ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

「何もしない人の分なぜ払う」 医療費で麻生首相が発言

2008年11月28日 | 医療全般

****** 共同通信、2008年11月28日

舌禍に「選挙苦戦」と悲鳴 首相陳謝も与党

 失言、迷走発言、言い間違いなど麻生太郎首相の"舌禍"に与党から「今、衆院解散を打たれたら、かなりの苦戦」(自民党の柴山昌彦衆院議員)と悲鳴が上がっている。首相は27日、「何もしない人の分の金(医療費)を何で私が払うんだ」との経済財政諮問会議での発言について陳謝したが、同党の中山泰秀衆院議員らが「国民感覚とずれている」と批判。陳謝でも沈静化できないほど求心力が低下した状況が浮き彫りになった。

 「沈黙は金だが、放言はメッキの類。余分なことは言わないようにしてほしい」。自民党の山崎拓前副総裁は同日の派閥総会で、医療費に関する失言などに苦言を呈した。公明党の太田昭宏代表は「(報道通りなら)不適切な発言。首相のみならず閣僚を含めて緊張感をもってやるべきだ」と政権への不満を表した。

 自民党の町村信孝前官房長官も同日夜の日本BS放送番組で「官邸で政策の緻密(ちみつ)な吟味が行われていない。未熟さゆえに、国民に好感を持たれていない」と述べた。

 医療をめぐっては医師を「社会的常識に欠ける」とした発言に続くだけに医師出身の西島英利参院議員は「医師不足、医療体制崩壊の危機が叫ばれる状況下、時期が悪すぎる」と危機感を強めた。また、定額給付金の所得制限をめぐる"迷走"に関しても「地方では非難の嵐だ」との声も。伊吹派総会では小沢一郎民主党代表との非難合戦への批判が出た。

 首相は医療費発言について「病の方の気分を害したならおわびします」と陳謝。山口俊一首相補佐官も「健康管理に努力しないと、医療費がどんどん膨れあがるとの意味」と釈明、「(失言は)面白みもあるということだ。天皇陛下みたいに『あっそう、あっそう』と言われたら、話す方も話せなくなる」(自民党の笹川尭総務会長)と擁護論も出るが、影響は尾を引きそうな状況だ。

(共同通信、2008年11月28日)

****** 共同通信、2008年11月28日

首相の資格ない-野党 医療費発言を批判

 民主党の菅直人代表代行は27日午後の記者会見で、麻生太郎首相が経済財政諮問会議で「何もしない人の分の金(医療費)を何で私が払うんだ」と発言したことに関し、「社会保険制度の原理を全く理解していない。首相の資格を有していないと言わざるを得ない」と厳しく批判した。

 首相が失言を繰り返すことに対しては「最近は怒りよりも恥ずかしいという言葉があちこちで聞こえてくる。自国の首相を恥ずかしいと国民が思う状態になっている」と指摘した。

 共産党の志位和夫委員長も会見で「公的医療保険制度の否定で、到底許されない発言」と非難。首相のこれまでの失言については「国民の常識の世界とは、別の世界で首相は生きていると言わざるを得ない」と述べ、あらためて首相としての資質に疑問を呈した。

 社民党の重野安正幹事長は「自民党の首相でこれほど言葉が軽く、すぐ修正する人はいなかった」と指摘。国民新党の亀井久興幹事長は「いつも弱い立場の人の心を傷つける。国のトップリーダーとして発言の重みをよく考えてほしい」と強調した。

(共同通信、2008年11月28日)

****** 毎日新聞・社説、2008年11月28日

首相の「放言」 患者の気持ちを逆なでした

 また、麻生太郎首相の放言が飛び出した。

 今度は社会保障費の抑制を議論した20日の経済財政諮問会議で「たらたら飲んで、食べて、何もしない人の分の金(医療費)を何で私が払うんだ」などと発言したことが分かった。同諮問会議の少し前、全国都道府県知事会議で行った「医師は社会的な常識がない人が多い」との発言の撤回を求めた日本医師会に対し麻生首相は「言葉が不適切だった」と陳謝したばかりだった。日々闘病を続ける患者の気持ちを考えれば、このような放言は到底できないはずだ。 

 諮問会議では社会保障と税財政の一体改革が議論されていたが、議事要旨を読む限り、首相発言は議論を深める内容になっていない。「67、68歳になって同窓会に行くと、よぼよぼしている。今になると、こちらの方が医療費がかかっていない。毎朝歩いたり何かしているからだ。私の方が税金は払っている」などと述べ、その後で不養生の人の医療費を、自分がなぜ払う必要があるのか、という趣旨の発言をした。

 麻生発言の問題点を二つ指摘したい。第一は先天的に病気を抱えている人や摂生していても病気になるケースもあるということだ。難病や重い病と闘っている患者の立場になって考えれば、不摂生によって病気になった人の医療費を「何で私が払うんだ」などという発言はできないはずだ。患者に気を配り、救済するために医療を充実させることが本来、政治が目指すものであるはずだ。

 首相発言は、患者や体の弱い高齢者の気持ちを逆なでするものであり、あまりにも無責任と指摘せざるを得ない。これは漢字の読み間違えとは次元が異なる重要な問題であり、看過できない。あえて言えば、これは政治哲学や思想に深くかかわる問題でもある。

 麻生首相は記者会見で「病の床にある方の気分を害したというなら、おわびしたい」と謝罪したものの、「趣旨は、(病気の)予防を全然考えていない今の(医療)制度はいかがなものかを言った」と釈明した。予防や健康管理の必要性を主張したいのなら、率直に国民に訴えるべきだった。

 問題の2点目は、首相発言が医療保険制度の根幹を揺るがしかねないという点だ。日本は国民皆保険制度を取っている。国民がかけた保険料と税金で、手術や治療などに必要な費用を国民全体で支える共生の仕組みになっている。首相が主張するように、元気で健康な人が「なぜ自分が金を払うんだ」と言い出したら、皆保険制度は崩壊してしまう。

 皆保険制度の仕組みを知りながら、なぜこんな不適切な発言をしたのか。患者だけでなく、多くの国民が理解に苦しんでいる。こうした放言が続けば、首相としての資質を問う声が強まることは避けられまい。

(毎日新聞・社説、2008年11月28日)

****** 読売新聞、2008年11月26日

首相「何もしない人の医療費、なぜ払う」、諮問会議で発言

 麻生首相が20日に開かれた政府の経済財政諮問会議で、社会保障費の抑制を巡って「たらたら飲んで、食べて、何もしない人の分の金(医療費)を何で私が払うんだ」と発言していたことが、26日に公開された議事要旨で分かった。

 与謝野経済財政相が社会保障費の抑制や効率化の重要性を指摘したのを受けて、首相は出席した同窓会の話を紹介しながら「67歳、68歳で同窓会にゆくとよぼよぼしている。医者にやたらかかっている者がいる」、「彼らは学生時代はとても元気だったが、今になるとこちら(首相)の方がはるかに医療費がかかってない。それは毎朝歩いたり何かしているから」と発言した。

 病気を予防することが社会保障費抑制につながることを強調する物言いとみられるが、病気になり医療サービスを受ける人が悪いとも受け取れる発言で波紋を呼びそうだ。

 首相は19日に行われた全国知事会議で「医師には社会的な常識がかなり欠落している人が多い」と発言し、謝罪に追い込まれたばかり。

(読売新聞、2008年11月26日)

****** 毎日新聞、2008年11月26日

麻生首相 医師発言を参院本会議で陳謝 「まことに軽率」

 麻生太郎首相は26日午前の参院本会議で、「(医師は)社会的常識がかなり欠落している人が多い」との自身の発言について、「不適切な発言をしたことはまことに軽率であり、申し訳なく反省している」と踏み込んで陳謝した。最近、「発言の軽さ」を与党内からも批判されていることに配慮したとみられる。医師出身の西島英利氏(自民)の質問に答えた。【山田夢留】

(毎日新聞、2008年11月26日)

****** 共同通信、2008年11月27日

何もしない人の分なぜ払う 医療費で麻生首相が発言

 麻生太郎首相が20日の経済財政諮問会議で、「たらたら飲んで、食べて、何もしない人(患者)の分の金(医療費)を何で私が払うんだ」と発言していたことが26日に公開された議事要旨で分かった。

 首相は全国知事会議で「医師は社会的常識がかなり欠落している人が多い」と発言し、陳謝したばかり。病気になるのは本人の不摂生のためとも受け止められる発言で、波紋が広がりそうだ。

 20日の諮問会議では、社会保障制度と税財政の抜本改革などを議論した。首相は同窓会に出席した経験を引き合いに出し「(学生時代は元気だったが)よぼよぼしている、医者にやたらにかかっている者がいる」と指摘した。

 その上で「今になるとこちら(麻生首相)の方がはるかに医療費がかかってない。それは毎朝歩いたり何かしているからだ。私の方が税金は払っている」と述べ、努力して健康を維持している人が払っている税金が、努力しないで病気になった人の医療費に回っているとの見方を示した。

 さらに「努力して健康を保った人には何かしてくれるとか、そういうインセンティブ(動機づけ)がないといけない」と話した。

(共同通信、2008年11月27日)

****** 日テレニュース、2008年11月27日

何もしない人の医療費、何で私が払う~首相

 麻生首相が、病院に通っている高齢者を指して「たらたら飲んで、食べて、何もしない人の分の金を何で私が払うんだ」などと発言していたことがわかった。

 これは26日に公開された、20日の経済財政諮問会議の議事録で明らかになったもの。社会保障問題の議論の中で、麻生首相は「67歳、68歳になって同窓会に行くと、よぼよぼしている、医者にやたらにかかっている者がいる。彼らは、学生時代はとても元気だったが、今になるとこちら(私)の方がはるかに医療費がかかってない。それは、毎朝歩いたり、何かしているからである。私の方が税金は払っている。たらたら飲んで、食べて、何もしない人の分の金を何で私が払うんだ」などと発言していた。

 その上で、麻生首相は「努力して健康を保った人にインセンティブがないといけない」と述べるなど、予防医学の重要性や健康を保つ努力が必要で、膨らむ医療費の歯止めにつながると強調しているが、配慮に欠けた発言と波紋を広げそうだ。

(日テレニュース、2008年11月27日)

******* 共同通信、2008年11月27日

首相、医療費発言を陳謝 鳩山氏「資質に疑問」

 麻生太郎首相は27日昼、自身が経済財政諮問会議で「何もしない人の分の金(医療費)を何で私が払うんだ」と発言したことについて「今、病の方の気分を害したならおわびします」と陳謝した。官邸で記者団の質問に答えた。

 首相は「(病気の)予防をきちんとすべきだというのが趣旨だ。予防に力を入れると医療費全体が収まる」と釈明。「ただ、先天的な(病気の)人や追突事故をされた人もいるから」と述べた。

 民主党の鳩山由紀夫幹事長は都内で記者団に「失言の中に本質的な間違いが見られる。首相にふさわしいのか首をかしげる」と述べ、資質に疑問を呈した。首相が「努力して健康を保った人には何かしてくれるとか、そういうインセンティブ(動機づけ)がないといけない」と発言したことにも「話そのものが狂っている。とんでもない」と批判した。

 一方、河村建夫官房長官は記者会見で、首相の相次ぐ問題発言を「一つの個性」と擁護。「首相はああいう性格だから、いろんな発言はこれからもあるだろう」と述べた。

(共同通信、2008年11月27日)


地元市町村の医師確保の努力

2008年11月26日 | 地域周産期医療

近年、産科医療は大勢の専門医がチームを組んで診療にあたるスタイルに大きく変貌を遂げつつあり、多くの病院で現状のマンパワーのままでは産科部門の維持が非常に困難な状況となってきました。『連携強化病院に、産婦人科医・小児科医を重点配置する』という県全体の大きな流れの中で、産科部門がいったん閉鎖に追い込まれた(連携強化病院ではない)地元の病院に産科部門を復活させようとすれば、地元市町村としても、相当に思い切った医師確保対策が必要となります。

また、医師確保対策が奏功して産科部門を一度は復活できたとしても、その後の安定した医師の供給が期待できない場合は、将来的に産科部門の維持がまた非常に困難となる事態も予想されます。従って、今後も引き続き医師確保の努力を継続する必要があります。

連携強化病院の指定は診療実績をもとに数年ごとに必ず見直しがある筈です。いくら過去の栄光が素晴らしい名門病院であっても、深刻なマンパワー不足で十分な診療ができなくなってしまった場合は、連携強化病院の指定を解除されても止むを得ないと思われます。逆に、現時点では不十分な診療体制の病院であっても、病院や地元市町村の自助努力で、産婦人科医、小児科医、麻酔科医などの人員がしっかりと確保され、県の周産期医療提供体制の中で非常に重要な役割を果たすようになれば、その努力が報われて、将来的には連携強化病院に指定される可能性もあると思われます。

分娩施設の集約に際し、施設がなくなる地域の自治体や地域住民の理解を得るのは非常に難しいと思われます。医療現場で働く医師達は、それぞれの職場で自分の職責を果たすことに精一杯であり、分娩施設の集約化を推進できる立場にはありません。おそらく、各大学病院産婦人科教授や県知事などの立場にある人が、全県的な医師配置のバランスを考慮して、リーダーシップを発揮していくことになると思われます。

****** 信濃毎日新聞、2008年11月26日

県立須坂病院、常勤産科医に1人3000万円の支度金

 須坂市、上高井郡小布施町と高山村などでつくる須高行政事務組合は、同市の県立須坂病院で新たに常勤となる産婦人科医に、就業支度金として1人3000万円を貸与し、3年間勤務すれば返還を免除する制度を導入する方針を決めた。今月から同病院に着任した非常勤の産婦人科医2人に活用してもらいたい考えだ。

 県病院事業局によると、県内の市町村が県立病院の医師に絞って支援するのは初めてという。3市町村がそれぞれの12月定例議会に、人口割りの制度負担金を盛った本年度一般会計補正予算案などを提出。各議会で可決されれば同組合は年内実施を目指す。

(以下略)

(信濃毎日新聞、2008年11月26日)


妊娠のリスク知ってほしい―現役産婦人科医が11か条の心得(CBニュース)

2008年11月23日 | 地域周産期医療

妊娠はリスクを伴いますが、医療を必要としている妊婦さん達が、病院の産婦人科をだんだん利用しにくくなっているのは大きな問題です。しかし、これは産婦人科医の社会常識やモラルの欠如が根本的な原因ではないことを御理解いただきたいと思います。

産婦人科医達の本来の気持ちとしては、受診を希望する患者さんはみんな診てあげたいと思っているのですが、病院で勤務する産婦人科医の労働環境が年々悪化し、体力・気力の限界に達してぎりぎりのところまで追い詰められた医師達が燃え尽きて次々に離職し、残された医師達の労働環境はますます悪化し、病院から産婦人科の看板が次々に消えていく社会状況となっています。この悪循環を一度しっかりと断ち切って、この国の産婦人科医療提供体制を再構築する必要があると多くの人が考え始めています。すなわち、基幹病院に産婦人科医を集約して、勤務医の労働環境を大幅に改善させて、基幹病院の産婦人科がちょっとやそっとではつぶれないようにすることが大事だと考えています。

産婦人科医療提供体制の構造改革がうまくいっている地域では、最近は産婦人科医の頭数も増え始めており、地域の産婦人科医療提供体制が今後も維持されることを期待できます。

しかし、構造改革に失敗した地域では、今後、ますます地域の産婦人科医の頭数が減り続けて、産婦人科医療の提供そのものが一度は地域から完全に消滅してしまう可能性も危惧されます。

今まさに巷で困っている多くの患者さん達をいかにして救済していくのか?という緊急の課題ですから、10年とか20年とかでだんだんといい方向に向かっていけばよいという悠長な問題ではありません。産婦人科医療提供体制の再構築は、できるだけ早急に一気に実現させる必要があります。理念を示し、国策として、強力に実施する必要があると思います。

****** CBニュース、2008年11月17日

妊娠のリスク知ってほしい―現役産婦人科医が11か条の心得

相次ぐ妊婦の救急医療機関への受け入れ困難の問題を受け、川崎医科大附属病院(岡山県倉敷市)産婦人科医長の宋美玄さんが、思春期以降の男女に妊娠・出産に伴うリスクを理解してもらおうと、妊娠についての心構えなどを示した「妊娠の心得11か条」をつくり、自らのブログで公開している。宋さんは「お産は一般的に『安心、安全』というイメージがあるが、実際は死を伴うこともあるリスクあるもの。産婦人科に来る女性は既に妊娠している段階なので、早い時期から妊娠・出産に対する意識と正しい知識を持ってもらいたい」と話している。【熊田梨恵】

(以下略)

「妊娠の心得11か条」を公開している宋さんのブログ~「LUPOの地球ぶらぶら紀行」
http://blogs.yahoo.co.jp/mihyon0123

(CBニュース、2008年11月17日)


「医師には社会的常識がかなり欠落している人が多い」」「これだけ医師不足が激しくなってくれば、責任は医

2008年11月21日 | インポート

コメント(私見):

産科、小児科、救急などを中心に、全国いたるところで医療崩壊がだんだん現実化しています。医師不足の問題は、早急に解決すべき国家的課題です。国の主導のもとに、県、市町村、大学病院、一般病院、診療所などが足並みをそろえて、一致協力してこの問題を解決する方向に向かっていく必要があります。それなのに、国のリーダーの認識が、『現在の医師不足は、医師の常識欠落が原因!』ということでは、いつまでたってもこの問題は解決しないと思います。医療の担い手である医師達の全面的な協力が得られなければ、この問題を解決することはできないと思います。

****** 毎日新聞・社説、2008年11月21日

「医師は常識欠落」 麻生さん「失言」では済まない

 全国都道府県知事会議で医師不足への対応を問われた麻生太郎首相が「自分で病院を経営しているから言うわけではないが、医者の確保は大変だ。(医師には)社会的常識がかなり欠落している人が多い」と述べた。地方の医師不足の原因が医師側にあることを指摘したかったとみられるが、乱暴な発言だと言わざるを得ない。これには医師の団体だけでなく、首相を支える政府・与党からも批判や苦言が相次いだ。異例のことである。

 麻生首相はさらに「(医師不足が)激しくなれば、責任はお宅ら(医師)の話ではないのか。お医者さんを『減らせ、減らせ』と言ったのは、どなたでしたかという話も申し上げた」と追い打ちをかけた。

 医師の団体が医師抑制を働きかけたことは事実だが、それを後押ししたのは自民党だった。医師不足を医師側の責任と主張するのなら、客観的な事実を示すべきだ。自らの病院経営の中で感じたことを話したのだとすれば説得力がない。首相発言は医師不足の現状を打開する手がかりになるどころか、混乱をもたらすだけだ。こういう発言こそ「社会的常識」を欠いたものと指摘せざるをえない。

 麻生首相は同知事会議の後、記者団に「まともなお医者さんが不快な思いをしたというのであれば、申し訳ありません」と釈明、発言の翌日、首相官邸を訪れた日本医師会の唐沢祥人会長に対し「言葉遣いが不適切であり、撤回したい」と陳謝した。一日で撤回に追い込まれるような発言は二度とすべきではない。

 言わなくてもいいことを軽々に口にし、医師不足にどう対応するのかという、国民が一番聞きたいことを言わないというのは、おかしい。これでは医療に対する国民の不安を取り除くことはできない。

 医師不足を招いた歴史的な経過を踏まえて原因を分析し、具体的な解消策を示すのが政府の仕事である。麻生首相には発言を改めて謝罪し、医師不足対策の先頭に立ってもらいたい。妊婦が受け入れを断られて死亡した問題が起きるなど、医師不足の解消は直ちに取り組むべき問題だからだ。

 人手不足で過重な勤務をしながら、現場で患者のために日夜働いている医師はたくさんいる。こうした医師らの努力を麻生発言が無にしてしまうことにならないか、心配だ。「失言」だと釈明して済む問題ではない。医師不足という「未曽有の危機」を麻生首相はどこまで理解しているのだろうか、と言いたくなる。

 医師不足対策は緊急の課題である。国、都道府県、そして病院や診療所の医師らが足並みをそろえて動き出さないと、問題は解決しない。医師の理解と協力が何よりも必要なときに、あえて神経を逆なでするような不用意な言葉を投げつけてしまった責任は重い。

(毎日新聞・社説、2008年11月21日)

****** 共同通信、2008年11月21日

医師批判発言を陳謝 首相「不適切」と撤回 日医会長の抗議受け

 麻生太郎首相は20日午後、日本医師会(日医)の唐沢祥人(からさわ・よしひと)会長と官邸で会い「医師は社会常識がかなり欠落している人が多い」との自身の発言について陳謝し、撤回した。唐沢氏が「耐え難い環境で医療現場を懸命に守る医師の真摯(しんし)な努力を踏みにじるもので、奈落の底に突き落とされた思いだ」と抗議。首相は「言葉の使い方が不適切だった。発言を撤回し、謝罪する」と述べた。

 自民党を支持する有力団体からの抗議で発言の陳謝と撤回を余儀なくされ、首相の軽率な言動があらためて浮き彫りになった。日医内には「何が何でも自民党を支えるわけではない」(中川俊男(なかがわ・としお)常任理事)との意見があり、衆院解散・総選挙に向け支援態勢にも影響しかねない状況だ。

 面会は日医側が要求した。同席した竹嶋康弘(たけしま・やすひろ)副会長によると、唐沢会長が「特定の職業を名指しして、根拠なしに差別するものであり、激しい憤りを禁じ得ない」「日本の医療を根底から否定するものだ」とする抗議文を読み上げ、首相に手渡した。

 首相は19日の全国知事会議で、医師不足に関し「(医師には)社会的常識がかなり欠落している人が多い。ものすごく価値観が違う」と発言。その後「まともなお医者さんが不快な思いをしたというのであれば、申し訳ない」と述べたが、日医には首相発言に対し、会員からメールなどで数十件の抗議が寄せられたという。

(共同通信、2008年11月21日)

****** 共同通信、2008年11月21日

首相の資質疑われる発言 全国医師連盟も批判

 勤務医らでつくる全国医師連盟(黒川衛(くろかわ・まもる)代表)は20日、麻生太郎首相の「(医師には)社会的常識がかなり欠落している人が多い」との発言について「今後、一国の総理大臣としての資質を疑われるような発言は控えるよう要望する」とのコメントを発表した。

 コメントは、発言について「過労や経営的苦境の中で、患者のために努力している勤務医、開業医を大きく落胆させた」と指摘。「発言後に陳謝したことを差し引いても看過できない」と批判している。

(共同通信、2008年11月21日)

****** 共同通信、2008年11月21日

不愉快な思いさせた 舛添氏も首相発言で陳謝

 舛添要一厚生労働相は20日夜、麻生太郎首相の「(医師には)社会的常識がかなり欠落している人が多い」との発言について「他の政治家の発言を私が謝罪するわけにはいかないが、皆さまに不愉快な思いをおかけしたことをおわびする。その分いい仕事をして挽回(ばんかい)したい」と陳謝した。

 周産期医療と救急医療の連携を検討する厚生労働省専門家会合で述べた。会合は、医師を中心に検討を進めている。

(共同通信、2008年11月21日)

****** 朝日新聞、2008年11月21日

医師会抗議「医療を根底から否定」、首相は陳謝

 医師は「社会的常識がかなり欠落している人が多い」と発言したことをめぐり、日本医師会の唐沢祥人会長が20日、首相官邸に麻生首相を訪ね、「発言は日本の医療を根底から否定するものであり、国民を失望させた」などとする抗議文を手渡した。首相は「発言を撤回します」と述べ、陳謝した。

 唐沢会長は「医師の真摯(しんし)な努力を踏みにじるものであり、奈落の底に突き落とされた思いだ」などと、強い不快感を表明。首相は「『価値観が違う』ことを強調して、『社会的常識が欠落する』という言葉が出てきたわけで、言葉の使い方が不適切だった」と釈明した。

 また、茨城、栃木両県医師会も同日、それぞれ首相あてに「政治家として否、社会人として持つべき常識すら欠如している」「関係者の努力を無にし、日夜身を削っている医師の神経を逆なでする」などとする抗議文を送った。

 首相は同日夜、官邸で記者団に「(唐沢会長には)丁寧に真意のほどを説明して、理解を求めるようにさせていただいたということだと思う」と語った。一方で「具体的な発言の内容について、私の方からその内容をあなたに説明するつもりはありません」と述べ、唐沢会長とのやりとりの詳細は明かさなかった。

(朝日新聞、2008年11月21日)

****** 日本医師会、2008年11月20日
http://dl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20081120.pdf

                 平成20年11月20日
内閣総理大臣
麻生 太郎 殿

     麻生総理の発言に対する抗議

               社団法人 日本医師会
                  会長 唐澤 祥人

 昨日開催された全国都道府県知事会議において、麻生総理は医師について「社会的常識がかなり欠落している人が多い」と発言された。
 この発言は、特定の職業を名指しして、根拠なしに差別するものであり、激しい憤りを禁じえない。
 全国の医師会員を代表して、また国民の一人として断じてこれを認めることはできない。総理には、発言を撤回し、誠意をもって謝罪をしていただきたい。

 いま、医療現場は、常識では考えられないほどの過酷な労働環境にある。国民は、医療を受けられなくなるとの不安に怯え、救急、産科、小児科を中心に医療崩壊が現実化してい ることは、総理も認識されているはずである。
 日本の医療は、医療現場の献身的な努力と、厳しい現状の中でも国民が医師をはじめとした医療関係者を信頼してくれることにより、ぎりぎりのところで持ちこたえられているの である。
 こういう中にあって、総理の発言は、日本の医療を根底から否定するものであり、国民を失望させた。
 先般の二階経済産業大臣の発言に続き、国政を代表する立場にある総理のあまりにも認識を欠いた軽率な発言は、耐え難い環境で医療現場を懸命に守る医師の真摯な努力を踏みに じるものであり、奈落の底に突き落とされた思いである。
このままでは、日本の医療の再生はますます困難になる。

 総理自身が熟考された上で、あやまちを認め、認識をあらためられることを強く求める。

(日本医師会、2008年11月20日)

**** 全国保険医団体連合会、2008年11月20日
http://hodanren.doc-net.or.jp/news/teigen/081120asou.html

医師削減を決めた過去の閣議決定を無視する麻生首相の暴言に断固抗議する

                     2008年11月20日
                 全国保険医団体連合会
                     会長 住江 憲勇

 いま日本は、政府による長年の医療費抑制政策とその帰結である医師不足によって、地域医療が崩壊しつつある。とくに救急医療、産科医療、小児救急に顕著に現れている。ところが、麻生太郎首相は11月19日、全国知事会議で、地方の医師不足に関連し、「地方の病院での医者の確保の話しだが、自分で病院経営しているから言うわけじゃないけど大変だ。社会的常識がかなり欠落している人が多いんで」とのべ、地域医療を守っている医師を誹謗しただけでなく、医師不足の責任について、「責任はおたくら医者の話じゃないんですか。しかも医者の数を減らせ減らせ、多過ぎると言ったのはどなたでしったっけ」とも発言し、医師団体に責任転嫁した。二階俊博経済産業相が10日にのべた、「何よりも医者のモラルの問題だと思いますよ。忙しいだの、人が足りないだのというのは言い訳にすぎない」との暴言と軌を一にするものである。今日の深刻な医師不足を解決しようとする姿勢がまったく見えない麻生首相は行政府の長として失格と言わざるを得ない。

 そもそも、政府は1982年に医師数の抑制を閣議決定し、97年には再び「医学部定員の削減に取り組む」ことを閣議決定した。その結果、今日OECD加盟30カ国中27位で、加盟国の平均値と比べると日本の医師数は13万人も不足し、診療現場に深刻な医師不足問題を生じることになった。これは明らかな失政である。

 政府は今年になって医師の養成数を増やす方針に転換したものの、その内容はまったく不十分であり、現状の医師不足を解決できる内容ではない。就労医師数目標を最低でもOECD諸国平均値以上にするために、医学部定員を大幅に増加するとともに、毎年2200億円の社会保障費の削減を同時に止め、医療費抑制政策を転換させるべきである。

(全国保険医団体連合会、2008年11月20日)

****** 全国医師連盟、2008年11月20日
http://www.doctor2007.com/asou1.html

麻生総理大臣の「社会常識欠落の医師多い」発言に関する報道に際して、全国医師連盟の見解

麻生総理大臣の「社会常識欠落の医師多い」発言は、過労や経営的苦境の中で、 患者さんの為に努力している勤務医・開業医を大きく落胆させました。

多くの医療関係者や超党派国会議員などが、医療の再生に向かって論議し行動しています。 そんな中、現役閣僚である二階経済産業大臣の『医師のモラル』発言に引き続き、 このような発言がなされたことは、発言後に陳謝したことを差し引いても、看過できるものではありません。

一方で、残りの発言には、医師削減を主張してきた団体と、最終的に医師削減政策を推し進めてきた 厚生労働行政に対する苦言や、ハイリスク診療科へのインセンティブの導入の提案などがみられます。 これは、これまでの厚生労働行政における問題の核心を突いており、今後の方向性を示す発言と捉えることもできます。

麻生総理大臣には、今後、一国の総理大臣としての資質を疑われるような発言は控えた上で、 医療崩壊を加速する医療費抑制を転換し、診療環境改善をはかる医療政策を推進することで、 リーダーシップを取っていくことを要望します。

   平成20年11月20日 全国医師連盟執行部

(全国医師連盟、2008年11月20日)

****** 時事通信、2008年11月19日

「社会常識欠けた医者多い」=麻生首相が発言、すぐに陳謝

 麻生太郎首相は19日、首相官邸で開かれた全国知事会議で、地方の医師不足問題に関連して「社会的常識がかなり欠落している人(医者)が多い。とにかくものすごく価値判断が違う」などと述べた。首相はその後、記者団に「まともな医者が不快な思いをしたというのであれば申し訳ない」と陳謝したが、医師の資質を批判したとも受け取れる発言で、今後波紋を呼びそうだ。

 同会議で首相は、「地方病院での医者の確保は、自分で病院経営しているから言うわけじゃないが大変だ」と強調。その上で、「小児科、婦人科が猛烈に問題だ。急患が多いところは皆、(医師の)人がいなくなる」「これだけ(医師不足が)激しくなってくれば、責任は医者の(方にある)話じゃないか」と述べ、産婦人科に対する診療報酬加算などの対応が不十分との認識を示した。

 問題の発言は、医師の多くが産婦人科などでの過重な勤務を敬遠して開業医に流れる現状に、知事側が懸念を示したのに対して飛び出した。首相は同日夜、記者団に「医者は友達にもいっぱいいるが、おれと波長が合わねえのが多い」としながらも、「そういう(社会常識の欠落という)意味では全くない」と釈明した。

(時事通信、2008年11月19日)

****** 時事通信、2008年11月19日

麻生首相こそ社会常識欠落=鳩山氏

 民主党の鳩山由紀夫幹事長は19日夜、麻生太郎首相が地方の医師不足問題に関連し「社会的常識がかなり欠落している人(医者)が多い」などと発言したことについて、「首相の方こそ社会的常識が欠落している」と批判した。都内で記者団に語った。

 これに関連して同党幹部は、「東京も医師不足は深刻で、大都市への偏在が問題という意味なら、失言というより認識不足だ」と指摘。その上で「全国の医者を敵に回す発言で、(支持団体である)医師会の自民党離れに拍車が掛かるのではないか」と述べた。

(時事通信、2008年11月19日)

****** 時事通信、2008年11月20日

首相発言は不適切と官房長官=医師不足問題、自民・大島氏も苦言

 河村建夫官房長官は20日午前の記者会見で、医師不足問題に関連して「社会的常識がかなり欠落している人(医師)が多い」とした麻生太郎首相の発言について「医師不足、特に周産期医療で不幸な事例も起きた責めをすべて医師団に(負わせる)という問題でもない」と述べ、首相発言は不適切だとの認識を示した。

 河村長官は「(首相自身が)謝罪したので、あれこれ言うつもりはない」としつつも、「政府は一丸となって、産科・小児科、救急医療の医師を確保しなきゃいけない。勤務医環境の改善が必要だ」と強調した。

 また、自民党の大島理森国対委員長も同日午前の党正副国対委員長会議で、「昨日から首相のいろいろな発言があったが、首相に対して『言葉は大切である』と申し上げなければならないこともある」と述べ、首相は発言に注意を払うべきだと強調した。大島氏は総裁選で首相を支持するなど盟友関係にあり、異例の苦言を呈した形だ。 

 首相は19日の全国知事会議で「社会的常識の欠落」に言及したほか、「これだけ(不足が)激しくなってくれば、責任は医者の(方にある)話じゃないか」などと発言。その後、記者団に「まともな医者が不快な思いをしたというのであれば申し訳ない」と釈明した。

(時事通信、2008年11月20日)

****** 時事通信、2008年11月20日

「軽さ」際立つ首相発言=失言と軌道修正-与野党が批判

 麻生太郎首相の不用意な発言に与野党から批判が相次いでいる。首相は20日、日本医師会(日医)の唐沢祥人会長に、「社会的常識がかなり欠落している人が(医師に)多い」などとした自身の発言を撤回、陳謝したが、与党内からも首相への苦言は続出。政策に関しても前言撤回や軌道修正が目立ち、与党内には首相発言の「軽さ」を懸念する声が強まっている。

 「まったく言葉の使い方が不適切だった」。首相は同日午後、「医師常識欠落」発言の抗議に訪れた日医の唐沢会長に頭を下げた。

 民主党の菅直人代表代行は同日の記者会見で「常識がないのは首相の方ではないか。本人が非常識だ」と批判した。与党からも「指導者の一言一句に国民の注意が集まる。影響を考えて発言していただきたきたい」(津島雄二元厚相)などと厳しい声が出た。

 日医はもともと自民党の有力支持団体だが、茨城県医師連盟が次期衆院選での民主党支持を打ち出すなど、自民離れの動きがある。今回の首相発言で、自民党内には「医師会が自民党を支援しない口実になる」(閣僚経験者)と影響を気にする声もある。

 生煮えの政策をぶち上げてしまう首相への不満も政府・与党内には根強い。道路特定財源の一般財源化に伴って地方に配分する1兆円について、首相は19日は地方交付税で配る方針を表明したが、自民党道路族が反発するや、20日は「自由に使えるなら何だっていい」とあっさり軌道修正した。

 定額給付金の所得制限の是非をめぐっても、政府・与党決定まで首相の発言が二転三転したのは記憶に新しい。民主党の菅氏は「いろんな発言で迷走している『迷走総理』だ。首相としての資質を欠いている」と指摘した。与党内には「(首相は)トップダウンでアピールしたいのだろうが、やることなすこと全部裏目。このままでは政権は駄目だ」と弱気な声も出始めている。

(時事通信、2008年11月20日)

****** 時事通信、2008年11月20日

「医師常識欠落」発言を撤回=日医会長に陳謝-麻生首相

 麻生太郎首相は20日午後、日本医師会(日医)の唐沢祥人会長と首相官邸で会い、「社会的常識がかなり欠落している人が(医師に)多い」などとした自身の発言について、「価値観が違うことを強調したかったが、まったく言葉の使い方が不適切だった」などと陳謝し、撤回した。

 会談を受け、首相は同日夜、首相官邸で記者団に対し「丁寧に真意を説明し理解をいただいた」と述べた。また、「新聞記者の挑発に乗ることなく務めなければいかん、と電話をしてきた人もいっぱいいた。発言は慎重にというご意思を大変ありがたく受け止めさせていただく」と述べ、自身の発言に慎重を期す考えを示した。

 唐沢氏は、発言に抗議するために訪れたもので「医療現場は、常識では考えられない過酷な労働環境にある」と現状を説明、「国政を代表する総理のあまりにも認識を欠いた軽率な発言は、耐え難い環境で医療現場を守る医師の真摯(しんし)な努力を踏みにじるものだ」と首相を批判する抗議文を提出し、謝罪と発言の撤回を求めた。会談後、唐沢氏は記者団に「(首相には医師を)できるだけ励ましてもらいたい」と語った。 

 この後、会談に同席した竹嶋康弘副会長が厚生労働省で記者会見し、国政選挙で自民党を支持してきた日医の方針について「今度の発言で変えることはない」と述べた。

 一方、河村建夫官房長官は同日の記者会見で「首相の旺盛なサービス精神が勇み足をしたのかなという思いもする」と擁護しつつも、「一国の首相としてできるだけ慎重にやっていただくに越したことはない」と語った。

(時事通信、2008年11月20日)

****** 時事通信、2008年11月21日

首相発言、閣僚からも苦言=「慎重かつ慎重に」「不適切」

 麻生太郎首相が医師不足問題に関連して「社会的常識がかなり欠落している人が(医師に)多い」と発言したことに対し、21日の閣議後の記者会見で、閣僚からも苦言を呈する声が相次いだ。

 野田聖子消費者行政担当相は「首相は一言一言が大きな影響を及ぼす。慎重に、かつ慎重にやっていかなければならない」と指摘し、小渕優子少子化担当相は「国民に誤解のないように発言をしなければならない」と不快感を示した。

 また、公明党の斉藤鉄夫環境相は「わたしは必死で地域医療を支えている方のご努力を知っている。あの発言は不適切」と厳しく批判。塩谷立文部科学相も「今後またそういうことのないよう注意深くやっていただくことだ」と注文を付けた。

 一方、首相が道路特定財源の一般財源化に伴う地方への配分額1兆3000億円超のうち、1兆円を使途が限定されない地方交付税にすると発言し、翌日に交付税にはこだわらないと軌道修正したことをめぐり、河村建夫官房長官は「道路特定財源については(自民党の)PT(プロジェクトチーム)にお任せするのが基本線だから、当面は静観をいただくことがこれからは必要」と述べた。自民党内の論議を見守る姿勢を示したものだ。

 これに対し、首相に近い鳩山邦夫総務相は「首相は正しい認識を持っている。地方が自由に使えるお金(という首相の解釈)が、一般財源化の意味だ」と語り、首相を全面的に擁護した。

(時事通信、2008年11月21日)

****** 共同通信、2008年11月20日

「医師は社会常識欠ける」 首相、知事会で問題発言 すぐに陳謝、医師会反発

 麻生太郎首相は19日、官邸で開かれた全国知事会議で、医師不足問題に関連し「自分で病院を経営しているから言うわけではないが、医師の確保が大変なのはよく分かる。(医師には)社会的常識がかなり欠落している人が多い。ものすごく価値観が違う」と発言した。

 地域や診療科により医師不足が深刻な現状に関し、医師の資質自体にも原因があるとの見方を示したとみられる。首相は同日夜、記者団に発言の真意を問われ「まともなお医者さんが不快な思いをしたというのであれば申し訳ない」と陳謝したが、医師の団体は強く反発しており、波紋が広がりそうだ。

 知事会議で、首相は「小児科、婦人科といったところは急患が多いから、みんな医師が引く。そういう診療科は(診療報酬の)点数を引き上げればいい」と指摘。その上で「これだけ医師不足が激しくなれば責任は医師側にあるのではないか」と述べた。

 また、首相は記者団に「医者は友達にもいっぱいいるが、おれたちと波長が合わないのが多い」とも説明した。

 首相の親族による麻生グループは、福岡県飯塚市で「飯塚病院」を経営している。

(共同通信、2008年11月20日)

****** 共同通信、2008年11月20日

首相発言要旨

 麻生太郎首相の全国知事会議での医師をめぐる発言の要旨は以下の通り。

 (出席知事の医師不足に関する発言に対し)医者の確保をとの話だが、自分で病院を経営しているから言う訳じゃないけど、大変ですよ。はっきり言って、最も社会的常識がかなり欠落している人が多い。ものすごく価値判断が違うから。それはそれで、そういう方をどうするかという話を真剣にやらないと。全然違う、すごく違う。そういうことをよく分かった上で、これは大問題だ。

 小児科、婦人科(の医師不足)が猛烈に問題になっているが、これは急患が多いから。急患が多いところは皆、人が引く。点数が入らない。点数を変えたらいいんです。これだけ激しくなってくると、医師会もいろいろ、厚生省も、5年前に必ずこういうことになりますよと申し上げて、そのまま答えがこないままになっている。

 これはちょっと正直、これだけ激しくなってくれば、責任はおたくらの話ではないですか。おたくってお医者さんの。しかも、お医者の数を減らせ減らせと言ったのはどなたでしたか、と申し上げて。党としても激しく申し上げた記憶がある。臨床研修医制度の見直しについてはあらためて考え直さなきゃいけない。

(共同通信、2008年11月20日)

****** 共同通信、2008年11月20日

「首相の言葉と思えない」 医師の団体が反発

 麻生太郎首相の「医師は社会常識がかなり欠落している人が多い」という発言に関連して、医師の団体からは批判や反発の声が相次いだ。

 病院勤務医を中心に約800人が加盟する「全国医師連盟」の黒川衛(くろかわ・まもる)代表は「驚いた。一国の首相の言葉とは思えない配慮のない発言で残念だ」とした上で、「一生懸命働いている医療者のことを真剣に考え、社会全体で医師不足対策を考えてほしい」と注文を付けた。

 また開業医が多い全国保険医団体連合会の住江憲勇(すみえ・けんゆう)会長は「日本の医療費が低水準にある中で、地域医療を守っている医師の気持ちを全く理解していない」と切り捨て、「二階俊博経産相が、相次ぐ妊婦の受け入れ拒否は『医師のモラルの問題』と発言したのを撤回したばかり。医師不足に関する麻生内閣の認識はどうなっているのか」と批判した。

 定例記者会見中に首相発言が舞い込んだ日本医師会の中川俊男常任理事は「信じられない。これから確認したい」と述べ、あぜんとした表情を見せた。

(共同通信、2008年11月20日)

****** 共同通信、2008年11月20日

国のトップとして認識不足

 東大医科学研究所准教授で、産科医らでつくる「周産期医療の崩壊を食い止める会」事務局長の上昌広(かみ・まさひろ)氏の話 医師不足や、特に小児科や産科の医師の過酷な勤務状況は報道などを通じ明らかになって久しい。舛添要一厚生労働相や医療界など、関係者が一丸となって、問題打開に向けて尽力している最中、国のトップがこのような発言をするのは、認識不足で、残念としか言いようがない。

(共同通信、2008年11月20日)

****** 共同通信、2008年11月20日

厚労相が首相発言に苦言  誤解招く発言気を付けて

 舛添要一厚生労働相は20日、麻生太郎首相が「(医師には)社会的常識がかなり欠落している人が多い」と発言したことについて「現場で勤務医も悲鳴を上げながら頑張っており、そういう方々に誤解を与えるようなことがあったら残念。医師不足、医療崩壊(などの対策)に全力を挙げているので、政府の姿勢を示すためにも誤解を招く発言は気を付けられた方がいいと思う」と苦言を呈した。

 その上で「首相も謝罪したということなので、反省の上にたって問題の解決に努めたい」と強調した。都内で記者団に述べた。

 河村建夫官房長官も同日の記者会見で、「国民は医師不足の状況を不安に思っている。その責めをすべて医師にというわけにはいかない。政府も医師の確保や勤務環境の改善など現況を変える取り組みを急ぐ必要がある」と述べた。

 また自民党の大島理森国対委員長も国対正副委員長会議で「昨日からいろいろな発言があるが、首相に対し『言葉は大切だ』と申し上げなければならないこともある」と述べた。同党内では「非常識な発言。こんな発言を続けられたら次の選挙は戦えない」(中堅議員)などの声が上がっている。

(共同通信、2008年11月20日)

****** 毎日新聞、2008年11月20日

麻生首相:「医者は社会的常識が欠落」 地方の不足巡り放言

 麻生太郎首相は19日、全国都道府県知事会議で地方の医師不足への対応を問われ、「自分で病院を経営しているから言うわけではないが、医者の確保は大変だ。(医師には)社会的常識がかなり欠落している人が多い。うちで何百人扱っているからよく分かる」と述べた。地方の医師不足の原因が医師側にあることを指摘したものだが、日本医師会などが反発するのは必至だ。(5面に発言要旨)

 さらに、「正直これだけ(医師不足が)激しくなれば、責任はお宅ら、お医者さんの話ではないのか。お医者さんを『減らせ減らせ、多すぎだ』と言ったのはどなたでしたか」と、過去の医師側の発言を紹介する形で批判した。

 首相は同日夜、首相官邸で記者団に「お医者さんになったおれの友達もいっぱいいるんだけれど、何となく意見が全然、普段から波長の合わないのが多いな」と感想を述べた。一方で、「まともなお医者さんが不快な思いをしたというのであれば、それは申し訳ありません」と釈明した。【石川貴教】

(毎日新聞、2008年11月20日)

****** 毎日新聞、2008年11月20日

麻生首相:「医師は常識欠落」発言撤回 言葉不適切と謝罪

 麻生太郎首相は20日、「(医師は)社会的常識がかなり欠落している人が多い」などとした自らの発言について、首相官邸に抗議に訪れた日本医師会の唐沢祥人会長に「言葉の使い方が不適切だった」と伝え、発言を撤回したうえで謝罪した。

 同席した日医の竹嶋康弘副会長によると、唐沢会長は「特定の職業を名指しし、根拠なしに差別するもので、激しい憤りを禁じ得ない」などとした抗議文を読み上げて首相に手渡した。首相は「医師の価値観が(一般の人と)違うことを強調した流れで、『社会的常識が欠落』という言葉を使ってしまった。撤回し、謝罪いたします」と答えたという。

 日医をめぐっては、後期高齢者医療制度を批判する茨城県医師会の政治団体が次期衆院選での民主党候補推薦を決めるなど混乱が続いている。首相発言には全国の会員から抗議のメールが多数寄せられているという。

 衆院選への影響について、記者会見した中川俊男常任理事は「現場の気持ちを踏みにじった発言で、かなりの影響があるのではないか」と語った。【吉田啓志】

(毎日新聞、2008年11月20日)

****** 毎日新聞、2008年11月20日

麻生首相:「医師常識欠落」発言 舛添厚労相が苦言

 麻生太郎首相が医師について「社会的常識が欠落した人が多い」と発言したことに対し、舛添要一厚生労働相は20日午前、「現場の勤務医も悲鳴を上げながら頑張っている。そういう方々に勇気をくじく誤解を与えるようなことがあれば残念だ」と述べ、苦言を呈した。東京都内で記者団に語った。

 これに関連し、河村建夫官房長官は同日午前の記者会見で、「首相自身が謝罪しており、あれこれ言うつもりはない」と述べたうえで、「政府は一丸となって産科、小児科、救急医療の医師を確保しなければいけない」と医師不足対策に取り組む姿勢を強調した。

 一方、全国の開業医・歯科医で構成する「全国保険医団体連合会」は同日「深刻な医師不足を解決しようとする姿勢がまったく見えない」などと首相の発言に抗議する声明を発表した。【坂口裕彦】

(毎日新聞、2008年11月20日)

****** 朝日新聞、2008年11月20日

首相発言に批判・苦言相次ぐ 閣僚・自民党内から

 麻生首相が、道路特定財源や郵政会社の株式売却をめぐって党内論議を経ずに踏み込んだ発言を繰り返したり、「(医者は)社会常識がかなり欠落している人が多い」と発言したりしたことに対し、自民党内や閣僚からは20日、批判や苦言が相次いだ。

 自民党の山本有二道路調査会長は、道路特定財源の一般財源化により1兆円を地方交付税として配分する、という前日の首相発言について記者団に「あり得ない。誰も守らない。今後の道路行政に新たな支障が起きる」と批判。首相の漢字の読み間違いが続いていることを挙げて「交付税を交付金と読んだらつじつまが合う」と皮肉った。

 参院自民党の脇雅史国会対策筆頭副委員長も会見で、道路問題で「公の場で発言されて趣旨がよく分からないというのは非常に問題」と批判した。

 郵政株の売却をめぐる発言に対しても、中川秀直元幹事長が町村派総会で「郵政民営化をひっくり返すことは我々がやってきたことの全否定になる。断固許してはならない」と強く批判した。

 一方、首相の「医者の社会常識欠落」発言には、舛添厚生労働相が東京都内で記者団に「現場の勤務医も悲鳴をあげながら頑張っているので、勇気をくじく誤解を与えるようなことがあれば残念。誤解を与えるような発言は気をつけた方がよい」と苦言を呈した。河村官房長官は会見で「医療を取り巻く現況の厳しさの責めを、すべて医師にというわけではない」と釈明した。

 相次いだ首相の発言に、相談相手でもある同党の大島理森国対委員長も、会議で「昨日から総理のいろいろの発言がある。総理に対して言葉は大切である、と申し上げなければいけない」と語った。

(朝日新聞、2008年11月20日)

****** NHKニュース、2008年11月19日

首相 社会常識欠落の医師多い

麻生総理大臣は、総理大臣官邸で開かれた全国知事会との会合に出席し、地方が抱える医師不足の問題について、みずからの考え方を示した際、医師のことを「社会的な常識がかなり欠落している人が多い」と発言しました。

これは、会合の中で出席した知事から「地方が抱える医師不足の問題についてどう考えるか」という質問が出たのに対し、麻生総理大臣が、みずからの考え方を述べた際に発言したものです。この中で麻生総理大臣は、医師不足の問題に関連して「自分で病院を経営しているから言うわけではないが、はっきり言って、社会的な常識がかなり欠落している人が多いと思われる。とにかく、ものすごく価値判断が違う。それはそれで、そういう方をどうするかという話を真剣にやらないといけない」と述べました。また、麻生総理大臣は「急患が多い診療科は、皆、医者は引く。だとしたら、そういう診療科だけ診療報酬を引き上げるなど、変えてみたらどうか。正直、これだけ医師不足が激しくなってくれば、責任は医師の側にあるのではないか。ただ、目先のことをどうするかというところで、医師不足の声をしんしに受け止めなければならない」と述べました。これについて日本医師会の中川俊男常任理事は、定例の記者会見で「麻生総理大臣がそのような発言をするとは、とても信じられない。事実関係を確認したい」と述べました。日本医師会では、麻生総理大臣の発言について、真意を確認したうえで今後の対応を検討することにしています。麻生総理大臣は19日夜、総理大臣官邸で記者団に対し「おれの友達にも医者がいっぱいいるが、なんとなく話をしても、ふだん、おれとは波長が合わない人が多いと思った。まともな医者が不快な思いをしたというのであれば、それは申し訳ない」と述べました。

(NHKニュース、2008年11月19日)


上田市周辺の周産期医療体制について

2008年11月19日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

現代の周産期医療は典型的なチーム医療の世界で、産科医、助産師、新生児科医、麻酔科医などの非常に多くの専門家たちが、勤務交替をしながら一致団結してチームとして診療を実施しています。地域内に周産期医療の大きなチームを結成し、毎年、新人獲得・専門医の育成などのチーム維持の努力を積み重ねて、チームを10年先も20年先も安定的に維持・継続していく必要があります。若い新人医師達は、症例豊富な研修施設で、先輩医師から指導を受けつつ、多くの経験を積み、だんだんと一人前に成長していきます。

学生時代や研修医時代に特定の市から奨学金を貸与された若い新人医師達が、産婦人科医としての第1歩をその地で踏み出そうとしても、地域に研修施設が存在しなければ、現実的には最初の数年間は他地域の研修施設に行って修行を積んで来るしかありません。また専門医資格を取得してからでも、腕を振るえる職場や周産期医療チームが存在しなければ、いつまでたってもその地域に戻って来ることができません。

上田市を中心とした「上小(じょうしょう)医療圏」(人口:約22万人、分娩件数:約1800件)では、国立病院機構長野病院・産婦人科が地域で唯一の産科2次施設としての役割を担ってきましたが、昨年11月に派遣元の昭和大学より常勤医4人全員を引き揚げる方針が病院側に示され、新規の分娩予約の受け付けを休止しました。来年3月まで常勤医1人の派遣が継続されますが、現在は分娩に対応してません。現在、同医療圏内で分娩に対応している医療機関は、上田市産院、上田原レディース&マタニティークリニック、角田産婦人科内科医院の3つの1次施設のみです。ハイリスク妊娠や異常分娩は、信州大付属病院(松本市)、県立こども病院(安曇野市)、佐久総合病院(佐久市)、長野赤十字病院(長野市)、篠ノ井総合病院(長野市)などに紹介されます。分娩経過中に母児が急変したような場合は、救急車でこれらの医療圏外の高次施設に母体搬送されることになり、医療圏内に母体搬送を受け入れる産科2次施設は存在しません。

この地域で産科2次医療体制がちゃんと機能する必要があることは誰の目にも明らかですが、この問題に対して医療圏内の各自治体がてんでばらばらに対応していたんでは、いつまでたっても地域の周産期医療提供体制立て直しの第1歩を踏み出せません。次世代のために、医療圏全体でよく話し合って、長期的構想のもとに一致協力し、国・県・周辺の医療圏・地元大学医学部などとも歩調を合わせて、地域の周産期医療提供体制を再構築していく必要があると思われます。

****** 信濃毎日新聞、2008年11月19日

ハイリスク出産で連携強化

上田市保健所で会合受け入れ基準など情報共有

 上田保健所(柳谷信之所長、上田市材木町)は15日、上田市の4産科医療機関、佐久、長野地域の基幹病院に呼び掛け、産科医療に係る連携会議を同保健所で開いた。国立病院機構長野病院(上田市緑が丘)の産科休止でハイリスク出産に対応できない上小地域から周辺基幹病院へのハイリスクの妊婦の紹介が行われているが、よりスムーズな連携を図るために、各基幹病院で異なる紹介時期や受け入れ基準など情報を共有化することを確認した。

 長野病院、市産院、市内の2民間産科医療機関と、佐久総合、浅間総合、篠ノ井総合、長野赤十字、小諸厚生総合の各病院の産科医ら、佐久・長野保健所が出席した。

 会議は冒頭以外非公開。上田保健所によると、現時点でハイリスクの妊婦の紹介や緊急搬送で大きな問題は起きていないと各病院の報告があった。

 その後、ハイリスクの妊婦健診を上小地域で行い、適切な時期に妊婦を周辺基幹病院へ移すことで基幹病院と妊婦の負担軽減を図ることや、これまで以上にスムーズな連携のために、受け入れ側の各基幹病院がどの疾患妊婦をどの段階で受け入れられるのかなど、緊急搬送を含めた紹介基準を集約して共有化することが確認された。

(信濃毎日新聞、2008年11月19日)

****** 信濃毎日新聞、2008年11月18日

医学生や研修医に資金貸与へ 

上田市が医師確保策

 上田市は医師確保策として来年1月から、医学生、医学部の大学院生と研修医、医師に資金を貸与し、市が指定する医療機関に一定期間勤務した場合に返還を免除する制度を導入する。市によると、これまでに県内で大学院生や研修医対象の貸与制度を導入している市町村はないという。また、小さい子どもを持つ女性医師が上田市産院に勤めやすいよう、医師が希望した場合に市がベビーシッターを雇用するほか、産院医師住宅も改修する。

 貸与条件などを定める条例案と、本年度分の予算676万円を盛った一般会計補正予算案を25日開会の12月定例市議会に提出する。

 指定する医療機関は、市産院、市武石診療所、国立病院機構長野病院、小県郡長和町との一部事務組合で設置する依田窪病院を予定している。

 医学部生対象の「修学資金」は月額20万円で、貸与を受けた期間と同期間の勤務で返還を免除する。診療科の制限はない。医学部の大学院生と研修医が対象の「研修資金」は月額30万円で、免除は貸与を受けた期間の1・5倍の期間の勤務が条件。現職医師には「研究資金」として、3年で300万円と2年で200万円の2種類を用意。大学院生、研修医、現職の医師は、産科、小児科、麻酔科への勤務を条件とする。

 上田市内では、市産院が常勤医1人、非常勤医3人の態勢。長野病院は、産科医4人を派遣していた昭和大(東京)が段階的に引き揚げ、今年8月からは残った1人が婦人科の外来診療だけをしているなど、産科医などが足りない状態が続いている。

(信濃毎日新聞、2008年11月18日)


神奈川県の産科医不足問題

2008年11月15日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

神奈川県の場合、妊娠反応が陽性になってすぐに病院を受診しても、なかなか分娩予約ができない状況のところもあると聞いてます。数年前から話題になっていますが、最近になってもいまだに分娩取扱いを中止する自治体病院の報道が続いています。

首都圏は交通の便がよいので、今のところは最終的に何とかなっているのかもしれませんが、いろいろ努力しても、結局、神奈川県内で分娩予約ができなかった人たちは、一体全体、どこで産むことになるのでしょうか?東京都内に流れることになるのでしょうか?妊婦健診を受けず陣痛開始してからいきなり救急車で病院に駆け込む(飛び込み出産)しかないのでしょうか?

首都圏は人口が集中しているだけに、首都圏からいったんお産難民が大量に出現し始めたら、日本中どこを探しても、どこにもお産難民の受け皿がなくなってしまう可能性が高いと考えられます。

産科医の頭数が圧倒的に不足していますので、多くの新人を獲得する必要がありますが、産科医の養成には10年かかります。日本中どこにも産科医は余ってませんので、他の地域から出来上がった産科医を引っ張ってくるのは至難の業です。今、現場に踏みとどまっている産科医達がこれ以上離職しないような対策を、国策として強力に実施する必要があります。

****** 東京新聞、2008年10月22日

お産難民首都圏でも 横須賀市深刻年300人が市外出産

 深刻な産科医不足で出産場所がなかなか見つからない“お産難民”が、首都圏にも押し寄せている。特に神奈川県では、三浦半島の横須賀市で四年ほど前から始まった産科医不足が、隣接の横浜市などに波及。横須賀市では年間三百人程度の妊婦が、市外でのお産を余儀なくされているという。お産難民が流入する横浜市でも出産施設が非常に少ない区が増加するなど、危機的な状況は悪化の一途をたどっている。【稲垣太郎】

 「うわさでは聞いていましたが、まさかここまでとは思いませんでした」。今月初め、横須賀市内のバス停。臨月のおなかを抱えながらバスを待っていた横浜市金沢区の主婦(31)は、妊娠したころをそう振り返った。今年初め、市販検査薬で妊娠に気づいた。「子宮筋腫を持っていたので、お産は大きい病院の方がいい」と思い、以前から知っていた横浜市と横須賀市の四つの病院にすぐに電話を入れた。だが「予約がいっぱい」と全部断られた。

 さらに五病院に電話したが、すべて「お産はやらなくなったんですよ」と言われて愕然(がくぜん)とした。結局、病院を断念し、地元の診療所に通うことに。「二人目も欲しいが、これからどうなっていくのか」と不安げに話した。

 三浦半島に広がる横須賀市は人口約四十二万人。以前、産科施設は病院と診療所、助産所の計九つあったが、二〇〇四年以降、二病院と一診療所がお産の取り扱いをやめた。

 年間四百件近いお産を扱っていた聖ヨゼフ病院の事務部長は「産婦人科に常勤医が三人いたが、二人が大学の医局に引き揚げられ、もう一人は定年退職して医師がいなくなった」と話す。年間六百件以上を扱っていた民間病院の担当者も「常勤の産科医が三人いたが、全員、大学の医局に引き揚げられた。再開したいが、医師の確保が難しい」と言う。

 市の昨年の出生届は約三千三百件。お産件数との差などから市では、このうち約三百人の赤ちゃんが横浜市など市外で生まれたとみている。

 さらに横須賀市では、年間約六百五十件のお産を扱ってきた民間診療所が今年いっぱいで、院長の健康問題で閉院することが決まり、お産難民は一層増えそうだ。

 神奈川県内でお産を取り扱う病院は、三年前の七十八病院から六十四病院へと18%減少。診療所は二〇〇二年に約百施設あったが、今年は約六十施設と四割も減った。

 人口約三百六十万人の横浜市でも今年四月の市の調査で、お産を扱う施設がなかったのは栄区、一施設だったのは緑、西、瀬谷の計三区、二施設だったのは計五区。

(以下略)

(東京新聞、2008年10月22日)


出産費支払い不要、一時金は直接病院へ…政府方針

2008年11月11日 | 出産・育児

現行制度では、親がいったん医療機関に分娩費用を支払い、出産後に健康保険組合など公的医療保険から出産育児一時金(現在は35万円)が親に支給される仕組みになっています。しかし、この出産育児一時金を他の用途に使ってしまい医療機関に分娩費用を支払わない親が増えて、昨年度だけで医療機関の分娩費用の未収金が12億円もあったそうです。そこで、来年度からは、出産育児一時金を直接、医療機関に支払うように制度を改めるとのことです。さらに、地域により分娩費用を一律に設定して、不足分を公費で上乗せして支給することにより、親が医療機関に対して分娩費用を支払わなくても済むような方向で調整しているとのことです。

『産科医、小児科医、麻酔科医などが院内に常駐し、急変時の迅速な医学的対応がいつでも可能で、いざとなれば脳神経外科医もすぐに対応してくれる施設』でも、『急変時の医学的対応がほとんど何もできない施設』でも、分娩費用が地域によりすべて一律というのでは、全く納得できません。それぞれの施設によって提供できるサービスも必要経費も全く違うのですから、地域によって分娩費用を一律に設定するのはかなりの無理があります。各施設の提供できるサービスに応じて、料金設定に大きな差があって当然だと思います。

****** 共同通信、2008年11月13日

出産一時金、額を地域別に  来秋にも、厚労省方針

 厚生労働省は13日、出産時に公的医療保険から支給される「出産育児一時金」について、全国一律35万円の支給額(来年1月から38万円)を来年秋にも改め、地域ごとに異なる出産費用の実態を反映させ、都道府県別の額に変更する方針を固めた。

 併せて、妊産婦や家族が医療機関の窓口で費用全額をいったん“立て替え払い”した後、健康保険組合など公的保険から一時金を受け取る現行制度も見直し。手元に現金がなくても出産に臨めるよう、健保組合などに医療機関への一時金の直接支払いを義務付ける。来年の通常国会に関連法案を提出する方針。

(以下略)

(共同通信、2008年11月13日)


分娩施設の集約・産科医の再配置

2008年11月09日 | 地域周産期医療

1分娩施設あたりの産婦人科医数は、米国が6.7人、英国が7.1人に対し、日本はわずか1.4人に過ぎません。少人数体制だとどうしても勤務が過酷になってしまい、離職者がますます増えてしまいます。分娩施設を集約し、少なくとも産婦人科医5~6人体制に強化することにより、分娩の安全性が向上し、過酷な労働環境も改善できます。常勤医師の離脱もある程度はくい止められると思います。新人も入ってきやすくなると思います。

また、現在の若い産婦人科医は50%以上が女性医師です。女性医師達が勤務と出産・育児とを両立できず次々に辞めていくようでは、産婦人科医数はますます減る一方です。産婦人科の職場環境を、子育て中の女性医師が勤務しやすい環境に変革していく必要があります。そのためにも、分娩施設を集約し、1施設あたりの常勤医師数を増やす必要があると思われます。

ただ、分娩施設の集約に際し、施設がなくなる地域の自治体や地域住民の理解を得るのは非常に難しいと思います。現場で働く医師達は、分娩施設の集約化を推進できる立場にありません。おそらく、各大学病院産婦人科教授や県知事などの立場にある人が、全県的な医師配置のバランスを考慮して、リーダーシップを発揮していくことになると思われます。


出産育児一時金、補償制度未加入の医療機関は据え置き

2008年11月08日 | 出産・育児

****** 読売新聞、2008年11月6日

出産育児一時金、補償制度未加入の医療機関は据え置き…厚労省

 厚生労働省は5日、来年1月からの産科医療補償制度(無過失補償制度)導入に伴い、現行35万円から38万円に引き上げられる出産育児一時金について、同制度に未加入の医療機関で出産した場合の一時金は35万円に据え置く方針を明らかにした。

 同日の中央社会保険医療協議会(中医協)で説明した。

 同制度は、出産時の医療事故で脳性まひとなった子に、医師が無過失でも計3000万円の補償金を支払う仕組み。医療機関が出産1件につき3万円の保険料を負担することから、出産費用への転嫁が予想されている。

 このため、厚労省は公的医療保険が支給する出産育児一時金の3万円引き上げを決めていたが、医療機関が同制度未加入なら加算は不要と判断した。

 一方、同制度への加入を促すため、厚労省は中医協に、早産など危険性の高い妊産婦の管理に加算される診療報酬は同制度への加入を請求の要件とする案を示し、了承された。

(読売新聞、2008年11月6日)

****** 共同通信、2008年11月5日

未加入先の出産は据え置き  補償制度で一時金支給額

 厚生労働省は5日、産科医療で「無過失補償制度」が来年1月導入されるのに伴い、現行の35万円から38万円に支給額を引き上げる予定の「出産育児一時金」について、同制度に加入していない病院や診療所、助産所で出産した人には、引き上げ分の3万円を支給せず現行額に据え置く方針を決めた。

 お産を扱う病院など約3300カ所の加入率は現在95%。厚労省は100%加入させ、安心して出産できるよう妊産婦全員をカバーしたい考えだ。

 無過失補償は、出産事故で脳性まひの子が生まれた場合、医師に過失がなくても妊産婦に計3000万円を支払う制度。医療機関が負担する制度の掛け金3万円が転嫁され出産費用が高くなる見込みで、その分の出産育児一時金引き上げが決まっていた。一時金は公的医療保険から支給される。

(共同通信、2008年11月5日)

****** 毎日新聞、2008年11月5日

産科医療補償制度:診療報酬加算請求は加入が条件…中医協

 厚生労働相の諮問機関、中央社会保険医療協議会(中医協)は5日、09年1月にスタートする「産科医療補償制度」に加入する医療機関でないと、産科・産婦人科向けの2種類の診療報酬加算を請求できないようにする方針を了承した。

 産科医療補償は、通常分娩(ぶんべん)で脳性まひとなった人に対し、20年間で3000万円を支給する制度。4日現在、医療機関の加入率は95.1%だが、厚労省は「100%加入する必要がある」として、診療報酬の「ハイリスク妊娠管理加算」(1万円)と「同分娩管理加算」(2万円)を請求できる医療機関に関しては、同補償制度への加入を条件とする案を中医協に示していた。【吉田啓志】

(毎日新聞、2008年11月5日)


母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例(その8)

2008年11月08日 | 地域周産期医療

私見(コメント):

現在の周産期医療の搬送システムは、胎児・新生児の救命という点を主軸に構成されています。総合周産期母子医療センターでも、常勤医師の専門分野が新生児科、産科、麻酔科、新生児外科などの胎児・新生児の管理に特化している施設も少なくありません。

妊婦の脳出血への対応ということになると、母体搬送の受け入れを要請する電話連絡では、患者を送り出す側の医師も、患者を受け入れる側の医師も、両方とも産科医で、脳出血に関しては全くの素人どうしの電話のやり取りですから、双方とも脳出血に対してどのように対応したらいいのか?の専門的知識に乏しく、瞬時に適切な判断を下すことが困難な場合も時にあり得ます。

都内のどこかで産科の緊急事態が発生する度に、個々の医療機関の産科医達が必死の思いであちこち電話しまくって、多くの候補の中から搬送先を何とか探し出すというような患者搬送システムでは、運が悪いと超緊急時でも搬送先が決定するまでに何時間もかかってしまうことが時に起こり得ます。人口が集中し、多くの医療機関を選択できる大都会では、関係する人の数が非常に多くなるので、適切な調整役が必要だと思います。

妊婦のけいれんや意識障害は、我々の施設でも時々経験します。子癇などの純粋な産科疾患で産科病棟だけで何とか対応できる場合が多いのですが、時には、患者が搬送されて来た直後に脳神経外科でただちに緊急手術をしていただく場合もあります。そういう緊急事態の場合は、夜中でも、産科、脳神経外科、小児科、麻酔科などの医師達がほぼ全員集合し、みんなでわいわい協議し、一致団結して事にあたります。(たまたま今の勤務先には大学の同級生が多く勤務していて、長い付き合いで互いの性格、技量を知り尽くしている仲間達なので、緊急時はみんな本当に頼りになります。)地方病院では、医師達は病院から10分以内のところに住んでいることが多いですから、一大事に関係医師を全員呼び出すことは比較的容易です。また、母体搬送の受け入れが可能な医療機関は地域ごとにほぼ1施設に限られてしまい、他に選択肢が全くないので、受け入れ先決定までの時間はほとんど問題になりません。

母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例

母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例(その2)

母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例(その3)

母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例(その4)

母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例(その5)

母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例(その6)

母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例(その7)

****** 産経新聞、2008年11月6日

続く脳内出血の妊婦受け入れ拒否 医療機関の連携急務

 東京都で9月下旬、30代前半の妊婦が脳内出血となったものの、杏林大病院(三鷹市)など少なくとも6つの病院に受け入れを断られた末、意識不明に陥っていることが分かった。東京では10月上旬にも、やはり脳内出血になった妊婦(36)が都立墨東病院(墨田区)など8病院に搬送を断られた末に死亡したばかり。2つの事例からは、脳内出血という症状の特異性や、医療機関同士のコミュニケーション不足が、共通する問題点として浮かび上がっており、早急な対策が求められている。

 ■コミュニケーション

 杏林大医学部の岩下光利教授は5日会見し、「脳内出血とは聞いていない。緊急性は伝わらなかった」と説明した。一方、妊婦の受け入れを要請した飯野病院(調布市)は「激しい頭痛を訴えているのでとにかく診てほしい」と切迫性は伝えたし、FAXもした。

 双方が食い違う説明をしているが、都立墨東病院のケースでも、搬送要請元と、受け入れ先の主張は対立していた。

 都内の大学病院で働くある産科勤務医は「医師同士のやりとりについても改善すべきところがある」と指摘。「拠点病院と地域病院が、日常的に顔の見える関係を作っておく必要があるのではないか」という。

 しかし、飯野病院がある東京・多摩地域は、人口400万人と東京都の3分の1が住むにもかかわらず、高度な医療設備を持つ総合周産期母子医療センターは杏林大病院しかなく緊急病床は日常的に満杯。都内にセンターが9施設あることを考えると、医療体制の偏りが受け入れ拒否の背景にあった可能性がある。

 ■産科と救急の連携

 「現在のセンターでは、脳内出血や心筋梗塞(こうそく)などの疾患に対応できない」。杏林大の岩下教授はそう釈明している。杏林大病院、墨東病院が関係した2つのケースは、ともに妊婦が脳内出血を起こしていた。

 産科医の専門外の疾患だ。石原慎太郎都知事は5日、「妊婦が心臓病を持っていたら心臓の専門家がいる。場合によっては脳外科、麻酔科も」と、他の専門医との連携の必要性を指摘した。舛添要一厚労相も「救急医と産科医の連携が課題」としているが、まだ具体的な“処方箋(せん)”はみえない。

 ■脳内出血の特異さ

 産科医の間では妊婦の脳内出血は特異な例と受け止められている。杏林大病院は5日の会見で、「十分な重症判断ができなかった」と、受け入れを断った一因を説明した。

 墨東病院が関係した事例とともに医師らが脳内出血を疑わなかったことが、受け入れ拒否につながった可能性があるが、昭和大の岡井崇教授は「ベテラン医師でなければ別の症状を疑うだろう」と現場の状況を話す。

 ただ、妊婦の脳内出血に警告を発してきた医師らもいる。

 国立循環器病センターの池田智明医師らは、全国1107医療機関に平成18年に発生した妊婦の脳血管障害を調べたところ、184人が該当。うち39人の脳内出血があり、7人が死亡していたとの報告書をまとめた。そのなかで、池田医師らは「脳血管障害を念頭においた管理をする必要がある」と指摘していた。

(産経新聞、2008年11月6日)

****** 朝日新聞、2008年10月24日

妊婦の脳血管障害184人、10人が死亡 06年

 お産に関連して脳血管障害を起こした妊産婦が06年に少なくとも184人いて、このうち10人が死亡したことが、厚生労働省研究班(主任研究者=池田智明・国立循環器病センター周産期科部長)の初の全国調査でわかった。脳出血では診断までに3時間を超えると死亡率が上昇。産科だけではこうした患者を救えず、脳神経外科との連携が課題として浮かび上がった。

 奈良県で06年8月に妊婦が19病院に搬送を断られ、脳出血で死亡したため、研究班は、全国1107カ所の病院で06年1~12月、妊娠中か産後1年以内に脳血管障害を起こしたケースを調べた。

 184人の内訳は脳出血39人、くも膜下出血18人、脳梗塞(こうそく)25人など。妊娠中のけいれん、高血圧で嘔吐(おうと)や意識障害が起きる高血圧性脳症は82人いた。死亡の10人のうち7人は脳出血だった。

 脳出血の39人がコンピューター断層撮影(CT)による検査を受けて診断が出るまでの時間をみると、3時間以内に診断を受けた人で死亡したのは8%なのに対し、3時間以上では36%に達した。ただ、重い後遺症が残った人は3時間以内では7割にのぼり、3~24時間がかかった場合の5割よりも高かった。研究班は「診断までの時間が短ければ予後が保たれるわけでもない」とみている。

 脳出血の26%に妊娠高血圧症候群が認められた。妊娠高血圧症候群の妊婦で、頭痛やけいれん、意識障害などの症状が出たら、脳血管障害を疑って搬送するなどの対処も求められるという。

 脳血管障害が起きる妊産婦は1万人に1人程度。妊娠中は胎児に血液をめぐらすために血液量が増えるなどして血管への負担が大きくなり、普通の人よりリスクが高まるとされる。

 池田さんは「妊産婦にはすべて産科で対応するという認識を改めなければいけない」と指摘。「総合周産期母子医療センターの指定要件として、脳神経外科との連携態勢を義務づけることなども検討すべきだ」と話している。【武田耕太】

(朝日新聞、2008年10月24日)

****** 読売新聞、東京、2008年11月6日

拠点・杏林大も7割拒否知事、開業医の当直協力要請

 脳出血を起こした調布市内の妊婦(32)が今年9月、杏林大病院(三鷹市)など6病院に受け入れを断られ、意識不明の重体となった問題は、多摩地区の産科医療の窮状を浮き彫りにした。重症妊婦らの緊急治療を行う「総合周産期母子医療センター」は、23区に8か所あるのに対し、多摩地区は、杏林大病院の1か所しかない。お産や治療が集中するため、同病院は母体搬送の受け入れを約70%も断っていた。

 杏林大病院は5日午前に記者会見を開いた。産婦人科の岩下光利教授は、12床ある「母体・胎児集中治療室(MFICU)」について、「ベッド不足が非常に深刻」としたうえで、「切迫早産などの母体搬送の依頼の約70%について、受け入れ出来ない状態だ」と現状を明らかにした。

 都内では先月、脳出血を起こした江東区内の妊婦が都立墨東病院(墨田区)でいったん受け入れを断られ、出産3日後に死亡する問題が起きている。墨東病院も同センターに指定されているが、岩下教授は「墨東は千葉から、杏林は山梨からも患者が運ばれてくる。東京は地域別に総合周産期センターが守りに当たっているが、東(墨東)と西(杏林)については決壊したに等しい」と訴えた。

 都福祉保健局によると、2007年の多摩地区の分娩(ぶんべん)数は3万4726件。産婦人科医は261人(06年)で、7・5人の医師で1000件の分娩に対応していることになり、区部(14・4人)のほぼ倍の負担になる計算だ。

 調布市内の妊婦が受け入れを断られたのも、病院側の多忙さが理由だった。都立府中病院(府中市)は「1人当直の産科医が分娩対応中で、受け入れが困難だった」とし、武蔵野赤十字病院(武蔵野市)は「帝王切開の手術直後で、患者の術後管理もあって断らざるを得なかった」としている。

 石原知事は5日、都医師会の鈴木聰男会長と面会し、都立病院の産科医不足を解消するため、地域の開業医に当直勤務を手伝ってもらう新制度への協力を要請した。鈴木会長は報道陣に、「できるだけのことを進めていきたい」と語った。

(読売新聞、東京、2008年11月6日)

****** 毎日新聞、東京、2008年11月6日

調布の脳出血妊婦受け入れ拒否:総合周産期母子医療センター、多摩には1カ所

 ◇杏林大などが受け入れ拒否

 ◇多摩には1カ所だけ 普段から患者集中

 脳出血を起こした調布市の妊婦(32)が今年9月、都内の6病院から受け入れを拒否された問題は、リスクの高い妊婦に対応する「総合周産期母子医療センター」が多摩地区には杏林大病院の1カ所しかなく、普段から患者が集中する実態を浮かび上がらせた。また、妊婦の脳出血が医師の間でうまく伝わらず、救急病院への搬送遅れが続けて発覚したことで、妊娠に直接関係しない疾患の対応に盲点があることも改めて分かった。【中村牧生、内橋寿明】

 ■最後のとりで

 総合周産期母子医療センターは、母親や新生児用の集中治療室があり、産科救急医療の最後のとりでとなる病院。都内では9病院が認定されているが、多摩地区には杏林大病院しかないうえ、周辺の埼玉、神奈川、山梨県などからも救急患者が運ばれてくる。このため集中治療室や一般病棟は常に満床で、杉浦正俊副センター長は「搬送依頼の7割は断らざるを得ない」と話す。

 都によると年間約10万件のお産件数のうち、多摩地区は3分の1を占める。杏林大病院だけで産科救急をこなせないため、23区にある8病院でローテーションを組み、当番病院が受け入れ先探しに協力している。

 今回の場合、帝王切開手術を終えた杏林大病院産婦人科の当直医が近隣で妊婦の受け入れ先を探したが、すべて断られ、当番の愛育病院(港区)に依頼し、最終的に墨東病院(墨田区)に決まった。

 ■東京ERも拒否

 東京ER(総合救急診療科)を持つ都立府中病院(府中市)も依頼を受けたが、1人しかいない産婦人科医の当直が分娩(ぶんべん)対応中で、「受け入れ困難」と回答。庶務課の担当者は「脳の具体的な症状は聞いていないということだった」と話す。都によると、東京ERは母子医療センターとは別個に開設されており、産婦人科との連携は十分ではないという。

 杏林大病院を補助する立場の武蔵野日赤病院(武蔵野市)も拒否した。嘔吐(おうと)と半身マヒの情報は入っていたが、産婦人科の当直医は1人。富田博樹院長は「帝王切開の手術が終わった直後に出産患者が緊急入院。受け入れは困難だった」と説明する。

 ■判断に食い違い

 これに対し、妊婦のかかりつけ病院だった飯野病院(調布市)の飯野孝一院長は記者会見で「とにかく脳の問題だから診てもらいたい。帝王切開が必要なら自分が手伝うから何とか受け入れてくれと伝えた」と語った。また、深夜に送信した杏林大へのファクスに「脳血管障害」「右半身不随」と妊婦の症状を書き込んでいたと明かし、「(緊急性がないと判断したという)杏林大の発言は理解できない」と憤った。

 杏林大によると、妊婦で脳出血を発症するケースは10万件に6・1件と少なく、産婦人科医はほとんど経験がないという。

 記者会見した岩下光利教授は「(当直医は)半身マヒは脳出血ではなく、妊婦によく見られる別の症状と考えたようだ。産婦人科医同士のやりとりで、専門領域ではない疾患の状況が伝わらず、重症度の判断が十分でなかった」との認識を示した。さらに「産科のほかに脳神経外科や救命救急などが連携して対応できる体制が必要だ」と述べた。

(毎日新聞、東京、2008年11月6日)

****** 東京新聞、2008年11月6日

杏林大病院・妊婦拒否 『搬送受け入れは30%』

 多摩地区で“安心安全なお産”はできるのだろうか-。脳の疾患が疑われた調布市の妊婦(32)が杏林大病院(三鷹市)などに受け入れを断られた末、約二十六キロ離れた都立墨東病院(墨田区)に搬送された問題は、そんな疑問を抱かせる出来事だった。【北川成史、東松充憲】

 リスクの高い妊産婦や新生児に高度医療を提供する中核施設となる「総合周産期母子医療センター」。都内には九カ所あるが、多摩地区には杏林大病院の一施設しか存在しない。

 「都内の分娩(ぶんべん)の三分の一は多摩地区だが、総合周産期母子医療センターは杏林だけ。いつでも満床の状態だ。多摩地区には周産期医療の施設、資源が不足している」

 今回の問題の発覚を受けて急きょ五日午前に会見した杏林大病院総合周産期母子医療センターの岩下光利副センター長は多摩のお産をめぐる厳しい現実を、そう説明。「現在、杏林大病院は母体搬送の依頼を受けても30%しか受け入れできていない」と衝撃的な数字も明らかにした。

 多摩地区のある病院長は「帝王切開の患者に対処した直後のような状況では、とてもすぐ次の患者を受け入れることはできない」と、緊急度の高い妊婦が重なった場合は“お手上げ”であることを認める。調布市の飯野病院にいた妊婦の搬送先が見つからなかった九月二十三日未明が、ちょうどこの「帝王切開が重なった夜」だったという。

 飯野病院と手分けして受け入れ先を探した杏林大病院はこの夜、都立府中病院(府中市)に設置された「東京ER(総合救急診療科)・府中」にも受け入れを打診している。都内に三カ所しかない救急対応の充実した施設のはずだが、「分娩対応中で受け入れ困難だった」(同病院)。都立府中病院ではこの夜、午前二時から九時までに三件の分娩があり、対応力にゆとりがない状況に陥っていたのだという。

(東京新聞、2008年11月6日)

****** 共同通信、2008年11月7日

脳内出血、伝えられていた  杏林大病院、都などが調査

 脳内出血を起こした東京都調布市の妊婦(32)が複数の病院から受け入れを拒否された問題で6日、最初に断った杏林大病院(三鷹市)が、都や厚生労働省などの調査に対し、搬送を要請したかかりつけの飯野病院(調布市)から、脳内出血の可能性を伝えられていたことを認めたことが分かった。

 都と厚労省、総務省消防庁は同日、問題発覚を受けて杏林大病院で聞き取り調査を行い、当直医から当時の状況などを聴いた。

 関係者によると、当直医は聞き取り調査に対して、飯野病院から脳内出血の可能性を伝えられたことは認めたが、一方で飯野病院から「杏林大が受け入れできる状態になるまで待つ」と言われたため、緊急性は低いと判断したという。

 都や厚労省は今後、受け入れを断ったほかの病院からも事情を聴くことを検討している。

(共同通信、2008年11月7日)

****** 共同通信、2008年11月6日

「脳の問題だと伝えた」 容体書きファクス送信も 搬送要請した病院長が主張

 脳内出血を起こした東京都調布市の妊婦(32)が複数の病院から受け入れを拒否された問題で5日、搬送を要請した飯野病院(調布市)の飯野孝一(いいの・こういち)院長が記者会見し、最初に断られた杏林(きょうりん)大病院(三鷹市)とのやりとりについて「脳出血であることを伝えた」などと述べ、緊急性を訴えたことを強調した。

 飯野院長は9月23日午前3時半ごろ、杏林大病院の当直医に自ら電話で受け入れを要請したという。

 飯野院長は「とにかく脳の問題だから診てほしいと伝えた。『脳血管障害』『右半身不随』と書いた診療情報提供書もファクスで送った。脳外科の先生に連絡してほしい。何でも手伝うので受け入れてほしいと伝えたが、杏林大病院からは『脳外科は(別の患者の)手術中』と断られた。『飯野病院で帝王切開した後に搬送すれば診る』と言われた」と話した。

 また受け入れを拒否した病院数について飯野院長は、当時の記録を調べた結果、さらに1つ増えたことも明らかにした。杏林大病院が独自に要請した施設と合わせ計7病院になる。

 杏林大病院側は「飯野病院から『受け入れできる状態になるまで待つ』と連絡があった。軽度の意識混濁や手の震えはあるが、呼吸や血圧は安定していると聞いていたので、緊急性は低いと判断した」と説明しており、双方の主張が大きく食い違っている。

 飯野院長は、妊婦の夫から5日、「周産期の救急搬送ネットワークを改善し、再発防止を望んでいる」という内容の電話を受けたことも明らかにした。

(共同通信、2008年11月6日)

****** 共同通信、2008年11月6日

「行政、物足りない」 死亡妊婦の夫がコメント

 東京都立墨東病院(墨田区)を含む8病院に受け入れを断られ、脳内出血で死亡した妊婦(36)の夫(36)=会社員、都内在住=が6日、「行政の対応に物足りなさを感じます。仕組み自体を改善すべきではないか」とするコメントを出した。

 9月下旬に脳内出血を起こした東京都調布市の別の妊婦(32)が、複数の病院から受け入れを拒否され、意識不明になっていたと報道されたことを受け、代理人の弁護士を通じて発表した。

 「同様のケースが発生していたことを知り、大変残念に思います。改善策を示したり、関係者間で情報共有するような仕組みはないものでしょうか」と疑問を投げ掛けた上で「連続して発生したということは、もはやレアケースとして済まされない問題。どうすれば安心して子供を産める社会を築けるか、徹底して再発防止に取り組んでほしい」と訴えている。

(共同通信、2008年11月6日)

****** NHKニュース、2008年11月7日

妊婦情報 伝達システム開発へ

舛添厚生労働大臣は、脳出血を起こした妊娠中の女性が病院に受け入れを断られ、死亡したり重体になったりするケースが相次いでいることを受けて、妊婦の症状を複数の病院や診療科に正しく伝える新しい情報伝達システムの開発に取り組む考えを示しました。

一連の問題では、脳出血を起こした妊娠中の女性の受け入れを要請した掛かりつけの病院と受け入れを断った病院との間で、女性の症状が正しく伝わらず、搬送が大幅に遅れる事態となりました。これについて、舛添厚生労働大臣は、閣議のあとの記者会見で「情報をしっかり伝えるためには、最先端の技術を使ったシステムを作る必要がある。経済産業省とも協力して、ミスが起こらないような情報伝達システムを開発したい」と述べ、来週初めにも二階経済産業大臣と協議したうえで、経済産業省とも連携し、妊婦の症状を複数の病院や診療科に正しく伝える新しい情報伝達システムの開発に取り組む考えを示しました。

(NHKニュース、2008年11月7日)

****** 毎日新聞、2008年11月7日

舛添厚労相:妊婦搬送要請時の「意思疎通改善を」

 舛添要一厚生労働相は7日の閣議後会見で、妊婦が病院に受け入れを拒否された問題について、「(要請する側と受け入れ側)双方の医師の間で言った、言わない、のコミュニケーションギャップになっている。ギャップが起こらないようなシステムを開発しようと二階(俊博)経済産業相と話をした」と述べた。【佐藤浩】

(毎日新聞、2008年11月7日)

****** CBニュース、2008年11月6日

周産期センター、「母体救急は難しい」

 先月に都内で妊婦が8つの救急医療機関に受け入れを断られた後に死亡した問題などを受けて11月5日に開かれた、「周産期医療と救急医療の確保と連携に関する懇談会」(座長=岡井崇・昭和大医学部産婦人科学教室主任教授)。会合では、総合周産期母子医療センターはそもそも母体を助ける体制になっていないことや、地域によって違う周産期医療連携の問題、医師不足など、あらゆる問題が噴出した。過熱報道のあおりを受けて急に開催されたとも取れるこの会合。来月末までに3-4回程度開催して提言をまとめる予定だが、こうした問題をどう収束させるのだろうか。【熊田梨恵】

 懇談会の開催が公表されたのは、開催前日の11月4日の夕方。5日には、東京・調布市で入院中の妊婦が脳内出血を起こし、杏林大学病院などの病院から受け入れを断られて現在は意識不明になっているとの報道が流れたこともあり、懇談会は報道関係者の注目を集めた。

 岡井座長は「墨東病院の問題は、医師不足で対応できなかったというのが根本的な問題で、産科と救急の連携がメーンの問題ではない。だが、一般の救急と産科の連携の必要性が浮かび上がった問題ではある。今日の懇談会は両者の連携が必要ということで議題にしている」と、会合開催の趣旨を整理。その上で、今回は周産期と救急医療について委員が日ごろ感じている問題などをフリーディスカッションし、次回はそれに対する対策を考えていくとの方向性を示した。

 会合は、最初に事務局が用意した資料説明から始まった。まず、日本産科婦人科学会が先月末に厚生労働相に提出した緊急提言の内容が説明された。次に、墨東病院の問題について厚労省が報道内容を基にまとめた資料や、10月27日に厚労省医政局課長と雇用均等児童家庭局課長の連名で都道府県の担当部局に出された、周産期救急医療体制の確保を求める内容の通知が紹介された。

■女性医師の労働環境の改善を
 次に、委員が提出した資料を各自で説明した。杉本壽座長代理(大阪大医学部救急医学教授)は、医師数の推移などを示した資料を提出。小児科医の数は増えている一方で、14歳以下の人口は減っているため、小児科医一人当たりの子どもの数は年々減少していること、産婦人科医一人が担当するお産の数は1990年から一定であること、麻酔科医は2006年には10年前に比べて約1000人増えていること―などを示した。その上で、小児科や産婦人科、麻酔科には女性医師が多いとするデータを示し、「単に医師数を増やしても駄目ということ。女性医師が増えているということが大きな問題。今、医学部の定員を増やしても一人前になるには15年はかかる。まずは女性医師が妊娠や出産をしても働き続けられる環境が必要」と述べた。
 また、医師の事務作業を補助するスタッフの増員など、喫緊の対策を求めた。

 資料説明が終わった後はフリーディスカッションに入った。

■ハイリスク新生児が増
 田村正徳委員(埼玉医大総合医療センター総合周産期母子医療センター長)は、「小児救急や新生児医療などハードワークをする医師が足りない。お産の数は減っているが、小さい赤ちゃんが右肩上がりで増えている。NICUに入るハイリスク新生児は絶対数として以前の1.5倍」と述べ、単にお産の数だけを見ていても状況は分からないとした。

■母体が助からない周産期センター
 海野信也委員(北里大医学部産婦人科学教授)は、そもそも周産期母子医療センター自体が母体を助ける機能を有していないとして、周産期医療対策整備事業の整備指針の問題点を次のように指摘した。
 「総合周産期母子医療センターは『最後のとりで』というような表現で報道されるが、実際にセンターが作られてきた経緯は全くそういうものではない。実際の事業は、胎児や新生児への救急に対応できるシステムを作るということ。産科の方からは『母体救急は大きい問題』と言い続けてきたが、指針には、脳外科などが必要とは書かれていない。産科、新生児、麻酔科の医師を置くなどの限られた基準で、麻酔科は常勤である必要もない。そういう限定的な条件の施設基準で整備されてきた。総合周産期母子医療センターの当直数についての報道もあったが、総合周産期母子医療センターの半分以上は当直医は1人だ。平成8年に事業がスタートした時は2人という規定だったが、『それでは大学病院ならできるが、一般病院はできない』と現場から言われた。そこで、平成15年4月に出された(厚労省)雇用均等児童家庭局からの通知で、MFICUが6床以下のセンターはオンコールを置けば当直は1人でもいいとなった。『それならできる』と整備は進んだが、産婦人科医を増やそうとする努力をしてこなかった。こうした周産期センターの数を増やそうと努力するあまり、母体救急対応という配慮が抜けている」
 さらに周産期救急情報システムについて、「整備指針には『作って下さい』とあるが、実際は作っていないところが多い。地域によっては作ってもしょうがないというところもあり、電話した方が早いといって、山形県のようにやっているのが普通では」と述べ、地域によって実情が違うと指摘した。

 これについて、池田智明委員(国立循環器病センター周産期科部長)は、厚生労働科学研究費で実施された総合周産期母子医療センターに対するアンケート結果を踏まえ、「すべてのセンターが、『母体救急に対応できるようにつくるのは非現実的。近くの救急医療機関と連携を取ってやりたい。現場の医師がどう協力してやるかと考えている』と答えている」と述べた。

 大野レディースクリニック院長の大野泰正委員は、自ら診ていた妊婦が、特に問題ないと思われていたのに急にけいれん発作を起こしたという事例を紹介。「地域の周産期センターに電話したが、何といって断られるかというと、『産科病棟がいっぱい』『全館満床』『NICU満床』『脳外科対応ができない』など。われわれ開業医は何か危ないことがあったら総合センターか地域センターが助けてくれると思う。だが、愛知県内の地域周産期母子医療センターは、『脳出血や、それが疑われるものは全く受け入れられない』という。センターの成り立ちを考えると脳外科はないが、先ほどの(周産期医療対策整備事業)整備指針のようなものを開業医は知らない。断られたとなると、次にお願いするところがないのでとても切実な思いだ」と訴えた。

■産科・救急連携は地域で違う
 田村正徳委員(埼玉医大総合医療センター総合周産期母子医療センター長)は、埼玉県の周産期医療の事情を説明し、墨東病院問題の影響に言及。
 「今回、墨東病院の件がショックだったのは、9つの総合周産期母子医療センターがあり、NICUに恵まれている東京ですらこういう最悪の事態が起きたということ。埼玉県では、分娩数当たりの産婦人科医や新生児科医の数は全国でも最低。県内人口700万人当たり、1つの総合周産期母子医療センターしかない。埼玉県内ではNICUに入らないといけない赤ちゃんの3割が東京に送られて、急場をしのいでいる。今回の件で東京都が敷居を高くして、他県からの母体搬送を受け入れなくなるということが起きかねない。墨東病院も日赤医療センターも埼玉県から見たら頼みの綱。これは破局の前触れだ」
 その上で、周産期救急情報システムについて、NICUのベッドが空いていることがないと主張。「舛添先生は石原先生とけんかしないでほしい」と述べ、都内の総合周産期母子医療センターの空床情報を関東近郊の県からも見えるようにしてほしいと訴えた。

 これに、海野委員も同調。神奈川県も埼玉県と同じような状況だとし、「首都圏は一つの医療圏として考えねばならない」と述べた。

 嘉山孝正委員(山形大医学部長)は、墨東病院の問題について「根本はシステムエラー」と述べた。
 外科や脳外科などを揃えるようになっていない総合周産期母子医療センターは現場に沿ったものになっていないとした上で、山形県内では地域の実情に合わせ、総合周産期母子医療センターは設置せず、県内の山形大医学部附属病院など3つの病院で役割分担して周産期の三次救急を担っていることを紹介。「急患はとりあえず受け入れるようにしている。どうしてもセンター化するなら十分な人数がいなければ無理だ」と主張した。
 
 杉本座長代理は、周産期医療と救急医療などを引き合いに、「医学界は縦割りになっているが、これが交わらないとできない」と述べた。それを解消した上で、救急医療は地域の実情に合わせて展開することが必要とした。

■都道府県に投げず、省庁間連携が先
 有賀徹委員(昭和大医学部救急医学講座主任教授)は、日本救急医学会が認定する救急科専門医が今年は約3000人になる見込みとしたが、「臨床研修病院に専門医を一人ずつ割り振ったら、各病院に一人しかいない」と、専門医の数が根本的に不足しているとした。

 また、会合の始めに事務局から紹介された周産期救急医療体制の確保を求める通知の内容に疑問を呈した。通知では、周産期救急情報システムと救急医療情報システムについて、更新頻度や入力情報など運用の確認や改善を求めている。
 「救急医療情報システムは昭和50年代から厚労省が進めているが、全県一区で集約するようなシステムになってない。なぜなら市町村消防が基本単位でやっているから。これを都道府県に投げて『考えろ』と言っているが、どういうイメージで改善しろと言っているのかよく分からない。救急医療情報システムもいまだに成り立っていないのに、周産期と二つのシステムについて改善しろと言うのが分からない。これを議論の積み残しにしてはならない。これは厚労省と消防庁が連携しないといけない問題だ」と述べた。

(CBニュース、2008年11月6日)

****** 毎日新聞、東京、2008年11月6日

都周産期医療協:「ギリギリ」「綱渡り」 医師不足の実態浮き彫り

 都立墨東病院(墨田区)などに受け入れを拒否された妊婦が死亡した問題を受け、対応策を話し合った5日の都周産期医療協議会(会長・岡井崇昭和大医学部教授)。集まった専門家からは産科現場について「本当にギリギリの状態」「綱渡りでやってきた」などの発言が相次ぎ、医師不足にあえぐ実態が改めて浮き彫りになった。

 協議会はリスクの高い妊婦に対応する「総合周産期母子医療センター」の専門医ら20人が参加した。東京女子医大母子総合医療センターの楠田聡教授は「周産期医療の供給体制がどう考えても限度がある。ニーズに対して絶対数がギリギリだという認識をみんなが持つべきだ」と指摘。そのうえで「東京はいろいろなカバーできる施設がある。限られた資源を有効に使うネットワーク、助け合いのシステムを作ることがわれわれにすぐできること」と提言した。

 墨東病院の小林剛院長は「(墨東病院がある)東部ブロックは分娩(べん)数が一番多いのにセンターはうちだけ。隣の東北部ブロックはセンターがなく、隣接地域の方が当院に来てしまう。千葉からもかなり入ってくる。その中で医師がどんどん減り、今も医師集めに努力しているが、日本中に産科医がいないということで、本当にギリギリの状態」と述べた。

 協議会は近く再び会合を開き、今回のケースのような救急性の高い妊婦にどう対応するか話し合う。【須山勉】

(毎日新聞、東京、2008年11月6日)

****** 毎日新聞、2008年11月5日

妊婦死亡:墨東病院当直1人の日に「当番」制…都協議会

 東京都立墨東病院(墨田区)などに受け入れを拒否された妊婦が死亡した問題で、都周産期医療協議会(会長、岡井崇・昭和大医学部教授)は5日、墨東病院の当直が1人になる日は他の総合周産期母子医療センターが代わりに妊婦搬送を受け入れる「墨東当番」の導入を決めた。

 受け入れ拒否をした時に産科当直が1人しかいなかった墨東病院は10月末、11月の休日当直を「可能な限り2人体制にする」と発表した。しかし、新たな医師は確保できず、5日間は終日あるいは日中が1人当直となる見通し。協議会ではこの時間帯について、都内にある別の八つのセンターが代わって対応することで一致。輪番制とし、今月最初の1人当直となる8日にも導入する。

 都内では既に、センターが杏林大病院しかない多摩地区をカバーする「多摩当番」が導入されているが、墨東病院はこの当番から外すことも決まった。協議会に出席した墨東病院の小林剛院長は「墨東病院のある地域は分娩(ぶんべん)数が多いのに施設数が少ない。隣接する千葉、埼玉からも患者がかなり入ってくる。本当にぎりぎりの状態」と理解を求めた。【須山勉】

(毎日新聞、2008年11月5日)

****** 産経新聞、2008年11月5日

妊婦受け入れ拒否 対策や再発防止を検討

 東京都内で妊婦をめぐる救急体制の不備が明らかになったことを受け5日、都と厚生労働省がそれぞれ、専門家による協議会や懇談会を開き、対策や再発防止の検討を始めた。

 都の協議会では、医師不足や受け入れ施設が満杯のため、妊婦の受け入れを当初拒否した都立墨東病院と、杏林大病院に対する当面の支援策を協議。多摩地区の産科救急を23区内の総合周産期母子医療センターが支援する「多摩当番」から、墨東病院をはずすことで合意した。

 杏林大病院を除く都内の7つのセンターが、墨東病院の当直が1人になる際には輪番制で墨東病院を支援する制度を設けることも検討することになった。

 厚労省の懇談会では、墨東病院が医師不足の状態にもかかわらず、センターとして指定されていたことなどから、指定基準を見直すことや、空床情報の照会システム改善の必要を訴える意見も相次いだ。懇談会では、対策案を12月中にまとめる方針。

(産経新聞、2008年11月5日)


母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例(その7)

2008年11月05日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

今年9月下旬にも、やはり東京都内で、急変した妊婦の収容先が決定するまでに3時間以上かかり、最終的に墨東病院に搬送されて脳出血の処置を受けた事例があったとのことです。今話題になっている10月の事例のわずか11日前の出来事だそうです。

当院でも最近、妊婦のクモ膜下出血にて脳外科で緊急手術をしていただいた症例を経験しました。担当の脳外科の先生にお伺いしたところ、妊婦の脳出血は専門医試験のヤマの一つでよく出題される必出項目とおっしゃってました。妊婦に重大な脳疾患の兆候が発症した場合は、兎にも角にも、一刻も早く脳外科の先生に診ていただくことが重要です。このような母体の偶発合併疾患でも、産科医が不在であるとか、ICU満床とかの周産期医学的な理由によって、収容先がなかなか決まらない事態が起こり得る現行の患者搬送システムは、できるだけ早急に改善されるべきだと思われます。

母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例

母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例(その2)

母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例(その3)

母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例(その4)

母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例(その5)

母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例(その6)

****** NHKニュース、2008年11月5日

妊婦拒否 厚労省も情報収集

 ことし9月、東京・調布市の産婦人科病院に入院していた妊婦が脳出血を起こし、地域の拠点病院を含む6つの病院から受け入れを断られた末に、意識不明の重体になった問題で、厚生労働省は情報の収集を始めました。

 この問題は、お産のため東京・調布市にある産婦人科病院「飯野病院」に入院していた32歳の女性が9月23日の未明、脳出血を起こし、6つの病院から次々と受け入れを断られた末に、意識不明の重体になったものです。

 最初に受け入れを要請された東京・三鷹市の杏林大学医学部付属病院は、リスクの高い妊婦を受け入れる「総合周産期母子医療センター」に指定されていますが、「掛かりつけの飯野病院からの説明には脳出血などの重い症状を疑わせる内容はなく、緊急の受け入れが必要だとは思わなかった」と話しています。また当時、産科には当直の医師が2人いましたが、別の手術を抱えていたうえ、集中治療室のベッドも満床だったことから受け入れを断ったということです。その後、杏林大学病院と飯野病院が手分けをして、あわせて5つの病院に打診しましたがいずれも搬送を断られ、最初の要請から3時間後に東京・墨田区の都立墨東病院で搬送を受け入れることが決まったということです。子どもは無事産まれましたが、女性は脳出血のため意識不明の重体になり、現在も墨東病院に入院しているということです。

 東京では先月4日にも脳出血を起こした妊婦が8つの病院に受け入れを断られたあとに死亡し、お産前後の救急医療の課題が明らかになったばかりで、事態を重く見た厚生労働省は情報の収集を始めました。

(NHKニュース、2008年11月5日)

****** TBSニュース、2008年11月5日

9月にも妊婦受け入れを病院が拒否

 東京で、また妊婦の受け入れ拒否が明らかになりました。今年9月、脳内出血を起こした妊婦が6つの病院に受け入れを断られました。妊婦は4時間後、およそ25キロ離れた病院で手術を受けましたが、現在も意識不明のままです。

 「なぜこんなに文明や医療が発展した都会で、こんなに死にそうに痛がっている人を誰も助けてくれないのだろう」(8病院が受け入れ拒否、妊娠中の妻を亡くした夫 先月27日)

 8つの病院に受け入れを断られた末、妊娠中の妻を亡くした夫が、こう訴えたのは先週。

 しかし、5日、また新たな受け入れの拒否が明らかになりました。

 東京・調布市にある飯野病院。出産を間近に控え入院していた32歳の女性が異変を訴えたのは、今年9月23日の未明。嘔吐や右半身が動かなくなるなどの症状が出たため、病院の産婦人科の医師は脳出血の疑いがあると判断、東京都の総合周産期医療センターに指定されている三鷹市の杏林大学病院に、救急搬送を要請しました。

 しかし、杏林大学病院は空きのベッドがなかった他、産科医が手術中だったなどの理由から受け入れを断りました。

 「軽度の意識混濁や手のふるえがありますけれども、(容態は)安定していると報告を受けた」(杏林大学病院)

 女性が運ばれたのは、およそ25キロも離れた都立墨東病院。すでに4時間が経っていました。

 その間、都内の5つの病院に「ベッドが埋まっている」などと、受け入れを断られたということです。

 女性は出産後、手術を受けましたが、現在も意識不明の重体です。

 「産科の施設は絶対的に足りない」(武蔵野赤十字病院 院長)

 産婦人科医が、緊急手術中という理由で、女性の受け入れを断った武蔵野赤十字病院。女性の脳にも異常が起きていたことは飯野病院からの連絡で分かっていましたが、こうしたケースでは救急救命医などに加え、産婦人科医も立ち会えない限り受け入れは難しいと話しています。

 「救急医療と産科医療の連携をどうするのかは非常に大きな問題。具体的になにをやればいいのか提言をやりたいと思っています」(舛添要一 厚労相、5日)

 一方、地元医師会などを招いて周産期医療に関する緊急会議を開いた東京都、石原知事は・・・。

 「国の責任だ、都の責任だ、自治体の責任だ、みんな重層、複合的に絡まっている。それを、みんなで合議しあって解決していかないと。この問題は本当に国民が安心する状況にはならないと思いますよ」(東京都 石原慎太郎 知事、5日)

 「私の望みは、妻の死を無駄にしないで欲しい。(息子のためにも)日本一の母親だったと言える状態に世の中を変えていただきたい」(搬送を拒否され、死亡した妻の夫)

 医師不足の中でまたも起きた悲劇。具体的に改善される見通しはまだ、立っていません。

(TBSニュース、2008年11月5日)

****** TBSニュース、2008年11月5日

妊婦受け入れ拒否、杏林大病院を批判

 東京で脳内出血を起こした妊婦が、複数の病院に受け入れを断られ意識不明となった問題で、妊婦が当初入院していた病院が記者会見し、最初に受け入れを断わった大学病院の対応を「理解できない」と批判しました。

 今年9月、東京・調布市で出産のため産婦人科に入院していた32歳の妊婦が脳内出血を起こしましたが、妊婦は6つの病院から受け入れの拒否をされました。

 妊婦は4時間後、およそ25キロ離れた都立墨東病院で手術を受けましたが、現在も意識不明の状態となっています。

 この問題について、最初に受け入れを拒否した三鷹市の杏林大学病院は患者の容体についての緊急性が伝わっていなかったと説明しました。

 「もし、緊急性があって血圧が下がったり、バイタルサインが悪くなれば、当然そういう情報を頂ければ受けられた。これは総合周産期関係ないですから」(杏林大病院)

 これに対し、妊婦の受け入れを要請した産婦人科病院も記者会見し、、緊急性は伝わっていたはずだと杏林大学病院側の対応を批判しました。

 「頭の問題だからすぐに診てもらいたいと。(杏林から)これだけ返事をくれているというのは重大に感じてくれたのだと思う」(飯野病院)

 この問題をめぐっては、厚生労働省が事実関係の調査に乗り出していて、東京都も関係者から事情を聴いています。

(TBSニュース、2008年11月5日)

****** 時事通信、2008年11月5日

「頭の問題と伝えた」=妊婦の入院先、杏林大付属病院に-妊婦拒否問題

 脳内出血を起こした東京都調布市の30代の妊婦が少なくとも6つの病院から受け入れを断られ、意識不明になっている問題で、受け入れを要請した飯野病院(同市)の飯野孝一院長(62)が5日記者会見し、「杏林大付属病院には、とにかく頭の問題だから見てもらいたいと伝えた」と説明した。

 同院長は、杏林大付属病院とのやりとりは約10回にも上ったとし、「あちらからも何回も電話があり、切迫性は認識していたと思う」とした。

 同病院側は「飯野病院から脳内出血とは聞いておらず、緊急性は伝わらなかった」としている。

(時事通信、2008年11月5日)

****** 時事通信、2008年11月5日

産科・救急連携、年内に提言=厚労省懇談会が初会合

 東京都内で救急搬送された妊婦が8病院に受け入れを拒否され死亡した問題で、周産期医療と救急の連携の在り方などを話し合う厚生労働省懇談会(座長・岡井崇昭和大教授)の初会合が5日開かれ、年内に提言をまとめることで一致した。

 冒頭、舛添要一厚労相が「周産期医療と救急との連携の必要性を如実に感じている。背景に医師不足など医療体制全体の問題がある。12月まで集中審議し、いい連携策をつくりたい」とあいさつした。

 続く自由討論では、委員から「産科医不足解消には、出産などで離職した女性医師の活用が手っ取り早い」と職場環境の整備を求める意見や、医療機関の受け入れ態勢を把握する周産期医療情報システムについて「都道府県単位ではなく広域で活用できるようにするべきだ」などの意見が出た。

(時事通信、2008年11月5日)

****** 共同通信、2008年11月5日

9月にも妊婦受け入れ拒否 東京で脳内出血の30代 杏林大など複数病院

 今年9月下旬、東京都調布市のかかりつけ病院で嘔吐(おうと)などの症状を訴えた30代の妊婦が、「総合周産期母子医療センター」に指定されている杏林(きょうりん)大病院(三鷹市)など複数の病院から受け入れを断られた後、20キロ以上離れた都立墨東病院(墨田区)に運ばれて出産し、脳内出血の処置を受けていたことが4日、分かった。収容先が決まるまでに3時間以上かかった。

 搬送を依頼したかかりつけ病院側は「赤ちゃんは無事だが、母親の現在の容体は把握していない」としているが、厚生労働省は「母親は重篤な状態と報告を受けている」としている。

 同じ総合周産期母子医療センターの墨東病院など8病院による妊婦受け入れ拒否よりわずか11日前の出来事。事態を重視した厚労省は事実関係の確認に乗り出した。

 かかりつけの病院によると、妊婦は妊娠41週目で、お産のため入院中の9月23日午前零時ごろから、嘔吐や右半身が動かないなどの症状が出始めた。

 午前3時ごろ、当直医から呼び出しを受けた院長が診察し「脳の疾患の可能性が高い」と判断。杏林大病院に連絡したが、同病院は「産科医が手術中」などの理由で受け入れを断ったという。

 かかりつけの病院は「その後、都内の3病院に要請したが断られた。午前5時半ごろ、墨東病院に連絡して受け入れてもらえることになった」としている。

 妊婦を乗せた車両が墨東病院を目指し、かかりつけ病院を出発したのは午前6時20分ごろだった。

 杏林大病院は「かかりつけの病院が『受け入れ可能になるまで待ちたい』と言ったので、緊急性はないと判断した。当初は脳の疾患の疑いまでは伝えられず、分かっていればすぐに引き受けた」としている。

 かかりつけの病院は「脳の手術の必要を感じなければ、そもそも脳外科医のいる大病院を探していない。当然、症状については杏林大病院側に伝えた」としている。

 東京都は「情報は入っているが、内容については調査中なので、今の段階ではコメントできる状況にない」としている。

▽墨東病院の妊婦死亡問題

 墨東病院の妊婦死亡問題 10月4日、体調不良を訴えた東京都内の妊婦=当時(36)=が都立墨東病院など8病院に受け入れを断られ、最終的に搬送された墨東病院で出産後、脳内出血の手術を受け、3日後に死亡した。赤ちゃんは無事。墨東病院は緊急処置の必要な母子を24時間受け入れる「総合周産期母子医療センター」として都が指定した9施設の1つだが、産科医が次々退職したため、7月から土日の当直を1人態勢として急患は原則受けないことにした。10月4日の当直も研修医1人だった。

(共同通信、2008年11月5日)

****** 共同通信、2008年11月5日

「地区割り」の限界露呈 機能不全の代替システム

 東京で妊婦の搬送受け入れ拒否がまた発覚した。多摩地区の「総合周産期母子医療センター」に指定された杏林大病院から拒否された脳内出血の主婦が、3時間以上たって運ばれたのは別の地区のセンターだった都立墨東病院。関係者からは「救急搬送先が地区割りされた今のシステムの限界が露呈している」との指摘が出ている。

 妊婦の脳疾患を疑った調布市内のかかりつけの病院が当初、搬送依頼したのは、多摩地区で唯一の救急搬送先に指定されていた杏林大病院だった。

 緊急時の受け入れ先となる「総合周産期母子医療センター」は都内に9つ。8つに分けた各地区に、最低でも1つのセンターが配置されている。

 しかし、関係者は「多摩地区だけで都内のお産の3分の1近くを占めている上、隣県の山梨からも妊婦が来るため、常にいっぱいの状態」と実情を明かす。

 こうした状況もあり、23区内にある別地区の8センターが毎日交代で「多摩当番」を請け負い、杏林大病院が受け入れられない場合に、急患の対応に当たっているという。

 だが、杏林大病院から最終的に妊婦を受け入れた墨東病院までの距離は20キロ以上。今回のケースでも、最初の要請から収容が決まるまで3時間以上もかかるなど、"代替施設"を活用するシステムのほころびが表面化している。

 現場の医師からは「都は実態を調査し、制度の見直しをすべきだ」との声が出ている。

(共同通信、2008年11月5日)

****** 共同通信、2008年11月5日

「判断不十分だった」 受け入れ拒否で杏林大病院

 東京都調布市のかかりつけ病院で嘔吐(おうと)などの症状を訴えた妊婦が、複数の病院から受け入れを拒否された問題で、最初に断った杏林(きょうりん)大病院(三鷹市)が5日会見し、「(脳内出血は)専門外で、重症度の判断が十分にできなかった。搬送元とのコミュニケーションもきちんととっていなかった」と説明した。妊婦の容体について同病院は「意識がない状態と聞いている」としている。

 かかりつけ病院などによると、受け入れを拒否したのは計6病院。しかし、これらの中には共同通信の取材に「要請を受けた記録がない」としている病院もある。

 妊婦は最終的に20キロ以上離れた都立墨東病院(墨田区)に搬送された。同病院で出産後、脳内出血の疑いがあり処置を受けた。赤ちゃんは無事という。

 杏林大病院やかかりつけの病院などによると、妊婦は調布市在住で、お産のためかかりつけの病院に入院中の9月23日午前零時ごろから、嘔吐や右半身が動かないなどの症状が出始めた。杏林大病院など複数の病院から受け入れを拒否された。

 杏林大病院は「総合周産期母子医療センター」。当時、当直をしていたのは研修医を含めて2人だった。岩下光利(いわした・みつとし)副センター長は「脳内出血という診断がついていれば受け入れていた。極めてまれな症例で経験がなく、残念なことになった」と話した。

(共同通信、2008年11月5日)

****** 朝日新聞、2008年11月5日

脳出血の妊婦受け入れ断り、9月にも 

搬送先まで4時間

 東京都調布市の飯野病院に入院中の30代妊婦が、今年9月に脳出血を起こし、一報を受けた杏林大病院をはじめ6病院から受け入れを断られた末に、搬送先が見つかり運び込まれるまで約4時間かかっていたことが分かった。最終的に都立墨東病院で子どもは無事に生まれたが、「妊婦は入院して、意識がない状態」(杏林大病院)だという。都内では先月4日にも脳出血を起こした妊婦が8病院に断られ、死亡している。都は9月のケースも調査する。厚生労働省も事実関係を把握しており、都などに事情を聴く方針。

 総合周産期母子医療センターに指定されている杏林大病院(東京都三鷹市)の岩下光利教授(産婦人科)によると、かかりつけ医のいる飯野病院からの電話連絡は23日午前3時過ぎ。妊婦は出産予定日を過ぎており、前日に飯野病院に入院していた。「容体が悪くなって、軽いまひがある」という連絡だった。

 しかし、当時、杏林大病院の産科の当直医2人は、電話の前に救急搬送された別の妊婦の帝王切開中だったため、受け入れを断った。

 当直医が、受け入れまでに時間がかかると説明、かかりつけ医側は、「いつまでも待つ」と返事をしたという。

 岩下教授によると、当直医は、妊婦がそれほど緊迫した状況にあるとは思わず、陣痛の際にしばしば起こる、「(呼吸が過剰になる)過換気症候群などではないか」と判断したようだという。

 同大学病院は都内の他の周産期母子医療センターの状況がわかる情報システムで、受け入れ可能な病院をかかりつけ医に紹介。一方、当直医は多摩地区の3病院に連絡したが、断られた。

 飯野病院によると、杏林大病院には「緊急性と切迫性がある」と伝えていた。独自に杏林大のほか新宿や渋谷の病院に連絡をしたが、いずれも断られた。このとき、多摩地区の妊婦を杏林大病院が受け入れられない場合には都内の総合周産期母子医療センターが輪番制で受け入れるルールだと教えられたという。

 妊婦は午前7時10分に墨東病院に運び込まれ、帝王切開と脳の手術を受けた。

 東京都は「子どもは健康だが、母体については家族の意向もあり、言えない。搬送についてはこれから調査する」としている。

(朝日新聞、2008年11月5日)

****** 読売新聞、2008年11月5日

杏林大病院など脳出血の妊婦受け入れ拒否、意識不明の状態に

 脳出血を起こした東京都調布市内の妊婦(32)が今年9月、杏林大病院(東京都三鷹市)など、少なくとも6病院から受け入れを断られていたことが5日、分かった。

 最終的に都立墨東病院(墨田区)に搬送され、子供は無事に生まれたが、妊婦は意識不明の状態が続いているという。

 杏林大病院は妊婦や胎児の緊急治療に対応する「総合周産期母子医療センター」。先月4日には、江東区内の妊婦が8病院から受け入れを拒否され、脳出血の手術の3日後に死亡している。

 都や調布市内のかかりつけ病院などによると、妊婦は9月22日午後、出産のために入院し、23日午前0時ごろから嘔吐や右半身が動かなくなるなどの症状が出始めた。午前3時ごろ、当直医から連絡を受けた院長が診察し、脳疾患の疑いがあると判断、杏林大病院に電話で受け入れを依頼した。

 杏林大病院は総合周産期母子医療センターに指定されており、「産科医を24時間体制で2人以上確保することが望ましい」とする都の基準を満たしていたが、産科の当直医2人が帝王切開の手術中だったことから受け入れを拒否。このため、かかりつけ病院と杏林大病院で、都内の5病院に受け入れを要請をしたが、いずれも拒否された。

 午前6時ごろになって、ようやく約25キロ離れた墨東病院での受け入れが決まり、妊婦が同病院に到着したのは午前7時過ぎだった。

 かかりつけ病院側は、「脳疾患の疑いがあり、杏林大病院に緊急性は伝えた」としているが、杏林大病院は「(かかりつけ病院からは)受け入れを待てる状態だと言われた。緊急性があると分かっていれば受け入れた」と述べるなど、主張が食い違っている。

(読売新聞、2008年11月5日)

****** 毎日新聞、2008年11月5日

妊婦拒否:杏林大病院など6病院も 女性意識不明の重体に

 おう吐や半身まひなど脳内出血の症状を訴えた東京都調布市の妊婦(32)が今年9月、リスクの高い妊婦に対応する「総合周産期母子医療センター」に指定されている杏林大病院(東京都三鷹市)など6病院から受け入れを拒否されていたことが分かった。女性は最初の受け入れ要請から約4時間後に都立墨東病院(墨田区)に搬送され出産したが、現在も意識不明の重体。子供は無事だった。

 都内の別の妊婦が10月、墨東病院など8病院に受け入れを拒否され死亡した事故の約2週間前に起きたケースで、妊婦に対する救急医療体制の不備が改めて浮かび上がった。

 この妊婦のかかりつけ病院だった調布市の飯野病院によると、女性は出産のため9月22日に入院。23日午前0時ごろからおう吐や右半身まひなどの症状が出た。脳内出血の疑いがあり、医師が外科治療が必要と判断、午前3時ごろから複数回、杏林大病院に受け入れを要請したが、「産科医が手術中で人手が足りない」と拒否されたという。

 一方、杏林大病院によると、要請を受けた時、当直医2人が手術中で、約1時間後に再要請を受けた時も術後管理や空きベッドがなかったことから受け入れられなかったという。岩下光利・同大教授(産婦人科)は「飯野病院からの連絡に切迫性はなく、外科措置が必要との認識はなかった」と話している。その後、杏林大病院は飯野病院と分担し、小平市など多摩地区の3病院と23区内の2病院に問い合わせたがいずれも受け入れを拒否されたという。

 東京都内の周産期医療システムでは、多摩地区の総合周産期母子医療センターなどで受け入れができない場合は、23区内の八つの総合周産期母子医療センターが輪番で対応することになっており、午前5時半ごろ、約25キロ離れた墨東病院での受け入れが決定。同7時ごろ、搬送されたという。

(毎日新聞、2008年11月5日)

****** NHKニュース、2008年11月5日

妊婦 6つの病院断られ重体に

 ことし9月、東京・調布市の産婦人科病院に入院していた妊婦が脳出血を起こし、地域の拠点病院を含む6つの病院から受け入れを断られた末に、意識不明の重体になったことがわかりました。東京では先月にも脳出血を起こした妊婦が受け入れを断られたあとに死亡し、お産前後の救急医療に大きな課題のあることが明らかになったばかりでした。

 意識不明になったのは、お産のため東京・調布市にある産婦人科病院「飯野病院」に入院していた32歳の女性です。

 飯野病院によりますと、9月23日の未明、女性におう吐や右半身のマヒなどの症状が出たため、地域の拠点病院である東京・三鷹市の杏林大学医学部付属病院に受け入れを要請しました。

 杏林大学病院は、緊急の治療が必要な妊婦を受け入れる「総合周産期母子医療センター」に指定されていますが、当時、産科では別の手術を抱えていたうえ、病床もいっぱいだったことなどから、受け入れを断ったということです。

 その後、杏林大学病院と飯野病院が手分けをしてあわせて5つの病院に受け入れを打診しましたが、いずれも断られたということです。女性の搬送先は最初に受け入れを断られてから3時間後に決まり、およそ25キロ離れた東京・墨田区の都立墨東病院で手当てを受けました。子どもは無事産まれましたが、女性は脳出血のため意識不明の重体になり、現在も墨東病院に入院しているということです。

 東京では先月4日にも脳出血を起こした妊婦が、8つの病院に受け入れを断られたあとに死亡し、お産前後の救急医療に大きな課題のあることが明らかになったばかりでした。

(NHKニュース、2008年11月5日)

****** FNNニュース、2008年11月5日

9月に脳内出血した東京・調布市の妊婦、6病院から受け入れ断られ都立墨東病院で出産

 2008年9月に、脳内出血をした東京・調布市の妊婦が、杏林大学付属病院など6つの病院から受け入れを断られ、20km以上離れた都立墨東病院で出産していたことがわかった。9月23日未明、調布市の飯野病院に入院していた32歳の妊婦に、吐き気や右半身まひなどの症状が出たため、「総合周産期母子医療センター」に指定されている杏林大学付属病院など6つの病院に受け入れを要請したが、産科医が手術中などの理由で、受け入れを断られていた。結局、3時間半後に20km以上離れた都立墨東病院が受け入れ、赤ちゃんを無事出産したあと、母親は、脳内出血の処置を受け、現在も意識不明のまま入院している。

(FNNニュース、2008年11月5日)

****** 産経新聞、2008年11月5日

9月にも妊婦受け入れ拒否 都内の30代脳内出血

 東京都調布市内のかかりつけの病院で嘔吐(おうと)などの症状を訴えた30代の妊婦が今年9月、杏林大学病院(三鷹市)など複数の病院に受け入れを断られ、最終的に20キロ以上離れた都立墨東病院(墨田区)で出産し、脳内出血の処置を受けたことが4日、分かった。母子ともに命に別条はないという。

 関係者によると、9月23日未明、妊婦がかかりつけの病院で嘔吐を繰り返したため、杏林大病院へ搬送を要請。ところが同病院は「他の妊婦の帝王切開の手術中」などとして受け入れを拒否。かかりつけの病院は都内の複数の病院にも搬送要請したが、いずれも断られた。

 その後、杏林大病院に再度受け入れを要請したが、「帝王切開の手術自体は終了しているが術後の処置などが済んでおらず、新たに妊婦の搬送を受け入れることは困難」と拒否された。

 杏林大病院は、東京23区外の多摩地域で唯一「総合周産期母子医療センター」に指定されており、かかりつけの病院からは約4キロの距離。これに対し、搬送された墨東病院は20キロ以上離れていた。

 同じ総合周産期母子医療センターの墨東病院など8病院による妊婦受け入れ拒否が発生したのは、その11日後だった。

 事態を重視した厚労省は事実関係の確認に乗り出した。

(産経新聞、2008年11月5日)


母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例(その6)

2008年11月03日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

東京都内の場合だと、総合周産期母子医療センターが9病院、地域周産期母子医療センターが13病院指定されていますし、周産期母子医療センター以外にも緊急母体搬送の受け入れが可能な大病院が多く存在します。『この地区であれば、最終的にはこの病院が受け入れる』というようなだいたいの流れは当然決まっていると思われますが、どの病院もぎりぎりのマンパワーで毎日多くの緊急母体搬送を受け入れてますから、病院によっては、例えば、『たまたま直前に他の母体搬送を受け入れたばかりで、これから緊急手術を開始するところなので、誰も手が空いてない』というような場合もあり得ます。そういう場合は救急車が出発する前に、受け入れ可能な施設を数ある候補の中から何とかして探し出す必要があります。そこで、『現時点でどの病院が緊急母体搬送の受け入れが可能な状況なのか?を多くの病院に次々に電話で問い合わせて、搬送先決定までに手間取る』という事態も起こり得るわけです。

周産期医療の搬送システムは、主に胎児疾患や新生児疾患への対応を主軸にして構築されています。母体の偶発合併症の場合は、それぞれの状況に応じて、救命救急医、脳外科医、整形外科医などの一般の救急医療にかかわる専門医達と周産期医療にかかわる専門医達とが一緒に対応しなければならないので、周産期医療の患者搬送システムと救急医療の患者搬送システムの連携も必要となります。多くの選択肢がある中で、受け入れ可能な施設をスムーズに探し出す仕組みを整備する必要があります。11月1日に東京で開催された「わが国のお産のあり方を考える」公開市民フォーラム(主催:日本産科婦人科学会の厚労省研究班)でも、そのことについて熱い議論がありました。

地方の場合は事情が大きく異なります。例えば長野県の場合だと、胎児疾患、新生児疾患を受け入れる3次施設は県内に1カ所(県立こども病院)、母体疾患を受け入れる3次施設は県内に1カ所(信州大病院)のみで、各医療圏の周産期や一般救急の搬送を受け入れる2次施設もほぼ1カ所づつしかありません。他に選択肢がないため、搬送先の病院は自動的に1カ所に絞られ、搬送先の病院を探し出す作業で苦労するということはまず起こり得ません。

母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例

母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例(その2)

母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例(その3)

母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例(その4)

母体搬送の受け入れ先決定までに時間を要した事例(その5)

****** 共同通信、2008年11月4日

崩れた『砦』 妊婦受け入れ拒否

こんな大都会でなぜ... 週末は悲劇への"谷間" 

 10月4日、土曜日の夕。東京都江東区にある「五の橋(ごのはし)産婦人科」の院内は、緊迫した雰囲気に包まれていた。

 「痛い、痛い!」

 頭を抱えて七転八倒する妊婦(36)。かかりつけの同医院に自宅から救急車で運ばれて来たが、尋常ではない容体に医師は手に負えないと判断。必死で搬送先を探すが、複数の病院に次々に収容を拒否された。

 二度にわたる要請の末、同医院からわずか1キロ先の都立墨東(ぼくとう)病院に搬送されたのは1時間18分後。当時、産科には当直に入った30代の男性研修医ただ1人。「週末は原則として急患の搬送を受け入れていない」といったんは診察を拒んだ。

 妊婦は脳内出血だった。男児を出産したものの、意識を取り戻すことなく3日後に亡くなった。

 受け入れを拒否したのは8病院。うち墨東病院を含む3施設は24時間態勢で緊急処置が必要な妊婦を受け入れる総合周産期母子医療センター。いわば「最後のとりで」だった。

 それから3週間。厚生労働省で多くの報道陣を前に、夫(36)がやり切れない思いを吐露した。

 「なんで文明や医療の発展した都会で、死にそうに痛がっている人間を誰も助けてくれないのか...」

 地方に比べ医師も多く、医療機関も整備されているはずの首都・東京。医療界からは「背景にあるのは医師不足」との声が続出した。

 産科医らでつくる「周産期医療の崩壊をくい止める会」の事務局長を務める上昌広(かみ・まさひろ)・東京大医科学研究所准教授は言う。「周産期医療のとりでを研修医1人に任せっ放しにした病院や都の責任は重い」

 都内に9施設ある総合周産期母子医療センターの中で、唯一の都立病院である墨東病院の産科医は、5年前から定数割れに陥っていた。数年前に東大の医局が医師を引き揚げてからは、人員確保に四苦八苦していた。

 「医師の間では、激務に見合わない待遇の悪さに不満の声が続出していた。今年6月末に1人が退職して3人となり、いよいよ週末の当直を1人にせざるを得なかった」と関係者。

 都は2月、江戸川区医師会など地元3医師会から産科医を補充するよう要請を受けていたが、なんら対応が取られないまま悲劇が起きた。

 「これはレアケース。万々々が一の事態は想定しにくい」。石原慎太郎(いしはら・しんたろう)知事は記者会見でそう強調した。

 妊婦の受け入れ先探しに当たった五の橋産婦人科の塩野結子(しおの・ゆうこ)医師は「まさに谷間に当たってしまった」と振り返る。その"谷間"でいったい何があったのか、真相は不透明なままだ。

   *   *   

 東京で起きた妊婦受け入れ拒否問題は、産科医療が直面している課題をあらためて浮き彫りにした。背景にある事情を探った。

ほころび次々と 伝達、ネット検索

 墨東(ぼくとう)病院「脳内出血が疑われるとの情報は当直医に伝わらなかった。重症度を認識していれば、お受けした」

五の橋(ごのはし)産婦人科「頭を抱え痛い痛いと言っていることをちゃんと伝えた」

 死亡した妊婦の搬送要請をめぐっては、医療機関同士の対話の不十分さが浮き彫りになった。

 問題が表面化した10月22日、都立墨東病院と妊婦のかかりつけ医院が別々に記者会見して経緯を説明。墨東病院側は妊婦の状態が正確に伝わっていなかったと主張したが、かかりつけの「五の橋産婦人科」は緊急性を訴えたと明言するなど、双方の言い分が大きく食い違う。

 その2日後、舛添要一厚生労働相は自ら墨東病院に足を運び、事態の深刻さをアピール。国として異例の聞き取り調査に乗り出した。

 調査でやり玉に挙がったのが、緊急処置が必要な妊婦の搬送先をインターネットで検索するシステムだ。

 都内には「総合」と「地域」の周産期母子医療センターが計22あり、相互にネットワーク化して病院ごとの受け入れ状態が検索できる。

 墨東病院で当直していた研修医は、最初の要請を断った際、このシステムを使い東京慈恵会医大病院など3病院が「収容可」と確認、五の橋産婦人科側に伝えた。しかし同医院がこれらに電話をすると「新生児集中治療室が満床」などを理由に相次いで拒否された。

 「なぜ画面の更新がなされず、最新の診療態勢が反映されなかったのか。3時間にわたる調査の間、役人の質問はシステムの機能に終始した」

 墨東病院関係者は、厚労相の指示で行われた国の調査の一幕を明かす。「ハード面にしか関心が向かないことに『検索システムなんてナンセンスだ』と声を荒らげる医師もいた」

 今回の背景として、東京特有の"落とし穴"を挙げる人も。

 「東京は(8つに)地区割りされ、それぞれに総合周産期センターが1つ以上ある。各地区内では最終的に総合センターが急患を受け入れるはずだが、駄目な場合はよそ(の地区)に回すことができる。このシステムがうまく機能しているかどうかの実態を今まで誰も評価していなかった」

 墨東病院で2001年まで周産期センター産科医長を務め、地元にある三枝(さいぐさ)産婦人科医院で副院長をしている升田春夫(ますだ・はるお)医師はそう指摘する。

 周辺にセンターがない地域では「最後のとりで」が、「ほか」をあてにすることは許されない。

 升田医師は言う。「東京は(環境が)恵まれているのに、都はシステムを改善しなかったり悪いまま放置して知らん顔をしていた」

問われるERとの連携 役割に理解進まず

 「産科医不足というよりも、ERの機能がうまくいっていなかったのではないか」

 今回の問題について、医療現場ではそんな声が出ている。

 ERは「救急治療室(エマージェンシー・ルーム)」を意味し、24時間、診療科を問わず急患を受け入れ、初期診療に当たる。

 救急医療の充実を目指す東京都の石原慎太郎(いしはら・しんたろう)知事は「東京ER」と銘打ち、これまで3つの都立病院にERを新設。悲劇の現場となった墨東(ぼくとう)病院はその第1号で、救急に関する高度な専門機能を備えていた。

 二度目の要請で墨東病院に妊婦が運ばれた際、総合周産期母子医療センターの当直医はERに連絡、頭部の検査で頭蓋(ずがい)内出血が確認された。院内で当直中の脳外科医も駆けつけ、共同で処置に当たった。

 しかし最初の要請段階では緊急性を認識せず、こうした連携をとらなかったという。

   *   *   

 数カ月前。ERを置く中部地方の総合病院に、救急隊から連絡が入った。

 「ひどい頭痛で、意識がもうろうとしている妊婦を搬送したい」

 緊急の帝王切開も考慮しなくてはならないが、院内の産科医は手術中で対応できない状況。

 「とにかく母体を守る必要がある」。そう考えたER医は要請を受け入れた。診察で脳内出血だと分かった。

 幸い出血は限定的だった。ER医は初期的な措置を取った上で、転送先の病院を探した。なかなか見つからず、手術中の産科医にも協力を要請。産科医はオペを中断、自ら電話をかけて受け入れ先を探した。搬送から数時間が経過していたが、妊婦は転送先で無事に赤ちゃんを産み、一命を取り留めた。

 しかし、この総合病院では「最終的な治療を院内でできない状況での受け入れは、適切だったのか」とER医の対応を疑問視する声が出ている。

 北米をモデルにしたERの機能は、日本ではまだ十分に理解されていないのが実情だ。

 初期診療に特化し、手術などが必要な場合は専門科に送るという役割に「最終的な責任を負わないのはおかしい」「通常業務で忙しい他の診療科に負担をかけるだけ」などと批判が根強いという。

 舛添要一厚生労働相は、ERと周産期医療の連携を充実させる意向を表明。しかし、救急医療の現場で働くある若手医師は懸念を示す。

 「現状ではER医が専門科の医師に遠慮して、患者の受け入れを拒む事態も起こり得る。診療科ごとの縦割り意識も強く、連携は容易ではない」

(共同通信、2008年11月4日)

****** スポーツ報知、2008年11月3日

都の対応間違っていた“妊婦たらい回し”、私を批判した石原都知事は赤っ恥かいた

 先月、脳出血を起こした妊婦が、都立墨東病院など8病院に受け入れを拒否され死亡した。この問題への対応をめぐり、舛添要一厚労相(59)と石原慎太郎東京都知事(76)が対立。互いへの激しい非難合戦に発展した。舛添氏は「都の対応が間違っていたのは、証明されつつある。私を批判した知事は赤っ恥をかいた」と強気な姿勢を崩さず。まだまだ、論戦は続きそうだ。一方で麻生太郎首相(68)の消費税率アップ発言には「議論すべきことで、適切な提案」と期待感をにじませている。

 ―病院施設が充実されていると思われた東京で、妊婦が“たらい回し”されて亡くなった。
  「大変にゆゆしきことだ。墨東病院は今年7月から、週末の当直医は1人きり。しかも、研修医という状態だった。考えられない。根本的な問題は医師不足。過去10年以上にわたり、厚労省は『医師は余っている』と言い続け、歴代大臣も何もしてこなかった。私が大臣になって対策を講じてきたが、医師の育成は10年はかかる。その矢先に、こんな問題が起きてしまった」

 ―石原知事と対立は。
  「私はあくまで都の対応を指摘しただけ。都知事を名指ししてないのに、知事が一人で熱くなって、マスコミがバトルに仕立て上げたんだ」

 ―なるほど。
  「そもそも、墨東病院は『総合周産期母子医療センター』という全国に74か所ある施設の1つで、国が補助金を出している。だが、地元の医師会が墨東の体制がひどいから、改善をするよう東京都に申し入れていたのに、都はずっと放置してきた。さらに、今回の問題が報道で明るみになるまで、厚労省に報告していなかった。だから私は『東京都に任せられない』と言ったんだ」

 ―知事の意見に納得できたのか。
  「国と都のどちらの言い分が正しかったか分かってきて、メディアは都批判に回りつつある。今回の妊婦の遺族が、どこで会見したか? それは厚労省だ。都立病院で起きた問題なのに、都庁ではなかった」

 ―つまりは。
  「遺族は都に抗議の意思を示す意味があったと思う。勝負はついたでしょ。知事はあんな発言をして、今、赤っ恥をかかされている。知事は行政のあらゆる分野に目を向けなければならないが、少なくとも医療分野に関しては、私の方が知識は豊富だ。都の役人の受け売りだけでなく、自らの目で事の本質を見ないと。医師不足に関して、国も改革を進めているのだから、都も都立病院の再編など、できることはあるはずだ」

 ―麻生首相が先月30日に、衆院解散・総選挙を当面見送る方針を示した。
  「最大の問題は世界的な経済情勢にある。100年に一度あるかないかの金融恐慌が起きるかもしれないという時に、経済大国の日本が総選挙をやっている場合か、ということになる」

 ―逆にいつ解散するのがベストなのか。
  「それも大変判断が難しい。公明党との協調関係もあるし。世界経済の情勢がこんなに悪いと…今後の状況を見守るしかない」

 ―麻生首相は3年後の消費税率アップについて言及した。
  「私は厚労相になる前から、社会保障の財源をしっかり議論すべきと主張してきた。首相の発言は適切な提案だ。税率が10%を超えて、2ケタになる場合は、ぜいたく品と日常の必需品に分けて複数税率にすべきだ」

 ―選挙前の増税論はタブー視されてきた。
  「日本は低い負担で中程度の福祉を実現してきたが、限界に来つつある。それ相応の福祉水準を求めるならば、見合った負担は必要。税率が1%上がれば2・5兆円の増収になる。こういう事情を率直に訴えて、選挙を戦う時期に来ているのではないか」

 【石原知事の厚労省批判】妊婦死亡問題の発覚直後に、舛添氏は「妊婦死亡から2週間以上も厚労省に報告が上がってこないのはどういうことか。都に任せていられない」と都批判を展開した。

 舛添発言の翌日に、石原知事は「医者の数を増やすのは国の責任だ。東京に任せてられないんじゃない。国に任せてられないんだ」などと反論。さらに「(舛添氏は)墨東病院を視察して事態を聞いた後で、話がトーンダウンした」「あの人、年金の問題も大見え切るけど、いつも空振り。けしからん役人を代弁しているみたいな印象にしか映らない」と批判した。

(スポーツ報知、2008年11月3日)

****** 読売新聞、2008年10月28日

8病院拒否 妊婦死亡

急患 都市部の盲点
…地域の「責任病院」明確化必要

 脳出血を起こした東京都内の妊婦(36)が、8病院に受け入れを断られ、出産後に死亡した。(医療情報部・館林牧子)

 要約

 ◇都市部では、救急患者受け入れに最終的に責任を持つ病院が決まっていない。

 ◇重症の妊産婦救命のため、産科と一般の救急医療を一体的に整備する必要がある。

 妊婦は今月4日午後7時前、頭痛や吐き気などを訴え、かかりつけの東京都江東区の産婦人科医院に搬送された。緊急事態と判断した医師は、東京都立墨東病院に受け入れを要請したが、「産科当直医が1人しかいない」と断られた。

 その後も7病院に断られ、1時間後、再び墨東病院に要請。同病院は別の産科医を呼び出して帝王切開を行い、脳外科当直医が脳の手術をしたものの、女性は3日後に死亡した。

 受け入れを断った病院のうち、同病院を含む3病院は、最重症の妊産婦の緊急治療に当たる「総合周産期母子医療センター」だった。

 なぜ母子医療の「最後の砦」となるはずの病院が、その役割を果たせなかったのか。

 問題の背景には、医師不足が指摘されている。だが、都市部より産科医不足が深刻な地方で、たらい回しがほとんど起きない地域もある。そうした地域では、責任を持って患者を受け入れる病院が決まっている。

 一方、都市部では、地域の救急医療に最終的な責任を持つ病院が決まっておらず、結果的に“集団無責任体制”に陥っている。地域ごとに、責任を持って患者を受け入れる病院を明確にしておく必要がある。

 もっとも、医師ら人員に限りがあり、一つの病院だけで、すべての患者を受け入れる体制を整えることはできない。本紙の医療改革提言(16日朝刊)でも訴えたように、開業医ら地域の医療機関の協力が欠かせない。

 宮崎県都城市では、産科開業医は、患者の妊婦に緊急の治療が必要になった場合、拠点となる病院に受け入れを要請したうえ、妊婦と共に、開業医がその病院に行き、病院の医師と協力して治療に当たる。別の開業医が応援に駆けつけることもある。

 都市部でも、拠点病院の救急医療に、開業医や他の病院の医師が参加し、地域全体で支える体制を作るべきだ。

 そのためには、行政が主導して、地域ごとに、病院や開業医、住民が参加する協議会を設け、緊急時の連携体制を構築することが必要になる。

 拠点病院に、同時に複数の急患が搬送されるなど対応しきれない場合、さらに広域で協力する仕組みも求められるだろう。

 今回、搬送を断った病院には、44人の産婦人科医を擁する東大病院も含まれている。救急たらい回しは、医師不足から起きていることは間違いないが、医師を増員さえすれば解決するとは言えない。

 同病院が受け入れを断った理由は、赤ちゃんを治療する新生児集中治療室(NICU)が満床だったことだった。NICUを増やすとともに、病床を常に確保するため、容体の落ち着いた患者は他の病院に移すことも必要になる。これには患者側の理解も大切だ。

 重症の妊産婦の救命には、脳外科など他の診療科との連携も重要だ。

 常駐の産婦人科医が1人しかいない岩手県立釜石病院(釜石市)では、多量出血などの緊急時には、産婦人科医と外科系医師が共同で治療に当たることにし、万一に備えた緊急招集訓練も実施している。

 今回のケースでは、墨東病院は24時間、どんな患者も受け入れる救急病院「ER」(救急治療室)でもあった。だが、同院の総合周産期母子医療センターは、ERに打診せず、いったん妊婦の受け入れを断っていた。産科と救急部門の縦割りの問題点が表れた。

 国は、産科救急と一般の救急体制を別々に整備してきたが、今後は産科と一般の救急医療を一体となって実施するべきだ。

受け入れを拒否した病院

病院 場所 拒否理由
慈恵医大 港区 新生児集中治療室が満床
慶応大 新宿区 感染症の疑いがあり、個室が必要と判断したが個室が満室
日赤医療センター 渋谷区 母体胎児集中治療室が満床
日大板橋 板橋区 新生児集中治療室が満床
順天堂大 文京区 2人の産科医が出産対応中のうえ、満床
慈恵医大青戸 葛飾区 脳神経外科の当直体制が取られていなかったため
東京大 文京区 新生児集中治療室が満床

(読売新聞、2008年10月28日)

****** 朝日新聞、2008年11月3日

産科と救急の連携強化、2学会が作業部会

 日本産科婦人科学会(日産婦)と日本救急医学会は、脳出血などの重い病気になった妊婦の救急救命体制を整備するための合同作業部会をつくり、3日初会合を開いた。都内の妊婦が8病院に受け入れを断られて脳出血で死亡した問題を受け、予定を早めて年内に協力の枠組みについて提言をまとめる。

 妊婦の症状に応じて素早く治療するための産科と救急部門の連携のあり方や連絡方法などについて、地域の実情を踏まえて検討する。

 脳出血を起こした奈良の妊婦が複数の病院に受け入れを断られて死亡した問題などを受け、日産婦は今春から、日本救急医学会に連携を強化するための作業部会設置を呼びかけていた。

(朝日新聞、2008年11月3日)

****** 読売新聞、2008年11月2日

周産期医療センター、妊婦搬送大都市ほど拒否…読売全国調査

地方「原則受け入れ」

 先月上旬に脳出血で死亡した東京都内の妊婦が、「総合周産期母子医療センター」のある病院など8病院で受け入れを拒否された問題を受け、読売新聞が全国75か所の同センターを対象に調査した結果、搬送の受け入れを「断る場合がある」というセンターが4割弱に上り、特に大都市部で多いことが分かった。

 逆に地方では大半が「原則すべて受け入れる」としている。産科医不足を背景に、土日などに「当直2人体制」が維持できないセンターは5割近くに上った。

背景に新生児治療室不足

 調査は、各センターからの回答や都道府県への取材により、71か所の状況を把握した。妊産婦の受け入れを要請された場合、「断る場合がある」は26か所(約37%)。内訳は、東京都内の全9か所、神奈川、福岡県の各3か所、大阪府と栃木県の各2か所、埼玉、千葉、茨城、群馬、和歌山、広島県と京都府の各1か所。首都圏の1都3県では回答した15か所のうち14か所(約93%)に上った。断る理由で最も多いのは「新生児集中治療室(NICU)の満床」。都市部でハイリスクのお産に対応するNICUが不足している実態が浮き彫りになった。ほかに「医師不足」「手術中」などもあった。

 大都市部では「拒否率」が5割超のセンターも7か所に上った。ただ、「ハイリスクの妊婦を受け入れるため、軽症の妊婦を断っており、適切な転院搬送の結果」(大阪府立母子保健総合医療センター)といったケースも含まれている。

 「原則すべて受け入れ」は45か所(約63%)で、地方都市で県内唯一というセンターが多かった。

 都立墨東病院がいったんは妊婦受け入れを拒んだのは「土曜日で当直医が1人しかいない」との理由だった。調査で土日や夜間に「1人体制」の時があるとしたのは34か所。その多くは規模が小さい地方のセンターで、待機医師の呼び出しで対応していた。「(大都市部と違い)うちが断れば、ほかに受け入れ先がない」(山口県立総合医療センター)といった声が複数あり、地方で当直体制が厳しいにもかかわらず、受け入れ拒否が少ない背景として、責任体制の問題も関係しているとみられる。

 総合周産期母子医療センター 最重症の妊産婦や新生児の緊急治療を担う施設で、地域の産科医療の「最後の砦(とりで)」とされる。現在、山形、佐賀の2県を除く45都道府県の75病院が指定されている。

(読売新聞、2008年11月2日)

****** 共同通信、2008年11月2日

妊婦死亡問題などを議論 産科医療のフォーラム

 周産期医療の現状や産科医不足を考えるフォーラムが1日、東京都内で開かれ、産科医ら約100人が参加、東京都の妊婦が複数の病院に受け入れを断られ脳内出血で死亡した問題などについて議論した。

 妊婦死亡をめぐり、東京都周産期医療協議会会長の岡井崇(おかい・たかし)昭和大教授が「当直の医師を1人から2人にしたらいいという簡単な問題ではない」と発言。「東京では新生児集中治療室(NICU)を含めベッドが満床のことが多く、対応が困難なケースが多い」と、東京の現状を説明した。

 水上尚典(みなかみ・ひさのり)北海道大教授は札幌市の取り組みを紹介。同市では10月1日から、地域の周産期医療の拠点病院について毎日夕、市のコーディネーターが空きベッドの状況などを確認。夜間の「当番病院」に指定されると、搬送依頼があった時点で満床でも受け入れなければならないという。

 これに対し、東京の医師からは「大きな病院が複数ある東京では、満床で受け入れるより、他の病院でよりよい治療を受けてもらおうと、結果的にほかを探して時間がかかるというケースも多い」との意見が出た。

(共同通信、2008年11月4日)

****** 読売新聞、2008年11月2日

「お産」フォーラムで救急と周産期医療の意見交換

 東京都立墨東病院などの妊婦受け入れ拒否が問題となる中、公開市民フォーラム「わが国のお産のあり方を考える」が1日、都内で開かれた。

 フォーラムでは、産科医ら約150人が、深刻な産科医不足の現状で、救急と周産期医療がどうあるべきか意見交換した。

 受け入れ拒否の解消策としては、札幌市で10月から試行されている取り組みが紹介された。同市では、コーディネーター役の助産師が毎夕、地域の病院に電話して病床の空き状況などを調べ、夜間の受け入れ当番病院を決める仕組みを採用。来年4月からの本格実施を目指しているという。

(読売新聞、2008年11月2日)

****** 朝日新聞、2008年11月2日

お産扱う病院、1年で8%減少 産婦人科医会調査

 お産を取り扱う病院が昨年から今年にかけて全国で8%(104施設)減ったことが1日、日本産婦人科医会の調査でわかった。同医会の中井章人・日本医科大教授が、日本産科婦人科学会(日産婦)と厚生労働省の研究班が東京都内で開いた市民フォーラムで報告した。同医会は、過重な労働などに伴う産科の医師不足が原因とみている。

 同医会が今年7月に実施した調査によると、分娩(ぶんべん)を取り扱う病院は、07年の1281施設から1177施設に減った。常勤の医師数は1施設当たり4.5人から4.9人に増えた。

 厚労省研究班の主任研究者を務める岡村州博・東北大教授は同フォーラムで、「産科医の数を増やすには数年かかる。今はとにかく医師たちが辞めない環境づくりが重要だ」と訴えた。

 吉村泰典・日産婦理事長は、東京都内の妊婦が8病院に受け入れを断られた後に死亡した問題に触れ、「年に約100万件のお産のうち、脳出血で亡くなる妊婦は約20人。欧米でもこのような妊婦を救命する体制はできていないが、日本でまず整備していきたい」と語った。

(朝日新聞、2008年11月2日)

****** 毎日新聞、2008年11月2日

公開市民フォーラム:産科・救急のあり方探る 妊婦死亡踏まえ--東京

 日本のお産のあり方を考える公開市民フォーラム(日本産科婦人科学会など主催)が1日、東京都内で開かれた。都立墨東病院などに受け入れを断られて妊婦が死亡した問題を受け、救急と周産期医療のあり方などについて意見を交わした。

 産科医や市民ら約150人が参加。初めに、厚生労働省の研究班などが、1カ月間の在院時間が340時間を超えるなど大学病院での産科医の厳しい勤務実態のほか、分娩(ぶんべん)施設の集約化、周産期医療の地域連携などの具体例を報告した。

 その後、参加者らが討論。救急と周産期医療の連携について「札幌では妊婦の受け入れ可能な病院の優先順位を毎日確認しているため、すぐに搬送先の病院が決まる」などの事例が紹介された。また、勤務医の労働環境改善には「引退した産科医を再び現場に戻すことを考えてはどうか」「開業医が病院の支援に参加しやすい仕組み作りが必要」などの意見が出た。【河内敏康】

(毎日新聞、2008年11月2日)

****** 時事通信、2008年11月1日

産科医辞めぬ取り組みを=たらい回しと言わないで-医療体制でフォーラム・東京

 産科医不足が深刻化する中、日本産科婦人科学会などは1日、東京都内で「わが国のお産のあり方を考える」と題した公開フォーラムを開いた。勤務医の労働実態に関する調査を踏まえ、医師が辞めずに働き続けられる環境整備などについて活発な議論が交わされた。

 フォーラムには、全国の産科医のほか、他科の医師、一般市民ら約150人が参加。厚生労働省研究班が、産科勤務医の在院時間が月300時間に上るとの調査結果を報告。単純な勤務時間でなく、呼び出し待機を含めた拘束時間で考える必要性を指摘した。

 小阪産病院(東大阪市)の竹村秀雄理事長は、病院が少ない大阪府南部で4市3町が協力した医療連携を紹介。当直回数は変わらないが呼び出しが減り、常勤医の生活の質が上がったという。

 東京都内で8つの病院に救急搬送を断られた妊婦が死亡し問題化したが、札幌市では先月、コーディネーターが各病院の受け入れ状況を毎夕確認し、搬送先を決める体制が始まった。報告した北海道大の水上尚典教授は「医師がいても満床では受けられない。状況把握が必要」とした。

 岡井崇昭和大教授は、妊婦死亡の報道について「『たらい回し』『受け入れ拒否』という言葉は(受け入れるかどうか)自分で決める余地があるようで現状と違う。その病院で働く人のやる気がそがれる言葉を使わないでほしい」と求めた

(時事通信、2008年11月1日)

****** 毎日新聞、2008年11月1日

妊婦受け入れ拒否死亡:墨東病院の当直、可能な限り2人--休日体制

 東京都立墨東病院(墨田区)などに受け入れを拒否された妊婦が死亡した問題で、都は31日、墨東病院の11月の休日当直を「可能な限り2人体制とする」と発表した。墨東病院は産科医不足から、7月以降は休日当直を原則1人体制とし、妊婦の搬送に対応できていなかった。

 都病院経営本部によると、新たな医師が確保できておらず、緊急避難的な対応。11月は院内の医師をやりくりし、休日当直が1日中1人となる日を3日間に抑えた。1人当直は、常勤医に担当させる。また、新事業として▽都立病院に協力できる地域の医師を対象にした「産科診療協力医師登録制度」の創設▽休日・夜間の中リスク患者の緊急搬送に対応する「周産期連携病院」の指定--を進める。関連の補正予算案を12月議会に提案する。【須山勉】

(毎日新聞、2008年11月1日)

****** 産経新聞、2008年11月1日

【妊婦死亡】墨東病院、可能な限り2人当直体制へ

 東京都内の妊婦が都内8病院で受け入れを断られ、出産後に脳内出血で死亡した問題で、問題が発生した都立墨東病院(墨田区)は、11月の土日祝日の当直体制を、これまでの1人体制から可能な限り、2人体制へと強化するとした。

 都によると同病院の11月の当直が全日2人体制になるのは、土曜日5日間のうち4日間(1、15、22、29日)と、日曜祝日の7日間のうち3日間(2、3、24日)。また、23、30日の日曜日は夜間当直のみ2人体制となる。

 当直が1人体制の日は問題発生時に当直に入っていた研修医は入らず、常勤医師による当直体制をとる。

 今回は、同病院内の当直に入る産科医15人の中で、当直回数を増やしながら2人体制を実現。都は「かなり無理をしており、11月中は緊急対応としてやる」と述べ、今後は他の医療機関からの協力を得ながら当直体制の充実を図りたい意向だ。

(産経新聞、2008年11月1日)

****** 毎日新聞、2008年11月1日

妊婦受け入れ拒否死亡:「産科医月300時間拘束」 学会、厚労相に改善訴え

 妊婦が8病院に受け入れ拒否され死亡した問題で日本産科婦人科学会(吉村泰典理事長)は31日、舛添要一厚生労働相に「周産期医療と救急医療の連携」などを柱とした緊急提言を出した。

 学会は、今回のような母体の救急救命は周産期医療と救急医療の中間的な位置にあるとして「両者の連携が不可欠だが、現行の取り組みは不十分」と指摘。情報交換の迅速化を図るとともに、小児集中治療室の病床不足解消のため重症心身障害児施設の整備などを進めるよう求めた。また、産科医が病院内にいる平均時間が、一般病院で月292時間、大学病院で月341時間にのぼるとの調査結果を示し「過酷な労働の改善と、相応の処遇が必要だ」と訴えた。

 舛添厚労相は「国として長期的な医師不足の処方せんは示しているが、提言を生かして短期的な問題の検討も進めたい」と述べ、週明けにも専門家から意見を聞いて再発防止策をまとめる意向を示した。【清水健二】

(毎日新聞、2008年11月1日)

****** 共同通信、2008年10月31日

産科医、月300時間の拘束  過酷勤務明らか、初の実態調査

 全国の一般病院や大学病院に勤める産婦人科医が、診療や待機などで拘束されている時間は月平均で300時間を超え、中には500時間以上の医師もいることが、日本産科婦人科学会による初の勤務実態調査の中間集計で31日分かった。

 単純に1カ月30日として割ると、300時間の場合は休日なしで毎日10時間、最長の例では同16時間拘束される計算になる。

 学会は「過酷な勤務の一端が数値で示された」とし、厚生労働省に報告。詳しい内容を11月1日に都内で開く公開市民フォーラムで発表する。

 集計は一般病院の221人、大学病院の76人の勤務医からの回答を基にまとめた。一般病院のうち、当直勤務がある一般病院の医師は月平均4・2回の当直をこなし、病院にいる時間は月平均301時間だった。

 当直がない一般病院では、実際に病院にいる時間は平均259時間だったが、お産があると必ず呼び出される「病院外での待機時間」も含めると、拘束時間は平均350時間に上った。

 一方、大学病院の勤務医は、大多数が一般病院でのアルバイトもこなすため拘束時間は平均341時間と長く、当直は月平均5・8回。最長で505時間だった。

(共同通信、2008年10月31日)

****** NHKニュース、2008年10月31日

東京都が産科医不足で新対策

 脳内出血を起こした妊娠中の女性が都内の8つの医療機関から受け入れを断られたあと死亡した問題を受け、東京都は、拠点病院の受け入れ態勢を確保するため都が費用を負担したうえで地域の産科医を拠点病院に派遣してもらう新たな取り組みを進めていくことになりました。

 この問題は、東京に住む妊娠中の女性が今月4日脳内出血を起こし、都内の8つの医療機関から受け入れを断られたあと死亡したものです。この問題で、最初に受け入れを断った都立墨東病院は緊急の治療が必要な妊娠中の女性を受け入れる拠点病院に指定されていましたが、土日と祝日の産科医の当直が1人しかおらず、原則として救急患者の受け入れを断っている状態でした。東京都内のほかの拠点病院でも産科医の不足で十分な当直態勢がとれないところがあり、都ではこうした状態を少しでも解消していくために新たな取り組みを進めていくことになりました。具体的には、拠点病院の産科医の態勢が手薄になる日に地域の別の総合病院などから産科医を派遣してもらい常に複数の医師が病院内に待機する態勢を確保していく方針です。派遣に伴う費用は東京都が負担することにしていて、都ではこの費用などを盛り込んだ補正予算を12月の都議会に提案することにしています。

(NHKニュース、2008年10月31日