ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

妊婦のトキソプラズマ症

2020年07月15日 | 周産期医学

トキソプラズマ(Toxoplasma gondi)は、ネコ科動物を終宿主とし、ヒトを含む哺乳動物や鳥類などの恒温動物を中間宿主とする人畜共通寄生虫のひとつである。胎児感染すると、水頭症、頭蓋内石灰化、小頭症、腹水、肝脾腫、胎児発育不全などを起こすことがあり、これらの所見が胎児超音波検査で見られた場合、トキソプラズマ感染が疑われる。妊娠中のトキソプラズマ初感染は先天性トキソプラズマ症の発症につながる。日本におけるトキソプラズマの抗体陽性率は、低下傾向にあり、2013~2015年の妊婦の抗体陽性率は6.1%との報告だった。わが国での先天性トキソプラズマ症の発生数は10,000出生当たり1.26人と推計されている。妊婦のトキソプラズマ抗体保有率が高いフランス(44%、2003 年)では、全妊婦に対する抗体スクリーニングや、抗体陰性者に対して抗体検査を月1回行う感染予防プログラムが実施されている。全妊婦を対象としたユニバーサルスクリーニングは主に欧州諸国で実施されている。わが国では現時点で全妊婦対象のユニバーサルスクリーニングまでは推奨されてない(推奨レベルC)が、実際には妊婦取り扱い施設の約半数程度でトキソプラズマ抗体スクリーニングが実施されている。

妊婦抗体スクリーニングの目的は以下の2つである。
1)トキソプラズマIgG陰性妊婦に対して感染予防􏰄の教育・啓発を行う。
2)初感染の可能性が高い妊婦を抽出し、妊娠中の治療、新生児の精査・診断、フォローアップを行う


   トキソプラズマのライフサイクル

産婦人科診療ガイドライン・産科編2020
CQ604 妊婦のトキソプラズマ感染については?
Answer
1. 妊婦には感染防止のための情報を提供する(表1参照)。(C)
2. IgM抗体陽性が長時間持続する妊婦(persistent IgM)がいることに留意し、IgM抗体陽性妊婦では感染時期を推定するための精査を行う。(B)
3. 妊娠成立後の感染と考えられる場合、スピラマイシンを投与する。(B)
4. 羊水PCR検査で胎児感染が確認できた場合、ピリメタミンとスルファジアジン投与を考慮する。(C)

(表1)トキソプラズマ感染予防のための妊婦教育・啓発の内容


   トキソプラズマの妊婦スクリーニング法

参考文献:
1)トキソプラズマ妊婦管理マニュアル(第4版)、母子感染に対する母子保健体制構築と医療技術開発のための研究、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、成育疾患克服等総合研究事業、平成28~30年度
http://cmvtoxo.umin.jp/doc/toxoplasma_manual_20200116.pdf
http://cmvtoxo.umin.jp/doctor_04.html
2)産婦人科診療ガイドライン・産科編2020、日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会、2020

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周産期医学(母体・胎児)の必修知識

2014年09月07日 | 周産期医学

○妊娠の生理学
減数分裂(成熟分裂)
胎児循環
DOHaD( Barker説 )とは?
妊婦の体重管理

○産科の検査・診察
胎児の位置に関する用語
妊婦の耐糖能検査
先天性心疾患(CHD)の胎児診断
胎児心拍数モニタリング
妊婦の血液検査でダウン症の出生前診断(精度99%)
NT(nuchal translucency)
嚢胞性ヒグローマ

○異常妊娠
流産
早産、切迫早産、絨毛膜羊膜炎
反復・習慣流産患者の診断と取り扱い
Chronic abruption-oligohydramnios sequence (CAOS)
つわり(妊娠嘔吐)
妊娠悪阻
子宮外妊娠
腹膜妊娠
頸管妊娠
多胎妊娠
妊娠高血圧症候群
子癇
HELLP症候群
急性妊娠脂肪肝
常位胎盤早期剥離
常位胎盤早期剥離(「広報いいだ」より)
常位胎盤早期剥離(じょういたいばんそうきはくり)Q&A
前置胎盤
前置胎盤、問題と解答
癒着胎盤
癒着胎盤、問題と解答
羊水異常
臍帯異常
臍帯嚢胞
胎児発育不全(FGR)
前期破水(PROM)
過期妊娠、過期産
胎盤機能不全
血液型不適合妊娠
胎児水腫

○合併症妊娠
妊娠糖尿病(GDM)、妊娠時に診断された明らかな糖尿病、ならびに糖尿病(DM)合併妊娠の管理・分娩
合併症妊娠:血小板減少症
合併症妊娠:特発性血小板減少性紫斑病(ITP)
全身性エリテマトーデス(SLE)
抗リン脂質抗体症候群(APS)
深部静脈血栓症(DVT)、肺血栓塞栓症(PTE)、静脈血栓塞栓症(VTE)
婦人科疾患合併妊娠:子宮頚癌
円錐切除後妊娠の取り扱い
婦人科疾患合併妊娠:卵巣腫瘍
婦人科疾患合併妊娠:子宮筋腫
妊娠中の尖圭コンジローマ(性器疣贅)
成人T細胞白血病(ATL)
母子感染症:単純ヘルペスウイルス感染症
母子感染症:風疹
B型肝炎
C型肝炎
妊娠中の水痘感染の取り扱い
B群溶血性レンサ球菌(GBS)感染症
トキソプラズマ症
母子感染症:性器クラミジア感染症
パルボウイルスB19(PB19)感染症
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)
妊婦・授乳婦への予防接種は可能か?
妊婦・授乳婦へのインフルエンザワクチン、抗インフルエンザウイルス薬投与について
サイトメガロウイルス(CMV)感染
梅毒
マラリア
放射能汚染に関する基礎知識
妊娠性掻痒性蕁麻疹様丘疹(PUPPP)

○正常分娩、分娩の生理
分娩に関する用語
正期産児に出生直後に行う「カンガルーケア・ガイドライン」
カンガルーケアで安全指針
臍帯結紮のタイミングについて

○異常分娩
子宮収縮薬による陣痛誘発・陣痛促進に際しての留意点、改訂2011年版
急速遂娩(きゅうそくすいべん)とは?
臍帯下垂、臍帯脱出
産科ショック、産科DIC
分娩時大出血への対応
胎児機能不全(NRFS)
胎児機能不全(NRFS)、問題と解答
弛緩出血
弛緩出血、問題と解答
羊水塞栓症
羊水塞栓症、問題と解答
妊産婦死亡 原因別の最多は羊水塞栓症
子宮内反
子宮内反、問題と解答
会陰裂傷、会陰切開
子宮破裂
平日夜間および休日における超緊急帝王切開への取り組み(スライド)
帝王切開後の経腟分娩(VBAC)
帝王切開既往妊婦に対し経腟分娩を選択してよい条件
肩甲難産
compound presentation(複合胎位異常)
妊婦の心停止

○産褥
産褥精神病、マタニティーブルーズ
放射性物質の母乳への影響について

○新生児
原始反射(新生児反射)
なぜ新生児蘇生法を習得する必要があるのか?
新生児の蘇生(NCPR)
NCPR 基本手技の実習
NCPR ケースシナリオによる実習
胎児から新生児への変化
なんとなく元気がない(not doing well)
新生児黄疸
呼吸窮迫症候群(RDS)
胎便吸引症候群(MAS)
新生児一過性多呼吸(TTN)
空気漏出症候群
肺出血
新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)
未熟児の動脈管開存症(PDA)
先天性チアノーゼ型心疾患
心室中隔欠損症(VSD)
心房中隔欠損症(ASD)
肺動脈狭窄症(PS)
Fallot四徴症(ToF)
完全大血管転位症( complete TGA)
総肺静脈還流異常症(TAPVC)
Ebstein奇形
三尖弁閉鎖症(TA)
総動脈幹症
両大血管右室起始症(DORV)
先天性横隔膜ヘルニア(CDH)
先天性食道閉鎖症
先天性十二指腸閉鎖症
小腸(空腸・回腸)閉鎖症・狭窄症
直腸肛門奇形(鎖肛)
壊死性腸炎(NEC)
Hirschsprung病
Hirschsprung病類縁疾患
肥厚性幽門狭窄症
腹壁破裂、臍帯ヘルニア
腸回転異常症
未熟児網膜症(ROP)
脳室周囲白質軟化症(PVL)
腕神経叢麻痺
RSウイルス感染症

○その他
症例から学ぶ 周産期診療ワークブック
産婦人科診療ガイドライン・産科編2011
周産期(母体・胎児)専門医試験
長野県・飯田下伊那地域における産科問題の変遷

参考文献:
産婦人科診療ガイドライン産科編2011、2011年
産婦人科研修の必修知識2011、2011年
標準産科婦人科学(第4版)、2011年
新生児蘇生法テキスト(改訂第2版)、2011年
これならわかる産科学(改訂2版)、2010年
ベッドサイドの新生児の診かた(改訂2版)、2009年
新生児医療(小児科臨床ピクシス)、2010年
標準小児科学(第7版)、2009年
最新産科学・正常編(第22版)、2008年
最新産科学・異常編(第21版)、2008年
病気がみえる vol.10 産科(第2版)、2009年
国試完全対策・コンパス産婦人科(第7版)、2009年
国試データマニュアル・産婦人科2011-2012、2010年
国試データマニュアル・小児科2011-2012、2010年
チャート医師国家試験対策・産科(第5版)、2007年
Williams Obstetrics: 23rd Edition、2009年
ウイリアムス臨床産科マニュアル、2009年
産婦人科シークレット、2008年
新生児科シークレット、2008年
日本産婦人科医会 
研修ノートNo.74(妊娠初期の超音波検査)、2005年 
研修ノートNo.76(妊娠中・後期の超音波検査)、2006年 
研修ノートNo.78(胎児の評価法)、2008年 
研修ノートNo.80(合併症妊娠)、2008年

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分娩を取り扱う病院、1100病院から600病院の時代へ

2014年06月24日 | 周産期医学

私が勤務している病院は現在分娩を取り扱ってますが、5名の産婦人科医が交代で当直をして、当直の翌日も通常の勤務体制で、土日休日は当直医に加えて1名の拘束医を決めてます。当直でない日の緊急呼び出しも少なくありません。結局、フリーの休日はほとんどなく、年がら年中だらだらと病院に縛り付けられているような勤務体制で、子育て期間中もろくに子供達と触れ合う時間が取れず、家族旅行もほとんどできないうちに、いつの間にか子供達は大きくなって全員巣立ってました。最近では、どこの大学でも産婦人科の新入医局員は女性医師が大半を占めるようになって、今のこの過酷な勤務環境のままでは到底長続きする筈がありません。この業界の延命生き残り対策として、分娩取り扱い病院の集約化・大規模化を強力に推進して、持続可能な無理のない勤務環境に変えていく必要が(絶対に)あります。

****** 以下、m3.comの記事より引用

医師不足への処方せん
分娩取扱、1100病院から600病院の時代へ
産科婦人科学会、勤務改善に向け集約化を来年提言

日本産科婦人科学会の医療改革委員会委員長の海野信也氏(北里大学病院長)は、6月21日に開催された同学会総会フォーラム「わが国の周産期医療の持続的発展のため産婦人科の抜本的改善を目指す」で、来年策定予定の「産婦人科医療改革グランドデザイン2015」で、分娩を取り扱う病院を現在の約1100施設から、約600施設に減少させる方針を打ち出す予定であることを明らかにした。産婦人科勤務医の勤務環境改善に向け、分娩取り扱い病院の集約化・大規模化と交代勤務制を推進するのが狙い。海野氏は、「政策提言も必要だが、我々としてできることに取り組んでいく」と説明した。

(中略)

日本産科婦人科医会の調査によると、2013年度の分娩取扱病院の産婦人科医の1カ月当たりの平均当直回数は5.6回で、他科より多い。また1カ月当たりの在院時間は減少傾向にあるが、2013年度は296時間で、過労死認定基準を超える。海野氏は、「分娩取扱病院当たりの医師数は少しずつ増えているが、当直回数や在院時間はそれほど減っていない」と説明、女性医師数が約4割を占め、その半数が妊娠・育児中で、当直できる人に負担が偏る傾向にあるとし、その解消のためにも集約化・大規模化と交代勤務制の導入が必要だとした。

厚生労働省の医療施設調査によると、分娩取り扱い病院は、1999年には2072施設だったが、2002年1803施設、2005年1612施設、2008年1441施設、2011年1357施設と、一貫して減少している。「分娩取り扱い病院は約600」は、総合周産期母子医療センター、地域周産期母子医療センター、大学病院を合計すると約400施設あり、それ以外に約200施設が加わるイメージだという。

(後略)


Advanced Life Supporti n Obstetrics(ALSO)について

2014年05月31日 | 周産期医学

2014年5月24~25日に千葉大学付属病院クリニカルスキルズセンターで開催されたALSOプロバイダーコース にインストラクターキャンディデイトとして参加しました。受講生45人、講師45人(インストラクター10人、インストラクターキャンディデイト20人、アシスタント15人)の大規模コースで、充実した楽しい2日間でした。

私が初めてALSOプロバイダーコースに参加したのは2011年12月に亀田総合病院で開催されたコースで、ALSOって一体全体何なのか全く認識のないまま、たまたま後期研修医の付き添いで参加させていただき、その時以来、すっかりALSOの魅力にはまってしまって、アシスタントとして亀田総合病院と山梨大のコースに計2回参加した後、2013年1月に和倉温泉で開催されたインストラクター講習会に参加し、その後、インストラクターキャンディデイトとして山梨大や千葉大などのコースに計7回参加しました。その他、BLSOコース、ALSOデモンストレーションコース、ALSOアップデイトミーティングなどにも参加させていただき、今回の千葉大コースではインストラクター認定評価を受けさせていただきました。

来る6月28~29日には、飯田市立病院で2回目のALSOプロバイダーコースを開催させていただく予定です。もともと私自身は婦人科腫瘍の方が専門だったんですが、職場の事情から必要に迫られて周産期医学を基本から勉強し始めたところなので、ALSOやNCPRに指導者という名目で参加して周産期医学の超基本事項を繰り返し他の人達に伝える中で、自分自身が教え導かれていることをいつも実感しております。ですから、今後もALSOやNCPRには積極的に参加し続けたいです。

M2190014

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ALSOプロバイダーコース in Chiba 2014 May


常位胎盤早期剥離(じょういたいばんそうきはくり)Q&A

2014年05月30日 | 周産期医学
Q:常位胎盤早期剥離とはどんな病気ですか?この病気の原因、症状、なりやすい妊娠週数、診断するための検査、治療方法などについて教えてください。また、この病気を予防するために私達にできることは何かありますか?

A:常位胎盤早期剥離とは、「正常な位置にある胎盤が胎児の娩出よりも前に子宮壁から剥離されること」をいいます。放置すると胎児死亡や母体死亡の原因ともなり、発症後は大至急の対応が必要です。常位胎盤早期剥離の典型的な自覚症状は動けなくなるぐらいに激烈な下腹痛で、お腹は板のように硬くなります。性器出血がみられることもあります。胎動が減少または消失します。症状が典型的でない場合も多いです。妊娠高血圧症候群、常位胎盤早期剥離の既往、交通事故などの腹部の外傷、喫煙などの危険因子に該当する場合、常位胎盤早期剥離を発症しやすくなります。これらの危険因子に該当しない場合でも、常位胎盤早期剥離を突然発症することもあります。発症時期は妊娠30週以降が多いです。臨床症状から常位胎盤早期剥離を疑った場合、腹部超音波検査、胎児心拍モニター、血液検査などを行います。これらの検査で常位胎盤早期剥離と診断された場合は、できるだけ早急に分娩を終了させる必要があり、胎児の生存が確認された場合は、経腟分娩の直前でなければ緊急帝王切開を行います。胎児が死亡していた場合でも、時間の経過により母体のDIC(血が止まらなくなる状態)が進行するので、すみやかな経腟分娩または帝王切開を行います。それと同時にDICに対する予防あるいは治療を行います。常位胎盤早期剥離は母児の生命にかかわる非常に重大な疾患ですが、いつ誰におこるのかの予測は困難です。適切な予防法もありません。常位胎盤早期剥離がおこった場合に、発症後できるだけ早く診断し、緊急帝王切開などの母児の緊急救命処置を行うことが、我々にできる唯一かつ最善の道です。強い腹痛や性器出血などの症状が出現したら早急に対応可能な医療機関を受診することが重要です。妊婦健診をきっかけに妊娠高血圧症候群などの常位胎盤早期剥離の危険因子がみつかることもありますので、適切な時期や間隔で妊婦健診を受けることも大切です。

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ALSOプロバイダーコース (千葉大学病院)

2014年01月27日 | 周産期医学

1月25~26日に開催されたALSOプロバイダーコース (於:千葉大学付属病院クリニカルスキルズセンター)に参加しました。受講生65人(産婦人科医、助産師、麻酔科医、救急救命士、後期研修医、初期研修医、医学生など)、講師45人(インストラクター、キャンディデイト、アシスタント)と非常に大規模なコースでした。

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産後大出血への対応

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於:千葉大学医学部付属病院クリニカルスキルズセンター


産科救急の研修会(ALSOデモンストレーションコース)

2013年12月05日 | 周産期医学

12月3日、長野県看護協会会館(松本市)にて、県内の分娩取扱い施設に勤務する助産師を対象に、産科救急の研修会が実施されました。飯田市立病院から持ち込んだBLS用の蘇生練習用マネキンと、C大学からお借りした3体の分娩トレーナーを使って、妊婦心肺蘇生や肩甲難産などのシミュレーション訓練(ALSOデモンストレーションコース)を行いました。県内各地の17施設から多くの助産師が参加してくれました。『ALSOプロバイダーコースに参加を希望し、インターネットで参加申し込みを何度もしているんだけど、希望者多数でなかなか参加できない。県内でもまたALSOプロバイダーコースを開催してほしい。』というような声も多く聞きました。新生児蘇生法や母体急変時対応のシミュレーション訓練の研修会は、チームで繰り返し参加し続けてこそ本当の意味があり、趣味というかライフワークとして、今後も関わっていきたいと思ってます。

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NCPR講習会は県内各地域で年数回づつ実施されて、分娩に関わる産婦人科医、小児科医、助産師、NICU看護師、救急救命士などが多く受講してます。私も新生児蘇生法は全くの素人で長年にわたりデタラメなことをやり続けてましたが、数年前にNCPRインストラクターになって、いろいろな病院のNCPR講習会に繰り返し参加するようになり、新生児仮死に遭遇した時に何をしたらいいのかようやくおぼろげながら理解できるようになって、新生児仮死に遭遇しても以前ほどにはびびらなくても済むようになってきました。また、BLS、ACLS、ICLSなどに参加するようになってから、夜中に入院患者の心肺停止があって館内一斉放送で緊急に呼び出されて、万一、心肺停止の患者さんの元に一番に到着してしまったとしても、蘇生チームの一員としてとっさに何をやったらいいのかだんだん理解できるようになってきたので、突然の心肺停止による緊急呼び出しの館内一斉放送に反応して、間髪入れず現場に向かって走り出せるようになってきました。

産科の急変事例もいつどの患者さんに発生するのか全く予測不能ですから、常日頃から産科救急のシミュレーション訓練を繰り返して、『いざという時にはこういう風に対応するのだ!』ということをスタッフ全員に徹底的に浸透させておく必要があります。産科救急のシミュレーション訓練の学習会を、NCPR講習会並みに、院内で定期開催したいと考えています。そのためにも、まずは分娩トレーナーを自前でそろえたいです。


産婦人科必修 母体急変時の初期対応

2013年11月18日 | 周産期医学

コンセンサス2010に基づいた新生児心肺蘇生法(NCPR)講習会が普及し、新生児の救命率向上に寄与しているのは周知のことです。NCPRと同様に、分娩時の母体急変に対しても、妊産婦に特化したプロトコールを整備して、常日頃からシミュレーションをしておくことは非常に重要と考えられます。最近発刊された本書(産婦人科必修 母体急変時の初期対応、メディカ出版)を購入してさっそく読んでみましたが、妊婦の急変時の初期対応についてプロトコール化し(京都プロトコール)、これをもとにチームでシミュレーション・トレーニングができる、非常にわかりやすく有用なテキストだと思いました。この京都プロトコールのシートを施設の壁面に掲示したい場合に、FDPデータをメディカ出版ホームページからダウンロードすることもできます。BLS(2010)や日本の産科ガイドラインにも準拠してます。本書をもとに母体急変時の対応についての院内マニュアルを整備して、院内での産科救急のシミュレーション・トレーニングを定期的に実施したいと考えています。

今年の春の日本産科婦人科学会総会(札幌市)で実施された京都プロトコール実技講習会を見学し興味を持ちました。京都プロトコールのテキストが最近発刊されたことを知って、早速、アマゾンで2冊購入し、当科所属の産婦人科医や助産師達にも勧めてます。11月23日(土)に東京で開催される京都プロトコール実技講習会に参加を予定してます。翌日の11月24日(日)に飯田市立病院でNCPR講習会を開催し、当院の産婦人科医・小児科医・研修医・助産師・看護師や地元の救急隊員などが多数参加する予定です。産科救急シミュレーションの講習会としては、今年6月にALSOプロバイダーコースを飯田市立病院で開催し、当科スタッフの多くが参加し、とても有意義でした。しかし、1回講習会を開催してそれで終わりということでは、産科チームの全員にその実技が浸透するはずがないので、あまり意味がありません。産科チームの全員に必須の実技を浸透させるために、今後はNCPR講習会だけでなく、産科救急シミュレーションの勉強会も、いろいろと工夫を重ねながら、院内で定期開催できるようにしていく必要があります。

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産婦人科必修 母体急変時の初期対応
チームワークと連携強化でいのちをまもる
シミュレーションで分娩前後の母体安全を徹底理解!

編著:京都産婦人科救急診療研究会
2013年11月15日発行
メディカ出版
定価:4200円+税


Basic Life Support in Obstetrics (BLSO)

2013年10月06日 | 周産期医学

我が国におけるBLSOコースは、主に救急救命士や救急医などを対象に、周産期救急に対処するための訓練を行う教育コースで、正常分娩介助、分娩後大出血、妊産婦の心肺蘇生法、新生児蘇生法などのレクチャーとワークショップがあり、コースは1日で終了します。

BLSOコース開催情報

自宅や救急車内の分娩などで、救急救命士や救急医などが分娩や新生児蘇生に対応せざるを得ない状況はまれではありません。金沢大の新井先生らが、全国の684消防本部へのアンケート調査を実施し、回収率49.85%で、医療機関に着く前に分娩となった事例は年間計734件(2010年)であったと報告しています。また、飯田広域消防本部の調査によると、飯田下伊那地域において、最近6年間で、病院前の分娩で救急搬送された事例が16件あり、救急車内での分娩も5件ありました。これらの病院前の分娩のケースでは、分娩介助や新生児蘇生は主に救急救命士が行ったと考えられます。

BLSOコースの2013年7月12日現在の受講者総数は415名で、職業別にみると、救急救命士が全体の43%を占め、他に救急医、家庭医・総合診療医などがコースを受講しました。

一般の心肺蘇生法BLSでは胸骨圧迫が最優先され、心肺停止の患者さんを発見したら、まず間髪入れず胸骨圧迫を開始します。新生児蘇生法NCPRではまず呼吸刺激を行い、次に必要があれば人工呼吸を行い、さらに必要があれば人工呼吸に胸骨圧迫を併用します。新生児の蘇生でいきなり胸骨圧迫を実施することはありません。BLSの手法に日頃慣れ親しんでいる救急救命士の方々に、BLSとNCPRの違いをよく理解していただくことが非常に重要だと思います。BLSOコースには新生児蘇生法の実習も含まれています。

長野県内初のBLSOコースが、2013年9月22日に相澤病院で開催されました。講師およびアシスタントは計18名でした。受講生は計18名で、職業別内訳は、救急救命士10名、救急医2名、初期研修医4名、救急ナース2名でした。

当飯田下伊那地域でも病院前の分娩の事例が毎年数件あり、救急車内分娩の事例もめずらしくありません。飯田市立病院でBLSOコースを開催してほしいという声も聞きます。

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BLSOコース(於:相澤病院)のオープニング

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救急車内での分娩介助の訓練(救急救命士)


ALSOプロバイダーコース(於:千葉大学)

2013年09月20日 | 周産期医学

9月14日~15日に千葉大学附属病院クリニカルスキルズセンターで開催されたALSOプロバイダーコースに、インストラクターキャンディデイトとして参加しました。受講生50人の大規模コースで、全国から産婦人科医、助産師、救命救急医、初期研修医、医学生など多職種の人たちが千葉に集結し、チームで周産期救急に適切に対応するためのシミュレーション・トレーニングを2日間何度も繰り返し実施しました。

6月29日~30日に飯田市立病院でALSOプロバイダーコースを開催した時に、飯田で指導してくださったインストラクターの先生方の多くと、千葉で再会することができました。

当初は9月15日のうちに飯田に帰る予定でしたが、台風18号が関東方面に向かって北上して来ていたので、台風が通り過ぎる(9月16日午後)まで都内のホテルに避難してました。

ALSOプロバイダーコース in Chiba 2013 September

****** オープニングのスライド

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****** 補助経腟分娩(吸引分娩)

M1900008

****** 肩甲難産解除

20130914_144008

****** 妊婦の心肺蘇生

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****** 会陰裂傷の縫合

M1900019

****** 全員集合写真

Also


死戦期帝王切開術

2013年09月08日 | 周産期医学
Perimortem cesarean section

死戦期帝王切開術とは、心停止に陥った妊婦に対して、母体蘇生処置の一つとして実施する緊急帝王切開術である。児を娩出することにより子宮を小さくして下大静脈と大動脈の圧迫を解除し、母体血行動態を改善することが目的である。腹の大きな(およそ妊娠20週以降の)妊婦が心停止に陥った場合、ただちに死戦期帝王切開術の準備を始める。母体心停止後4分の時点で死戦期帝王切開術開始の判断をする。児の予後も考慮すると、心停止後5分程度のうちに娩出が行われることが望ましいが、心停止後15分までの母体生存例もある。死戦期帝王切開術は、子宮底が臍に達していない(およそ妊娠20週未満)場合や、母体救命の可能性が全くない場合には適応にならない。一方、胎児の生死は問わない。死戦期帝王切開術はAHAのガイドライン2000においてすでに推奨されているが、日本における施行数はきわめて少ない。これを施設で実際に施行するためには、施設において死戦期帝王切開術を行う体制を構築する必要があり、施設内の関係科でよく話し合い、シミュレーションを行っておくことが非常に大切である。

******
妊産婦が突然心停止に陥った場合は、子宮を左方に圧排しつつ、まずは一般成人におおむね準じた蘇生措置(胸骨圧迫、人工呼吸、急速輸液、AED、アドレナリン投与など)が行われますが、一次蘇生に反応しない場合には、母体蘇生措置としての帝王切開術(死戦期帝王切開術)を考慮する必要があります。

「産婦人科診療ガイドライン-産科編 2011」には妊産婦の心停止に対する対応の項目はなかったんですが、2014年4月に刊行予定の「産婦人科診療ガイドライン-産科編 2014」では、新たに「妊産婦の心停止への対応」に関するCQ&Aの項目が追加され、そこで死戦期帝王切開術に関しても記載されるようです。

しかし、目の前で妊婦さんが心停止に陥った時に、ただちに大勢の人員を集めて、胸骨圧迫、人工呼吸、AEDなどの蘇生措置を実施しつつ、ただちに死戦期帝王切開術の準備にとりかかり、心停止後5分以内に無麻酔で緊急帝王切開術を施行するのは、実際には非常に困難と考えられ、日本国内ではまだほとんどの施設で死戦期帝王切開術の経験がないと思われます。

実際問題、死戦期帝王切開術を産婦人科の判断だけでいきなり実施することは無理なので、まずは、産婦人科、麻酔科、新生児科、救命救急科などの関係する診療科でよく話し合い、施設として妊産婦の心停止時にいかに対応するのか?について事前によく検討しておくことが重要だと思います。

妊産婦の心停止が突然院内で発症した時に、多くの診療科が一つのチームとして迅速に対応できるようにするためには、常日頃より、ALSO、ACLS、NCPRなどを院内で定期的に開催して、緊急時のチームとしての対応のシミュレーションを繰り返しておく必要があると思います。

****** 参考

妊婦の心停止
 妊婦の心停止における心肺蘇生は、一般成人における方法におおむね準ずるが、以下のようないくつかの相違点がある。
 ①子宮左方転位を行う。
 ②胸骨圧迫部位をやや頭側に置く。
 ③早期に確実な人工呼吸を確立する。
 ④急速輸液を考慮する。
 ⑤死戦期帝王切開術を考慮する。

死亡と判断された米国女性が赤ちゃんを出産 その後、蘇生 (CNN)
 米テキサス州ミズーリシティーで心臓疾患に突じょ襲われ、医学的に一時死亡と判断された妊娠中の32歳女性が、緊急の帝王切開で女の子を出産した後、蘇生を果たす出来事がこのほどあった。

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ALSOプロバイダーコース in 飯田市立病院

2013年06月30日 | 周産期医学

県内初開催のALSOプロバイダーコースが無事終了しました。遠方から多くの方々に参加していただき、とても有意義な時を過ごすことができました。当院のスタッフも大勢参加してくれました。今回学んだことを生かし、この地域の周産期救急にチームで一丸となってしっかり対応していきたいと思います。

****** オープニング

M1740005

****** 吸引分娩

M1750057

****** 肩甲難産

M1740024

****** 妊婦の心肺蘇生

M1750015

****** 鉗子分娩

M1740054

****** 新生児蘇生法

M1750054

****** 全員写真撮影

M1750056


山梨大ALSOプロバイダーコース

2013年06月05日 | 周産期医学

6月1~2日の山梨大ALSOプロバイダーコースに、インストラクター・キャンディデイトとして参加させていただきました。昨年秋の日産婦関東連合プレコングレスで初めて甲府でのALSOに参加させていただいて以来、今回で山梨大ALSOに参加するのは通算4回目となりました。今回も大勢の講師や受講生(産婦人科医、助産師、小児科医、初期研修医、医学部学生など)とともに多くのことを学ぶことができ、非常に有意義な時を過ごすことができました。

6月29~30日に当院でもALSOプロバイダーコースを初開催する予定ですが、コースを1回だけ開催してそれで終わりというのでは全く意味がないので、ALSOプロバイダーコースがこれから県内各地で定期的に開催されるように、県内のALSO仲間をだんだん地道に増やしていけたらと思ってます。

****** 吸引分娩の実習

M1660006

****** 骨盤位娩出術の実習

M1670002

****** 妊婦の心肺蘇生の実習

M1670005


新生児蘇生法(NCPR)講習会(於:飯田市立病院)

2013年05月26日 | 周産期医学

本日は当院でNCPR講習会(Aコース)が開催されました。私の<wbr></wbr>担当したブースの受講者は、毎日一緒に働いている産婦人科医、助<wbr></wbr>産師達のグループで、一日楽しくNCPRの学習ができました。新<wbr></wbr>生児科の先生の1時間半の講義を聞いた後に、2時間半の人形を使<wbr></wbr>ったシミュレーション・トレーニングで楽しく汗を流しました。せ<wbr></wbr>っかくNCPR講習会に参加して知識・技能を習得しても、しばら<wbr></wbr>くするとすっかり忘れてしまい、いざという時には、頭が真っ白に<wbr></wbr>なってしまって、どう対応したらいいか全くわからなくなってしま<wbr></wbr>い、呆然と立ち往生してしまうこともあり得ます。いざという時に<wbr></wbr>、その時の状況に応じて、迅速に正しく行動できるように、定期的<wbr></wbr>にNCRR講習会に参加して知識を保持し、緊急時のシミュレーシ<wbr></wbr>ョン・トレーニングを普段から何度も繰り返しておく必要があると<wbr></wbr>思います。

M1650003

M1650005


ALSOプロバイダーコース(於:飯田市立病院)

2013年04月19日 | 周産期医学

セミナー開催情報: ALSOプロバイダーコース
主 催: 飯田市立病院(院長:金子源吾)
共 催: NPO法人周生期医療支援機構(OPPIC)
開催場所: 飯田市立病院(主会場:南棟3階 講義室)
 
 
日時: 平成25年6月29日(土)、30日(日)
 
募集定員: 25名
※申し込みは締め切りました

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飯田市立病院

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南棟(救命救急センターなど)

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http://health.yahoo.co.jp/hospital/map.html?latitude=35.499308158747&longitude=137.83602673536

****** ALSOとは?

Advanced Life Support in Obstetrics(ALSO)とは、医師やその他の医療プロバイダーが、周産期救急に効果的に対処できる知識や能力を発展・維持するための教育コースです。コース権利は米国家庭医学会(AAFP)によって認可され、現在全米のほとんどの分娩施設において、分娩に関わる医療プロバイダーがALSOの受講を義務づけられています。またALSOコースは世界的に普及活動が行われており、2009年までに50ヵ国以上でプロバイダーコースが開催され、10万人以上がALSOコースを修了しました。日本におけるALSO普及活動は、NPO法人周生期医療支援機構(本部:石川県金沢市)がALSO-Japan事業として運営を行なってます。

ALSOプロバイダーコースは2日間で行われます。コースの教材はシラバス(教科書)で、レクチャー、実地訓練のためのマネキンを使用したワークショップがあり、筆記試験とマネキンによる実技試験(メガデリバリー)がコースに含まれます。重要レクチャーは、妊娠初期の合併症、難産、妊娠の内科的合併症、妊娠後期の性器出血、分娩後大出血、早産、前期破水、妊婦の蘇生法、そしてマタニティケアにおける安全性の8つです。 少人数グループによる重要ワークショップは、肩甲難産、胎位・胎向異常、鉗子と吸引、分娩中の胎児監視、重要な症例の5つです。オプショナル・ワークショップは、会陰縫合、帝王切開、超音波検査、出産危機における両親への対処、そして新生児蘇生の5つです。 プロバイダーコースを完了した際、参加者は5年間有効の認証を受けることができます。【以上、ALSO-Japnのホームページより引用】

来る6月29日~30日に、全国各地の多くの講師の先生方に協力していただいて、最近竣工したばかりの飯田市立病院・南棟3階の講義室や会議室などを会場にして、ALSOプロバイダーコースを初開催する予定です。当院産婦人科医師団の構成メンバーは2~3年ごとにほぼ全員が総入れ替えになってますし、毎年多くの若い新人助産師が就職して来るので、当院産科チームとしての機能を今後も継続的に維持・発展させていくためには、院内の教育態勢を充実させることが非常に大切です。この4月1日付けで当院産婦人科医の2人が大学病院に転勤し、代わりに2人の産婦人科医が大学病院から当院に転勤して来ました。当院の産科チームはALSOマインドで一致協力して地域の産科医療に取り組んでますので、新たにこの産科チームに加わった2人の産婦人科医達にも今回のALSOプローバイダーコースを是非受講してもらいたいと思ってます。また、今後は当院の助産師達(約50名)や麻酔科、救命救急科の先生方や研修医などにも是非このALSOコースを順次受講してもらって、みんなで楽しくALSOを学び、チームで一丸となって地域の周産期医療に全力で取り組んでいきたいと考えてます。