placenta accreta
【定義】 癒着胎盤は、胎盤の絨毛が子宮筋層内に侵入して、胎盤の一部または全部が子宮壁に強く癒着して、胎盤の剥離が困難なものをいう。
なお胎盤が子宮壁に付着しているが、筋層との結合が密ではなく、床脱落膜の欠損を伴わない真の癒着胎盤ではないものを付着胎盤(adherent placenta)と呼ぶことがある。
臨床的には、胎盤用手剥離に伴い大出血をきたすことから、二次的にショックやDICを引き起こす。母体死亡に占める割合も約3%にものぼり、産科的に重要な疾患である。
【分類】
絨毛の子宮筋層内への侵入の程度による病理組織学的分類
①楔入(せつにゅう)胎盤 placenta accreta:
絨毛が子宮筋層の表面と癒着するが筋層には侵入してないもの。狭義の癒着胎盤
②嵌入(かんにゅう)胎盤 placenta increta:
絨毛が筋層内に侵入したもの。
③穿通(せんつう)胎盤 placenta percreta:
絨毛が子宮漿膜まで達するもの。
癒着の占める割合による分類
①全癒着胎盤 total placenta accreta:
胎盤の全面が子宮筋層に癒着しているもの。
②部分癒着胎盤 partical placenta accreta:
胎盤の一部(数個の胎盤葉)が子宮筋層に癒着しているもの。
③焦点癒着胎盤 focal placenta accreta:
一個の胎盤葉が子宮筋層に癒着しているもの。
【頻度】 付着胎盤を含めて約0.3%の発生率で、癒着胎盤だけでは約0.01%とまれな疾患である。癒着胎盤のなかでは、楔入胎盤が最も多く約80%を占める。次に嵌入胎盤が約15%で、穿通胎盤は5%とまれである。癒着面の広さ別では、部分癒着胎盤および焦点癒着胎盤が多く、全癒着胎盤は少ない。初産経産別では、経産婦に多い(約80%)。近年、帝王切開分娩の増加に伴い、癒着胎盤の頻度が増加してきている。ACOGの報告によると、癒着胎盤の頻度は約0.04%であり、最近50年間で10倍に増加したことが明らかにされている。
【原因】 床脱落膜の欠損。
①先天的な子宮内膜形成不全
②多産婦に多い
③子宮の手術瘢痕
(帝王切開術後、筋腫核出術後、Strassman手術後、子宮形成術後など)
④子宮内膜の過度掻爬(人工妊娠中絶、子宮内膜病理組織検査)
⑤子宮奇形
⑥粘膜下筋腫合併
⑦子宮腺筋症合併
⑧前置胎盤
(前置胎盤の約5~10%に癒着胎盤が合併する)
特に、前回帝王切開既往例の前置胎盤では癒着胎盤を起こしやすい。帝王切開既往回数が0回、1回、2回、3回、4回以上である前置胎盤患者の癒着胎盤合併率はそれぞれ、1~5%、14%、23%、35%、50%と報告されている。現時点では、帝王切開既往患者が前置胎盤を合併した場合、癒着胎盤の存在を想定して管理・分娩にあたることが重要であろう。
【症状】
①妊娠中: 妊娠中は無症状である。ただし、穿通胎盤ではまれに腹腔内出血をきたして、急性腹症やショックを起こすこともある。前回帝王切開の瘢痕部より膀胱内に絨毛が侵入し、強度の血尿を呈することがある。
②分娩時: 分娩第1・2期に子宮破裂をおこすことがあるが、症状の発現はほとんど分娩第3期に限られ、胎盤遺残として認められる。全癒着の場合は、児娩出後も胎盤が全く剥離されないため、出血は認められない。部分癒着の場合は、児娩出後に癒着部以外の胎盤は剥離するが、子宮は収縮を妨げられ、弛緩出血をみる。
【診断】 分娩以前には、その診断は不可能である。児娩出後、長時間経過しても胎盤剥離兆候がなく、ときには一部剥離した部分から大出血がみられ、胎盤用手剥離が困難なとき、癒着胎盤を疑う。
確定診断は、摘出子宮・胎盤の病理学的所見による。
本症の分娩前診断には、超音波検査、MRIそれぞれによる報告があるものの、現時点では確実に診断できる方法はない。
【治療】 輸血血液を用意して、血管を確保の上で、胎盤用手剥離術を行う。付着胎盤や一部の楔入胎盤では用手剥離可能な場合もある。嵌入胎盤、穿通胎盤では大量出血をきたすリスクが高いので、大量輸血血液を準備した上で子宮摘出術を行うのが原則である。
弛緩出血やDICを認めず、妊孕性の温存を強く希望し、十分なインフォームドコンセントが得られた場合に限り、保存的治療の適応となる。その場合は、化学療法(メソトレキセート、エトポシド)、子宮動脈塞栓術(UAE)などが試みられることもある。
参考記事: