****** 日本産科婦人科学会ホームページより
http://www.jsog.or.jp/news/pdf/Q&A_20110418.pdf
大気や飲食物の軽度放射性物質汚染について心配しておられる妊娠・授乳中女性のためのQ&A
平成23 年4 月18 日
日本産科婦人科学会
Q1. 「放射性ヨウ素」って何ですか?
A1.原子力発電所などの事故の場合に大気中などに放出される放射能活性を持った極めて小さなチリのようなものです。
Q2. 「内部被曝」って何ですか?
A2. 大気中にばらまかれた放射性ヨウ素は、時間をかけて地上に降りて来ます。その間に体の表面から受ける放射能被曝を外部被曝と言います。この外部被曝が大量だと、やけどや体内の臓器障害が起こります。一方、この細かな放射性ヨウ素は吸気ともに肺から体の中に、また地上に降りた放射性ヨウ素は食べ物表面に付着したり水道水に混入し、飲食物として体の中に入ってきます。体の中に入った放射性ヨウ素は少量でも近くにある臓器を攻撃しますので健康被害を引き起こす可能性があります。これを内部被曝と言います。
Q3.内部被曝を受けるとどんなことが起こりますか?
A3. いったん、体の中に入ったヨウ素(I-131)は甲状腺に集まりやすいという性質があります。そのため、甲状腺が最も被害を受けやすくなります。甲状腺が50mSv (ミリシーベルト) 以上の被曝を受けると甲状腺がんになりやすくなります。ただし、40 歳以上では影響を受けず、若い人ほど甲状腺がんになりやすいとされています。また、被曝により起こった甲状腺がんは比較的穏やかながん(進行がゆっくり)と言われています。
Q4.内部被曝を避けるためにはどんな注意が必要ですか?
A4.最も影響を受けやすい甲状腺を守ることは体全体を守ることになります。そのため多くの国で、水や食べ物について、甲状腺を守るための(安全に食べることができる)基準値(1kg に含まれるベクレル基準値)を示しています。日本では外国よりもむしろ厳しい(より安全な)基準値を示しています。そのため、実際には、水道水や流通している食品を摂取しているかぎり健康被害の心配はないと考えられています。しかし、妊娠・授乳婦人は用心に越したことはありません。繰り返しになりますが、甲状腺が50mSv の被曝を受けると健康被害の心配がでてきます。
Q5. 胎児(お腹の中の赤ちゃん)を守るための食事の注意は?
A5. 胎児の甲状腺はお母さんの甲状腺より影響を受けやすいので、妊娠してない成人より、お母さんはより安全でバランスのいい食事が必要です。水が汚染されている場合には、野菜なども汚染されていることが多く、また今回の場合は魚介類の汚染も心配です。しかし、本人の健康維持、胎児(お腹の中の赤ちゃんのこと)、ならびに授乳のためにはバランスのいい食事が必要です。下表の組み合わせの飲食は最大危険時を想定したものですが、毎日続けた場合、約82 日間で胎児甲状腺の被曝は50mSv になります。現在のところ入手できる食品にはほとんど汚染がなく、水道水汚染もありません。しかし、爆発など起きるとまた汚染が心配されますので、報道等にはご注意下さい。
最大危険時を想定した食事内容(*1.0 キログラムあたり)と摂取ベクレル
水道水 100 ベクレル* 1.6 リットル 160?
野菜 2000 ベクレル* 300 グラム 600?
牛乳 200 ベクレル* 200 ミリリットル 40?
チーズ 200 ベクレル* 50 グラム 10?
魚介類 2000 ベクレル* 100 グラム 200?
肉・卵・その他 200 ベクレル* 500 グラム 100?
穀類 200 ベクレル* 300 グラム 60?
1 日あたりの飲食による総ベクレル 1170?
摂取したベクレルの総量に0.00047 をかけると胎児甲状腺被曝量(mSv)になります。
摂取したベクレルの総量に0.00032 をかけると母体甲状腺被曝量(mSv)になります。
1 日に1170 ベクレル摂取すると、胎児甲状腺被曝は1 日あたり0.55mSv となり、82 日で45mSvになる(残り5mSv の被曝は母親の大気から暴露を想定している)。計50mSv の被曝を受ける場合、水から11.1mSv、野菜から11.1mSv、乳製品から11.1mSv、その他の食品(穀類、肉、魚介、卵など)と大気から16.7mSv の被曝を受けることを想定している。
Q6. 粉ミルクを飲んでる赤ちゃんは安心ですか?
A6. 粉ミルクを汚染した水道水で溶かして飲ませた場合の話です。仮にその水道水が1 リットルあたり100 ベクレル含み、毎日0.8 リットル(800 ミリリットル)その赤ちゃんが飲み続けた場合、200 日で赤ちゃんの甲状腺被曝量は50mSv に達します。(乳児の場合には摂取ベクレルに0.0028 をかけると乳児甲状腺被曝量になる。例えばこの場合、1 日あたり80 ベクレル飲むので、200 日では 80×200×0.0028=45mSv, 残り5mSv は乳児が呼吸により被曝することを想定している)。
Q7. その他、被曝量を少なくするための注意はありますか?
Q7. 野菜や魚介類表面には放射性ヨウ素が付着している場合がありますので、よく洗ってから調理するようにします。もし、水道水汚染の発表があった場合には、1 日~2 日間、冷蔵庫保存してから飲むと、放射能を9%~18%程度減少させることができます。ただし、2 日以上保存した場合は細菌が増えている場合がありますので、一旦沸かしてから飲むようにすると安心です。
****** 日本産科婦人科学会ホームページより
http://www.jsog.or.jp/news/pdf/announce_20110418.pdf
大気や飲食物の軽度放射性物質汚染について心配しておられる妊娠・授乳中女性へのご案内(続報)
平成23 年4 月18 日
日本産科婦人科学会
放射性物質による軽度汚染の長期化が懸念されています。この場合には特に軽度汚染飲料水や食物を長期間摂取することによる体内での被曝(内部被曝)が心配されます。この点について比較的よく研究されているヨウ素(I-131)について学会の見解を示します。ただし現在のところ、ヨウ素(I-131)による大気汚染は減少し続けており、ほんの一部の地域を除いてヨウ素(I-131)による水道水汚染はありません。ヨウ素(I-131)を一気に噴出するような新たな爆発が起こらないかぎり、ヨウ素(I-131)を含んだ水道水や野菜による健康被害を心配する必要はなさそうです。ただし、ヨウ素(I-131)による海洋汚染は現在も持続しています。今後の海水汚染の動向には注意が必要です。
以下に示す例は、最大危険時等を想定した、連日、比較的高いベクレルを含んだ飲食物を摂取するとした場合であり、現実的には3 月15 日にあったような爆発(放射性ヨウ素を一度に大量噴出した)が繰り返されなければ、起こらない場面を想定しています。(最大危険時を想定した食事内容とその時の被曝量を末尾に表示しています)
1. 内部被曝について
飲食物として摂取されたヨウ素(I-131)は甲状腺に集まりやすいという性質があります。そのため、甲状腺は摂取されたヨウ素(I-131)量に応じて他の臓器より実質的に高い放射能にさらされることになります。甲状腺の被曝量(mSv, ミリシーベルト)と摂取したベクレルとの関係は以下のように計算されます。
甲状腺への集まり易さを加味した計算式です。
大人の場合:ベクレル量×0.00032
乳児の場合:ベクレル量×0.0028
胎児の場合:ベクレル量×0.00047 (ここのベクレルは母親の摂取量)
例えば、成人が1 リットルあたり100 ベクレルの水を毎日1.0 リットル、100日間飲み続けた場合、摂取総ベクレルは100×1.0×100=10,000 ベクレルとなり、その間の甲状腺被曝量は10,000×0.00032=3.2mSv (ミリシーベルト)となります。
乳児の場合に、1 リットルあたり100 ベクレルの水で溶かした粉ミルクを連日0.8 リットル(800 ミリリットル、あるいは800 cc)、100 日間飲み続けた場合、摂取総ベクレルは100×0.8×100=8,000 ベクレルとなり、その間の乳児甲状腺被曝量は8,000×0.0028=22.4mSv (ミリシーベルト)となります。
胎児の場合、母親が1 リットルあたり100 ベクレルの水を毎日1.0 リットル、100 日間飲み続けた場合、胎児甲状腺被曝量は10,000×0.00047=4.7mSv (ミリシーベルト)となります。
2. 安全な甲状腺被曝量について
安全を見込んで、許容される年間あたりのヨウ素(I-131)による総甲状腺被曝量は成人、乳児、ならびに胎児を含め50mSv とされています。ここでは、50mSvのうち、水から11.1mSv、野菜から11.1mSv、乳製品から11.1mSv、その他の食品から11.7mSv、大気から5mSv 摂取すると仮定します。
3. 成人が安全に飲むことのできる水の量について
年間に許容される飲料水からの総ベクレルは11.1(mSv)÷0.00032=34,688 ベクレルです。1 日、1 リットルあたり100 ベクレルの水を1.0 リットル連日のみ続けた場合、347 日で安全を見込んだ11.1mSv に達することになります。
4. 妊娠婦人が安全に飲むことのできる水の量について (胎児の安全を加味して)妊娠婦人がヨウ素(I-131)を摂取した場合、ヨウ素(I-131)は母親甲状腺より胎児甲状腺に、より集まりやすくなります。したがって、胎児の安全を加味した場合、妊娠婦人が安心して飲める水の量は他の成人に比べて、約30%ほど少ない量となります。1 日、1 リットルあたり100 ベクレルの水を1.0 リットル連日のみ続けた場合、約236 日で母親の飲水による胎児甲状腺被曝量は11.1mSvに達することになります (100 ベクレル×0.00047×236=11.1mSv)。
5. 粉ミルク栄養の乳児の場合
仮に栄養のすべてを粉ミルク(汚染されていないと仮定)から摂取している乳児の場合、野菜などからの摂取はありませんので、粉ミルク(軽度汚染飲料水で溶かした)からの甲状腺被曝量は45mSv 程度まで許容されます。その場合、年間に許容される粉ミルクからの総ベクレルは45÷0.0028=16,071 となります。1 リットルあたり100 ベクレル含む水で溶かしたミルクを0.8 リットル連日のみ続けた場合、200 日で安全を見込んだ乳児甲状腺被曝量45mSv に達することになります。
6. 野菜からのヨウ素(I-131)摂取について
年間に許容される野菜類からのヨウ素(I-131)による甲状腺被曝量は11.1mSvとされています。これは野菜に含まれる総ベクレル34,688 ベクレルに相当します。仮に1.0kg あたり2,000 ベクレル含んだ野菜を連日、300g(1,000g=1.0kg)食べ続けた場合、58 日間でこの量に達します。ただし、野菜が含んでいるベクレル値は出荷当時の数値ですので、1 日あたり1 日前の値(ベクレル)に比してベクレルは約9%減少し、また水洗いによりかなり減少するので、実際には、もっと長期間安心して食べることができます。ただし、土壌汚染により野菜内に取り込まれたヨウ素(I-131)については洗い流すことはできません。
7. 魚介類などからのヨウ素(I-131)摂取について
年間に許容される肉、魚介類、穀類(水、野菜、乳製品以外から)からのヨウ素(I-131)による甲状腺被曝量は11.7mSv 程度とされます。これは、36,563ベクレルに相当します。仮に1.0kg あたり1,000 ベクレル含んだ魚介類100g と1.0kg あたり200 ベクレル含んだ穀類を連日300g 食べ続けた場合、毎日160ベクレル摂取することになり、229 日間でこの量に達します。ただし、これらが含んでいるベクレル値は出荷当時の数値ですので、1 日あたり1 日前の値(ベクレル)に比してベクレルは約9%減少します(8 日間で半分になります)。また魚介類は水洗いにより表面に付着したヨウ素(I-131)は減少します。
8. バランスを考えた食物摂取について
以上の計算は、水、野菜、乳製品、魚介類を含むその他の食品や大気のすべてが一定以上汚染されたものしか入手できない場合を想定しての計算です。現在のように大気汚染も軽度で水道水汚染もない環境下では、飲料水と空気からの被曝がわずかなので、汚染の可能性を心配し魚介類や乳製品を遠ざけるといった食行動はかえって健康維持のうえで問題となる可能性があります。日本では野菜、乳製品、魚介類の出荷に関して厳しい基準値が設定されています。バランスのいい食事をお勧めします。参考として、最大危険時を想定した場合の食事内容について末尾に表示します。
9. ヨウ素(I-131)の半減期について
放射能活性を持ったヨウ素(I-131)の半減期は8 日間です。例えば、1 リットルあたり100 ベクレルの活性を持ったヨウ素を含んでいる飲料水の場合、8 日間放置すると、放射能活性が半分の50 ベクレルになります。腐らないよう冷暗所(暗くて寒い所、例えば冷蔵庫の中に)に24 時間保存すると前日のベクレル量から9%ほど低いベクレル量となります。しかし、水道水中の消毒剤の効果も時間とともに切れてきますので、長期間の保存はお勧めできません。長期間保存した水道水は一旦沸騰してから飲むことをお勧めします(殺菌するためです)。
参考
最大危険時を想定した1 日の食事内容(*/kg)と摂取ベクレル
水道水 100 ベクレル* 1.6 リットル 160?
野菜 2000 ベクレル* 300 グラム 600?
牛乳 200 ベクレル* 200 ミリリットル 40?
チーズ 200 ベクレル* 50 グラム 10?
魚介類 2000 ベクレル* 100 グラム 200?
肉・卵・その他 200 ベクレル* 500 グラム 100?
穀類 200 ベクレル* 300 グラム 60?
この場合の1 日あたりの飲食による総ベクレル 1170?
摂取したベクレルの総量に0.00047 をかけると胎児甲状腺被曝量(mSv)になる。
摂取したベクレルの総量に0.00032 をかけると母体甲状腺被曝量(mSv)になる。
仮に1 日に1170 ベクレル摂取すると、胎児甲状腺被曝は1 日あたり0.55mSv となり、82 日間で45mSv になる(残り5mSv の被曝は母親の大気から暴露を想定している)。
このお知らせを作成するにあたり、参考にした書物等は以下のとおりです。ここで示した数値が他の情報からの数値と少し異なる場合がありますが、その違いはあまり大きいものではなく、根拠となる研究報告やどの程度安全性を見込むかによって起こる数値の違いですのでご安心下さい。
1. Guidance: Potassium iodide as a thyroid blocking agent in radiation emergencies. US Department of Health and Human Services, Food and Drug Administration, Center for Drug Evaluation and Research (CDER), December 2001 Procedural
2. Phipps AW, Smith TJ, Fell TP, Harrison JD. Part 1:Doses received in utero and from activity present at birth in Doses to the embryo/fetus and neonate from intakes of radionuclides by the mother. Contract Research Report 397/2001
3. 原子力災害時における安定ヨウ素剤予防服用の考え方について. 平成14 年4 月、原子力安全委員会、原子力施設等防災専門部会
4. 「放射性物質に関する緊急とりまとめ」2011 年3 月、食品安全委員会
5. 緊急時における食品の放射能測定マニュアル. 平成14 年3 月、厚生労働省医薬局食品保健部監視安全課