ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

臍帯嚢胞

2010年11月28日 | 周産期医学

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臍帯嚢胞はまれな疾患で、妊娠初期のものは自然消退することが多く、児の予後とは関係がないことが多い。妊娠中期以降まで臍帯嚢胞が認められる場合には、先天奇形や染色体異常との関連性が指摘されている。発生の起源別に、真性臍帯嚢胞(尿膜の遺残)と、偽性臍帯嚢胞(ワルトン膠質の局所変性)とに分類される。臍帯嚢胞は、先天奇形と染色体異常の合併が予後決定の大きな要素となる。染色体異常と臍帯嚢胞との因果関係についてまだはっきりした見解はないが、胎児の超音波検査スクリーニングで臍帯嚢胞がみつかった場合は、先天奇形や染色体異常を念頭に置いて注意深く管理していく必要がある。

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Williams Obstetrics 23rd Edition, p584:
   Cord cysts occasionally may be found alomg the course of the cord and are designated true cysts or pseudocysts, according to their origin. True cysts are epithelium-lined remnants of the allantois and may co-exist with a persintently patent urachus. In contrast, the more common pseudocysts form from local degeneration of Wharton jelly. Both have a similar sonographic appearance.
   Single umbilical cord cysts found in the first trimester tend to resolve completely, whereas multiple cysts may portend miscarriage or aneuploidy (Ghezzi and co-workers, 2003; Sepulveda and colleagues, 1996). Moreover, pseudocysts persisting beyond this can be associated with structural and chromosomal anomalies defects, especially trisomy 18 and 13 (Sepulveda and associates, 1999a: Smith and colleagues, 1996).

ウイリアムス産科学(第23版)、584頁:
 臍帯嚢腫は臍帯走行上にまれにみつかり、その起源に応じて真性嚢腫または偽性嚢胞と称される。真性嚢胞は上皮に覆われた尿膜の遺残で、永続的な尿膜管開存症と共存するかもしれない。それに対し、偽性嚢胞はより頻度が高く、ワルトン膠質の局所的変性である。両者の超音波所見は同様である。
 妊娠初期に認められる単発性の臍帯嚢胞は完全に消失する場合が多いが、多発性の臍帯嚢胞の場合は流産や染色体異常の前兆となる(Ghezziら、2003; Sepulvedaら、1996)。さらに、妊娠中期以降まで偽性嚢胞が持続する場合は、先天奇形や染色体異常(18トリソミーや13トリソミーなど)と関連する可能性がある( Sepulvedaら、1999; Smithら、1996)。


今後の飯田下伊那地域における産婦人科医療提供体制について

2010年11月27日 | 飯田下伊那地域の産科問題

飯田下伊那地域の最近の年間分娩件数は約1600件で、そのうち里帰り分娩は約300件程度と考えられます。医療機関別では、飯田市立病院で約1000件、椎名レディースクリニックで約400件、羽場医院で約200件の分娩を取り扱ってきました。羽場医院が来年2月末で分娩の取り扱いを中止することになり、来年3月以降の飯田市立病院の分娩取り扱い件数がその分増える見込みです。そこで、分娩件数の急増に対応するために、分娩室と外来診療室の増設工事を緊急的に実施することになりました。

飯田市立病院の第三次整備計画(建設費25億円、11年度上半期着工、13年度上半期完成予定)で、北側増築棟の2階に周産期センター、1階に産婦人科外来を設置し、将来の分娩件数増加に対応していく予定ですが、その完成を待っていたんでは来年度の分娩件数増加に間に合わないので、緊急工事を実施することになりました。せっかく工事を実施しても建物部分は2年後に取り壊すことになりますが、分娩台、分娩監視装置、超音波検査装置などの医療機器は、新しい周産期センター、産婦人科外来に引っ越す際に、すべて持っていく予定です。

飯田下伊那地域における産婦人科医療提供体制は、今まで存亡の危機に何度も何度も直面してきましたが、多くの人々の協力を得て、その時その時の急場を何とかしのぎながら、これまでかろうじて生き延びてきました。大きな危機が訪れる度に、一緒に頑張ってくれる仲間の数がだんだん増えてきました。これから先のことは全くわかりませんが、今後もみんなの力を結集して、危機を一つ一つ乗り越えていきたいと思います。

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以下、中日新聞の記事(2010年7月27日付け)より引用

出産受け入れ体制強化へ 飯田市立病院
来年分娩室を増設 羽場医院の扱い停止受け

 飯田下伊那地方で出産を取り扱う3医療機関のうち、飯田市駄科の羽場医院が来年2月末で取り扱いをやめる代わり、同市八幡町の市立病院が分娩室の増設により受け入れ件数の増加を図ることになった。市立病院が25日夜、飯田下伊那地方の行政、産科医療機関などによる産科問題懇談会で提案、全会一致で了承された。(長谷部正)

 飯伊地方の出産は里帰り分を含めて年間1600件前後で推移。市立病院が1000件、同市小伝馬町の椎名レディースクリニックが400件、羽場医院が200件を扱ってきた。羽場医院の取り扱い停止に伴い、市立病院は来年2月末までに分娩室を現在の3室から4室へ増設。外来診察室も拡張する。また、「90件を限度とする」としてきた1ヵ月当たりの出産予約件数の方針も「90件程度とする」と緩和する。

 市立病院の山崎輝行産科部長は「最近も111件を受け入れた月があり、年間1200件の受け入れは可能という予測ができている」と報告。各医療機関からは健診、外来診療の拡充などで2医療機関に協力する旨の意見が相次いだ。

 同地方で出産を取り扱う医療機関は、30年前の13ヵ所から年々減少し、4年前には3ヵ所まで激減した。市立病院は2007年11月には里帰り出産を原則として断るなど、出産予約件数を月70件程度に制限。その後は産科医の確保などに応じ、徐々に制限の解除を進めている。

(以上、引用終わり)

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以下、南信州新聞の記事(2010年11月27日付)より引用

分娩対応へ緊急工事 飯田市立病院
羽場医院の分娩取り扱い中止を受け
産科問題懇談会

 飯田下伊那の行政と医療関係者でつくる「産科問題懇談会」(会長・牧野光朗南信州広域連合長)は25日夜、飯田市役所で開催された。来年2月末をもって、羽場医院が分娩の取り扱いを止めることになったのを受け、今後の対応を協議した。来年3月以降の分娩を取り扱う医療機関は、飯田市立病院と椎名レディースクリニックの2か所になるため、産婦人科の診療、出産予約について理解と協力を呼びかけることを決めた。

 市立病院では、取り扱う分娩件数の増加に対応するため、分娩室や産婦人科の外来診療室の増設工事を2月中には終え、なるべく多くの分娩に対応できる体制を緊急に整える方針。増設工事は年末から約6000万円かけて実施し、分娩室を1室増やして分娩台を4台(現在3台)にする予定。第三次整備計画までのつなぎの対応となる。

 妊婦健診と軽症の婦人科疾患の診療については、平岩ウイメンズクリニック、椎名レディースクリニック、西澤病院(木曜日のみ)に加え、10月から常勤の産婦人科医師が着任した下伊那赤十字病院、来年3月から外来診療に特化する羽場医院で受診する。

 市立病院の産婦人科医師は、10月から1人増え6人となっていることから、できるだけ受け入れていきたい考え。千賀院長は「おおむね受け入れられるが、一定の制限をせざるを得ないこともある」とした。

 飯田下伊那地域に居住している人の出産は、従来通り原則としてすべて受け入れる。さらに、里帰り出産についても受け入れるが、受付件数によっては制限することもある。市立病院で出産を希望する人は、妊娠初診を前記の連携産科医療機関で受け、紹介状を書いてもらってから出産の予約を取る。出産の予約は12週までに行い、原則として20週までには少なくとも1回以上受診できる人について、随時受け付けていく。実家が飯田下伊那にある人で市立病院での里帰り出産を希望する人は、妊娠がわかり次第、市立病院へ連絡する。

 羽場医院の羽場啓子医師は「前々からもうやめようかと考えていたが、ことし3月ごろから体調を崩し、患者さんやスタッフに迷惑をかけた。お産に立ち会えない時もあり、5月ごろに予約が入っていた来年2月末をもってやめようと決めた」と説明した。羽場医院は1995年6月に開業し、年間200~220件の分娩を取り扱ってきた。

 以下略

(以上、引用終わり)

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以下、南信州新聞の記事(2010年11月27日付)より引用

飯田市立病院第3次整備計画を発表

 飯田市立病院(千賀脩院長)は26日開いた市議会全員協議会で、南信州圏域定住自立圏の中核病院としての機能と役割を果たすため「救急医療」「周産期医療」「がん医療」などの診療機能の充実を柱とする第3次整備計画を発表した。現建物の南側と北側に建物を増築し、現在分散している救命救急センターの各部署を集約するとともに、周産期センターをワンフロアーで配置するなど、がん医療なども含め診療機能の充実を図る。建設費約25億円をかけ、完成は2013年度上半期の予定。

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 建設する建物は、3階建の南側増築棟と4階建の北側増築棟の2棟で、延床面積は合計約6500平方メートル。このほか、既設の建物約3890平方メートルを改修する。南側増築棟には、現在分散している救急外来、救急病床、救急ICUなどの救命救急センターの各部署を、CT検査部門やヘリポートに近い場所に集約する。救急病床6床、救急ICU4床、一般病床2床のスペースを確保し、救急患者の受入環境を整える。

 北側増築棟には、現在2カ所に分散している周産期センター(分娩部門、新生児部門、産科病棟)をワンフロアーで2階に配置。1階に産婦人科外来、助産師外来を配置することで、動線の短縮を図る。分娩室は、リスク軽減のため手術室に近い場所へ配置し、1室増やし4室とする。病床数も2床増やし34床、GCU(継続保育室)は8床増やし12床、陣痛室は2室増やし4室とする。ファミリーケア室(育児指導室)も設置する。

 がん医療は外来化学療法室、緩和ケア部門、麻酔科処置室を一体的または隣接して、できるだけプライバシーが守れくつろげる場所に配置する。外来化学療法室は、20床が配置できるスペースを確保。緩和ケアのためのサロン(情報コーナー)、医療相談やセカンドオピニオンにも対応できる相談室・指導室を設置する。

 患者・利用者のアメニティー向上を図るため、食堂や売店など手狭なサービス部門の改善や、待ち時間をより快適に過ごすことができる施設整備を行う。食堂の客席はゆとりある配置ができるスペースを確保し、利用しやすいように職員エリアと一般エリアを分けるとともに、車イスで移動しやすい通路を確保する。売店は、現在の倍程度の面積とし、品ぞろえを充実するとともに、車イスでも移動しやすい通路を確保する。図書、情報コーナーや休憩コーナーを設置する。

 このほか、地域医療連携室と医療福祉係がより連携して業務ができるよう事務室を移動し、各種相談業務が充実するよう相談室を設置。手狭な腎センターを拡張し、ベッド数は現状(17床)程度とするが、感染者専用個室やトイレ、休憩室、面談室を設置する。内視鏡室も手狭なため拡張し、リカバリールームを設置する。

 5月から進めてきた基本設計がまとまり、これから実施設計に入る。来年度上半期を目標に2棟同時に着工。南側増築棟は約1年で完成するが、全体の工事完成は13年度上半期を予定している。

 建設費約25億円の財源内訳は、県の地域医療再生基金交付金2億円、市の出資金9億円(うち合併特例債4億5000万円、定住自立圏構想推進基金1億5800万円、残りは一般財源)病院事業債14億円。収支計画によると、経常損益は10年度の3億4400万円、11年度の2億900万円から、12年度に4200万円と黒字が少なくなるが、13年度は6000万円、14年度は1億8300万円と回復していく見通し。同院では「黒字を確保しながら建設を進める」と説明した。

(以上、引用終わり)


神戸の夜景

2010年11月22日 | 日記・エッセイ・コラム

第49回日本臨床細胞学会秋期大会に出席するために、神戸市までやって来ました。六甲山山頂付近のホテル(六甲山ホテル)に宿泊しました。六甲山からの神戸の夜景はとても素晴らしかったです。神戸の夜景は、函館山から望む函館の夜景、稲佐山から望む長崎の夜景とともに、日本三大夜景に挙げられているそうです。

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神戸の夜景(六甲山鉢巻展望台より)

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神戸市街を望む(深夜、六甲山ホテル屋上展望デッキより)

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神戸市街を望む(早朝、六甲山ホテル屋上展望デッキより)

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六甲山ホテルの周辺(六甲山自然保護センターより)

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六甲山の遠景(神戸ポートピアホテルより)

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休日深夜帯の超緊急帝王切開について

2010年11月01日 | 周産期医学

産婦人科医、小児科医、麻酔科医、手術室看護師などが院内に不在で、手術実施に必要なスタッフを自宅から呼び出さねばならない場合、「帝王切開の方針決定から児娩出までに30分以内」を常に達成することは不可能です。当院でも平日の日勤帯ならば、「必要とあらば30分以内に帝王切開を実施する」のが努力目標となってますが、平日の勤務時間外や休日では手術実施に必要なスタッフを自宅から呼び出す必要があり、「帝王切開の方針決定から児娩出までに30分以内」を常に達成するのは不可能です。ところが現実には、緊急帝王切開の中でも特に緊急性の高い「超緊急帝王切開」も時にあり得ます。「超緊急帝王切開」とは、方針決定後、他の要件を一切考慮することなく、全身麻酔下で直ちに手術を開始し、一刻も早い児の娩出をはかる帝王切開です。

最近、当院で「超緊急帝王切開」の実施例を経験しました。常位胎盤早期剥離の症例で、発症は休日の深夜帯でしたが、(たまたま多くの関係スタッフが院内に存在していて)帝王切開と決定してから18分後に児が娩出されました。休日深夜の突然の出来事でしたが、産婦人科医3人、小児科医2人、麻酔科医2人、研修医、手術室スタッフなどが緊急招集され、手術室は突然大勢の人でごったがえし、大声が飛び交って一時騒然となりました。幸いにも母児とも無事でした。その患者さんの場合、特にリスク因子もなく何の誘因もなく突然発症しました。

当院では産科担当医が「超緊急帝王切開」が必要と判断した場合は、方針決定と同時に直ちに患者さんを手術室にストレッチャーで搬送し、全館放送の緊急呼出しで院内にいる産婦人科医、小児科医、麻酔科医および手術室勤務の経験があるスタッフを直ちに手術室に召集し、できる限り早く手術を開始する手順が一応決まっています。ただし、この方策がうまくいくかどうかは、全館放送で緊急呼び出しをした時に、院内にたまたま誰が存在しているのか?という偶発性に依存しています。今回は(たまたま運よく)方針決定から児娩出までの時間は18分でしたが、これを常に達成することは不可能です。院内に術者や麻酔科医などが不在の場合は、方針決定から児の娩出までに30分以上を要するのは確実です。

分娩を取り扱う施設では、分娩300~400例に1例の頻度でこのような「超緊急帝王切開」例が発症します。原因となる疾患は、常位胎盤早期剥離、子宮破裂、臍帯脱出などです。「超緊急帝王切開」を要する緊急事態が、いつどの妊婦さんに発症するのかは予測できません。ですから、分娩を取り扱う施設では、いざという時にはいつ何時であっても「超緊急帝王切開」が実施できるように、常日頃から院内の関係スタッフを集めてシミュレーションを繰り返して、緊急時の手順を取り決めて準備を整えておく必要があります。

当院の場合、「超緊急帝王切開」のシミュレーションを年に2回ほど実施してます。帝王切開は常日頃多く(毎週数件)実施しているルーチン手術なので、関係スタッフが手術室内に集まって手術が開始されるところまでいきつけばあとは何とかなります。平日の日勤帯であれば、もともと大勢のスタッフが手術室内に存在しているので、大抵の場合はスムーズに事が運びます。『平日の勤務時間外や休日に、いかにして関係スタッフを緊急招集するのか?』が一番の問題となります。今年に入ってからは、当院で勤務時間外に発症した「超緊急帝王切開」を要する症例を2例経験しましたが、2例とも(たまたま多くの関係スタッフが院内に存在していて)帝王切開と決定してから20分以内に児が娩出され、娩出直後より新生児科医により新生児の蘇生処置が開始されました。

参考記事:

帝王切開:周産期センター「30分で手術可能」3割

常位胎盤早期剥離

子宮破裂

臍帯下垂、臍帯脱出