫グロブリン療法、山田秀人、日産婦誌60巻9 号、2008年9月

難聴起こすウイルス、新生児300人に1人感染 厚労省 (朝日新聞、2010年11月2日)

【以下、Asahi.comより引用】

 胎児の時に感染すると難聴や脳に障害が起きる危険性のある「サイトメガロウイルス」に、新生児300人に1人の割合で感染していることがわかった。厚生労働省の研究班が新生児2万人以上を対象に国内初の大規模な調査をした。抗体のない妊婦が感染すると胎児に感染することがある。通常は幼児期に感染し抗体があるが、最近は抗体のない妊婦が3人に1人程度と増えている。胎児の感染も増加する可能性がある。

 研究班は全国25施設で生まれた新生児2万1272人(2010年7月末時点)を調査。尿を採取してウイルスの有無を検査し、66人が陽性と判明した。幼児期に感染しても症状が出ず、胎内感染でも多くは発症しないが、うち15人に難聴や脳の発達異常など典型的な症状が見られた。

 今回の調査で陽性だった新生児のうち47人を調べたところ、31人は上に兄か姉がいて多くから同じウイルス株が見つかった。自然に感染した上の子から、妊娠中の母親が初感染し、それが胎児に感染したと推測されるという。

 この抗体を持っている妊婦の割合は年々低下している。1986年の国内での調査報告では96%が抗体を持っていたが、今回調査した妊婦4306人のうち、確実に抗体があるのは66%だった。衛生環境の改善などで幼児期の感染が減ったためとみられる。

 研究班は先天性感染児への治療ガイドラインも検討。抗ウイルス薬を6週間投与することで改善する例もあり、難聴も早期に発見し補聴器をつけることで言語発達への影響を少なくできるという。

 研究班代表の古谷野伸・旭川医科大講師は、感染したばかりの乳幼児の尿や唾液(だえき)にはウイルスが多く含まれているため、妊婦はおむつを取りかえた後には手洗いし、口移しやキスなどを避けるよう呼びかけている。

 サイトメガロウイルスは、同様に胎児に母子感染症を起こす風疹などとは違い、感染しても妊婦にはっきりした症状がないため気づきにくい。古谷野さんは「これまで難聴などの障害があっても原因がわからず、遺伝的な病気と悩んでいた家族もいたが、サイトメガロウイルスが原因の場合も多い」と指摘する。(香取啓介)

【以上で引用終わり】


長野県のドクターヘリ2機目の配備先は信州大付属病院

2011年02月11日 | 地域医療

コメント:

専従の救命救急医が、信大27名に対して飯田市立病院は2名と報道されてます。飯田市立病院は信大の関連病院で、各診療科の医師のほとんどは信大から派遣されてます。従って、マンパワーという点だけで両病院を比較したら歴然とした差があるのは当然です。

中日新聞に記載されていた「ドクターヘリ2機配備時の有効活動範囲」の地図を見てみると、半径50kmの有効活動範囲の2つの円は大きく重なり合い、飯田下伊那地域は完全にその有効活動範囲から外れていることがわかります。長野県の面積は広く、特に飯田下伊那地域は陸上交通が未整備の「秘境の地」を多く抱えているので、県内の他の地域と比べて、ドクターヘリの需要と有効性が際立って高い地域であることは確かです。

中信地域では信大病院や県立こども病院などがあり、交通網も整備されてますから、救急車で十分に間に合い、地域住民にとってドクターヘリの需要は全くありません。それに対して、飯田下伊那地域の山間地では救急車で間に合わない場合が多く、ドクターヘリの必要性は非常に高く、地域住民の多くがドクターヘリの配備を切望してました。ドクターヘリの本来の目的を考えれば、救急搬送に最も支障がある地域に配備されるのが本筋だと思います。

ただし、標準的な救急医療体制を構築し維持していくためには、救急医療部門の専従医師を十分確保する必要があります。 今後は、救急医療部門においても信大病院と緊密に連携して専従の救命救急医の数を増やし、ドクターヘリを効果的に運用して地域医療の向上に結びつけていくことが重要だと思います。

******中日新聞、1月30日、長野

2機目ドクターヘリ信大病院に配備 地域バランスに疑問視

検討委の重点は専従医確保に 中山間地の思惑とズレ

 長野県内2機目のドクターヘリは、信州大医学部付属病院(松本市)に配備されることが正式に決まった。山間地を抱える飯田下伊那地域は配備を強く望んでいただけに、関係者に落胆が広がる。県の有識者検討委員会は信大病院に対し、南信地区への積極的な医師配置も求めた。2機目のヘリ導入は、県内の救急医療体制を見直すきっかけになるだろうか。 (一ノ瀬千広、柚木まり)

 今月26日、飯田下伊那地域の14市町村が加わる南信州広域連合や、地元医療関係者へ検討委の選定経過を説明するため、県の桑島昭文健康福祉部長が飯田市役所を訪問した。

 雰囲気は終始重苦しかった。桑島部長は厳しい表情で「苦しい選択だった」と、理解を求める。これを腕組みして聞く牧野光朗南信州広域連合長(飯田市長)ら。落胆と同時に、強い反発がにじんでいた。

 広域連合は昨年11月、阿部守一知事に飯田市立病院への配備を求める要望書を提出。山間の地形に囲まれた同地域は、ヘリ配備で短時間の搬送が可能となることなど、地理的条件からの必要性を強調していた。牧野広域連合長は「県土全体の均衡ある発展につなげるため、もう1度県の役割が何かを考えてほしい」と訴えた。

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 期待への裏返しが、強い反発につながった。飯田医師会の市瀬武彦会長は28日に、阿部知事へ意見書を出したという。「知事は選挙の時、南へ光を当てると言ってくれたのに、裏切られた思いだ」と話す。

 だが、検討委は選定で、ヘリ導入後に専従医をどの程度確保できるかに重点を置き、地元の思惑とはずれがあった。県は安定運航に最低5人が必要とするが、飯田市立病院の救急救命医は現在2人。導入後に1人増員する計画を示したが、それ以上は未定で、“落選”の要因となった。

 県は信大病院への配備でも、1機目が配備されている佐久総合病院(佐久市)よりも到着時間が5分程度短縮でき、南信全域に相当な利点があると強調する。ただ、20分以内に到着できる有効活動範囲(半径約50キロ)は1号機と重なる部分が多い。飯田下伊那地域や木曽地域南部は2号機配備でも範囲外のままで、検討委でも地域バランスを疑問視する声は出た。

 検討委の大西雄太郎委員長が阿部知事へ提出した報告書は、信大病院がヘリ拠点に最適という判断と同時に、同病院へは▽南信地区への医師配備を積極的に行う▽養成した救急専門医の県内定着と、研修を計画的に実行する-といった点を条件とした。県には、県内の救急医療体制の充実や、地元のニーズに対応するよう消防本部と調整を求めた。

 阿部知事は28日の会見で「私自身も積極的にかかわり、飯田下伊那地域の医療体制充実を考えたい」と明言した。しかし、具体策は「南信で医師不足への態勢が十分に取れない現状に、早急に対応を考える必要がある」と述べるにとどまった。

(中日新聞、1月30日、長野)

****** 南信州新聞、2011年1月28日

ドクターヘリ 「地域事情こそ考慮すべき」

市立“落選”に疑問や反発

 県内で2機目のドクターヘリの配備先について、県の検討委員会が「信州大学附属病院(松本市)が最適」とする検討結果を知事に報告したことを受け、県健康福祉部の桑島昭文部長らは26日、飯田市立病院への配備を要望してきた南信州広域連合長の牧野光朗・飯田市長や飯田下伊那の医療関係者、飯伊選出の県議らに選定結果を報告し、信大病院に至った経緯や理由を説明した。地元関係者からは「地域事情をまったく考慮していない」などの反発が相次ぎ、県の医療行政に対して「今回の検討結果を、全県の均衡ある発展にどうつなげるのか」などの疑問や注文も噴出した。

 桑島部長と医療推進課の角田道夫課長らが、県飯田合同庁舎で地元選出の県議らと、飯田市役所で牧野市長と飯伊地区包括医療協議会の唐沢弘文会長、飯田医師会の市瀬武彦会長らと意見を交わした。

 県側は「飯伊地域が一番ドクターヘリの要望が強く、ニーズがある」(桑島部長)との認識を伝えながらも、24日の検討委で「ヘリを継続的、安定的に運用するには専従の救急救命医が最低5人は必要」との基準が示されたことを報告。「配備先に決定した場合でも3人の飯田市立では、現在の病院機能の低下も危惧される」との検討委判断を伝え「苦しい選択だが、信大という結論になった」と理解を求めた。

 対して唐沢会長は、中山間へき地が多く、救急車の搬送に時間がかかる地理的事情や「安心」を望む住民感情を伝え「マンパワーでは大学病院にかなわない。ほかに考慮すべき要素があったはず」と疑問を呈し「切実にドクターヘリを求める一般住民の意見こそ重要ではないか。検討委の専門家の方々は、地域の実情を理解されていたのか」と訴えた。

 「一番要望が多く、必要な所へなぜ配備しないのか。遺憾どころではなく怒り心頭だ」との心情をあらわにしたのが市瀬会長。ドクターヘリの有効活動範囲(半径50キロ、20分以内)を踏まえ「佐久に1機目があり、松本には防災ヘリもある。しかし、こちらは1機もない。本当に不思議だ。ヘリが配備されれば救急医療を望む医師は集まるはず」と首をかしげた。

 南信州広域連合議会長の中島武津雄・飯田市議会議長は「地域ニーズに配慮して(知事は2機目を配備する)提案をされたととらえていた。地域住民の期待が大きかった分、失望も大きい」と市民感情を代弁した。

 議論にじっと耳を傾けていた牧野市長は結びに「(今回の件は)県政の一つのスタンスとして、今後も語り継がれる」と指摘。「検討委の結果をどう県が受け止め、県土全体の均衡ある発展にどうつなげるかが大きな課題。医師不足の解消こそ、県がセーフティーネット機能として果たすべき役割だが、その点の話が出なかったことが非常に残念」と述べ「県の役割」の再考を求めた。

 対談後に桑島部長は「地元の人たちのニーズや気持ちは十分理解しており、今回の内容を知事にしっかりと伝える」と約束。検討委が配備先に選定した信大病院に対し「南信地域への積極的な医師配置」を要望したことを踏まえ「県として、地域医療の向上にどのような支援ができるか考えていく。医師配置の協議、調整には積極的に関与していく」との考えを示した。

(南信州新聞、2011年1月28日)

***** 中日新聞、2011年1月27日、長野

ドクターヘリ選定基準に反発続々 南信の医療関係者ら

 県内で2機目のドクターヘリ配備について、「信州大病院(松本市)が最適」とする県の検討委員会の報告書が阿部守一知事に提出されたことを受け、県は26日、南信州広域連合長の牧野光朗飯田市長や飯田下伊那の医療関係者、県議らに、飯田市立病院が事実上配備先から外れたことを報告し、検討委の選定経緯を説明した。医療関係者などからは、選定基準に対する反発の声が挙がった。

 県健康福祉部の桑島昭文部長らは飯田市役所で、牧野連合長や飯伊地区包括医療協議会の唐沢弘文会長、飯田医師会の市瀬武彦会長らと面会。桑島部長は「委員会では、ヘリの安定運用には救急救命医5人が必要という基準が示された。市立病院の救命医は2人で、長期運用を考えると市立病院への配備は難しいとの結論になった」と説明した。

 これに対し、唐沢会長は「中山間地を抱える飯伊の地理的条件などを考えれば、市立病院に配置するのが自然。医師の体制以外にもっと考慮する要素があったのでは」と疑問を投げかけ、市瀬会長は「松本には防災ヘリもあるがこちらには何もない。飯伊の方が必要性が高いのに配備しないのはおかしい」と不満をぶつけた。

 また牧野連合長は「地域医療における医師不足の解消は、セーフティーネットの機能として県が果たしていかなくてはいけない役割」と述べ、南信地域への医師配置に対する県の積極的な取り組みを求めた。

 桑島部長は「地元の気持ちは理解できる。県として南信地域の医療向上にどのような支援ができるか、知事と考えたい」と述べた。

 県飯田合同庁舎で開かれた地元県議への説明でも、「配備が可能になるように医師を配置するのが県の仕事。医師不足は理由にならない」など、委員会の判断に反発する意見が相次いだ。 (一ノ瀬千広)

(中日新聞、2011年1月27日、長野)

****** 南信州新聞、2011年1月26日

ドクターヘリ2機目は信大病院へ

飯田市立「救急医不足」響く

 県ドクターヘリ配備検討委員会(大西雄太郎委員長)は24日、県庁で開き、中南信地区への県内2機目の配備先に信州大学医学部附属病院(松本市)を選んだ。候補の4病院のうち、最終的に信大か飯田市立かに絞られたが「救急医療態勢が充実した信大病院が最適」とした。検討委は25日に阿部守一知事へ選定結果を報告。県は10月の配備を目指しており、来年度当初予算案に半年分の経費として約1億円余を要求している。

 中南信の救命救急センターを設置または設置予定の病院のうち、信大と飯田市立のほか、相澤(松本市)と伊那中央(伊那市)の計4病院が配備を希望していた。

 会議は冒頭を除き非公開。終了後に会見した大西委員長(県医師会長)は、信大病院を選んだ理由として▽県内唯一の高度救命救急センターであり、救急医療スタッフが充実している▽救急医療を担う人材育成が期待される▽木曽や大北地域への初期診療の開始時間が短縮される―などを挙げた。

 飯伊に救急車の搬送に時間を要する山間が多く、ドクターヘリの需要や有用性が高い点を認め、飯田市立を最終候補に残しつつも「落選」としたことには「救急専門医は信大の27人に対し、飯田市立は2人。マンパワーが足りず、運用の安定性、継続性に疑問があった」と説明した。

 検討委は配備先に選定した信大病院に対し、南信地区へ積極的に医師を配置することなどを要望。県へは2機体制が十分に生かされるような有効活動範囲(半径約50キロ、20分以内)の検証や関係機関との調整などを求めた。

 大西委員長は「結論は全会一致」と話したが、南信の病院関係の委員らは会議終了後、堅い表情で足早に会場を後にした。

 委員のうち、飯田市立の神頭定彦救命救急センター長は「委員会としての判断」「当院のスタッフが足りなかったということ」と言葉を選び、今後については「2機の運航や(要望に盛られた)信大からの医師支援などを通じて、飯田下伊那の医療充実につながれば」と話した。

 県のドクターヘリは2005年に佐久総合病院に1機目が配備された。昨年8月に当選した阿部知事は選挙公約で中南信地区への2機目の配備を掲げていた。

 県健康福祉部によると、佐久総合と信大の両病院へドクターヘリが配備されると、有効活動範囲の県内カバー率は面積で65%、人口で83%を占める。しかし、飯田下伊那地域はこの範囲に含まれない。

(南信州新聞、2011年1月26日)

****** 中日新聞、2011年1月25日、長野

長野 ドクターヘリ 2機目は信州大付属病院

検討委が配備先を決定

 長野県内2機目のドクターヘリの配備先を検討する県の有識者検討委員会は24日、県庁で開き、信州大医学部付属病院(松本市)が最適との結論を出した。救命救急医を多く抱え、安定してドクターヘリを運用できることを重視した。25日、阿部守一知事に報告する。県健康福祉部は新年度当初予算案に運航経費など約1億円を要求しており、10月からの運航開始を目指す。(大平樹)

 終了後に会見した検討委の大西雄太郎委員長(県医師会長)は、同病院が県内唯一の高度救命救急センターで、27人の救命救急医がいる点のほか、ドクターヘリの配備で「県内の救急専門医のレベルアップなどにもつながる」と説明した。

 医師不足の木曽、大北両地域をカバーできることも理由の1つで、県によると、2機目の配備でドクターヘリの両地域への飛行時間は、約10分ずつ短縮される見込み。

 配備は、同病院のほか、飯田市立、相沢(松本市)、伊那中央(伊那市)の計4病院が希望していた。

 検討委によると、中山間地を多く抱える飯田市立への配備では、安定運用の基準とされる救命救急医5人に対し2人となっている現状に不安視する意見があった。

 伊那中央は院内の態勢などで、相沢は信州大との共同運航を前提にしていたためそれぞれ選定から外れたという。

 検討委は、ドクターヘリの配備先となる信州大病院に対し、南信地域への積極的な医師配置を求めることも決めた。

 大西会長は「全会一致だった」と強調したが、南信地方の病院関係者の委員からは「南信地方にもう少し配慮してくれても良かったのではないか」と不満の声も出た。

効果的な運用が課題

 中南信地域の医療関係者にとって悲願だったドクターヘリ2号機の配備先は、信州大医学部付属病院に決まった。「多くの命を救えるようになる」と期待は高まるが、広い県内で2機をどれだけ効果的に運用するかや、カバーしきれない地域へどう対応するかが今後の課題だ。

 佐久総合病院(佐久市)に配備されている1号機が中南信地域へ出動した件数は、2009年度は全体の40.3%を占める144件(中信54件、南信90件)だった。

 県によると、09年度は天候不良や出動中といった理由で、中南信地域からの出動要請に対応できなかった件数は67件。今後はこうしたケースの多くは解消を期待できる。

 県幹部は「ドクターヘリの有効性を知る救急救命医が県内には多くおり、間違いなく救える患者が増える」という。

 ただ、複数配備がすべての問題を解決する訳ではない。1号機は性能上、高度2300メートル以上を飛行できない。2号機も同型機とみられ、標高2千メートル級の山々が連なる中南信地域の場合は最短距離で目的地へ向かえない可能性もあり、実効性をどう上げるかが課題になる。

 ドクターヘリを含め、県内全域の救命救急医療体制について、地元関係者や隣接県との連携も含めた検討は今後も必要だ。

 特に、配備を強く希望していた飯田下伊那地域の医療関係者には落胆が広がっており、救命救急医療が後退しないよう、県の具体的な対応が求められる。(柚木まり)

配置アンバランス 飯伊地方から懸念の声も

 中信地域の自治体や医療関係者は信州大病院への配備を歓迎する一方、県南部の飯田下伊那地域からは不満の声も出ている。

 信州大病院の地元である松本市医師会の高島俊夫会長は「信大はスタッフも充実しており、一番適している。県の救急医療の充実には良いことだ」と歓迎した。

 木曽地域には高度な救命救急措置を行う医療機関がなく、ドクターヘリへの期待はより高い。木曽町の田中勝己町長は「従来より格段に木曽へ近づき、救われる人たちが増えることになり、大変ありがたい」と話した。

 これに対し、牧野光朗飯田市長は「希望していた飯田市立病院への配備とならなかったことは残念だが、信州大病院と連携し、当地域の医療向上に結びつけばと期待している」とのコメントを出した。

 飯田医師会の市瀬武彦会長は「飯田下伊那地域はヘリの拠点から遠い空白地帯で、愛知県や静岡県へ出動を要請するケースも多い。松本には防災ヘリもあり、(佐久総合病院の1号機を含めて)県中心部にヘリ3機が集中する極めてアンバランスな配置だ」と問題点を指摘。

 さらに「中信の天候次第では出動できないリスクもある。ドクターヘリの利用率は、飯田下伊那が一番高い現状が反映されていない」と苦言を呈した。

 ドクターヘリ  医療機器を搭載したヘリコプターに医師や看護師が搭乗する。拠点病院に常駐して地域の消防などの要請に応じて出動、重症患者に治療処置をしながら搬送するため救命に有効とされる。県内には2005年7月、厚生連佐久総合病院(佐久市)に1機目が配備された。厚生労働省によると昨年7月現在、長野を含む19道府県に計23機が配備されている。

(中日新聞、2011年1月25日、長野)


妊娠中の尖圭コンジローマ(性器疣贅)

2011年02月09日 | 周産期医学

尖圭コンジローマ:condylomata acuminata(性器疣贅:genital warts)は、外陰部、腟壁、子宮頸部、会陰、肛門周囲などにできる疣贅(イボ)で、ヒトパピローマウイルス(HPV)感染により発症します。子宮頸癌を引き起こさない低リスク型HPV の型は約12 種類あり、これらの型のHPV は性器疣贅や、問題とはならない程度の子宮頸部細胞診所見の変化(koilocytosis)を引き起こします。低リスク型HPV には、6型、11型、40型、42型、43型、44型、54型、61型、70型、72型、81型、CP6108があります。最も代表的な低リスク型HPV は、性器疣贅の原因の約90%を占める6 型と11 型です。

参考:画像1 画像2 画像3 画像4 画像5 画像6

免疫能が正常の人において、性器疣贅は治療しなくても自然消失することも多いです。しかし、疣贅が増殖して大きさと数をどんどん増していく場合もあります。 今ある疣贅がこれから増殖するのか、消失するのか、を予測することはできません。

妊娠中の免疫能の変化により、妊娠中はしばしば性器疣贅の大きさと数が増えますが、妊娠終了とともに疣贅が消失することも多く、妊娠中は治療をせずに経過を見る場合もあります。

時には、性器疣贅が大きくなりすぎて、膣内や会陰が完全に疣贅で覆われ、経腟分娩が困難となる場合もあり得ます。

妊娠中の性器疣贅は、ほとんどの場合、児に悪影響を及ぼしません。時に、HPVの産道感染により乳幼児の喉頭乳頭腫や性器疣贅を発症する場合もありますが、これは非常にまれなので、性器疣贅がよほど大きくない限りは帝王切開の適応とはなりません。

性器疣贅の治療方法はいろいろありますが、完全に満足できる治療法はありません。疣贅はしばしば再発し再治療が必要となることも多いです。妊娠中の性器疣贅の治療法はいろいろ実施されてますが、現時点ではどの治療法が最良か?という問いに答えるエビデンスはまだ存在しないようです。

性器疣贅は、液体窒素による凍結療法、電気焼灼、レーザー治療、外科的切除などによって除去できます。薬での治療は、DNAの生成を阻害する塗布薬(抗がん剤)を使うことがあります(5-FU軟膏、ブレオS軟膏、これらは保険適応外、妊婦には使えない)。また、2007年12月10日には、保険適応の尖圭コンジローマ治療薬としてベセルナクリーム5%(一般名:イミキモド)が発売されました。ベセルナクリームの添付文書には「妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ使用すること」と記載されているので、主治医が必要と判断すれば妊婦にも使用できます。薬の治療では、通常、数週間から数カ月にわたって何度も塗布する必要があり、治療後にたびたび再発します。


子宮頚がん予防ワクチンについて

2011年02月06日 | 婦人科腫瘍

子宮頚がんは子宮頸部に発生する悪性腫瘍で、組織学的には扁平上皮癌が約85%、腺癌が約15%を占めます。近年、子宮頸がんの原因のほとんどがヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルスであることが分かってきました。 HPVに感染しても多くの場合は、免疫力によってウイルスが体内から排除されますが、何らかの理由によりHPVが持続感染した場合、長い年月(HPV感染から平均で10 年以上)をかけて子宮頸がんへと進行する危険性があります。

HPVは現在までに100種類以上確認されてますが、そのうちの十数種類のハイリスク型HPV(16型、18型、31型、33型、35型、45型、51型、52型、56型、58型、59型、68型、73型、82型など)が子宮頸がんの発症に関わっています。 特に、HPV 16型と18型は子宮頸がんの70%近くの原因を占めると報告されています。

子宮頚がんを予防する目的のワクチンが開発され、海外ではすでに100カ国以上で使用されています。日本でも、子宮頸がん予防ワクチン(サーバリックス)が2009年10月に承認され、2009年12月22日より一般の医療機関で接種することができるようになりました。

このワクチンは、ウイルスの殻を目印に抗体を作らせようというもので、ウイルスの遺伝子そのものが入っているわけではありませんから、ワクチン接種により子宮頚癌が悪化するということはないと思います。ですから、ワクチン接種の前に、ウイルス感染の有無を確認する必要は特にないと思います。

ただし、このワクチンは、すでに今感染しているハイリスク型HPV(16型、18型)を排除したり、子宮頸部の前がん病変やがん細胞を治す効果はなく、あくまで接種後のハイリスク型HPV(16型、18型)感染を防ぐものです。全てのハイリスク型HPVの感染を防ぐことができるわけではありませんので、ワクチンを接種しなかった場合と比べれば可能性はかなり低くなるものの、ワクチンを接種していても子宮頸がんにかかる可能性はゼロではありません。またワクチンの効果がどれだけ長く持続するかについては、現在も調査が継続して行われています。現時点でワクチンを接種してから最長で6.4年までは前がん病変を100%予防できることが確認されてます。

米国では、HPVに感染していない女性を対象にした大規模臨床試験で80%近い予防効果があったと報告されています。しかし、欧米ではHPV 16型と18型の割合が多いのに対し、日本ではHPV 52型、58型の割合が比較的多いとされ、欧米型二価ワクチン(HPV 16型、18型)のサーバリックスが日本でどの程度有効なのか?は未知数です。

ハイリスク型HPVに感染した女性の0.1~0.15%程度しか子宮頸がんを発症しませんが、ハイリスク型HPVに感染後にどのような女性が子宮頸がんを発症するのか、そのメカニズムは解明されていないため、感染した全ての女性が子宮頸がんを発症するリスクがあります。毎年15,000人の女性が子宮頸がんに罹患し、3,500人もの女性が命を落とすことにつながりますから、子宮頸がん予防ワクチンを接種してハイリスク型HPV(16型、18型)の感染を予防することは子宮頸がん発症のリスク軽減のためには大いに意味のあることと考えられます。

対象となる全女性に無料接種を実施している国もあります。例えば、オーストラリア政府は12歳から26歳の女性200万人に対してHPVワクチンの無料接種を2007年4月から開始しました。 日本でも年齢を限定して全女性に全額公費助成している自治体が多くあります。飯田市の場合、本年1月11日以降、中学校1年生(13歳相当)~ 高校1年生(16歳相当)の女子が全額公費助成の対象となりました。 助成対象年齢以外の女性は全額自己負担(約5万円)となります。

子宮頸がん予防ワクチンは肩に近い腕の筋肉に注射します。1~2回の接種では十分な抗体ができないため、半年の間に3回の接種が必要です。接種期間の途中で妊娠した際にはその後の接種は見合わせることとされています。

16、18型以外のハイリスク型HPVが原因になる子宮頸がんには効果が認定されておらず、ワクチン接種時点ですでに感染していたウイルスにも無効です。子宮頸がんを完全に防ぐためには、子宮頸がんワクチンの接種に加えて、定期的に子宮頸がん検診を受けることが大切です。ワクチン接種後も、1~2年に1度は子宮頸がん検診(子宮頚部細胞診)を受けるようにしましょう。


次世代への継承

2011年02月05日 | 地域周産期医療

地方の公的地域中核病院の産婦人科が次世代に継承されるためには、医師供給元である大学病院と良好な協力関係を維持していくことが最も重要だと思います。

地方だからといって、医療レベルが都会よりも低いなどということは許されません。大学病院の医師たちと常に緊密に連携し、地方病院でも最新の標準的医療を提供し続ける必要があります。

また、地方の一つの病院だけで、初期研修から専門研修まですべて完結するのは無理です。指導医、中堅医師、後期研修医、初期研修医、医学生の臨床実習など、それぞれのレベルで大学病院との人事交流、協力関係を活発化することが非常に重要です。

大学病院と緊密に連携し、最新の標準医療を地域住民に提供し続けるのと同時に、次世代の産婦人科医を育成するための研修の場を提供し続ける地道な努力によって、地域の産婦人科医療が次世代に継承されると思います。

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個人経営の産婦人科医院が次世代に継承されるためには、子育て経過中に、例えば以下のような諸条件を数年ごとに次々にクリアしていく必要があります。

①御子息が医学部受験を決意する。
②御子息が医学部受験を突破する。
③御子息が医学部卒業後に専門診療科として産婦人科を選ぶ。
④御子息が産婦人科研修終了後に産婦人科医院を継承する。

親と子は全く別人格ですから、自分の子が将来どの分野に興味を持ち、何をやりたいと思うようになるのか?は全く予測できません。子どもも高校受験や大学受験の頃までは親の意見に多少は耳を傾けてくれるかもしれませんが、必ずしも親の夢と子の夢が一致するとも限りません。誰でも自分の人生は自分で切り開いていく必要があり、人生行路がどう展開していくのか?は偶然の出来事や人との出会いに依存することも多く、誰にも予測できません。

運よく親の期待通りに子どもが医学に興味を持ってくれて、医学部受験を決意し、無事に医学部合格を果たしてくれたとしても、その子が医学部卒業後に将来の専門として何科を選ぶのかは全く予測できません。運よく親の期待通りに産婦人科を選んでくれたとしても、産婦人科研修を終え、学位や専門医資格などを取得した後に、故郷に戻って来て親の経営する医院を継承してくれるかどうか?は全く予測できません。もしかしたら、大学に残って研究一筋の人生を選ぶようなこともあるかもしれませんし、大病院で最先端医療に従事し続ける道を選ぶようなこともあるかもしれません。


「若手グループ」勉強会の活動

2011年02月02日 | 飯田下伊那地域の産科問題

平成元年4月に飯田市立病院に産婦人科が開設されることとなり、恩師の(故)福田透・信大教授に命ぜられて、不肖ながら信大産婦人科より初代一人医長として赴任しました。私が飯田の地に足を踏み入れたのはその時が生まれて初めてでしたし、病院内に産婦人科医はたった一人しかいませんでしたので、地域の皆様にはいろいろと御不便をおかけし、はらはらするような事も非常に多かったと思いますが、市民の皆様や地元医師会の先生方は、誕生したばかりの飯田市立病院産婦人科を暖かく見守り育ててくださいました。

平成元年当時、当地域内に産婦人科医は十数名いましたが、私の父親世代の先生がほとんどでした。平成3年には、相前後して、波多野久昭先生が日本医大から飯田市立病院に赴任、羽場啓子先生が新潟大学から下伊那赤十字病院に赴任、椎名一雄先生が椎名レディースクリニックを継承するために母校の東邦大学より帰飯されました。地域内に同世代の若手産婦人科医が急に増えてきましたので、平岩ウイメンズクリニック院長の平岩幹夫先生を中心にして、飯田下伊那産婦人科医会の中に「若手グループ」を結成し、年6回の勉強会を開催し始めました。平成3年以来、「若手グループ」勉強会は20年間絶えることなく続いています。

その20年の間にも、当飯田下伊那地域の周産期医療提供体制は壊滅的な危機を何度も経験してきました。「若手グループ」の産婦人科医たちは出身大学もばらばらで、それぞれの事情でこの地にやってきてたまたま遭遇した同じ職業の者たちの集まりですが、結束は非常に固く、力を合わせて多くの危機を乗り越えてきました。

当初は十数施設あった分娩取扱施設も年々減少し続けて、本年3月には当地域内の分娩取扱施設は飯田市立病院と椎名レディースクリニックの2施設のみとなってしまいます。これからも、地域のみんなで一致協力し、この危機を乗り越えていく必要があります。

若い若いと思っていた「若手グループ」の面々も、いつの間にかみんな還暦を迎えるような年齢となってきて、次世代へのバトンタッチも考えなければならない時期がだんだん近づきつつあります。今後は、次世代の「New若手グループ」にいい形でバトンタッチしていきたいと考えています。